「日本に適地はない」核のごみ処分場 後世にとって最善の選択とは?
「知ってた。」 「そりゃそうだろ。」 そんなインターネット上の反応が目につくニュースだった。 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物「核のごみ」の最終処分をめぐり、10 月末、「日本に適地はない」とする声明を地球科学の専門家有志が発表した。 地殻変動の激しい日本では、10 万年にわたり地下に閉じ込める「地層処分」に向く場所は選べないとし、抜本的な見直しを求める内容だ。
確かに、日本が地震国、火山国であることは誰もが知っている。 いくつものプレートがせめぎ合う場所であることも、今や常識といえる。 とはいえ、日本列島をよく知る人たちの言葉には重みがある。 声明は「地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できること」とも言い、300 人以上が賛同者に名を連ねた。 このタイミングで出したのは、北海道寿都町と神恵内村での文献調査が大詰めを迎え、長崎県の対馬市議会が調査受け入れを求める請願を採択、市長が拒否するなど、核のごみをめぐる動きが相次いでいるのを受けてのことだという。
「地学を専門とする私たちの責任で意見を示そうと取り組んできた。 議論を喚起したい。」と呼びかけ人の一人、赤井純治・新潟大名誉教授は記者会見で語った。 当日の記事では伝えきれなかった内容を紹介する。
「日本の地質条件を無視」、「人工バリア技術を過信」
声明は、こんな厳しい言葉を並べ、今の最終処分の法律廃止と「地層処分ありき」の原発政策の見直しを訴えている。 人工バリアとは、廃棄物をガラスで固め、分厚い金属で覆い、吸着性のある粘土で囲む多重の障壁のことを指す。 さらに地層が持つ閉じ込め機能(天然バリア)で、放射性物質が地表に届かないようにするのが今の安全確保の考え方だ。
長期にわたり安定していた地層はある。 よく例に挙がるのが、天然ウラン鉱床が閉じ込められていた海外のケース。 金属や木片など遺物の保存の良さも、地下の環境の穏やかさを示す例とされる。 地殻変動や海面の変動で露出しないよう、300 メートルより深くに処分する。 日本でも広く適地はあり、調査で場所を選べば処分はできるというのが今の法律の前提にある。
だからこそ、処分地選びの調査は、全国を対象にした公募制が採られた。 6 年前に国が公表した「科学的特性マップ」も、明らかに不適な場所を示すにとどまり、多くが「好ましい特性」とされた。 火山や活断層の近くなど、条件の悪い場所がある自治体でも手を挙げられ、交付金を得られる。 これに対し声明は、10 万年にわたり安定な場所を日本で選び出すのは「現状では不可能」だと指摘する。
岩盤は不均質で亀裂も多い。 地震活動、つまり断層の動きも活発で、活断層が未確認だった場所でも大地震は起きている。 処分場が直撃を受けて人工バリアが損なわれれば、岩盤のすき間の地下水に放射性物質が漏れ出す。 しかし、岩盤の変化や地下水の流れを長期にわたって予測することはできないという。 10 万年たったとき、結果的に安定していた場所はあるかもしれない。 しかし、それがどこなのか、事前にはわからないとの主張だ。
では、どうすればいいのか。 声明は 2012 年の日本学術会議提言を踏まえ、中立で開かれた第三者機関を設置しての再検討を訴えている。 この提言は、廃棄物の暫定保管と、発生量に歯止めをかける総量管理を柱に、科学的知見を基盤にした国民的議論を求めていた。 これは、東日本大震災の前に国の原子力委員会から審議の依頼を受けて出されたものだ。 国民的合意の欠如や科学的知見の限界を指摘。 自律性のある科学者集団による開かれた討論の場や、多段階での合意形成手続きを求めた。 しかし、処分をめぐる政策は大きく変わらないまま今に至る。
「後世に押しつけず、現世代で。」 処分地選びを今進める理由は、しばしばこう語られる。 一方、赤井さんは「危険を後世に渡すことになるかもしれない」と話す。 個人的には、100 年、200 年と保管するなかで科学の進展を見極め、技術的な可能性や国際的な解決策を探っていくべきだという。 もっとも、地球科学の専門家にも、前者の立場で今の枠組みを容認する人はいる。 太平洋プレート上の安定した場所にある日本最東端の島、南鳥島を推す声もある。
100 年先になる処分場閉鎖までの間は、廃棄物を運び出せる「回収可能性」も確保することになってはいる。 いずれにしても、後世にとってどうするのが最善なのか、本質的な議論をする場が乏しいのは確かだ。 「日本で処分できるのか」というのは、説明会などでよく出る質問でもある。 手を挙げた一部の地域ばかりに議論を強いる現状のままで、多くの国民が納得できる解決策を導くのは難しい。 地球科学も含め、さまざまな専門の視点からの発信はもっとあっていい。
プレートテクトニクスの考え方が定着してから、まだ半世紀ほどしか経っていない。 少なくとも現代の私たちは、活断層の間近や真上、さらにはプレート境界で起こる巨大地震の震源域に建ててしまった原発があることを知っている。 大津波が来る所に建ててしまい、取り返しのつかない事故を起こした原発のことも。 (編集委員・佐々木英輔、asahi = 11-30-23)
排気ダクトからウラン粉末 170 キロ 26 年間未点検の核燃料事業所
原発の核燃料を加工する「原子燃料工業(本社・横浜市)」の熊取事業所(大阪府熊取町)で、約 26 年間にわたり点検されていなかった排気ダクトの内部に約 170 キロのウラン粉末がたまっていたことが分かった。 22 日の原子力規制委員会の定例会で報告された。 外部への漏洩や、従業員の被曝線量が増えるといった影響は確認されていないという。
規制委によると、今年 4 - 5 月に排気ダクトの改造工事をした際にウラン粉末がたまっているのが見つかった。 同事業所では、核燃料の原料であるウラン粉末を扱う設備から放射性物質が漏れないよう、気圧を管理する排気設備がついている。 この排気設備からウラン粉末が吸い込まれ、排気ダクトにたまっていたという。 規制委は、設備の構造から排気ダクトにウラン粉末がたまることは予測できると指摘。 適切に点検せず、大量のウラン粉末が排気ダクトにたまった結果、大きな地震が発生すればウラン粉末の一部が環境中に放出される恐れがあったとして、問題だと判断した。
一方、核分裂が連続して起こる「臨界」になるには少なくとも約 2 千キロのウラン粉末が必要といい、臨界になる恐れはなかったと評価。 すでにウラン粉末は回収され、排気ダクトも粉末がたまりにくい構造にするなどの対応がとられているという。 (福地慶太郎、asahi = 11-22-23)
活断層が向きを変え、もんじゅ直下へ? 新説発表で「見落とし」指摘
廃炉になった高速増殖原型炉「もんじゅ(福井県敦賀市)」をめぐり、原子炉がある建物直下を活断層が通るとの新たな学説が浮上した。 もんじゅの核燃料は原子炉から取り出されたものの、敷地内の貯蔵プールに保管され、廃炉作業の完了は 24 年先の予定。 敷地では試験研究炉の新設も計画されており、専門家は十分な地震対策を求めている。
活断層の可能性を指摘しているのは、中田高・広島大名誉教授ら。 10 日、福岡市で始まった日本活断層学会で、白木(しらき) - 丹生(にゅう)断層と呼ばれる活断層がもんじゅの敷地内まで達する可能性が高いとし、直下の断層は「科学的な判断をすれば活断層」と発表した。 もんじゅ直下の断層はこれまで、活断層ではなく古い時代のものとされてきた。 改めて検討した原子力規制委員会の有識者会合も 2017 年に「(活断層である)証拠は認められない」とする評価書をまとめている。
一方、今回の説は、すでに知られている活断層が、これまでに言われてこなかったルートで敷地へ向かい、直下の断層につながる可能性を指摘した点が新しい。 周辺の細かな地形を見直して、規制委などの公表資料を精査した結果だという。 中田さんは「有識者会合の誤りに早く気付くべきだった」と自らの反省も表明した。
どういうことなのか。 敷地間近に活断層があることは、以前からはっきりしている。 白木 - 丹生断層は、もんじゅの西 500 メートル、敦賀半島の西部を南北に走る。 もんじゅの運営主体の日本原子力研究開発機構が 08 年になって、活断層だと認めた。 問題は、この活断層がどこへ延びるかだ。 これまでは、真北の海底へまっすぐ延びていくと考えられてきた。 海底の地層の調査でも、真北に活断層があることが判明している。 これに対し中田さんらは、海岸付近で北東に曲がって、もんじゅの方向にも向かい、「原子炉建物」直下に至るとの説を唱える。
その証拠はいくつもあるという。 一つは谷の屈曲。 山地に刻まれた谷が、右方向に折れ曲がっているところが複数ある。 これは、横ずれを起こす活断層でよく見られる地形だ。 さらに、土砂が堆積(たいせき)してできた地形に、不自然な段差状の地形が連なっていることも、航空写真や詳細な地形データから読み取れる。 もんじゅ建設前の写真をみると、敷地内にもあり、ちょうど原子炉建物直下の断層に沿う位置にあたるという。
これらは、活断層によってつくられる「断層崖(がい)」の疑いがある。 こうした特徴的な地形をつないでいくと、海岸沿いを、もんじゅのある北東へと向かう、新たな活断層の線が見えてくる。 しかも、これらの地形は地質調査で断層が見つかっていた複数のポイントとも重なる。 「これだけ証拠があれば、活断層と考えるのが自然」と中田さんは言う。
規制委の有識者会合に予断?
では、なぜこれまでどの専門家も指摘してこなかったのか。 「白木 - 丹生断層は北の海域のみに延びるとの思い込みが、見落としにつながったのではないか。」 中田さんは、こんな見方を示したうえで、規制委の有識者会合のあり方にも疑問を投げかける。 「有識者会合や、ピアレビュー会合(別の専門家によるチェック)で関連する指摘が出ていたのに、十分に検討された記録がない。 地層の解釈にも無理がある。」
実際、有識者会合の議事録や動画からは、白木 - 丹生断層が北に延びる前提で話が進んでいたことがうかがえる。 白木 - 丹生断層が動いたとき、建物直下の断層が引きずられる形で動く可能性があるかどうかが、主な焦点になっていた。 ピアレビュー会合では、敷地が活断層で変形している可能性を指摘するコメントも出ていたが、その後は議論されていない。 有識者会合では、中田さんが活断層と疑う建物直下の断層や、谷の屈曲地点の断層は、活断層でないとされた。 新しい地層にずれが及んでいないことが、その支えになっていた。
しかし、建設時に建物直下を掘削調査した位置は、活断層を疑わせる地形からわずかにずれている可能性があるという。 谷の屈曲地点の調査記録にある地層の乱れは、断層の横ずれで生じたと解釈できるという。 建物直下の断層は、今となっては直接調べられない。 有識者会合は別の敷地内断層の分析結果を間接的にあてはめて活断層否定の根拠にしたが、これも「強引」だと中田さんは言う。
廃炉決定で追加検討、立ち消えに
有識者会合は、大学や研究機関の専門家が委員になり、現地を調査するなどしたが、事業者の資料に頼る部分も多い。 評価書をまとめる実務は事務局の原子力規制庁が担っていた。 もっとも、有識者会合の評価書は「現時点では」との留保をつけたうえで、「(新しい時代に)活動したと考える証拠は、認められない」としていた。 限られた資料やデータによる評価だと認め、さらにデータを拡充する必要があることも 8 項目にわたって指摘していた。
しかし、もんじゅの廃炉が決まったため、その後の検討は立ち消えになった。 廃炉の決定は 16 年末。 ピアレビューを経て有識者会合の議論が収束、評価書の取りまとめに入っていた時期だった。 ほかの原発のように、新規制基準による審査の場で検討されることもなくなった。 もんじゅの核燃料は現在、水を満たしたプールで保管されている。 中田さんは「一刻も早く、安全な場所に移動させる必要がある」と指摘し、もんじゅの敷地内で計画されている試験研究炉も「耐震性を十分に備えた施設に」と訴えている。
原子力機構は「規制委の有識者会合で評価いただいているので、現時点で対応は考えていない。」 規制庁は「評価書はその時点の有識者会合の判断で、委員会として結論を出してるわけではない。 情報収集には努めていく。」としている。 (編集委員・佐々木英輔、asahi = 11-10-23)
白木 - 丹生断層 : 原発などの原子力施設では 12 万 - 13 万年前以降の活動が否定できなければ、「活断層」として扱う。 白木 - 丹生断層は、日本原子力発電などの掘削調査で 9 千年ほど前に動いていたことが判明している。 これまでは、もんじゅの西約 500 メートルを南北に走り、地下深くでは、真下 850 メートル付近に斜めに潜り込んでいると想定されてきた。 関西電力美浜原発は、断層の約 1 キロ西に位置する。
規制委の有識者会合 : 2006 年の原発耐震指針改定を受け、旧原子力安全・保安院が各原発の活断層の想定などを再評価。 重要施設の直下など、敷地内の断層も焦点になった。 11 年の東日本大震災で得られた活断層の知見を踏まえ、保安院が改めて調査を指示し、専門家の意見聴取会で検討。 その後、原子力規制委員会に引き継がれた。 規制委は有識者会合の結論について、参考にする「重要な知見の一つ」とし、新規制基準による正式な審査とは別に位置づけている。
原子炉など重要施設の直下に活断層があれば再稼働できず、廃炉を免れないことから、その結論は注目を集めた。 一方、北陸電力志賀原発のように、有識者会合の結論が審査で覆ったこともある。 有識者会合の評価書取りまとめは、17 年のもんじゅが最後で、現在は開かれていない。
川内原発 1、2 号機 60 年まで運転延長 40 年超の原発が常態化
再来年までに運転開始 40 年を迎える運転中の九州電力川内原発 1、2 号機(鹿児島県)について、原子力規制委員会は 1 日、60 年までの運転延長を認めた。 東京電力福島第一原発事故を機に原発の運転期間は「原則 40 年」とされたが、60 年までの認可は 5、6 基目。 40 年超が常態化し、今後も増えるのは確実だ。 九電は昨年 10 月、運転延長を申請した。 審査では、超音波による検査や目視で原子炉容器などに問題は確認されず、今後も計画的に管理する方針を説明した。 規制委は、点検などの方法は適切で、60 年時点でも設備の機能は維持できると判断し、運転延長を認めた。
事故後にできた規制基準をクリアし、運転開始から 35 年を超える原発は川内 1、2 号機を含め全国に 4 原発 8 基ある。 再来年に運転 40 年を迎える関西電力高浜 3、4 号機は審査中。 これまでに申請した原発が認可されなかった例はない。 電力各社によると、原発 1 基の稼働で、火力発電の燃料費の削減などで年間 500 億 - 1,200 億円程度の収支改善効果があるという。 政府は 2 月に閣議決定した方針で 60 年超の運転延長と新規原発建設を盛り込んだ。 エネルギー問題に詳しい国際大の橘川武郎学長は「実際に進むのは運転延長」とみる。
原発の新設は数千億円から 1 兆円ほどかかる一方、運転延長は保守点検などの費用が数百億円で済むという。 橘川さんは「運転延長であれば、電気料金も上がらない。電力会社にも国民にも利点があるが、新しい原発よりも危険性の高い古い原発を長く使う『毒まんじゅう』だ」と指摘する。 原発は運転期間が長いほど、核分裂で放出された中性子を浴びて原子炉容器がもろくなったり、高温にさらされた配管の亀裂が広がったりする。運転しなくてもケーブルの機能やコンクリートの強度が下がることが知られている。
再来年 6 月に本格施行される新制度では、規制委の審査などで停止した期間を運転期間から除くことで、60 年超運転が可能になる。 九電原子力発電本部の林田道生・副本部長は「60 年に達する時点での技術的な部分などを勘案して、検討する」と述べた。 停止期間の基準は経済産業省が今後決めるが、国会審議で明らかになった同省のまとめでは、除外されうる停止期間は川内原発の 1 号機で 4 年 11 カ月、2 号機で 4 年 8 カ月とされた。 今のところ、60 年を超えて運転している原発は世界にもない。 (福地慶太郎、矢田文、asahi = 11-1-23)
北海道幌延「核のごみ」処分研究、地下 500 メートルめざし掘削開始
日本原子力研究開発機構は 29 日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の地層処分を研究している幌延深地層研究センター(北海道幌延町)にある立て坑を深度約 500 メートルまで延ばすための掘削工事を開始した、と発表した。 同機構によると、掘削を始めたのは 3 本ある立て坑のうちの「東立て坑」で、残り 2 本も順次掘削を始めていき、全体の工事は 26 年 3 月末までに完了する予定だという。 立て坑はこれまで掘削深度約 380 メートルだった。 (松尾一郎、asahi = 9-29-23)
敦賀原発の審査、半年ぶりに再開 焦点は活断層、12 月に現地調査へ
日本原子力発電敦賀原発 2 号機(福井県敦賀市)の再稼働に向けた審査で資料の誤りが続発し、審査が中断していた問題で、原子力規制委員会は 22 日、約半年ぶりに審査会合を開いた。 焦点となっている原発敷地内の断層が活断層かどうかを判断するため、規制委は 12 月上旬にも現地調査をする方針を示した。 原電はこの日の会合で、規制委の指導を受けて 8 月末に出し直した申請書の概要を説明。 2 号機の真下にある断層は、活断層ではないと改めて主張した。
斎藤史郎・執行役員は「今回の申請書で、(活断層)審査に必要な記載、データはすべて基本的に記載してございます」と述べた。 審査では、敷地内にある「K 断層」が活断層かどうか、2 号機直下の断層と連続しているかが最大の焦点。 直下の断層を活断層と判断すれば、再稼働ができなくなる。 規制委は、まずはK断層が活断層かどうかを審査する方針を説明した。 審査は 2015 年に始まったが、敷地内の地層の観察記録をまとめた「柱状図」を原電が無断で書き換えていたことが発覚し、規制委は 21 年 8 月に審査を中断した。 再開後もミスが相次いだことで今年 4 月には 2 度目の中断を決めており、活断層かどうかの本題に入れない状況が続いていた。 (佐々木凌、asahi = 9-22-23)
関電の高浜 2 号機が再稼働 40 年超の老朽原発、国内 3 基目の稼働
関西電力は 15 日、運転開始から 47 年が過ぎ、国内で 2 番目に古い高浜原発 2 号機(福井県)を再稼働させた。 原発の運転期間は原則 40 年で、審査を経て 60 年まで延長できる。 40 年を超えて動くのは高浜 2 号機で 3 基目。 さらに 4 基が審査中で、原発活用を進める岸田政権の下、古い原発への依存がより強まりそうだ。
「例外」なのに常態化、強まる老朽原発依存 県民投票に浮かぶ不安
15 日午後 3 時、原子炉内で核分裂を抑える制御棒の引き抜き作業が始まり、原子炉が起動した。 20 日に発電機を送電網につなげ、10 月 16 日に営業運転に入る計画だ。 国内の原発 33 基のうち、これで 12 基が稼働した。 高浜 2 号機は 1975 年に運転を始めた。 2011 年 11 月に定期検査に入り、再稼働は約 11 年 10 カ月ぶりになる。 東京電力福島第一原発事故後にできた新しい規制への対応に時間がかかっていた。
関電は 7 基の原発を持ち、すべて福井県内にある。 今回の再稼働で、定期検査中の大飯 4 号機をのぞく 6 基が動く。 原発の稼働率が上がることで、24 年 3 月期は過去最高の経常利益を見込む。 国内の原発 33 基のうち、21基は運転開始から 30 年を超えている。 中でも、関電の高浜 2 号機、高浜 1 号機(運転開始から 48 年)、美浜 3 号機(46 年)の 3 基は 40 年超の老朽原発だ。 また、40年超への延長について、全国では 1 基がすでに認められ、4 基が審査を受けている。 古い原発の安全性については、住民には不安感も残る。 延長を審査中の川内原発 1、2 号機が立地する鹿児島県では、住民団体が運転延長の是非を問う住民投票の準備を進めている。 (佐藤常敬、西村宏治、asahi = 9-15-23)
島根原発 2 号機、来年 8 月に再稼働へ
中国電力が 11 日、島根原発 2 号機(松江市鹿島町片句、出力 82 万キロワット)を 2024 年 8 月に再稼働すると発表した。 中電が具体的な再稼働時期を示すのは初めて。 再稼働の前提となる安全対策工事の完了時期は、24 年 5 月とした。 24 年 8 月に原子炉起動を行い、9 月に営業運転を始める。 島根 2 号機は 1989 年 2 月に営業運転を開始し、2012 年 1 月に停止。 再稼働に向け 13 年 12 月、原子力規制委員会の審査を申請した。
新規制基準に基づく審査は、▽ 原子炉設置変更、▽ 工事計画、▽ 保安規定 - の 3 つで、島根 2 号機は 21 年 9 月に安全対策をチェックする原子炉設置変更に合格し、今年 8 月に詳細な安全を確認する工事計画の認可を受け、保安規定は審査中。 再稼働の地元同意は、22 年 6 月に得ている。 島根2号機は、東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第 1 原発と同じ沸騰水型。 このほか、廃炉作業中の 1 号機(46 万キロワット)と、改良型沸騰水型で新規稼働に向けて規制委が審査中の 3 号機(137 万 3 千キロワット)がある。 (山陰中央新報 = 9-11-23)
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島根原発 1 号機、廃炉完了は 4 年遅れの 2049 年度 中電が松江市に伝達
島根原発 1 号機(松江市鹿島町片句)で実施中の廃炉作業について、中国電力が 8 日、計画に 4 年遅れが生じ、完了時期が 2049 年度になると、松江市に伝えた。 1 号機に貯蔵する使用済み核燃料の搬出にめどが立たないため。島根県にも説明する。 廃炉作業は 4 段階の工程に区分され、1 号機は現在、汚染状況の調査などをする第 1 段階。 第 2 段階終了時までに使用済み核燃料の搬出が必要となるが、搬出先の青森県六ケ所村の再処理工場が未完成のため、作業全体の工程を見直した。 中電は 08 年 9 月を最後に 1 号機の燃料搬出ができておらず、約 123 トン(722 体)が 1 号機の燃料プールで保管されている。
29 年度までとしていた第 2 段階の工程完了は 6 年遅れ、建物の解体撤去をする第 4 段階の完了は 2 年短縮し、計画全体では4年遅れとなる。 中電は廃炉工程をまとめた「廃止措置計画」の変更を原子力規制委員会に認可申請する予定。 それに先立ち、立地自治体の松江市と島根県に安全協定に基づく事前了解を申し入れた。 周辺自治体(出雲市、安来市、雲南市、鳥取県、米子市、境港市)にも報告し、意見を聞く。 (山陰中央新報 = 8-8-23)
次世代革新炉の開発促す、「常陽」活用で技術基盤強化
文部科学省は次世代革新炉の開発に向けた技術基盤の強化に乗り出す。 日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽(茨城県大洗町)」が運転再開の安全審査に合格したことを受け、技術基盤を整備する。 このほか、高温工学試験研究炉「HTTR (同)」に接続した水素製造の技術開発にも力を注ぐ。 文科省は 2024 年度予算の概算要求額を明らかにしていないが、これらを柱に、23 年度の原子力関連予算の総額約 1,470 億円より上乗せして要求する調整に入った。
政府は高速炉を次世代革新炉の一つに位置付けている。 常陽は 1977 年に初臨界を達成し、約 7 万 1,000 時間の運転実績がある国内唯一の高速実験炉。 再稼働に向けてまずは安全対策の工事費を要求する計画。 安全対策のための工事に時間を要することから、再稼働の時期が当初より遅れ、26 年度半ばとなったが、文科省は再稼働まで継続して予算を要求する方針だ。 隣接する高温工学試験研究炉「HTTR (同)」では、HTTR に接続した水素製造施設の新設計画にも力を入れる。 原子力を使ったカーボンフリーな水素の製造方法を構築するため、必要な技術開発など取り組んでおり、要求額が上乗せされる見通し。
また、廃炉が決定した高速増殖原型炉「もんじゅ(福井県敦賀市)」内に新設する試験研究炉については、現地のボーリング調査費用などを盛り込む計画。 国内に試験研究炉が作られるのは約 40 年ぶり。 大学が持つ試験研究炉は限定的で、文科省は試験研究炉の新設を通じて、イノベーションの創出と研究開発・人材育成の基盤の維持・強化に引き続き取り組む。 (NewSwitch = 8-24-23)
上関町長、中間貯蔵施設の調査受け入れ表明 中国電にも方針伝達
中国電力が山口県上関町に建設を計画する使用済み核燃料の中間貯蔵施設をめぐり、同町の西哲夫町長は 18 日、同町議会の臨時議会で、「中国電力からの調査の申し入れを受け入れる」と表明した。 中国電にも受け入れの方針を伝えた。 町議会は同日午前、中間貯蔵施設の建設に向けた調査の是非を協議する臨時議会を開いた。 開会前には調査に反対の住民らが集まり、到着した西町長の車を取り囲むなど混乱した。
西町長は議会の冒頭、「疲弊していく町の将来を思うとき、若い人がこの町で生活し、お子さんを育て、住民が安心して暮らせる環境をつくり、持続可能なふるさとを次世代につなげることが私の使命だ」として調査を受け入れる考えを示した。 その後、議員が意見を述べた上で町長が正式に受け入れを表明した。 町の試算などでは、調査の受け入れによって、最大で年 1.4 億円の交付金が国から入るとされる。 山口県知事が建設に同意すれば、その後の 2 年間は最大で年 9.8 億円に交付金は増額される。
上関町では約 40 年前、中国電による原発計画が浮上。 2009 年に準備工事が始まったが、11 年の東京電力福島第一原発事故が起きて以降、計画は中断している。 町は今年 2 月、「まちづくりにつながる振興策」を中国電に要望。 中国電は今月 2 日、中間貯蔵施設を建設する計画案を提示した。 中国電は、関西電力と共同開発する。 計画が実現すれば、東京電力と日本原子力発電の出資で施設ができた青森県むつ市に続き、全国で 2 カ所目となる。 (小川裕介、asahi = 8-18-23)
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中国電、中間貯蔵へ調査申し入れ 使用済み核燃料、上関町長に
中国電力の担当者が 2 日、山口県上関町役場を訪れ、西哲夫町長と面会し、原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設に向けたボーリング調査を実施したいと申し入れた。 中国電が 2 2日午後、記者会見して概要を説明する見通し。 中国電の申し入れ後、西町長が報道各社の取材に応じ「臨時議会を開いて私の意見を申し上げ、議員の皆さんにも諮りたい」とした上で「このまま何もせずに町が 10 年持つかといったらそれは難しい。 住民に負担を強いることになる。 危機感を持って取り組んでいきたい。」と述べた。
中国電が上関原発の建設を町で計画。 だが東京電力福島第 1 原発事故の発生などを受け、計画はほとんど進んでおらず、町側が代替の地域振興策を中国電側に要望していた。 午前 8 時 50 分ごろ、町役場に中国電の担当者が到着すると、数十人の反対派住民が立ちふさがってもみ合いに。 住民は「使用済核燃料おことわり」と書かれた白い横断幕を手に「核燃料を持ち込むな」、「勝手に決めるな」などと怒声を浴びせた。 上関原発は 1982 年に町が誘致を表明した。 (kyodo = 8-2-23)
長崎・対馬市議会、「核のごみ」最終処分場の調査「推進」請願を採択
原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場をめぐり、長崎県の対馬市議会特別委員会は 16 日、国の選定プロセスの第 1 段階「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択した。 市議会が比田勝尚喜市長に対し、国に応募するよう迫った形だ。 北海道 2 町村に続く応募自治体となるか、注目される。 特別委では、土建業などの 4 団体が 6 月に議会に提出した、文献調査の推進を求める請願について採決し、9 票対 7 票の賛成多数で採択した。 風評被害などを懸念する漁協などが出した、反対の請願は不採択となった。
最終処分場の選定プロセスは 3 段階あり、文献調査は過去の論文などから処分場の候補地にふさわしいかを調べる。 応募した自治体には、約 2 年間で最大 20 億円の交付金が国から入る。 対馬市は人口減が進み、基幹産業の漁業や土建業は衰退が続く。 このため、地元経済界などから、交付金がもらえる文献調査への応募を求める声が上がった。 これに対し、市民団体や漁協が反対の請願を 6 件出して対抗するなど、島を二分する事態に陥っていた。
今後の焦点は、比田勝市長の判断に移る。 文献調査は、市長が応募を決めなければ始まらないからだ。 市議会は 9 月 12 日に開会予定の定例会で、正式に推進の請願を採択する見通し。 市長は 16 日、「特別委での議論・採決を踏まえて、さらに熟慮する」とコメントするにとどまった。 早ければ 9 月議会で判断を示すとみられる。 市長はこれまで文献調査について慎重な姿勢を崩していない。 5 月の定例会見で「手をあげて『20 億円もらったからもうやめる』という考えはない」と述べていた。 一方で、6 月の市議会一般質問では「市議会での議論や市民の意見を参考にして判断する」と語った。
NUMO は歓迎
一方、今回の結果について、政府や処分場計画を進める原子力発電環境整備機構 (NUMO) は歓迎する。 岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出している。 5 月末に成立した改正原子力基本法では、国が「地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛け」をすると明記された。 経済産業省幹部は「(すでに文献調査を受け入れている)北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村に加えて、対馬でも一歩進んだのは大きい。 この動きが他の自治体にも広がってくれればいい。」と話す。
ただ、対馬市については世論が二分していることから、「まずは地域で丁寧に議論を深めていただくのが重要(西村康稔経産相)」との姿勢を保ってきた。 NUMO 関係者は、市議会特別委の結論を強調し、「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。 国家のエネルギー政策は重い。 『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか。」と話す。 (小川裕介、相原亮、asahi = 8-16-23)
九州電力、原発稼働増で最終黒字 714 億円 4 - 6 月
九州電力が 31 日発表した 2023 年 4 - 6 月期連結決算は、最終損益が 714 億円の黒字(前年同期は 348 億円の赤字)だった。 2 期ぶりの黒字だった。 約 3 割だった原子力発電所の稼働率が約 8 割に上昇し、火力発電の燃料費や購入電力料が減少したことなどから費用が減少。 燃料価格が数カ月後の料金に反映される燃料費調整の期ずれが差益に転じたことも寄与した。 燃料費調整の期ずれで電力の小売販売収入などが増加し、売上高は前年同期比約 14% 増の 4,965 億円となった。 営業損益は 1,002 億円の黒字(前年同期は 466 億円の赤字)だった。 通期の業績予想に変更はなかったが、池辺和弘社長は記者会見で「今のペースを維持しながら、さらに上積みしていきたい」と述べた。
原発の稼働率(設備利用率)は 49.5 ポイント上昇して 85.6% となり、前年同期より利益を 450 億円押し上げたと試算。 前年同期はテロ対策施設の完成が遅れ、玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の運転期間が短かった。 また、燃料費調整の期ずれの影響が前年同期の差損から差益に転じたことによって、利益を 680 億円押し上げたと試算した。 総販売電力量は 200 億キロワット時と、前年同期に比べ約 10% 減少した。 池辺社長は半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造 (TSMC) など半導体企業の九州進出が相次いでいることにも言及。 「中長期的にはもっと電力需要が大きくなって発電設備が足りるのかなという心配のほうが強い」と語った。 (nikkei = 7-31-23)
次世代型原子炉で東芝が革新軽水炉「iBR」
原子力発電について政府が掲げる次世代型原子炉を巡り、東芝が開発中の革新軽水炉のイメージを明らかにしました。 より一層の安全対策の技術が導入されるとしています。 革新軽水炉「iBR」は外壁を滑らかな鏡で覆ったような近未来的なデザインになっています。 内部には東日本大震災の際に福島第一原発で起きたような炉心溶融が起きた場合でも自動で冷却する仕組みを取り入れるとしています。 政府は次世代型原子炉に投資する方針で、東芝は 2030 年台の建設を目指すとしています。 (テレ朝 = 7-12-23)
輸入 MOX 燃料、1 体 12 億円と判明 ウランの 10 倍 関西電力
関西電力が昨年 11 月に高浜原発(福井県高浜町) 3 号基のプルサーマル発電に使うために、フランスから輸入したプルトニウム・ウラン混合酸化物 (MOX) 燃料 16 体の輸入価格が約 192 億 7,800 万円だったことが分かった。 財務省が公表した貿易統計などから割り出した。 1 体は約 12 億 400 万円で、ウラン燃料の価格の 10 倍近い価格だった。 MOX 燃料は原発の使用済み核燃料からプルトニウムを回収し、ウランと混ぜ合わせたもの。 これを使用して発電するのが、プルサーマル発電だ。 国内では、使用済み核燃料の再処理工場と MOX 燃料加工工場(いずれも青森県六ケ所村)が操業しておらず、日本の電力各社は海外での再処理と加工に頼っている。
関電は「契約に関わる事項」などとして MOX 燃料の価格を公表していないが、貿易統計で輸送費や保険料を含む総額が示されており、調べることができる。 ウラン燃料の価格と比較するため、同じく貿易統計で調べたところ、一昨年の 9 月、米国から高浜原発に輸入されたウラン燃料は、1 体約 1 億 2,425 万円。 ウラン燃料と比較すると、MOX 燃料は約 9.7 倍高いことになる。 価格の高い MOX 燃料の費用は、電気料金に反映されるが、関電は、発電コストに占める燃料費の割合は 1 割程度と説明。 加えて、MOX 燃料利用量が原子燃料利用量全体の 1 割程度であり、「MOX 燃料の利用による発電コストへの影響はわずかなもの」としている。
MOX 燃料を使うプルサーマル発電は現在、高浜 3、4 号機のほか、四国電力伊方 3 号機(愛媛県伊方町)、九州電力玄海 3 号機(佐賀県玄海町)の計 4 基で実施している。 関電は 6 月 12 日、高浜原発の使用済みのウラン燃料 190 トンと MOX 燃料 10 トンの計 200 トンについて、研究目的で 2020 年代後半にフランスに搬出する計画を発表した。 (佐藤常敬、asahi = 7-8-23)
関西電力が "ウルトラ C" 保管の限界近づく「使用済み核燃料」
… フランスへの一部搬出を表明 『福井県外へ搬出』の約束は果たされた? 遠い根本的解決
波紋が広がりそうな "約束達成宣言" です。 6 月 12 日、関西電力の森望社長は福井県の杉本達治知事と面談。 県内の 3 つの原発で現在保管され、福井県側が県外への搬出を求め続けていた「使用済み核燃料」について、その一部を、「核燃料サイクルの実証研究」で使用するためにフランスに搬出すると明らかにしました。 関電は「"県外搬出" の約束はこれで果たした」と主張しています。 "ウルトラ C" とも言える奇策は、裏を返せば、国内で使用済み核燃料を移管することの難しさを改めて露呈しました。 使用済み核燃料の保管問題は、希望の光が見え始めたどころか、暗闇へ突き進んでいるかのような様相を呈しています。
約 5 - 7 年で満杯になる使用済み燃料プール
使用済み核燃料とは、原子炉で使い終わった燃料のことで、放射性物質を含んでいます。 そのため簡単には処分できず、原発内の使用済み燃料プールに保管されています。 使用済み核燃料を再処理してウランやプルトニウムを取り出し、再び燃料を作り出すことを「核燃料サイクル」と呼びますが、日本ではまだ実用化に至っていません。 また、再処理した後に残る高レベル放射性廃棄物を地下深くの岩盤に埋める「最終処分地」も、日本国内ではまだ決まっていません。 行き場のない使用済み核燃料は、原発内のプールに "たまり続けている" のが現状です。
関西電力も例外ではありません。 福井県内に、高浜・大飯・美浜の 3 つの原発を抱えていますが、使用済み核燃料の貯蔵量の合計は、容量の 8 割をすでに超えています。 高浜原発では約 5 年、大飯原発では約 6 年、美浜原発では約 7 年で、プールが満杯になる見込みです。
先送りが続いていた「中間貯蔵施設」の候補地提示
こうした状況に地元の福井県はかねてから懸念を示し、使用済み核燃料の県外搬出を求め続けてきました。 関電も、使用済み核燃料をいわば "仮置き" する「中間貯蔵施設」を福井県外に設けることを約束。 しかし、放射性物質を含む使用済み核燃料を引き受けたいと手を挙げる自治体はやはり存在せず、関電は候補地の提示を先送りし続けてきました。
一時、東京電力と日本原子力発電が共同出資して青森県むつ市に整備している中間貯蔵施設に、関電の使用済み核燃料を搬出するプランも浮上しましたが、むつ市の猛反発を受け頓挫。 候補地選定は難航を極めます。 福井県の我慢も限界に近づく中、関電は 2021 年 2 月、「2023 年末までに候補地を提示できなければ、(40 年超原発の)美浜 3 号機や高浜 1、2 号機は運転させない」と、悲壮な決意を示しました。 今年の年末が最終期限だったわけです。
"フランスへの一部搬出は県外搬出" これで約束達成 …?
そうした中、6 月 12 日、関西電力の森望社長は福井県庁を訪れ、杉本達治知事と面談。 大手電力会社やフランスのオラノ社と共同で行う核燃料サイクルの実証研究に伴い、高浜原発で保管している使用済み核燃料の約 200 トンを、2020 年代後半にフランスに搬出すると明らかにしました。 確かにフランスは "福井県外" です。 森社長は「フランスへの搬出は中間貯蔵と同レベルの意義があり、県との約束はひとまず果たした」と主張しています。
しかし実情を見れば、約束達成と胸を張るのは、かなり無理があります。 今回、フランスへの搬出が決まった使用済み核燃料は、現在 3 つの原発で保管されている燃料のわずか 6% にすぎません。 2020 年代後半の搬出後もコンスタントにフランスに追加搬出することが決まっているわけでもないのです。 問題を "棚上げ"、"先送り" したとも言えます。 関電は「福井県との約束に搬出の "量" は含まれていない」とする姿勢ですが、県側が求めていたのは、あくまで "恒久的に使用済み核燃料を移管できる場所の確保" だったはずです。 さすがに予想外の一手だったのか、福井県の杉本知事も「十分精査した上で、県議会や立地自治体の意見も聴き、県として総合的に判断していきたい」と、態度をいったん保留しています。
運転期間が長期化 増え続けるばかりの使用済み核燃料
福島第一原発事故から 12 年。 いったんはすべて運転を停止した関電の原発も再稼働が進んみ、現在は 5 基が稼働中。 近く高浜 1 号機・2 号機も再稼働し、全 7 基が「フル稼働」する状況がまもなくやって来ます。 今年 5 月末には、原発の運転年数をめぐり大きな動きがありました。 これまでは "原則 40 年、1 回に限り 20 年延長可 = 最長 60 年" というルールでしたが、法改正によって、安全審査などで停止していた期間を運転年数から除外することが可能に。 いわゆる "60 年超運転" が可能になったのです。原発の運転期間の長期化は、不可避の流れになりつつあります。
関電も、美浜 3 号機と高浜 1、2 号機の 3 基ですでに 20 年の運転延長が認められていますが、法改正によって、この 3 基も "60 年超運転" の道が出てきました。 また関電は現在、2025 年に運転開始から 40 年を迎える高浜 3、4 号機についても、20 年の運転延長を国に申請しています。 稼働原発が増え、運転年数も延びれば、使用済み核燃料は当然増え続けます。 しかし、中間貯蔵施設を確保しない限り、原発内の使用済み燃料プールが "あふれてしまう" 未来が早晩やってきます。 この究極のジレンマを解消する策は、残念ながら見つかっていないのです。
「トイレなきマンション」に真剣に向き合う段階
今年 6 月、大手電力 7 社は電気料金(規制料金)の値上げに踏み切りましたが、関電は値上げを実施しませんでした。 原発の稼働状況が好調であることが、最大の要因です。 普段意識することはあまりありませんが、関西エリアは他のエリアと比べても、原発の恩恵を想像以上に享受しています。 その恩恵の裏で進む "非常事態" に、我々消費者も本気で直視しなければならない段階に来ています。 原発は「トイレなきマンション」と言われることがありますが、そのようなマンションでの豊かな生活が、永久に続くはずはないのですから …。 (松本陸、MBS = 6-18-23)
高浜原発 1、2 号機の再稼働時期は「未定」 火災感知器の設置に不備
関西電力は 1 日、福井県の高浜原発 1、2 号機の再稼働時期が「未定」と発表した。 「火災防護対策に係る対応のため」としている。 当初は 1 号機を 6 月 3 日、2 号機を 7 月 15 日から再稼働させる予定だったが、原子力規制委員会の指摘を受けて 5 月に「遅れる見通し」に変更していた。 高浜 1、2 号機をめぐっては、規制委が 3 月、火災防護対策が不十分だと指摘。 関電が追加工事を終え、5 月 15 日から規制委の使用前検査を受けたところ、火災感知機が工事計画と異なる 4 カ所に設置されていたことが新たにわかった。 関電が調べたところ、この 4 カ所を含めて約 90 カ所で、再び追加工事が必要になったという。 (吉田貴司、asahi = 6-1-23)
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