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出産の無償化、現金給付も実施へ 用途限らず金額は一律 厚労省調整 標準的な出産費用を無償にする新制度をめぐり、厚生労働省は妊産婦に現金を給付する方向で調整に入った。 現在支給される 50 万円の出産育児一時金は新制度で廃止される一方、帝王切開などで出産する場合や個室を利用する際に自己負担が生じるため、現金給付で負担を軽減する狙いだ。 新制度の現金給付は用途を限らず、一律の額を給付する方向で検討する。 金額は来年以降に決定する。 新制度では標準的な出産費用の自己負担がなくなることから、現在の一時金の50万円よりも大幅に低い金額になる見込みだ。 通常の出産は保険診療ではなく、医療機関が自由に価格を設定できる。 その費用は、一時金でまかなわれていたが、出産費用は年々上昇しており、都市部を中心に 50 万円を超える施設も多い。 妊産婦の経済負担を軽減するため、厚労省は一時金をやめ、代わりに正常分娩(ぶんべん)の医療費に全国一律の基本単価を設定し、妊産婦の自己負担をなくす方針を示している。 基本単価分は、病気やけがなどの保険診療と異なり、妊産婦が加入する健康保険組合が医療機関に全額を支払う。 ただ、帝王切開をはじめ保険診療になっている処置もあり、これらは新制度でも保険診療のままにする方針だ。 保険診療では 3 割の自己負担が生じるため、無償にはならない。 個室の利用やお祝い膳などのサービスも基本単価に含まれない。 また、現在は一時金の 50 万円よりも安い費用で出産した場合、差額が妊産婦の手元に残るが、現金給付がなくなると、これらもなくなることになる。 このため、新制度でも現金給付を求める声が出ていた。 12 日の審議会では、「保険診療の自己負担分に関しては、これまで出産育児一時金から支払ってきたケースも多いと認識している」として現金給付を支持する意見が出た一方で、一部の委員からは「保険で給付するものなのか」といった慎重な意見も寄せられた。 (足立菜摘、asahi = 12-13-25) 内密出産、開始から 4 年で 60 人 熊本の慈恵病院、直近 1 年は 22 人
記事コピー (6-25-25〜12-11-25) 放送・広告業界の 128 社がフリーランス法違反や恐れ 公取委が指導 公正取引委員会は 10 日、フリーランス法違反や違反の恐れで放送・広告業界の計 128 社を指導したと発表した。 同法の柱である「取引条件の明示義務違反」のほか、買いたたきなどの禁止行為も確認されたという。 同法はフリーランスと発注業者の取引などの適正化を図るため、2024 年 11 月に施行された。 ラジオやテレビなどの放送や広告業界はフリーランスとの取引が多く、公取委は今年 10 月まで重点的に調査した。 同法は、発注者側が業務内容や報酬額などの取引条件を文書やメール、SNS などの文面で示すこと(取引条件の明示)や、報酬を期日を定めて支払うことを義務づけている。 1 カ月以上の業務委託では買いたたき、減額、返品、不当な業務内容の変更・やり直しなど七つの行為を禁じる。 公取委によると指導の対象は放送 54 社と広告 74 社で、内訳は取引条件の明示義務違反 88 社、報酬の支払い遅延 89 社、買いたたきや減額などの禁止行為 33 社だった。 取引条件の明示は、口頭発注で起きやすい業務内容や報酬をめぐるトラブルを未然に防ぐ根幹の規定だが、違反が横行していた。 振込手数料を負担させたら「減額の禁止」 公取委は、これまでに寄せられた相談事例も踏まえ、違反を防ぐための留意点も公表した。 発注者が発注後に業務をキャンセルし、フリーランスの作業が無駄になったり、別の業務ができなくなったりした際に相当の費用や報酬を支払わない場合は「不当な変更」に、報酬の銀行振り込みにかかる手数料をフリーランス側に負担させることや、発注前にさかのぼって単価を引き下げることは「減額の禁止」に当たる恐れがあることなどを示した。 公取委は、違反が悪質だったり被害が多かったりした場合に、事業者名を公表して改善を求める「勧告」を出す。 軽微な場合は事業者名を公表せずに是正を求める「指導」とする。 これまでに勧告は計 6 件、指導は今年 9 月までの 11 カ月間で計 441 件だった。 (高島曜介、asahi = 12-10-25) 高額療養費、年間上限導入を検討 患者の過度な負担増回避 厚労省 医療費の患者負担に月ごとの上限を設ける「高額療養費制度」をめぐり、厚生労働省は新たに年間の医療費に対しても上限を導入する検討に入った。 月ごとの上限の引き上げを検討する中、患者団体らが過度な負担増にならないよう、年間上限を設けるよう求めていた。 上限額の具体的な水準は今後検討する。 厚労省は 8 日、制度の見直しに関する専門委員会で議論のとりまとめ案を示し、年間上限は「制度設計の詳細や課題を早急に整理」するべきだとした。 現在は過去 1 年で 3 カ月以上、月ごとの上限額に達すると、4 カ月目以降の上限額が下がる「多数回該当」という仕組みがある。 見直し後もこの水準を維持するが、月ごとの上限額が引き上げられた場合、多数回該当の判定基準も上がる。 該当しなくなる患者が生じるため、年間上限を設けて、過度な負担増にならないようにする。 月ごとの上限額は、所得に応じて設定されている。 ただ、年収が約 370 万円の人と約 770 万円の人が同じ区分に入っており、案では「あまりに大くくりな制度」と変更を求めた。 低所得の区分を除いて、各区分を更に三つに分けるなど細分化する。 また、70 歳以上を対象に外来受診の窓口負担額により低い上限を設ける「外来特例」では、上限額の引き上げに加え、対象年齢の引き上げも検討するべきだとした。 案を受け、この日の委員会では、低所得者への配慮を求める声が相次いだ。 外来特例は、現役世代の負担軽減などの観点から、「見直し自体は避けられないという方向性でおおむね一致した」と案に盛り込まれたが、患者側の委員からは「性急な変更は生活の破綻リスクにつながる可能性があり、見直しは段階的かつ丁寧にお願いしたい」との意見が出た。 外来特例の対象年齢の引き上げを求める声があった一方、診療側の委員は「多くの疾患を抱える高齢者の特性を踏まえれば、引き上げるべきではないと考える」と述べた。 昨年度の厚労省の見直し案には、上限額全体を一定割合まで引き上げることも含まれていたが、今回のとりまとめ案には、どう対応するか考えを明示しなかった。 患者側の委員は「仮に引き上げるということになった場合、相当程度抑制的な対応が必要」と訴えた。 厚労省は、月ごとの上限額を引き上げる意向だが、ある幹部は「昨年度の案ほどの引き上げ額ではできない」との見方を示す。 具体的な引き上げ額や年間上限額などは、他の社会保障制度での歳出改革や財政上の影響をふまえて年末までに決める。 制度をめぐって厚労省は昨年末、見直し案をまとめた。 これに対して、特に長期療養の人の自己負担が急激に重くなるため患者団体が反発。 当時の石破茂首相が 3 月に見送りを表明し、厚労省は専門委員会を立ち上げ、改めて議論している。 (足立菜摘、asahi = 12-9-25) ◇ ◇ ◇ 70 歳以上の医療費、負担上限を引き上げ方針 高額療養費の見直し 医療費の患者負担に月ごとの上限を設ける「高額療養費制度」をめぐり、厚生労働省は、70 歳以上の人を対象にした「外来特例」の上限額を引き上げる調整に入った。 一方、1 年のうち 4 回以上、上限額に達した患者の上限額を引き下げる「多数回該当」は、現状の水準を維持する。 年内に方針を決める。 この制度をめぐっては、厚労省が昨年末、見直し案をまとめた。 外来特例の見直しや所得区分の細分化に加え、多数回該当の上限額の引き上げも含まれていた。 特に長期療養の人の自己負担が急激に重くなることから、患者団体が強く反発。 3 月、当時の石破茂首相が見送りを表明し、厚労省は患者団体も参加する専門委員会を立ち上げ、議論を進めてきた。 外来特例は、所得が高くない 70 歳以上の人の外来受診にかかる負担額に上限を設ける仕組み。 このほか、上限額が決まる所得区分も見直す。 年収約 370 万円以上の場合、現在は約 370 万 - 約 770 万円、約 770 万 - 約 1,160 万円、約 1,160 万円以上の三つに分かれている。 これを細分化し、現状よりも所得に応じて上限額が増える設定にする。 低所得者には負担が増えないよう配慮する。 外来特例については、似た仕組みがない現役世代から不公平の解消を求める声が上がっていた。 上限額の引き上げに加え、対象年齢の引き上げも検討する。 厚労省はこうした方針に基づき、今後具体的な引き上げ額を検討する。 省内では OTC 類似薬の患者負担の見直しなど、他の制度改革も同時に議論しており、全体状況を踏まえて最終判断する方針だ。 厚労省の専門委員会や審議会では引き上げ額が議論されずに決まる見通しのため、野党からは「一番の問題は引き上げ額。 いざ出てきた時に、昨年と同じ状況になるのではないか」と懸念する声もある。 (足立菜摘、asahi = 12-5-25) 三菱ケミカルの希望退職、1,300 人近く応募 単体社員数の約 10% 化学大手の三菱ケミカルグループは 8 日、傘下の三菱ケミカルで 11 月に募集した希望退職に 1,273 人が応じたと発表した。 三菱ケミカルの従業員の 10% 弱にあたる。 来年 2 月末に退職する。 退職一時金と特別加算金の支給などによる費用は約 320 億円を見込んでおり、うち 277 億円を 2025 年 9月中間決算に損失として計上している。 今回の希望退職によって、労務費が年間約 160 億円減ると見積もっている。 同グループは希望退職の目的について、固定費の削減や要員構成の適正化を挙げている。 募集対象だった、50 歳以上で勤続 3 年以上の約 4,600 人のうち、3 割弱が応募したことになる。 (友田雄大、asahi = 12-8-25) 賃上げ促進税制、中小企業のみを対象に 大企業と中堅企業は除外へ 企業の賃上げを後押しするために法人税を特別に減税する「賃上げ促進税制」について、政府・与党は適用対象から大企業と中堅企業を外し、資本金 1 億円以下の中小企業に絞る方針を固めた。 大企業や中堅企業に対しては、賃上げを促す効果が薄いと判断した。 この制度は、企業が一定の賃上げをすれば法人税が減税されるしくみ。 賃上げ率が高いほど減税率も大きくなる。 企業に対する特例的な減税「租税特別措置(租特)」の一つだ。 深刻な人手不足などを背景に、資金に余裕がある大企業を中心に高水準の賃上げが定着しつつある。 大企業と中堅企業は 3% の賃上げが減税を受ける条件だが、高いハードルとはいえず、動機付けになっていないとの指摘が出ていた。 ただ、中小企業に対しては、価格転嫁が十分に進まず、賃上げが遅れている状況もふまえ、支援を続ける必要があると判断した。 高市早苗政権は、日本維新の会との連立合意に基づき、租特の縮小を進める方針を示している。 なかでも賃上げ促進税制は減収規模が大きく、特に問題視されていた。 今回は、見直しの第 1 弾の目玉となる。 また、ガソリンの旧暫定税率の廃止に伴う税収減を補うため、今年中に租特の縮小で一定の財源を捻出すると、与野党 6 党が合意していた。 (笹山大志、田中奏子、asahi = 12-5-25) 対面で本人確認、IC チップ活用義務化へ 精巧な偽造免許証に対策
記事コピー (9-30-15〜12-4-25) 中小労組、ベア 1 万 7 千円以上要求へ 過去最高、大手と格差是正狙う 中小製造業などの労働組合でつくる産業別組織 JAM は 4 日、来年の春闘で月 1 万 7 千円以上のベースアップ(ベア)を要求する方針を明らかにした。 今春闘を 2 千円上回り、1999 年の結成以来最高の水準だ。 労働者の 7 割が働く中小の賃上げを加速させ、大手との格差是正をめざす。 JAM の 調査では、2022 年から今年まで 3 年間の賃上げ総額は組合員 300 人未満の加盟労組で計 1 万 9,069 円。 1 千人以上の労組に比べて 1 万 7,725 円低く、物価上昇傾向に入って以降、格差が拡大しているという。 JAM に加盟する労組の 8 割は従業員 300 人未満の中小が占めており、規模間格差の是正には前年を上回るベア要求が必要と判断した。 安河内賢弘会長は会見で「何よりもまず、要求しなければ賃金は上がらない。 全ての組合員の実質賃金を上げ、格差拡大に歯止めをかけるために粘り強く取り組みたい」と述べた。 連合の集計でも、大手と中小の賃金格差は広がっている。 今春闘で、組合員 300 人未満の中小の賃上げ率(定期昇給を含む)が 4.65% だったのに対し、300 人以上の大手は 5.33% だった。 要因としては、発注側企業との価格交渉で、中小企業が人件費などの増加分を十分に転嫁できていない実態がある。 中小企業の賃上げに欠かせない価格転嫁は進んでいるが、労務費分の転嫁は不十分 - -。 繊維や流通業界などの労組でつくる産業別組織、UA ゼンセンが 4 日公表した調査結果からは、そんな実態が浮かぶ。 ゼンセンが 2022 年 12 月から実施している調査で、今回は今年 7 - 9 月に傘下の製造業 171 組合に対して行った。 コストアップ要因を複数回答で聞いたところ、原材料費や水道光熱費は 2 年前と比べて 9 - 20 ポイント減ったが労務費は 9 ポイント上昇して 81% にのぼった。 一方、要因別の価格転嫁の状況では、「すべて」または「8 割程度受け入れられた」との回答が原材料費で 64% だった一方、労務費は 51% にとどまった。 ゼンセンの永島智子会長は「労務費は自社で吸収すべきと考えている経営者がまだまだ多い。 サプライチェーン(供給網)全体の利益を配分する流れを定着していくことが大事だ」と強調。 ゼンセンは同日、正社員の賃上げ目標をベースアップ(ベア) 4%、中小を念頭に賃金水準が低い組合は 1% 上乗せし 5% とする春闘方針案を決めた。 ☆ 鉄鋼や造船などの労組でつくる産業別組織、基幹労連は 4 日、来春闘のベア要求を今年と同じ月 1 万 5 千円とする方針を示した。 (吉田博紀、北川慧一、asahi = 12-4-25) 訪問介護事業者の倒産が過去最多に 3 年連続 報酬引き下げが打撃 2025 年の訪問介護事業者の倒産件数が、11 月時点で過去最多を更新したことが東京商工リサーチ (TSR) の調査でわかった。 人手不足や、介護報酬(介護サービスの公定価格)の改定を背景に、合理化が難しい中・小規模の訪問介護事業者を中心に、経営環境が厳しさを増しているとみられる。 TSR によると、訪問介護事業者の倒産件数は 11 月末時点で 85 件に達し、過去最多だった 24 年の 81 件を上回った。 23 年から 3 年連続での最多更新となる。 倒産の原因は、売り上げ不振が 71 件で全体の 84% を占めた。 従業員 10 人未満が 74 件、負債額 1 億円未満が 76 件と、いずれも 9 割近くを占め、小規模事業者の倒産が多い。 ただ、負債額 1 億円以上の倒産も 9 件あり、前年から 2 件増えた。 都道府県別では、最多は大阪府の 12 件、東京都 10 件、北海道 8 件、神奈川県 6 件と続いた。 施設などを含む介護事業者全体の倒産件数は 11 月末時点で 161 件となり、この時期として過去最多となっている。 調査を担当した TSR 情報部の後藤賢治課長は「人手不足や介護報酬減額に起因した業績悪化が目立ち、零細から中堅にまで倒産は広がっている」と分析する。 要因の一つとして指摘されているのが、厚生労働省が 3 年に 1 度行う介護報酬改定だ。 24 年度には介護職員の処遇改善を目的に全体の報酬は引き上げられた一方、訪問介護の基本報酬が 2% 以上引き下げられた。 介護報酬引き下げは、事業者にとって収入減の打撃となる。 さらに深刻な人手不足を背景にした人件費や求人コストの増加、ガソリン代や電気代など運営コストの上昇といった複合的な要因により、経営が圧迫されている。 厚労省が 24 年 9 月、全国約 3,300 の訪問介護事業所に行った調査(回収率 37.2%)では、介護報酬改定前の前年 8 月に比べ、「介護保険収入が 5% 以上減った」と回答した事業所は全体の 5 - 6 割に上った。 また、全国老人保健施設協会など介護 13 団体が行った調査では、25 年度の賃上げ率は 2.58% と全産業平均 5.25% の半分にとどまった。 政府が 11 月 21 日に発表した総合経済対策では、介護分野の職員の処遇改善として、「他職種と遜色のない処遇改善に向けて、26 年度介護報酬改定において、必要な対応を行う」とし、緊急的対応として、賃上げなどの支援を行う方針を打ち出している。 (編集委員・森下香枝、asahi = 12-3-25) 政府が総額 21 兆円の経済対策決定 物価高対応が柱、コロナ後で最大
記事コピー (8-25-24〜11-21-25) 生活保護費の再引き下げに「食べないでいるしか」 利用者の憤り あの判決はなんだったのか - -。 最高裁に違法とされた 2013 - 15 年の生活保護費の大幅な引き下げをめぐり、厚生労働省が別の方法で再び引き下げる方針を示した。 判決を好意的に受け止めていた原告だけでなく、ほかの生活保護利用者にも落胆が広がった。 「私たちの声を聞いてくれた裁判所の判決を、国は受け止めていない。」 原告の一人だった札幌市の鳴海真樹子さん (52) は 6 月の最高裁判決では「やっと私たちの声が届いた」と安堵した。 それだけに半年も経たずに示された国の方針に憤りを隠せない。 築 30 年を超えるアパートで生活保護を利用しながらひとりで暮らす。 1 階にある部屋は冬になると痛いほど冷えるが、ガス代を抑えるため、いつでもシャワーだけ。 お湯はこまめに止める。 「あったかいお風呂につかると気持ちも体もほぐれて心が安らぐのだけど。」 30 代で相次いで両親を亡くした。 心身の不調もあり、2007 年に生活保護を申請した。 同じころにうつ病と自律神経失調症と診断された。 働き続けることが難しくなり、いまは頸椎をつなぐ靱帯が硬くなって手にしびれの出る難病も抱える。 生活保護費は月に 10 万円ほど。 家賃約 3 万円と、水道、電気、ガス代や日用品費を支払い、残りで食費をやりくりする。 国による生活保護費の大幅な引き下げで、鳴海さんの支給額も月に 6,240 円減った。 1 カ月をしのげるかすらわからない切り詰めた生活の中で、重い金額だった。 食事を 1 日 2 回に減らし、湯船に入らなくなったのもこの頃からだ。 「食べないでいるしかないんです」 一番つらいのが、北海道の冬に欠かせない灯油代の負担。 今年 1 1月から、配送される灯油が 1 リットルあたり 10 円値上げされた。 ストーブをつける時間を減らし、布団にもぐってやり過ごす。 冬場の朝に顔面が冷たくて目覚めると、室内の温度が 0 度以下を示す「Lo」の表示になっていたことも。 それでも冬季は、灯油とガス代を合わせて月に 1 万 5 千円はかかる。 暖房費などのために地域別で加算される「冬季加算」の 1 万 2,780 円を上回り、食費を崩すしかなかった。
6 月の最高裁判決によって少しは安心した生活に戻れると思えた。 しかし別の方法で引き下げをやり直すという国の方針が明らかになり、裁判を通して訴えてきた思いが否定された気持ちになった。
「原告はみんなのために頑張ってきたのに」 政府は、訴訟の原告と、それ以外の生活保護利用者で対応を区別する方針だ。 札幌市で生活保護を利用する市村忍さん (61) は「政府が分断をはかろうとしている」と憤った。 うつ病と診断され、12 年ごろから生活保護を利用し、13 年からの減額は生活を直撃した。 スーパーではまず「おつとめ品」の台に載る野菜を見る。 みそを買うのも「ちゅうちょしてしまう。」 貯金もほとんどできなくなった。 原告らの提訴後に訴訟のことを知り、「私も応援するから」と原告らと一緒に街頭に立ち、署名集めなどに取り組んだ。 「原告の方々も、引き下げでつらい思いをしている生活保護利用者みんなのために、と頑張ってくださった。 政府の方針はその思いも踏みにじっていると思う。」 国の方針を受けて原告側は「司法軽視の再減額方針の撤回を強く求める」との声明を公表した。 弁護団の小久保哲郎弁護士は「新たな減額改定は、紛争の一回的解決の要請に反する『蒸し返し』そのもので、許しがたいことだ。 撤回を求めて断固として闘い続ける」と話した。 (奈良美里、asahi = 11-21-25) |