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パナ傘下の IT 大手ブルーヨンダー、米同業を 1,200 億円超で買収へ

パナソニックホールディングス (HD) 傘下で、製品の供給網管理システムを手がける米 IT 大手ブルーヨンダー (BY) は 29 日、同業の米ワンネットワークを 8 億 3,900 万ドル(約 1,270 億円)で買収すると発表した。 両社がもつ膨大なデータを共有し、事業規模の拡大や新たなサービスの創出につなげたい考えだ。

BY は、パナソニック HD 傘下でソフトウェア事業を担うパナソニックコネクトの完全子会社。 AI (人工知能)を活用し、製品の生産計画づくりや在庫管理を効率的に行うシステムを、約 3 千社に提供している。 今年 7 - 9 月をメドにワンネットワークの全株式を取得するという。 パナソニックコネクトの樋口泰行 CEO (最高経営責任者)は記者会見で、今回の買収によって「(システムへの)参加企業数は指数関数的に増える。 取得できるデータ量が増加することで、BY の核である AI の計算制度も飛躍的に高まる」と述べた。 (中村建太、asahi = 3-29-24)


パナソニック HD、4 - 12 月期は純利益 2.5 倍 米補助金が追い風

パナソニックホールディングスが 2 日発表した 2023 年 4 - 12 月期決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期より約 2.5 倍増の 3,991 億円だった。 米国での電気自動車 (EV) 用電池の生産に対する米政府の補助金が、純利益を 828 億円押し上げた。 売上高は 1.2% 増の 6 兆 3,003 億円、本業のもうけを示す営業利益は 36.7% 増の 3,202 億円だった。 中国の景気減退によって家電や電子部品の販売が苦戦した一方、北米向けの EV 用電池や航空機向けの座席モニターの引き合いが強く、営業増益につながった。 24 年 3 月期は、昨年 10月の予想から変えず、純利益は過去最高の 4,600 億円を見込む。

米投資ファンドグループに売却する予定の子会社「パナソニックオートモーティブシステムズ」が手がける車載機器事業は、世界的な自動車生産の回復をうけて、前年同期は 1 億円未満だった営業利益が 379 億円となった。 同社の売却をめぐっては、今年 3 月末までの正式契約を目指しているが、「様々な審査も必要になってくるので、24 年度は連結子会社として今のまま残る。(梅田博和副社長)」見通しだという。 (中村建太、asahi = 2-2-24)



パナソニック、EV 向け電池に 6 千億円を投資 大阪市と門真市に拠点

パナソニックホールディングス (HD) は 18 日、電気自動車 (EV) 向けの車載電池事業を成長の主軸に据えて、2024 年度までに 6 千億円近くを投じると発表した。 楠見雄規社長兼最高経営責任者 (CEO) は、23 年度中に事業のポートフォリオ(組み合わせ)の見直しを進めると説明。 切り離した事業を株式上場させる可能性にも触れた。 同日開いた経営戦略説明会で明らかにした。

同社はこれまで車載電池と、企業向けの IT サービス、空調関連の 3 事業を同列に成長分野としてきた。 24 年度までに、3 事業の成長のための 4 千億円とグループ全体の技術開発への 2 千億円の計6千億円を投じる計画だった。 今回、車載電池への投資を強めることで、集中的に事業強化を図ることにした。 これにより、30 年度までに車載電池の生産能力を 22 年度比で約 4 倍に引き上げる。 24 年春に大阪市、25 年春に大阪府門真市に、それぞれ車載電池の開発拠点をつくる方針も打ち出した。

楠見氏は同日、車載電池事業を手がける子会社「パナソニックエナジー」の新規上場が選択肢にあるか問われ、「様々な財務戦略を検討していく」と述べ、可能性を否定しなかった。 パナソニック HD は 17 年から米ネバダ州で EV 大手のテスラと車載電池工場を共同運営している。 カンザス州にも新工場を建設しており、24 年度中の量産開始を目指している。

楠見氏は 21 年 4 月にトップに就任してからの 2 年間を「競争力強化」の期間と位置づけ、この間は大きな事業の入れ替えは見送ってきた。 楠見氏は 23 年度中に事業の組み合わせの見直しに向け、方向性を決めると明言。 事業を切り離した場合には「極端に言うと、マイノリティー(少数株主)化して上場させるといったことも視野に入れるべきだ」と述べた。

同社は、事業の収益性のほか、市場の安定的な成長が見込めるかどうかなどを基準とし、事業の切り離しやグループ内での業態転換を検討する。 また、30 年度までに同社の全ての事業を、地球環境問題の解決や消費者の健康や安全に資するものに限るとした。 楠見氏は「入れ替える数字の目標を持つというのは当社らしくない」として、事業の見直しの規模について数値目標は持たない考えを示した。 (中村建太、asahi = 5-18-23)



パナが米国でお手伝いアプリ グーグル元幹部が開発

パナソニックは 10 日、仕事と家庭の両立で忙しい人の様々な用事を、担当スタッフがウェブ経由で手伝うサービスを米国で始めたと発表した。 手がけたのは米グーグル元幹部の松岡陽子常務。 「ソフトとハードの融合」に向けた改革を進めるために外部から招いた人材の一人で、2 年前に入社してから初めての具体的な成果となる。 9 日に米シアトルで始めたサービスは、利用者がスマートフォンのチャットアプリでスタッフと連絡を取り合う。 子どもの習い事の講師探しや、家族旅行の手配、親戚へのプレゼント選びなど、様々な手伝いを頼める。

例えば家の修繕が必要なときは、スタッフが AI を活用して最適な業者を選び、見積もりや手配を代行してくれる。 利用料は月 149 ドル(約 1 万 6,400 円)で、相談回数に制限はない。 同社は紹介した業者からも仲介手数料を受け取り、収益につなげる。 その先に構想するのが、本業との連携だ。 利用者に自社の家電や住宅設備を紹介するなどを想定しているとみられる。 松岡氏はこの日のオンライン説明会で、「コロナ禍で私自身も仕事と家庭の両立が難しくなり、このサービスを開発した。 将来的には介護分野などパナソニックの様々な商品やサービスと連携できると思う。」と話した。

サービスの提供地域は今後拡大を検討する。 日本での展開は未定という。 松岡氏は 16 歳で渡米してプロのテニス選手を目指したが、けがで断念。 マサチューセッツ工科大学などで電気工学とコンピューター科学を学んだ後、グーグルで次世代技術の開発を担う部門「X」を設立し、ウェアラブル端末や自動運転技術の開発に携わり、バイスプレジデントも務めた。 スマートホーム部門「ネスト」の CTO (最高技術責任者)を務めたり、米アップル製品の開発に携わったりもしたという。 米国の IT 業界では著名で、「ヨーキー」の通称で親しまれている。

パナソニックには 2019 年に役員待遇の「フェロー」として招かれた。 翌年に常務に昇格し、米シリコンバレーを拠点に新規事業を探ってきた。 同社が目指すソフトとハードを組み合わせた事業の強化や、縦割りなど日本の大企業に多く見られるとされる組織文化の打破を期待されている。 同社の経営陣は元々はほぼ生え抜きだったが、近年は経営改革に向けて外部人材の登用を進めてきた。 16 年には外資系金融機関のアナリストだった片山栄一氏を合併・買収 (M & A) 戦略の担当役員に起用(現在は常務)。 半導体など赤字事業からの撤退や、経営方針の策定を主導してきた。

17 年に専務として迎えた元日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏は、企業向けのシステム事業を統括。 7 千億円超を投じて買収する米ソフト大手ブルーヨンダーが強みを持つ供給網の効率化ソフトと、パナソニックのカメラやセンサーなどの機器を組み合わせた事業を指揮している。 (森田岳穂、asahi = 9-10-21)


パナソニック、米ソフト大手買収 7,000 億円で最終協議

パナソニックはサプライチェーン(供給網)の効率化を手がける米ソフトウエア大手、ブルーヨンダーを買収する方針を固めた。 投資額は 7,000 億円を軸に調整しており、同社にとって過去最大級の M & A (合併・買収)になる。 センサーなどにソフトを組み合わせた事業改善案を企業に提供しハード事業の幅を広げる。 モノの売り切りが主体だった製造業でビジネスモデルの変革が加速する。 複数の関係者が交渉入りを認めた。

ブルーヨンダーは人工知能 (AI) を活用し製品の需要や納期を予測するソフトを手掛け、顧客企業のサプライチェーンを見直し収益を改善する。 創業は 1985 年で、顧客は英ユニリーバや米ウォルマートなど世界約 3,300 社にのぼる。 19 年度の売上高は前年度比 8% 増の約 10 億ドル(約 1,085 億円)だった。 パナソニックは 2020 年に 860 億円でブルーヨンダーの株式 20% を取得済み。 残る株式は米ファンドのブラックストーンとニューマウンテンキャピタルが所有しており、全株買い取りに向けた詰めの協議に入っている。 実現すれば同社の M & A としては、11 年に約 8,00 0億円を投じて旧・三洋電機と旧・パナソニック電工を完全子会社化して以来の規模になる。

買収でパナソニックが目指すのが、ソフトとの融合を通じたハード製品の付加価値向上だ。 同社は店頭に設置する監視カメラや物流施設で使われるバーコード読み取り用の携帯端末などで高いシェアを持つ。 これら製品にブルーヨンダーのソフトを組みあわせることで、高い精度をもった在庫管理サービスなどとして顧客に提案しやすくなる。 例えばブルーヨンダーは約 500 店を展開する英スーパーのモリソンズに生鮮・加工食品の需要予測や自動発注のソフトを導入し、欠品を 3 割、在庫を 3 日分それぞれ減らした実績がある。 ソフトとハードの強みをかけあわせることで、サービスの事業領域も広がる。 安売り競争に陥りがちな製品納入ビジネスの見直しにもつながる。

家電やソフトの継続利用を通じて繰り返し収入を得るビジネスモデルの構築も狙う。 電機大手では、ソニーがゲーム、日立製作所が独自の IoT 基盤「ルマーダ」を軸に利用で稼ぐ継続課金ビジネスで先行する。 パナソニックはブルーヨンダー買収で需要分析などノウハウの蓄積を急ぐ。 サプライチェーンソフトの世界市場は 19 年で推計約 150 億ドル(1 兆 6,000 億円)で、今後も年 10% の成長が続く。 ハード中心の企業のデジタル化で需要が高まっている。

パナソニックは自己資金を軸にした買収を想定している。 21 年 3 月期のフリーキャッシュフローは 3,000 億円超の見通し。 設備投資を絞っており前の期比約 4 割増。現預金も約 1 兆 4,000 億円ある。 ただほぼ同額の有利子負債も抱えるため市場からの調達も検討する。 買収金額が大幅に膨らめば断念する可能性も残る。 ソフトを生かして製造業がハードを強める動きはグローバルな潮流だ。 独シーメンスは強みだった工場の制御機器を基に、ソフト分野の企業買収を通じサービスを組み合わせて収益力を高めた。 電気自動車 (EV) 最大手の米テスラも顧客の手に渡ってからもネット経由でソフトをアップデートし使い勝手を高め、顧客の支持を集めている。

買収後の融合策も課題になる。 パナソニックは 91 年に映画大手の米 MCA を 7,800 億円で買収したが、ガバナンス(企業統治)につまずき、わずか 5 年でカナダの大手飲料メーカー、シーグラムに売却した経験がある。 (nikkei = 3-9-21)

ブルーヨンダー 1985 年に JDA ソフトウエアとしてカナダで創業。 在庫管理や物流の効率化を手掛け、2018 年に人工知能 (AI) 開発に強い同業の独ブルーヨンダーを買収。 20 年に現社名に社名変更した。 業務改善システムは米プロクター・アンド・ギャンブル (P & G) や独 DHL、米スターバックスなどが導入している。 世界に 40 以上の拠点を持ち、従業員は 5,000人超。 売上高に対する EBITDA (利払い・税引き・償却前利益)比率は約 24% と、パナソニックよりも1桁大きい。



テスラとパナソニック、太陽電池の共同生産解消へ

米電気自動車 (EV) メーカーのテスラとパナソニックは太陽電池の共同生産を解消する。 テスラの太陽光パネルに使う太陽電池を生産するため、両社は米ニューヨーク州で工場を運営してきた。 ただ実際はテスラ製パネルでの採用はほとんどなく、生産量が増えないため近く稼働を止める。 中国勢が台頭する中、日本の太陽電池メーカーの退潮が鮮明になる。 テスラにとって太陽光事業は EV に次ぐ柱だが、当初の戦略を修正する。 両社は米ネバダ州にある車載電池工場「ギガファクトリー 1」を軸とした EV 向け電池の共同生産は引き続き維持する。

テスラとパナソニックは 2016 年に太陽電池の生産で提携すると発表。 米ニューヨーク州バッファロー市に「ギガファクトリー 2」と呼ぶ工場を設け、17 年から太陽光パネルの中核部材である太陽電池などの生産を始めた。 工場の運営主体はテスラでパナソニックは製造設備の購入など投資の一部を負担。 主にパナソニックが生産を担当する太陽電池は、テスラの主力の太陽光パネルである「ソーラールーフ」で採用されるはずだった。

ソーラールーフは黒い屋根のように見えるデザイン性が最大の特長だが、パナソニック製の太陽電池は見た目と発電効率の両立が難しくテスラの求める仕様に合わなかった。 現行のソーラールーフはコストも安い中国企業などの電池を採用しているもよう。 パナソニックは同工場で生産した太陽電池を、テスラの代わりに日本のハウスメーカーなどに販売してきた。 テスラは雇用創出を期待した地元自治体などから補助金を受けて工場を建設し運営をしてきた。 しかしこの先も太陽電池の生産量が増える見込みは薄く、両社は共同生産を続ける必要はなくなったと判断した。 テスラは 4 月、現地で投資家向けに開く説明会で同工場の新しい活用方法について発表する可能性がある。

テスラにおける太陽光パネルや蓄電池など「エナジービジネス」の売上高は 19 年 12 月期で約 15 億 3,100 万ドル(約 1,700 億円)と、全体の 6% にとどまる。 だが、16 年にソーラーパネル設置会社を買収するなど、主力の EV と親和性の高い太陽光発電は最高経営責任者であるイーロン・マスク氏が力を入れる事業だ。 テスラは懸案だった EV 生産が軌道に乗り、太陽光事業の行方に対する投資家の関心は高まっている。 テスラに日本経済新聞はこの件に関してコメントを求めたが、回答はなかった。

パナソニックは稼働率が低下していたラインの操業を停止しコストを削減する。 太陽電池を供給する日本のハウスメーカーなどの既存顧客には、太陽光事業で提携している中国 GS ソーラー(福建省)からの供給に切り替える方向で調整する。 パナソニックの太陽光事業は 11 年に完全子会社化した三洋電機の事業が源流。 技術力やコスト競争力を高めた中国勢の台頭などで数年前から赤字に転落した。 19 年に GS ソーラーに太陽電池の主力工場だったマレーシア工場を売却すると発表した。

EV 向け車載電池についてはこれまでパナソニックがテスラに独占的に供給してきた。 ただ、テスラの中国市場向け EV を巡っては、中国・寧徳時代新能源科技 (CATL) や韓国・LG 化学もテスラと提携した。 利益率の低迷に悩むパナソニックは、成長戦略の柱であるテスラとの提携事業に関しても採算性を精査する姿勢を強めており、両社の関係は以前に比べ変化している。 (nikkei = 2-26-20)

初 報 (5-10-18)


パナソニックが家電部門の本社を中国に移転、狙いは伏魔殿の解体

パナソニックは "賭け" に負けた。 家電の次の本業候補として投資を集中させた自動車事業が失速。 今度は母屋の家電事業まで低迷し、構造改革が急務な状況にある。 そこで、津賀一宏・パナソニック社長は、伏魔殿化した家電部門に解体的出直しを迫る「背水の新モデル」を繰り出そうとしている。

新設された CNA 社の "裏ミッション" とは

2019 年 4 月に産声を上げたパナソニックの地域カンパニー、中国・北東アジア (CNA) 社。 次期社長の最右翼と目される本間哲朗・パナソニック専務執行役員が社長を務める、社内でもっとも勢いのあるカンパニーである。 本間専務は CNA 社設立の狙いについて、「パナソニックの中国での売上高が、中国の GDP 成長率に見合った伸びを示していないという問題を解決するため」と淡々と語っている。 本間専務自身は中国語が堪能で、「現地でのプレゼンテーション聞いて驚いた(パナソニック社員)」というほどの腕前だ。 中国ビジネスを躍進させる立役者として登用されたのは間違いないだろう。

だが、CNA 社を中国攻略のためだけに設けられた地域統括拠点と位置付けるのは、あくまでも表向きの説明だ。 実は、CNA 社には "裏ミッション" が課されている。 端的にいえば、パナソニックの保守本流であり、伏魔殿と化している家電部門(アプライアンス〈AP〉社)の "解体" だ。 実際に、経営の中枢に身を置くある役員は「家電のライバルが中国などの海外メーカーに変わりつつある中では、強かった白物家電ですら今のビジネスモデルの延長線上では競争に勝てなくなる」と危機感を募らせる。 そして現在、パナソニック上層部では、検討事項として家電部門の本拠地を日本から中国へ移すこと、つまり家電部門の「中国本社」移転計画まで俎上に載せられているというのだから驚きだ。

他ならぬ津賀一宏・パナソニック社長が、「家電部門の本社を日本から中国へ移転する計画なのか」というダイヤモンド編集部の問いに対して、「もちろん、そういうことも視野に入れている。 ヘッドクオーター(本社)の中国への移管は一つの考え方です。」と認めている。 家電部門の解体と本社移転。 あまり穏やかな話とは言えないが、一体どういうことなのか。 どうも津賀社長ら上層部は、歴史的に発言力の強い家電部門の「事業部の縦割り志向」や「人事の硬直性」が、家電の低迷の元凶になっていると不信感を持っているようなのだ。 確かに、2020 年 3 月期の家電部門の営業利益率(見通し)は 2.8% と低い。

かつてのパナソニックの家電部門は強かった。 デジタル家電の総本山、AVC ネットワークス (AVC) 社は、事業こそジリ貧に陥ったが、今も各カンパニー幹部に出身者を送り込む人材の宝庫である。テレビなどデジタル家電の失速後も、安定収益を稼ぎ続けた白物家電部門の社内での発言権は強い。 数年前まで AP 社幹部の陣容が固定化し、経営上層部や本社が介入しづらい雰囲気すらある。 だからこそ、競合メーカー撤退後の残存者利益にあぐらをかいた。 とうの昔に、ライバルは国内メーカーから中国メーカーへ変わっていたのに、開発・生産拠点の統廃合に踏み込んだ構造改革への着手に遅れてしまったのだ。

そこで、津賀一宏・パナソニック社長は乾坤一擲の勝負に出る。 部門解体と本社移転という "ショック療法" を使うことで、現場の抵抗を断ち切り、本来の家電王国の底力を取り戻そうとしているのだ。 その具体策こそ、部門間の壁を取り払い、家電事業を中心に展開する AP 社と、電材事業を中心に展開するライフソリューションズ (LS) 社を融合させた「中国発の新しいビジネスモデル」を早急に作り上げることだ。

「縦割り志向」丸出し 役員合宿での仰天エピソード

部門の縦割り志向の強さを象徴する話がある。 18 年のパナソニック創業 100 周年を前に、主要な戦略課題について議論しようと週末に役員合宿が決行された時のことだ。 成長の柱として「住空間の新たなソリューション」を提案するため、AP 社とエコソリューションズ(ES、現 LS)社の融合が「テーマ」だったにもかかわらず、なぜか最終のプレゼンテーションは AP 社と LS 社が別々に行っていた。 そもそも、「エリート然とした旧松下電器産業(現パナソニック)と、超体育会系の旧パナ電工とでは全く気質が合わない。 両社の合併前は『電工の敵は電産、電産の敵は電工』といわれるほど仲が悪かった。(パナソニック取引先幹部)」

パナソニックを源流とする家電事業と、パナ電工を源流とする照明・配線器具といった電材事業とでは販売ルートが異なることから、反目するばかりで、互いに協業することもこれまではなかった。 しかし、津賀社長も本社の戦略部隊も、この「水と油の関係」にはさすがに呆れ返り、「やはり AP 社の伏魔殿ぶりは治らない。 日本ではなく、まずはしがらみのない中国で、AP 社と LS 社の融合を目ざすことを決意した。」と、パナソニック幹部は CNA 社設立の内幕を打ち明ける。

流通が未成熟であり、パナソニックとしての流通ルートも確立してない中国ならば、AP 社にとっても LS 社にとっても、販売チャネル開拓はゼロからのスタート。 しがらみがない分、協業関係が築きやすいというわけだ。 津賀社長の頭の中には、「中国シフトの続編」もありそうだ。 中国で構築した「AP 社 + LS 社モデル」を、日本を含めたアジアやインドへ横展開するというものだ。 昨年末に、津賀社長は「『可能性』で終わらせない」というタイトルの社員向けブログでインド市場について言及し、電材を突破口に攻勢をかける覚悟を綴っている。

草津の抵抗で中国移転が頓挫 今度こそ主要拠点の統廃合は必至

家電部門の本社移転を念頭に置いた、本気の中国シフトは、開発・生産拠点の統廃合をもたらすことになるだろう。 すでに「中国現地には白物家電だけで 1,500 人の技術者がいる(津賀社長)」としており、開発部門だけでもかなりの中国シフトが進んでいるという。 滋賀県・草津など主要な生産拠点の統廃合は必至だ。 事実として、過去に中国への移管が検討されたのだが、草津の猛反対にあい頓挫した経緯がある。 しかし外部環境を見ればやはり国内拠点閉鎖は覚悟しなければならない。

家電を取り巻く環境は一変した。 16 年にはシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となり、東芝も白物家電子会社を中国の美的集団に売却。 どちらもアジア企業の傘下で日系ブランドを活用しながらグローバル競争をいかに勝ち抜くかを模索している。 繰り返しになるが、パナソニックの敵は国内メーカーではなく、中国メーカーだ。 高単価製品が強かっただけに、パナソニックにはコスト競争力に対する耐性が乏しい。 中国起点でビジネスを考え、中国企業をライバルに持つならば、中国の家電メーカーが使う「標準部品」を調達できるかどうかが生命線になる。

しかも、白物家電の部品の主要サプライチェーンは中国へ移りつつあり、中国の部品メーカーは「日本向けの独自部品の生産は小ロットで効率が悪いため、受注を渋る(パナソニック役員)」という現実がある。 今後、中国の部品メーカーの勢力が一層増すことになれば、日本の家電部品市場が衰退し、部品の調達が難しくなる未来は想像に難くない。 高品質の標準部品を供給できる中国メーカーの開拓等はもはや必要不可欠となる。

贔屓目に見ても、パナソニックの部品調達を含めた生産体制の構築は、中国メーカーに比べて周回遅れだろう。 それでも、「足下で儲かっていることと、今のビジネスの延長線上でずっと競争に勝てるかってことは話が全く別。 競争環境が変わったなら土俵を変えるのは当然。」(パナソニック役員)」と意志は固い。

20 年前と比べて時価総額半減のピンチ

これほどまでに、津賀社長がトップダウンで改革の大ナタを振るわねばならないほどに、パナソニックが置かれている状況は厳しい。 19 年 3 月期に 4,000 億円超あった営業利益が、20 年 3 月期(見通し)には 3,000 億円に激減。 営業利益率も 3.9% に落ち込む。 「まさか、こんなはずではなかった」というのがパナソニック上層部の偽らざる気持ちかもしれない。 成長へのアクセルを踏もうと 1 兆円の戦略投資枠を設け、20 年 3 月期までの 4 年間で約 4,000 億円を、米テスラ向けリチウムイオン電池などの自動車事業に集中的に投じてきた。 だが、この博打に負けたことで、成長ドライバーを失った。

それだけではない。 津賀社長が「知らないうちに、モグラ(不採算事業のこと)が出てきた」と表現するように、カンパニーや事業部に任せきりだった“放任損益管理”の付けが回ってきている。 19 年 11 月 22 日に発表した新中期戦略(3 カ年)の詳細で、パナソニックは成長戦略の説明が不足しているとアナリストから批判された。 厳しい評価は、短期的な業績低迷だけに依るものだけではあるまい。 事業領域を担当する五つのカンパニー全てにおいて、将来の成長戦略を描き切れないという異常事態、人事の硬直性、事業部の縦割り - -。 名門電機パナソニックを襲う「老化現象」は深刻だと言わざるを得ない。

株式市場は正直だ。 松下幸之助という経営の神様を創業者に持ち、創業 100 年を超えるパナソニックだが、19 年 12 月 24 日時点の時価総額ランキングでは国内 54 位にまで順位を落としている。 同 6 位だった 2000 年 12 月 22 日時点と比較すると、時価総額は半減しており、凋落ぶりは明らかだ。 パナソニックは、起死回生の「中国発新モデル」を成就させて、再び市場の期待を取り戻せるのか。 社長就任 8 年目の津賀社長の、最後にして最大の戦いが始まった。 (新井美江子、浅島亮子、Diamond = 1-6-20)



パナソニック AWS 活用の衝撃

勝ち残る日本メーカーはもう「モノ売り」には頼らない

パナソニックは、急速に「家電メーカー」からソリューションカンパニーへのシフトを進めている。 それを象徴するような説明会が、米ラスベガスで開催中の Amazon Web Services(AWS) 年次開発者会議「re : invent 2018」の会場で開かれた。

「もはやモノを売るのではない。 管理を売る。」

そんな発想の元に、パナソニックは AWS と提携し、AI を使った新しい企業向けサービスを展開しようとしている。 「Vieureka (ビューレカ)」と名づけられたこのサービスで、パナソニックは何をしようとしているのだろうか? パナソニック・ビジネスイノベーション本部 PaN/Vieureka プロジェクト CEO の宮崎秋弘氏に話を聞いた。

実店舗の売れ行きを IoT カメラで「計測可能」にする

北海道のドラッグストアチェーン・サツドラ(サッポロドラッグストア)のある店舗には、52 台のカメラが取り付けられている。 カメラは非常にコンパクトで、手のひら程度の大きさしかない。 これが店舗内の至るところにあるのだが、目的は防犯「ではない」。 このカメラが担うのは、顧客の店内動線と消費行動の把握だ。 カメラにはプロセッサーが搭載されていて、画像認識ができる。 顔などを認識することによって顧客の年齢層や性別を分析して、「どの世代の人が、どの時間に何人来場し、店内のどこで商品を手に取ったのか」が分かるようになっている。 状況の把握はリアルタイムだ。

同じカメラを導入した、福岡の「スーパーセンター トライアル アイランドシティ店」の例はもっと大規模だ。 店舗面積が 3,753 平方メートルと広いため、カメラは 100 台に増えた。 店舗入り口のカメラでの結果と、店舗の奥のカメラの結果を比較することで、商品の売れ行きの良し悪しが「顧客導線の問題」なのか「商品の性質」が問題なのか … といったことを検討できる。

これはどういうことなのか?

簡単にいえば、「ウェブストア並みの解析を、リアル店舗でも実現する」ということだ。 ウェブストアでは売り上げだけでなく、どういう人々がどこから情報を得て、どの製品を検討したのか、といった多彩な情報を得ることができる。 一方でリアル店舗では、宣伝という入り口や「買った」という行動は分かるものの、それ以外の動きを捉えるのが難しい。 だが、画像解析を使うと、リアル店舗の弱みも解消できる。

こうした話を聞くと、誰もがプライバシーのことを気にするだろう。 もちろん、その点も配慮されている。 カメラで顔は撮影されているものの、顔などは一切記録されていない。 撮影するとすぐに「カメラの中で」認識が行われ、その後画像は破棄される。 クラウドに送られて、記録されるのは、「年齢層」「性別」といったシンプルな属性だけだ。 だから、個人をトラッキングしているわけではないし、逆に、収集された情報から個人を特定するのも難しい仕組みになっている。

「すべての画像をアップロードするのは、プライバシー上大きな問題があります。 それ以上に、これだけの量のカメラを使うなら、情報量が多くなってコストがかさみ、現実的ではありません。 ですが属性だけなら、情報量の問題は出ない。 管理も非常に簡単です。 1 店だと数十台・数百台ですが、目的は "チェーン全店" への導入です。 数千・数万・数十万という台数の管理は、いままでの方法では難しい。 ですが、我々の手法でなら管理ができる。」 宮崎氏はそう説明する。

店舗ではカメラが置かれていること、それで何をしているのかなどが明示されている。 パナソニックも導入企業も、プライバシーに関するクレームが来ることを警戒していたが、現状、パナソニックにも導入企業にも「クレームは 1 本もない(宮崎氏)」という。

アマゾン AWS をパナソニックが使う理由

Vieureka の特徴は、カメラ側で AI を使う「エッジ AI」という考え方と、システム全体の開発に AWS を全面的に活用していることだ。 システム自体は 3 年前から案件の交渉がスタートしており、Vieureka の名前では 2017 年から販売されている。 今回、re : Invent に合わせて説明会を開いたのは、エッジ AI を使う IoT 機器向け技術「AWS Greengrass」を導入したからでもある。 また、画像認識などいくつかのパートでは、自社だけの技術にこだわらず、多数のパートナーとともに開発を行っている。

Vieureka の構造。 基盤には AWS を活用し、最新バージョンでは「AWS Greengrass」を活用。 AWS を使って開発と運用を効率化している。 別の言い方をすれば、このビジネスを展開する上でパナソニックは、プラットフォームの基盤となる技術の多くを他社に依存している、ということになる。 「過去のパナソニックでは考えにくかったことですし、軋轢もありました。 しかし、現在のパナソニックは大きく考え方を変えています。(宮崎氏)」

過去、価値はソフトウエア技術を占有することにあった。 基盤(プラットフォーム)とその上に乗るソフトウエアで差別化する時代だった。 だが、いまやプラットフォームについては、AWS のようにスケールメリットがある存在にはかなわない。 ソフトウエアの核となるアルゴリズムなども、オープンソース開発が広がり、短時間でコモディティ化する。 AWS を選んだ理由は、試行錯誤のための初期費用が低く、システム構築のためのコンサルテーションの協力も積極的に得られたからだ。 もう、そこで独自のものを作るためにパナソニックが投資するのは意味がない。

だとすればどこで差別化するのか?

それが「ハードウエアとその管理」だ。 コンパクトで低価格かつ精度の良いカメラを、しかも大量に作るノウハウは、どのメーカーにでもあるものではない。 ハードウエアはパナソニックのようなメーカーにとって大きなノウハウだ。 だが、ハードウエアを売って儲けることには限界がある。 Vieurekaで使うカメラにしても、単価は 1 万 5,000 円ほどであり、高いものではない。 むしろ仕様をオープンにし、他社が開発したものを使うことも想定している。 パナソニックは企業からシステム利用料を徴収し、それが収益となる。 ハードウエアの提供を行うものの、そこから大きな収益を得る予定はない。

パナソニックとしては、コモディティ化する部分での独自性にはこだわらず、データの活用や管理などの差別化に集中する。 一方で、そうしたカメラとデータの管理システムはなかなかコモディティ化しない。 顧客側との関係とビジネスモデルに依存する部分は大きいが、現在の導入状況では、Vieureka で得られたデータはパナソニック側に所有権があり、解析した情報は色々な形でパナソニック側で利用できる。 例えば、ある店舗から得られた顧客導線情報を採点し、他の企業の例から得られたデータをさらに匿名化して作った情報と比較して「偏差値」を出し、それを元にコンサルテーションを行う … といったビジネスも可能になる。

「IoT 数百億台」時代の管理に向き合ってビジネスに

そもそも、カメラから得られたデータを統計情報として扱うには、多量のカメラを対象にする必要がある。 すでに述べたように、エッジ AI を使った画像認識の場合、集めるデータ量は少なくて済むし、使う機器もシンプルで、メンテナンスも簡単だ。 数百台・数千台という単位で使うのはもちろん、さらに上の世界も想定されている。 「IoT が増え、世界中に数百億台の機器が広がった時の管理をどうするのか、という点に向き合った結果。」 宮崎氏はそう説明する。

過去の 100 年、パナソニックは「モノ」を売ってきた。 だがこれからは、デジタルワールドに生まれる価値や情報を大切にする。 両方を組み合わせた形に、同社はビジネスモデルを「アップデート」中なのである。 パナソニックは、これまでの 100 年、リアル世界に「モノを売る」ことで収益を得てきたが、これからはデジタルワールドに生まれる価値とリアルの組み合わせで儲ける形へと、体制を「アップデート」する。

「まだ公開できる状況にない」とのことだが、現在パナソニックは、大手流通に導入すべく交渉を進めている。 また Vieureka はカメラ以外、例えば音声などのセンサーを扱うこともできるという。 「"これからはエッジだ" と 7、8 年前から社内では話していたのだけれど、なかなか理解されませんでした。 軋轢もあったので、二枚舌的に交渉して進めた時期もあった。」と宮崎氏は苦笑いする。 データありき・データ活用のソリューションカンパニーになるには、エッジ AI と開発効率の良いプラットフォームの活用が必須だったのである。 (西田宗千佳、Tech Insider = 12-3-18)

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