トランプ大統領、TPP 離脱の大統領令に署名 - 米通商政策を転換

トランプ米大統領は 23 日、米国が環太平洋連携協定 (TPP) を離脱するための大統領令に署名し、自由貿易を尊重する数十年にわたる政策を転換させた。 トランプ大統領は他の 11 カ国との通商協定である TPP から離脱する大統領令に署名した後、「今われわれがとった行動は、米国の労働者にとってすばらしいことだ」と述べた。 メキシコおよびカナダとの北米自由貿易協定 (NAFTA) 再交渉開始の命令には署名していないが、NAFTA に関する行動については作業中だと、ホワイトハウスの当局者が匿名を条件に述べた。

ランプ大統領は「これについてわれわれは長い間話してきた」と述べた。 同大統領は選挙戦中から TPP やその他の通商協定に反対を表明しており、今回の大統領令は驚きではないものの、一部の共和党議員や米国の自由貿易重視の政策を基盤に事業を構築してきた企業の幹部らを動揺させた。 トランプ大統領が TPP を範囲の狭い別の協定に置き換えるかどうかは不明だ。 保護主義的な色彩を強めた政策が現代の経済に与える影響が懸念されている。

カトー研究所で通商政策を研究するディレクター、ダン・イケンソン氏は「大統領が率先して保護主義を推進し、内向きの姿勢をこれほど明確に表明したことはかつてない」として、米国の通商政策は 1934 年以来、党派を超えて自由化と融和、国際主義に向かっていたと指摘した。 TPP 離脱を労働団体や一部の民主党議員、米たばこ会社は歓迎。 一方、農家や牧場主の利害を代表する団体が失望を示したほか、共和党内からも反対の声が出た。 ジョン・マケイン上院議員(共和、アリゾナ州)は米国がアジアで戦略的地位を捨て、中国に影響力拡大の機会を与えることに懸念を示し、「TPP からの撤退は間違った判断だ」とのコメントを発表した。

米肉牛生産者・牛肉協会 (NCBA) は「TPP と NAFTA は長い間、やり玉にあげられてきたが、実際のところ外国貿易は米牛肉産業にとってうってつけのサクセスストーリーだった」とし、そうした通商協定がなければ業界は 1 日当たり 40 万ドル相当の売り上げを失うと指摘した。 フット・ロッカーやウォルマートなどの小売業者、ナイキなどのブランドも、TPP 離脱によって輸入関税節約の機会を失うと、ブルームバーグ・インテリジェンスのデータは示している。

日本や米国、メキシコ、シンガポールなど 12 カ国の貿易を自由化する TPP は、オバマ前政権のアジア重視政策の柱だったが、民主党や一部の共和党議員の反対で批准の手続きに至ることはなかった。 TPP の先行きは不透明になった。 安倍晋三首相は昨年 11 月に、米国抜きの TPP は意味がなくなるだろうと発言している。 ただ、ベトナムやオーストラリアなどは米国なしでも合意を順守する考えを示していた。

NAFTA についてトランプ大統領は 22 日、カナダのトルドー首相、メキシコのペニャニエト大統領との会談で議論を開始するつもりだと語った。 トランプ大統領はかねて NAFTA が米雇用喪失の原因だと論じているが、協定が発効して以降の米国の雇用状況にはほとんど変化がない。 大統領は就任後に米国と国境を接する隣国と進んで協力していく姿勢も示した。

ホワイトハウス上級スタッフの就任式典の冒頭で、「NAFTA や移民、国境警備について再交渉を開始する。 メキシコや米国、全ての関係者にとって非常に良い結果になると考えている。 それがまさに極めて重要だ。」とトランプ大統領は語った。 (Toluse Olorunnipa、Kevin Cirilli & Austin Weinstein、Bloomberg = 1-24-17)


製造業によぎる「6 重苦」 米 TPP 離脱と福島沖地震で

22 日早朝にかけて発生した福島県沖の地震と米国のトランプ次期大統領の環太平洋経済連携協定 (TPP) 離脱宣言という 2 つのニュースは、東日本大震災をくぐりぬけてきた日本の製造業に苦い経験を思い起こせたに違いない。 超円高や自由貿易協定の遅れ、電力不足 …。 5 年前に製造業に重くのしかかった「6 重苦」である。

「就任初日に (TPP) 離脱を通告する。」 日本時間 22 日早朝に東日本大震災の余震としてはほぼ 2 年ぶりとなる強さの揺れが襲ったころ、米国ではトランプ次期大統領が通商政策や国防などについての政策課題を掲げた動画をインターネット上で公開した。 「脱・TPP」はトランプ氏の選挙公約。 トランプ氏だけでなく、若者層に人気のあった民主党のサンダース氏も予備選で TPP 反対を唱えて躍進し、クリントン氏も反対姿勢に傾いていた。

株式市場は織り込み済み

その意味で、株式市場では驚きはなかったようだ。 早朝の地震も被害が最小限にとどまりそうなこともあって、22 日の日経平均株価は 5 日続伸し、前日比の 56 円 (0.3%) 高の 1 万 8,162 円と約 10 カ月ぶりの高値を付けた。

とはいえ、地震と TPP は切っても切れない関係にある。 2011 年の東日本大震災では原発事故で電力不足が深刻化し、供給網(サプライチェーン)も寸断された。 超円高や労働規制の厳しさなどと合わせて「6 重苦」に悩まされていた日本の製造業からすれば、グローバルに生産・供給体制を築くしかないとの思いを強める出来事だった。 自由貿易や投資のルールを国際標準化する TPP は、そのための追い風となるはずだった。

貿易拡大にらみ動いたベトナム投資

実際、日本企業は TPP 発効を見据えて動き出していた。 例えば、TPP 加盟を表明しているベトナム。 ダイキン工業は約 100 億円を投じて、18 年春までに首都ハノイ近郊に家庭用エアコン専用の新工場を建設すると今夏発表したばかり。 商船三井は北部の港湾都市、ハイフォンに建設中の大型国際港と北米を結ぶ直航路線を 18 年に開設する計画を練っていた。 TPP が発効すれば、東南アジアの加盟国と北米の貿易が増えると見込んでのことだ。

だからこそ、地震と米国の TPP 離脱という 22 日のニュースは、日本の製造業をまた 5 年前に引き戻すだけのインパクトを秘める。 自由貿易政策が行き詰まれば、日本で地震リスクを一身に背負うことにもなりかねない。 もちろん、TPP が漂流しても、製造業の先行きが暗くなったとは言い切れない。 日興アセット・マネジメントの神山直樹氏は「ロシアを巻き込んでアジア地域での貿易・投資ルールを構築するなど、米国抜きでも日本ができることはまだある」と指摘する。

11 年の震災後には、驚異的なスピードで復旧作業を進め、短期間で生産再開にこぎ着けた日本企業。 「トランプ大統領」の登場で世界の貿易政策が揺れる中でその底力を発揮できるか、真価が問われる。 (富田美緒、nikkei = 11-22-16)


【トランプ次期大統領】 就任初日に「TPP 脱退」を宣言 当選後初めて明言

【ワシントン = 小雲規生】 トランプ次期米大統領は21日、ビデオメッセージを発表し、来年 1 月 20 日の就任初日に「環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) から脱退する意志を表明する」と宣言した。 トランプ氏が大統領選後に TPP 脱退に言及するのは初めて。 トランプ氏はメッセージのなかで「就任初日に起こせる行政府としての行動」を列挙。 その一番目の項目として TPP 脱退の宣言を挙げた。 そのうえで雇用や産業を米国に取り戻すため、二国間での自由貿易協定を目指すとしている。

トランプ氏はこのほか、シェール開発や石炭産業への規制の緩和、インフラ設備へのサイバー攻撃の防止計画の策定、ビザ制度の悪用の調査を打ち出した。 また行政府からの退職から 5 年間はロビイストになることを禁止し、政府が新たな規制をひとつ作る際には既存の規制を 2 つ廃止するルールも定めるとしている。 トランプ氏は政権移行の準備状況について、「極めてスムーズで効率的かつ効果的に」進んでいると強調。 次期政権の原則は「米国を最優先させることだ」として、次世代の生産活動や技術革新が米国内で起こる態勢を整えるとしている。 (sankei = 11-22-16)


TPP 「年内承認ない」 米共和党上院トップが明言

米議会上院の共和党トップ、マコネル院内総務は 9 日の記者会見で、環太平洋経済連携協定 (TPP) の承認について「明らかに今年法案が提出されることはない」と明言した。 TPP 離脱を訴えた共和党のトランプ氏が大統領選で勝利し、米国の TPP の承認は当面は絶望的となった。

オバマ政権は、大統領選後から来年 1 月の次期議会開始までの「レームダック(死に体)」期間の議会承認に向け、調整を本格化させる予定だった。 ところが、「就任初日に TPP を離脱する」と公約したトランプ氏が大統領選で勝利。 次期大統領の就任前に TPP を承認するのは困難となった。 TPP 参加 12 カ国のうち、日本、豪州、ニュージーランド、シンガポールの 4 カ国の駐米大使が 10 日、米議会での TPP 承認を訴える記者会見を予定していたが、「参加者のスケジュールの都合のため」として中止となった。 (ワシントン = 五十嵐大介、asahi = 11-10-16)


「TPP は死んだ」 米専門家、トランプ新大統領に懸念

トランプ米大統領は、世界経済にどんな影響を与えるのか。 米有力シンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」のゲリー・ハフバウワー氏に聞いた。

トランプ氏は大統領就任後、約 5 千ページとされる TPP の合意文書を文字通り引きちぎるようなことをするだろう。 少なくとも米国が参加し続けるかという意味において、トランプ政権下で「TPP は死んだ」と言っていい。 トランプ氏の経済政策は、多くの不透明感を生む。 貿易は拡大ではなく、縮小につながる。 そこまで大きくないものの、減速はするだろう。

トランプ氏が選挙戦で大げさに語った公約が何でも実現するとは思わないが、対中国の貿易保護策には踏み切るだろう。 また、北米自由貿易協定 (NAFTA) からの離脱をちらつかせ、メキシコを貿易交渉の場に着かせようとすることは考えられる。 世界経済にもショックで、株価急落や通貨の急激な変動をもたらす。 経済全体を不況に陥れるとまでは思わないが、現在の成長からは減速するだろう。 (聞き手・五十嵐大介、asahi = 11-9-16)


TPP が米 GDP を 4.7 兆円押し上げ 貿易委が分析

米国際貿易委員会 (ITC) は 18 日、環太平洋経済連携協定 (TPP) の米国経済への影響分析の報告書を公表した。 TPP がない場合と比べ、2032 年の実質国内総生産 (GDP) を 427 億ドル(約 4.7 兆円)、0.15% 分押し上げるとの見通しを示した。 オバマ政権は TPP の年内の議会承認を目指すが、押し上げ効果の予想が比較的小幅にとどまったことで、承認の追い風になるかは見通せない状況だ。

TPP 参加 12 カ国のうち、米国はすでに豪州、カナダ、チリ、メキシコ、ペルー、シンガポールと自由貿易協定を結んでいる。 報告書は「TPP の影響は米国経済の規模でみると小さい」としながらも、日本など貿易協定がない国との関係では恩恵が大きいとした。 米通商代表部 (USTR) のフロマン代表は「報告書は TPP をなぜ今年承認すべきかを示す強い根拠になる」と述べた。 TPP 参加国への輸出は 572 億ドル(約 6.2 兆円)、5.6% 分押し上げると試算。 日本など新たに協定を結んだ国に対しては、346 億ドル(3.8 兆円)、18.7% 分の押し上げ効果があるとした。 (ワシントン = 五十嵐大介、asahi = 5-19-16)


農地集約促す「アメとムチ税制」 攻めの農業を後押し

安倍政権が成長戦略に掲げる「攻めの農業」を後押しする新たな税制が 4 月に始まった。 農地集約に協力すれば「減税」、協力しなければ「増税」となる異例の税制だ。 成田空港に近い千葉県香取市。 田畑の一角にある工場内で機械が音を立てていた。 ニンジンは 5 センチの長さに切られ、次の工程で千切りにされて出荷される。 最後はコンビニ大手ローソンの弁当のおかずになる。

昨春、2 億円でこの工場を建てたのは「香取プロセスセンター(本社・香取市)」。 ローソンが出資し、地元で 20 ヘクタールの畑を耕作する「ローソンファーム千葉」を母体とする会社だ。 センターとファームの社長を兼ねる篠塚利彦さん (31) は「農業は天候に左右されて価格が不安定だが、ローソンが買うので安心して生産できる。 もっと広げたいが、この辺りの農地は取り合いなので確保が難しい。」と話す。

より広い農地で「もうかる農業」をめざす企業や農業法人は増えているが、多くの場合、農地を思うように確保できない壁に突き当たっている。 「畑借ります。」 鹿児島県志布志市の大手農業法人「さかうえ」のトラクターやトラックには電話番号とともに、こんな文字が書いてある。 100 ヘクタールの畑でキャベツやジャガイモを作るが、法人から車で 30 分ほどの範囲に点在し、まとまった畑は少ない。

住友商事は農地集積による事業展開のノウハウを得ようと 2010 年、さかうえに 20% 出資したが、農地が思うように集まらず、出資を 10% に減らした。 さかうえの坂上康博事業部長 (46) は「農家の高齢化が進んでいるが、農地は誰にでも貸すわけではない。 狭い畑でも大切に耕していれば、それを見て『自分の畑も耕して欲しい』と声がかかる」と期待する。

こうした農地集積を後押しする新たな税制がこの 4 月から始まった。 耕作していない農地を、都道府県ごとにある「農地中間管理機構」に貸せば 17 年度以降、固定資産税が最長 5 年間、半分に減税される。 貸さない場合は 2 倍近くに増税となる。 農地集約に協力するか否かで減税にも増税にもなる「アメとムチ」のような税制だ。

旗を振るも「骨抜き」決着

この税制を求めたのは、内閣府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)。 経営者や学者らが、安倍政権が掲げる「岩盤規制の打破」に向けた具体策を提言する組織だ。 とくに規制が多い農業分野は同会議の「標的」の一つで、農協改革でも旗振り役を担ってきた。 昨年 5 月に開かれた同会議の会合では「税制の見直しをやらなければ農業改革もまっとうできない」など、農地集約のための税制改正を後押しする意見が相次いだ。

翌 6 月、規制改革会議の答申に基づいて閣議決定された政府の実施計画に「農地保有に係る課税の強化・軽減の仕組みについて検討」の項目が入った。 「ようやく決まった。」 税制改正の実権を握る自民党税制調査会が正式にこの税制を決めた後、昨年 12 月に開かれた規制改革会議の会合では、委員からこんな発言が出た。 農地を貸さない農家に対し、増税の「ムチ」を与えるような税制には与党内で慎重論が根強く、最初の提言から実現まで 3 年かかったからだ。

今回、農協などから目立った反対の声は上がらなかった。 複数の関係者は「農林水産省が関係各方面と調整をして骨抜きになった」と明かす。 各地の農業委員会は毎年、農家に対し、農地をどう活用していくかの意向調査をする。 そこで農地中間管理機構に貸し出す意向を示せば、結果として貸せなくても課税は強化されないことになったのだ。

15 年度以降の意向調査は課税強化の判断材料になる。 たとえば、岩手県の機構には調査に対し、今年 3 月半ばの時点で 9 市町村の計 112 ヘクタール分の貸し出し希望があったという。 今後、それぞれの農地について、現地を見たうえで農業委員会などと協議し、借りるかどうか判断するが、岩手県の機構は「多くは山間地などで、すでに木が生えたりして、借りることは難しいだろう。 課税強化で貸し出し希望が増えそうだ。」とみる。 機構が借りないと判断すれば、耕作放棄地のままであっても固定資産税の負担はこれまでと変わらないことになる。

寄稿の仲介機能、不全

実際の農地の貸し借りの現場では、今回の税制改正で農地集約が進むとみている関係者は少ない。 仲介役である中間管理機構が、そもそも農地の仲介機能を果たせていないためだ。 JR 九州は 14 年、子会社の JR 九州ファーム(佐賀県鳥栖市)を設立して農業に本格参入した。 鹿児島と佐賀を除く九州 5 県に 8 カ所の農場を持つが、機構の利用は 1 カ所だけ。 九州全県の機構に仲介を頼んでいるが、紹介されるのは林になっていたり、トラクターも入れなかったりする土地ばかりという。

機構は、貸し出し希望のある農地をすべて受け入れるわけではない。 農家に対しては、先に借り手を見つけてから機構に持ち込むよう求めてきたのが実態だ。 借り手のあてがないのに機構が農地を抱えると、水利費や草刈りといった管理費がかかり、塩漬けの土地に税金をつぎ込むだけの事態に陥りかねないからだ。 JR 九州ファームにとっても、土地を集約するには結局、農家と地道に交渉するしかないという。 田中渉社長は「こいつだったら自分の畑を貸してもいいと思ってもらうしかない。 農場長には『駅長と同じで地域のお祭りでもどぶさらいでも参加するように』と指示しています。」と話す。

一方、自治体が機構を受け皿として農地借り受けの交渉をし、農地を活用してくれる企業を誘致する事例もある。 ワールドファーム(茨城県つくば市)は、集約した農地で栽培した野菜を自前の工場で加工する事業で業績を伸ばしている会社だ。 00 年にできたが、07 年に熊本県に進出し、9 県に農場、3 県に工場がある。 進出先の生産が軌道に乗ったところで工場を建てる。

その一つ、茨城県常陸太田市の常福地地区では、国、県、市が工事費の約 800 万円を出して、計 1.8 ヘクタールの耕作放棄地や畑を再整備している。 市は同社のために地元の地権者をとりまとめた。 市は、少し離れた東連地地区でも、同社のために地権者を説得して、計 6.4 ヘクタールを用意した。

機構を介して貸し借りすると、地権者には 10 アールあたり 2 万円の「集約協力金」などが出る。 同社の浅野麗香総合品質管理部長 (28) は「機構は自治体と共同の事業には便利。 耕作放棄地は地力が落ちているので、商品ができるまでに 3 年ぐらいかかる。 その後、工場を造る計画です。」と話す。 (asahi = 4-4-16)

農地中間管理機構〉 都道府県ごとに置かれる「農地バンク」。 農地を所有者から借りて農業法人や専業農家などに貸す。 貸し手には機構を通じて賃借料が支払われる。 制度が始まった 2014 年度は、全体で約 6 万ヘクタールの集積が進んだが、そのうち機構を通したのは約 7 千ヘクタールだけだった。


農産物輸出額、過去最高 7,452 億円 和食ブーム追い風

農林水産省は 2 日、2015 年の農林水産物・食品の輸出額が、前年より 21.8% 多い 7,452 億円となり、3 年連続で過去最高を更新したと発表した。 高品質な果物や養殖水産物が海外で高値で取引されている上に、世界的な和食ブームも追い風となった。

安倍政権は「2020 年に 1 兆円」としていた目標を、環太平洋経済連携協定 (TPP) で参加国の関税の多くが撤廃されることなどから、前倒しで達成するとしている。 2 日の閣議後会見で森山裕農林水産相は「日本産は安心安全という評価が一番大きい。 海外での(割高な)販売価格を改善できるようにしたい。」と話した。 輸出先を国・地域別でみると、香港が 1,794 億円(33.5% 増)、米国 1,071 億円(14.9% 増)、台湾 952 億円(13.8% 増)と続く。 加工食品は 2,221 億円(26.0% 増)と輸出全体の 3 割を占める。 日本酒、ウイスキーなどのお酒や、清涼飲料水、お菓子などが増えているためだ。 (asahi = 2-2-16)


TPP 大筋合意の成果 拡大機運 中国の動向が鍵

10 月 5 日に TPP (環太平洋経済連携協定)が大筋合意に至ったことで、アジアでは FTA (自由貿易協定)の交渉がにわかに活発になっています。 TPP を自国への包囲網とさせないよう、中国が対策を急いでいるためです。

11 月 1 日には、停滞気味だった日中韓 FTA の交渉を加速することで各国の首脳が一致しました。 中国は日中韓と ASEAN (東南アジア諸国連合) 10 カ国に豪州、ニュージーランド、インドを加えた計 16 カ国が参加する RCEP (東アジア包括的経済連携協定)をアジアの自由貿易圏づくりの中心にしたいと考えています。 一方で中国には、より自由化度の高い TPP への参加を目指すべきだという議論も根強くあります。 年内発足予定のアジアインフラ投資銀行 (AIIB) 総裁に内定した金立群氏が、米国での講演で「中国は TPP 参加に興味がある」と語ったのは象徴的でした。 (asahi = 11-21-15)


農産品輸出 1 兆円 TPP 大綱素案、中小の海外進出支援

政府が 25 日にまとめる環太平洋経済連携協定 (TPP) 対策の素案が明らかになった。 中小企業の海外進出を支援し、支援対象の企業の 8 割以上が海外で取引先や市場を獲得するのを目標に掲げた。 農産品や食品の輸出額は 2014 年の 6,000 億円超から 20 年までに 1 兆円にする。 TPP を契機に農家の不安に配慮しつつ、農業の成長産業への転換を進める。

対策は「総合的な TPP 関連政策大綱」。 TPP を「アベノミクスの成長戦略の切り札」と位置づけ、国内投資や生産性の向上で「実質国内総生産を押し上げることが期待される」とした。 「国民の不安を払拭し、成長産業として力強い農林水産業をつくりあげるため万全の施策を講ずる必要がある」とも記した。 農業では米価下落を避けるため、輸入量の増加に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる。 牛・豚肉生産者の赤字を補填するしくみを法律で恒久化し、補填割合も現在の 8 割から 9 割に引き上げる。

中小企業の海外進出は、自治体や商工会議所が一体で支援。 業績改善につなげるため数値目標を示し、支援対象の企業が経常利益で 1% 以上、付加価値額で 3% それぞれ増やすのを目指す。 海外での入札機会の拡大を踏まえ、20 年にインフラシステムの海外での受注を約 30 兆円にする。 映画やアニメなどコンテンツ産業も、18 年までに海外売上高を今の約 3 倍に増やす。 外資系企業との窓口に日本貿易振興機構(ジェトロ)は 19 年度までに 470 件の海外企業の誘致を目標とし、海外のマネーを呼び込むことにも努める。 (nikkei = 11-21-15)


牛肉や豚肉、アジ、サバなど価格下落か TPP 影響分析

農林水産省は 4 日、環太平洋経済連携協定 (TPP) の畜産品、乳製品、水産物などへの影響について、主要な 19 品目の分析結果を公表した。 牛肉や豚肉、アジ、サバなど 8 割近い 15 品目で、生産者側にとって「価格が下落する懸念がある」と指摘した。

畜産品は、全 5 品目で「価格下落の懸念」を指摘。 特に牛肉は 38.5% の関税が TPP 発効 16 年目に 9% になるため、影響が大きいとされている。 脂肪分が多く高級な和牛は、「品質・価格面で輸入牛肉と差別化」されているとして、「輸入の急増は見込み難い」と分析。 一方、「国産牛」として格安で売られるホルスタインなど乳用牛の肉は、赤身が多いため、「米国・豪州等からの輸入牛肉と競合し、価格の下落も懸念される」と指摘した。

乳製品は、生乳計 7 万トン分のバター・脱脂粉乳の輸入枠が設けられた。 国による貿易管理が維持されるため「無秩序に輸入されることはなく、乳製品全体の国内需給への悪影響は回避の見込み」とした。 しかし、チーズなどの関税が削減・撤廃されるため加工向けについては「乳価の下落も懸念される」とした。

水産物は 12 品目のうち、干しノリ、コンブ、ワカメ・ヒジキ、ウナギの 4 品目で「特段の影響は見込み難い」とした。 海藻類は関税削減が 15% にとどまった上に、いずれも TPP 不参加の中国や韓国からの輸入が多いためだ。 分析では、10 月 29 日に発表されたコメや野菜などの影響と同様、品目ごとに分析結果を列挙しているが、農産物全般を総括する分析はない。 (大畑滋生、asahi = 11-5-15)


TPP ルール分野、食の安全変更なし 知財関連は変更へ

環太平洋経済連携協定 (TPP) の政府対策本部は 22 日、TPP に伴う国内法改正について、関税分野と知的財産分野などにとどまるとの見通しを示した。 食の安全や国民皆保険制度などは、現行制度から変更は必要ないとの認識だ。 渋谷和久・内閣審議官が 5 日に発表したルール分野の大筋合意の概要資料をもとに会見した。 TPP に伴う法改正では関税変更や、関税を優遇する条件を定めた「原産地」の関連法を挙げ、「あとはほぼ知的財産で、特許や商標、著作権といった関係だ」と述べた。

著作権は、映画を除く小説や音楽などの保護期間を「作者の死後 50 年」から「死後 70 年」に延長する。 刑事手続きでは、著作権者の告訴なしに当局が起訴できる「非親告罪」に変更。 特許審査に不合理に時間がかかった場合、特許期間を延長する新制度も設ける。 一方、懸念されてきた輸入食品の安全基準では、各国が世界基準より厳しくできる世界貿易機関 (WTO) の協定を踏まえた内容となり、検疫などで「制度変更が必要な規定はない」と説明。 食品の表示も、遺伝子組み換え食品の扱いを含めて「現行制度の変更はない」とした。 (清井聡、asahi = 10-23-15)


重要農産物、3 割関税撤廃 = 輸入品全体で 95% 無税に - TPP 自由化の全体像

政府は 20 日、環太平洋連携協定 (TPP) 交渉の大筋合意に盛り込まれた貿易自由化の全体像を発表した。 農林水産物の市場アクセス分野では、日本がこれまで関税を維持してきた 834 品目のうち、ほぼ半分に相当する 395 品目の関税を撤廃。 「聖域」と位置付けた重要 5 項目(586 品目)についても、牛タンやソーセージなど 3 割に当たる 174 品目の関税をなくす。 政府は今後、重要農産物の関税維持を求めた国会決議との整合性が問われそうだ。

工業品と合わせた日本の全貿易品目(9,018 品目)のうち、TPP で最終的に関税をなくす割合を示す撤廃率は 95.1% となり、日本が結ぶ貿易協定の中で最も高い比率となる。 日本はこれまでに 15 カ国・地域と自由貿易協定 (FTA) を結んでおり、撤廃率はオーストラリアとの協定の 89% が最高だった。 コメや麦、牛肉など重要 5 項目では 7 割(412 品目)の関税を TPP 合意でも維持するが、これらを除けば過去に関税を撤廃したことがない品目のほとんどで輸入の門戸を大きく開くことになる。

甘利明経済再生担当相は 20 日の記者会見で「農産品に限ると(日本の)関税撤廃率は交渉参加 12 カ国で一番低い」と語った。 日本以外の 11 カ国の工業品を含む関税撤廃率は、ほぼ 100% となる。 森山裕農林水産相は、農林水産物 2,328 品目のうち約 19% の 443 品目で関税が維持されると指摘。 「関税撤廃の圧力が極めて強かった TPP で 19% は群を抜いて高い。 参加国の中で(日本は関税を)しっかり守れた」と強調した。 (jiji = 10-20-15)


野菜の関税、TPP でほぼ撤廃 食品用・外食で恩恵も

大筋で合意した環太平洋経済連携協定 (TPP) で、野菜のほぼすべての関税が撤廃されることが分かった。 森山裕農林水産相が 16 日、閣議後の記者会見で明らかにした。 現在、日本に輸入されている野菜の多くは中国や韓国など TPP の域外からで、関税撤廃の食卓への影響は今のところ限定的とみられている。

トマト、ネギ、ニンジンなど主要な野菜は関税率 3% を TPP 発効後すぐに撤廃する。 イチゴ、メロン、スイカ (6%) なども即時撤廃。 タマネギは低価格品にかけている 8.5% の関税を 6 年目に撤廃する。 ジャガイモは生 (4.3%) は即時撤廃。 細く切ったフライドポテト向け (8.5%) は 4 年目に、ポテトチップス(主に紙の筒に入っているタイプ、9%)は 6 年目に撤廃する。 スイートコーンは生 (6%) は 4 年目に撤廃、冷凍 (10.6%) は即時撤廃する。 (大畑滋生、asahi = 10-17-15)


TPP 対策、基本方針を決定 農家の体質強化が柱

政府は 9 日、環太平洋経済連携協定 (TPP) の大筋合意を受け、全閣僚をメンバーにした TPP 総合対策本部の初会合を開いた。 会合では、TPP の活用を後押ししたり、国内農家の体質を強化したりすることを柱とする対策の基本方針を決定した。 年内に具体策をとりまとめる。

安倍晋三首相は会合で、「TPP は成長戦略の切り札。 TPP を我が国の経済再生、地方創生に直結させていきたい」と述べた。 影響が懸念される農業分野については「守る農業から攻めの農業に転換し、意欲ある生産者が安心して再生産に取り組めるものにしていく」と強調。 そのうえで、「基本方針を踏まえ、効果的、効率的な施策を検討して頂きたい」と指示した。

基本方針は、@ 大企業だけでなく、中堅・中小企業が TPP を活用して海外市場に進出することなどを後押しする、A 国内の生産性向上につながるようにする、B 合意内容を丁寧に説明し、農林水産業の体質強化を進めることなどで国民の不安を払拭する、という 3 点を目標としている。 (鯨岡仁、asahi = 10-9-15)


オレンジやハム … 農業分野の関税撤廃 400 品目 TPP

大筋合意した環太平洋経済連携協定 (TPP) について農林水産省は 8 日、重要 5 項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)以外の身近な食品の多くで関税が撤廃されると発表した。 交渉関係者によると、農業分野で関税を撤廃させたことのない 834 品目のうち、オレンジやハム、はちみつなど 400 品目ほどの関税が撤廃される。

農水省は正確な撤廃品目数を精査している。 TPP は互いに関税を撤廃し、自由に貿易するのが原則だ。 ただ、食料戦略として重要な米などは国内農業を保護するため、重点的に交渉を進めてきた。 その結果、最重要とされた米は年約 8 万トンの輸入枠を設ける代わりに、従来の高関税制度を維持する。

新たに明らかになったのは、そのほかの食品だ。 半数ほどが関税の撤廃対象となった。 オレンジは現在、国産ミカンと競合する 12 - 5 月は関税率 32%、ほかは 16% だが、TPP 発効後 8 年目までに段階的に撤廃する。 ただ、ミカンの旬(12 - 3 月)に輸入しすぎた場合、関税率を上げるセーフガードを設ける。 果物はリンゴ、パイナップルが 17% の関税を 11 年目に撤廃。 ブドウ(現在 7.8 - 17.0%)は即時撤廃など多くが開放される。 (大畑滋生、編集委員・小山田研慈、asahi = 10-9-15)


TPP 大筋合意の見通し 甘利担当相「発表準備整った」

米アトランタで開いている環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉をめぐり、甘利明 TPP 相は米国時間 4 日正午(日本時間 5 日午前 1 時)すぎ、記者団に対し、「午後に閣僚会合を開いて、大筋合意を発表する記者会見を開く準備が整ってきていると思っている」と表明した。 最大の懸案だったバイオ医薬品のデータ保護期間で米国と豪州が合意したことを受け、交渉全体の合意に道筋がついたとの見方を示したものだ。

甘利氏は、安倍晋三首相に電話で「見通しを報告した」と明かし、「(首相は)非常に喜んでいた」と語った。 また、「夜を徹した折衝で、医薬品、乳製品、自動車の原産地規則の残された課題について、大きな前進があったとの報告をうけた」と説明。 大筋合意について「この目標に向けて最後の努力を懸命に行っている」と語った。 大筋合意すれば、経済規模で世界全体の約 4 割を占める巨大な貿易圏が環太平洋に誕生することになる。 (アトランタ = 清井聡、鯨岡仁、大畑滋生、asahi = 10-5-15)


TPP 交渉、米が再延長打診 バイオ医薬品巡り調整続く

米アトランタで開かれている環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉の閣僚会合は 3 日午後(日本時間 4 日未明)も、最も難航しているバイオ医薬品をめぐる米国と豪州の調整が続いている。 2 日間の日程はすでに 4 日目まで延長しているが、議長国の米国はさらなる延長を各国に打診した。 甘利明 TPP 相は 3 日昼前、フロマン米通商代表部 (USTR) 代表と会談。 その後、記者団に対し、懸案を決着させることと、延長は最後とすることを条件として、24 時間の滞在延長を受け入れたことを明らかにした。

医薬品では、データ保護期間の 12 年での統一を主張してきた米国が、豪州などが求める 5 年に安全性を確認するための審査期間の 3 年を上乗せし、「実質 8 年」とする譲歩案を豪州に示した。 米国はこの案を軸に、参加 12 カ国が受け入れられる案を豪州とともにまとめる方針で、3 日朝にかけて徹夜で調整を続けた。 しかし、溝は埋まっていない模様だ。 (アトランタ = 鯨岡仁、大畑滋生、asahi = 10-4-15)


TPP 車分野、実質決着 部品の域内調達 50% 台半ば

米アトランタで開かれている環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉で、日米とメキシコとカナダの 4 カ国は 2 日(日本時間 3 日)、自動車の関税を撤廃する条件を定めた「原産地規則」について、域内部品の調達率を 50% 台半ばとすることで大筋で合意した。 難航していた自動車分野は実質的に決着した。 最大の懸案であるバイオ医薬品をめぐっては、米国が 2 日、新薬のデータ保護期間を実質 8 年とする譲歩案を豪州などに初めて示した。 難航 3 分野の二つが大きく動いたことで、閣僚会合は 3 日も続く見通しだ。

域内部品をどれくらい使えば関税撤廃するかを定める自動車の「原産地規則」は、7 月末の前回会合で懸案に急浮上した。 自国の部品産業を守りたいメキシコとカナダが、北米自由貿易協定 (NAFTA) 並みで日本の計算方式では 70% 相当となる水準を要求。 タイや中国などからも部品を調達したい日本は、50% 台半ばを求めてきた。 (アトランタ = 五十嵐大介、鯨岡仁、大畑滋生、asahi = 10-3-15)


TPP 自動車協議の結論出ず 次の閣僚会合見通し不透明

環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉で、ワシントンで開かれていた日米の実務者による自動車分野の協議が 11 日終わった。 カナダやメキシコも交えて 3 日間にわたり話し合ったが結論は出ず、次の焦点の閣僚会合の開催の見通しはついていない。

今回は、低関税や無関税などの優遇措置について、TPP 域内で作った部品をどのぐらい使った自動車を対象にするかを決める「原産地規制」を協議した。 部品メーカーを抱えるカナダやメキシコが北米自由貿易協定 (NAFTA) 並みの高い比率を求める一方、域外の部品も使いたい日本が低い比率を求めており、対立が続いている。 (ワシントン = 五十嵐大介、asahi = 9-12-15)


TPP 漂流なら日本は成長戦略の見直しを迫られる

[ラハイナ(米ハワイ州)] 環太平洋連携協定 (TPP) は、今回も最終合意が先送りされた。 交渉をリードする米国の政治日程を考慮すれば、甘利明 TPP 担当相が言及した 8 月末までの次回閣僚会合が「ラストチャンス」になる。 もし、TPP が漂流すれば、アジアインフラ投資銀行 (AIIB) で勢力拡大を狙う中国に対し、日米は有力なけん制カードを失うだけでなく、日本は成長戦略の見直しを迫られる。 日米にとってこの 1 カ月間は正念場だ。

「今回を最後の閣僚会合にする、すべての国がそういう思いだ - -。」 こう何度も会見で繰り返してきた甘利明 TPP 担当相。 だが、その思いは果たされなかった。 12 カ国の閣僚と交渉官は、7 月 28 日から 31 日まで連日、2 国間交渉を断続的に開き、詰めの作業を進めたものの、合意の前に立ちはだかる溝を埋めて前進することはできなかった。

発足メンバー NZ の意地

TPP は、もともとはシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランドの 4 カ国で交渉が始まったが、後から参加した米国と一番最後に参加した日本が、途中から主導権を握る。 「例外なき関税撤廃」によって高度な自由貿易のルールを作るという当初の「高い目標」には、次々と例外的な条項が付加された。 最終段階になって、この動きに反発したのは、オリジナルメンバーのニュージーランドだった。 一貫して自国の乳製品に対する市場開放を求めてきたが、米国、日本、カナダなど自国の酪農に対する保護政策をとっている国が例外規定を提案。 対立はついに解けず、7 月 31 日を迎えてしまった。

甘利担当相は、名指しこそ避けたものの「ある国が、過大な要求を他国に求めている」とニュージーランドの姿勢を批判した。 これに対し、7 月 31 日の共同記者会見で、記者から「TPP を脱退しようと思ったことはないか」と質問されたニュージーランドのグローサー貿易相は「われわれは TPP の当初のメンバーだし、最初のペーパーを書いたのは私だった。 TPP を脱退しようと思ったことはない。」と答え、自国の主張の正しさを訴えた。

乳製品だけでなく、医薬品の特許をめぐり、12 年間を主張する米国に新興国は 5 年間を提案。対立を解きほぐすため、日本政府は 8 年間の妥協案を提案したとされるが、最終合意は見送られた。 妥協が近いとみられていた自動車分野でも対立が残っており、甘利担当相が示した 8 月末ごろまでの次回閣僚協議までに、本当にこれらの対立点が解消されるのか、各国の交渉担当者からは、楽観的なコメントは出たものの、合意を確信していると明確に指摘した発言はついに出なかった。

漂流なら対中けん制のカード失う日米

今回の閣僚協議の前に、国際貿易に詳しい日本のある関係者は、TPP が合意できれば、AIIB を活用したインフラ整備の枠組みで、東南アジア諸国連合 (ASEAN) 各国にくさびを打ち込もうとする中国の戦略的意図に対し、大きなけん制的機能を果たすことができると述べていた。 もし、1 カ月たっても合意ができない場合、来年の大統領選を前にレームダック化が進むオバマ政権が、年内の合意に向けて政治力を発揮できるのか、かなり不透明感が強まる。

この 1 カ月間で他の 10 カ国を説得して合意を勝ち取れない場合、日米は貿易面での利益だけでなく、戦略的な面での「利益」をみすみす手放すことになりかねない。 一方、日本は経済的な面でも、推進エンジンの 1 つを失う構図となる。 日本経済研究センターの試算では、2025 年までに 1,050 億ドルの所得押し上げ効果が日本にもたらされるという。

その中で指摘されているのは、TPP によって日本国内に外国資本の流入が活発化し、流通や物流などこれまで生産性の低かった分野での競争を促し、日本の成長率を押し上げるというメカニズムだ。 TPP が漂流した場合、こうした第 3 の矢にあたる構造改革の推進力が弱まり、そのことを海外の投資家が懸念すれば、株高トレンドにも影響しかねないとある国内金融機関の関係者は分析している。

最終日の記者会見は予定より 2 時間半遅れて始まり、笑顔のないフロマン米通商代表部 (USTR) 代表と、甘利担当相がひな壇の中央に並んで座った。 関税撤廃を掲げてスタートした TPP 協議の中心に、農業保護政策をとる 2 つの大国が位置すること自体が、国益が複雑にからみあう貿易協定締結の難しさを物語っていた。 (Reuters = 8-2-15)


米国産コメに優先枠 7 万トンを検討 TPP 交渉で妥協案

環太平洋経済連携協定 (TPP) の日米交渉で、日本が米国産米の優先輸入枠について、協定発効後に 5 万トンを設け、13 年目に 7 万トンまで段階的に拡大する案を検討していることがわかった。 日本はこの妥協案を 28 日から米ハワイ州マウイ島で開く日米閣僚会談で米国に示す方針で、米国の出方が焦点となる。 米国と同じくコメの輸出拡大を求めている豪州には、米国向けの 12% 相当の優先輸入枠を設ける。 両国合計で協定発効から 3 年間は 5 万 6 千トン、その後に年 2,240 トン(米国産は 2 千トン)ずつ増やし、13 年目以降は 7 万 8,400 トンとなる。ただ、米国が求める買い取り保証には応じない考えだ。

これまでの交渉で、日米は無関税か低関税の輸入枠をつくる方向で一致。その規模をめぐり、17.5 万トンを求める米国と最大 5 万トンとする日本が対立してきた。 最大で 7 万トンとする今回の妥協案でも、米国の要求との隔たりはなお残る。 このため、毎年 77 万トンの外国産米を輸入するミニマムアクセス (MA) と呼ばれる別のしくみでも、米国産を現在の 36 万トンからさらに引き上げることを検討し、優先輸入枠で米国の譲歩を引き出す考えだ。 (asahi = 7-26-15)


中国先行すれば「30 年締め出される」米大統領

【ワシントン = 安江邦彦】 オバマ米大統領は 17 日の記者会見で、成長力のあるアジア地域で米国がルールを築かなければ「中国が企業や労働者に有利となるルールを確立する」と述べ、環太平洋経済連携協定 (TPP) 交渉を推進する考えを強調した。

中国に先行されれば、「(その後)20 - 30 年は締め出される時代が到来する」と中国への警戒感を改めて示した。 TPP の交渉妥結に必要となる通商一括交渉権 (TPA) をオバマ氏に与える法案が 16 日、米議会に提出された。 交渉に弾みがつくことが期待されており、日米閣僚会談が 19、20 日に東京で開かれる。 (yomiuri = 4-18-15)