迎える「外国人活用の足元」 「勤勉」貴重な労働力

数百度の高温になる溶けた亜鉛の中に、金属部品が次々に沈められていく。 金属加工メーカー、日東亜鉛川崎工場(川崎市川崎区)のラインで行われているのは、建築鉄骨や鋼管などのメッキ加工だ。 10 メートル近い大型の部品も、クレーンでつるされて動いてくる。 ラインで働く外国人技能実習生にとって、「危ない」という言葉を瞬時に理解できることも、安全確保には欠かせない。

「日本語は難しいです。」 ベトナム出身の外国人技能実習生、グエン・バン・ズオンさん (28) は笑うが、仕事の合間に挑んだ日本語検定 3 級に昨年合格。 今は、7 月に受けた準 2 級試験の結果を待っている。 母国では防災機器の営業をしていたが、研修をしながら、本国以上に収入を得るため来日を決意。 職場で経験を積むごとに給与も増え、送金もできるようになった。 3 年間の実習期間は今が最終年度。 「機会があれば戻ってきたい」と話す。

「非常に勤勉。 実習期間に日本人従業員の技能を上回る人もいる。」 これまでに 16 人受け入れてきた技能実習生に対する光村邦広工場長の評価は高い。 技能実習制度の目的は「発展途上国への技術移転」。 だが、人手不足は慢性化し新人採用には毎年苦労しているのが実態だ。 「貴重な労働力」として、技能実習生の存在感は年々高まっている。

政府が成長戦略の一環として外国人材の活用を目指す方針を打ち出した。 今後、(神奈川)県内でも多くの新戦力を迎えることになりそうだ。 一方、多様な外国人を受け入れてきた神奈川は、外国人と共存する課題と向き合ってきた "先進地" でもある。 新たな人材の受け入れ準備は整っているのか。 現場から考える。

「要は出稼ぎ」批判も

「人材不足でお困りではないですか? 外国人の雇用制度が拡充されます。 当団体で仲介いたします。」 今年 4 月の経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、安倍晋三首相が外国人材活用の方針を明示して以降、横浜市内の中堅ゼネコンには毎月 2 - 3 本の営業電話がかかってくるようになった。 「ネパール、カンボジア、インドネシア、中国、フィリピン …。 得意とする国の人を送り込んでくれるという。 『仲介手数料 1 人当たりいくらでやります』と。 実態の分からない団体も急増している。」 同社幹部は明かす。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」効果で公共事業だけでなく民間でも建設投資が増加、さらに 2020 年の東京五輪に向けた建設ラッシュも控える。 恒常的な人手不足にある業界を見透かすかのような、外国人技能実習生のあっせん合戦。 この幹部は、今後の業界の行く末を不安視する。 成長戦略で政府は、従来は 3 年だった技能実習生の滞在期間を 5 年に延ばすほか、対象職種に介護などを追加することを検討。 一度帰国しても一定期間空ければ再実習を認める方針だ。

一方、技能実習制度には長時間労働や賃金不払いなどの問題が付きまとい、海外からも強制労働の温床になっているとの指摘が絶えない。 過労死が疑われる突然死も相次いでいる。 成長戦略では対策として、人権侵害を防ぐ指導態勢も強めることを盛り込んでいる。 だが、現場からは「実習生は帰国しても、学んだ技術を生かした仕事はしていない。 要は出稼ぎ。」との声が漏れる。 「技能実習制度は事実上、移民政策の入口だ」との指摘も。

法務副大臣在任中に法務省の外国人受け入れ問題のプロジェクトチームを率いた自民党の河野太郎衆院議員(神奈川 15 区)は、「技能実習制度はいかさま」と見直しを主張してきた。 「日本経済にとって人口減少は最大の課題。 今の技能実習制度見直しの議論は、外国人を労働力として認めるという本質に背を向けている。」と批判している。

新制度で多様性発揮

成長戦略は、安倍政権の経済政策アベノミクスの第 3 の矢。 6 月の改定では、「多様な価値観や経験、技術を持った海外からの人材に能力を発揮してもらう」として、外国人材の活用に力を入れる方針を明確に打ち出した。 外国人技能実習制度に関しては、監督強化を前提にこれまで 68 職種だった対象の拡大や実習期間の延長を実施する方針。 2020 年東京五輪に向けた人材の需要増をにらみ、建設・造船分野でも外国人材活用の新制度を導入するとした。

アベノミクスの一環として区域を限定して規制を緩和する「国家戦略特区」では、外国人による起業を促すための支援窓口を設置。 外国人の家事サービス人材の受け入れに向けた検討も急ぐ。 教育分野では、国内大学強化に向けた外国人材確保の必要性を強調。 学校の英語教育現場でも、外国人活用による実践的な教育を目指す。

その一方、成長戦略ではこうした外国人材の活用策が「移民政策と誤解されないように配慮する」とくぎを刺している。 安倍晋三首相も 6 月の会見で、移民の受け入れについて「諸外国でもさまざまな難しい経験を経ている」と説明し、慎重な姿勢をあらためて示した。 (神奈川新聞 = 8-24-14)

外国人技能実習制度 発展途上国の経済・産業発展の担い手の育成支援のため、人材を一定期間、日本国内の産業界で受け入れ、技能の修得を支援する制度。 1993 年に創設され、建設や製造、農業など対象は 68 職種で、実習期間は最大 3 年。 運用面をめぐっては、低賃金労働や長時間労働をはじめとする実習生への人権侵害が絶えないとの指摘が国内外から上がっており、制度の抜本的改革が急務とされている。


外国人材活用の緊急措置利用 / 監理団体 8 割が関心

国交省調査 国籍はベトナム最多

外国人技能実習制度を使っている建設関連の監理団体の 8 割近くが、2015 年 4 月から始まる「建設分野の外国人材活用に関する緊急措置」の利用を希望していることが、国土交通省のアンケートで分かった。 回答団体の受け入れ希望人数を集計したところ、技能実習修了者を活用したいとのニーズが、毎年 6,000 人程度あることも明らかになった。 国籍別の人数は、ベトナムが最多になる見通しだ。

政府はことし 4 月、震災復興の加速化や五輪開催準備に伴う建設需要の増大に対応するため、 21 年 3 月末までの時限的緊急措置として、即戦力となる技能実習(2 号)修了者の継続従事・再入国を認める方針を決定。 従事可能期間は 2 年だが、帰国後 1 年以上を経過している修了者は最長 3 年働くことができる。

アンケート(6 月 20 日 - 7 月 3 日)では過去 5 年間に、建設分野に関係があるとみられる技能実習生について、受け入れた実績のある監理団体 1,348 者に調査票を送付した。 644 団体から回答があり、このうち傘下に建設業許可業者がいるのは 344 団体。 業許可を持っている受入企業数は 2,400 社で、技能実習生の合計数は約 6,500 人だった。

344 団体のうち、210 団体は緊急措置の活用を「希望する」、60 団体は「どちらかといえば希望する」と回答し、前向きな意見が 8 割程度を占めた。 その理由としては、「地域に適齢の求職者自体が少なく、求人を出しても、人づてでも人を集めることができない」、「若者など日本人を採用してはいるが、定着率が悪い」、「日本人を採用できてはいるが、高齢の技能労働者の退職者を補充するには足りない」という項目の選択が多かった。

緊急措置の活用に前向きな 270 団体の受け入れ希望人数は、初年度の 15 年度が約 5,600 人。 16 年度は約 5,900 人で、仮に希望どおりにいった場合、15・16 年度を合算した約 1 万 1,500 人の修了者が日本での建設業務に従事する計算だ。 特にとび、型枠、鉄筋、溶接などでのニーズが高くなっている。

国籍別の希望人数(15 年度)によると、最も多いのはベトナムの約 2,300 人で、次いで中国の約 1,950 人、フィリピンの約 530 人、インドネシアの約 480 人など。 ベトナム人の活用希望は 19、20 年度には約 3,400 人を超える。 技能実習制度の対象者はこれまで、圧倒的に中国人が多かったが、緊急措置ではベトナム人の活用が進むとみられる。 また、ミャンマー人への期待も高まっている。 同国から来る技能実習生は少数だったが、アンケート結果によると、緊急措置では受け入れ人数がタイを抜いて 5 番目に多い国になりそうだ。 (建設通信新聞 = 8-12-14)


もう、ここには来ない … 日本を見限る外国人労働者

人手不足対策の切り札の一つと期待される外国人労働者。 全体の 4 割を占める中国人が横ばいで、国別 2 位のブラジル人は減り始めた。 待遇や制度の面で受け入れ態勢の評判は悪く、日本を見限る外国人が増えてきた。

「もう、日本には来ません。」 北海道函館市で水産加工場を経営する社長は、中国から来た技能実習生の言葉が今も忘れられない。 3 年の実習期間を終え、今春ふるさとの四川省に帰った。 帰国前、真面目な働きぶりをねぎらうつもりで「また日本に来て働いてほしい」と声をかけた。 しかし、実習生は微笑みもせずに申し出を拒否した。

朝から晩までホタテの殻むきに従事してきた。 だが、内陸部で海のない四川省でこの技能を生かすのは難しい。 日本の進んだ食品関係のノウハウを習得し、地元でいい職を得ようと夢見て来日したが、低賃金で希望と違う仕事をやらされ続けたことに嫌気が差したようだ。 この中国人が活用したのは「外国人技能実習制度」。 現在 14 万人が利用し、うち約 10 万人が中国人だ。 表向きは、発展途上国から人材を一定期間招き入れ、相手国の経済発展に貢献するため技能を伝承するのが目的。 だが大半は、海外から非熟練労働者を安価に調達する仕組みとして利用されている。

実習生の多くは単純労働を強いられ、最低賃金以下で働かされる人も少なくない。 外国人の間では、口コミや報道などを通じて悪評が広がっている。 実際、米国務省は 2014 年、世界各国の強制労働に関する年次報告書で、日本の外国人技能実習制度を「過酷な労働条件や強制労働の犠牲になりやすい」と批判した。 厚生労働省によると、日本で働く外国人は、2013 年 10 月末時点で 71 万 7,504 人。 外国人を雇用する事業主に届け出を義務化した 2007 年以降、過去最高だった。 だが、中身を細かく見ると、これから減少へ転じる可能性が高いことが分かる。

中国人労働者は 2014 年、減少へ向かう

予兆の一つは全体の 4 割を占める中国人の数が頭打ちになったこと。 2010 年まで年率 2 桁ペースで増えたが、東日本大震災の影響で 2011 年は伸び率が 3.5% に鈍化、2012 年に初めて減った。 2013 年はわずかに増えたが、2014 年は減少が確実視される。 理由は職場環境の問題だけではない。 日本の賃金が中国より突出して高い頃は、職場環境が厳しくても日本で働きたいと考える中国人は相当数いただろう。 だが、今や中国の賃金は著しいペースで上昇し日本との格差が急速に縮まっている。

下図は工場で働く一般工職(ワーカー)の賃金を都市別に比較した。 北京・上海・広州の 3 大都市では 2008 年から 2013 年までの 5 年間で月収は約 2 倍の 400 - 500 ドル台へ上昇した。 外国人の労働問題に詳しい徳島大学の樋口直人准教授は「単純労働者ほど自国と賃金ギャップが大きい国へ向かう」と指摘。 日本との賃金格差がさらに縮まれば、「日本に来る出稼ぎ労働者は減るだろう」と予測する。

中国以外に目を転じると、東南アジア諸国連合 (ASEAN) からの労働者は確かに増えているが、楽観はできない。 過去 5 年間の賃金上昇ペースが今後 5 年間も続いたと仮定して、2018 年のアジア主要国のワーカー賃金を試算してみた(右の図中、赤い数値)。 すると、タイのバンコクやマレーシアのクアラルンプールでも、今の中国並みの 500 ドル近くにまで上昇する見込みだ。

近くにシドニーなど日本より賃金が高い都市があることも考えれば、中国はおろかアジア各国から来日する人も減る可能性は高い。 技能実習制度に代表されるように、日本の都合ばかりを優先した政策を続けていては、そっぽを向かれるのも仕方がないだろう。

ブラジル人に厳しい日本の労働条件

それはアジアに限らない。 国別で 2 番目に多いブラジル人の数が、2011 年のピークから 2 年間で 2 万人以上、18.3% も減っている。 直接的な理由は、リーマン・ショック後の不況で日系ブラジル人が大量に失業したこと。 その際、10 万人以上のブラジル人が帰国し、そのうちの 2 万 8,000 人余りは日本政府が渡航費を支援した。

日本で人手不足が深刻化した今も、帰国支援事業で帰国した日系ブラジル人の大半は、日本に戻りたくても戻れない。 日本へ再入国するには 1 年以上の雇用契約が必要など、厳しい条件を課されているためだ。 日本語を話し、日本で実際に働いた経験があるなど、即戦力として活躍できる人が多いにもかかわらずだ。 ブラジル人の日本就労を支援しているアバンセコーポレーションの林隆春社長は、「現地の日系人コミュニティーの中で、日本を見限る動きが広がっている」という。

建設現場の人手不足解消のため、日本政府は技能実習制度の期間を 3 年から 5 年に延長するなどの拡充策を検討している。 だが、2020 年の東京五輪までという時限的な措置だ。 しかも、日本はいまだに外国人に対する労働ビザの発給条件を厳しく制限し、外国人の流入を抑える政策を変えていない。 日本の人口減少はこれから加速し、外国人労働者が今以上に必要となる時代が確実にやって来る。 どうすれば外国人にとって魅力的な職場にできるのか。 国や企業、そして外国人と一緒に働くことになる私たち個人も、考え直す時が来ている。 (坂田亮太郎 日経ビジネス = 7-29-14)


「人間に対して冷たいクールジャパン」

フィリピン人に不当な誓約書要求で日本のネットユーザーも激怒

少子化で減る労働力人口をカバーするために、外国人労働者の大量受け入れが議論されているが、そんな中、日本の外国人労働者の環境があまりにひどいと批判を集めている。 報道によると、関西地域で介護施設を経営している「寿寿」社が、フィリピン人女性職員を採用する際に、本人が死亡しても施設の責任を問わないで「永久に権利放棄する」という誓約書をこれまで 30 人程度書かせていたという。 共同通信が配信した記事の画像を拡大すると、次のように読める。

「私、〇〇は自分の自由意志において、これによって宣言して明示します。」 「私は、日本にいる間に自然な状況による文末の署名者が死亡した場合、その状況から発生する全ての金銭あるいは他の任意義務行為から、ジュジュ社、その役員、管理者、代表者、又は、社員を、開放し、権利放棄し、又、永久に放棄します。」

「日本の若者ですら使い捨てにする国が」

同社で働いていたフィリピン人女性は、同社が建て替えた渡航費数十万円を借金として抱えさせられ、転職したくても辞めることができない状況だった。 さらに宿直を月 13 回させられ、給与の一部が積立金として天引きされていた。 天引きは渡航費返済の焦げ付きに備えて行っていたというが、厚生労働省大阪労働局は寿寿に対し、この積立金の返済を命じたという。 このニュースには、ネットユーザーから強い批判が集まっている。

「世界よ、これが日本だ!」 「屑過ぎて笑えない。」 「飛行機にペット乗せる時の誓約書みたい。 狂っている。」 「人間に対して冷たい、これがCOOL JAPAN!」 このほか、「日本人の若者ですら使い捨てにする国が、外国人を大事に扱うわけがない」と、弱者から搾取する日本の企業社会の根深い問題だと指摘する人もいる。

寿寿の児林健太代表取締役は、ウェブサイト「大阪の社長.tv」のインタビューに対し、「日本での全国展開は考えていません」、「2015 年までに日本の介護を、中国や台湾といった『お箸の文化』がある地域に輸出していきたい」と答えている。 その一環で外国人労働者の受け入れを進めていたのかもしれないが、これでは単に「海外アジアから安い労働力を調達して儲けたかっただけ」と非難されてもしようがない。

出稼ぎ先を韓国、台湾に切り替えるアジア人

元々日本は、外国人労働者に人気がない。 7 月 9 日放送の NHK 「クローズアップ現代」では、日本へ「外国人技能実習生」を供給するミャンマーの学校の様子を紹介していたが、ここでは入学者の 4 割が途中で辞め、出稼ぎ先を日本から韓国に切り替えるという。

これまで実習生を日本に送り出してきたベトナムでも、日本ではなく台湾が出稼ぎ先に選ばれている。 日本では外国人労働者は「見習い」の実習生として扱うのに対し、韓国、台湾ではきちんと労働者として扱う。 また、仲介業者頼みの日本に対し、韓国と台湾では政府が積極的に受け入れ事業を行なっているという違いがある。

さらにこの 2 国では、行政が外国人労働者の環境が守られるよう様々な対策を行なっている。 定期的な査察のほか、韓国では、職場で不当な扱いを受けたバングラデシュ人が、政府の支援を受けて別の会社に転職した事例もあった。 職場に抗議をして失職すると本国に帰らなくてはいけなくなる日本とは大違いだ。 渡航の初期費用の面でも、日本は 100 - 300 万円かかるのに対し、韓国はその 3 分の 1 から 5 分の 1 程度で済む。

「AERA」 7 月 14 日号によると、外国人技能実習生の手取りは月 5 万円以下で「時給数百円」になるケースも珍しくないという。 「国家公務員一般労働組合」のブログによると、2012 年の外国人実習生問題シンポジウムでは、ジャーナリストの安田浩一氏が雇用契約書に「会社の言うことは絶対に守らなくてはいけない」、「男女交際をしてはいけない」と書かれていたケースを紹介したそうだ。

国交省が「建設分野」からメス

実習中に死亡することもある。 国際研修協力機構の「外国人技能実習生の死亡事故発生状況」によると、実習生の年間死亡者数は 2008 年度に最高の 35 人を記録。 2012 年度も 19 人死亡している。 早朝にベッドで心肺停止状態になっていた中国人女性を始め、20 - 30 代の突然の死亡事例が複数あった。 過酷な労働環境と、なんらかの関係があるのではないか。

日本でも、一部で対策を進めている。 国土交通省が建設分野で働く外国人労働者に、同じ技能を持つ日本人労働者と同等以上の報酬を支払うことを定めた法整備を進めているという。 今回のフィリピン人女性職員がどのような資格で働いていたのかは不明だが、人口減による労働力不足を「海外移民」で補おうという意見もある中で、日本人従業員を含めた日本企業の労働環境の健全化が求められることは確実だ。 (BLOGOS = 7-14-14)


日本の外国人実習に懸念 = 「強制労働の温床」 - 米大使

【ワシントン】 人身売買問題を担当する米国のシデバカ無任所大使は 8 日、上院外交委員会の小委員会で開かれた公聴会で証言し、日本政府が運営する外国人技能実習制度が「強制労働」の温床になっていると改めて懸念を示した。 シデバカ大使は「人身売買業者は(外国人を)強制労働に服させるのに同制度を利用し続けている」と指摘。 日本政府が運用を十分に監督できていないところに問題があるとした上で、「われわれは監督機能を強化するため、日本政府と緊密に協力していくつもりだ」と語った。 (jiji = 7-9-14)


もう、彼らなしでは成り立たない! 暮らしの中の外国人労働者

さまざまな現場で働き、いまの日本を支える外国人たち。 人手不足を補い、女性の社会進出を陰で助ける。 日本と自分の未来を見つめる彼らを追った。

海の見える高台にある横浜きっての高級住宅街。 田村メルスィーさん (30) は、家に入るなり、2 匹のゴールデンレトリバーに英語で声をかけた。 「Stay!」、「Good, good」、「Sit!」、「Yes, you are cute.」 メルスィーさんはフィリピン・ミンドロ島の出身。 勤務先のダイビングショップで日本人の夫と知り合った。 2002 年に結婚。 横浜市内で子ども 2 人を育てる。

フィリピン人の友人からメイドの仕事を紹介された。 派遣元の会社に登録し、ほぼ連日、横浜のどこかの家で掃除や洗濯をこなす。 フィリピン人メイドの「天性」は世界で評価される。 シンガポール、香港、米国やヨーロッパでも「人気ブランド」だ。

日本人より割安

都内の出版社に勤める女性は週 1 回、フィリピン人女性に家の掃除を頼む。 仕事柄夜遅いことも多く、会社の先輩から「日本人より割安」と紹介された。 午前 9 時から約 3 時間半。 家全体に掃除機をかけ、台所や風呂、トイレを掃除し、シーツを替え、アイロンをかける。 この間、彼女は手を休めない。

メイドを頼む以前は夜中や週末に自分でやらざるを得ず、睡眠不足でイライラしていた。 「週末に子どもの学校の行事や習い事にも出かけられる。 なにより自分自身が精神的にすごくラクになりました。」 メイドのフィリピン人は外交官や外資系企業幹部などの家庭で働くビザで来日しているが、空いた時間に日本人家庭でも働く。 時給 1,500 円 + 交通費、というのが相場だという。

雇い主の帰国後にメイドだけ日本にとどまって個人のツテで働くこともあるが、不法就労になり、盗難や連絡が取れなくなるトラブルもあるという。 安倍政権は都市圏で「メイド特区」を認め、現在は制限しているビザ発給を緩和する構えだ。 家事に縛られず、社会で能力を発揮してもらうためだ。

メルスィーさんが登録する家事代行サービス会社「シェヴ(東京都港区)」は、約 100 人の日本人配偶者のフィリピン人スタッフを抱え、「週 1 回 3 時間 1 万円」という統一プランで業界をリードしてきた。 メイド需要の拡大を見込み、今後はミドルクラスの共働き夫婦向けの割安型も打ち出す構えだ。 同社の柳基善社長は言う。 「働き手の保護や業界のルールが明確でないので、日本は世界の模範になるよう率先して健全化に取り組むべきです。」 制度上「労働」を目的に来日する唯一の外国人は技能実習生だ。 最長 3 年で中国や東南アジアの 15 万人が日本で働く。

日本人はすぐ辞める

兵庫県川西市の大智鍛造所では、7 年前からこの制度で中国人 8 人を雇い続ける。 社長の大智靖志さんには忘れられない思い出がある。 最初に迎えた中国人に健康診断でガンが見つかり、日本で手術を受けた。 「みんなで手分けして看病をして職場が一つになりました。 実習生はとにかく人柄重視。 協調性が大事です。(大智さん)」

同社では、地域の最低賃金などをベースに給与を支払う形で「出費はほぼ日本人のバイトを雇うのと変わらないが、すぐ辞める日本人よりありがたい」という。 ただ、給与や長時間労働をめぐり、実習生と企業との間でトラブルが多いのも現実だ。

企業にとって実習生を抱える最大の動機はやはりコスト。 不況で経営が苦しい企業ほど、残業代を渋り、給与から実費以上の家賃や食費などが引かれる。 手取りが 5 万円以下で「時給数百円」になる悪質なケースも数多く報告されており、各地で訴訟や苦情が相次ぐ。 一方、中国でも都市部で賃金が毎年 10% 近くも上昇し、日本との給与格差は縮まる一方。 日本での実習のメリットは少ないとの評判が広がり、人材を探すのが年々困難になっている。

そんななかで急激に増えているのがベトナム人だ。 大阪市西淀川区の「新免鉄工所」は今年 4 月、ブイ・ヴァン・リンさん (23) とレイ・チャー・バオ・ユイさん (26) を受け入れた。 新工場に本社から人を出し、その穴を埋めてもらう。 同社にとっては初の外国人。 社長の新免謙一さんは自らベトナムに足を運び、面接で選んだ 2 人の住居も探した。 週末には神戸の中華街・南京町のベトナム料理店に連れていき、社の屋上では 2 人が好きな香味野菜を栽培するほどの気の使いようだ。

「礼儀正しいし、声も大きく、はきはきしていて、うちの若手にはないものを持っており、教わることも多い。 (制限の) 3 年といわずもっといてほしい。」 2 人も「日本の 5S (整理、整頓、清掃、清潔、躾)など学ぶことばかり。 最低でも 5 年はいたい。」と口をそろえる。

試験に落ちると帰国

自民党は政府に対し、5 年への延長を提言している。 一方、実習制度自体には、職場の変更や柔軟な帰国ができないことから、国内外から「現代の奴隷制度」といった批判も絶えない。 「メラちゃ〜ん、こっちに来てよ。」 「メラちゃん、元気?」 千葉県袖ケ浦市の老健施設「カトレアンホーム」で働くインドネシア人のメラ・ジュリアさん (26) は入所者の人気者だ。 南スマトラ出身。 地元で看護師として救急病院で働いていたが、経済連携協定 (EPA) の枠組みで 11 年に来日した。

「自分の発音が悪くて日本語が通じないと悔しい。 でも、皆さんに受け入れてもらった感じがあると、幸せな気持ちになる。」 施設の近くに部屋を借りた。 来年 1 月に控えた介護福祉士の国家資格試験のため、ベッドからの移動、入浴や食事の世話などの仕事をこなしながら、家に帰って勉強を続ける。

インドネシアなどから、EPA の締結によって介護要員が招聘されている。 メラさんのように、入所者や現場の評価は総じてかなり高い。 ところが、日本人と同じ介護福祉士の国家資格の取得を義務づけているため、制度の有効活用ができているとは言いがたい。 メラさんは、母国の学校や日本の研修センターで 1 年以上も勉強し、3 年間の施設実習で国家試験に備えるが、試験に 2 度落ちると帰国させられる。 困窮する介護現場の「助っ人」に来てくれる彼女らに、これほど負担をかける意味があるのか疑問だ。 メラさんたちも 30 歳を過ぎれば結婚や帰国を考えるだろう。

日本に外国人の労働者が本格的に現れたのは 90 年代以降。 出入国管理法の改正で日系人の就労条件が緩和され、大型の工場がある地域が日系人であふれた。 その半面、言葉や習慣の問題で生活や教育に支障を生む状況が広がった。

母語だと安心できる

医療もその一つ。 千葉県佐倉市で、歯科医院を経営する古谷彰伸さん (50) は、7 年ほど前に歯科助手を探していたとき、患者の日系ブラジル人女性の日本語がうまいことに驚き、「うちで働かない?」と声をかけた。 口コミで「ポルトガル語が通じる歯科医院」との評判が広がり、関東一円から患者が訪れる。 患者の 2 - 3 割は日系人だ。 現在、医院で働く吉田ダニエレさん (29) は日系 3 世。 近くの工場で働いていたが、古谷さんに医院でスカウトされた。

診察室では普通にラテン系の言葉が飛び交う。 ブラジル人だけではなく、ペルー、チリ、アルゼンチンなどの患者も多い。 「南米では歯科治療は保険適用がなく、治療費は固定額の前払い。 患者さんには日本の保険制度との違いを説明します。 母語でないとなかなかこういう話はできないので、安心してもらえるのでしょう。(ダニエレさん)」 (野嶋剛、AERA = 7-7-14)


外国人労働者も日本スルー! 賃金安いし縛り多いしすぐクビ … 立ちいかなくなる生産現場

NHK 「クローズアップ現代」、シリーズ「人手不足ショック」の 2 回目は外国人労働者の実態編だ。 昨年(2013 年)に日本で働いた外国人は過去最高の 72 万人、対前年比 5.1% 増だった。 安倍内閣が 10 日(2014 年 6 月)に出した成長戦略の骨子でも、外国人受け入れの拡大をうたっている。 少子高齢化ですすむ労働力不足に対処するためだ。 しかし、カベはいくつも あった。

NHK がこの 4 月に行った世論調査で、外国人労働者の増加に賛成は 19.6%、反対は 40.2% だった。 反対の理由は、日本人の雇用が奪われる、治安の悪化などだ。 外国人受け入れの社会的合意ができていないのは明らかである。 日本は単純労働者の受け入れを認めていない。 働けるのは、(1) 専門的な技能・知識を持つ「高度人材」、(2) 週 28 時間まで働ける「留学生」、(3) 農業、建設などでフルタイム働けるが滞在は 3 年の「技術実習生」、(4) 分野・滞在期間の制限なしの「日系人」 - この 4 分野だけだ。 しかし、現場では ・・・。

農漁業・建設「技術実習生」 7 年前は 1,000 人 … いまや 400 人以下

牛タン料理チェーンの秋葉原店では、店員の 7 割、16 人が中国人留学生だ。 日本人のアルバイトが集まらない。 グループの社長は「外国人がいないと商売が成り立たない」という。 社員 64 人の福島の建設会社は人手不足で、退職 OB まで動員しても工期が遅れがちのため、昨年から 20 代のインドネシア人の研修生 6 人を受け入れた。 残業、休日出勤もありで、「日本人と同じ週 6 日働いている。 彼らがいなかったら工期の遅れがひどいことになる。」と話す。

国は実習期間を 5 年まで延長し、分野も「介護」、「林業」に広げるなどを検討しているが、異変が起こっていた。 大阪の建設会社で中国人研修生 8 人が相次いで帰国してしまった。 14 万円の給料を引き上げてほしいという要求に会社が応じなかったからだ。 給与以外に旅費、研修費、住宅費を負担している。 いま、残る 13 人がいつ辞めるかと気をもんでいる。

経済成長で中国で賃金が 3 倍に上昇し日本の水準に近くなった。 南京の建設労働者は「8 万円から 10 万円もらってるから日本へは行かない」、「20 万円なら考えるけどね」という。 7 年前に 1,000 人いた研修生は、昨年は 400 人を切った。 代わって人気なのがシンガポールだ。 日本と違って会社を選べる、転職も可能、国の許可があれば 50 歳まで働ける。 つまり、将来設計もできる。

日本は会社や住居に選択の余地がない。 滞在も 3 年だ。 今後、延びても 5 年である。 これでは敬遠されて当然だろう。 「だれも来なくなる日がすぐそこまで来ている」と首都大学東京の丹野清人教授は話す。 日本の現状は「コンビニのものはほとんど外国人がつくり、その素材の野菜を収穫しているのも実習生ですよ」という。

派遣会社社長「単なる労働者ではない。 経済支えるパートナー。」

日系人は 3 世までは働く期間・職種に制限がない。 他の外国人よりは有利なはずだが、ここにもカベがあった。 愛知・一宮市の派遣会社の林隆春社長は、30 年前から日系ブラジル人を製造業へ送り込んできた。 10 年経ったころ、日本社会で孤立して心を病む人が多いことに気づいた。

2009 年のリーマンショックのときは、林さんが派遣していた 2,800 人のうち 2,200 人が失職した。 林さんはいま、会社とは別に外国人支援の NPO を運営している。 日系人の父親と 3 歳の時に来日した 18 歳の女性は、家計が苦しく高校へ行けなかった。 住む家もなくなり、路上生活までしたという。

林さんは「世間は単なる労働力と考えますが、ボクらはパートナーで、社会の中で共に暮らす存在なんです。 お互いがウインウインの関係を作ることが大事。」といった。 日系ブラジル人の現状は日本社会に受け入れの準備がないことを示した。 単純労働を認めないといいながら、単純労働者としか見ていない。 要らなくなったら「出ていけ」だ。 丹野教授はズバリ「哲学がない」といった。 その通り。 日本はずっと人を「外へ出す」国だったのだ。 (ヤンヤン、Jcast 6-14-14)


外国人技能実習制度 : 拡充方針も「使い捨ての是正を」の声

手取り数万円 休みなし ・・・

人手不足を背景に、外国人技能実習制度の拡充方針が打ち出された。 実習生は日本の縫製業や農業、建設業などを支えているが、劣悪な環境に苦しむケースが後を絶たず、支援団体からは「拡充より先に外国人を使い捨てにする現状を正すべきだ」との声も上がる。

2 月上旬、東京都足立区の縫製工場。 日本人従業員の姿はなく、2011 - 12 年に実習生として来日した 20 - 40 代の中国人女性 6 人が働いていた。 基本給は月 6 万 5,000 円。 残業代は時給 400 円という違法な水準だったが、土日も休めなかった。 壁が薄く隙間風が吹く工場の 2 階に住まわされ、光熱費込みで 1 人月 5 万円弱の家賃を徴収された。 手元に残るのは、月数万円だった。

実習生が増えると、経営者に鉄パイプなどの資材を渡され、台所兼倉庫を自分たちで増築した。 「来日 2 週間で後悔した。 『3 年で 300 万円以上稼げる』と聞いたが、半分にもならない。」 20 代女性は嘆いた。 昨秋、実習生を支援する全統一労働組合(東京都)に加入し日本人経営者と団体交渉を始めた。 経営者が総額 1,000 万円以上の未払い賃金の存在を正式に認めたのは、3 月になってからだった。

埼玉県の建設会社で型枠工として働いていた中国人の男性研修生 (31) は昨年 12 月、大きなパネルを運んでいて腰を痛めた。 歩けなくなるほど悪化したため病院に行こうとすると、受け入れ仲介団体から「仕事中のけがと言うな」と迫られた。 航空券を手配され「自主都合」で帰国させられそうになった。 勤務先と全統一との交渉を経て、ようやく労災申請した。 国際研修協力機構 (JITCO) によると、12 年度に作業中の事故で死傷した実習生は前年度比 98 人増の 994 人。 うち 4 人が亡くなっている。

多くの実習生たちは中国の送り出し機関に数十万円の手数料を借金して支払っている。 中国での年収を超える金額だ。 返済のため、奴隷のような待遇でも泣き寝入りするしかない。 全統一の鳥井一平さん (60) は「働き手が必要なら、実習制度ではなく、正面から外国人を受け入れ、権利保護や定住支援の枠組みを作るべきだ」と強調する。 (河津啓介、mainichi = 6-10-14)