アパレル "総崩れ" はコロナのせい? 復活に必要な 6 つの「シフト」 ニューノーマルに必須 コミュニケーション活性化のカギとは アパレル業界が長期化する新型コロナの影響を受けています。 これまでも、不況色が強くなると「衣食住」の「衣」に対する支出が減少する傾向はありました。 しかし、今回は過去に例がないほどの落ち込みを見せています。 なぜなのでしょうか。 アパレル業界が苦境に陥った理由とその対策を、流通小売り・サービス業のコンサルティングを約 30 年続けてきてきたムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸が解説します。 衣服の支出は 8 カ月連続減少 総務省の家計調査によると、2020 年 5 月における 2 人以上世帯の消費支出のうち「被服及び履物」は 7,780 円でした。 物価変動の影響を除いた実質ベースで、前年同月比 38.3% 減です。 19 年 10 月から 8 カ月連続で減少しており、私はこの数字に驚きました。 アパレル消費の減少幅は、緊急事態宣言の出た 4 月の 55.4% 減よりは縮小したものの、5 月の消費支出全体の 16.2% 減と比べて特に落ち込みが大きかったからです。 アパレル業界は完全に「別の次元にシフトしなければ生き残ることができない」ことを実感した瞬間でした。 アパレル業界にはこれまで 2 つの神話がありました。 一つは「店を出せば売り上げが上がり続ける」という神話。 もう一つは「シーズンごとに商品を出せば売り上げが上がる」という神話です。 これが完全に崩壊しました。 出店戦略の抜本的な見直し アパレル業界において、この 20 年間、世界中を席巻してきたファストファッションや SPA (製造小売業)業態が出店戦略の見直しを迫られています。 スペインのインディテックス社が展開する「ZARA」は洗練されたデザインが人気のブランド。 世界中に 7,500 店舗を展開しています。 そしてもう 1 社、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ社が展開する「H & M」は、低価格のトレンドファッションが人気。 コレクションでブランド各社が発表した内容のいいところを取り入れたテイストの商品が、2 週間後には店頭にずらりと並びます。 こうしたスピーディーな商品展開が消費者に評価されてきました。 全世界に 5,000 店舗を展開している H & M も世界的なアパレル企業です。 この両社が「店を大量に閉店し、新店出店スピードを抑える」と発表したのです。 ZARA は前期 355 店舗を閉店しました。 そして今期も 250 店舗を閉める計画です。 21 年までに全店舗の 16% にあたる 1,200 店舗を閉めるそうです。 一方、新規出店は 300 店舗と前期から減らす計画です。 H & M は今期 180 店舗を閉めます。 21 年には全店舗の 7% にあたる 350 店舗を閉鎖する計画です。 特に欧州で閉店数が増えており、新規出店は 230 店舗とここ数年の中では最も少ない規模になりそうです。 これまで両社は新規出店によって規模を拡大し、スケールメリットを享受してきました。 しかしそれがもう通用しない時代に変わりました。 そのかげりは両社共に感じていたはずですが、ここまで一気にシフトするとは思っていなかったでしょう。 出店戦略を見直す動きは日本でも起きています。 紳士服の最大手、青山商事が 22 年 3 月期までに 160 店舗を閉店すると発表しました。 当初予定からは 2 倍増、全店舗の 2 割に相当する数です。 同時に正社員の 1 割にあたる 400 人の希望退職募集を実施します。 同業の AOKI、はるやま、タカキューなども主力事業であるアパレル小売りの見直しを迫られています。 そもそも紳士服、特に紳士スーツ市場というのは縮小が続いてきました。 実際に青山商事の前年の連結当期純利益は 169 億円の赤字です。 2 期連続の大幅赤字になりそうだという流れは、日本の消費者の「スーツ離れ」 = 「仕事着という概念の崩壊」を意味しています。 これは、次項で紹介するファッションスタイルの劇的な変化がもたらしているのです。 ファッションスタイルの劇的変化でアパレル支出減少 アパレルメーカーは年間 4 シーズンごとにコレクションや展示会を開き、懸命に新たなトレンドを提案してきました。 その一方で、大量の売れ残りを生み出し、洋服の大量廃棄問題に発展しました。 18 年には英・バーバリーが年間 41 億円分の商品を廃棄したと報じられ社会問題となりました。 19 年、日本のアパレル市場では 28 億点の商品が投入され、実際に消費されたのは 14 億点だったというデータがあります。 誰も着ない洋服をわざわざ作って余らせているようなものです。 作れば売れる時代は消失しました。 総務省の家計調査(2 人世帯)の品目別消費支出構成比をみると、アパレル商品が売れ残る理由がはっきりと分かります。 食料品や交通・通信の消費支出はこの 20 年間でも増加傾向にあり、家計に占める構成比も上がっています。 食品、中食、飲食などの需要が伸びていること、スマホなどの通信消費が増えているのは多くの人が実感しているでしょう。 一方で理美容、交際費、小遣い、仕送りなどの「その他」消費、住居、家庭用耐久財の支出は減少しています。 中でも「被服及び履物」は大きな影響を受けています。 消費支出全体(2 人世帯以上)は 20 年前の 7.5% 減というのが実態です。 一方、同期間のアパレル消費は 34.4% の減少です。 20 年前は消費支出全体に占める割合が 5% 以上あったのに、今では 3.9% しかありません。 アパレル支出は不況期だけでなく、好況期にも減少を続け、20 年度はコロナによって大幅減となったのです。 アイテム別に見てみましょう。 アパレル関連消費は全てのアイテムが、この 20 年間で 6 掛け程度に減少しています。 特に主力の洋服、シャツ・セーター類は紳士・婦人共に大きく減少しており、市場が完全に縮小したことが分かります。 消費者のスペンドシフト こうした大きな変化の背景には何があるのでしょうか。 消費するモノや消費の仕方、つまりお金の使い方が変わってきたこと(スペンドシフト)に原因があると私は考えています。 アパレル業界を縮小させた根本原因は、「環境意識の高まりによるファッションスタイルの変化で強まったスペンドシフトに対応できなかった企業戦略の失敗」というのが私の分析です。 特に「仕事で着るための服、お出かけで着るための服」が必要なくなり、普段着 = 仕事着 = お出かけ着というオールカジュアル化が進行した影響が大きいのです。 そのきっかけを作ったのは 05 年に提唱されたクールビズにあります。 もともとこの言葉は和製英語で、環境省が提唱する夏のビジネス用軽装の愛称でした。 そして、夏のファッションも見直そうということで「クールビズファッション」が登場しました。 職場の冷房を 28 度に保った状態で、涼しく格好良く働ける服装を心掛けましょうと提唱されました。 当時は「地球温暖化の影響もあり、夏の暑さが異常なので、少しは軽やかに仕事できるようにしよう」という軽い感じでスタートしました。 まだ当時はネクタイをする人も多く、夏でもスーツというサラリーマンも目立っていました。 しかし、6 年後に新たな宣言が出ました。 スーパークールビズです。 11 年 3 月の東日本大震災によって「震災の影響で節電をしなければならないので、できる限りのことをやろう」と考える国民が増えました。 そして、環境対応という強いメッセージが加わって、カジュアル化が一気に進んだのです。 05 年にクールビズが発表された際、それまで苦境が続いていた百貨店業界の年間売上が 9 年ぶりにプラスへ転じました(前年比 100.7%)。 特に 05 年 6 - 7 月は連続して売上がアップ。 アイテム別に見ると衣料品関係が非常に好調でした。 ワイシャツ、シャツ、カットソー、ジャケットがよく売れており、ネクタイ、スーツは売上が減少という傾向でした。 紳士関係がけん引役となり、婦人関係の売上も引き上げたのです。 しかし世帯ベースの実際の消費支出はどうだったでしょうか。 05 年のアパレル消費支出比率は全体の 4.7%、11 年は 4.3% と徐々に減少していったのです。 瞬間的には売れていたように見えた数字も、実は局所的なものであり、市場全体にはプラスになっていなかったのです。 むしろ TPO で洋服を着替えるというファッションスタイルは古くなり、仕事でも普段でも変わらぬスタイルでいるほうが「おしゃれ」になっていきました。 ジャケットやスーツ、シャツ、ネクタイ、革靴といったいわゆる通勤着需要はクールビズをきっかけに縮小しました。 そして、今回のコロナ禍をきっかけに男性、女性共に出勤機会が激減し、在宅勤務の普及による服装のさらなるカジュアル化によって、「オールカジュアル化がコンプリートしてしまった」のです。 アパレル企業がシフトするタイミング 11 年にスーパークールビズへのシフトが叫ばれた際、働き方の変化も求められました。 在宅勤務を推進し、残業や休日出勤を制限するだけなく、休みを多くとろうという機運が高まりました。 そして、普段着での仕事に切り替えようと環境省が呼び掛けています。 アパレル業界だけでなく、世界的に環境意識が高まりました。 サスティナビリティー(持続性)を重視する潮流も出てきました。 大量生産・大量消費モデルからの転換を急速に進めなければならないことを、スーパークールビズは予言していたのかもしれません。 つまり、15 年前にアパレル企業には大きくシフトチェンジするタイミングがあったのです。 そして、9 年前に同じようなタイミングはありました。 しかし、大きなシフトチェンジをできた企業はほとんどありませんでした。 その傾向は、特に旧来型のアパレル企業に共通していました。 私は 12 年ごろから、アパレル業界に向けて次のようなスペンドシフトに対応する戦略転換を提案してきました。
また、これから紹介する企業やブランドは、コロナ禍でも好調です。 例えば、米国には原価を全て公開して顧客の信頼を得ることに成功している「Everlane」があります。 国内に目を転じると、日本一の雑貨小売業としてギフト需要を掘り起こした「オンセブンデイズ」や、「プロポーションづくりのダイアナ」が 20 年 11 月にデビューさせたオーガニックコスメとファッションの完全融合ブランド「THE CHIC」があります。 今回のコロナ禍で劇的に売り上げが落ちたアパレル企業は、その戦略を見直す必要があります。 定番だった「流行に左右されるような商品を作り販売する」というスタイルを根本から見直し、「どのような理念でモノ作りをして販売していくか」という企業哲学を軸にした経営にシフトしなければならないのです。 アパレル業界に携わる方々は自分たちの存在意義に立ち返り、世の中の大きなスベンドシフトに合わせることで、自社の方向性を定めるべきです。 オフプライス商品を販売するとか、ネット通販で売り上げを上げるといった手法に頼るのではなく、いかに自社のパーパス(存在意義)を明確に設定できるかが重要です。 アパレル業界が本質的に変わる最後のチャンスが今なのです。 (岩崎剛幸、ITmedia = 12-28-20) ベンダーとアパレル双方が勘違い アパレル業界で「需要予測」が機能しないこれだけの理由と解決策 11月 26 日付の日経新聞に、大手商社がデジタルを活用した「需要予測」で、サービスをアパレル向けに始め、適正発注を支援すると書かれていた。 過去、幾度も警鐘をならしてきたこの議論の本質が未だに理解されていないことは嘆かわしいことだ。 この極めてシンプルな過ちに対していい加減に終止符を打ちたいと私は思っている。 実は、アパレル業界には 2 種類の全く異なる需要予測がある。 しかし、そのことを理解している人は少ない、というよりほとんどないといってよい。 まず、多くの人が、アパレルビジネスのデジタル需要予測が他のリテールビジネスと比較し大きく異なることを理解していない。 つまり、認識が大きくずれているのである。 しかし、デジタル化による「需要予測」の技術は、アパレル企業に大きな利益を生み出すことは間違いないこともたしかだ。 アパレルビジネスでデジタル化による需要予測をどうすれば有益に使うことができるのかについて、解説したい。 スーパーやコンビニが使う需要予測がアパレルでは無意味な理由 私が、デジタル企業に在籍していたときの話だ。 総合スーパー (GMS) などで活用しているデジタル需要予測をアパレル企業に導入したが「うまくゆかない」といってエンジニアとコンサルタントが悩んでいた。 なぜ、衣食住の衣だけがこのようなことになるのか。 少し考えれば分かるのだが、考えなければ優れた技術は何にでも応用が利くと思い違いをしがちである。 あるテレビ番組に出演依頼されたときもそうだった。 打ち合わせの段階で幾度も「アパレルビジネスにおけるデジタル需要予想の在庫適正化は、構造的に、一定条件下でしか成り立たない。」と説明したのだが、当時、大はやりだった AI と、やり玉にあがっていたアパレルの在庫問題を紐付けたかったのだろう。 AI を使えば余剰在庫問題は解決されるという過ったメッセージを出していた。 必需品と必欲品、供給過多と供給均衡 アパレル商品というのは、無くても困らないがあった方が良い「必欲品」であり、スーパーマーケット (SM) などにおいてある水やお米などは、無くてはならない「必需品」である。 そして、この二つの需要は全く異なる変数で動く。 アパレル商品は、デザインやブランドという人の情緒的価値観に働きかけ消費者に購買を誘発する一方、水やお米は商圏内の人間によって一定量が (生きてゆくため確実に) 消費されるからだ。 世の中が不況になれば、消費者は必欲品に対してのお財布の紐を締めるが、ライフラインである必需品はそのようなことはない。 むしろ、節約のため外食が減り必需品の売上は上がることになる。 コロナ禍において、スーパーの売上げが差したる悪影響を受けていないのはそのためだ。 つまり、アパレルなどの必欲品は、好不況、消費者のお財布事情、ブランドからデザインなど、複雑な要因が絡み合い、これらを漏れなく抽出しシステムのアルゴリズムを生み出すことは難しい。 例えば、私は、あるアパレル企業と「白いブラウス」のトレンド解析の場に立ち会ったことがあるのだが、そのアパレルは「白いブラウスといっても、襟の形は数百通りあり、少し違えば全く売上が変わる」といっていた。 白いブラウスの襟だけで、これだけのデザインパターンがあるのだから、それ以外の衣料品から、さらに、それらの着こなしパターン、色、サイズなど考えれば必需品のデジタル需要予想など、なんの役にも立たないことは自明だ。 最近では、あえて、ワンサイズ大きな服を着るのがトレンドだし、人によっては、外見はユニクロなどと全く見分けがつかないのに、実はブランドはすごいのだ、と自己満足で購買している人もいる。 また、全く嫌いだった服を、憧れの俳優が着ているという、ただ、その理由だけで好きになることもあるだろう。 水やお米などの必需品は、「商権内一人あたりの胃袋消費の強さ x 人数」と、商権内の競合店による競争力の強弱で消費が決まる。 売上に影響を与える変数は比較するのも馬鹿らしいほど少ないのだ。 したがって、SM、コンビニエンスストアなどで活用しているデジタル需要予測を、予測できない変数が多いアパレルに導入しても難易度が格段にあがるというのが一点だ。 しかし、単なる難易度だけの問題であれば、やがて技術が追い越すだろう。 実はアパレルビジネスには、もう一つ、忘れてはならない構造的な課題がある。 アパレルの人間にとっての「需要予測」は「マーチャンダイジングの五適」を満たすもの 冒頭で私は、アパレルビジネスの「需要予測」には二種類あると述べ、業界人とそれ以外では、「需要予測」の解釈が全く異なっているということを述べた。 まず、アパレル企業で働く人達が、シーズンインの前にミラノやニューヨークのコレクションで見、市場全体としての傾向値である「トレンド」の "需要予測" である。 もう一つは、個別企業が、個社毎に行っている「商品計画」、つまり、MD 業務における「需要予測」の 2 つである。 前者であれば、サステイナブル、アウトドアなどの「世界的な傾向」であり、後者であれば、それは、個社ごとの、ブランド、価格帯、キャリー在庫によって適正在庫の投入量など全く違うということだ。 悲劇は、「需要予測」を語る方の多くに、アパレル企業がやっている商品計画の細かさや精緻さを理解している人がほとんどいないということである。 だから、ざっくりした「傾向が分かれば余剰在庫がなくなる」などという、私から言わせれば、風が吹けば桶屋が儲かる以下の論理が民放を使って全国放送されるのである。 幾度も繰り返し語り尽くし、書籍にまでそのメカニズムを克明に記載したアパレルビジネスのデジタル需要予想であるが、今一度、両者の違いを学んでいただきたい。 まず、個社が取り得る商品計画、つまり、MD 業務の五適とは、
である。個別の企業、いや、その中にある個別ブランドは、これら 5 項目を、針の穴を通すほど精緻に設計せねばならず、それを日本にうごめく 10 兆を構成する全ての企業が行わなければ、買い約先行取引(仕入れてから販売するビジネスモデル)を続ける限り、論理的に余剰在庫問題は全く解決しない。 五滴とは、「最も相応しい商品」を「最も相応しいチャネル」で、「最も相応しい時期」に「最も相応しい投入量」と「最も相応しい価格」で販売する計画業務なのだ。 そして、さらに、この五適が、実需(実際に消費者が購買する需要)とズレる、あるいは、ズレなかったとしても納期遅れなどが発生するから余剰在庫や欠品が生まれる。 それを、ざっくりと、「今年の冬は黒が流行る」などというレベルのトレンド「需要予測」が、五適業務の参考になっても余剰在庫にはなんら影響は与えない。 アパレルの需要予測が難しい決定的で構造的な理由 私が、効果はないと断じる決定的な理由は、ネット拡大による、消費者のモール上での類似商品同列比較による「競争相手の存在」と、売上至上主義からくる「類似品の氾濫」である。 今、消費者は、衣料品を買うときスマホやネットで、「色」や「デザイン」などを、モール内部で競合品比較し最もコスパの良い商品を選ぶ。 特に、日本の「ブランド」と称する「分類名」は、同一チャネル内の競争でいうなら、ほとんど差異化は存在しない。 さすがに、百貨店とショッピングセンター、スーパーぐらいに違いはあろうが、日本のアパレル市場の大半を占める女子達は、よほどのハイブランドでない限り、特定のブランドに強いブランドロイヤルティはほとんど感じておらず、多くのケースにおいて、同一チャネルで展開している、同一価格帯のブランド間で、最もコスパの良い商品を比較し購買していることは幾度も述べたはずだ。 したがって、やがて、AI によるマーチャンダイジングの五適予測をアイテムごとに行う時代がきたとしても、より安価な競合品が似た商品を出せば、消費者は一気にそちらに流れることになる。 つまり、本当に精度の高いアパレルビジネスのデジタル需要予測の開発に成功したとしても、論理的に、競合を含めた、市場にあるほぼ全ての商品を対象に実需差分析をせねば、精度の高い商品計画は立てられないのである。 これは、技術の問題でなく構造の問題である。 ZARAがヒント! アパレルが需要予測を役立てる方法 それでは、アパレル向け「需要予測」モジュールは、全く役に立たないのだろうか。 私はそうは言っていない。 なにより、まずトレンドとしての「需要予測」と、個社の商品計画としての「需要予測」用語の使い分けと、それぞれの役割と限界を学ぶべきだろう。 実際、あれだけ私は世の中に同じことを繰り返し発言してきたが、デジタルによる「需要予想」という近未来的響きからか、誰もが思考停止に陥っている。 それでは、私は冒頭で「一定の条件下においては」という但書をつけたが、その「条件」について書き綴って本稿をしめくくりたい。 私は以前、ザラ (ZARA) の「Subject to unsold (売り切り御免)」による MD 手法を解説した。 これは 数万人のリサーチャーを世界に配置し、各エリアの傾向値を分析しながら次々と新規商品を出す手法だった。 1 年を 12 シーズンとし、欠品をものともせず、毎月商品を入れ替えることで、8 回転の SPA リテーラーあるいは、未だに 4 回転の百貨店アパレルを次々にシーズン遅れとし「蟻地獄」に落とす仕組みである。 この仕組みは、拙著「生き残るアパレル 死ぬアパレル」(ダイヤモンド社)に詳しく書いているので、ぜひ手にとって学んで欲しい。 私の戦略は、このハイテク技術を用いて、無敵の ZARA に一泡吹かせてやろうというものだ。 以下、企業が取りうる 3 つの戦略とその条件を列挙する。 企業は、それらの中のどれかを選び、ハイテク技術を使って業績改善に繋げて頂きたい。
アパレル業界の悪しき伝統である、「ちょっとつまんで、使えない」とゴミ箱に直行させ、「目新しいものはないのか」と、次の「青い鳥」を追いかけるやり方は、地獄へのラットレース(同じことの繰り返し)に陥る可能性が高い。 改革に「魔法の杖」など存在しない。 一世を風靡した「シックス・シグマ」や「サプライチェーンマネジメント」など、そのオリジナルは日本の TQC (Total quality control) であり、トヨタ JIT (Just in time : カンバン方式) だ。 日本語を横文字にしただけで、企業改革までもどこからか吹いてくる風のような「トレンド」にしてしまっては、日本のアパレル産業に未来はない。 失った 30 年、私は社会学の研究者であった父が幾度となく教授陣たちと、「いつ、次の景気はやってくるのか」と、ある種、自らの主体性をなくし、全てを他責化していた会話が頭から離れない。 (河合 拓、Diamond Chain Store = 12-8-20)
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