日本、外国人労働者からも見放され未曾有の人手不足か … 中国農民、日本に大量流入 深刻な人手不足解消のため、外国人技能実習制度と EPA (経済連携協定)の制度拡充と積極的活用に期待が高まっている。 技能実習制度とは、外国人技能実習生が最長 3 年間、企業との雇用関係の下で技能の修得をするもので、厚生労働省は同制度の目的を「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」としている。 さらに日本政府は現在、EPA に基づき、ベトナム、フィリピン、インドネシアから介護福祉士志望者を受け入れており、資格を持つ外国人に在留資格を認める方針を示している。 また、今開かれている国会で改正されたこともあって、技能実習生は職種によっては最長で 5 年の滞在も可能となった。 では、これらの制度は国内の人材不足解消に有効なのであろうか。 また、現状でどのような問題があるのであろうか。 12 月 4 日付当サイト記事『看護師資格取得に 1 人 5 千万円 … 外国人人材も病院も不幸にする制度の重大な欠陥』に引き続き、外国人労働者の実態に詳しい、丹野清人・首都大学教授に話を聞いた。 (小野貴史、ビジネスジャーナル= 12-6-16)
止まらぬ不法滞在者が観光客向けガイドや民泊ビジネスに
外国人技能実習生の失踪が過去最多を記録したことが法務省への取材で判明した。 特に目立つのは中国人の失踪。 日本での中国人の経済活動が活発化したことで、不法滞在者の職探しが容易になったことが失踪者増を下支えしているとみられる。 関係者は「失踪者の受け皿が多様化しており、中国人同士が『横の連携』を取って仕事を見つけている」と危機感を募らせる。 "仕事" の多様化 「かつて、不法滞在者は知り合いが経営する中華料理店やスナック、日雇いの工事現場など選べる仕事の選択肢が限られていた。」 中国人実業家は数年前の状況を振り返る。 しかし、平成 27 年 4 月に外国人の新規事業立ち上げを促進するために新設された「経営管理ビザ」を利用するなどして、日本で起業する中国人が増加。 中国人観光客向けガイドや、民泊ビジネスを始めるケースが相次いでいるという。 「人件費を浮かせるため、不法滞在の中国人を雇い入れる業者は多い。(中国人実業家)」 失踪した中国人実習生の中には、中国人ユーザーが多いメッセージアプリ「微信」などを使って職を求める者もいる。 同アプリを利用する中国人商店主は「元研修生を名乗るユーザーが『仕事を探している』とよく投稿している」と語る。 こうした状況を受け、在日中国人社会の中で、不法滞在者のためのセーフティーネットも構築されつつある。 現在、顔写真貼付の必要がない国民健康保険証の貸し借りが横行。 中国人実業家は「特別永住者の資格を持つ知人の料理店主は、不法滞在者に保険証を貸し出すのを商売にしている」と証言した。 地方出身者多く 日中関係に詳しい関係者によると、技能実習生として来日する中国人は、東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)などの地方出身者が目立つ。 中国では、地方出身者が上海や北京などの大都市に拠点を移すために「都市戸籍」が必要になる。 地方出身者の持つ戸籍は「農村戸籍」と呼ばれ、都市戸籍を取得するためのハードルは高い。 中国国内で戸籍制度改革は始まりつつあるが、「不法滞在でも日本で働いた方が稼げる」として、技能実習制度を利用して来日する者が後を絶たないという。 日本の業者も連携 一方、実習生を「低賃金で雇える労働力」とみなして過重な労働を強いる日本の企業・団体が、失踪を助長しているとの指摘もある。 技能実習制度に絡む関連法案の改正案が今国会で成立する見通しで、受け入れ企業の監督態勢が強化される。 就労実態を検査する機関も創設される予定だ。 しかし、受け入れ側の監視を強めても失踪者減に直結するかは不透明だ。 別の中国人実業家は「中国には『上に政策あれば下に対策あり』という格言がある。 法の網をすり抜けようとする人はいるだろう」とした上で、「日本の業者と連携して実習生を集めるブローカーもいる。 戸籍問題など中国側の問題が続く限り、劇的な改善は望めない。」と話している。 (安里洋輔、訪日ビジネスアイ = 11-4-16) 低賃金に逃げ出す技能実習生、「強制労働」と米報告書 - 爆買い無縁 日本で 3 年働いてお金をため、中国でマイホームを建てる。 2013 年に来日した際、唐夕利 (トウ・ユウリ)さん (35) はそんな希望を抱いていた。 しかし今は労働組合のシェルターに身を寄せる。 派遣された会社の待遇に耐えかねて逃げて来たのだ。 日本に来る中国人は爆買いする観光客ばかりではない。 唐さんは中国東部の儀征市出身。 シェルターのある岐阜県羽島市でインタビューに応じた。 実習生になろうと 3 万元(約 52 万円)以上を中国の送り出し機関に払った。 3 年後には 500 万円程度を貯金して帰国できるという触れ込みだった。 現在 9 歳になる娘を残して単身で来日し、タカラ繊維(香川県小豆郡)で約 30 人の中国人実習生と共に働き始めた。 唐さんの説明によると、仕事は午前 7 時から午後 8 時半すぎまで昼休みを挟み 13 時間半、時給は 9 時間が香川県が定める最低賃金程度の 700 円で、残業と土曜勤務は 400 円だった。 寮では 1 部屋を 5 人でシェアすることもあり、ボタン付けや糸くず取りの内職もした。 こちらは時給ではなく単価の出来高払い。 作業は午前 2 時ぐらいまで続くこともあったという。 家賃や光熱費、福利厚生費、インターネット料金が天引きされ、直近の手取りは月 14 万円程度、儀征市時代に比べ給料は 2 倍になったが仕事量も 2 倍になったと唐さん。 携帯電話を持つことは禁止され、一時帰国の際は預金通帳を会社に預けさせられたという。 唐さんは「日本に来たことを本当に後悔しているし、友人にも勧めない。 苦しんでほしくないから。」と語った。 唐さんによると、未払い賃金は 350 万円程度あるという。 タカラ繊維の真砂吉弘常務は、唐さんの労働条件に関してはコメントを控えるとした上で、経営に外国人労働者は不可欠だと話す。 日本人は募集しても集まらず、政府と企業には「考え方にねじれがある」と指摘。 外国人を単純労働者として受け入れる制度を政府は作るべきだと主張する。 実習生は賃金を得たくて日本側は人手不足を埋めたいという「利害関係だけが一致している」と話す。 外国人技能実習制度は 1993 年に創設された。 法務省によると、2012 年末から 15 年 6 月末までに約 20% 増え、18 万人以上が利用する。 厚生労働省によると、農業、漁業、建設、食品製造、繊維などの分野の 72 職種で受け入れ、ソーセージや段ボール箱製造など単純労働もある。 制度の本来の目的は術普及を通じて国際貢献を図ることにあるが、政府や関係者への取材で見えてきたのは、実際には外国人を安価な労働力として使う抜け道となっている事実だ。 単純労働者 厚労省は 14 年に実習実施機関に 3,918 件の監督指導を行った。 うち 76% で労働基準法違反が認められたと企業名を明かさず発表。 違反には最低賃金の半分近い時給約 310 円での就労や、月 120 時間の残業(労働基準法では原則最長月 45 時間)、安全措置が講じられていない機械などがあった。 法務省入国管理局は 14 年中に 241 の受け入れ団体と企業に対して最大で 5 年間の受け入れ停止命令を出した。 米国務省は 15 年の人身売買報告書で、実習制度の中で労働者が強制労働の状態を経験しているとし、借金による束縛、パスポートの押収、拘束といった実質的証拠があるにもかかわらず、日本政府は強制労働の被害者を把握していないと指摘した。 同報告書によると、実習生の中には最高で 1 万ドル(約 113 万円)を支払って職を得て、辞めようとすると数千ドル相当が没収される契約で働く者もいるという。 過剰な手数料や保証金、「罰則」の規定も報告されていると指摘した。 国連薬物犯罪事務所によると、人身売買とは搾取を目的に強制的あるいは詐欺などの不正な手段によって人の身柄を獲得すること。 また強制労働の被害者は借金によって束縛された移住者も含まれると国連は定めている。 技能実習制度はほとんどの場合、日本の受け入れ団体と海外の送り出し団体が中間に入って日本で働きたい人を企業とマッチングしている。 法務省によると、15 年 1 月時点で国内受け入れ団体の数は 1,924 で、企業は 3 万 1,320。 3 年から 5 年へ 批判の高まりを受けて政府は制度改正に乗り出している。 国会に提出中の外国人技能実習適正実施法案では、実習生を不当に扱う受け入れ機関や企業を取り締まる新しい監視機関を創設することなどを盛り込んだ。 実習生に対する人権侵害行為について禁止規定と罰則規定を設け、実習生への相談や情報提供も行う。 受け入れ期間も 3 年から 5 年に延長する。 制度見直しで政府有識者会議の座長を務めた独協大学法学部の多賀谷一照教授 (67) は、移民政策を取っていない日本で移民問題は一種の「タブー」で、共生すべきだという主張があっても「庶民の大部分はそれは認めないでしょう」と話す。 期間延長だけでは制度の悪用は減らないと指摘し、「人身売買的に使っているのをこれ以上平気でこのまま続けるのはそれは無理」と、監視機能強化の必要性を強調した。 石破茂地方創生相は 1 月 25 日、ブルームバーグのインタビューで、現行制度は技能実習を志してきた人たちを劣悪な労働条件で働かせている部分も「相当ある」と述べ、移民政策を議論する前に「もっと技能実習生に対する処遇をきちんとしますという方が先」と述べた。 技能実習制度を推進する国際研修協力機構 (JITCO) は違反を取り締まる権限がないと総務部企画調整課の尾池昭課長は話す。 JITCO の運営は受け入れ団体からの会費や厚労省の事業委託費で支えられていて、企業や団体の訪問調査は基本的には事前通告するという。 現制度の問題点に関して尾池氏はコメントを控えた。 中国からシフト 実習生の国籍は中国以外にも広がり始めている。 法務省によれば、中国人技能実習生の数は 12 年 12 月末から 15 年の 6 月末までに約 14% 減り 9 万 6,120 人となった。 背景に中国での人件費の上昇がある。 タカラ繊維の真砂氏によると、最低賃金で中国人を雇用するのが難しくなっているという。 大量に押し寄せる安い輸入品との価格競争もあり、賃上げも難しいと語った。 北京市の統計によると、14 年の北京の平均月収は 6,463 元(約 11 万 1,500 円)だった。 一方、14 年度の日本の平均最低賃金で 1 日 8 時間労働で得られる月収は 12 万 4,800 円ほど。 加えて、12 年末に第 2 次安倍政権が誕生して以来、円は対元で約 20% 下落しており、日本で稼いだお金が中国に持ち帰ると目減りする状況となっている。 こうした背景から、ベトナム、フィリピンやインドネシアからの実習生が増えている。 法務省の統計によると、技能実習生の国別内訳は 12 年末には中国が 74% を占めていたのに、15 年 6 月末には 53% に減少。 同じ期間にベトナムは 11% から 25% に増えた。 電子部品の一部であるコネクターの自動組み立て機を製造する TSS (東京都大田区)では 6 人の実習生をベトナムから昨年初めて受け入れたと、経営企画室の荒川信行室長 (35) は話す。 現在は 8 人の中国人技能実習生もグループ会社である富山精研社(富山県下新川郡)とともに受け入れている。 実習生は富山県の工場の生産ラインで働いている。 転職できない 荒川氏によると、両社とも基本給、割り増し残業代、組合の管理費などを合わせ 1 人当たり月約 20 万円のコストをかけているという。 とはいえ、3 年間の期限のある従業員はたとえ有能であっても昇進させるのは難しいという。 荒川氏は制度を「ある程度フレキシブルにしてほしい」と訴える。 「高く払って意味があるのは中長期的にコミットできる人」であり、「3 年しかいないならそんな投資はできない」という。 他の近隣諸国の賃金も上昇すれば、安価な労働力を確保するのは難しくなると指摘するのは、全国中小企業団体中央会労働人材政策本部長の小林信氏 (58) だ。 制度改正の有識者会議のメンバーも務めた小林氏は、実習制度の拡充だけでは本質的な解決にはならないと指摘する。 外国人技能実習生をサポートする指宿昭一弁護士は、期間が 5 年に延長されても自由に転職ができない点を問題視する。「時給 300 円でも、セクハラがあっても、黙って働け」という職場でも転職はできず、送り出した団体に多額の借金を抱える実習生は帰るに帰れない状況になるという。 「日本の非正規労働者はひどい状況だと辞めていくが、技能実習生は動けない」と指摘。 受け入れ側からすれば「やめない労働力が必要なんです」と話す。 失踪する人もいる。 法務省入国管理局によると、14 年の失踪者数は 4,847 人で、15 年はそれを上回る見込みだという。 14 年は失踪者のうち 60% 以上が中国人だった。 シェルター 新幹線・岐阜羽島駅の南口から徒歩数分。 黒い外壁の 3 階建てビルに岐阜一般労働組合が実習生向けに提供するシェルターがある。 1 月中旬に訪れると、唐さんら中国人 9 人が生活していた。 1 階にはスーツケースがいくつも並んでいる。 あたりはシャッターやカーテンの閉まった店舗が多い。 駅北口の小さな塔は「HASHIMA せんいの街」とうたわれているが、地元の繊維産業は衰退を続けている。 張文坤(チョウ・ブンコン)さんがここに来てから数カ月。 建設廃棄物処理などを業務とする野辺工業(栃木県下都賀郡)で働いていたときに、木材を粉砕する機械が誤作動し手を負傷した。 3 カ月の休養から復帰後、手の別の部分が痛み出したことを訴えると、会社は仕事を辞めるよう迫ったという。 実習制度は「大失敗だ」、「死んだも同然で無意味だ」と話した。 張さんの元同僚 3 人も逃げた。 そのうちの 1 人、林希俊 (リン・キシュン)さんは日本人同僚のいじめに苦しめられたという。 その後、身元を隠して短期の仕事を複数した後に中国に戻った。 中国の送り出し団体に 6 万元を支払って来日した林さんは、ほぼ文無しで帰国。 大連近郊の町、瓦房店にいる林さんは電話取材に対し、「自分の夢はつぶされてしまった」、「現実はずっと過酷だった」と話した。 野辺工業はブルームバーグの取材依頼に応じなかった。 厚労省労働基準局監督課の恩田基弘監察係長は、タカラ繊維と野辺工業を調査しているかどうかの問い合わせに対し、個別の案件の情報は開示しないと述べた。 共生 労働人口が減り続ける中で、技能実習生を含む外国人労働者は羽島市の将来に不可欠だと羽島商工会議所の清水政男専務理事は言う。 実習生を「労働力として見ているのは否定しませんし、否定できません」と清水氏。 松井聡羽島市長も、自治体活性化のために外国人労働者を受け入れるべきだとの考えだ。 繊維産業の海外との価格競争、製造業の空洞化といった地域経済の課題を克服するにはもっと労働力が必要で、女性や高齢者の活用だけでは追いつかないと、松井氏と清水氏は口をそろえる。 松井氏は、グローバル社会で頑張る外国人が一カ所に固まるのではなく、日本人と「共生するようなコミュニティーにすることが必要」と語った。 (野原良明、Bloomberg = 2-23-16) 労働力人口は減少、移民受け入れしかない 野口悠紀雄氏 ■ 金融政策 私の視点 - - 日本銀行は 2% の物価上昇目標の達成見通し時期を 2016 年度前半に先送りしました。 「日銀が掲げる物価目標は、元々意味がないと思っている。 だから、2 年経って達成できなかったのは当然だし、達成時期を延期しても意味がない。」 「日本の消費者物価上昇率は、ほとんど輸入物価上昇率で説明できるからだ。 過去 20 年を見ても、為替レートと原油価格でほぼ決まってきた。 外的な条件で決まってしまうものを目標にしても意味がない。」 - - 日銀の企画局は大規模な金融緩和の効果を検証したところ、0.6% - 1.0% 程度物価を押し上げたと結論づけています。 「円安になったために物価が上がったのだ。 国債を大量に買うことで国債の価格を上げ、国債の金利を下げた。 それで日本の金利は米国の金利に比べて下がり、市場では魅力が減った円が売られ、相対的に魅力が出たドルが買われた。」 「日銀は人々の物価上昇の予想を額面の金利から差し引いた実質金利を下げる効果があったと評価しているが、当然だ。 問題は実体経済への影響だ。 実質金利が下がっても投資は増えず、輸出数量は増えない。 何よりも実質の消費支出が減った。 輸入物価が上がり、消費者物価が上がったため、人々の実質的な所得が減ってしまったからだ。」 - - 実質所得が減ったのは昨年 4 月に消費増税があったからではないですか。 「実質所得は消費増税の前から減っている。 増税の影響だけではない。 リーマン・ショックから 12 年度にかけての円高期の方が、実質所得の伸びも成長率も高い時期がある。 円安になって逆に悪化したのだ。」 - - ただ、円安で輸出企業の利益が増えた影響もあり、株価は上がりました。 「円安が影響したのは株式などの資産価格だ。 日本の平均株価は為替レートと連動する。 円安のためにドル換算で見れば、国内総生産 (GDP) を筆頭に、ほとんどの指標は超円高だった 2011 年より下がっている。 しかし、日経平均株価だけはドル建てで見ても上がっている。 日本の株価がバブルだと考えられる論拠の一つだ。」 - - 日銀は今後、どう政策を進めるべきですか。 「うまくいかなくても、金融緩和をやめることはできないだろう。 国債の購入をやめただけで、金利が暴騰してしまう恐れがある。 そうなれば金融機関が持っている国債の価格は暴落し、民間金融機関以上に国債を持っている日銀自身も資産が毀損(きそん)し、国への納付金が減る。 つまり、国民負担になってしまう。」 「もう一つ重要なことは、政府の利払いが増えることだ。 国が発行する新発債と借換債の利払いは、国債金利が上がれば増える。 今一般会計の国債費の利払いは 10 兆円くらい。 最近の 10 年国債の利回りは 0.5% 程度だから仮に 2% くらいになったら 4 倍の 40 兆円くらいになる。 しかも、市場金利が上がってから 4、5 年で既発債の金利はおおむね上昇後の金利に入れ替わってしまう。 それはとうてい耐えられないだろう。」 - - 日銀が目標とする前年比 2% の物価上昇は起きないのでしょうか。 「悪い形で実現する恐れはある。 それは本当の意味で世の中にお金がじゃぶじゃぶあふれた場合だ。 日銀が金融機関から国債を買う時に支払った代金は、今のところ貨幣として世の中に流通していない。 金融機関が日銀に持つ当座預金に積み上がっているだけだ。 だが、銀行がそんな状態で我慢しているのはおかしい。 銀行が当座預金の返却を求めれば、日本銀行券(お札)が増発され、世の中にお金がじゃぶじゃぶになって、急激な物価上昇が進む。」 「日銀の大規模な金融緩和は結局、国債の利回りを非常に低く抑えて、政府が借金を増やしやすくしているだけだ。 だから今、政府は財政を効率化しようというインセンティブがほとんど働いていない。」 - - 日本経済に必要なのはどのような政策ですか。 「65 歳以上の人口は 40 年ごろまで増えていく。 一方、労働力人口は若年者の減少に伴い減る。 その結果起きるのは、医療・介護部門の従事者が労働力人口に占める割合が増えることだ。 50 年ごろには最大 25% まで上がる。 そんな経済は、あり得ない。 こうした動きがもたらすものは経済成長率の低下で、対策が急務だ。 金融緩和とか、インフレ目標とか、そんなことをやっている暇はない。 私は焦りを感じている。」 - - 介護・福祉分野の従事者が増えるとなぜ成長率が下がるのでしょうか。 「介護は生産性が低い産業だからだ。 基本的に人間が人間に対して行うサービスなので、例えばロボットを導入したからといって、生産性が顕著に高まる産業ではない。」 「それを前提に考えると、解決策は生産性の高い新しいサービス業が現れ、全体の成長率を底上げするしかない。 例えば、米英経済では製造業とサービス業の中間のような産業が生産性が高く、成長している。 典型的なのは米アップルだ。 アップルは iPhone を作る製造業だが、付加価値の高い設計開発と販売に特化し、付加価値が低い製造はしていない。 製造業とはいえ、サービス業のような企業だ。」 - - 日本にはそうした会社はあまりありません。 「アップルをはじめとする米製造業が製造をやめたのは、製造を請け負ってくれる国が出てきたから。 代表例が中国だ。 1990 年代以降、世界の製造業はいかに中国を利用するかが重要だった。 だが、日本の製造業は自前にこだわった。 その結果起きることは、長期的に日本国内で働いている工場の従業員の賃金が中国並みになるということだ。」 - - こうした企業が増えれば、生産性は上がると。 「米国並みにまで生産性を高められると思う。 ただ、労働力人口が減ることによる成長率のマイナスを埋め合わせるほどの力はないだろう。 そう考えると移民の受け入れしかない。」 - - 移民を受け入れる上で、ハードルとなるのは受け入れ態勢の整備ですか。 「いや、日本人のものの考え方だ。 周りに中国人やインド人がいていいと言えるかどうか。 もし、いやならばシリコンバレーに行ってどういう世界なのか見てきた方がいい。 移民についてはもう一つ重要な問題がある。 日本人の多くは移民を受け入れていいとさえ言えば、日本に移民がやってくると思っている。 20 年前ならそうだったかもしれないが、今や来てくれるかどうか。」 - - 人口が多い中国も一人っ子政策の結果、将来は移民をひきつけそうです。 「まだ幸いなことに 1 人あたりの国内総生産 (GDP) は日本の方が高い。 しかし、急速に差が縮まってくるだろう。 ここで円安が進めば、差はさらに縮まる。 外国人が日本に来て働くことが不利になるという面でも、円安は非常に大きな問題だ。 円安になると外国人が観光に来ると言って喜ぶが、それは喜ぶべきことなのか。 本当は、外国人が日本に来て働いてもらわないと困るのだ。」 (聞き手・福田直之、asahi = 6-22-15)
建設人材の確保は多角的に 時限措置始まる 建設分野の人材を確保するために、特別の在留資格で外国人技能実習生の滞在期間を延長したり、いったん帰国した人を再び受け入れたりする、2020 年度までの時限措置が始まった。 来年以降は東京五輪の関連施設の建設が本格化し、人手不足が深刻になる可能性が高い。 国内での人材確保とともに、即戦力の外国人を一時的に拡大する対応はやむを得まい。 政府は今回の措置で外国人材の倍増を見込む。 だが、外国人材の確保は政府が考えるほど容易ではない。 中国などアジア地域でも賃金が上昇し、日本は以前ほど魅力的な就業の場でなくなっているからだ。 実習生の有力受け入れ団体である全国鉄筋工事業協会は、過去に実習した 700 人以上の中国人を対象に再来日の可能性を探った。 だが、本人と連絡がとれ契約できたのは、19 人にとどまる。 政府は今回の措置にあたり、実習体制の管理を厳格にし、受け入れ企業には日本人と同等以上の給与を支払うことを義務付けた。 労働人口の減少を踏まえ、20 年度以降も外国人材の活用を考えるのであれば、日本の労働市場を魅力的にしなければならない。 そのためにも、まず日本人の労働環境を改善すべきだ。 人手不足によって賃金が上昇し、建設大手が下請け企業の人材に対し、技能習得に応じて追加給付金を払う制度などが広がってきたことは朗報だ。 ただ、社会保険の未加入問題は解決できていない。 建設現場に女性の技能者を受け入れるための環境整備も欠かせない。 一方で建設現場の作業を軽減し省力化する企業の技術革新が重要だ。 綿密な計画をたて事前にコンクリート部材を組み立てることで必要な人手とムダを減らす工夫は、効果を上げている。 大林組は IT (情報技術)を利用した建設計画に取り組む。 竹中工務店はロボット技術で作業負担を軽くする研究などを進める。 人手不足の解消に魔法のつえはない。 多角的な対策が必要だ。 (nikkei = 5-6-15) |