減反の欠陥 「何もしてこなかったじゃないか」 米価高騰、いらだつ首相 米価の歴史的な高騰で、政府が需給を調整する減反政策の欠陥が浮き彫りになった。 石破茂首相は持論の減反廃止を求めるが、米価の暴落を恐れる農林水産省は及び腰だ。 減反廃止に向けて、年 100 万トン超とみられる余剰生産能力をいつまでに、どう整理するのか。 政府には、その道筋をつけることが求められる。 2 月 28 日、首相官邸の総理執務室には、石破首相と農水省の渡辺毅次官らの姿があった。 減反廃止をめぐり、石破首相は「いつまでも減反を続けるべきではない。 生産性を上げて、農家が自由にコメをつくれるようにすれば、米価は安くなる」と主張した。 渡辺次官は、生産性の向上については「しっかり取り組みます」と述べたものの、減反廃止には難色を示し続けた。 しびれを切らしたように、石破首相はこう述べたという。 「そんなことを言ったって、20 年間農水省は何もしてこなかったじゃないですか。」 減反廃止は、石破首相のかねての持論だ。 17 年前の農水相時代にも打ち出したが、自民党農水族の理解が得られず、実現できなかった。 政府が産地ごとに生産量を割り振る減反政策は、安倍政権時の 2018 年に廃止された。 ただ、小麦や飼料用米などへの転作を奨励する補助金を出して、主食用米の生産を抑える仕組みは変わらず、減反は実質的に続いている。 ここに来て、石破首相が減反廃止に前のめりになる背景には、昨夏の「令和の米騒動」以来の米価高騰と、それに対する国民の不満がある。 米価高騰の原因は、コロナ下で山積みになった在庫の削減を急ぎ、生産量を抑制しすぎたことにある。 低迷する米価を立て直すためだった。 だが在庫を減らせば、農水省の想定よりも需要が上ぶれしたり、生産量が下ぶれしたりすることで、たちまち米不足が生じて価格が高騰することになる。 高温が続く近年は、コメの品質が低下し、予想していたほどの精米が確保できなくなっているとされる。 訪日客の急拡大による需要増も読み切れなかった。 そもそも、天候に依存するコメの生産量や、消費者の嗜好に左右される需要量を政府が正しく予想するのは不可能に近い。 JA 大潟村の藤原行毅常務理事は、「今回の米価高騰は、減反政策の限界を示した」と見る。 コメ余ったら暴落する恐れ、国費投入も … 農水省も減反政策が限界だと考えているのは、石破首相と同じだ。 それでも減反廃止に踏み込めないのは、コメが大量に余った場合に米価が暴落する恐れがあるからだ。 奨励金に誘導されて主食用以外の稲の生産に回された水田は、24 年産で 22 万ヘクタールあった。 これらで主食用米がつくられれば、単純計算で約 120 万トンの増産になる。 小麦など畑作物に転作した水田は、これとは別に 26 万ヘクタールある。 石破首相は、余ったコメは輸出し、米価が下落した分は、農家への補助金で補?する意向という。 だが、24 年の輸出量は 5 年前と比べて 2.6 倍に増えたものの、4.5 万トンにとどまる。 日本で食べられている短粒種は国際的には少数派で、世界全体でも輸出量は年 200 万トン程度しかない。 農水省資料によると、22 年産の日本のコメの生産コストは、米国よりも 4 倍以上も高い。 国際競争力が弱い日本のコメが、世界市場を席巻するのは困難だ。 コメの生産や流通を国が管理する食糧管理制度(1995 年廃止)のもとで、国は 2 度にわたる余剰米の処理で計 3 兆円もの損失を被った。 ある農水省幹部は、「同じ失敗を繰り返すわけにはいかない」と危惧する。 減反政策のもとでコメの需給は減り続けてきた そこで農水省が検討しているのが、おにぎりをはじめとする日本の食文化を海外に広げ、それに併せて輸出を拡大する案だ。 スマート農業などで生産性を引き上げて、30 年度の輸出量を数十万トンに拡大する目標を近く掲げる。 来年度中に抜本的なコメ政策の改革案をまとめる方針だ。 ただ従来のコメ政策では、担い手への農地の集約などの改革を打ち出すたびに骨抜きにされてきた。 今回も骨抜きになる可能性は十分にある。 「改革が遅れるほど競争力立ち遅れる」 コメ政策に詳しい荒幡克己・日本国際学園大教授(農業経済学)は、「業界が本気で輸出拡大に取り組むよう、政府が 5 - 10 年後に減反を廃止する大目標を掲げることには意味がある」と話す。 半世紀にわたって続けてきた減反は、コメ農家が生産性を向上する意欲をそいできた。 60 年代は世界 3 位だった日本のコメの面積あたりの収穫量は、ここ 10 年では中国や韓国に抜かれ、世界 15 位に落ち込んだという。 荒幡教授は、「改革が遅れるほど国際競争力が立ち遅れ、意欲ある若者が就農しなくなる。 政府と与党だけでなく、幅広い関係者で丁寧に議論し、目標の合意を形成するべきだ。」と話す。 (大日向寛文、asahi = 3-9-25) 農水省、2 回目の備蓄米放出の手続き開始へ「目詰まり」拡大で前倒し 江藤拓農林水産相は 4 日の閣議後記者会見で、「流通の目詰まり」の解消を目的とする備蓄米放出について、2 回目となる 6 万トンの入札手続きを始める方針を明らかにした。 農水省は 21 万トンを放出する方針を打ち出しており、3 日に初回 15 万トン分の入札を公告した。 当初は 2 回目の放出は、初回の効果を見定めて決める予定だった。 ところが、先月末に公表された統計で、1 月末時点での大手集荷業者が確保したコメの量は、前年同期より 23 万トン少なかった。 農水省が流通の目詰まりの指標としており、前年同期より 21 万トン少なかった昨年末よりも減少幅が拡大した。 そのため、江藤氏は「事務方に速やかに入札の準備を進めるよう指示した」という。 全体の放出量についても「拡大を検討する」と話した。 (大日向寛文、asahi = 3-4-25) 遺伝子組み換え「スギ花粉米」で花粉症治療薬 実用化へ研究加速 スギ花粉症の症状をコメで和らげる。 20 年あまり前に始まった研究が、実用化へ動き出した。 茨城県つくば市の約 11 アールの水田で、今年産のコメ約 440 キロが 9 月 5 日、収穫された。 水田は農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の敷地内にある。 辺りにほかに水田はなく、塀とネットで囲まれた隔離された環境だ。 栽培を担当した若佐雄也上級研究員 (48) は「高温の日が多かったが、虫の発生も少なかった。 心配した台風の影響もほとんどなく、順調に育った。」と話す。 このコメは、キタアケという品種のイネの遺伝子を組み換えて作った「スギ花粉米」だ。 花粉症は、体に入ってきた花粉成分に免疫が過剰反応して起きるアレルギー症状だ。 スギ花粉米は、コメの中に改変した花粉成分(スギ花粉アレルゲン)の一部を作り、その有効成分を継続的に摂取することで症状を抑えると考えられている。 農研機構で開発が始まったのは 2000 年。 03 年には今年収穫したものと同様のスギ花粉米が実った。 当初は食品として流通させることを目指していたが、治療効果への期待から、医薬品開発を念頭にマウスを使った動物実験などを重ねた。 13 - 18 年には、農研機構と共同研究をしていた東京慈恵会医科大(東京都港区)が、少数の被験者にスギ花粉米を食べてもらう方法で、人に対する有効性を確かめる臨床研究を進めた。 この研究で、くしゃみの回数や薬の使用量の減少、「今日は楽」といった主観的な症状の改善などが確認された。 しかし、そこで足踏みした。 農林水産省によると、当時まだアレルゲンを使った花粉症への免疫療法が一般的でなかった点などが背景にあったという。 農研機構の古澤軌(ただし)・作物ゲノム編集研究領域長 (59) は「臨床研究は少人数が対象で治療効果として明確ではなく、遺伝子組み換え作物を医薬品の原料とする前例もなかった」と説明する。 転機となったのは昨年 5 月。 花粉症に関する関係閣僚会議で、各省庁の縦割りを排して従来の取り組みの促進を確認する中、農水省所管のスギ花粉米について、実用化に向けた臨床研究などの実施が決まった。 農水省内に設けられた官民連携検討会は今年 6 月の中間とりまとめで、スギ花粉米から有効成分を抽出した粉末を薬剤として利用し、花粉症の根治が期待できる治療薬の実用化を目指すこととした。 スギ花粉症向けの従来の医薬品のほとんどは症状を緩和する対症療法薬だ。 治療薬はスギ花粉アレルゲン自体を原料とし、副作用として強いアレルギー反応が起きる恐れのある舌下免疫療法薬と皮下注射薬しかない。 一方、改変したアレルゲンの一部しか含まないスギ花粉米を原料とする免疫療法では、副作用の抑制も期待されるという。 古澤領域長は「今後は臨床研究を積み重ねることで世の中の役に立ってほしい」と話す。 だが、課題もある。 臨床研究では、被験者数を増やし、少なくとも 2、3 年の継続投与で有効性や安全性を検討し、投与終了後の効果の持続性も見る必要がある。 原料米の安定供給も求められる。 収穫を年数回に増やし、収量や有効成分などの品質のばらつきを抑える植物工場での生産の研究も検討課題だ。 慈恵医大で臨床研究に関わった東京共済病院耳鼻咽喉科部長の遠藤朝則医師 (48) は、こうした課題を考慮すると医薬品としての実用化には「まだ 5 年や 10 年はかかるのでは」と話す。 それでも「スギ花粉米による免疫療法は、副作用なしに花粉症の症状が緩和したり、長期的に治療効果が続いたりする今までにない次世代の治療法になりうる」と遠藤医師。 イネに組み込む遺伝子を変えることで、他のアレルギー疾患の治療などに応用できるのではと期待を寄せている。 (小林正明、asahi = 2-28-25) 1 月のコメ取引価格、21 年ぶりの最高値に 前年同月より 7 割高く 新米(60 キロ当たり)の 1 月分の業者間取引価格は、前年同月よりも 1 万 0,569 円 (69%) 高い 2 万 5,927 円だった。 前月と比べると 1,262 円 (5%) 高い。 比較できる1990 年以降では、2003 年 12 月(2 万 5,120 円)を上回り、約 21 年ぶりに最高値を更新した。 農林水産省が 19 日に発表した。 農家からコメを買い取る集荷業者と、スーパーなどに販売する卸売業者の間での取引価格。 北海道のななつぼし(前年同月比 88% 上昇)、秋田県のあきたこまち(同 80% 上昇)などほぼすべての銘柄で上昇した。 農水省の担当者は、品薄ななかでの集荷競争が価格上昇の要因になったとみている。 業者間取引価格の上昇が続くことで、店頭価格が当面、高止まる可能性がある。 記録的な米価の高騰を受けて、農水省は 1 月 24 日に、封印してきた備蓄米の放出を辞さない方針を表明。 2 月 7 日に実際に放出することを決めた。 1 月分の業者間取引価格の調査には、1 週間ほど「口先介入」の期間が含まれる。 ただ、担当者は、その間の取引の交渉は 24 日よりも前から行われていた可能性があるとしたうえで、「今回の結果には、備蓄米放出の影響はほとんど織り込まれていない」と説明した。 (大日向寛文、asahi = 2-19-25) 政府の備蓄米放出、21 万トンに まずは 15 万トン 状況みて追加 高騰する米価を抑えるための備蓄米の放出について、農林水産省は 13 日、放出量を 21 万トンにする方針を固めた。 このうち初回は 15 万トンとし、状況を見て追加する。 14 日に江藤拓農水相が公表する予定だ。 2024 年産の生産量は前年よりも 18 万トン多くなる見込みだ。 一方で、農協など主要な集荷業者が昨年末までに確保できた量は、21 万トン少ない。 農水省は、この 21 万トンを流通の目詰まりを示す量として問題視しており、その穴埋めをする。 備蓄米の放出は、集荷業者に対して行う方針だ。 入札で選んだ業者に売却し、1 年以内に同じ業者から同量を買い戻すことにする見通しだ。 農水省は毎年約 20万トンの備蓄米を買い上げ、5 年間保管している。 消費者が受け入れやすいよう、初回に放出する備蓄米は、昨秋に収穫されたコメにするとみられる。 昨年 6 月時点の備蓄量は、年間需要量約 700 万トンの 1 割強にあたる 91 万トンにのぼる。 農水省はこれまで備蓄米の放出を、凶作時と災害時に限ってきた。 昨夏の南海トラフ地震の臨時警報による買いだめで、小売店の店頭からコメが消える異常事態が発生しても、この方針を変えず、放出を拒んできた。 だが、9 月以降に新米が本格的に流通し始めても、米価の高騰はやまず過去最高値を更新し続けている。 農水省は今年 1 月末、新たに円滑な流通に支障が生じている場合にも備蓄米を放出する新制度を創設し、これを発動することにした。 (大日向寛文、asahi = 2-13-25) 政府が備蓄米を放出へ 「できるだけ早く実施」農水相 米価高騰続く中 米価の高騰が続くなか、江藤拓農林水産相は 7 日、コメの円滑な流通に支障が生じているとして、備蓄米を放出する考えを表明した。 来週にも政府が入札の数量や条件を発表する。 実際に放出する時期は未定だが、江藤氏は「できるだけ早く実施する」と話した。 2024 年産の生産量が前年よりも 18 万トン多くなる見込みなのに対して、農協など主要な集荷業者が昨年末までに確保できた量は 21 万トン少ない。 農水省は、さらなる米価上昇を見込んで小規模業者が高値で買い集め、一部の農家も販売を遅らせている状況が続いていると判断。 放出を決断した。 農水省はこれまで備蓄米を凶作時にしか放出しないことにしていたが、1 月末に制度を改正。 円滑な流通に支障が生じている場合にも放出できるようにしていた。 (asahi = 2-7-25) クロマグロ漁獲枠、日本は大型魚 1.5 倍で合意 資源量が回復基調 太平洋クロマグロの資源管理について話し合う国際会議「中西部太平洋まぐろ類委員会 (WCPFC)」の年次会合で、来年以降の大型魚(30 キログラム以上)の漁獲枠を今年の 1.5 倍にすることで合意した。 太平洋クロマグロの資源量が回復基調にあるためで、増枠は 2022 年に続いて 2 度目。 高級食材の代名詞が少し値下がりする可能性がある。 「黒いダイヤ」手頃になるか クロマグロ漁獲枠拡大 期待と懸念 大型魚の枠を、現在の 5,614 トンから 8,421 トンに、小型魚も 4,007 トンから 4,407 トンに拡大する。 枠通りに漁獲されれば、日本漁船による太平洋クロマグロの漁獲量は 11 年(1.3 万トン)以来の水準となる。 水産庁によると、国内のクロマグロの供給量(22 年)は 6.2 万トン。 8 割は輸入と養殖で、残りが太平洋や大西洋での漁獲だ。 今後は、漁獲枠が増える他国からの輸入や小型魚を用いる養殖生産の増加も期待できる。 WCPFC には日本を含めた 26 の国と地域が参加している。 1961 年に 15.6 万トンあった太平洋クロマグロの親魚資源量が、10 年に 1.1 万トンまで減ったことから、乱獲を防ぐために 15 年に国別の漁獲枠を導入。 資源が徐々に回復し、22 年に大型魚の枠が 15% 拡大されていた。 (大日向寛文、asahi = 12-3-24) 漁師が頼る IT のちから 「経験と勘」の漁業界に「スマート」の波 人材難に苦しむ漁業界に変化が訪れている。 体力面で厳しく、「経験と勘」に頼りがちな業界の「常識」を打ち破る活路が、インターネットや AI の技術による「スマート水産業」にある。 夜明け前、福岡県宗像市の漁師、占部旭さん (49) はスマホでアプリを起動する。 画面には、これから「大国丸(7.9 トン)」で向かう玄界灘の地図が映し出される。 地図上には、場所によって異なる水温、潮の向きや速さ、塩分濃度といったデータが数字や色で表示される。 「魚がいそうな潮の流れを確かめ、狙うポイントを決める。」 5 - 12 月はマダイ、1 - 3 月はトラフグの季節だ。 数値は九州大のスーパーコンピューターがはじき出す。 その元となるデータも、占部さんたち県内の漁師が集める。 占部さんは 15 キロ沖合の、水深 20 - 60 メートルの海域で主に漁をする。 漁法は袋状の網を船で引く「ごち網」。 拳 2 個分の大きさで筒状の測定器を網とつながるロープに付ける。 1 回あたり 25 分間、海中に入れる。 魚を捕る間にデータも集められ、携帯端末を通じてコンピューターに自動的に転送される。 「測定器の電源を入れる。 ロープにつける。 それだけ。 これはいいよ。」 日々のデータは、すでに蓄積されたデータの精度を上げ、漁の効率を一段と上げることになる。 占部さんが父親と同じ漁師の道に進んで 30 年超。 「経験と勘」を頼りに漁場に行き、潮の流れを確かめるには釣り糸を垂らしていた。 アプリのおかげで一変した。 魚の居どころを見つけやすくなり、移動時間を短くできた。 宗像漁協によると、はえ縄漁業でアプリの導入前後を比べると、船の燃料は 14% 削減。 丸 2 日間の操業の場合、休憩は 2 時間長くなったうえ、帰港も 3 時間早まった。 県が 2017 年度に事業をはじめ、今では約 40 隻がデータを集める。 県の担当者は「就業者の増加と定着を願う」と話す。 昔は炭鉱の島、ブリ養殖の研究拠点に 長崎市の長崎港からフェリーで 30 分余り、約 14 キロ沖合に高島がある。 面積 1.19 平方キロメートルの離島だ。 高島の歩みは、「軍艦島」として知られる端島と同様、石炭産業の興亡の歴史とともにある。 1868 年、佐賀藩と貿易商トーマス・グラバーの合弁会社が炭鉱開発を進めた。 74 年の官営を経て、81 年に三菱に譲渡された。 人口は 1968 年に 1 万 8 千人を超えた。 だが、エネルギー政策の転換で石炭産業は下火になり、86 年に閉山。 今年 9 月の人口は 255 人だ。 島の北端に鉄骨平屋建ての養殖施設がある。 旧高島町が 2000 年に開設後、21 年 3 月に閉鎖された。 運営を引き継いだ長崎市が長崎大と 23 年 7 月に賃貸契約を結び、研究拠点「高島水産研究所」として動き出した。 長靴に履き替えて室内に入る。 1,200 平方メートル超の室内に容量 20 トンで緑色の水槽 17 個が並ぶ。 今年 3 月、人工授精で孵化したブリ 2 千匹が移ってきた。 研究を主導する長崎大の征矢野清教授 (62) が解説する。 「労働力を減らし、やさしい環境下で魚を育てる。 そのために最先端技術による様々な試験を進めている。」 そのひとつが、LED を使う試みだ。 魚に赤や緑、青といった異なる色を当て、どういう光を感じ、成長に影響するのか確かめる。 魚の一生を考えると、成長の時期によって浴びる自然光の色に違いがあると考えられるからだ。 光の調整や制御で成長の度合いを測り、データで管理する。 魚の様子は水中カメラで記録する。 「魚の成長に適した光の色が突き止められれば、与える餌の適切な量が把握でき、効率的な養殖につなげられる。」 脂の乗ったおいしい魚を育てる。 そして、輸出の拡大を見据える。 ■ 山口・九州各県でのスマート水産業の主な取り組み 山口 : 水産大学校発のベンチャー企業がアプリ開発。 漁船で漁獲した種類や量を登録、水揚げ予想額が表示される。 データは市場側も閲覧し、需要を入力する。 需要は船上で確認でき、狙う魚種や入港の機会を見極める。 熊本 : QR コードによる県産アサリの産地証明システムを構築。 荷揚げ先の漁協で発行されたコードで管理し、販売協力店も登録。 消費者が確認できる仕組みで、いずれもスマホで利用できる。 大分 : ヒラメの陸上養殖で、いけすに取り込む海水の赤潮を検知し、漁業者に通知するシステムを開発中。 海水をくみ上げるポンプの電源停止や給水管の水路変更による排水をアプリで選択する構想。 宮崎 : 県内の基地局 2 カ所から沖合 100 キロの範囲に電波を照射。 潮の向きや速さ、波の高さを計測し、漁業者向けのサイトで公開。 1 時間ごとに更新し、好漁場の選定に活用されている。 鹿児島 : 漁船 30 隻が観測器で水温や塩分濃度、潮の状況を計測。 水揚げデータとともに好漁場を予測する仕組みを計画。 ブリやマダイの養殖で赤潮被害を防ぐため、ブイ、ドローンや人工衛星による観測システムも開発中。 漁業者の激減に歯止めを スマート水産業を進める背景には漁業者の減少がある。 農林水産省の漁業センサスによると、全国の漁業就業者数は、統計の残る 1963 年の62 万 6 千人から減り続け、2023 年は 12 万 1 千人(概数値)と 2 割以下に。 水産白書によると、全国の就業者に占める 65 歳以上の割合(22 年)は 37.7%。 山口・九州各県も同様の傾向だ。 養殖を含む生産量も激減しており、全国では 1984 年の 1,282 万トンをピークに、2022 年は 392 万トンに落ち込んでいる。 (飯島健太、asahi = 12-1-24) 新米の卸売価格、前年同月比 48% 高く ゆめぴりか、あきたこまちも 農林水産省は 18 日、9 月の 60 キログラムの新米の平均卸売価格が、前年同月より 7,409 円 (48%) 高い、2 万 2,700 円だったと発表した。 統計を取り始めた 2006 年 9 月以降では、すべての月を通じて最高だった。 農水省は、夏場の需給逼迫に加え、農家の生産コストが高まっていることが背景にあるとみている。 これまでの最高額は、12 年 9 月の 1 万 6,650 円だった。 今年 9 月の品種別では北海道のゆめぴりかは、2 万 5,971 円(昨年 9 月比で 54% 上昇)、秋田のあきたこまちは、2 万 2,284 円(同 46% 上昇)、新潟のこしひかりは、2 万 0,858 円(同 23% 上昇)だった。 収穫が早かった新米ほど値上がりが大きい傾向があるという。 取引量は、前年同月のほぼ 2 倍の 25 万 2,373 トンだった。 今夏のような品薄を避けるために、卸売業者が前倒しで量を確保したとみられる。 (大日向寛文、asahi = 10-18-23) 米不足、減反と高齢化の果てに 「最悪のシナリオ」が今年、始まった 見渡す限り金色に染まった稲穂を、コンバインが次々と刈り取っていく。 秋田市から車で 1 時間の秋田県大潟村は、かつて日本で 2 番目に大きい湖、八郎潟だった。 戦後の食糧難を解消しようと、20 年にわたる国家事業として約 1 万 7 千ヘクタールが干拓された。 誕生した大地は、米生産の一大拠点となり、食卓を支えてきた。 開村からちょうど 60 年となる今年、全国が「米不足」に揺れた。 慢性的な米不足への危機感 「日本にとって最悪のシナリオが始まった。」 新潟県出身で、1970 年に入植した大潟村あきたこまち生産者協会の涌井徹会長 (75) は、危機感を隠さない。 そもそもなぜ不足しているのか釈然としない、と涌井さん。 確かにインバウンドによる消費の増加や猛暑で品質が低下した影響はあったかもしれない。 だが、「どれも決定的な要因にはなり得ないだろう」と言う。 「わずかにバランスを崩しただけで米の在庫が底を突く。 それだけ生産力が落ちていることに他ならないのではないか。」 これからも慢性的に米不足が続くというのが、「最悪のシナリオ」だという。 なぜこうなったのか。 涌井さんは 50 年近く続いた減反政策にこそ原因があるとみる。 減反は、米が余って米価が下がらないよう、生産量を減らす国策だ。 涌井さんが入植した翌年から本格的に始まり、全国から増産を夢見て大潟村に集まった農家を直撃した。 「自由米」とは「ヤミ米」だった 涌井さんは国に従い、麦や大豆を植えたが、干拓したばかりの土地は水はけが悪すぎた。 「もち米なら良い」と国から言われて植えたものの、育ち始めたころに「もち米も稲作だ」と方針を一変された。 収穫 1 週間前に 6 ヘクタールあまりの稲を自ら刈り取り、細断した。 その様子をただ見守っていた父親の姿は今も忘れられない。 上限を超える量の米を作って独自の販路で「自由米」として売り出せば、県や警察は「ヤミ米」として流通させまいと検問を敷いた。 稲作への投資を回収できずに借金だけが残り、自ら命を絶つ仲間もいた。 「『米をたくさん作れる』という希望を失ったのだろう。」 減反は 2018 年に終わったが、今も生産量は減り続けている。 米の卸売業者でつくる全国米穀販売事業共済協同組合は今年、30 年代に国産米だけでは需要をまかないきれなくなるおそれがあるとの試算を発表した。 涌井さんは「減反のサイズに合わせた機材しかない農家の多くが、生産量を上げるために設備投資するだけの余裕を持ち合わせていないのでは」と指摘する。 何より、減反は多くの有能な農業従事者から水田と意欲を奪っていった。 「農家が一度失った意欲は戻らない。 国が増産にかじを切っても、それを担うだけの人材はいなくなりつつある」と話す。 後継者不足に悩む新潟・魚沼 全国有数のブランド米、魚沼産コシヒカリの産地でも、高齢化と離農が加速度的に進む。 「俺んとこの田んぼつくってくれ。」 新潟県魚沼市の米農家、関隆さん (72) は今年、7 軒の農家から田んぼの買い取りや耕作を頼まれた。 大半が 80 歳以上の高齢農家。 米作りを続けられなくなり、後継者不足で担い手もいないという。 農林水産省によると、20 年の全国の農家の平均年齢は 67.8 歳。 米農家の数は約 71 万と、10 年前より 4 割近くも減った。 農地を荒れさせまいと、関さんは 10 年ほど前から本格的に田んぼを引き受けてきた。 年を追うごとに相談件数が増え、作付面積は 85 ヘクタールと 10 年で倍増した。 だが、規模拡大は限界に近づいている。 「とにかく人がいないし農機も高い。」 家族 3 人に従業員 4 人の計 7 人で耕作できるのは 120 ヘクタールまでとみる。 人手不足でそれ以上集まる見込みはない。 農機の価格も、前回更新した 7 年前より 5 割高に。 「あと数年で引き受け手がほとんどいなくなり、耕作放棄地が一気に広がりかねない」と懸念する。 新米の価格は上がったけれど … そんな逆風にあって、新米の取引価格が上がったことは朗報だ。 昨年は猛暑の影響で、新潟県の 1 等米比率は前年同期比 59.7 ポイント減の 14.8% まで落ち込んだ。 関さんの田んぼにいたっては、1 等米比率はゼロに沈んだ。 今年は作柄が回復し、多くが 1 等米になりそうで、卸売業者からも「値段はそちらの言い値でいい」と引き合いが強い。 「何十年かぶりの高値」で売れそうだが、「それでも農家が大もうけできるわけではない。」 肥料代や燃料代も 5 年前から 5 割ほど上がった。 生産コストを差し引くと「多くの米農家にとって、なんとか米作りを維持できる水準だ」という。 「農家は絶滅危惧種」 心配なのは店頭価格が上がって「米離れ」が進むことだ。 消費が落ちれば、再び米が余り、米価が下がる可能性もある。 米価の低迷は離農をより一層加速させ、生産力まで弱める悪循環を招きかねない。 「魚沼でも農家はもう絶滅危惧種だ。」 関さんはつぶやいた。 (中野浩至、渡辺洋介、asahi = 9-12-24) 2023 年の猛暑でも品質が良い 新品種から考える日本のコメの未来 食味を左右するたんぱく質含有率 高級銘柄米の多くには、ある自主基準がある。 満たせなければ、その銘柄を名乗れず、安価な名無しのコメになってしまうこともある。 6.4% 以下。 東北では「青天の霹靂(へきれき、青森県)」や「つや姫(山形県)」などが採用する基準だ。 数値の正体は、玄米のたんぱく質含有率。低いほど味が良いとされる。 ひときわ食味を重視する高級銘柄米は、育成した各県が譲れない一線として、県内農家が出荷する際の基準を定めている。 たんぱく質は窒素肥料が影響するといわれ、与えすぎるとたんぱく質の数値が上がる。 食味重視の風潮もあって、肥料の追加は抑制的に行うのが主流となっている。 「高温が予想される場合、出穂時期の追肥で品質を維持してほしい。」 福島県郡山市で 7 月 10 日に開かれた稲作に関する緊急の高温対策会議。 農家を指導する JA などに、県の担当者がポイントを説明した。 猛暑だった 2018 年以来、6 年ぶりの開催だった。 昨年産の同県のコメも猛暑で品質低下が問題になった。 1 等米比率は 76.0%(今年 3 月時点)で、前年産より 20 ポイント近くも下がった。 特 A 銘柄が県内でゼロ 東北全体の 66.9% は超えているが、日本穀物検定協会の食味ランキングでは、最高評価の特 A 銘柄が県内で皆無という 20 年ぶりの厳しい結果を突きつけられた。 夏の高温にさらされた稲は、穂に十分な養分を回せず、コメが白っぽく濁る「白未熟粒」が発生し、等級の低下を招く。 だから穂が出るころの追肥で養分不足を補えば、白未熟粒の発生が抑えられるとの期待がある。 適切な追肥は稲の生育を促し、収穫量を増やすのに効果的だが、「農家の高齢化や担い手不足などもあって、昔ほどには行われなくなった」と県の担当者。 同県の方針は、原点に戻って再び 1 等米比率を引き上げようというものだ。 「出穂時期の追肥はあまり経験がない。」 参加者からは戸惑いの声もあがった。 県側もたんぱく質の上昇を警戒し、気温や稲の生育状況を見極める必要があるとの細かい注意を忘れなかった。 同県にもトップブランドをめざす「福、笑い」という高級銘柄米がある。 たんぱく質の基準はつや姫などと同じ 6.4% 以下。 県の担当者は「『福、笑い』への追肥は少し怖いが、土壌の養分だけではもはや限界」と言う。 東北全体を見渡せば、昨年の猛暑に耐えた新しい品種が注目されている。 山形県の 1 等米比率は東北最低の 43.2% だが、「雪若丸」という品種に限れば 84.9%。 育成した同県は農家などの要望で面積制限を緩和した。 秋田県の 1 等米比率も全県で 53.8% と苦戦したが、新品種「サキホコレ」は 93.4%。 比較的気温が高い県内の中南部に限られる栽培エリアは、今後の温暖化で広がる可能性もあるという。 暑さは、「白未熟粒」以外にもコメ粒にひびが入る「胴割れ」を助長する。 青森県は、胴割れが起きにくい新品種「はれわたり」を育成した。 温暖化に対応した栽培方法の改善、強化が図られる一方で、暑さに強い品種も生まれ始めた。 だが、温暖化はさらに進み、気温は今より上がるとの予測もある。 新品種の育成には 10 年はかかるといわれる。 誕生する頃の気温はどうなっているのか。 予測困難な未来には、どんな光景が広がっているのだろうか。(荒海謙一) 取材後記 国内の食料自給率がカロリーベースで 40% にも届かない中、コメに限ればほぼ 100%。 頼もしい存在だが、消費者のコメ離れが進んで生産量は年々減っている。 そこに温暖化という新たな脅威が加わった。 冷涼な気候ゆえに冷害に苦しみ、その克服に努めてきた東北は、今やコメどころになった。 産地が衰退してしまうようでは、日本の食の根幹を揺るがしかねない。 そんな思いで各地を訪ねた。 温暖化で稲の生育が早まり、高温障害による品質低下が問題になっている。 従来の栽培法や品種が限界に近づき、大きな転換点を迎えているように思えた。 東北のコメを通じて、戸惑いながら懸命に対応策を模索する姿の一端を見たが、温暖化の影響は東北やコメに限ったことではない。 自然を相手にする一次産業の人々は等しく肌で感じているはずだ。 温暖化はさらに進行するとの予測もある。 国際紛争や為替の円安といった不安材料も次々に表れ、日本の食を取り巻く環境は厳しさを増す。 食の足元を見直し、総力を結集する時なのだろう。 (荒海謙一、asahi = 9-4-24) 米の品薄、解消は 10 月以降に? 猛暑、買いだめ … 1 つではない原因 米の品薄が続いている。 昨年の猛暑と訪日客の増加に加えて、新たな要素も。 店頭から消えた米はいつ戻ってくるのか。 「なんでないんだろう」 青森県平川市の男性農家 (72) は、スーパーなどで米の欠品や購入制限が続く状態に、首をかしげる。 約 20 ヘクタールの水田で米を育てているが、2023 年産米の生産量は例年通り。 実際、農林水産省によると、23 年産米の全国の作況指数は「平年並み」だった。 「目減り幅が大きかった」 だが、山形県高畠町の男性農家 (65) は「精米したときの目減り幅が例年より大きかった」と明かす。 米には収穫したままの玄米と、玄米を精米して胚芽(はいが)やひび割れた粒などを取り除いた白米がある。 作況指数で「平年並み」だったのはあくまで玄米の状態。 この男性農家は自ら精米してレストランなどに卸しているが、精米後に残った白米の量が例年よりも 2 - 3% 少なかったという。 農水省の推計によると、精米後に白米として残る量の割合は 23 年産米が 90.6% だった。 22 年産までの 10 年間の平均 91.4% を 0.8 ポイント下回り、過去 10 年で最低だった。 米どころで 1 等米が激減 精米した時の歩留まりが悪化した原因は、猛暑による高温や渇水で品質が低下したことだ。 米は最も品質の高い 1 等から規格外まで 4 段階の等級があり、等級が低いほど白米として残る量が減る。 農水省の調査では、23 年産米の全国の 1 等米比率は 60.9% で前年同期より 17.6 ポイントも下がり、現在の検査制度が始まった 06 年以降で最低だった。 都道府県別にみても、生産量が全国 1 位の新潟県は前年同期比 59.7 ポイント減の 14.8%、同 3 位の秋田県は同 34.9 ポイント減の53.8%、同 4 位の山形県も同 52 ポイント減の 43.2% と大幅に落ち込んだ。 東京都内の卸売り大手の担当者も「白米が例年より少なかった」と打ち明ける。 同社では取引先である大手スーパーなどの小売業者の需要に応じて、あらかじめ仕入れる量の大半を特定の仕入れ先と契約している。 ただ 23 年産はいつもの仕入れ先だけでは足りず、ほかの生産団体からもかき集めて量を確保したという。 インバウンド消費や、パンや麺類に比べて割安感があることによる米需要の高まりはかねてあった。 このため卸売業者によっては十分な量を確保できず、今年の春ごろから需給が逼迫していた。 あおられた消費不安 そこに拍車をかけたのが、災害に備えるための「買いだめ」だ。 同社によると、8 月になって南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)が発出され、普段より多めに食料品を買った人も多かった。 メディアが「米不足」と取り上げたことで、消費不安もあおられる結果となった。 ドラッグストアやディスカウントストアなどに置かれている比較的安価な米が品薄になると、割高な米を扱うスーパーにもこれらの購買層が押し寄せるように。 同社はこうした大手スーパーにコメを卸しているが、想定外の需要に回せるだけの余剰の米は、在庫リスクもあってもともと十分に持ち合わせていない。 結果、小売り側による米の争奪によって価格は上がり、品切れまで起こすようになったという。 落ち着くのは「10 月以降」 農水省は、収穫時期の早い地域からの新米が流通するようになる 9 月中旬ごろには品薄感が徐々に解消されるとみる。 一方、同社は新米が十分に出回り、事態が沈静化するのは 10 月以降だとみている。 元農水省農林水産政策研究所長で農政アナリストの武本俊彦さんは「今年も猛暑が続いており、安定した量が生産できない可能性がある」と指摘。 「気候危機の悪化が予想されるなか、猛暑に対応し得る生産体制を構築しつつ、国も需要供給に対する情報を的確に出していくことが重要」と話す。 (渡辺洋介、中野浩至、山田暢史、asahi = 8-24-24) コメの在庫、過去最低に 猛暑による品質低下や外食需要の増加が影響 農林水産省は 30 日、農協や卸売業者などが保有する主食用のコメの在庫が 6 月末時点で 156 万トンとなり、前年同期から 41 万トン減少したと発表した。 比較可能な 1999 年以降で最も少なかった 2008 年の 161 万トンを下回り、過去最低となった。 農水省によると、在庫が減った背景には、昨年の猛暑でコメの品質が低下し、精米時に量が減るコメが多かったことがある。 コロナ禍からの回復や、訪日外国人客の増加などで、外食での消費が増えたことも影響している。 昨年の主食用のコメの生産量は 661 万トンだった。 国民が食べる「需要量」に対する在庫の割合は、今年 6 月時点で 22.2% で 08 年の 18.8% を上回った。 農水省は「(在庫の割合は)例年と比べて特段低くなく、全体の需給が逼迫している状況ではない」としている。 91 万トンある備蓄米を放出する予定はないという。 それでもコメの品薄感は強まっている。 購入制限をするスーパーも出てきた。 首都圏や近畿圏で約 300 店を展開するライフコーポレーションは、今月 23 日ごろから、コメ売り場に「お米の需要が不安定となっております」との説明書きをつけ、1 家族で 2 点までの購入を求めている。 首都圏で約 150 店を展開するオーケーも、「1 家族 10 キロまで」としている。 同社は「緊急事態として米卸各社に要請し集めておりますが、仕入れ数量が十分に行きわたるまでは、出来るだけ多くのお客様にご購入いただけるよう制限をしています」と説明している。 価格も上昇している。 今年 6 月の 60 キログラムあたりの平均価格は 1 万 5,865 円で、コロナ禍前の 19 年産の水準を上回った。 品薄感は本格的な収穫時期の 9 月まで続くとみられる。 (加藤裕則、asahi = 7-30-24) 暑さに強いコメ、作付けじわり拡大 猛暑でも 1 等米比率 90% 以上 コメの産地で暑さに強い「高温耐性品種」の生産が拡大している。 コメが成熟する夏の高温は、品質にも大きな影響を及ぼす。 近年、夏の暑さが激しさを増す中、高温耐性品種は、品質が落ちにくいとして存在感が高まりつつある。 新潟県によると、同県で開発した高温耐性品種「新之助」の作付面積は今年、5,300 ヘクタールと、昨年より 2 割増えたという。 手間暇がかかる品種だが、猛暑だった昨年でも 1 等米比率が 94.7% (昨年 12 月 31 日現在)となり、農協が作付けを勧めている。 県は昨年 12 月にまとめた今後のコメ作りの報告書で、夏の高温対策に本腰を入れると訴えた。 具体策として、コシヒカリを中心にしながらも、新之助などの高温耐性品種への転換も盛り込んだ。 また、作付け時期をずらしてリスクを分散させることや、夏に肥料を十分に与えることなどを勧めている。 農業・食品産業技術総合研究機構が手がけた高温耐性品種「にじのきらめき」も、今年の作付面積は全国で約 7,500 ヘクタール(推定)で、昨年の 1.5 倍に。 収穫量も多く、2018 年の登録出願からわずか 5 年で急速に拡大しているという。 富山県のアルプス農協も、高温耐性品種「富富富(ふふふ)」を増やした。 前年比 25% 増の 450 ヘクタールで、管内の主食用のコメの 1 割強を占めるほどになっているという。 同農協分としては、1 等米比率は 9 割を超える高い割合だった。 一般的に、コメは稲穂が出てから収穫までの成熟する期間に高温にさらされると、品質が落ちるとされている。 昨年の猛暑、新潟コシヒカリの 1 等米比率 5% 特に、夏の気温が観測史上最も高いとされた昨年は影響は大きかった。 全国的に人気が高い新潟産のコシヒカリは昨年、1 等米の比率はわずかに 5.0% だった。 例年は 8 割ほどとなることから、業界には衝撃が走ったという。 農林水産省によると、検査した全ての品種(もち米をのぞく)の全国平均も、1 等米比率は 61.3% と前年比 17.3 ポイント減と大きく下がった。 コメの等級は農協などに農家が新米を持ち込む際の検査で決まる。 1 等米は形のよい「整粒」が 70% 以上などの条件がある。 等級によって、味に大きな違いはないが、1 等米と 2 等米では玄米 60 キロあたり数百円の差が出るため、農家の収入への影響は大きい。 こうした事情もあり、近年は夏の猛暑が続く中、高温耐性品種への期待が高まっている。 農水省によると、国内でのコメの作付面積に占める高温耐性品種の割合は、2019 年は全体の 9.9% だったが、昨年は 14.7% になった。 農水省は昨年度の補正予算で、野菜も含めた高温に強い栽培技術の実験費用として 2 億 7 千万円、肥料用のドローンやハウスの中で霧を発生する装置などに 310 億円の予算を盛り込み、多角的な高温対策を進める。 今年も 7 月に入って気温が上がっている。 気象庁は今月 25 日、今後 1 カ月間について「全国的に、期間の前半は気温がかなり高くなる見込み」との予報を発表した。 坂本哲志農水相は 23 日の閣議後会見で「生育が例年に比べ早まっている」と危機感を強め、高温被害を回避・軽減するため、肥料のタイミングや水の管理、さらには「刈り遅れがないよう」などと農家に呼びかけた。(加藤裕則、asahi = 7-28-24)
コメの卸売価格が上昇基調、6 月分はコロナ禍前上回る 農水省集計 農林水産省は 16 日、2023 年産のコメについて、今年 6 月分の卸売価格(相対取引価格)を発表した。 60 キログラムあたり 1 万 5,865 円で、6 月分の価格としては、新型コロナ禍前となる18 年産や 19 年産を上回った。 昨年 9 月分の発表以降、価格がコロナ禍前を上回るのは初めて。 訪日客の増加などで外食需要が回復したことで価格が上がった。 6 月分としては比較できる 08 年産以降で 2 番の高さ。 卸売価格は、17 年産 - 19 年産は 1 万 5,500 円前後だった。 だが、コロナ禍による外出制限などで外食需要が低迷したことで、コメの価格も下がり、1 万 3 千円を割り込むときもあった。 23 年産は当初、1 万 5,300 円ほどだったが、24 年春になって上がり基調になり、6 月まで 4 カ月連続で上昇した。 インバウンド需要のほか、昨年の猛暑で一部のコメで品質が落ち、比較的、低価格なコメが品薄になったことも価格を押し上げたとみられる。 また、今年の収穫期を前に在庫が減り始めていることも影響している。 ただ、農水省の担当者は「需給が逼迫するような状況ではないと考えている」としている。 (加藤裕則、asahi - 7-17-24) |