北海道室蘭、西日本の高濃度 PCB 廃棄物処理 条件付き受け入れ表明

人体に有害な高濃度のポリ塩化ビフェニール (PCB) 廃棄物を処理する「中間貯蔵・環境安全事業 (JESCO)」の北海道事業所がある北海道室蘭市が 21 日、新たに西日本地域から出る高濃度 PCB 廃棄物の処理を、条件付きで受け入れることを決めた。 国からの要請を受け入れるもので、青山剛市長が同日の市議会議員協議会で表明した。 国の要請は、今年 3 月末に北九州市や大阪市、豊田市(愛知県)の三つの処理施設が稼働を終えたことに伴うもの。 環境省は北海道と室蘭市に対し、昨年 12 月と今月 3 日、3 施設の処理終了に伴う受け入れ要請を 2 度行っていた。

室蘭市は受け入れを決めた理由として、▽ 処理施設が 15 年にわたり安全操業を続けている、▽ 総じて市民に大きな反対がない、▽ 施設の稼働率が低く、余力を持って処理が可能、▽ 処理の終了期限の 2026 年 3 月末に変更がないと国が明言している - - など 7 点を挙げている。 受け入れの条件としては、安全確実な事業推進や情報発信の継続、地域産業の振興、事業終了後に取り組む資源循環型産業誘致に国が責任を持つなど 5 項目を求めた。 今後、道にも市の方針を伝え、7 月にも青山市長が環境省に出向いて合意文書を取り交わす計画だ。

PCB はかつて変圧器(トランス)やコンデンサーの絶縁油などに使われた化学物質で、食品公害「カネミ油症」の原因物質の一つになった。 事件を機に製造は中止されたが、特殊な廃棄方法が必要なため法律に基づいて国が全額出資する JESCO が無害化処理を進めている。 室蘭市の施設では化学処理と、全国で唯一となった高温によるプラズマ処理ができるのが特徴。 元々は道内からの PCB 廃棄物に限定した処理を目的に設置が決まった。

しかし、2008 年の操業開始前に国側の要請で道内のほか、東北、北関東、甲信越、北陸の 15 県からの搬入を認めるなど最終的に対象地域は 1 都 18 県に拡大。 当初は 16 年 7 月までとされていた操業期間も 26 年 3 月まで延長されるなど幾度も計画変更を受け入れてきた。 東京電力福島第 1 原発事故で汚染された PCB の処理も行った。  同省は 2 月、市は 5 月に住民説明会や意見交換会を計 6 回、道の担当者を交えて開き、4 月には市がホームページで意見も募った。 (松本英仁、asahi = 6-21-24)


石油は 2030 年までに「大幅な」供給過剰へ、需要頭打ち - IEA

世界の石油市場はこの 10 年に「大幅な」余剰に直面するだろうと、国際エネルギー機関 (IEA) が予測した。 供給が伸びる一方で化石燃料離れが進み、需要は頭打ちするとみる。  IEA は 12 日発表した年次の中期見通しで、世界の石油需要は 2029 年に日量 1 億 560 万バレルで「横ばい」になると予想。 この水準は昨年を約 4% 上回るに過ぎない。 電気自動車 (EV) の販売増加や燃料効率の改善などを理由に挙げた。

一方、石油生産能力は拡大が続く。 米国を筆頭に生産能力が伸び、30 年までに需要を日量 800 万バレル上回るという「驚異的な」状況になる。 このギャップは、新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が最も厳しかったころ以来の大きさだ。 「コロナ明けの回復が勢いを失うとともにクリーンなエネルギーへの移行が進み、中国の経済構造も変わってきている。 それが理由で、世界の石油需要の伸びは減速しつつある。」と IEA のビロル事務局長は指摘。 「30 年末までに石油供給が増加し、価格を圧迫する可能性があるだろう」と語った。

国際原油価格は年初から 1 バレル = 80 ドル近辺での取引が続いている。 堅調な需要や中東の戦争、主要産油国から成る「石油輸出国機構 (OPEC) プラス」の供給抑制などの価格押し上げ要因を、米大陸で相次ぐ新規生産や中国の経済成長を巡る懸念が打ち消している。 IEA によると、世界の石油消費は数年間は伸びが続きそうで、インドと中国の経済成長、航空や石油化学業界の需要拡大で 30 年までに日量約 400 万バレルの増加が見込まれる。

だが、先進国の需要は「数十年にわたる」後退を続け、昨年の日量 4,600 万バレルから 30 年には 4,300 万バレルと、1991 年以来の低水準になる見通し。 中国の需要ですら同年までに約 1,800 万バレルで頭打ちとなるだろうと、IEA は今回の報告で予想した。 (Grant Smith、Bloomberg = 6-13-24)


パネルは中国生産、国内最大メガソーラー着工 長崎・宇久島、事業者「有人国境離島守る」

長崎県の五島列島・宇久島と寺島(いずれも佐世保市)で来週、国内最大の太陽光発電所(メガソーラー)が本格着工する。 完成すれば両島の面積の 1 割が中国で生産された太陽光パネルに覆われる。 事業を主導する九電工(本社・福岡市)の木下大執行役員 (60) は取材に対し、両島が国の「特定有人国境離島」に指定されており、「尖閣諸島のように無人島化しないよう、太陽光発電事業で島を守る決意だ」などと話した。

つばきの木から

事業は「宇久島メガソーラーパーク」。 京セラ(本社・京都市)や九電工などが出資する事業目的会社が約 2 千億円を投じ、2025 年末の運転開始を目指す。 発電全量を九州電力へ売電、国の固定価格買い取り制度により 1 キロワット時 40 円の最高額で 2040 年まで買い取られる。 太陽光パネルの数は 152 万 1,520 枚に上り、京セラによると、すべて中国にある京セラの工場で生産される。

地元では景観の悪化や土砂崩れの発生を懸念する声も上がるが、木下氏は「島は人口減少が進み、地権者の離島や高齢化に伴い耕作放棄地が拡大している。 土地の荒廃による土砂崩れなども見られ、保安林を構成する松は松くい虫で壊滅状態となっている」と説明。 「発電所の事業用地は水路を整備するほか、ツバキの植樹なども計画している。 作られた緑ではあるが、荒れ地のまま放置するよりはよいのではないかと考えている」と話し、こう続けた。 「われわれの事業目的会社は、会社をベースに雇用や産業面で地域貢献させていただいている。 一般的な投資家の事業目的会社とは、ちょっと事情が違うかなと考えている。」

事業者が牧草育てる

宇久島は五島列島の北端に位置する。 佐世保市宇久行政センターによると、島の人口は今年 3 月末時点で 1,747 人、平均年齢は約 60 歳。 木下氏は「皆さん高齢化で島を出て、息子や孫が住む九州本土へ移っていく。 年間 60 - 70 人のペースで減っており、10 年後には半分近くまで減る可能性もある」と指摘する。 隣の寺島は、かつては人口も 800 人おり、遊郭の建物も残るというが、現在は人口 12 人、平均年齢約 89 歳。 木下氏が訪ねると、「イノシシを何とかしてほしい」と頼まれたという。 畑を荒らすだけでなく、家の座敷にまで入ってくるため「家を守ってほしい」という依頼だった。 事業目的会社は集落全体をイノシシ柵で囲ったという。

島の基幹産業は漁業と畜産業。 畜産は高級黒毛和牛になる子牛の繁殖だが、15 年前に 165 戸あった畜産農家は 2 月末時点で 63 戸まで減り、繁殖牛は約 1,600 頭から 1,092 頭に減少した。 島内にあった牛の市場は 2020 年 8 月、九州本土の平戸市の家畜市場へ統合された。 事業目的会社は太陽光パネルを置く面積約 2.8 平方キロのうち、約 1 平方キロは牧草地の上に支柱を組んでパネルを置く「営農型」発電とし、島外から来た若者を雇用して牧草を育て始めている。 木下氏は「宇久島の牛は、ミネラルをたっぷり含んだ潮風に打たれた草を食べて育つので、高く売れるという話もあって、畜産農家を支援しようと牧草を育てることにした」と説明。 将来的には会社が牛を飼うことも考えているという。

尖閣・竹島の経験

宇久島と寺島はいずれも、わが国の領海や排他的経済水域 (EEZ) の保全のため全国に 71 島ある「特定有人国境離島」に指定されている。 71 島のうち 40 島は長崎県内にある。 朝鮮半島や中国大陸に近く、古くは遣隋使や遣唐使の寄港地だった。 現在は島の海岸へ半島や大陸からのごみが大量に流れ着く。 木下氏は「私は 3 年ほど前、島に 1 年間住んだが、大陸との近さを実感した。 わが国の領海、領土を守る上で、有人国境離島の地域社会を維持することがいかに重要か、ひしひしと感じた」という。

「宇久島が有人であることの重要性は、尖閣諸島や竹島の経験から明らか。 いったん無人になってしまうと、所有権や使用権を主張することの根拠が希薄になってしまう。」 事業目的会社は現在、島の漁業者に対して高騰している燃料費の支援、畜産農家には同社が育てた牧草を低価格で提供するなどしている。 メガソーラーの運転開始後は、売電収入から振興基金やふるさと納税を通じて、島へ財政支援するとしている。 木下氏は「私たちは工事期間中だけの短期的なものでなく、30 年間という事業期間にわたり、このような取り組みを進めていく覚悟だ」と話す。 (sankei = 6-12-24)

初 報 (4-8-24)


再生エネ、日本の電力量の 4 分の 1 に 世界は 3 割超、8 割超えた国も

日本の電力量に占める再生可能エネルギーが 2023 年の速報値で 4 分の 1 になったことが 10 日、環境系シンクタンク「環境エネルギー政策研究所 (ISEP)」のまとめでわかった。 再エネ比率は固定価格買い取り制度 (FIT) 前の 11 年度の約 10% から 2 倍以上になったが、欧州各国に比べるとまだ半分程度だ。 電力調査統計や電力需給データなどから、自家消費分を含む全発電電力量の電源別割合を推計した。 その結果、発電に占める再エネの割合は 25.7% で前年比 3 ポイント増となった。 太陽光が 11.2% と最も高く、水力が 7.5%、バイオマスが 5.7% と続く。

世界の再エネでは「主力」の一つとなっている風力は、ようやく 1% となり、太陽光と合わせると再エネのほぼ半分を占めた。 月別では、発電量が消費量を上回り太陽光の出力制御が相次いだ 5 月の割合が最も高く、35.1% だった。 英国のシンクタンク「Ember」によると、世界の再エネ比率は昨年、初めて 3 割を超えた。 欧州連合 (EU) では 44.3% で日本の 2 倍近くになっている。 デンマーク (87.6%)、オーストリア (84.5%)、スウェーデン (69.2%) などが高いが、ドイツ (52.4%) やスペイン (50.1%) も初めて半分を超えた。 中国は 30.9%、米国は 22.7% だった。

国内のほかの電源では、火力発電が 66.6% で前年比 5.8 ポイント減だったが、石炭火力は 28.3% で前年から 0.5 ポイント増加した。 原子力は 7.7% で東日本大震災以降で最も高かった。 調査を担当した松原弘直・主席研究員は「2000 年ごろには日本と欧州の再エネ比率に大差はなかったが、欧州では風力と太陽光で電力の半分以上をまかなうためのシステムや市場を形成してきた結果、差が開いた」と指摘している。 (編集委員・石井徹、asahi = 6-11-24)


日本と EU、水素の国際ルールづくりで協力 最大生産国の中国にらみ

日本と欧州連合 (EU) は、新たなエネルギーとして期待される水素の普及に向けて、製造設備やインフラの標準化など国際的なルールづくりを協力して進めることで合意した。 最大の生産国である中国への依存を減らすねらいもある。

斎藤健経済産業相と EU のシムソン欧州委員(エネルギー担当)が 3 日、東京都内で開いた会合で共同声明をまとめた。 声明では中国を念頭に、「市場歪曲的な補助金」による特定の供給源への依存関係を「武器化」することについて、強い懸念を表明。 公平な競争条件を促すため、水を電気分解して水素をつくる電解槽や大規模液化水素タンク、インフラ設備などの標準化を協力して進める工程表を作成するほか、支援措置についても協議することなどが盛り込まれた。

水素は燃やしても二酸化炭素が出ないため、次世代エネルギーとして期待されている。 だが、世界最大の水素製造国である中国への依存が懸念されていた。 声明では水素のほか、風力や太陽光などの導入拡大に向け、環境面や持続可能性など価格以外の要件を適切に評価することも確認した。 (多鹿ちなみ、asahi = 6-3-24)


風力発電が脅かすイヌワシの聖域 ESG 経営「二律背反」のリアル

自然との共存

記事コピー (5-26-24)


シベリアで森林火災増 → 日本でも健康や経済に影響? 北大など発表

ロシア・シベリアで大規模な森林火災が増えると、日本でも大気汚染による死者が増え、経済損失が出るなどとするシミュレーション評価を、北大、東大、九大などの研究チームが発表した。 論文は科学誌「アースズ・フューチャー」に掲載された。 温暖化による干ばつなどの影響で、世界各地で森林火災が広がっていることから、研究チームはシベリア森林火災が増えた場合の気候や健康、経済に与える影響を気候モデルを使って解析した。

それによると、地域や気候条件でばらつきはあるものの、火災発生域や風下地域では、大気中の浮遊微粒子が増えることで冷却効果がみられる一方、東アジアの国々では大気汚染で死亡者数の増加や経済損失の可能性がみられたという。 シベリア森林火災の規模が 2003 年の 2 倍になった場合、小規模だった 04 年に比べて、年間の死亡者は中国で約 6 万 7 千人、日本で約 2 万 2千人増え、経済損失は中国で約 510 億ドル、日本で約 840 億ドルに上る推定値となった。同規模の森林火災は将来的に起こり得るという。

チームの安成哲平・北大准教授は「温暖化が進む中、ますます増えている森林火災は、日本にとってもひとごとではないことを知ってほしい。 越境大気汚染の影響を減らす対策を考えておく必要がある。」と強調する。 温暖化で森林火災が増え、焼失面積は 20 年前の約 2 倍になったとの研究報告もある。 煙に含まれる大気汚染微粒子を吸い込むと、ぜんそくや気管支炎を引き起こす恐れもあり、深刻な問題となっている。 (中山由美、asahi = 5-25-24)


生ごみを都市ガスに 大阪ガスが実証実験開始 30 年実用化を目指す

生ごみを利用して、都市ガスの主成分メタンを生み出す取り組みを大阪ガスが進めている。 水素と二酸化炭素 (CO2) からメタンを合成する「メタネーション」という技術の一種だ。 発生した CO2 を原料に使うことで脱炭素の鍵として期待されている。 2025 年大阪・関西万博の会場に隣接する舞洲(大阪市此花区)。 島内にあるごみ焼却施設の敷地内にメタネーションの実証実験設備が完成し、17 日、竣工式が行われた。

設備は、バイオガスや水素の製造装置、生ごみを貯蔵する建屋、メタネーションの装置などで構成。 舞洲で生成できるメタンの量は、生ごみ 1 トンにつき、家庭 120 軒分の使用量に相当する。 生ごみは、市内のスーパー「ライフ」の数店舗から提供を受け、「地産地消型」のエネルギービジネスを目指す。 8 月ごろには万博会場の夢洲に移設する。 万博開催中は会場の生ごみを使ってメタンをつくり、会場の厨房(ちゅうぼう)などで都市ガスとして利用する。 水素は再生可能エネルギーで水を分解したものを用いる計画だ。

大阪ガスの後藤暢茂常務執行役員は「消費者に身近なバイオマス資源(生ゴミ)の活用は、カーボンニュートラルの社会を実現するためにも必要不可欠だ」と話した。 メタネーションは、水素と CO2 から合成メタンである「e-メタン」をつくる技術だ。 都市ガスの主成分とほぼ同じで、既存のガス管を通して各地に供給できる。 また、工場などから出る CO2 を集めて使えば、燃やしても大気中の CO2 量は実質的に増えず、ガスの脱炭素化の手法として注目されている。

今回の設備では微生物の力も利用する。 生ごみからバイオガスを発生させ、それに含まれる CO2 を利用して微生物がメタンをつくる「バイオメタネーション」と呼ばれる技術を採用した。 さらに触媒を用いる従来のメタネーションの技術も使って、バイオガス中のメタンの濃度を 6 割から 9 割ほどまで高めることができる。 同社は 30 年までに、同様の技術を近畿圏のゴミ焼却工場などで実用化することを目指す。

調査会社の富士経済によると、22 年には「わずか」とされる e-メタンの市場規模は、50 年には 2 兆 6 千億円を超えると予測する。 政府も 30 年までにガス供給量全体の 1% を e-メタンに置き換えることを目標に掲げ、業界でもメタネーションの取り組みが進む。 一方、課題は、コストだ。 脱炭素化を進めるには、多額の費用を投じて大きな設備をつくり、再エネ由来の水素を調達する必要がある。 後藤氏は「コストはまだまだ未知数な部分がある」とし、「(水素の生成に使う)再エネ由来の電力をいかに安く入手できるか、CO2 を大量に回収できる仕組みも欠かせない」とする。 (森下友貴、asahi = 5-19-24)


百名山・吾妻山の山肌がむき出しに メガソーラーに心乱れる福島市民

福島市でいま、市街地を見下ろす百名山・吾妻山の景観に市民の関心が集まっている。 大規模太陽光発電施設(メガソーラー)の工事で、山肌がむき出しになっているからだ。 冬に積もっていた周囲の雪が解けたころからいっそう目立ち、市には多くの苦情が寄せられている。 世界各国で再生可能エネルギーに実績があるカナダ企業が進めている事業で、仮称名は「高湯温泉太陽光発電所」。 JR 福島駅から西に約 10 キロ離れた、吾妻山の一角の先達山の標高約 300 - 600m の斜面で建設が進む。 宅地開発やゴルフ場建設などの計画もかつてあったが、バブル経済崩壊などで頓挫した土地だ。

東京ドーム 13 個の広さにあたる 60 ヘクタールの改変区域に約 10 万 5 千枚の太陽光パネルが設置され、来年 2 月に完成予定だ。 発電出力は 40 メガワットで、20 年の固定価格買取期間後は 5 - 10 年程度の発電事業期間を見込んでいるという。 市によると、市内に出力 1 メガワット以上のメガソーラーは、建設中を含め 26 カ所ある。 5 キロほど離れた森林内にも市内最大の 80 メガワットの施設がある。 ただ、多くの施設は遠方からは見えづらく、「景観」がこれほど問題になった例はなかったという。

「市民にとっては心のやすらぎ」

市も、手をこまねいていたわけではない。 開発に必要な環境アセスメントの手続き過程で「吾妻山のロケーションは、重要な観光資源であることのみならず、市民にとっても心のやすらぎに欠かせない」とする市長意見を 2020 年に知事に出した。 事業者は市内各地からの眺望調査を実施し、環境アセスの準備書に載せた。 いずれも「設備の色彩は周囲の環境になじみやすいように彩度を抑えた塗装とするから、ほとんど目立たない。 景観の変化は小さいと予測する」と記した。

太陽光発電を担当する経済産業省が 20 年に「景観への影響は、実行可能な範囲内で低減が図られていると考えられる」と評価し、翌 21 年に環境アセスの手続きが終わった。 ただ、アセスの評価書では、駅西口からの眺望について「ロータリー先には商業ビルがあるため、新幹線改札口のある 2 階からでも視認できない」と記されていたが、3 階にある新幹線ホームからはむき出しになった造成地がはっきりと見える。

山林開発に必要な、その後の林地開発許可の手続きでは、景観は審査対象にはならなかった。 この案件は、21 年の県森林審議会森林保全部会で審査された。 そのときの議事録を朝日新聞が県に情報開示請求したところ、事業者が景観について「どのような見え方になるかはアセスで評価いただいている。 大きなスケールの山の中での開発なので、丸裸の湖のようなものが見えるという状況にはならない」と発言していた。 許可の要件の一つに「環境の保全」があるが、県の担当者は「残置森林の割合が主な審査対象で、景観は含まれない」との立場だ。

事業者は取材に「市民からの苦情が出ていることは承知している」としたうえで「種子をまく植生シートをすでに張り始め、植林も進めているので、山肌がむき出しの状況はこれからなくなっていく。 そうした緑化作業を早めることで、環境アセスで示した眺望状態にしていく」と答えた。 市の担当者は、こう話す。 「植林といっても、すぐに緑で覆われるのだろうか。 確実な緑化の要請を続けていく。」(岡本進)

住民「見るのがつらい」

「景観が損なわれるのを黙っていられない。」 「市民で土地を買い戻せないものか。」 11 日、福島市成川の矢吹武さん (82) 宅に吾妻山の開発に疑問を持つ市民が集まった。 矢吹さんは「吾妻山の景観と自然環境を守る会」の会長。 家の近くの大通りから吾妻山を眺められる。 昨夏、友達に「あれは何だ」と聞かれ、伐採に気づいた。 その面積は日に日に増え、いてもたってもいられなくなった。

会を立ち上げ、工事の停止を求める署名活動を開始。 現役時代は金融機関勤めで、政治的な活動とは無縁。 彫刻が趣味の関係でつながった文化団体の賛同を取り付けたほか、町内会の回覧板で回したり、病院の窓口に置いてもらったりして、1,700 筆以上を集め 3 月、県や市に提出した。 今も署名は増え続けている。

陳情だけでは行政の担当者に伝わらないと考え、水彩の風刺画を添えた。 観光ポスターと観光客、削られた山を描いた絵には「『来て』『来て』と言うから来てみたが これではあんまりだワ(看板に偽わりあり)。」 県名産の桃を PR する「ミスピーチ」がいる横で、観光客が山を指す絵には「お嬢さん、あそこは桃の畑でも作るのかい モモのイメージ大きくダウン」と書くなど、皮肉たっぷりだ。

矢吹さんは歌人・斎藤茂吉も吾妻山を詠んだことを挙げ、「吾妻山は市民の共有財産。 開発は文化を破壊する暴虐な行為だ。」と憤る。 集まりに参加した福島市町庭坂の大村美和さん (46) は、家の窓から眺められる吾妻山の景色がお気に入りだった。 雪解けが進んでウサギの形に雪が残る「雪うさぎ」が出現するたびカメラに収め、時折インスタグラムにも投稿していた。 「自慢の景色だったけど、今は見るのがつらい。 私だけではなくたくさんの人が心を痛めている。」 市によると、計画当初は施設の地元町内会が反対していたが、造成が進むのに伴い、さらに離れた周辺地域に反対の声が広がっているという。(酒本友紀子)

法規制の検討を

国が再生可能エネルギーの導入を促すなか、開発をめぐる地域トラブルが絶えない。 太陽光発電は 2012 年に「固定価格買い取り制度 (FIT)」が始まり、短期間で利益を上げられると踏んだ海外資本を含む資金力のある多くの事業者が参入してきた。 危機感を強める福島市は昨年、「誇りである景観が損なわれるような山地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まない」とするノーモア・メガソーラー宣言を発表。 今年 3 月には、業者の順守事項などを定めたガイドラインをより厳しくした。

宮城県も 4 月、事業者から課税できる新条例を施行。 大規模森林開発のみ課税対象にし、平野への誘導を狙う。 青森県も建設禁止地域を定める条例づくりを進める。 ただ、条例や宣言などでは事業をとめる拘束力は弱い。 事業者の財産権や営業の自由に制約をかけるのは難しいからだ。 だが、市民が誇る吾妻山の景観の維持を例にすれば、それを上回る「公益上の理由」に十分あてはまるはずだ。 市の担当者は「持ち込まれている計画はまだあり、国が法で縛らない限り抗しきれない」と言う。 国民が納得できる規制に踏み切る時期に来ている。 (岡本進、asahi = 5-18-24)

参照記事 (7-5-23)


水位低下、リニア工事一時中断へ JR 東海、ボーリング調査も

リニア中央新幹線のトンネル掘削工事が近くで進む岐阜県瑞浪市の大湫(おおくて)地区で、井戸やため池などの水位が相次ぎ低下している問題を受け、JR 東海の丹羽俊介社長は 16 日、トンネル工事を一時中断し、地質の状況を調べるボーリング調査をすることを明らかにした。 水位の低下については「工事の影響による可能性が高い」と述べた。 JR 東海によると、トンネル工事は現在、大湫地区の中心部に向かって進んでいる。 工事の中断やボーリング調査の実施時期や期間について、調整をしているという。

丹羽社長は同日あった会見で、トンネル工事の一時中断を明らかにする一方で、リニア開業の時期については「影響がない」と述べた。 JR 東海によると、水位低下を確認したのは個人用の井戸やため池など 14 カ所。 代替の水源確保や住民への補償などの対応を進めている。 (asahi = 5-16-24)

◇ ◇ ◇

リニア工事原因か、岐阜・瑞浪で水位低下 JR 東海、14 カ所で確認

リニア中央新幹線のトンネル掘削工事が近くで進む、岐阜県瑞浪市の大湫(おおくて)地区の井戸やため池などで水位の低下が相次いでいることがわかった。 JR 東海は 14 カ所で水位低下を確認し、トンネル工事による湧水(ゆうすい)が原因とみて、13 日に住民説明会を開いた。 代替の水源確保や補償などの対応を進める一方で、状況を見ながら、リニアの工事は進める予定だ。 JR 東海によると、水位低下を把握したのは 2 月下旬。 工事の影響を調査するために設置した水位観測用の穴で水位低下がみられたという。

その後、井戸に水位計を設置するなどして調査し、個人用の井戸 9 カ所、水源・ため池 5 ヶ所出水位の低下が確認されたという。 リニアの中間駅ができる中津川市から名古屋方面に向かう途中の位置にあたる、大湫町の地下を貫く形でリニアの日吉トンネル(南垣外工区、全長 7.4 キロ)の工事が行われている。 現在、地域住民が暮らす地区の手前までトンネルが掘り進められているという。 JR 東海はリニア工事と水位低下の因果関係は確認できていないものの、「他に工事をやっていないので、(水位低下は)リニアの工事によるものと考えている(JR 東海広報部)」として、住民らへの補償交渉を進めている。

13 日夜には大湫町の住民説明会を開いた。 井戸水を上水道に切り替える工事を JR 側の負担で実施するなどの対策を説明した。 また、今後、減水した水源の代替地を確保するため、新たに 2 カ所で井戸を掘るほか、給水槽も新設するという。 リニア中央新幹線は品川 - 名古屋(約 285.6km)を最速 40 分で結ぶもので、工事区間のうち 86% がトンネル区間となっている。 (米田怜央、寺西哲生、asahi = 5-15-24)


知床岬の発電施設は「大規模」 北海道自然保護協が計画との矛盾指摘

世界自然遺産・知床で進む携帯電話エリア拡大のための基地局整備について、北海道自然保護協会(在田一則会長)は 15 日、関係省庁や道、地元の斜里町と羅臼町に工事の着工を見合わせ、慎重な検討を求める意見書を提出した。 意見書は日本自然保護協会についで 2 例目。 道協会は特に知床岬での計画は「大規模」で国立公園の管理計画と矛盾すると疑問を呈した。

意見書では、岬地区の特徴的な植生や生態系、国の天然記念物のオジロワシの営巣地にもなっていることを指摘した上で、約 7 千平方メートルに及ぶ発電施設(太陽光パネル)の建設やケーブル類の埋設は「生物多様性や自然景観を大きく破壊すると予想され、看過できるものではない」とした。 環境省に対しては、同省が 2023 年 10 月に改定した「知床国立公園管理計画書」との整合性に疑問を投げかけた。

管理計画にある先端部地区の利用施設に関する事項では「一般の公園利用のための施設は設けない」としている。 今回の携帯電話基地局と発電施設が一般の公園利用(公園利用者の安全確保も含め)のための設備であるとすれば「この方針に抵触する」とした。 また、発電施設の許可や届け出について、「太陽光発電については大規模なものは認めない」としている点を取り上げ、今回の知床岬での発電施設の規模は「一般的な感覚からすれば疑いようのない大規模なものだ」とした。

こうしたことから、工事の着工を見合わせ、知床世界自然遺産地域科学委員会や世界自然遺産の審査機関である国際自然保護連合 (IUCN) に報告し、意見を聞くことを要望。 「世界自然遺産かつ国立公園の極めて重要な特別保護地区の自然を破壊してまで利用者の要求に応えることには大きな疑問がある」とした。 この管理計画書の改定は知床半島の携帯電話エリア拡大へ向けたプロジェクトが進んでいる最中で、改定した翌月、通信事業者から太陽光パネル設備の規模やケーブル類の埋設ルートなどが記された計画書案が関係省庁などに内部資料として配布されていた。

在田会長は「岬の計画は明らかに大規模で管理計画と矛盾する。 観光客は知床の聖地を少なくとも船から見られるのだから、少しの間、携帯を我慢できないものか。 太陽光パネルの火災も危惧される。 この問題は環境省の真価が問われる問題だ。」と語った。 (奈良山雅俊、asahi = 5-15-24)


石炭火力の廃止 日本発の脱炭素技術を生かせ

脱炭素に向け、二酸化炭素 (CO2) を大量に排出する石炭火力発電所の廃止を求める潮流が国際的に強まっている。 日本は、新たな脱炭素技術を開発し、石炭火力への依存度を下げていきたい。 先進 7 か国 (G7) の気候・エネルギー・環境相会合は、CO2 の排出削減対策を講じていない石炭火力発電所を、2035 年までに廃止することで合意した。 廃止期限を明示したのは初めてだ。

日本では、十分な排出削減対策が取られている石炭火力は多くないとされる。 対策は急務だ。 昨年 12 月の国連気候変動枠組み条約第 28 回締約国会議 (COP28) が採択した成果文書では、「この 10 年で化石燃料からの脱却を加速させる」と明記した。 G7 は今回さらに、化石燃料から脱却する道筋を明確にした。 先進国として気候変動対策を主導する姿勢を示したと言える。 地球温暖化が進む中、石炭火力の廃止を優先して進めることは重要だ。

G7 の合意は、電力の安定供給に支障が生じるなど各国の事情を考慮し、35 年以降も石炭火力の稼働を継続できる余地も残した。 日本は現在、石炭火力で電力の 3 割を賄っている。 電力の安定供給を確保しながら、石炭火力から出る CO2 を着実に減らしていく施策を講じるべきである。 日本は、燃やしても CO2 が出ないアンモニアを石炭に混ぜて発電する技術の開発を急いでいる。 40 年代には、石炭を使わず、全燃料をアンモニアに置き換えることが視野に入っているという。

また、発電所から出る CO2 を回収して地中に閉じ込める「CCS」という技術を 30 年までに実用化することも目指している。 そうした日本の取り組みに対し、欧米からは「石炭火力の温存につながる」との批判もある。 だが、アジアの新興国など石炭火力に頼る国は多い。 日本が新たな脱炭素技術を確立すれば、これらの国の経済発展と温暖化防止の双方に役立つはずだ。 政府が、今年度、改定するエネルギー基本計画も焦点になる。

21 年作成の現行計画では、30 年度時点の電源構成の目標として、電力の 19% を石炭火力で賄う計画となっている。 新たに示す 35 年度以降の電源構成で、その割合は、さらに下がるとみられている。 代替電源として、太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡充が必要になる。 政府が、CO2 を出さない原子力発電所の再稼働を強く後押しすることも不可欠だ。 (yomiuri = 5-9-24)

◇ ◇ ◇

石炭火力「35 年までに廃止」 G7 環境相会合、解釈には余地残す

主要 7 カ国 (G7) 気候・エネルギー・環境相会合がイタリア・トリノで開かれ、30日、G7 として初となる、石炭火力発電の廃止年限などを盛り込んだ共同声明を採択した。 遅くとも 2035 年までの段階的な廃止をうたい、脱炭素の加速へ道筋をつけた格好だが、解釈の余地も残した。 共同声明では石炭火力について、「30 年代前半」までに段階的に廃止するとした。 ただし、対象は「(温室効果ガスの)排出削減対策のない」施設。 年限も、「30 年代前半あるいは産業革命前からの気温上昇を 1.5 度までに抑えられる時間軸」という表現になった。 具体的な対策や時間軸は明示されていない。

化石燃料を使った火力発電は、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量が多く、中でも石炭火力は発電量当たりの排出量が最大だ。 年限については、国際エネルギー機関 (IEA) が 21 年の報告書で、先進国は 30 年代には廃止が必要だとしていた。 昨年の G7 環境相会合でも廃止年限は議論されたが、国内に約 170 基の石炭火力を抱え、電源構成の 3 割を占めるなど、依存度が G7 で最も大きい日本は反対した。 今回の共同声明でも、廃止の対象に例外を設けたり、年限に解釈の余地を残したりすることで、各国が妥結した形だ。

また、天候などに左右される再生可能エネルギーの安定性を高めるため、バッテリーなどによる蓄電や送電網も強化する。 世界の蓄電容量を 30 年に 22 年比で 6.5 倍の 1,500 ギガワットに増やす。 ほかに、電気自動車の普及に向け、30 年までに公共投資などで充電インフラの大幅な整備を進めることや、核融合発電の開発に向けて協力していくことも記載した。

昨年ドバイであった国連気候変動会議 (COP28) では、化石燃料からの脱却を加速させる方向性を確認し、世界の再エネの設備容量を 30 年までに 3 倍にする目標に加盟国が合意した。 今回の G7 での共同声明は、そうした流れを具体化し、後押しする狙いがあるとみられる。 各国は 25 年 2 月までに、35 年までの削減目標を新たに作って、国連に提出することになっている。 国内では次のエネルギー基本計画と合わせて議論がまもなく始まる見込みだ。 今後、共同声明を踏まえた具体的な国内対策の検討が本格化することになる。 (市野塊、asahi = 4-30-24)

G7 気候・エネルギー・環境相会合の共同声明の骨子
・ 対策のない石炭火力を、2030 年代前半までか、1.5 度目標に沿った時間軸で段階的に廃止
・ 30 年に蓄電容量を 22 年比で 6.5 倍に
・ 電気自動車の普及に向け、30 年までに充電インフラを大幅に整備
・ 核燃料の供給網を強化
・ 核融合の開発協力の強化を目的とした G7 の作業部会をつくる
・ アフリカなど開発途上国のエネルギー転換を支援
・ ロシアによるウクライナのエネルギー施設への攻撃を非難 中東ガザでの人道危機を深く憂慮


影響は地球全体に 200 年後まで? 米企業の「温暖化対策」に批判

米スタートアップ企業が進める地球温暖化防止の事業が、波紋を広げている。 実験段階レベルの技術だが、すでに成果をあてこんだ「冷却クレジット」も販売。 企業側は意義を強調するものの、国内外で反発を呼んでいる。 日本の識者も事業のあり方を「もってのほか」と批判する。

この企業は、「メイクサンセッツ」社。 同社が進める事業では、上空に微粒子をまき、太陽光をはね返すことで、気温上昇を緩和できるとしている。 4 月、朝日新聞の取材に応じた CEO のルーク・アイゼマン氏は「地球の気温を下げ、毎年何千人もの命を救い、多くの種の絶滅を防ぐことができる。 本当のリスクは、何もしないことだ。 被害を未然に防ぐべきだ!」と、自身の考えを強調した。

「気候工学」にざわつく世界、高まる期待と懸念 必要なガバナンスは

化学物質や粉末を使って日射をはね返す手法は「成層圏エアロゾル(微粒子)注入 (SAI)」や「太陽放射改変 (SRM)」、総称して気候工学などと呼ばれる。 自然界の実例とされているのが「火山の日傘効果」だ。 1991 年、フィリピンのピナトゥボ火山の大規模噴火のあとには、噴火で生じた硫酸などのエアロゾルが成層圏に達し、太陽光を反射して北半球の平均気温が 0.5 度下がった。 これを人工的に再現することを念頭に、基礎的な研究が欧米で進む。 期待の一方、生態系への影響やオゾン層破壊などのリスクについてはまだよくわかっていない。

人工の「雲」で相殺?  「冷却クレジット」販売も

ただ、「夕焼けをつくる」という意味を表すメイクサンセッツ社はすでに、大気中に火山ガスの一種でもある二酸化硫黄 (SO2) を散布する事業を、実行に移しているという。 取材に対し、アイゼマン氏は「50 機以上の気球を打ち上げ、1 万 6,140 グラム以上の SO2 を成層圏に放出した」と説明する。 さらに同社は、散布によって温暖化の抑制に貢献できるとして、「冷却クレジット」をすでに販売していることも明かした。

1 クレジット 10 ドルで、日本からアクセスした同社のサイト上は 1,700 円と表記(4 月 27 日時点)。 説明によれば、1 クレジット分の資金は、同社が 1 グラム以上の人工の「雲」を成層圏に放出するために使い、「1 トンの二酸化炭素 (SO2) の温暖化効果を 1 年間相殺する」とうたう。 アイゼマン氏によると、2 万 5 千クレジット以上が売れたという。

こうした同社の「独走」に対し 3 月、米国の法学者らは規制強化を求める嘆願書を米政府当局に出した。 嘆願書では同社を名指しした上で、「一部の民間企業が政府の審査なしに実行し、クレジットを販売し始めている」、「米国内外に危険を及ぼしかねない」と指摘。 法規制を明確化し、科学的な妥当性や悪影響の有無などについても政府への報告を求めるといった対策をするよう訴えた。 申立人の一人で、環境法に詳しいカリフォルニア大デービス校のアルバート・リン教授は「メイクサンセッツ社の行いは、公的な監視が緊急に必要だということを明らかにした。 私的な利益のために気候を操作できてしまう恐れもある」と警鐘を鳴らす。

メキシコ「実験禁止」 "炎上商法"の指摘も

サイトの記載によれば事業は主に米国内で行われているもようだ。 ただ、米海洋大気局 (NOAA) のサイト上に掲載されている、アイゼマン氏の手書きの報告書によると、散布による効果が及ぶ範囲は「地球全体」で、実験終了見込みは約 200 年後だという。 隣国とのトラブルも起きている。 昨年 1 月には、メキシコ西部のバハカリフォルニア半島で気球を打ち上げ、硫黄の粒子を成層圏に放出する計画をサイトで示していた。 3 回の打ち上げを行うと予告していたが、実施前にメキシコの環境天然資源省が「国内での太陽地球工学実験を政府が禁止し、場合によっては中断させる」との声明を出し、実現にはいたらなかった。

メキシコ政府は、同社側からは事前の通知がなく、政府や周辺住民の同意もとっていなかったと説明。 「地域社会と環境を守るため」に声明を出したとする。 気候工学に詳しい杉山昌広・東京大教授(環境政策)は「温暖化に対して緊急の行動が必要だ、という思いが正しいとしても、科学的な原理や効果が十分に明らかになっていない段階で実行に移すのは無責任だ。 さらにそうした段階で、厳密な計算と管理が必要なクレジットを販売していることは、制度への不信を招きかねずもってのほかだ。 注目を集めるための炎上商法だととらえられても仕方ない。 現時点ではこの事業を停止すべきだろう。」と批判する。

その上で「干ばつが数年にわたって続くなど、気候変動の影響が増すにつれて、どこかで気候工学に頼らざるを得ない可能性は高まっている。 1 国や企業でも実行できてしまうかもしれないのがこの技術の特徴だが、その影響はグローバルに及ぶ可能性がある。 国際的なガバナンスの議論が必要になるだろう。」と指摘する。 (藤波優、竹野内崇宏、asahi = 4-27-24)