アップル x ロゼッタ = ? 謎の新商標、一大転換の予兆か

米アップルが 4 月 30 日、日本の特許庁に「APPLE ROSETTA」という商標を出願した。 商標の登録は企業の新製品や動向を知る手がかりとなる。 突如現れたこの言葉は一体、何を意味しているのか。 取材を進め、親交のあるアップル関係者に聞くと、意味深な言葉が返ってきた。

「ロゼッタ石」に着想か

アップルが特許庁に出願した 概要 によれば、「アップルロゼッタ」と読む。 申請者が「アップル インコーポレイテッド (Apple Inc.)」なので、あのアップルであることは間違いなさそうだ。 「ロゼッタ」といえば、英国の大英博物館に所蔵されている「ロゼッタストーン」が思い出される。 18 世紀末、エジプトでナポレオン率いるフランス軍が見つけた黒い石板のことだ。 ギリシャ文字と二つの古代文字が書かれ、これが対の内容であることを研究者たちが突き止めた。 20 年近くかけ、古代エジプトの象形文字(ヒエログリフ)の解読に成功したことで知られる。

こうした経緯から、「ロゼッタ」は解読できなかった謎を解き明かす有力な手がかりを意味する英語の比喩に用いられる。 また、翻訳をイメージする商品や事業の名前にもよく使われているようだ。 アップルの出願概要には、「商標の役務(サービス)」として、コンピュータープログラムの「開発・翻訳及び実行するためのダウンロード可能」なソフトウェアと書かれている。 「翻訳」という言葉から、アップルもロゼッタストーンをイメージして出願したように思えてしまう。 アップルは、新たな自動翻訳ソフトでも売り出すのだろうか。 ただ、役務の対象が「ソフトウェア」ということは、人を対象にしたサービスや商品ではなさそうだ。 一体、何を作り出そうとしているのか?

15 年前に起きた「地殻変動」

試しに米国の商標データベースを検索すると、意外な事実を見つけた。 アップルが 2005 年 11 月に、「ロゼッタ」という商標登録を出願していたことがわかった。 当時の状況を調べたところ、この申請の 5 カ月前、アップルは自社ブランドのパソコン「Mac (マック)」で大きな方針転換を発表していた。 コンピューターの心臓部である「CPU」を、IBM などの製品から、現在採用する半導体大手のインテル製に切り替える決断をしたのだ。 インテル製は当時、消費電力の少なさや処理速度といった将来性などで、優位に立っていたとされる。 だが互換性のない CPU の切り替えは、従来のソフトが一切動かないことを意味する。 主力商品を根底から見直すという「地殻変動」だった。

アップルは、インテル製 CPU を採用した新型 Mac の発表に合わせ、ある秘策を用意していた。 旧型 Mac のソフトを「翻訳」しながら動かす新技術の開発だ。 その名称が「ロゼッタ」だった。 15 年たった今年、再びその名前が浮上した。 つまりアップルは、Mac に再び大きな方針転換を行うつもりなのだろうか。

スマホの登場がアップルを変えた

それを読み解く鍵はどこにあるのか。 アップルを取り巻く状況が、当時と今とで大きく様変わりしたことが一つある。 それは、07 年に発表されたスマートフォン「iPhone (アイフォーン)」の存在だ。 スマホの登場は世界を大きく変えた。 と同時に、アップルがパソコンメーカーから通信機器の製造も手がける IT 企業へと飛躍するきっかけとなった。 そこで採ったアップルの戦略は、CPU を自前で開発することだった。 iPhone、タブレットの「iPad (アイパッド)」の CPU は、全てアップルの自社開発だ。 CPU からハードウェア製品、その上で動く OS (基本ソフト)まで全てを自社で賄うことで、新製品に見合ったハードの開発やスケジュールが見通せるメリットがある。

つまりアップルは、インテルとウィンドウズを供給するマイクロソフト、パソコンメーカーの 3 者を足し合わせたような会社と言える。 そんな IT 企業は世界でもアップルしか存在しない。 しかしながら、Mac は今もインテル製 CPU を採用している。 CPU が違う二つの主力製品を開発し続けるのは、負荷が高いことが容易に想像できる。 自社開発の CPU に一本化したいという思惑があっても不思議ではない。 そんな思惑の一端が、昨年以降発売された Mac には感じられる。 最新機種に導入された OS には、iPad のアプリを動かす仕掛けが新たに採り入れられた。

iPad も、本格キーボードとタッチパッドを備えた周辺機器を発売したり、パソコン用のマウスが使えたりと、ノートパソコンを意識した機能を取り込んでいる。 アップルのノートパソコン「MacBook (マックブック)」と、iPad の垣根は近年、急速に下がっている。 何らかの形で統合するのではないか、という臆測が、昨年あたりからささやかれていた。

自社製 CPU の新型 Mac を発表か

アップルは毎年 6 月ごろに、「世界開発者会議 (WWDC = Worldwide Developers Conference)」というエンジニア向けの一大イベントを開く。 ここでは将来の新製品に搭載される新技術が数多く発表される。 今年は新型コロナウイルスの影響で、初のオンライン開催が決まった。 「アップルロゼッタ」の商標出願が公表されたのは 5 月 26 日。 記者がこの事実を把握したのは 2 日後のことだ。 WWDC での発表に向けた動きではないかと、このとき感じた。 そして米ブルームバーグが 6 月 9 日、驚きのニュースを世界に配信した。

アップル、自社設計 Mac 用チップへの移行を今月にも発表へ。

ニュースによれば、独自のメインプロセッサー (CPU) を搭載する新型 Mac の移行計画が進められているといい、今月 22 日の週に開催予定の WWDC で発表する準備を進めているという。 このタイミングで出願された「アップルロゼッタ」が、自社開発の CPU を搭載した新型 Mac に、既存 Mac のソフトを動かすための新たな翻訳技術ではないのか。 だとすれば、15 年前に起きた地殻変動が再び、である。 秘密主義のアップルは、自社の発表以外の情報に対して反応することはほぼない。 記者がコメントを求めても、無反応なのは目に見えている。 そこで、20 年来の付き合いがあるアップル関係者に、記者がこれまで調べた一連の情報について聞いてみることにした。

答えはこうだった。 「せっかく商標に目をつけて情報を見つけ出したのなら、もっと調べると面白い事実が見つかるかもしれないよ。」

各国の商標に「答え」が

商標を調べるには、国連の専門機関「世界知的所有権機関 (WIPO = ワイポ、本部スイス・ジュネーブ)」が提供するデータベースが便利だ。 各国で登録された商標が一度に検索できる。 そこで商標名を「Rosetta」、所有者を「Apple Inc」で検索すると、日本での出願 3 日前の 4 月 27 日、カナダ、ニュージーランド、サモア、カンボジア、ラオスの 5 カ国で新たに登録されていたことがわかった。 出願中の日本の商標が表示されないのは、WIPO のデータベースが登録済みのものを対象にしているからのようだ。 つまり、ほかにも出願中の国があるのかもしれない。

登録内容の詳しい情報を知るため、カナダ政府の商標データベースにアクセスした。 提出日が 4 月 27 日のロゼッタはすぐに見つかった。 国際協定に基づく登録手続きが完了した 5 月 21 日以降に公開されたようだ。 ロゼッタの説明についても具体的に記されていた。 まさにそれが、追い求めていた「答え」だった。

「非ネイティブのオペレーティングシステム上で動作するように、サードパーティー製のアプリケーションソフトウェアを翻訳するためのコンピューターオペレーティングシステムソフトウェア (Computer operating system software for translating third party applications software to operate on non-native operating systems.)」

一見すると非常にわかりづらいが、要約すると以下のような説明になる。 ワードやエクセルといったアプリを、そのままでは動作しない OS 上で動かすために翻訳を行う、OS に組み込まれたソフトということだ。 公開された商標登録を追いかけた結果は、これまでの取材内容とぴたり一致する。 果たして、これが正しい答えなのだろうか。

ただ、知的財産権に詳しいある弁護士はこう話す。 「近ごろは商標がネットですぐ公開されるため、企業側も防衛策としてダミーの商標をあえて登録するケースがある。 すべてをうのみにはできないが、商標から企業の手の内や攻防が見えてくるので参考になる。」 記者の取材通り、Mac の地殻変動は 15 年ぶりに再び起きるのか。 答えは 23 日午前 2 時(日本時間)に開幕する WWDC の基調講演で判明する。 (編集委員・須藤龍也、asahi = 6-21-20)


ついに完全ベゼルレス!? Apple が新しい iPhone の画面デザイン特許を日本で申請

iPhone X からデザインを大きく変更した Apple、画面上部にはノッチと呼ばれる切り欠きが追加され、四隅は直角から角丸に、ホームボタンは端末から削除される事となりました。 この変更には未だに賛否の分かれる意見が展開されているのですが、なんと次の iPhone のデザインがユーザーの不満を根こそぎ解決してくれそうなんです。

ノッチと角丸廃止

Apple は 2019 年 12 月 23 日、日本の経済産業省特許庁に iPhone の画面に関する新しいデザイン特許を申請しました。 このデザイン特許は 3 枚の画像から構成されており、その画像にはノッチが削除され、四隅の角丸デザインが iPhone 8 と同様の直角に戻された事が確認できます。 画像を見る限り、画面上部の薄いベゼル部分に受話用のスピーカーのみが書かれており、インカメラや Face ID などに使用されるTrueDepth カメラなどは見当たりません。 ですが申請された画像の右から 2 番目、FaceTime 通話をしていると思われる画像には相手の顔と自身の自撮りが映し出されており、おそらく以前から噂になっている画面埋め込み型の TrueDepth カメラなどが実装される事を示唆していると考えられます。

電源ボタンや音量ボタン、サイレントスイッチについては現状と変わらないようで、噂になっている物理ボタンの廃止(感圧式の疑似ボタン搭載説)やサイレントスイッチが iPad と同様のものになるかは、この画像では判断できません。 この特許画像から読み取れるのは、ノッチがなくなり画面の四隅が直角に戻り、インカメラや Touch ID、Face ID 用のパーツが画面の下に収められているという事だけでしょう。

あくまでデザイン特許なのでこのデザインが正式採用されるかは定かではないのですが、元来 Apple はデザイン特許を端末リリース後に申請する傾向にあるので、真似される事を危惧してデザイン特許を先制して取った可能性も十分に考えられます。 もし今年発売される iPhone がこのデザイン特許準規なら、久々の大きなデザインアップデートとなり話題となる事は間違いないでしょう。

まとめ

ノッチの削除を望む声は以前から非常に多かったので、この特許出願に喜びの声を上げている人も少なくありません。 また画面下に各種パーツを埋め込めるようになれば Touch ID 復活も夢ではないのでこのニュースに期待を寄せるユーザーは少なくないようです。 (カミアプ = 1-1-20)



アップル、廉価版 iPhone を「異例の発売スケジュール」で投入へ

アップルが来年、従来の製品よりも安価な「iPhone SE2」を発売するというニュースは既に報じられていたが、消費者がこの端末を手にするのは 2020 年の第 1 四半期になる見通しだ。 著名アナリストのミンチー・クオは最新レポートで、廉価版 iPhone とされる iPhone SE2 の発売が来年の第 1 四半期になると述べた。 この端末は A13 チップセットを搭載し、3 ギガバイトの RAM を備えており、最近モデルの iPhone 11 に匹敵するパフォーマンスを実現することも期待できる。

過去のアップル製品の発売スケジュールから考えて、筆者は iPhone SE2 のリリースが 3 月の中頃から下旬になると予測する。アップルは昨年 3 月、シカゴの学校で開催したイベントで、9.7 インチサイズの新型 iPad を発表し、教育現場での活用をアピールしていた。 仮に 1 月に新端末を発売した場合、クリスマスシーズンに最新モデルを購入した人々を怒らせてしまう可能性がある。 3 月でも従来の発売サイクルと比較するとかなり短いが、1 月に発売 するよりは、消費者の違和感は抑えられるはずだ。

しかし、SE2 についての最大の懸念は、この端末が多くの消費者が期待したほど、小さな端末ではない点だ。 2016 年に発売された iPhone SE は価格の安さよりも、iPhone 6S と同等の性能を 4 インチのコンパクトな筐体に詰め込んだ点が消費者に歓迎された。 だが、これまでのリーク情報を総合すると来年発売される SE2 は iPhone 8 とほぼ同じ、4.7 インチのサイズになりそうだ。 「iPhone SE の復活」を楽しみにしていた古くからのアップルファンは、がっかりさせられることになりそうだ。 (Ewan Spence、Forbes = 10-13-19)


アップル、体力勝負へ スマホも動画も低価格戦略

米アップルによる「帝国」の再拡張に向けた動きが鮮明になってきた。 10 日の新製品発表会で「iPhone」の主力機種の価格を引き下げ、新モデルを出すたびに価格帯を上げてきた同社にとって異例の方針転換となった。 成長分野の動画配信も料金を手ごろに設定して利用者の取り込みを急ぐ。 巨額資金を武器に体力勝負に打って出るが、米中貿易摩擦の激化などのリスクもある。

「iPhone は多くのイノベーションを提供しており、より多くの人にそれを経験してほしい。」 説明会で iPhone のマーケティングを担当するカイアン・ドランス上級ディレクターはこう説明し、主力機種「11」の価格を 699 ドル(日本では 7 万 4,800 円)からにすると発表した。 11 は現在の主力機種「XR」の後継にあたり、背面のカメラを 2 つに増やして超広角の写真などを撮影しやすくした。 カメラはスマートフォンの構成部品のなかではスクリーンに次いで高価だが、価格は 50 ドル下げた。 上位機種の「11Pro」、「11ProMax」も価格を据え置いた。

スマホの大きな伸びが見込めないなかアップルは「付加価値の高さを売り物にする(幹部)」として、2017 年から価格を引き上げる姿勢を鮮明にしてきた。 ただ、消費者からは「高すぎる」との声もあがり、4 - 6 月期のアップルの世界シェアは前年同期より 2 ポイント低い 10.1% にとどまった。 今回の値下げは明確な方針転換となる。 背景にはスマホ市場の成長鈍化と事業環境の変化がある。 スマホは世界的に普及が進んで市場の伸びが鈍化し、米 IDC によると 18 年の世界出荷台数は前の年より 4% 少ない 14 億 490 万台にとどまった。 2 年連続の前年割れだ。 スマホの販売減速は半導体など部品メーカーの業績にも影を落としている。

アップルが利用者の裾野拡大にかじを切る一因は、アップル製品の利用者がアプリやコンテンツをよく購入する「上客」であるからだ。 アップルの基本ソフト (OS) 「iOS」を搭載したスマホの世界シェアは 1 割強にとどまる一方、アプリの売上高では 6 割以上を占めてグーグルの「アンドロイド」を圧倒しているとの推計もある。 10 日はこうした基盤を生かしたコンテンツ事業の拡大に説明の時間を割いた。 ゲームの定額制サービスに乗り出すほか、動画配信でも米国などで 11 月から「アップル TV+」を始める。 動画の月額料金はティム・クック最高経営責任者 (CEO) が自ら「クレージー」と話した 4.99 ドル(約 540 円)に設定した。

「今日一番のサプライズはこれ。」 説明会を視聴したアナリストはこう話していた。 先行する米ネットフリックス(8.99 ドル)や今秋に参入する米ウォルト・ディズニー(6.99 ドル)を下回る。 アップルはハード、ソフト、サービスの「垂直統合」が特徴だが、動画配信では韓国サムスン電子のテレビにアプリを提供。 総力戦で追い上げる構えだ。 アップルは圧倒的な資金力を背景に、独自コンテンツの確保に向けた予算も積み増す方針だ。 「25 年までにネットフリックスに匹敵する規模に育つ(米大手証券)」との見方も出ており、再成長に向けた道筋は確かなように映るが、その一方で不安材料もある。

4 - 6 月期のアップルのスマホの売上高は前年同期より 12% 少ない 259 億ドルにとどまった。 腕時計型端末「アップルウオッチ」などの販売が伸びてスマホの全社売上高に占める比率は 48% まで下がったが、それでも「稼ぎ頭」である事実に変わりはない。 この屋台骨を支えるビジネスに米中の対立激化が影を落としている。

世界最大のスマホ市場となった中国では華為技術(ファーウェイ)など自国メーカーの製品を好む消費者が増え、アップルはそのあおりを受けた。 また、米国では腕時計型端末などが対中追加関税の影響を受け、クリスマス商戦が終わるとスマホも対象に加えられる見通しだ。 事業環境が厳しさを増すなか、再成長を速く軌道に乗せるスピードを問われている。 (編集委員奥平和行、nikkei = 9-11-19)