深海底にマイクロプラスチックが大量蓄積 「しんかい 6500」調査

千葉県の房総半島沖 500 キロの深海底に大量のマイクロプラスチックがたまっていることが、海洋研究開発機構などの研究グループによる調査で明らかになった。 堆積物 1 グラムあたり平均で 600 個ほどと、海外のこれまでの研究と比べても飛び抜けて多いという。 付近では、ポリ袋などのプラスチックごみも大量に見つかっている。 研究グループは黒潮に乗って運ばれてきた微粒子が沈んで集積しやすい仕組みがあるとみている。

マイクロプラスチックは一般に、5 ミリ以下の微粒子を指す。 プラごみが紫外線で劣化したり、砕けたりすることで生じ、海洋汚染や生物への影響が懸念されている。 研究グループは 2019 年、有人潜水調査船「しんかい 6500」や、より深くまで沈められる観測装置を使い、相模湾や房総半島沖の海溝、さらに沖に広がる「深海平原」の計 7 地点で、海底の堆積物を採取した。 採取地点は相模湾で千メートル前後、海溝で 9 千メートル超、深海平原で 6 千メートル弱の深さがある。

表層 1 センチの泥に含まれる微粒子を分析すると、特に深海平原でマイクロプラスチックが多かった。 乾燥させた堆積物 1 グラムあたりで、平均 600 個ほど。 相模湾や海溝の 10 倍以上だった。  深海平原だけでなく、相模湾や海溝も、これまで調べられた深海底のなかで最も多かった地中海の地点を上回っていた。 深海平原では、地中海の 260 倍のところもあった。 もう一つ、新たに分かったのが、場所による材質や形の違いだ。

相模湾と海溝のものは似通っていて、様々な種類が含まれ、比較的細長い形をしたものが多い。 一方、深海平原はポリエチレンとポリアミドがほとんどで、細長くなかった。 これらの結果と、これまでのシミュレーションや海底の地質調査結果を突き合わせることで、マイクロプラの輸送経路が浮かび上がってきた。 海溝の調査地点は、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、相模トラフという、プレート境界にできた三つの深い地形が交わるところにあたる。 相模湾のものと共通するということは、相模トラフを伝って届いたものが多くを占めている可能性が高い。

東京湾や相模川での調査でも、似た結果が得られている。 陸地から海へと流れ出たマイクロプラが相模湾の海底に沈降。 その後、地震による海底地すべりで巻き上げられて相模トラフを東へ進み、海溝の調査地点付近まで運ばれたとみられるという。 一方、深海平原のマイクロプラは、黒潮の海水中にみられるものに近い。 付近は、黒潮からの流れが渦を巻く場所にあたる。 ここで、大きなプラごみだけでなく、微粒子も沈み、マイクロプラの「ホットスポット」が生じているとみられる。

深海平原は陸地からの土砂が届きにくく、堆積のスピードは、数百年で 1 センチと遅い。 プラスチックが普及し始めてからのすべての量を計ったことになるが、1 年あたりに積もる量に換算しても、この場所の多さは際立っているという。 マイクロプラが運ばれて海底に堆積する過程や分布の実態は、未解明な部分が多い。 日本周辺では海水中から検出される量も多く、東アジア諸国から黒潮に乗って運ばれてきたものも少なくないとみられる。 なぜ黒潮ではポリエチレンとポリアミドが主体になるのかもわかっていない。

海洋機構の土屋正史・副主任研究員は「上流にあたる沖縄周辺や四国沖の調査を通じて輸送経路を明らかにしていきたい。 発生源の対策にもつなげられれば。」と話す。 論文 は、海洋汚染の科学誌「Marine Pollution Bulletin」に 7 日付で掲載される。(編集委員・佐々木英輔、asahi = 10-8-23)


アマゾン川でイルカ 120 頭死ぬ、絶滅危惧種も 干ばつで水温 39 度

南米ブラジルのアマゾン川流域で 2 日までに、120 頭ものイルカが死んでいるのが見つかった。 記録的な干ばつの影響で、水温が上昇したためだとみられる。 ロイター通信などによると、イルカが死んでいたのはブラジル北西部アマゾナス州を流れるアマゾン川の支流テフェ川。 先週には水温が、平年よりも 10 度以上高い 39 度に達する日があった。 干ばつによって川の水位が下がったことから、水温が上昇したとみられる。 アマゾン川には淡水イルカが生息している。死んだイルカの中には、国際自然保護連合 (IUCN) のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている「アマゾンカワイルカ」も含まれているという。 イルカのほかにも、数千もの魚が死んでいるのが見つかっている。 (真野啓太、asahi = 10-3-23)


西武線に小田急、東急から 100 両譲渡 「中古車両」で安く省エネ

西武鉄道は 26 日、東急電鉄と小田急電鉄からそれぞれ通勤電車の車両を有償で譲り受けると発表した。 大手私鉄間の車両の譲渡は珍しい。 いずれも省エネルギー性能の高い車両で、新たに造るより二酸化炭素 (CO2) の排出量を抑えられるメリットがある。 2024 年度に小田急の 8000 形を西武国分寺線に、25 年度以降に東急の 9000 系を西武秩父線など 4 支線で走らせる。 29 年度までに約 100 両を順次導入する計画だ。

これらは省エネ性能が高い「VVVF インバーター制御車両」で、旧型の直流モーター車両に比べて使用電力を半分に抑えられる。 西武鉄道では、全車両に占める割合が約 7 割にとどまり、関東の他の大手私鉄より低いのが課題だった。 西武鉄道は他社から譲り受けるVVVF 化車両を「サステナ車両」と呼んで導入を進める。 30 年度までに割合を 100% に引き上げる方針で、約 2 千世帯分に相当する CO2 の排出を減らせる見通しという。 (高橋豪、asahi = 9-26-23)


ベルリンのブランデンブルク門に塗料 環境団体吹きかけ、14 人拘束

ドイツの首都ベルリンのシンボルとして知られる観光名所のブランデンブルク門で 17 日、環境活動団体「最後の世代」のメンバーらが門の柱に塗料を吹きかける事件があった。 警察は 14 人を現場で拘束し、器物損壊の疑いで調べている。 この団体が X (旧ツイッター)に投稿した動画や写真には、ブランデンブルク門の 6 本の柱に消火器のようなものでオレンジや黄色の塗料を吹きかける様子などが映っている。 この団体は 2030 年までに化石燃料の使用を中止するよう求めており、「今こそ政治的転換の時だ」とXに投稿した。

この団体のメンバーは、気候変動対策を求めてドイツ各地で道路に座り込んで交通渋滞を引き起こしたり、食料問題への影響を訴えるとして美術館の名画にマッシュポテトを投げつけたりしたこともある。 こうした過激な抗議活動に対して批判が集まっている。 (ベルリン = 寺西和男、asahi = 9-18-23)

〈編者注〉 環境活動団体ではなく「環境破壊団体」です。


史上最も暑い夏だった … なのに電力逼迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?

今年の夏は本当に暑かった。 「それなのに、なぜ政府から電力需給逼迫注意報が 1 度も出なかったのか。」 観測史上最も暑かった東京の夏に電力不足はあったのかどうか、探った。(砂本紅年)

「節電にご協力いただけた」

電力の需要に対して、供給にどれだけの余力があるか、政府は「予備率」という指標を用いている。 前日に広域予備率が 3% 未満となった場合、経済産業省が「警報」を発令。 予備率 3 -5% になったときには「注意報」を発令する。 政府が 6 月の時点で示した東京電力ホールディングス管内の予備率は「10 年に 1 度の猛暑」を折り込み、7 月が 3.1%、8 月も 4.8% となっていた。 いずれも安定供給に最低限必要とされる 3% をわずかに上回る程度の想定。 政府は東京エリアにのみ、7 - 8 月を対象に企業や家庭に節電要請を出した。

実際、都心は今年、8 月全ての日で最高気温が 30 度以上の真夏日を記録した。 1875 年の統計開始以来初めてだ。 さらに 35 度以上の猛暑日も 22 回と、昨年の最多記録 16 回をはるかに上回り過去最多を更新。 9 月も全国的に厳しい残暑が続いている。 にかかわらず、節電要請の期間中、電力需給逼迫の「警報」も「注意報」も発令されることはなかった。 政府が猛暑を想定した東電エリアの夏季の最大の電力需要は 5,930 万キロワット。 対する実績は、この夏もっとも需要が高まった 7 月 18 日でも 5,525 万キロワットと想定を下回ったからだ。 全国の需給状況を監視する電力広域的運営推進機関によると、今夏は電力の余っている他エリアからの電力融通の指示も実施しなかった。

想定を下回った理由について、経済産業省の担当者は「今まさに検証中」。 電力供給を担う東京電力パワーグリッドの広報担当者は「」と感謝する。 さらに、予備率が 8% を下回ると、火力発電の通常出力を超える増出力や、各事業者の非常用発電機の運転などで追加の供給力確保に努めたと説明。 火力発電所などで想定外のトラブルが起きなかったことも大きな要因といえそうだ。

「太陽光発電の貢献大きかった」

一方、東電管内では柏崎刈羽原発(新潟県)、福島第 1 原発(福島県)など計 17 基ある原発が 1 基も稼働していない。 原発なしで史上最も暑い夏を乗り切ったかたちだ。 「もう原発は必要ないということではないか。」 電力需給逼迫注意報が出なかったことに疑問を持った読者がこう思うのももっともだろう。 同省担当者に聞いてみると、直接回答しなかったものの「需給の見通しが厳しい日もあり、老朽化した火力発電所を動かしたことが何度もあった」と、綱渡りだったことを強調した。 原発を推進する電気事業連合会は「原発は 2050 年カーボンニュートラル、電力の安定供給に向けて欠かせない電源」と位置付ける。

これに対して、NPO 法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「電力需要が大きくなる日中に太陽光発電の貢献は大きかった」と再生可能エネルギーの重要性を指摘する。 同 NPO の試算によると、仮に柏崎刈羽原発を再稼働させても電力需要の数 % をまかなう程度にしかならない。 電気代引き下げ効果も 1% 程度にとどまることから「原発の積極活用を目指す政府方針は疑問」と反論する。 (東京新聞 = 9-16-23)

電力需給逼迫警報・注意報 前日に広域予備率 3% 未満となった場合、経済産業省が「警報」を発令する。 昨年3月、福島県沖地震の影響で複数の火力発電所が長期停止に追い込まれた際、政府は 7 年ぶりに節電を要請。 東京電力管内に初の「警報」を出した。 「周知が遅い」との批判を受け、昨年 5 月に前日に広域予備率 3 - 5% になったときに発令する「電力需給逼迫注意報」を新設。 同 6 月には、真夏に向けて火力発電所の計画的な補修点検をしていたところ、季節外れの猛暑に見舞われて電力不足となり、東電管内に初の「注意報」を発令した。

〈編者注〉 もう少し突っ込んで欲しかった内容です。 「広く節電にご協力いただけた」の一言で済まされるものでもありません。 毎日暑くてエアコンは入れっぱなし。 それでも耐えられたのは空調機の性能向上が第一に上げられるのでしょう。 次の課題は、火力発電を抑える為に何ができるのかでしょう。 福島原発で事実上いくつかの街が消滅したことを考えると、先ず原発無しでできることをとりあげるべきでしょう。 やっぱり「太陽光発電」がキーになるような気がします。


使用済み紙おむつ月 20 トン、生まれ変わるのは … リサイクル広がるか

「あっという間に原形がなくなります。」 千葉県松戸市にある、リサイクル業者サムズの工場。 職員の合図でコンベヤーが動き出す。 ここに集められているのは、大量の使用済み紙おむつ。 次々と、ドラム式洗濯機のような機械の中に運ばれていった紙おむつは、薬剤と混ぜ合わされて、みるみるうちにバラバラになっていく。 サムズは 2009 年から、使用済み紙おむつのリサイクル事業を始めた。 松戸市や、茨城県土浦市などにある医療機関や福祉施設の計 5 カ所から収集する紙おむつは、月 20 トンほどにのぼる。

紙おむつの原料はパルプ、プラスチック、水を吸収する高分子吸収材 (SAP) だ。 サムズでは、そのうち主にプラスチックやパルプの部分を使い、固形燃料を生産。 製紙会社に買ってもらい、暖房や発電などに使われる。 最近、段ボールをつくる実験も始めたという。 サムズの鴨沢卓郎社長は「使用済み紙おむつは資源になる。 自治体にとっても焼却の負担が減るなどメリットがある」と話す。 環境省の推計によると、2020 年度にごみとして排出された使用済み紙おむつ量は、家庭と事業所をあわせて 217 万 - 225 万トンにのぼり、全ての一般廃棄物量のうち約 5% を占める。 これが、30 年度には家庭と事業所で計 245 万 - 261 万トン、全体の約 7% に増えるとみられるという。

その背景にあるのは、著しい高齢化だ。 経済産業省の生産動態統計によると、少子化によって乳幼児用の紙おむつの年間生産量は 2017 年の約 53 万トンをピークに減少している。 一方、高齢化を背景に大人用の紙おむつは伸び続け、2021 年に約 41 万トンで乳幼児用紙おむつの生産量を上回った。 ごみの排出量でみても、日本衛生材料工業連合会の推計では、2030 年に大人用が年 180 万トンと子ども用の年 65 万トンの 3 倍近くになる。 これに伴い、大人用と子ども用の合計の排出量も増えていくとみられる。

コスト懸念、ガイドライン知らぬ自治体も

使用済み紙おむつは、尿や軟便などの水分を含む。 量が増えると燃やしにくくなり、焼却炉の負担増や二酸化炭素の排出増にもつながる。 サムズの事業はまだ小規模で、松戸市の焼却炉の負担を減らすほど使用済み紙おむつを減らすには至っていないが、同市の廃棄物対策課の担当者は「紙おむつがリサイクルされれば、ごみの焼却量は減る。 今後事業が展開していくことを期待したい。」と話す。 ただ、紙おむつのリサイクルに取り組む自治体はまだ多くはない。 環境省によると、リサイクルに取り組んでいる自治体は 8 月時点で 20 カ所。 検討中も 15 カ所にとどまる。 同省は、2030 年度までにあわせて 100 カ所に増やす目標を掲げているが、実現するかは見通せない。

環境省は 2020 年 3 月、紙おむつのリサイクルを各自治体が検討する参考として、先進事例や関連する技術などをまとめたガイドラインを作成した。 しかし、昨年度の調査では、37% の自治体がガイドラインの存在自体を把握していなかった。 自治体からは「コストがかかるおそれがある」、「一定程度以上の回収量がないと事業性が確保できない」などの声も寄せられているという。 こうした中、環境省は 8 月、自治体同士の連携を後押ししたり、リサイクル施設の設備導入への既存の交付金制度を周知したりして支援する方針を発表している。 (市野塊、asahi = 9-10-23)


公募の実習生乗り込む「洋上のキャンパス」 北大練習船の新たな挑戦

「洋上のキャンパス」と呼ばれる船がある。 北海道大水産学部の練習船で学生や研究者らが乗る「おしょろ丸(1,598 トン)」だ。 初代「忍路(おしょろ)丸」は 1909 (明治 42)年竣工の木造帆船だ。 北大の前身である札幌農学校に水産学科ができ、162 トンの練習船が建造された。 操船や漁業の学びの場となり、代替わりしながら役割を広げた。 生態系の保全や、持続可能な資源管理の調査研究なども担う。 現在の船は 2014 年就航の 5 代目。 この夏は新たな挑戦として、他大学の学部生たちが乗船した。 目指すのは、温暖化の影響が地球上で最も顕著とされる北極海だ。 18 年以来となる長期航海に記者も密着した。

北大は国立極地研究所や海洋研究開発機構などと連携し、「北極域研究加速プロジェクト (ArCS II)」を展開する。 グリーンランドやカナダなど北極圏で、海洋や大気などを観測する。 環境の変化や影響を調べて持続可能な社会を探る。 今回、おしょろ丸はベーリング海北部から北極海の一部であるチュクチ海へ向かう。 2 カ月近い航海で海水やプランクトン、魚やクジラ、海鳥、海洋プラスチックを調べる計画だ。 研究観測とともに ArCS II が力を入れるのは人材育成だ。 「公開実習生」として各地の大学から学部を問わずに募り、受け入れることにした。

北大で担当するのは、北極海での調査経験が豊富な 2 人の准教授だ。 水産科学研究院の上野洋路さんと、北方生物圏フィールド科学センターの野村大樹さん。 2 人は「文系の学生が興味をもってくれるのか不安もあった」と話すが、予想を上回る応募があった。 全国から経済や法律、デザインなどを学ぶ 10 人が選ばれた。 志望動機は「日本の水産や食料の問題を北極海で考えたい」、「海洋教育をしたい」など様々だ。 航海も海外に出るのも初めてという学生もいた。 ビザの申請や保険の手続き、必要な持ち物の確保などやるべきことはたくさんある。 上野さんはこまめにメールを送り準備を促した。 今年 2 月には事前に乗船し、船上生活を体験してもらった。

難題は新型コロナウイルス対策だ。 米国の受け入れ対応などが変わりつつある時期で、様々なケースを想定した。 おしょろ丸は公開実習生を乗せずに、北海道・函館を 6 月 8 日に出航した。 研究者と北大生らが乗り込み、先に北極海で調査した。 その後、米国アラスカ州ノームに寄港。 一部が実習生ら後半組と入れ替わり、再び北極海へ向かう。 実習生らは 7 月 7 日、日本を飛行機で出発した。 ノームで隔離期間を過ごし、10 日に全員が PCR 検査を受けた。 そこで問題が起きた。 病院の担当者は一人の学生を呼んで告げた。 「あなたは陽性です。」

再検査をすることになった学生は発熱などの症状はなかったが、宿で一人部屋に移された。 アラスカの夏は夜中でも薄明るさが残る。 眠れぬ夜を過ごした学生は、「これまでの人生で一番長く感じた」と振り返る。 翌朝一番で病院へ向かった。 より精密な再検査の結果は「陰性」。 先に乗船していた仲間を追いかけて、港へ向かった。 12 日、おしょろ丸はノームの港を離れた。 「10 人そろって本当に良かった」と野村さんはつぶやいた。 (中山由美、asahi = 9-9-23)


日本勢の復権なるか 次世代太陽電池の開発本格化

日本発の技術による次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の開発が国内で本格化している。 軽く、折り曲げやすいなどの特徴から窓やビルの壁面にも設置でき、複数の日本企業が数年以内の事業化や量産化を目指す。 かつて日本製がトップシェアを誇った太陽電池は、価格競争を制した中国製が席巻。 次世代技術で日本勢が復権できるのか注目が集まる。

パナソニックホールディングス (HD) は 8 月末、神奈川県藤沢市のモデルハウスでペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始した。 バルコニーのガラス建材と一体型の「発電するガラス」。 1 年かけて実用性を検証したうえで、令和 10 年までに量産を始め、将来的に数百億円規模の事業に育てたいという。 桐蔭横浜大の宮坂力(つとむ)特任教授が平成 21 年、ペロブスカイト(灰チタン石)の結晶に光から電気を生み出す作用があることを発見。 ペロブスカイト太陽電池は折り曲げやゆがみに強く、重さは現在普及するシリコン太陽電池の 10 分の 1 だ。

積水化学工業は NTT データと、今年 4 月から大阪府島本町の開発研究所の建物外壁に設置する実証実験を始め、令和 7 年の事業化を目指す。 東芝は今年 2 月、東急田園都市線青葉台駅(横浜市)での実験に太陽電池を提供。 カネカも開発を進めている。 電気代高騰で国内の太陽電池の需要は高まっている。 資源エネルギー庁などによると、平成 30 年度以降の住宅用太陽電池の導入件数は年間 14 - 15 万件で推移していたが、令和 4 年度は約 2 割増加。 7 年からは東京都や川崎市で新築住宅への太陽光発電設置義務化がスタートする。

このためシリコン太陽電池の販売は活性化している。 シャープも今年 8 月に新製品を発表。 屋根の形状に合わせて 4 種類のパネルを組み合わせることで、搭載容量を従来製品より 19% 増やせる。 約 15 年前までは旧三洋電機、パナソニック(現パナソニック HD)、シャープ、京セラなどが変換効率の高い太陽電池の開発にしのぎを削り、日本企業が世界の生産シェアの 5 割を握っていた。 ところが、設備投資などに国の支援を受けた中国企業が低価格で量産。 国際エネルギー機関によると、中国が現在シェアの 8 割を占める。 旧三洋電機を買収したパナソニックは 3 年度に太陽電池の生産から撤退した。

ペロブスカイト太陽電池でも中国企業はすでに量産を始めている。 日本総合研究所の栂野(とがの)裕貴研究員は「山間部の多い日本ではペロブスカイト太陽電池はかなり有効。 政府が(設置費用などに)適切に補助金を出して支援する必要がある」と話した。 (桑島浩任、sankei = 9-3-23)


CO2 直接回収に LNG 未利用冷熱、日揮が名大と実用化目指す

日揮ホールディングス (HD) は名古屋大学と共同で、液化天然ガス (LNG) 受け入れ基地の未利用冷熱を活用し、大気中の二酸化炭素 (CO2) を直接回収する技術「DAC」の開発を進めている。 社会全体で DAC が確立していない中で、設計・調達・建設 (EPC) を得意とする LNG 関連設備と組み合わせて実用化できれば、他社との差別化要因になる。(戸村智幸)

CO2 回収は脱炭素手段として期待され、重工業系などの関連各社が発電所やプラント、ゴミ処理場から回収する実証を計画・実施中だ。 一方、DAC は川崎重工業などが取り組んでいるものの、まだ開発段階にある。 LNG はマイナス 162 度 C の液体で輸入した後、受け入れ基地で海水をかけて気体に戻す。 その際に周囲の熱を奪うことで冷熱が発生するが、利用されていない。 日揮 HD の国内事業会社の日揮(横浜市西区)は、名大院工学研究科の則永行庸教授が開発した技術を活用し、共同で実用化に取り組んでいる。

CO2 回収で一般的なアミン吸収液による化学吸収法がベースで、吸収塔、再生塔、昇華槽という機器を用意する。 最終工程の昇華槽に LNG の未利用冷熱を活用するのが特徴だ。 CO2 を冷熱で冷やして固体(ドライアイス)にすることで回収する。 各機器の圧力差を利用し、エネルギー消費を抑えられるのが利点だ。 日揮の藤本高義プロジェクトソリューション本部エネルギーソリューション部プロジェクトマネージャーは「DAC が確立できていない中で、当社が貢献できないかと思っていた」と明かす。

今後の計画では、ベンチプラントを名大に設置し、2024 年度後半にも稼働させる。 27 - 28 年度には年 50 トン回収するパイロットプラントを稼働し、29 年度には商用プラントの概念設計を完了する計画だ。 名大院の則永教授は「大気中の CO2 は低濃度なので、効率よく回収する設備が必要になる」と今後を展望する。 商用化に向けては、パイロットプラントの設置先の確保が不可欠だが、ある程度めどがついている。 東邦ガスの LNG 受け入れ基地だ。 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の事業で取り組んでおり、東邦ガスも参画しているためだ。

日揮 HD は国内外で CO2 の回収・貯留 (CCS) 設備を建設した実績があり、実証中の案件も多い。 これらは天然ガス精製、LNG プラントなど上流向けだ。 LNG 受け入れ基地という下流向けの今回の技術を実用化できれば、LNG の一連の商流に CO2 回収ビジネスを展開できる。 (NewSwitch = 8-14-23)


ビッグモーター店前から消えた植栽 ノコギリで作業する男性に問うと

中古車販売大手ビッグモーターの各地の店舗前で、公道の街路樹や植栽が枯れたり、伐採されたりしていることがわかり、国土交通省や各自治体が調査に乗り出した。 除草剤が検出されたケースもあり、同社への聞き取りを始めている。 同社は 25 日の記者会見で「甘い認識で除草剤をまいた」と認めつつも、「現時点でそういった指導はしていません」とした。

<「草 1 本残すな」ビッグモーター店での合言葉 除草剤は女子更衣室に>

「本部の人が来るので」

埼玉県所沢市の女性は 3 カ月ほど前、「ビッグモーター所沢店」前の歩道で、同店の従業員とみられる男性がノコギリで植栽を切っているのを見かけた。 不審に思って「何をされているんですか?」と尋ねると、「あす本部の人が来るので切らなきゃいけないんです」と答えた。 「まずいんじゃない?」と聞くも、悪びれる様子もなく作業を続けたという。 女性が翌日訪れると、植栽は数メートルにわたってバッサリ切られ、根元の数センチだけになっていた。 県は今月 26 日に被害を確認。 同店に聞き取りを求めたが断られ、本社からは「問い合わせが集中しており、即答できない」との回答だったという。

警察に被害届も

街路樹や植栽の被害は各地で確認されている。 群馬県太田市内の国道では、同社店舗前の歩道の街路樹 17 本が枯死していた。 調査の結果、土壌から除草剤の成分を検出。 県太田土木事務所は器物損壊などの疑いがあるとみて県警に被害届を出した。 大阪市内の 2 店舗でも店の前の街路樹がなくなっていた。 横山英幸市長は 27 日、「街路樹は憩いの空間をつくるために税を投資している。 (意図的に)枯らすような事案だった場合は、被害の申し出を含めて検討しないといけない」と述べた。 名古屋市内の 3 店舗では街路樹が枯れ、一部は撤去されていた。 市は 27 日、3 店舗への聞き取りを実施したが、除草剤の使用を否定したという。

国交省幹部「損害賠償請求も検討」

同社公式サイトによると、全国に 263 店舗を展開。 各地で植栽がなくなっていることを踏まえ、国交省は 26 日、各国道事務所に対し、同社店舗前の国道の植栽を調査するよう指示した。 同省幹部は「被害が分かれば損害賠償請求も検討したい」とする。

こうした問題について、同社の和泉伸二社長は就任前の 25 日の記者会見で、全店の出入り口や歩道を含め前後 10 メートルにわたり雑草やごみなどがあれば取り除いているとした。 「風景をご覧になっているお客様もたくさんいる」としたうえで、「その一環で、甘い認識で除草剤をまいてしまって、緑地帯の街路樹や植木に影響を与えてしまったことはある。 それは 10 年くらい前の話だと思いますが、現時点でそういった指導はしていません」と説明した。 (角詠之、佐野楓、西田有里、箱谷真司、寺沢知海、asahi = 7-27-23)

〈編者注〉 アジアや中国の環境保全への真摯な取り組みを紹介できていたのに、何と日本発の環境破壊のニュースです。 「恥じ入る」というレベルではなく、ごく普通の常識ですら無いのではないかと、暗澹たる気持ちです。


再生可能エネルギー総発電設備容量が 13 億 kW を突破 中国

中国全土の再生可能エネルギーは今年に入り好調な勢いを見せており、発電設備容量と発電量が安定的に増加している。 国家エネルギー局によると、6 月末現在の中国全土の再生可能エネルギー総発電設備容量は 13 億 kW を突破し、前年同期比 18.2% 増の 13 億 2,200 万 kW に達し、中国の総発電設備容量の約 48.8% を占めた。 うち水力発電設備容量は 4 億 1,800 万 kW、風力発電は 3 億 9,000 万 kW、太陽光発電は 4 億 7,100 万 kW、バイオマス発電は 4,300 万 kW。 人民日報が伝えた。

1 - 6 月の再生可能エネルギー新規発電設備容量は 1 億 900 万 kW で、中国全土の新規設備容量の 77% を占めた。 うち水力発電は 536 万 kW、風力発電は 2,299 万 kW、太陽光発電は7,842 万 kW、バイオマス発電は 176 万 kW。 中国全土の再生可能エネルギー発電量は 1 兆 3,400 億 kWhで、うち水力発電は 5,166 億 kWh、風力発電は 4,628 億 kWh、太陽光発電は 2,663 億 kWh、バイオマス発電は 984 億 kWh。

電力プロジェクトの投資の面では、1 - 6 月の中国全土の主要発電企業の電源プロジェクトへの投資実行額は前年同期比 53.8% 増の 3,319 億元(約 6 兆 4,388 億円)。 うち太陽光発電は 113.6% 増の 1,349 億元、風力発電は 34.3% 増の 761 億元、原子力発電は 56.1% 増の 359 億元。 電力網プロジェクト投資実行額は 7.8% 増の 2,054 億元。 (中国・人民網/Record China = 7-21-23)


インドネシア国営石油の海運会社、146 隻でバイオ燃料使用

インドネシアの国営石油プルタミナの海運子会社プルタミナ・インターナショナル・シッピング (PIS) は 18 日、再生可能エネルギーへの移行に向けた取り組みの一環として、同社が運航する船舶 146 隻でバイオディーゼル燃料を採用していると発表した。 PIS のヨキ社長は、同社の所有船と用船で、バイオディーゼル燃料を主な動力源として使用している船舶と、補助的に利用している船舶があるなどと説明した。

PIS はこのほか、エネルギー移行に向けた取り組みとして、液体燃料とガス燃料の両方で運転可能なデュアルフューエル(二元燃料)エンジンを搭載している国内初の大型 LPG (液化石油ガス)タンカー (VLGC) を今年から導入している。 低硫黄燃料油と LPG を燃料として使用でき、燃費が向上するほか二酸化炭素 (CO2) の排出量を削減できる。 ヨキ氏は、これらの取り組みで年間の CO2 排出量を 1 万 2,000 トン削減できる可能性があると述べた。 (NNA Asia = 7-20-23)


広がる「小水力発電」に高まる期待 落差 2m の農業用水でも OK

水力発電は、ダムを伴う大規模水力と、川の流れなどを利用した中小水力に分けられる。 近年、増えているのが「小水力発電」だ。 発電量は小さいが、水の流量が一定程度あれば、農業用水などでも発電できる。 電気が地産地消され、地域活性化にも一役買っている。 1960 年代前半には国内 3 位の金の産出量を誇った、大分県日田市中津江の鯛生(たいお)金山。 今は廃坑となり、跡地に道の駅や博物館が造られている。 博物館前の砂場では、大人や子どもが砂金掘り体験をしていた。

この施設で照明や冷房などに使われる電気の 7 割は、近くの鯛生小水力発電所でまかなわれている。 発電所は 2004 年、日田市と合併する前の旧中津江村が、国の補助金などを使って約 1 億 7 千万円で建てた。 近くを流れる鯛生川の砂防ダムを活用、最大出力は 66kW だ。 日田市から発電所の管理を委託されている中津江村地球財団の山口幸生さんは、ほぼ毎日、発電所の様子を見に行っているという。 「取水口に、小枝などのゴミがたまって流れが悪くなり、発電できなくなることが度々ありました。 硬いものだとタービンを傷つけることもあるので注意が必要です。」

導水路に体長 1 メートルもの巨大ウナギが入り込んだこともあるといい、最近は業務用冷蔵庫に使うフィルターで取水口を覆って、異物が入ることをふせいでいる。 水量と発電量が増す夏場は、余った電気を九州電力に買い取ってもらっている。 年間を通じてみると、電気料金の節約と売電の経済効果は約 500 万円あり、管理などの人件費や修繕費に約 100 万円かかるが、約 400 万円の利益がでる計算だ。 山口さんは「メンテナンスは大変ですが、元が取れています。 参考にしたいと、他地域からの視察も多くあります。」という。

こうした小水力発電所は各地に広がっており、ダムや河口堰(かこうぜき)だけでなく、田んぼの用水路を活用した例もある。 栃木県那須塩原市の那須野ケ原土地改良区連合は、扇状地の起伏を利用して、1991 年から 9 基の小水力発電所を設置した。 農地に張り巡らされた農業用水を活用して、水の落差がわずか 2 メートルの場所でも水車を回して発電している。 9 基の出力は計 1,543kW で、水門の作動や地下水のくみ取りなどに使っており、電気代を大幅に節約。取り組みは評価が高く、海外からも視察に訪れる。

星野恵美子専務理事は「当初は水力発電は安定していないという意見もありましたが、長年地道に取り組むことで関係者の理解も進み、今ではなくてはならない存在になりました。 農業用水を使った発電は、他の地域でも参考になります。」と話す。 2022 年には、那須塩原市や地元企業などが出資して「那須野ケ原みらい電力会社」も設立された。 水力や太陽光といった再生可能エネルギーの開発・売電による収益で、地域貢献型の事業を進めるという。

資源エネルギー庁によると、技術的・経済的に利用可能な国内の水力エネルギー量(包蔵水量)のうち、68% は既に開発ずみだ。 だが、開発中は 4% で、未開発も 3 割近く残る。池内幸司東京大学名誉教授は「再生エネルギーへの期待が高まっており、既存ダムの活用や小水力発電の普及がさらに進めば、水力発電の可能性はさらに高まるでしょう」と話す。 (座小田英史、asahi = 7-10-23)


「景観が …」 一面ソーラーパネルに世界遺産登録がピンチ? 住民ら 賛否の声

取材班が向かったのは、熊本県。 火山活動で生まれた世界最大級のカルデラを持つ阿蘇山がそびえ、周辺には "千年の草原" と呼ばれる広大な緑のじゅうたんが広がっている。 ところが、世界文化遺産への登録を目指す美しい景観が激変。 今、物議を呼んでいる。 大地を覆う無数の太陽光パネル。 鮮やかな緑の大地の色が、真っ黒なパネルに埋め尽くされそうになっている。 上空から見ると、一目瞭然。 広大な敷地におよそ 20 万枚ものパネルがずらりと並ぶ、太陽光発電所。

熊本県は、このまま景観が損なわれ続けた場合、世界文化遺産の登録が難しくなると、危惧している。 住民は、どう思っているのか聞いた。

「(パネルは)あまりよく思いません。 環境は大事にしないとね。(90 代住民)」
「ソーラーパネルも、共存共栄していかないと。 世界の阿蘇に恥じないようにしてもらえると助かる。(70 代住民)」

阿蘇山のふもとでペンションを営むオーナーは、世界文化遺産の登録に向けて、景観の悪化は大きなマイナスだという。

「(最初は)ありがたくあったけど、ちょっと怖くなってきた。 阿蘇の世界遺産どうのこうのって前の話で、あちこち起こってきた時にどうなのかな …。(ペンション山林舎・福富悟オーナー)」

この土地は昔から牧場として使われ、遊休地となっていたところに、再生可能エネルギー事業を展開する会社が、事業用地として選定した。 そして 2022 年、九州最大規模の太陽光発電所として稼働。 阿蘇山のカルデラの周囲およそ 128km の「外輪山」と呼ばれる場所の付近にある。 熊本県の蒲島郁夫知事は、「外輪山の中には太陽光パネルを敷いてほしくない」としたうえで、「一度メガソーラーのパネルが敷かれたら、撤去するのはほとんど不可能ではないか。 再生可能エネルギーをもっと増やしたい。 でも、自然を残したい気持ちと …。」と話した。

一方、太陽光パネルを設置する会社の 1 つ「ジャパン・リニューアブル・エナジー」は、「電柱を景観に溶け込む茶色にするなど対策を実施し、環境との調和を図っております。 地域住民や自治体と綿密にコミュニケーションを取り、ご理解いただいたうえで事業を推進しております。」と説明している。 (FNN = 7-5-23)


世界で広がる耕さない有機農業 新たな認証制度「ROC」が後押し

耕さないことで知られるジェネラティブ(環境再生型)農業と、安心・安全を求める消費者ニーズを反映したオーガニック(有機)農業を同時に進める動きが世界で広がっている。 耕起によって、土の中の生態系が壊れ、土に貯留していた二酸化炭素 (CO2) が放出される。 耕さない農業は、米国では大豆やトウモロコシなどの主要作物の農地の半分以上を占める。 ただ、その多くは大量の農薬と化学肥料を使い、遺伝子組み換え作物を育てているという。

有機農業は、国連食糧農業機関 (FAO) によると、187 カ国に 7 千万ヘクタール以上あり、この 20 年間に 5 倍以上増えたという。 農薬や化学肥料は使わないものの、耕すことによる生態系破壊や CO2 排出の問題は残る。 両方のよいところを同時に達成するために生まれたのが、新たな認証制度「ROC」だ。 母体となったのは、有機農業の研究で知られるロデール研究所(米国)やアウトドア企業のパタゴニア、ボディーケア製品のドクターブロナーが設立したリジェネラティブ・オーガニック・アライアンス (ROA) だ。

認証要件の 3 本柱は「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会的公平性」。 土壌の健康では、不耕起や化学肥料・農薬の不使用。 動物福祉では、畜産動物の恐怖や苦痛からの解放。社会的公平性では、農家への公正な支払いや強制労働の禁止などが求められる。 認証を得るには、厳しい審査基準をクリアする必要がある。 日本で認証を受けた農場はまだないという。 なぜ、新たな認証が必要なのか。 厳しい基準を求めるのはなぜか。 ROA エグゼクティブディレクターのエリザベス・ウィットローさんに聞いた。(編集委員・石井徹)

厳しい有機認証制度を始めたのはなぜですか。

有機農業の普及とともに「有機」の意味合いが弱まっている心配が出てきたからです。 米国では、土を使わずに植物を育てる養液栽培や工場型畜産も有機農法として認めています。 農業が多くの問題の解決策になり得るためには、土の健康だけでなく、生産者や労働者、微生物を含めた動物、コミュニティーなど、すべての健全さが必要です。 また、不耕起農業によって土壌の炭素貯留量がかなり増えることが分かってきました。 そこで、認証の枠組みが生まれてきました。 基準をつくる上で気をつけたのは、高みをめざさなければいけないのですが、達成可能でなければならないということです。

どのように審査するのですか。

2020 年 10 月に始まり、約 90 カ国で 13、14 認証機関を育成しています。 60 - 70 人の審査人が、農場に出向いて審査してリポートを上げ、第三者機関が認証します。 最終的に ROA が決定するシステムです。 農場の認証の場合は、土壌と労働者、動物を審査します。 ブランドの場合は、認証を受けた農場から調達しているか、プレミアム価格を付けているかを見ています。 すでに世界で 150 を超える農場と、コーヒーやワイン、ボディーケア、ファッションなど 100 を超えるブランドが認証やライセンスを得ています。

ROC 認証にはリジェネラティブや有機が必要ですが、それぞれ定義はいくつかあります。

私たちの認証では、不耕起や被覆作物など有機に関して14 項目の基準を設けています。 すでに別の有機認証を受けていても、そのまま ROC 認証を取れるわけではありません。 リジェネラティブについても、ROC には 5 項目の基準があって本質的に有機とつながっているという考えです。 除草剤や化学肥料、遺伝子組み換えを認めているところもありますが、私たちはリジェネラティブとは呼べないというスタンスです。

小規模農家が高い基準の認証を取得するのは困難ではないですか。

有機農業の小規模農家は、何らかの団体や組織に所属していることが多いです。 コーヒー、砂糖、バナナ、綿花、マンゴーなどの小規模農家は、どこかに属さないと農産物を卸すことも難しい。 それらの団体が主体となって認証を取得しています。

どのくらい気候変動対策に有効なのでしょう。

認証に必要な土壌テストで、CO2 の貯留量についてデータを集めています。 ただ、土壌の CO2 が増えたと言えるには 3 - 5 年かかり、まだそこまでには至っていません。 大気中の CO2 排出とどれだけ相殺できるか分かりませんが、従来の「慣行農業」を続ければもっとひどい状況になります。 貢献できる部分はかなりあると思います。 (asahi = 6-26-23)

〈編者注〉稲栽培の「水田」はどうなのでしょうか? 「ROC」を取得できるのか? 可能であるならば、どのような対応が必要なのか? もっと詳しい情報が待たれます。