日本で学び働く 増える外国人、共生していくためには?

日本で学んだり働いたりする外国人が増えています。 日本に住む外国人は 260 万人を超え、働く外国人は 146 万人。 さらに外国人労働者を増やそうと、改正出入国管理法が 4 月に施行され、今後 5 年間に最大約 35 万人が来日します。 私たちの仕事や生活にどんな影響があるのか。 共生するにはどんな施策が必要なのか。 日本に住む外国の人たちの声を聞き、みなさんと考えます。

外国人材奪い合い懸念

東京から車で約 2 時間の茨城県鉾田市(人口 4 万 7 千人)。 「農業王国」の同県内でも葉物や果物の栽培で知られ、農業産出額は 780 億円と全国の市町村で 2 位を誇ります。 1 月中旬、同市の農家、深作秀喜さん (59) のグリーンハウスでは、中国やベトナムから来た技能実習生が小松菜を収穫していました。 午後は近くの工場に移り、袋詰めの作業をします。 深作さんは市内 5 カ所に計 5 ヘクタールの農地を持ち、実習生 11 人が働いています。 労働時間は午前 8 時から午後 5 時までで、休みは週 1 回。 月収は手取りで 14 万円程度になるそうです。

中国北部吉林省出身の程永強さん (30) は妻と一人娘を国に残し、3 年前から働き始めました。 来日するため業者などに 80 万円を払いましたが、中国でも農業をしていた程さんは「収入は中国の倍以上。 勉強にもなるし、できるだけここにいたい。」といいます。 厚生労働省の外国人雇用状況の届け出状況によると、茨城県内の実習生数は全国 5 位の 1 万 3 千人で、農業・林業分野が最多。 鉾田市には約 2 千人がいるとされます。 三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの分析では、同県の農業分野で働く 20 - 30 代の 3 人に 1 人が外国人です。

深作さんの農場の売り上げは年間 1 億 8 千万円にのぼり、息子 2 人もそれぞれ農業法人を運営していますが、「求人を出しても若い人が集まらない。 外国人抜きに日本の農業は成り立たない。」 県農業経営課は「国も、自治体も、農地の集積と農家の大規模化を進めてきた。 そこで、実習生が必要とされている。」と分析します。 「国産」を外国人労働者が支えている現実があります。

入管法の改正で 4 月に始まる新在留資格「特定技能 1 号」では、農業分野は今後 5 年間に最大 3 万 6,500 人の受け入れが見込まれています。 深作さんが理事長を務める監理団体にも元実習生から問い合わせがあるそうです。 鉾田市の農家では、過去に実習生への残業代未払いや不法就労などの問題が起きました。 売り上げの多い時はボーナスを出すなど実習生の待遇に配慮し、ディズニーランドにも連れて行く深作さんは、全国の農家で人材の奪い合いが始まるのではと感じています。 「外国人は SNS で情報交換をする。 彼らを人として大切にしない農家はすぐに淘汰される。」

外国人材は最低賃金の高い都市部に集中するとの見方もあり、改正入管法施行に向けて県も動き始めました。 県雇用促進対策室は昨年 12 月以降、東京都内の監理団体を訪問し、県が外国人材と県内の農家や中小企業の「橋渡し役」を果たせないか模索しています。 長内秀樹室長は「都道府県レベルの外国人材の獲得競争が始まっている。 県が受け入れに積極的だという印象をアピールし、いい人材に来てほしい。」と期待します。

一方で、同県では実習生の失踪や不法就労も増えています。 法務省入国管理局の統計によると、2017 年に茨城県内で認知された不法就労者は 2,213 人で、15 年から 3 年連続で全国最多です。 彼らはどこで、どんな生活を送っているのか。 知人から「北海道で 50 人以上の不法就労の中国人がみつかった」と聞き、北へ取材に向かいました。 (吉田美智子)

野菜加工の現場にも

外国人実習生の手を借りて作った茨城県産の野菜の加工にも、外国人実習生が関わっています。 約 50 人を雇う県内の食品加工会社長は「若くて一生懸命。 日本人に負けないぐらい働く素晴らしい戦力で、貴重な仲間です。」と話します。 この会社はスーパーに並ぶ袋入りサラダやパック詰めの刻みネギ、鍋用の野菜セットなどを製造。 材料の半分近くは県内産で、鉾田市からは大根などを仕入れています。 買った人が包丁を使わずすぐ使えるこうした「カット野菜」は近年、需要が増えたそうです。

高齢者など、単身や少人数の家庭が増えたためのようで、この会社も過去 10 年で売り上げが倍増。 作業員も 1.5 倍の約 700 人に増やしましたが、「人手不足で、田舎の中小企業には、地元で新たに正社員やパートを雇うのが難しい状況。 それが実習生を雇う背景です。」と社長は言います。 県内では中国人やベトナム人の実習生が同国人に誘われて失踪するケースもあり、受け入れはあまり実習生が来ていない国にしました。 東南アジアですが「悪い誘いを防ぐため、どの国からの実習生かは言えない。」

この会社では、気持ちよい職場作りのため毎月、ケーキを買って、実習生らの誕生パーティーを開催。 成人式も日本人社員の新成人と一緒に祝います。 働き始めて 3 年目の 20 代女性は「ドラえもんなどを見て、日本は子どもの頃からあこがれでした。 職場は楽しいし、町は安全で、満足しています。」と笑顔を見せました。 取材の帰路、東京都内でコンビニに寄ると、この会社の袋入りサラダを見つけました。 レジを担当するのは外国人でした。 (長野剛)

日本が発展するチャンス 日本国際交流センター 毛受敏浩執行理事

日本の総人口は現在の 1 億 2 千万人から、2065 年には 8,808 万人、2100 年には半分以下の 5,971 万人に激減する見通しです。 外国人材の労働力と AI (人工知能)などの科学技術を総動員してはじめて、超高齢社会を維持できるレベルと言えるでしょう。 日本は 19 年、外国人労働者の受け入れにかじを切りました。 改正入管法では、就労目的の新たな在留資格を創設し、5 年間で 34 万 5 千人の受け入れを見込んでいます。 単なる人手不足対策に留まらない歴史的な転換点となり得る点で、今年は「移民元年」と後世、認識されるでしょう。

日本人の雇用が奪われるという懸念もありますが、ドイツのように、労働市場を勘案して職種ごとの受け入れ人数を決めて外国人に就労許可を与えるようにすれば、解消できます。 韓国では企業が外国人の受け入れ前に一定期間、韓国人を募集する「労働市場テスト」を義務づけています。

大切なのは、優秀な人材に日本に定着してもらうために、介護や外食、建設など 14 業種で受け入れる「特定技能 1 号」から永住も視野に入れた 2 号への移行の道筋を明確に示すことです。 外国人と共生するための「在留外国人基本法」も必要でしょう。 彼らは使い捨てできる安価な労働力ではなく、地域社会の文化や風習を継承し、日本の将来をともに担う仲間と位置づける必要があります。

長らく一人っ子政策をとってきた中国をはじめ、アジア全体で人材獲得競争が始まります。 社会の一員として受け入れる覚悟と姿勢がなければ、日本は外国人にとって魅力的な国ではなくなってしまいます。 外国人の潜在力を発揮できる環境をつくることで、日本の閉塞感を打破するエネルギーも生まれます。 日本は遣唐使の時代から、異文化を積極的に取り入れ、文化や技術のイノベーション(革新)を引き起こしてきました。 今回も外国人の受け入れによって日本が大きく発展するチャンスになるでしょう。 (聞き手・吉田美智子、asahi = 2-10-19)

生活大変 なんか悲しい

朝日新聞デジタルのアンケート「あなたは、日本に来てよかったですか?」に寄せられた声の一部を紹介します。

● 「いまは大学生だが、大学学部に在籍するほとんどの留学生が経験したことのある日本語学校は本当にめちゃくちゃです。 憧れと夢を持って日本に来た語学学校生にはどんな生活が彼らを待っているでしょうか。 あまりにも不合理な値段と契約で提供されるいわゆる寮、進学準備の不協力さ、授業の残念さ。 日本に来る前にはきれいな言葉ばかり並べるが、来たら現実は全然違う、と思ったことのある人は少なくありません。 結局来年度の学費に迫られ、バイトしか考える暇がなく、入試対策どころか、語学勉強の時間もありません。 強制送還して、学生の本分は勉強という入管、自分は罪がないでしょうね。」 (東京都・20 代男性 中国)

● 「初めまして! 私は実習生として日本に参りました。 来月、帰国する予定です。 私にとって、日本に来られて、良かったです。 3 年間に日本で過ごしたことを全て忘れません(^ ^) 色々な言葉を言いたいですが、"日本のことが好きですし、ありがとうございます" と一つの言いたい言葉です。」(山口県・20 代女性 ベトナム)

● 「10 年以上日本に住んでいます。 日本の大きな企業では正社員研究者です。 日本の国籍を取得し、日本人妻また、子供がいます。 家族年収は 1,000 万以上あります。 それでも、やっぱりチャンスあれば外国に移動考えることがあります。 ところで、私はだけじゃなくて、知り合いの外国人研究者はだいたいみんなに移動の計画、また移動の考えがあります。 最近友達は、カナダ及びドイツに移動しました。 2 人が幸せそうです。 なぜみんな移動考えることがあるのか、やっぱり幸せじゃない、日本の生活はストレスが高い、安定じゃない、将来の保証がない、隠れている差別。 日本がもっと素晴らしい国になって欲しい。みんな頑張りましょう。」(愛知県・30 代男性 そのほか)

● 「日本の文化が好きだけど、生活は大変だと思います …… 日本では、遊ぶためにはいいと思いますが、住むためにはあまり良くないと思います。 今は、介護でバイトしています。 自分の仕事は、せきにんはとてもおもい。 みんなじゃないですが、お年寄りはきびしいです …… いつもたたかれたり、わるぐちをはなしたりしています。 もう我慢できません。」(岐阜県・20 代女性 インドネシア)

● 「日本に来ましたよかった ...かなww 私は三世、おじいちゃん日本人です。 ずっと一人暮らし。 友だちもいないし、なんか悲しいです。 すごくたいへんな仕事をやりました、イジメをもらいました、不安おおい、自殺のこと毎日考える。 まだちゃんと勉強をしたい、いい仕事といい給料欲しい、友だち欲しい。 でも、まだ私の日本語はうまくないから、それぜんぶ難しいかも。 毎日はつまらない、寂しい。 あきらめるかな、たまに考えます。」(神奈川県・30 代その他 アルゼンチン)

● 「日本に住んでもうすぐ 20 年です。 @ 日本で生まれた子どもたちはベトナム語が話せません。 外国人の親の子どもだからといって自然にバイリンガルになるのではありません。 母語やその他の外国語が小学校から選択授業になったらいいのにと思います。 外国語ができる人が増えたら、これから日本に来る人たちとコミュニケーションもしやすくなります。 A 技能実習生はみんな苦労しています。 実質最低賃金以下なのに、ひどい労災になったという人もいます。 会社が責任を取ってくれないケースもあります。 日本人の労働者にも、同じことができますか? 受け入れるなら、いいとこ取りしないで、ちゃんと面倒見てあげてほしいです。」(大阪府・30 代男性 ベトナム)

● 「日本はなかなか休みを取れにくい、外国人はたまに国へ帰りたい、1 - 2 週間くらい でもなかなかできない」(千葉県・30 代男性 インドネシア)

● 「満足していません。 エンジニアのビザで滞在していますが、月給はたった 15 万円で、日本のエンジニアより安いです。 さらには永住資格がないにもかかわらず、高い年金を天引きされています。 週 2 の休みはありますが、その他の休暇はありません。(* 原文は英語)」(埼玉県・30 代男性 フィリピン)

● 「私は日本の女子大生です。 バイト先で働いてるネパール人と仲よくて、ツイッターのアカウントを持ってないと言ってたので、アンケートに答えてもらいました! 彼は日本語もうまく、同じ留学生のネパール人にも頼りにされています。 仕事量も日本人よりも多くこなします。

でも、働く場所は洗い場がほとんどです。 私のバイト先は洗い場は外国人がやるという習慣がついています。 飲み会などで話すと彼らも差別を感じているようです。 日本が外国人労働者を受け入れるならこういった彼らの意識が大きい社会問題に発展しないように制度を詰めることが大切だと感じています。」(東京都・20 代男性 ネパール)

●「日本で生活していくために働かなければならない私にとっては、学業とバイトを両立するのは大変でした。 私立大学に通った以上、年間百何万円学費はもちろん、ほかに食料など加えればさらに苦しんでいます。 それ以外に時々世間の差別やヘイトもコンビニ作業員として受け止め、逆に謝らざるを得ないときもあります。 もちろん、1 人で日本にやってきて、学生同士やバイト先の同僚と出会っても、しょせん『一期一会』なので、いまだに帰属感を持ちにくいです。 正直に言えば、日本で生きていくだけでも毎日ひやひや大変で、心身ともに疲れてしまいました。」(京都府・20 代男性 中国)


海外人材を増やすなら技能実習は廃止せよ

類似制度を入れた韓国は廃止済み

福島大学経済経営学教授 佐野孝治

改正出入国管理法が成立し、来年 4 月から外国人労働者の受け入れが拡大する。 だが制度の全体像はまだ明らかになっていない。 本当に大丈夫なのか。 先行する韓国では、日本の「技能実習制度」を模倣した制度が行き詰まり、「雇用許可制」に切り替えている。 韓国の労働事情に詳しい福島大学・佐野孝治教授は「日本も技能実習制度を廃止すべきだ」と提言する - -。

改正出入国管理法が 12 月 8 日に参院本会議で可決し、成立した。 来年 4 月から、「特定技能 1 号」と「特定技能 2 号」の在留資格を新設するとともに、出入国在留管理庁を設ける内容である。 筆者は、技能実習生や留学生に単純労働を依存している現状に比べれば、新たな在留資格を設け、労働者として受け入れるという方向性に、基本的に賛成である。

しかし、審議時間が少なく、受け入れ人数や基準など制度の全体像が明らかになっていない。 また、受け入れ態勢、社会保障、技能実習生の実態など解決すべき課題も、省令に委ねられ、先送りされている。 そこで本稿では、韓国の「雇用許可制」を研究してきた立場から、出入国管理法の 2 年後の見直しに向けて、持続可能な外国人労働者受け入れ制度を構築するため、いくつかの提言を行いたい。

提言が目指すのは、日本人と職を奪い合うことがなく、外国人労働者の労働者としての権利が保護され、日本人と共生するための支援制度が整い、多文化共生を基本に置いた持続可能な外国人労働者受け入れ制度である。

政府が雇用許可書を発給する韓国の「雇用許可制」とは

まず簡単に韓国の「雇用許可制」について説明しておこう。 韓国では、当初は外国人労働者を受け入れる際に、日本をモデルとして、「研修就業制度(研修生・実習生制度)」を採用していたが、2004 年に雇用許可制へ転換した。 そして、2007 年には、研修就業制度を廃止した。 さらに在韓外国人処遇基本法(2007 年)や多文化家族支援法(2008 年)などを相次いで制定し、統合政策を進めている。 その後、外国人労働者は増加し、2017 年末には 83.4 万人に達し、就業者数の 3.1% を占めている(日本は、128 万人で、2%)。

韓国の雇用許可制とは、「国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可書を受給し、合法的に外国人労働者を雇用できる制度」である。 2018 年 9 月末現在、一般雇用許可制(非専門就業ビザ)は 27 万 8,690 人と特例雇用許可制(訪問就業ビザ)は 24 万 3,905 人である。

日本の参考になる一般雇用許可制は、ベトナム、フィリピンなど 16 カ国政府との間で二国間協定を締結し、毎年、外国人労働者の受け入れ人数枠(クォータ)を決めて実施する制度であり、中小製造業、農畜産業、漁業、建設業、サービス業の 5 業種が対象である。

(1) 労働市場補完性(自国民優先雇用)の原則、(2) 短期ローテーション(定住化防止)の原則、(3) 均等待遇(差別禁止)の原則、(4) 外国人労働者受け入れプロセスの透明化の原則の下で、制度設計がなされ、運営が行われている。 施行後 14 年間で、韓国の経済・社会に対してプラス面だけではなく、マイナス面での影響も表れてきており、この知見を日本に活かすことができると考える。

提言 1 業種ごとの受け入れ人数枠を設定せよ

韓国では、労働市場補完性(自国民優先雇用)の原則に基づき、国務調整室長を委員長とする各省庁次官クラスによる外国人力政策委員会が、毎年、労働市場需給調査、景気動向、不法滞在者数などを考慮し、国別、産業別に受け入れ人数枠を策定する。 また労働市場テスト(求人努力)を行い、国内で労働者を雇用できない企業に対して許可を与えている。 その際、改善点数配分方式により、新規外国人労働者の配分をしている。 また、事業場移動が原則 3 回に制限されている。

その結果、一般雇用許可制により、失業率の上昇は起きておらず、またいわゆる 3K 業種の製造業中心に就労しているため、韓国人労働者との競合は少なく、補完的役割を果たしているといえる。 ただし、韓国系外国人を中心とする特例雇用許可制では、サービス業や建設業での就業が認められ、事業所変更も自由であるため、競合している面がある。 「韓国人の外国人に対する世論調査(女性家族部[2015])」を見ると、2011 年から 2015 年にかけて、「仕事を奪う」が 30.2% から、34.6% に上昇しており、外国人労働者を見る目が厳しくなりつつある。

他方、日本の新制度では、人手不足の分野とはいえ、介護、建設など 14 業種で最大 34 万 5,150 人と規模も大きい上に、業種ごとの受け入れ上限設定も決められていない。 さらに、同一分野内で転職が可能になるため、日本人労働者との競合や労働条件の悪化の懸念がある。

この課題を解決するために、まず、来年 4 月までに、各省庁の幹部クラスから構成される外国人労働者委員会を設置し、業界の労働市場などの基準に基づいて、毎年の業種別、国家別のクォータを決める枠組みを作るべきである。 また労働市場テスト(求人努力)を義務づける必要がある。 さらに、見直しの際には、韓国型の改善点数配分方式(法令違反がなく成長可能な業種と企業に優先的に労働者の受け入れを認める制度)や、台湾型の就業安定費(外国人雇用税を企業から徴収し、安易な外国人労働者の受け入れを抑制するとともに、自国民の職業訓練の費用に充てる制度)を導入すべきである。

提言 2 名ばかりの技能実習制度は段階的に縮小・廃止せよ

国会での議論の成果としては、技能実習制度の問題点が明らかになったことである。 2016 年の技能実習法成立により、「外国人技能実習機構」が設立されるなど一定の改善がなされているとはいえ、7 割にあたる事業場で労働基準関連法令違反が起きている。 米国国務省『人身取引年次報告書』でも、2007 年から 11 年間にわたって、「人身取引」と批判の対象となっている。 少なくとも「国際貢献」という建前は世界から信じられていない。

新制度は、この技能実習制度を土台として、それに接ぎ木した制度設計になっている点は問題であり、技能実習制度を段階的に縮小・廃止し、新制度へ一元化するためのロードマップを策定すべきだと考える。 韓国でも 2004 年に雇用許可制を導入して、3 年後に「研修就業制度」を廃止・一元化しており、日本でできないことはない。 他方、「国際貢献」目的の技能実習は、人数を大幅に縮小し、JICA (国際協力機構)が担当すればよい。

提言 3 受け入れ企業への罰則・監視を強化せよ

外国人労働者は、使い捨ての労働力ではなく、人間である。 韓国では、外国人も労働三権、最低賃金、各種保険の適用を受ける。 また法令を順守させるため、全国の雇用支援センターに加え、外国人勤労者支援センターなどを設置している。 加えて民間支援団体は 300 団体以上あり、多言語での相談活動、シェルター提供などの支援を行っている。

しかし、韓国でも賃金格差、差別、事業場移動の制限などはなくなっていない。 特に、農畜産業では勤労基準法の適用が除外されるため、劣悪な労働条件・人権侵害にさらされやすく、国内外から厳しい批判を受けている。

他方、日本では、技能実習生で法令違反が続いている。 新制度では、同一分野内で転職の自由があるので一定程度改善が見込めるが、人権侵害が続出することは目に見えている。 それを防ぐためには、罰則規定の強化と専門的スタッフの増員による実効ある監視体制が不可欠である。

新制度では出入国管理庁による立ち入り検査により、改善命令に従わなければ 6 カ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金を科すことになっており、改善がみられる。 しかし、企業数に比べ、多言語を話せるスタッフの数が少なすぎて、実効性に懸念が残る。 また日本語教育、生活支援、社会保障などについては、国、地方自治体、NPO などによる総合的な支援システムの構築と財政措置が必要である。

提言 4 短期ローテーション制を機能させるのは難しいと認識せよ

韓国では、滞在期間の長期化、不法労働者化、結婚や家族の呼び寄せなどに伴う社会的コストの増加を抑制するため、雇用期間を限定し、自発的帰還プログラムを実施するとともに、退職金を出国時に受け取れる出国満期保険や帰国費用保険によって、帰国のインセンティブを持たしている。

しかし、滞在期間については、企業の要望、不法労働者化の抑制といった観点から、次第に長期化している。 また不法滞在者は、2018 年 9 月現在 34.5 万人と、外国人の 14.8% を占め、増加傾向にある。 特に非専門就業でも、2017 年には 9,455 人失踪している。 このように短期ローテーション制を機能させるのは非常に難しい。

今回の日本の新制度は、技能実習制からの移行組が約 5 割と見込まれている。 これは技能実習 3 年(+2 年)をさらに「特定技能 1 号」で 5 年間延長する制度とみることができる。 韓国や台湾と同様、5 年後の期間満了の時期になれば、企業の要望や失踪者の抑制のために、特定技能 1 号を延長すべきという議論が出てくるはずである。

他方、「特定技能 2 号」については、建設、造船の 2 業種を対象とし高難度の技能試験に合格する必要があり、家族帯同や在留期限更新が可能だということぐらいしかわかっていないが、ハードルが高く、移行者は多くないだろう。 韓国でも、熟練技能人材点数が高い順に、特定活動、居住に変更できる制度を導入しているが、年間 400 人程度で、まさに「蜘蛛の糸」である。

提言 5 民間ブローカーを排除、政府主導の受け入れ態勢をつくれ

韓国では、研修就業制度の時代、民間事業者・ブローカーにより、不正が横行したことの反省から、送出国との間で二国間協定 (MOU) を締結し、雇用労働部が主管して、韓国語教育から帰国までの全プロセスを運営している。 これにより、プロセスが透明化し不正の減少につながっている。

また労働者の求職コストは、日本の 1 割から 2 割程度であり、ブローカーに借金をする必要がないだけでなく、事業主の求人・管理コストの削減にもつながっている。 このことが評価され、2011 年に「国連公共行政大賞」の受賞につながった。 また 2017 年には、世界銀行から、「優れた情報アクセス」と高く評価されている。

他方、日本の新制度では、悪質なブローカーや高額な保証金を排除するとしているが、実効性には疑問が残る。 短期的には、民業圧迫や公的機関の非効率性などに対する懸念から公的システムの導入は難しいと思われるが、長期的には、出入国在留管理庁から厚生労働省の主管に移し、透明性が高く、低コストの政府主導型の受け入れシステムとして「グローバル・ハローワーク」を構築すべきである。

現在、アジアにおいて経済成長と少子高齢化が進むなかで、外国人労働者争奪戦時代が起きている。 上から目線の「外国人労働者を受け入れてやる」という姿勢では、韓国や台湾の後塵を拝すことは目に見えている。 今後、日本が少子高齢化の中で、経済成長を持続させるとともに、日本人と外国人が共生できる社会を作っていくためには、多文化共生を基本に置いた持続可能な外国人労働者受け入れ政策への転換を進め、そのためのロードマップを策定していくことが求められる。 (President = 12-30-18)

佐野孝治 (さの・こうじ)、 福島大学経済経営学教授。 1963 年生まれ、慶應義塾大学大学院博士課程・単位取得退学、専門は開発経済学、アジア経済論。 著作に、「韓国の外国人労働者受け入れ政策(高橋信弘編『グローバル化の光と影』、晃洋書房, 2018 年)」、「アジアにおける国際移民 (朱永浩編『アジア共同体構想と地域協力の展開』文眞堂, 2018 年)」などがある。


外国人の定住施策に抗議殺到 市長「生き残りに必要だ」

雨が降り続いていた。 広島駅から車で 1 時間強の山あいにある広島県安芸高田市。 7 月 6 日の夕方、日系ブラジル人 2 世のニシモリ・ヨシカズさん (70) と妻のエリアネさん (59) は途方に暮れた。 「平成最悪の水害」となる西日本豪雨の影響で、市内全域に避難勧告が出ていた。 職場から車で 15 分の自宅へ向かったが、道路が冠水して進めなくなった。

日系ブラジル人の市非常勤職員に、その日 3 度目の電話をかけた。 「助けて。」 他に頼る相手はいなかった。 駆けつけた別の職員の誘導で、避難所になった文化センターへ向かった。 でも、入り口の前までいったのに、中に入ることができなかった。 エリアネさんがポルトガル語で理由を話す。 「外国語で会話やお祈りをしたら、日本人に迷惑をかけてしまうと思った。」 ふたりはコンビニの駐車場に止めたワゴン車内で、手をつなぎ、眠れぬ夜を明かした。

ニシモリさんは 1990 (平成 2)年に来日した。 「戦後日本の外国人政策の転換点」と言われ、日系人に初めて就労制限のない在留資格が認められた年だ。 昨年 2 月には念願の一軒家を建てた。 同じ地区には他に 20 世帯が暮らすが、常会(町内会)には加入していない。 「案内が来ない」と夫妻は言う。 災害時の連絡網からも漏れていた。

昨年会長だった佐々木美加子さん (55) は「断られたと思っていた。」 サークルのようなものがあると伝えたが、日本語が不自由な夫妻はけげんな顔をした。 それで勘違いしたという。 「差別するつもりも偏見もない。 けど、ふだんの生活でもどう接したらいいのか、遠慮する部分があった。」 ニシモリさんの名前も、知らなかった。

夫妻が 25 年間働く食肉加工会社「サイコー物産」専務の片岡耕一郎さん (49) も、ふたりの孤立を把握していなかった。 1964 年創業の同社では現在、作業員約 50 人の半数が外国人。 主に県内のスーパーや料理店に卸している。 「従業員は高齢化し、若者は来てくれない」と片岡さんはいう。 20 年前には日系人が 1 割程度だったが、08 年に技能実習生を受け入れ始めた。

同じ年に就任した浜田一義市長 (75) は、外国人の積極的な受け入れが必要だと訴え続けてきた。 「このままでは日本は滅びる。 外国人に頼る以外に道があるなら教えてほしい。」 その安芸高田市で今年 3 月、ある騒動が起きた。 「今後 5 年間で現住外国人の半数に定住してもらう。」 広島県安芸高田市がそんな数値目標を立てていると NHK が 3 月に全国に伝えると、市役所には、150 件の電話が殺到した。

「日本人への税金の投入が先だ」、「生活保護受給者が増える」、「治安が悪くなる」。 反発がほとんどで、賛同は 5 件足らずだった。 役所前では街宣活動も行われた。 数値目標は結局、消された。 「覚悟はしていたが、偏見は根強いと痛感した」と浜田一義市長 (75) は唇をかむ。 2008 (平成 20)年の市長就任時から、「外国人の協力がまちづくりに欠かせない」と訴えてきた。 人口減が著しいからだ。

NHK の報道の後、浜田市長の自宅にも、抗議する電話がかかってきた。 「将来あなたを介護する人はいなくなるんですよ。」 そう説明すると、相手は納得してくれたという。 浜田市長が外国人の移住・定住を積極的に進めようとしているのは、「外国人が好きとか嫌いとかではない。 生き残りに必要だ。」との思いがあるためだ。

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平成の大合併で生まれた安芸高田市では、1990 年に 3 万 6 千人いた人口が 2 万 9 千人になった。 いま高齢化率は 39%。 45 年には 46% に達する見込みだ。 逆に外国人は増えている。 90 年には 175 人だったが、現在は 619 人。 人口比では 2% 強で、全国平均を少し上回る。 製造業と農業が主な産業。 93 年に政府が導入し拡大を続けてきた期限付きの「技能実習」制度を使って住むベトナムや中国からの外国人が半数以上を占める。

市は、技能実習生の滞在期間を延ばすための特区を作れないか政府に相談したこともあるという。 街における外国人の存在感は確実に増している。 朝は自転車に乗った技能実習生たちが自動車大手マツダの関連工場に吸い込まれていく。 夕方には「激安」と評判のスーパーに、制服姿の実習生が続々と集まってくる。 市内ではもはやおなじみの光景だ。

浜田市長は「遅かれ早かれ他の自治体も同じように、外国人に来て住んでほしいと言い出すはずだ。 安芸高田でも市民の理解は進んでおり、手応えを感じている。」と話す。 昨年度の市によるアンケートで、外国籍の人が市内に住むことについて尋ねると、「よいと思う」が 48% となり、7 年前に比べて 18 ポイント上がった。

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平成の間に在留外国人は 2.6 倍、外国人労働者は 13 倍以上に膨れあがり、外国人のいる日常はいまや、あたり前になった。 外国人が住むことを許容する雰囲気が増す一方、具体的な数値目標は反発を受けて撤回した安芸高田市。 その複雑にねじれた民意は、経済や社会の状況に応じて大きく揺れ動いてきた日本人の対外国人観と重なり合う。 バブル経済による好況で人手不足が深刻だった 89 年の朝日新聞の世論調査では「単純労働の外国人」の受け入れについて、過半数が支持していた。

2000 年にはそれが 6 割超まで上昇。 不景気が長引き、失業者は 300 万人を超えていたが、阪神・淡路大震災で助け合いの精神が広がったことなどが影響したと、外国人政策に詳しい近藤敦・名城大教授は指摘する。 98 年には、民主党などが永住外国人の地方参政権を認める法案を初めて国会に出すまでになっていた。

だが、10 年には状況が一変する。 移民の受け入れの是非を尋ねると、賛成は 4 分の 1 程度。 リーマン・ショックで外国人が大量に失業して日本を離れ、歓迎ムードはしぼんでいた。 15 5年には逆にぶれ、賛成が過半数まで戻る。 東日本大震災の復興特需や東京五輪の開催決定による人手不足、人口減少の深刻化が要因だと、近藤教授はみる。

時々の状況に左右される世論は、外国人に事実上「労働力」だけを期待し続けてきた政府の方針と両輪になり、新たな問題も生み出している。 その一つが「見えない子どもたち」の存在だと、NPO 法人「多文化共生センター東京」代表の枦木(はぜき)典子さん (66) はいう。 政府の統計をみると、国内には、学校に通っていない外国籍の 6 - 17 歳の子どもが最大で約 7 万人いる。 どこで何をしているのか、実態は知られていない。

8 月中旬、東京都荒川区にあるセンターでは、高校進学を目指す中国や米国出身の 11 人の子どもが日本語を学んでいた。 多くは 10 代後半だが、机の上には、小学 6 年用の国語ドリルが置かれていた。 「日本語はできないけど高校に行きたい」などの相談が昨年度 243 件寄せられ、10 年で 3 倍になった。 枦木さんは「この子どもたちは生涯日本に住む可能性が高い。 公的資金を投入し、教育の機会を与えるべきだ。」という。

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いま日本では、外国人受け入れ拡大の検討が進む。 外国人はいつか帰ってしまうと、私自身もぼんやりと根拠もなく思っていた。 ただ、避難所に入れなかったニシモリ夫妻は、すでに地域で暮らしを営んでいた。 「働けるうちはここで働く。 ブラジルに帰るつもりはない。」と言った。 その後、町内会には誘われただろうか。 (藤原学思、asahi = 9-4-18)