「年明けから姿を消した」駐日中国大使が 2 ヶ月間も行方不明に
ナゾの異常事態に潜む "習近平の思惑"

「病気か? 失脚か?」 中国の孔鉉佑駐日大使が新年早々に公の場から姿を消していたことが大使館周辺者の証言でわかった。 各種節目行事の祝辞、ビデオメッセージなどを除き、年明け以降の約 2 カ月間の対面公務は、すべて番頭格の楊宇公使が「臨時代理大使」の肩書でこなしており、日本の華僑・華人社会や日中交流団体などでは、「両国の交流を停滞させかねない状況」と懸念を深めている。 奇しくも今年は日中国交正常化 50 周年という節目の年。 習近平指導部が国家の威信をかけた北京冬季オリンピック・パラリンピックという一大イベントの背後に浮上した駐日大使館トップの不可解な動静は何を示唆しているのか。

特命全権大使の長期不在は "異常事態"

孔氏の一連の不可解な動静は、大使館周辺者の指摘や駐日中国大使館(東京都港区)の行事発表などから明らかになった。 同大使館のホームページには「大使館メッセージ」の欄が設けられており、ここで孔大使や報道官の、日々の行事出席をはじめ、メディア対応などの動静が随時紹介されている。 同欄によると、孔氏は昨 2021 年 12 月 29 日、大使館領僑処 = 領事部(東京都品川区)の新たなオフィスビル開所式に出席。 領事部職員との懇談の様子などが、同 31 日午後 4 時半ごろ、同欄に写真入りで掲載された。

しかし年初からは、日中友好団体の機関紙に新年の祝辞を発表したのに続き、国交正常化 50 周年関連の九州の友好大会(1 月 25 日実施、26 日掲載)や、四川和歌山友好省県締結式(1 月 26 日実施、27 日掲載)にビデオメッセージを送り、春節(旧正月)休暇にあたっての「新春のごあいさつ」(1 月 31 日掲載)を公表しているものの、対面行事への出席はなく、代わりに番頭格で公使の楊宇氏が「臨時代理大使」の肩書で 1 月 12 日、中国国際航空公司(エアチャイナ)日本地区本部などを訪問したのを皮切りに、以後の対面公務をすべて代行している。

日本と中国は GDP 世界第 3 位と 2 位の大国であり、かつ沖縄県石垣市の尖閣諸島をめぐるセンシティブな問題なども抱えており、特命全権大使の長期不在は尋常な状況ではない。

突然消える中国の外交官

この間の孔氏の所在や状態などに関する大使館からの公式発表等はなく、筆者の取材に対し外務省の中国関係者も「知らなかった」、「特段事情は聞かされていない」と回答。 在日華僑・華人らは「どうも長期帰国しているようだ」などと話しており、「身内に不幸があったのではないか」、「病気療養だろう」、「出入国時にそれぞれ 2 - 3 週間の隔離があればこの長期不在も不自然ではない」などとささやきあっている。 ただし、中国の在外公館において、ハイクラスの外交官は突然本国に呼び戻され、汚職などを追及されて失脚するケースも少なくない。

事実、駐大阪中国総領事館では 2020 年 2 月、現在の薛剣総領事の前任にあたる何振良氏が総領事として着任したものの、同年 11 月ごろに突然一時帰国し、12 月には代理総領事がおかれたケースも。 その後、何氏は任地大阪に復帰することなく、約半年間の代理大使の期間を経て、現在の薛剣氏が着任した。 何氏の処遇も公表されていないが、何らかの容疑に問われて中国当局に身柄を拘束されたとされている。

孔氏に関しても、新型コロナウイルスがまん延し始めた 2020 年 3 月、日本記者クラブ(東京都千代田区)での会見後に、筆者のぶら下がり質問に応じたことがあるが、その際、WHO 年次総会への台湾のオブザーバー参加について常態化してゆくとの見解を示し、「すでに関係各方面との調整が始まっている」と応じた。 しかし、その直後にこの発言を完全に撤回し、取材を受けたこと自体も否定するなど、本国と緊密に連絡することなく、独断専行で発言する姿勢も垣間見られた。 今回の長期にわたるトップ不在を受けて、大使館周辺や日中交流団体などではそうした「前科」などから「失脚」を疑う声もささやかれているのが実情だ。

"報復劇" に利用されるケースも

ただし、同じように大使が帰国し、臨時代理大使が置かれたケースがつい最近、他の国でもみられた。 リトアニアがそれだ。 同国の首都ビリニュスでは、2021 年 11 月、台湾の代表機関「駐リトアニア台湾代表処」が開設されたが、名称に「台北」ではなく「国」格をイメージさせる「台湾」の使用をリトアニアが容認したことに中国が猛反発。 施設開設の受け入れが決定された 8 月の段階で、中国外交部(外務省)は駐リトアニア中国大使の召還に踏み切った。 11 月に代表処がオープンした直後にも、中国は「強烈な不満と厳正な抗議」を表明し、以後は大使を置かず、臨時代理大使を置いてリトアニアとの外交関係の格下げを決定。

その後はリトアニアからの輸出品が中国の税関を通らなくなるなど、中国が経済的な圧力強化に乗り出したとみられたため、リトアニアのナウセーダ大統領が「台湾」名義での台湾の代表機関設立を認めたことに対し、「誤りだった」との考えを示すなど、中国の巨大な経済力を背景にした外交的報復劇を印象づけた。

外交的ボイコットへの意趣返し?

孔氏が姿を消す直前の 2021 年 12 月は、22 年 2 月開幕の北京冬季五輪に先立ち、新疆ウイグル自治区や香港での中国政府による人権侵害を念頭に、英米などが外交的ボイコットを決定している。 日本も、これに歩調を合わせるかっこうで 12 月中には「基本的人権の尊重など普遍的価値は、中国においても保障されることが重要」などとして、政府代表団を派遣しない事実上の外交的ボイコットを決定した。

こうした動きの中、SNS での過激な発言で知られる 駐大阪中国総領事館の薛剣総領事はこの時期ツイッター上に日本語で「隣国同士として五輪の相互支援を政府の最高レベルで約束した。 東京五輪の時に、中国は最大限の誠意をもって支援し、約束を果たした。」と投稿。 「今、日本の番になっているので、当然の事ながら、北京五輪の支援を約束通りにしてほしい。 同じ東洋人だから、これぐらいは守らないと困る。」と日本に対し、けん制とみられる発言で釘を刺していた。

しかし、その後日本では、北京冬季五輪開幕直前、沖縄県石垣市が尖閣諸島で海洋調査を実施。 また衆院では中国の新疆ウイグル自治区やチベット、香港での人権侵害に懸念を表明する決議を、与野党の賛成多数で採択している。 これらの動向に対する不満の表明として、非公式に「大使召還」、「外交関係格下げ」の形を継続している、という解釈だ。

中国大使館に尋ねてみると …

その姿勢を明確に公表しないのは、日本が北京冬季五輪の対応で「外交的ボイコット」という言葉の使用を避け、衆院の人権決議でも「中国」の名指しを避けた一定の配慮を汲んでの意趣返しとも考えられまいか。 言うまでもなく特命全権大使とは赴任先の国に対し、派遣元の国、政府の窓口となる最高位の責任者で、大使館周辺関係者も「日本のように関係緊密な国を担当する大使が、このように長期間不在というのは尋常ではない」と危惧する。 例えばロシア軍のウクライナ侵攻の背後で 2 月 27 日、中国海軍のフリゲート艦が宮古海峡を通過したが、万一なんらかの偶発的な事態が生じた場合、大使の不在は、事態の過熱を阻止するのに不都合だ。

筆者は 3 月 2 日午後、電話で大使館広報部に大使の長期不在について取材したところ、担当者は「一時帰国中なのか」との問いに「そうだ」、また「病気なのか」との問いには「そうではない」と応じたものの、理由は明かさず任務に復帰する期日のめどについては、「いつ戻るかは、私どもではわからない」の一点張りだった。

「失脚説」の現実味は?

今年 2 月 21 日には、北京の日本大使館の職員が中国当局に一時身柄を拘束される事態が発生し、日本の外務省は外交官の不逮捕特権を定めた「ウィーン条約違反は明白」だとして厳重抗議したが、この際も、東京では楊宇臨時代理大使が、外務省の森健良事務次官の謝罪要求などに応対。 楊氏は謝罪を拒否し、「本国に報告する」とのみ応じたという。 本来なら外相が大使を呼び出して、強い不満や遺憾の意を示すべき事態だった。

孔氏は、中国黒竜江省出身の朝鮮族。 上海外国語学院(現上海外国語大学)で日本語を専攻し、中国外交部(外務省)に入庁後は、2006 - 11 年に駐日大使館で公使を務めるなど、約 15 年におよぶ日本勤務を経験。 ベトナム大使やアジア局長なども経て 2017 年に外務次官となり、2019 年、程永華氏の後任として駐日大使に着任した。 日本語が非常に流暢で、筆者の取材に対する回答も的確だった。 また、その人となりをよく知る全国紙の元担当記者らは「上司に気兼ねせず、ずけずけと強気でモノを言う姿勢が印象的」という。

今回の長期不在について、失言、失態が本国で問題視された可能性については、台湾関連の舌禍、日本政府の対中強硬姿勢阻止の失敗など材料こそ多いものの、新春のあいさつや行事の祝辞などでは「大使」の肩書が生きており、「そこまでは考えにくいのではないか」とする推測が大方だ。 だとすれば、対外的に強硬姿勢を打ち出す今の習近平指導部の中国においては、日本側に「よく考えろ」といわんばかりに、突然リトアニア同様、格下の臨時代理大使に実務をまかせるという、外交的不満表明と見る方が説得力に富んでいるといえそうだ。

中国は、東京において台湾社会との非公式な接触チャンネルを維持している側面もあり(国民党政権時代には特にそうだった)、駐日大使不在は台湾社会に対する拒絶の意思表示にもつながる。 ロシア軍のウクライナ侵攻の陰でクローズアップされた台湾海峡の平和と安定。 大きな変数として立ちはだかる中国の思惑は、一体どこに主軸をおいているのだろうか。 (吉村剛史、文春 on line = 3-4-22)


中国、日本の謝罪要求は「受け入れない」 … 日本大使館員一時拘束で

【北京 = 比嘉清太】 在日本中国大使館の報道官は 23 日、在中国日本大使館員が公務中に北京市内で中国当局に一時拘束されたことについて、「(館員が)身分にそぐわない活動に従事しており、中国側の関連部門が法に基づいて調査、 質問を行った。 合法的な権利を保障した。」とする談話を発表した。 日本政府は中国側に抗議し、謝罪と再発防止を要求しているが、報道官は「日本側の申し入れは受け入れない。 日本側は中国側の法律を尊重すべきだ。」と反発した。 (yomiuri = 2-23-22)


エキシビション練習後、羽生結弦がとった行動 中国ネットが称賛

北京冬季五輪最終日の 20 日、フィギュアスケートのエキシビションに登場した羽生結弦選手 (27) が前日のリハーサル後に整氷作業に参加したことについて、中国のネットで称賛の声が上がっている。 共産党機関紙・人民日報のスポーツ公式アカウントなどによると、19 日のリハーサル後、各国の選手らがリンクから引き揚げると、作業員やボランティアが氷の補修作業を始めた。 するとパンダの帽子をかぶった羽生選手が再びリンクに現れ、作業に参加。 氷の表面を手でなでて点検したり、かけらを拾ったり。 穴を見つけると、氷を埋める作業を繰り返し、作業後にリンクを出る際には振り返って一礼した。

ネット上では作業後にボランティアたちと写真撮影をする羽生選手の姿をとらえたとされる写真も流れている。 ショートプログラムの演技で「穴にのっかった(羽生選手)」ことが原因で冒頭にミスが出た羽生選手への同情の声は、中国でも多く出ている。 整氷作業の様子が報じられると、中国版ツイッター「微博」では、「心からフィギュアスケートを愛していることがよく分かる」、「トップ選手らしからぬ謙虚な姿勢で、親しみが持てる」などと評価する声が相次いだ。 (北京 = 冨名腰隆、asahi = 2-20-22)

◇ ◇ ◇

羽生選手 #柚子加油! 中国 SNS で検索ランキング 1 位 一週間余で 49.4 億閲覧数

北京五輪で 3 連覇を目指す羽生結弦選手。 8 日のショートプログラムで、アクシデントから 8 位発進となったものの、中国で人気沸騰中。 中国 SNS の検索ランキングで自国の金メダリストを抑えて 1 位となり、一週間余りで 49.4 億の閲覧数に達しました。

羽生選手の演技後、ウェイボー検索ランキングで 1 位に

今、中国で「柚子」と言えば、誰もが「日本のフィギュアスケートの羽生結弦選手のことだ」と答えます。 名前の発音から中国語で「柚子(ヨウヅ)」という愛称が付けられ、現地で絶大な人気を誇っています。

8 日のショートプログラムで、羽生選手が演技の序盤でリンクにできた穴にひっかかり、4 回転サルコーが 1 回転となるアクシデントに見舞われ 8 位発進となったあと、中国の SNS ウェイボーでは、「柚子加油(がんばれ)! フリーでは上手くいきますように!」、「氷にはまっただけで大丈夫。 この後はきっと幸運が来るよ!」、「柚子はどの国かに関係なく好きになれる数少ない人だ」と中国人ファンたちの応援や励ましの投稿が殺到し、一時ウェイボー検索ランキングで 1 位となりました。 ちなみにその時の 2 位となったのは、中国で一番人気の谷愛凌選手の金メダル獲得でした。

中国人ファンたちの「柚子」への熱狂のワケ

実は、ショートプログラムの前々日にも、ウェイボー検索ランキングの 1 位に羽生選手の名前が挙がりました。 それは、羽生選手の北京到着が 6 日と他の選手より遅かったため、現地入りが報じられると同時に「柚子の姿が現れた!」と話題になり、検索ワードランキングの 1 位となりました。

ウェイボーで 2 月 1 日から 9 日午前までの「#羽生結弦」というタグの総閲覧回数が 49.4 億回という驚異的な数字となっています。 投稿内容を見ると、その多くは「ルックス、才能、そしてそれ以上に人柄」と絶賛し、羽生選手の演技のスコアよりも、一挙手一投足に注目が集まり、「アクシデントを乗り越えようとする『柚子』の姿があまりにも眩しすぎる」とファンたちは一層熱狂的な応援ぶりを見せています。 2017 年にフィンランドで行われた世界選手権の表彰式で、優勝した羽生選手が 3 位の金博洋選手が中国国旗を裏返しに持っていることに気づき、直すのを手伝ったという周囲への気遣いが中国の人々の心をつかんだと言われています。

SNS で意外なところからも応援メッセージ

8 日午前 11 時半過ぎ、日本にある中国大使館の公式アカウントから、意外な投稿がありました。

 「中国語がお分かりの羽生結弦選手のファンの皆さんはたぶん試合中によく口にするだろう言葉を写真の切り取り加工で表現いたしました。」(在日中国大使館の公式ツイッタ ーより)

加工された写真とは、こちらの「柚子と給油機」です。 中国語で油を加えると書いて、加油とは「がんばれ」という意味。 つまり、「柚子加油」を写真で表現したのです。 普段は中国政府としての公式見解を公表する大使館の公式アカウントですが、今回は、中国語が分からないと理解できない「謎解き」の応援メッセージを発信。 羽生選手の 10 日のフリーに、数億人とも言われている中国のファンたちからも熱い視線が注がれています。 (日テレ = 2-9-22)


象印の株主総会、再び波乱 中国家電大手が役員案、17 日開催

象印と中国・ギャランツとのせめぎ合い

記事コピー (2-16-22)


中国・大連の「小京都」は "日本要素排除" で再開へ それでも日本人商店主に「悲壮感は全然ない」

中国東北部・大連にある東京ドーム 13 個分の敷地に、日本円にしておよそ 1,000 億円もの資金を投下して作られた「京都再現プロジェクト」。 2021 年夏に「小京都」として開業を迎えたが、日本要素を全面に押し出したためネットで批判の声が集中したこともあり、およそ 1 週間で営業停止に追い込まれた。 そのプロジェクトが、2 月をめどに営業を再開させる。 批判を受けてほぼ全ての日本要素が排除されるが、現地にテナントを構える日本人経営者は「悲壮感はほとんどない」と語る。 国境を跨いで注目を集めた炎上騒動のさなか、大連で起きていたリアルを聞いた。

1,000 億円超で京都を再現も …

このプロジェクトは現地デベロッパーの「大連樹源科技集団有限公司」が手がけ、日本からも企業や設計者らが参加した。 大連郊外のリゾート地にある東京ドーム 13 個分の敷地を利用し、別荘や商店など 1,600 超の建物を設ける。 総投資額は 60 億元(約 1,080 億円)に上る。 2019 年夏に筆者が現場を訪れたところ、建設予定地には奥が霞んで見えるほどの荒地が広がっていて、周辺エリアでは京都風の別荘地や日本式の温泉旅館がすでに人気を博していた。 全体を 1/3 ずつに分割し、出来上がった部分から順に開業する計画だった。

第 1 期の開業式典が開かれたのは 2021 年の 8 月 25 日。 多くの客が詰めかけ賑わったという。 順調な滑り出しだと思われたが、ネット空間を中心に批判の的になっていく。 「京都」という日本の要素を前面に押し出したことから、日本に反感を持つネットユーザーたちからの攻撃に遭ったのだ。 その結果、プロジェクトは、開業からおよそ 1 週間で地元政府から営業停止を命じられることになる。

日本らしさを消した名称へ

複数の関係者によると、プロジェクトは 2 月 2 日をめどに営業再開する予定だ。 一部店舗は 1 月初旬からすでに営業している。 しかし、批判を受けたこともあり、元々特色だったはずの日本要素はほとんど全てが削除される。 「盛唐・小京都」だった名称も、日本色のないものに変更することを余儀なくされ、「盛世・東都瑞景」など複数の候補が検討された結果、最終的に「金石万巷」に決まった。

日本要素を排除せざるを得ない事態は、プロジェクトを手がけるデベロッパーにとっても予想外の出来事だった。 2019 年にデベロッパーの幹部を取材したとき、筆者は「抗日運動リスク」について聞いていたが「両国間で大きな衝突が起こった場合、大連ではどのような影響を受けるか、と言ってもあまりないでしょう。 そうした状況が起こったことがありません。」と答えていた。

「松井はやめてくれ」

「『神戸異人館』という看板と暖簾は外しました。」 現地でカレーパンなどを売る店を出店していた「松井味噌」の松井健一社長は、ハフポスト日本版の取材にこう話した。 松井さんによると、営業再開に漕ぎ着けたいデベロッパーは、日本色をなくすために各店舗それぞれに変更案を提示。 店舗ごとにすり合わせをしたあと、その内容を大連市政府に報告し、再開の許可を求めていたという。 例えば、松井さんの会社が運営する店舗はこんな交渉があった。

「『神戸の文字は消してくれ』と言われ、看板を外しました。 代わりに『松井味噌』で良いかと聞いたのですが、昔の戦争映画などによく出てくる典型的な日本人の苗字ということもあり、使えないということでした。」 要求は店名だけでなく、商材にまで及んだという。 松井さんが振り返る。 「『中華料理店に変えてくれ』と言われました。 それは無理でしたが、私の会社の売り上げ 1 位はラーメンスープ。 最終的な妥協点として、ラーメンならば中国の料理だから良いでしょうと交渉しました。 ラーメンはすでに同業者さんが出店していたので、少し種類を変えて味噌ラーメンにしました。」

松井さんの店にはシンプルに「味噌拉麺」の看板がつけられることになった。 さらに中国国旗や中国風の提灯を店先につけることも求められたという。 そのほかにも、日本色を薄めて国際色を強める動きが進んでいる。 松井さんが送ってくれた現地の動画を見ると、北朝鮮の「平壌冷麺」やスペイン、イタリア料理などの看板が立ち並んでいるのがわかる。

リスクじゃない、と言える理由

およそ 5 ヶ月に及ぶ突然の営業停止に加え、看板や商材の変更を迫られるなど、中国ビジネス特有のリスクを感じさせる出来事にも見える。 しかし松井さんの考えは違う。 「それはリスクなの? というレベルですね。」 実は、松井さんたち初期に入居した店舗は、テナント出店にあたって「3 年間は家賃を取らない」という約束を取り付けている。 それに加え、21 年夏の開業直後の盛況も目の当たりにしている。 今回の騒動を勘案をしても、ビジネスとしてはかなり有望とみているのだ。

「開業直後は、(従業員たちが)混雑ぶりに悲鳴をあげていました。 カウンターに商品を並べれば奪い合うくらいに売れていく。 それが年間通じて続くかは別だとしても、(客足が)半分か 1/3 くらいでないとやっていけないくらいでした。 大連の冬は寒いですが、4 月から 9 月ごろまで稼げるならば場所としては大成功だと思います。」 このプロジェクトが位置するのは、国の最高ランクのリゾート地に指定されている大連市の「金石灘」地区。 避暑地としても有名で、大連市内や中国国内からのツアー客の立ち寄り先として、行楽シーズンは一定の集客が見込めるという。

「非常に SNS 映えする場所。 近くには遊園地もあり、帰りにちょっと寄って食べるような、超大型ドライブインのような雰囲気です。 夏には駐車場もいっぱいになるのかなと思っています。」 今回の日本要素が批判された騒動についても、大きな動揺はない。 「中国では大きなモールがすぐに閉められることもあるわけです。 韓国のロッテマートが営業停止に追い込まれたこと (*) もありますし、中国人にはリスクがないのかといえば、突然学習塾が禁止になる (*2) こともあります。 (今回の騒動は)中国で言えば『リスクではないでしょう』というレベルですね。」

* 2016 年、アメリカと韓国が北朝鮮の脅威に対抗する手段として THAAD (高高度迎撃ミサイルシステム)の韓国配備を決定。 これに中国が自国の安全保障を脅かすと反発し、韓国に経済的な報復を開始。 その一環としてロッテマートに営業停止命令が出された。

*2 2021 年 7 月、中国政府は家庭の教育負担を減らすなどと銘打った「双減」政策を発表。 営利目的の学習塾が禁止され、教育ビジネス関連で多数の失業者が生まれている。

デベロッパーにとっても、このビジネスは悪くない結果をもたらしそうだ。 このプロジェクトでは、商店街に加えて別荘地の建設も進む。 関係者によると、21 年末時点ですでに第 1 期分として 300 棟前後が売れたといい、2 期、3 期と続けていく計画だ。 松井さんに現地ビジネスパーソンの雰囲気を聞くと、こんな答えが返ってきた。 「私も中国に倉庫や工場を持っていますが、突然立ち退きを迫られたことは何度もあります。 それに比べれば今回の騒動は、社員の間でも『社長、(出店を決めて)良かったですね』と言われるくらいで、悲壮感は全然ありません。」 (高橋史弥、HuffPost = 1-19-22)

前 報 (8-31-21)


「日本勢はやられっぱなし」 アマゾンに謎の中国メーカーが大量発生する本当の理由

中国企業に侵略される日本の EC 市場

記事コピー (12-30-21)


中国、南京事件の犠牲者数 疑問視する発言の教師を除籍処分

中国の南京で、旧日本軍が多くの市民を殺害したなどとされる「南京事件」をめぐり、上海の専門学校の教師が授業で、中国政府が 30 万人と主張する犠牲者の数について「データの裏付けはない」などと発言し、学校側は、社会に悪影響を与えたとして、この教師を除籍処分にしたと発表しました。

旧日本軍が多くの市民を殺害したなどとされる 1937 年の「南京事件」について、中国政府は、30 万人が犠牲になったとして、毎年、12 月 13 日に追悼式典を行っています。 こうした中、中国メディアによりますと、上海にある専門学校「上海震旦職業学院」の教師の女性が、今月 14 日に行った授業で「南京大虐殺の犠牲者が 30 万人だったというデータの裏付けはない」と、中国政府の見解を疑問視する発言をしたうえで、「永遠に憎しみ続けるべきではなく、戦争がなぜ起きたのかを、改めて考えることが重要だ」などと強調したということです。

その後、この授業の動画がインターネット上に拡散すると「無知で恥知らずだ」などという批判が相次ぎ、学校側は、社会に悪影響を与えたとして、この教師を除籍処分にしたと 16 日、発表しました。 南京事件の犠牲者数をめぐっては、日本と中国の間で議論があり、日本政府は、具体的な人数の認定は困難だとしていますが、中国共産党の機関紙「人民日報」は SNS 上で、この教師を模範的な人物でないなどと厳しく批判し、異論を許さない姿勢を示しています。 (NHK = 12-17-21)

同事件の詳細・経過 (1-7-22)


在中国外資企業数 アメリカ 1 位、日本 2 位 民間シンクタンク発表

【新華社・上海】 中国の民間シンクタンク、胡潤研究院はこのほど、中国本土の市場経済に最も貢献した外資系企業と香港・マカオ・台湾系企業 100 社を選んだ「2021 胡潤在中国外資・香港・マカオ・台湾系企業トップ 100」を上海で発表した。 台湾地区の電子機器受託生産大手の鴻海精密工業が首位に立ち、米アップルは第 4 位につけた。 同ランキングの発表は今回が初めて。

業界別では自動車業界が 16 社と最も多く、独フォルクスワーゲン (VW)、米ゼネラルモーターズ (GM)、トヨタが上位 5 社に入った。 医療・ヘルスケア業界と消費財業界が同数の 14 社で続き、医療・ヘルスケア業界では英アストラゼネカと米ジョンソン・エンド・ジョンソン、消費財業界では仏 LVMH と香港宝飾品チェーンの周大福珠宝集団が上位につけた。 コンシューマーエレクトロニクス(消費者用電子機器)業界が 7 社で 4 位を占め、アップルと韓国サムスンが最上位となった。

胡潤研究院の母体である胡潤百富の董事長で首席調査研究員のルパート・フーゲワーフ(中国名 : 胡潤)氏は、これらの企業は中国の経済発展に貢献しており、昨年の合計売上高は 5 兆 9 千億元(1 元 = 約 18 円)で、1 社当たりの年間売上高は 590 億元に上り、中国の従業員は計 250 万人に達したと指摘。 特に自動車、医療・ヘルスケア、消費財、コンシューマーエレクトロニクスの 4 業界では貢献が非常に大きいとした。

100 社のうち 6 割は、中国でよく知られる VW、アップル、サムスン、ウォルマート、コカ・コーラ、スターバックス、プロクター・アンド・ギャンブル (P & G)、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどの消費者向けブランドが占める。 中国に進出してからの期間は平均 57 年で、5 分の 1 は 100 年を超える。 国・地域別の企業数では米国がトップで、日本、英国、ドイツ、フランスが続き、5 カ国合わせて全体の 8 割を占めた。 欧州の企業数が最も多く、45% を占めた。

同ランキングの作成に当たっては売上高を主要な基準とし、従業員数も考慮。 最低でも年間売上高 100 億元近く、従業員数 5 千人近くの企業が選出された。 100 社のうち 86 社は、世界で最も価値のある民間企業のランキング「胡潤世界 500 社」にも選出されている。 (36Kr Japan = 12-2-21)


「中国人・中国政府いずれも好感持てない」韓日の若者世代の反中感情を調べると …

現代中国学会国際秋季学術大会・テーマ「韓日両国の反中感情拡散」
「中国・中国人いずれも好感持てず … オンライン上の嫌悪コメントが『自由民主主義の守護』?」
「日本の若者層は韓国・中国に対し親近感高い … 中国にはイメージ低下を補完する要素が足りない」

韓国人が中国、日本に対して好感が持てる・好感が持てない理由

世界中が新型コロナウイルスで苦しんだ昨年 10 月、米国の世論調査専門機関のピュー・リサーチ・センターが発表した調査結果によると、14 カ国で調査対象者の 70% が「中国には好感が持てない (unfavorable)」と回答するなど、世界全体で反中感情が過去最高値を記録している。 隣国の韓国と日本も例外ではなく、特にオンライン空間で若者世代を中心に嫌悪に近い反中感情があらわれている。 このとき韓国人は、日本政府と日本人を分けて考える反日感情とは異なり、反中感情では中国政府と中国人いずれも否定的に認識しているという診断が出た。

現代中国学会が 19 日、「韓国と日本の反中感情の拡散、どうみるべきか」と題して開いた国際秋季学術大会で、ソウル市立大学中国語文化学科のハ・ナムソク教授は、修士課程の学生のキム・ミョンジュン、キム・ジュンホさんとともに「韓国の若者世代のオンライン反中感情の現状」を発表した。 彼らが 2018 年に韓中日の 20 代の大学生を対象に行ったアンケート調査の結果、韓国の若者の中国に対する好感度は 2.14 点(5 点満点、1に近いほど非好感)、日本に対する好感度は 2.83 点だった。

特に注目を集めたのは、両国に対する好感・非好感の主な理由がそれぞれ異なるという点だ。 中国に対し好感が持てない理由としては「(教養のない)中国人」が 48.2% で最も高く、「独裁と人権弾圧 (21.9%)」が続いた。 好感が持てる主な理由としては「中国に対する単純な関心 (41.4%)」が最も多かった。 一方、日本に対して好感が持てない理由は「歴史問題 (79.7%)」が圧倒的に高かったのに対し、好感が持てる理由としては「先進的な市民意識 (40.1%)」が最も高かった。

これについてハ教授は「韓国と日本の間の歴史対立は両国間の政府問題に限定され、これとは別に日本市民の先進的な市民意識は日本に対して肯定的な要因として作用している」と説明した。 これとは異なり、中国政府と中国人は事実上分離していないが、ハ教授は「中国人に対する韓国の若者たちのイメージは『国家の主張に同調する愛国主義者』という断片的な形態でありうるということを示している。 このような違いは、今後の反中感情に対する対策の樹立が日本のケースよりも難しい可能性があることを示している」と指摘した。

オンライン空間で見られる反中感情の形態からみたとき、「オンライン上の反中感情は、概して中国が韓国を侵略しようという野心を抱いているという危機感と不安に基づいている」との診断が示された。 代表的なものが「文化浸透戦略説」だ。 例えば、中国で撮影された「ティックトック」の動画はユーチューブにもアップされるが、これについて「中国政府が中国に対する親近感を誘発しようと計画的にばらまく映像」と反応するといったかたちだ。 「中国嫌悪のコメントを書くのは、侵略の野心を持つ中国に対抗して韓国の自由民主主義を守り抜く行為」というような態度もみられる。

2018 年のアンケートで、自ら「進歩派」と主張する若者ほど中国に対する好感度が低くあらわれたのも注目に値する点だ。 理念の程度を 1 (進歩)から 5 (保守)まで分けた時、中国に対する好感度は 1 の集団では 1.75 で最も低く、5 の集団では 3 で最も高かった。 日本に対する好感度は、1 の集団では 2.87、5 では 3.6 だった。

韓国を連想するときに思い浮かぶ人物として、韓国の芸能人を多様に選んだ中国・日本の若者とは違い、韓国の若者のほとんどは中国と日本から連想する人物として、毛沢東、習近平、豊臣秀吉、伊藤博文を挙げたことも明らかになった。 「歴史教育とメディア、各種媒体の再生産を通じて、文化的交流というよりは主に政治と歴史的観点から中国と日本を捉えていることを示している。」

別の発表者である早稲田大学の樋口直人教授は、日本で中国と韓国に対する感情の違いが表れる理由などを説明した。 基本的には両国ともにかかわる歴史問題などが親近感を落とすが、韓国の場合は「韓流」のような政治以外の肯定的要因が「政治的状況に振り回されにくい親近感」をもたらすのに対し、「中国にはイメージ低下を補う要素がないため、(親近感が)下落の一途をたどっている」ということだ。

また、若者であればあるほど韓国と中国に親近感を感じる割合が高くなっていることを示し、「若者がナショナリズムに傾倒しているとか、若者層が排外主義的だという見解は正しくない」と指摘した。 権力を握っている壮年層の男性中心の現在の韓日関係は、韓国に親しみを感じる若い女性の市民的感覚とはかけ離れているとも指摘した。

学術大会全体では、韓国と日本で深まる反中感情の背景にある「中国たたき」を招いた米中対立をはじめとする国際関係から、中国の若者の強い愛国主義性向などの各国の若者世代の立場、インターネットとメディアの影響、歴史と文化の問題など、多様で複雑な原因を俯瞰した。 何よりも相互認識と理解を深めるための民間レベルの交流拡大といった代案が提示された。

司会と討論を担当した中央大学社会学科のペク・スンウク教授は「血統論に基づいた世襲権力の登場など、中国の進む道は危険で周辺国家にとって脅威になり得る。 (反中問題とは別に)周辺国がこれに対して声を上げることも重要だ」と指摘した。 基調講演を行った又石大学東アジア平和研究所のソ・スン所長は「中国は米国・日本と違い覇権を追求せず、東アジアの民族解放闘争の中枢、世界の弱者の支持者として自らを明確に位置づけるべきだ」と主張した。 (韓国・ハンギョレ新聞 = 11-27-21)

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中国人の日本の印象「良くない」大幅増 日本側も 9 割超 世論調査で

NPO 法人「言論 NPO」などが 20 日発表した日中共同世論調査で、日本に対する印象が「良くない」などと答えた中国人が前年比で大幅に増加した。 尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化後の日中関係の緊張が影響した 2013 年以降は改善傾向だったが、新型コロナウイルスの感染対策で両国の交流が途絶えた影響があるとする指摘がある。 言論 NPO は 05 年から毎年調査を実施。 今回は 8 - 9 月に行われ、日本の 1 千人、中国の 1,547 人が回答した。

中国側の答えでは、日本の印象について「良くない」、「どちらかといえば良くない」が 66.1%。 2 年連続の悪化で、増加幅(前年比 13.2 ポイント増)は 13 年以来の大きさだった。 現在の日中関係についても、「悪い」、「どちらかといえば悪い」が 42.6% (同 20 ポイント増)で 5 年ぶりに増加。 日中関係を「重要ではない」、「どちらかといえば重要ではない」と答えた中国人は 22.4% (同 13.1 ポイント増)で、13 年に次ぐ高さだった。

「日中関係の発展を妨げるもの」は領土をめぐる対立が最も多く、両政府間に信頼がないとする回答が 29.3% (同 10.4 ポイント増)と昨年から大きく増えた。 一方、日本側では、中国の印象を「良くない」、「どちらかと言えばよくない」が 90.9% (同 1.2ポイント増)。 2 年連続で悪化し、5 年ぶりに 9 割を超えた。 言論 NPO の工藤泰志代表は 20 日の会見で、「政府間の外交努力がなかったことに加え、新型コロナウイルス流行の影響で両国民の直接交流がほとんどなかったことが影響した」などと指摘した。 (北京 = 高田正幸、asahi = 10-20-2)


富山のチョウが台湾に飛来 「私も日本へ旅したい」、訪日望む台湾人

海を渡るチョウとして知られるアサギマダラが、富山県で放された約 1 カ月半後に、2 千キロ以上離れた台湾の離島・澎湖諸島で捕獲された。 羽にペンで記された標識番号で判明し、今月中旬に台湾メディアが相次いで報じた。 コロナ禍で訪日が制限された台湾の人たちからは、「私もチョウのように日本へ行きたい」との声が上がっている。 このチョウの標識番号を管理する富山県自然博物園ねいの里によると、生態を調べるために 9 月 25 日に同県朝日町で放され、46 日後の今月 10 日、南西に約 2,280 キロ離れた澎湖諸島で捕獲された。 台湾の捕獲者がネット上に標識番号を投稿したのを同園の登録調査員が確認したという。

アサギマダラは日本のほぼ全土に分布する。 薄い藍色の羽を広げると 10 センチ前後で、寿命は 1 年とされる。 春から夏に北へ移動し、夏から秋に南へ渡る。 飛来先で産卵して次世代が再び別の地へ移動。 生態調査を行うグループが日本各地にあり、過去には和歌山県で放された後、約 2,500 キロ離れた香港で見つかったこともあるという。 同園は例年、愛好者ら約 40 組の登録調査員が放す 1,500 匹ほどの標識番号を管理してきた。 今年は約 2,300 匹が放され、同園の管理分としては初めて台湾への飛来が確認された。 同園は、コロナ禍で巣ごもり生活を強いられた調査員が、流行が下火になったのを受け、野外活動を増やした影響とみている。

台湾ではこれまでも羽に日本語や日本の標識番号が書かれたアサギマダラが捕獲されてきた。 ただ、地元メディアが今回の捕獲を報じると、SNS には「台湾と日本は人だけでなく、チョウも往来が好きなんだ」、「もし私がチョウなら、夏には訪日したい」といったコメントが投稿された。 台湾人の海外旅行先はコロナ禍前の 2019 年、日本が 490 万人超で国別のトップだった。 日台が厳しい入境制限を維持するなか、訪日旅行の「解禁」を心待ちにする台湾人は少なくない。 同園職員の池松光春さん (62) は「富山は魚のおいしい地です。 多くの台湾の人に訪れてもらいたいですね。」と話している。 (台北 = 石田耕一郎、asahi = 11-20-21)


中国から 270 億円流入 暗号資産で監視逃れ 国税が調査

中国人の投資家らが暗号資産(仮想通貨)を東京都内の業者に送金し、日本円に換金して投資資金を調達していたことがわかった。 総額は 2019 年 3 月までの 3 年間で約 270 億円に上り、不動産購入などに充てられていた。 暗号資産を規制の「抜け道」として、中国からの投資マネーが日本国内に流入する実態の一端が明らかになった。

関係者によると、一連の資金の流れは東京国税局の業者への税務調査を端緒に判明。 中国での暗号資産の取り扱いをめぐっては、中国人民銀行(中央銀行)が、今年 9 月に関連サービスの全面禁止を発表している。 匿名性が高い暗号資産は資金の流れがつかみにくく、国税当局は税逃れに悪用されかねないとして監視を強めている。 税務調査を受けたのは東京都台東区の写真スタジオ運営会社。 スタジオを運営する一方、暗号資産の交換所に口座を持ち、中国から送られた暗号資産を円に交換する事業も行っていた。

この会社は 19 年 3 月までの 3 年間に、中国国内の 3 人から送られた暗号資産「ビットコイン」約 270 億円分を円に換金し、換金額の一部を手数料として受領。 3 人から対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で指示を受け、中国人投資家らが購入した複数の不動産の支払いを代行するなどしていた。 こうした取引は帳簿に記録されていなかったという。 3 人は中国で日本への投資を希望する富裕層らから人民元を集め、ビットコインに換えてこの運営会社に送る仲介役だったとみられる。

中国では、人民元の国外送金に規制があり、個人の場合、年間で 5 万米ドル(約 560 万円)超の送金を行う際は一定の審査が必要だ。 審査をパスするにはハードルが高いといい、中国の送金規制に詳しい森進吾弁護士(福岡県弁護士会)は「不動産投資を目的とした送金は審査を通らない可能性が高い」と指摘。 3 人は規制の「抜け道」として暗号資産に目をつけた可能性があるという。 一方、複数の関係者によると、東京国税局はスタジオ運営会社に対し、暗号資産を円に換えた際の手数料収入について課税を検討したが、会社全体の収支が赤字だったため見送った。

売り上げ 1 千万で 10 億貸し付け

中国人投資家らによる暗号資産(仮想通貨)を使った約 270 億円にのぼる国内への資金流入が、税務調査をきっかけに明らかになった。 税務調査を受けた写真スタジオ運営会社は昨年末までに撤退するまで、東京・浅草の雑居ビルの一角にあった。 複数の関係者によると、経営者は中国出身の 30 代男性。 資本金は 950 万円で、外国人観光客向けに記念写真を撮るサービスを展開し、年間売り上げは 1 千万円余りだったという。

その一方で、会社の規模とは釣り合わない多額の資金操作を繰り返していた。 約 10 億円の融資を無利子で受けたことがあるという知人は、「個人的な付き合いでお金を工面してもらった。 お金を持っている理由は知らなかったし、聞かなかった。」と話した。 同社が多額の資金を扱えたのは、中国から送られた大量の暗号資産を換金したからだ。 暗号資産はネット環境さえ整えば、金融機関を介さずに国境も関係なく簡単かつ瞬時に個人間でやり取りできる利点がある。

しかし、その匿名性が税逃れにつながる恐れもあり、国税は対策を強めている。 昨年からは一定の要件を満たせば、暗号資産の交換業者に対し顧客情報の報告を求められるようになった。 多額の暗号資産をやり取りしながら、適切に申告していない人への監視を強める目的だ。 それでも、国外から流入する全ての暗号資産を把握するのは難しい。 国外と 100 万円を超える現金などを取引する場合、金融機関は取引の当事者や送金目的を国税当局に報告する義務があるが、暗号資産はこうした義務がないからだ。

今回のケースでは、写真スタジオ運営会社の取引先への税務調査がきっかけで多額の現金の出入りがあったことが判明した。 同社への税務調査に発展しなければ、暗号資産の換金ビジネスの存在は明らかにならなかった可能性がある。 国税 OB で EY 税理士法人の角田伸広会長は「大量の暗号資産の流入を国税が即座に把握できないのは、課税の必要が生じても課税できない可能性があり、問題だ。 今回のような事例があれば、中国の国税当局と協力しながらでも、徹底的に資金の流れを解明し、取引の問題点を洗い出して対策を講じるべきだ」と話した。 (中野浩至、asahi = 11-11-21)


「時代革命」に衝撃、拍手 香港民主化運動描いた映画、東京で上映

香港の民主化運動を記録し、カンヌ国際映画祭でサプライズ上映されるなど世界的に話題となった「時代革命 (REVOLUTION OF OUR TIMES)」が 7 日、国際映画祭「第 22 回東京フィルメックス(朝日新聞社など共催)」で上映された。 会場の有楽町朝日ホール(東京都千代田区)は約 700 席が完売し、上映後は大きな拍手に包まれた。 「時代革命」は香港の周冠威(キウィ・チョウ)監督による 152 分のドキュメンタリー。 2019 年の「逃亡犯条例」改正案への反対運動以降、中国当局の締め付けで自由がそぎ落とされていく香港で、警察と衝突しながら最前線で戦った市民による抵抗運動の様子を映し出した。 7 月のカンヌ後、世界で初の上映となった。

リム・カーワイ監督「香港にとっても励ましに」

上映の詳細は前日に公表され、駆けつけた男性会社員 (52) は「映像を通して現場の様子が生々しく伝わってきて、衝撃だった。 国際的にもまだ見られる機会が少ないと聞いたので、色々な人に届くといい。」と話した。 香港映画に詳しいリム・カーワイ監督も来場。 「日本の大きな映画祭で上映されたことは素晴らしく、監督にとっても香港の人たちにとっても励ましになるだろう」と語った。

「この作品は一連の流れがまとめられていて、香港の状況をあまり知らない人にも市民が命を惜しまずに行動した理由や背景が理解でき、共鳴して感動する映画の力がある。 警察の暴力など政府が見せたくない、隠そうとしている映像を証拠として残した意義も大きい。 もっとたくさんの人に見てもらう機会につながればいい。」とも語った。 「時代革命」は香港では上映されておらず、カンヌでは中国当局からの妨害などを懸念して「サプライズドキュメンタリー」として上映直前までタイトルが伏せられ、話題となった。 東京フィルメックスでは最終日の 7 日に「特別上映 A」として内容を伏せて予定されていたが、6 日にタイトルや詳細が公表された。(佐藤美鈴)

最優秀に 2 作選びフィルメックス閉幕

第 22 回東京フィルメックスは 7 日、コンペティション部門の最優秀作品賞に、アレクサンドレ・コべリゼ監督の「見上げた空に何が見える?(ドイツ、ジョージア)」と、ジャッカワーン・ニンタムロン監督の「時の解剖学(タイ、フランス、オランダ、シンガポール)」の 2 作品を選び、閉幕した。 その他の賞は、学生審査員賞が「見上げた空に何が見える?」、観客賞が濱口竜介監督の「偶然と想像(日本)」だった。 (asahi = 11-7-21)