月 6 万円の過酷労働、病気で半身不随 日本恨んだ実習生

6 月 13 日、成田空港。 夢を抱いてこの国に来たはずの人が、また一人失意のまま母国へ去った。 ベトナム人の元技能実習生グエン・ドゥック・フーさん (34)。 脳梗塞で倒れ、半身不随になった。 3 年前に来日した。 実習先は建設現場で足場を組む仕事だった。 一日 14 時間働いて月給は約 6 万 4 千円。 「月給 14 万円」という来日前の説明とは異なった。

「来日のために抱えた借金 150 万円が返せない。」 3 カ月で逃げ出した。 その後は、岐阜で清掃、愛知で農業、滋賀で荷物の梱包などの仕事に就いた。 倒れた時は失踪中だったため、医療保険もなかった。 2 度の手術を受け、治療費は約 880 万円。友人らの寄付で 48 万円を払ったが、残金は払えなかった。 東京入管に出頭し、母国に送還された。

「僕を犯罪者のように扱うが、劣悪な環境で仕事をさせた日本が悪い。 言われていた給料をもらっていれば失踪しなかった。」 そう言って悔しがった。 技能実習生の最大の送り出し国であるベトナム。 日本で亡くなったベトナム人実習生や留学生を弔っている浄土宗の寺院「日新窟(にっしんくつ、東京都港区)」には、フーさんのように、実習先から逃げた実習生が病気やけがをしたという相談が相次ぐ。 失踪した人は、不法滞在で保険がないため、ふくれあがった医療費を払えない。 日新窟が最近 1 カ月に把握した 5 件の医療費を合計すると 4 千万円近くにのぼるという。

「夢と希望をもって日本に来たのに、絶望と病気を背負って帰国する。 失踪しないで済むよう、日本も努力するべきだ。」と、日新窟の僧侶吉水滋豊(じほう)さん (49) は言う。 実習生の多くは、自国の送り出し機関やブローカーに支払う手数料や日本語学習の費用など多額の借金を背負って来日する。 「借金を返せて、仕送りもできる」などの誘い文句にひかれ、若者たちは海を渡る。 だが日本では、多くの人が劣悪な労働環境と低賃金に直面する。

出国前の借金、「失踪」の原因に

7 月 3 日に帰国したベトナム人の元技能実習生グエン・スアン・ソンさん (27) は貧しい農家の出身だった。 「日本で働き、家族を楽にしたい」との思いから、実習生として 14 年に来日した。 出国前に約 100 万円の借金をした。 実習先は静岡県の水産加工場。 毎日アジを開いて干して月給は約 14 万円。 家族へ仕送りをしていると、借金が 50 万円残った。 「どうしても借金を返さなければ。」 ソンさんは、実習満期の 3 年を迎える前に一時帰国。 再入国した時に難民申請をした。 一部のベトナム人の間では、難民申請が「日本に合法的に滞在して働ける」手段として受け止められているという。 2 度の申請で計 10 カ月滞在が認められたが、3 回目は不許可になった。

働き続けるために失踪した。 民家の解体やパチンコ屋の掃除など職を転々とした。 いつ捕まるかおびえ、体調が悪くても病院に行かずに我慢した。 6 月 1 日、ひどい頭痛に襲われた。 市販の風邪薬を飲んだら体中に水疱ができて 40 度を超える熱が出た。 診断は「中毒性表皮壊死(えし)症」。 風邪薬の影響とされる。 1 カ月の入院費用は約 400 万円。 100 万円は友達らが集めたが残りは払えないままだ。 送還の際、車いすのソンさんは目がよく見えず、肌にはただれが残っていた。 「日本人はよくしてくれた。 借金しないで来ていれば、失踪しなくて済んだ。」

厚生労働省は昨年末、外国人患者受け入れの実態を調べた。 回答した 3,980 病院のうち、昨年 10 月の 1 カ月間で外国人を受け入れたのは約半数の 1,965 病院。 うち 372 病院が医療費を回収できなかった。 未収金の総額は、調査した 1 カ月の分だけで 9,391 万円という。 未収金総額の約 6 割が、実習生など日本で暮らす人のためで、旅行者のためが 4 割だった。 日新窟を拠点に活動するベトナム人僧侶ティック・タム・チーさん (41) は訴える。 「実習生が日本人と同じ権利をもって、健康に働けるようにしてほしい。」

技能実習生の実態をつかめているか

昨年末の国会で、政府・与党は「深刻な人手不足に対応する」として、新しい在留資格「特定技能」を設ける出入国管理法(入管法)改正を最重要法案として成立を急いだ。 対する野党は、法務省による失踪した技能実習生の聞き取り調査が「実態と合っていない」と主張。 資料の誤りや不備を厳しく指摘し、入管法改正の採決は時期尚早だと強く抵抗した。

国会で焦点となった技能実習生の実態について、法務省のプロジェクトチーム (PT) は 3 月末、調査結果を発表した。 12 - 17 年の 6 年間で 171 人の実習生が死亡。 ただ病死が 59 件で、ほとんどは過重労働や実習と関連ないとした。 また自殺 17 件のうち、1 件を除いて過重労働の事実は認められないとした。 外国人労働者に長年対応してきた港町診療所(横浜市)の山村淳平医師は、この調査についても「実習生の抱える問題を全くあぶり出せていない」と語る。

法務省の聞き取り対象は勤め先の会社や実習生を受け入れ、監督する監理団体だ。 山村医師は「彼らが、自分たちに都合の悪いことをいうわけがない」と指摘する。 客観的な第三者が正確な情報を集められる仕組みが必要だと提言する。 らに、不法滞在であっても医療が受けられる態勢づくりが必要だとも語る。 「私たちの社会は外国人労働者に支えられている。 オーバーステイ(超過滞在)の人も税金を払って働いているのに、医療などのサービスを受けられないのは問題だ。」

日本で暮らす外国人は今年 1 月 1 日時点で約 266 万 7 千人。 人口の 2% を初めて超えた。 技能実習生は昨年末の時点で約 32 万 8 千人だ。 さらに「特定技能」で、技能実習生からの移行を含めて今後 5 年間で最大約 34 万人の就労を見込む。 「この国のかたち」に関わるテーマにもかかわらず、参院選で、技能実習制度の問題や外国人住民との共生策はほとんど論点となっていない。 (平山亜理、asahi = 7-12-19)


今治・ベトナム人労働者問題で表面化した監理団体の無責任

1 人で数百人担当することも

今治タオルの不買運動にまで発展した NHK のドキュメンタリー番組「ノーナレ(6 月 24 日放送)」。 愛媛県の縫製工場で働くベトナム女性の技能実習生たちの悲鳴は、技能実習制度の機能不全を見せつけた。

番組では、早朝から午後 10 時過ぎまで働き、寝泊まりするのは二段ベッドが敷き詰められた窓のない部屋、という実習生たちの現実が描かれている。 洗濯する暇もなく、雨が続くと、濡れた服を着たまま作業をする。 それも、来日前は婦人服や子ども服の製造と聞かされていたが、実際の仕事はタオルの製造 - -。 劣悪な労働環境に言葉を失うと同時に、違和感を覚えた人も多かったのではないか。 なぜ国の制度によって日本で働いているにも関わらず、その労働環境が管理できないのか。 (彼女たちにとっては)外国の、それも、報道関係者に告発するまで事態が明らかにならないのか。

関東地方のある監理団体幹部はこう話す。 「実習生が技能実習計画通りに働いているか。 法律に反せず、実習実施企業は適正な賃金を支払っているか。 それらを監理し、実習生を保護するのが、監理団体の仕事です。 実習実施企業はもちろんですが、その監督責任のある監理団体、さらには、その監理団体の許認可権を持つ外国人技能実習機構の責任も問われるべきです。」

監理団体、外国人技能実習機構とは何なのか。 ここで、技能実習生の受け入れの仕組みを説明したい。 技能実習生の受け入れ方法には「企業単独型」と「団体監理型」があるが、95% 以上は団体監理型で、本稿では前者の説明を割愛する。 団体監理型では実習生を受け入れるのは企業ではなく、「監理団体」が受け入れる。 企業は実習生を直接採用できず、監理団体を通して求人票を出す。 企業は、監理団体が契約する海外の「送り出し機関」が募集した候補者と雇用契約を結ぶ流れになる。

監理団体には、傘下の企業の技能実習計画の作成を指導したり、送り出し機関とともに実習生の入国手続きなどをしたりする役割がある。 実習生が入国した後も 1 カ月に 1 回以上の頻度(技能実習 1 号期間)で企業を訪問し、実習計画が計画通り進められているかを確認したり、実習生の相談を受けたりしなければならない。 3 カ月に 1 度は実習先の定期監査を行い、実習計画が適正に遂行されているかどうか、後述する国の機関に報告しなければならない。

わかりやすく言えば、監理団体は技能実習の監督役だ。 監理団体は許可制で、商工会議所や中職業団体などの非営利団体に限られる。 その許認可権を持つのが外国人技能実習機構だ。 実習実施企業を監督する監理団体をさらに管理する立場にあり、監理団体の許認可の取り消しもできる。 「NHK の番組では監理団体や外国人技能実習機構への言及はなく、誤った認識を与えている。 実習を実施した企業にだけ批判が集まったが、その劣悪な労働環境を見過ごした監理団体、その許認可を持つ外国人技能実習生機構にこそ問題があるのではないか。」

確かに NHK の番組は不自然だ。 取材班は技能実習生から SOS を受ければ、その監理団体や外国人技能実習生機構に伝えることもできただろう。 批判するなら技能実習生の受け入れ体制全体に言及すべきだ。 責任が問われるのは実習先の企業だけではない。 こうした疑問を NHK に問うと、ファックスで回答があった。

「番組は、外国人技能実習生の置かれた状況について、関係機関も含め取材を重ねながら制作しました。 関係機関とのやりとりは、取材・制作の過程に関わるため、お答えしていません。(NHK 広報担当者)」

監理団体に頼らず、自衛に動く実習生もいる。 「監理団体は守ってくれません。」 AGA SUPPORT (エー・ジー・エー・サポート/ハノイ市)代表の元尾将之さん (37) は、日本で働くことが決まったベトナム人技能実習生を対象としたセミナーで、そう説明している。 同社の主力商品「KAKEKOMIDERA」は日本で働く技能実習生から母国語で仕事に関する相談を受け、弁護士などの専門家が母国語で対応するサービスだ。 セミナー参加者の大半が関心を持つという。

そもそも労働相談は監理団体が受けるべきだが、元尾さんはこう話す。 「監理団体にとって実習実施企業はお客様です。 監理団体は非営利団体で、収入は基本、企業からもらう技能実習生 1 人当たり月額 3 - 5 万円の監理費だけです。 すべての監理団体に当てはまる訳ではありませんが、仮に実習生が働く劣悪な環境に気づいても、お客を失う怖さから企業の側に立つケースが往々にあります。 そもそも監理団体の職員は一人で数百人の実習生を監理するケースもあり、十分な対応をする余裕はありません。」

AGA SUPPORT のサービス費用は、1 人月額 9 ドル。2019 年 5 月に販売したばかりだが、すでに約 700 人が登録しているという。 その大半が実習生を募集、渡航前の日本語教育を実施する送り出し機関を通じた登録だ。 「ベトナム人技能実習生はニュースや SNS を通じて、なかには劣悪な環境で働かされるケースがあることを知っている」と元尾さんは話す。 約 8 割がサービスへの参加を希望するという。

ただ、サービスを積極的に受け入れる送り出し機関はまだまだ少数だ。 元尾さんは話す。 「大半の送り出し機関は関心を持ちますが、サービスを受け入れることで監理団体から排除されることを恐れ、セミナーなどの実施もできません。 まだまだ『送り出し機関は一つじゃない』と採用を見返りとしたキックバックを求める監理団体は多く、送り出し機関と監理団体には歴然とした力の差があるんです。」

キックバックだけではない。 一定数の実習生を採用した場合、送り出し機関の駐在員を日本に置かせて監理団体に変わって実習生を監理させたり、失踪者が出た場合はそのペナルティを送り出し機関に支払わせたり、求人票を片手に監理団体が偉ぶるさまは枚挙に暇がない。 元尾さんのサービスが成り立つこと自体、技能実習生を受け入れる監理団体が機能していないことの証だ。 月額 9 ドルとは言え、実習生にとっては余計な負担だ。

NHK 報道では受け入れた企業のみ非難が集まったが、実習生を企業に送った監理団体、さらにはその監理団体の許可権限を持つ外国人技能実習機構の責任も問われるはずだ。 報道されたベトナム人技能実習生が働いた職場やその監理団体について外国人技能実習機構に問題をどう考えているのかを尋ねると、

「個別の事案には答えられません。」

Business Insider Japan の取材に対し、そう回答があった。 (澤田晃宏、BusinessInsider = 7-8-19)


外国人を不当にこき使う繊維・衣服産業の疲弊

6 月 20 日、福井県永平寺町の繊維工場で火災が発生し、4 人の遺体が見つかった。 そのうちの 1 人はベトナムから来た 21 歳の女性だったと福井県警察が後ほど発表した。 彼女は技能実習生で、この工場では 18 人の外国人技能実習生が働いていた。 6 月 24 日、NHK が放送したドキュメンタリー番組「ノーナレ」において、縫製工場で働くベトナム人技能実習生たちの過酷な労働現場が放映された。 直接的な表現は控えられていたが、愛媛県の今治タオルにかかわる企業と推測されるような番組構成になっており、その後、SNS では臆測を交えた無関係な工場への批判、不買運動など反響が広がっている。

技能実習制度の建前と現実

今年 4 月から改正出入国管理法(入管法)が施行。 新たな在留資格「特定技能」が創設され、日本は外国人労働者の受け入れ拡大に大きく舵を切った。 ただ、これまでも外国人労働者の受け入れについては、以前から実質的に進められてきた。 人手不足に悩む現場を日本人に代わって埋めてきたのが、外国人の「技能実習生」や「留学生」だ。

このうち技能実習制度は、国際貢献のため途上国の外国人を日本で最長 5 年間受け入れ、技能を移転するものとして 1993 年に始まった。 厚生労働省によると、2018 年 10 月時点で外国人労働者数は約 146 万人で、技能実習生はそのうちの約 32 万 8,000 人。 その 1 年前から比べると 2 割近くの急増で、6 年連続で増えている。

ところが「実習」という制度名称の建前とは裏腹に、技能実習生たちは単に安価な労働力としてこき使われ、人権侵害が横行する実態がある。 賃金不払いや違法な長時間労働、パワハラ・セクハラの横行、劣悪な労働・生活環境を起因とした事故・トラブルなどが絶えない。 転職の自由もなく、過酷な現場から逃げ出す実習生たちが「失踪者」として増加を続けている。 2017 年 11 月に実習生の保護強化などを目的とした新技能実習制度が施行されたが、その後も状況が改善したとは言えない。 法務省によると、新技能実習制度開始から 1 年後の時点でも 9,052 人の実習生が失踪している。 ただ、こうした流れを是正しようという動きも一部で出てきている。

不正の見えにくい、繊維産業の多重構造

渋谷 109 にも店舗を構える「セシルマクビー」や「アンクルージュ」など、レディース向けブランド服の企画・販売を手がけるジャパンイマジネーションは 5 月 31 日、「外国人技能実習生と国内生産に関わる問題への取り組み」を発表した。 アパレルメーカー(1 次サプライヤー)に対し、2 次サプライヤーである工場における、外国人技能実習生の長時間労働や賃金未払いなどの法令違反に対する「生産・取引の中止」を明言。 加えて、「外国人技能実習生の実態調査」や、「社員による工場訪問」などについても報告した。

ジャパンイマジネーションがこのような取り組みを始めたきっかけは、2017 年 12 月にテレビ東京で放送された「ガイアの夜明け」だった。 番組内で取り上げられた外国人技能実習生の劣悪な労働現場が、ジャパンイマジネーションの下請け工場だった。

ジャパンイマジネーションはその後ほどなく、直接の取引先であるアパレルメーカーに向け、法令遵守を呼びかけた。 同時に実態調査を行い、9 社 15 工場で少なくとも外国人技能実習生 90 人を雇っていることを把握した。 それらの工場へジャパンイマジネーション社員の直接訪問を依頼。 はじめは拒む取引先も多かったというが交渉を重ね、2019 年 6 月 26 日時点までに 11 工場を訪問。 残る 4 工場への訪問に向け、現在も交渉を続けている。

「工場と直接の取引はないとはいえ、商品を販売する立場としても、まったく責任がないわけではないと思うようになった。」 東洋経済の取材に対し、ジャパンイマジネーションの木村達央社長はこう説明した。 同社は今回の件を受け初めて、生産工場の実態を把握したのだという。 しかし、悩ましいのはジャパンイマジネーションが工場で働いている実習生について直接、働きかけられる立場にはないことだ。 それに加えて、ジャパンイマジネーション 1 社がどんなに努力しても、それは業界におけるごく一部でしかない。

繊維産業で最も事態が深刻な理由

実は技能実習制度における不正行為は、繊維や衣服関連の産業に目立つ傾向がある。 経産省が昨年設置した繊維産業技能実習事業協議会によると、2017 年に実習生に対し長時間労働や賃金不払いなどの不正行為のあった 183 機関のうち、「繊維・衣服関係」は 94 機関と過半を占めている。 この背景には過剰供給と単価下落が同時に進む、過酷な市場環境が挙げられる。 日本では 1990 年代以降、ファストファッションの流れに対応し、安く大量に生産できるラインが次々と海外に移行。 衣服の国内生産率は現在 3% 程度にまで減少した。

経済産業省の報告によると 1990 年では約 15 兆円だった国内の衣料品市場規模は、2010 年には約 10 兆円に縮小。 その一方で同時期の国内供給量(国内生産と輸入の合算)は、約 20 億点から約 40 億点へ倍増し、国内での供給単価は 20 年間で 3 分の 1 にまで下がった。 さらに総務省の家計調査によれば、20 年間で各家計の衣料品購入単価は 6 割弱までにしか下がっておらず、市場に供給されたものの消費されない衣料品が相当量あると推測される。

このような状況下、限られた国内工場は海外よりも短い納期での高品質な製品生産や、めまぐるしく変わる市場のトレンドへの柔軟な対応が求められるようになった。 その結果事業所の小規模化が進み、経産省によると 2016 年時点で国内縫製事業所のうち、従業員数 29 人以下の事業所が 9 割以上を占めている。 この小規模化の中で、過酷な市場環境への対応のためにコストを極限にまで削りたい事業所側の思惑と実習制度の構造が組み合わさり、技能実習生を劣悪な労働環境に追い込み、人権侵害が横行しやすい環境が生まれてしまっている。

声を上げても解決するとは限らない

小規模企業がゆえ、実習生を巡る問題が表面化した企業は、正規の給料を払う能力がなく、倒産に至るケースが少なくない。 その場合、未払いの賃金などは未解決になってしまうのだが、中には国の「未払賃金立替払制度」をアテに恣意的に倒産する、いわゆる「計画倒産」によって責任逃れをするケースもあるという。 この制度では半年分、8 割の賃金しか補償されない。

ジャパンイマジネーションの取引先であった岐阜の工場は、破産を口実に未払い賃金の支払いを拒否した。 6 月 19 日現在、働いていた実習生たちに対する未払い賃金計約 5,400 万円(実習 3 年目の 6 人に対し約 600 万円ずつ、2 年目の 6 人に対し約 300 万円ずつ)が未払いのまま、実習生たちは帰国してしまったという。 これについて外国人労働者救済支援センター所長の甄凱(けんかい)氏によると、同社社長がその後、同じような業務内容の会社を設立していることを登記簿で確認しているという。

このことは、実習生自身による相談が必ずしも解決には向かわないという救われない現状を示している。 外国人労働者問題に詳しい指宿昭一弁護士は、サプライヤーが破産を口実に賃金を支払わない場合に備え、「業界全体で未払い賃金を補填する基金を早急に設立すべきだ」と話す。 過剰供給と単価の下落が進む繊維・衣服産業の中で、しわ寄せがきているのは生産工場で働く労働者たち。 その中で日本の繊維・衣服工場は、できる限り短期間で、できる限り安く、高品質な製品を作ることが求められている。 この構造が実習生に対する不当、不法な労使関係を生んでおり、解決の糸口は見えてこない。 (東洋経済 = 7-3-19)


「現代のタコ部屋」民家に 10 人以上が … 不法就労の背景

技能実習生や留学生、観光名目などで来日した外国人が、失踪したり不法就労したりする例が後を絶ちません。 なぜ行方をくらまし、どんな仕事や生活をしているのか。 北海道で起きた事件から、実態と背景を探りました。 また、英語、ベトナム語、中国語でもアンケートをしたところ、多くの声が寄せられました。

「いい仕事がある」

北海道・函館地裁で 1 月 25 日、知内町のメガソーラー発電所建設現場で働くなどし、出入国管理及び難民認定法違反(不法残留など)に問われた被告、中国籍の楊華(ヤンファ)さん (37) に対する初公判がありました。 楊さんは昨年 10 月、成田空港から短期ビザで入国。 「定住者」、「就業制限なし」などと記された偽造在留カードを所持し、不法に就労していたとされます。

被告人質問などによると、山東省出身の楊さんは小学校中退後、農場で働いていました。 知人から「いい仕事がある」とすすめられ、妻子のために「出稼ぎ」に来たそうです。 ブローカーには 3 万元(約 50 万円)を払いました。 月収の 10 倍にあたる額は、親戚から借りました。 偽造在留カードは渡航後、「仕事のためのカード」と言われ、渡されたそうです。 楊さんは英語も、日本語も読めません。

北海道に来て 2 カ月後の 11 月下旬、楊さんと一緒に働いていた作業員 1 人が病死し、病院で偽造在留カードの所持が発覚。 楊被告らは宿舎を一斉に逃げだし、翌日未明、11 人が木古内駅などで逮捕されました。 2 カ月分の給与は未払いで、楊さんは「給料をもらったら、帰国するつもりだった」と訴えました。

検察側は「入出国管理行政を害する悪質な行為」と指摘し、懲役 2 年を求刑。 弁護人が「被告は詐欺の被害者」と情状を求めると、楊さんは目を潤ませ、鼻を赤くして天井をみつめました。 日野進司裁判官から発言を求められると、「お願いがあります。 刑を軽くしてください。」と声をつまらせました。 今月 15 日、楊さんら 3 人に執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。

楊さんらは木古内町の民家に住んでいました。 近くの女性 (76) によると、中国人らは昨年 8 月ごろから住み始め、黒いワゴン車が朝晩 10 人ぐらいを送迎していました。 「言葉は通じないけど、会えば会釈したり、野菜をお裾分けしてくれたりした。」 逮捕された中国人が出て行った後、家の中には 10 人以上の布団が敷かれ、キャリーバッグや鍋のご飯はそのままだったそうです。

建設工事の元請けは「東芝プラントシステム(横浜市)」で、作業員は下請け業者(千葉県)が雇用。 作業員の出身地や入国経路はばらばらで、中には観光クルーズ船で長崎港から入国した者もいました。 道警は失踪した中国人の行方を追うとともに、業者が不法就労に関与していなかったか調べています。 どこかで、逮捕前の楊被告のような生活を迫られている人がいるかもしれません。 東芝プラントシステムは「捜査がどうなっているか分からないので、コメントは差し控えたい」としています。

北海道ではこの半年前、倶知安(くっちゃん)町でも不法就労のベトナム人 14 人が見つかりました。 3 人が元留学生、11 人が元技能実習生で、横浜市の人材派遣会社が SNS を通じて東京や大阪、愛知などから集め、別の派遣会社が「ヒルトンニセコビレッジ」に清掃員として派遣していました。 発覚の端緒は、スーパーで起きた万引き事件を捜査中の警察官が、近くの住宅街の民家に大勢のベトナム人が住んでいるのを発見したことでした。 家主は女性 4 人が住むと聞いていたそうです。

記者が閲覧した公判記録からは、実習生や留学生だった彼らが経済的に困窮し、次第に失踪に追い詰められていく様子がうかがえます。 ホアン・ヴァン・トウェンさん (24) は大学卒業後、父親のすすめで、2016 年 2 月に来日し、大阪市内の機械組み立て会社で実習生として働き始めました。 渡航費 150 万円は父親が銀行から借りました。 しかし毎日 10 - 12 時間働いても、家賃などが差し引かれ給料は月 5 万 - 8 万円。 1 カ月で 8 キロやせた時もあったそうです。

SNS に「つらい」と書き込むと、別の実習生が北海道の仕事を紹介してくれ、17 年 10 月からホテルで働き始めました。 給料は歩合制で、一部屋あたり水回りの掃除 370 円、ベッドメイク 230 円。 家賃や食費などを差し引いて月 13 万 - 15 万円ほどになりましたが、「借金を返すために働いていた。 捕まれば帰国できる。」と思っていたそうです。

元留学生のチャン・スアン・チュオンさん (23) は 15 年 3 月に入国し、都内の日本語学校に通っていました。 初年度の授業料 70 万円は借金しました。 しかし、日本での生活費は想像以上にかかり、弁当屋や宅配便のバイトをしても、2 年目の学費が払えず、学校に行けなくなってしまいました。 借金を返すためには、不法就労をするしかなかったそうです。

この事件では、トウェンさんらにそれぞれ執行猶予付きの有罪判決、人材派遣会社の代表には入管難民法違反(不法就労助長)の罪で懲役 1 年 6 カ月、執行猶予 3 年、罰金 200 万円の判決が出ています。 ヒルトンニセコビレッジの広報担当は「ホテルの直接雇用ではなく、業務提携先の派遣会社に委託していた。直接的にコメントする立場にはない」と話しています。

全国で摘発された不法就労は 5 年前の 14 年の 6,702 件から 17 年は 9,134 件、18 年上半期で 4,889 件と増え続けています。 政府は外国人労働者の総合的対応策の関連予算として、新年度予算の不法滞在者対策には、日本語教育の充実の約 20 倍にあたる 157 億円を盛り込んでいます。 ベトナム人がみつかった民家の近くに住む町議の作井繁樹さん (50) は「彼らはむしろ犠牲者。 新しい制度になれば、こんな『現代のタコ部屋』は無くなるのでしょうか」と疑問を投げかけます。 (吉田美智子、平賀拓史)

受け入れ態勢 強力に規制を 外国人労働者の問題に詳しい 指宿昭一弁護士

日本の外国人労働者受け入れの最大の問題は、「フロントドア」からでなく、留学生や技能実習生のような「サイドドア」「バックドア」から受け入れていたところです。 改正入管法は、それを適正化したことは評価できますが、内容はあまりにも不十分です。

まず、受け入れ枠の上限はなく、人権上の問題も多い技能実習生を廃止せずに、実習生が新しい在留資格に移行することを想定しています。 中間団体や雇用主による中間搾取や、送り出し国のブローカー対策も不十分です。 いまのままでは、外国人が多額の借金を背負って来日する状況は変わりません。 「国際貢献」が有名無実化している実習生は、大幅縮小するか、廃止するべきです。

本来なら、国が送り出し国と二国間協定を結んで、ハローワークのようなものを現地につくるのが理想ですが、それができないなら、強力な規制が求められます。 実習生の場合、監理団体の管理費が低賃金の要因となっている面があります。 外国人の来日に必要な経費は実費のみとし、登録支援機関への委託料には上限を設け、金額の開示を義務づけて透明性を確保しなければなりません。 また、受け入れ企業が労働法規を順守しているか、健康保険に加入しているか、外国人の住環境は整っているかなどを点数化して、ブラック企業を閉め出す仕組みも必要でしょう。

一方、外国人がブローカーにだまされないよう、日本は送り出し国と連携して、ブローカーを徹底して排除し、日本で働ける条件や在留資格について正確な情報を提供し、いつでも相談可能な窓口を設けるべきです。 万一、外国人がだまされて入管法違反に陥った場合でも、自ら入管に申告すれば、救済する制度も検討に値します。 (聞き手・吉田美智子、asahi = 2-17-19)

希望つぶさないで

アンケート「あなたは、日本に来てよかったですか?」の英語、ベトナム語、中国語版に寄せられた声の一部を紹介します。 ( )内は回答者の国籍、来日時の資格、在留年数。

● 「私は日本では介護福祉士として働き、いろんな経験をしています。 でも、日本に来たい人がいても、非常に条件が厳しいです。」 (インドネシア、EPA による介護職、10 年以内)

● 「現在の生活に満足していますが、モスクや礼拝所、スーパーのハラル食品などがもっと必要です。」(インドネシア、配偶者、10 年以上)

● 「仕事は楽しいし、日本人の同僚とも対話ができています。 時間はかかりましたが、受け入れてもらったし、私と仕事をすることを楽しんでくれています。 唯一、不快なのは、時折、日本人のスタッフから外国人のお客さんへの差別があることです。 同僚としての私には決してないですが、外国人のお客さんにはあります。 『あの人は、外国人だから、何も理解していない。 簡単なサービスをしておけばいい。 完全なサービス(おもてなし)をする必要は無い。 日本人のお客さんに集中した方がいい』など。」(インドネシア、留学生、1年以内)

● 「日本は好きですが、日本人は嫌いです。 たくさんの日本人に会いました。 友達になった人もいれば、嫌いな人もいます。 悪い日本人は外国人を嫌っています。 日本にいる間、日本人は私たちフィリピン人に、おまえたちを必要としていないから、国に帰れと言っていました。 直接、ののしる人もいました。 悪い日本人は彼らが間違っていることを認めることをいやがります。 職場では、悪い日本人は彼らの失敗を外国人に押しつけようとします。 というのも、ただ単に、私たちが自己防衛できないからです。」

「逆に、親切で礼儀正しい日本人とのたくさんの良い思い出もあります。 私は、外国人に対して、非常に誠実で、気を配ってくれる日本人が好きです。 私が難しい漢字を読めない時にはいつも、良い日本人が教えてくれました。 私の監理団体は、バイクや自動車を買うことを禁止していたので、日本人の友人が乗せてくれました。 また、私は日本人の恋人がいました。 私たちは幸せな時を過ごしました。 外国人を支援するのであれば、少なくとも、外国人の労働条件を 3 カ月に一度は調査する人を置くべきです。 ストレスを感じているか、環境はどうか、生活はどうなのか。 こういった質問が個人的になされなければなりません。」

「言葉や重労働によって虐待されている時に、言うことができます。 最後に、日本は非常に規律正しい国だと思います。 もし、日本人が外国人により心を開きさえすれば、人生は仕事だけではなく、仕事で成果をあげながらも、幸せを見つけられると気づくでしょう。 異なる文化を受け入れて、外国人をより歓迎する国になるためには、そうしさえすればいいのです。 Doumo Arigatou Gozaimasu。」(フィリピン、技能実習生、1 年以内)

● 「来日前は、日本で働きながら技術を学べることを夢に見ていました。 いつもテレビやラジオで、日本はとても豊かでマナーが良く文明的な国だと聞いていました。 実際の仕事や生活環境の悪さにとてもショックを受けています。 毎日、朝 7 時半から夜 10 時まで働き、やっと帰宅したと思ったら、すぐにごはんを作って、翌日の食事の準備もしています。 1 年で 3 日しか休みがなく、ほとんど毎日仕事をしています。 最悪なのは、私が日本人や他の外国人と話すことを社長が禁止していることです。 寝室は狭く、雨漏りしています。 浴室にはドアがなくとても寒いです。 こんな最悪な環境にいて、日本に来たことをとても後悔しています。」(ベトナム、技能実習生、1 年以内)

● 「私は今、レストランやホテルのサービス業に関連する仕事についています。 ある程度のハラスメントは仕方なく受け止めますが、高学歴の上司や人事採用担当者でさえハラスメント行為があります。 ベトナムでは有名な大学を卒業し、仕事では悪くない評価がありました。 現実にはとても失望させられました。 日本より貧しい国から来たかもしれませんが、私たちなりに努力してきました。 日本に来てたくさんの苦労に耐えながら将来のために仕事をしていることが、その証明です。 どうか私たちを下に見ないでください。 私たちの日本に対する希望や愛情をつぶさないでください。」(ベトナム、専門職、1 年以内)

● 「日本に来るために払わなければならない費用を、もっと具体的に決めてほしいです。 そして、違反すれば処罰されるような制度を設けてほしいです。 大多数の人は、1 年は働かないとその費用を返すことはできません。 もしこのような問題が解決できれば、ベトナム人が日本で起こす事件は著しく減っていくでしょう。」(ベトナム、専門職、1 年以内)

● 「日本に来るためにかかる費用(学費、面接、手続きなど)はとても高いです。 それだけ負担しても、ほとんどが最低賃金並みの低い給与基準で、とても困難できつい仕事にしかつけず、しかも、日本人の雇い主によって強制的に働かされるだけです。 技術者の資格で日本に来た人が後で転職したり、実習生の資格で来た人が逃げたりすることが多いのは、そのようなことが原因だと思います。」(ベトナム、専門職、1 年以内)

● 「会社と組合は職業分野をだましました。 契約では『溶接』になっていますが、実際にはごみの分別をさせられています。」(ベトナム人、技能実習生、1 年以内)

● 「不公平なことがあります。 例えば、日本人の友人と道を歩いていると、警察が呼び止め、在留許可証を確認します。 友人が身分証明書の提示を求められたことはありません。 警官は私のものを確認しただけで、立ち去ります。 アパートを見つけるのも非常に難しいです。 場所によっては、外国人には(賃貸を)許可していません。」

「ほかにも、市役所で公的な文書をとる時にもあります。 日本人の職員は私が彼らの求める外国の公的な書類と情報を提供しないと、非常に失礼な態度をとります。 私は提供しません。 なぜなら、外国にはそういった書類はないからです。 外国では同様の公的な書類を取得できません。 (外国人には)より支援の必要があるし、日本の政府機関の職員にはもっと外国の制度や書類に関する教育が必要だと感じています。」(その他、専門職、5 年以内)

● 「子どものための学校のような社会福祉サービスや施設の向上。 地域住民と新住民に知りあう機会を与え、違うコミュニティーの架け橋を築く文化交流のイベントのために、自治体と協働することです。」(インドネシア、観光、5 年以内)