"大気中から二酸化炭素を直接回収" 本格的な研究開発始まる

地球温暖化対策にとって重要な技術として、大気中から二酸化炭素を直接、回収するための研究開発が活発になっていて、日本では大型プロジェクトとして、今年度から本格的な研究が始まり、新しい物質や特殊な膜の開発が進められています。 国連の専門機関、IPCC = 「気候変動に関する政府間パネル」は、世界の平均気温が 19 世紀後半と比べて 2 度上昇すると、多くの人が極端な熱波や日常的な水不足によって深刻な影響を受けると予測していて、1.5 度の上昇に抑えることの重要性が広く認識されるようになっています。

このため、2050 年ごろまでに温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにすることが必要とされ、実現のための重要な技術として大気中から二酸化炭素を直接、回収する手法の開発が世界的に始まっていて、日本でも 3 年間で 55 億円を投じた大型プロジェクトが立ち上がり、今年度から本格的な研究が始まりました。 名古屋大学とガス会社などは共同で、二酸化炭素を吸収する特殊な物質と、今まではほとんど捨てられていた液化天然ガスの「冷熱」と呼ばれる冷たいエネルギーを組み合わせたユニークな手法の開発に取り組んでいるほか、九州大学は極めて薄い膜で二酸化炭素を選択的に取り出す独自の発想で研究を進めています。

いずれも、二酸化炭素を回収する効率をさらに高めて、システム全体の製造と運用の過程ででる二酸化炭素よりも多くの二酸化炭素を回収できるようにすることが課題になります。 プロジェクトのまとめ役の地球環境産業技術研究機構の山地憲治副理事長は「地球温暖化対策の最後の切り札とも言えるもので、課題もまだ多くあるが 2050 年の実用化に向けて急がなくてはならない」としています。

大気中からの "回収" は「最後の切り札」

気象や環境の分野の科学者などでつくる国連の専門機関、IPCC = 「気候変動に関する政府間パネル」が 3 年前(2018 年)にまとめた報告書によりますと、世界の平均気温は 19 世紀後半と比べて 2 度上昇すると、極端な熱波や豪雨が多くなるほか、トウモロコシやコメなどの食料の生産量の減少の割合が大きくなるなどの影響が予測され、気温の上昇を 1.5 度にとどめることの重要性が広く認識されるようになっています。

IPCC の報告書では、世界の平均気温は 19 世紀後半と比べてすでにおよそ 1 度高くなっているとしていて、シミュレーションをもとに気温が 2 度上昇した場合と 1.5 度上昇した場合を予測しています。 その結果、2 度上昇した場合は 1.5 5度の上昇と比べて、気象では、極端な熱波に頻繁にさらされる人口はおよそ 4 億人増加し、強い雨も世界全体で頻度や強さが増えるほか、深刻な水不足によって生活が脅かされる人が世界で 9,000 万人ほど増加する可能性があると予測されています。

また、食料ではアフリカや東南アジアなどでトウモロコシやコメなどの穀物の生産量の減少の割合が増え、コメと小麦は栄養の質の低下が進むとされています。 こうしたことから、気温の上昇を 1.5 度にとどめることの重要性が広く認識されるようになっています。 1.5 度にとどめるには、2050 年ごろまでに最も影響が大きな温室効果ガスの二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにする必要があるとされています。 日本でも去年 10 月、菅総理大臣が「2050 年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにし、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しています。

これまでは工場などの排気から二酸化炭素を減らす技術の開発が続けられてきて、福岡県大牟田市の火力発電所では実証事業で排出量の半分以上を回収できることが確かめられています。 しかし、二酸化炭素の排出量を 2050 年ごろまでにゼロにするには、排出量を減らすだけではなく二酸化炭素を大気中から回収する方法の必要性が指摘されています。 こうしたことから、大気中の二酸化炭素を人工的に回収する技術開発が加速しています。

温暖化対策の技術に詳しい地球環境産業技術研究機構の山地憲治副理事長は「航空機や船舶、それに製鉄業など私たちになくてはならないいくつもの業界で二酸化炭素の排出をゼロにすることは難しく、大気から回収することで実質的な排出量をゼロにする方法を考える必要がある。 この技術は地球温暖化対策の最後の切り札とも言える」と話しています。

日本では今年度から本格的な研究が始まる

大気から二酸化炭素を回収する技術の開発は挑戦的な課題に取り組む、「ムーンショット型研究開発制度」と呼ばれる、国の大型プロジェクトの中で今年度から本格的に研究が始まりました。 プロジェクトでは 2030 年までに実用化への道筋が立てられる試作機レベルでの技術を確立し、2050年までに社会に普及させることを目指しています。

海外でも研究開発が行われていて、スイスでは大型の送風機で装置に空気を送り込んで化学物質に大気中の二酸化炭素を吸収させたうえで、廃棄物処理施設から出る熱を利用して二酸化炭素の回収を実証するプラントが設置されています。 アイスランドでも地熱を利用した同じような方法で、運用が計画されています。 ただ、こうしたシステム全体の製造から運用の過程ででる二酸化炭素よりも回収できる二酸化炭素が多くなるよう効率を高める必要があるほか、コストも課題になるとされています。

この事業の運営を担っている NEDO = 新エネルギー・産業技術総合開発機構の山田宏之新領域・ムーンショット部長は「非常に挑戦的で難しいところに取り組んでいるが、社会実装につなげるため、技術の見極めや進捗の評価をしっかり行い研究開発を後押ししたい」と話しています。

捨てられていた「冷熱」を活用

名古屋市に本社を置くガス会社の東邦ガスや名古屋大学などの研究グループは、今までは捨てられていたエネルギーを使って二酸化炭素を回収するユニークな手法の開発に取り組んでいます。 液化天然ガスは日本が世界の輸入量の 2 割を占めるほど利用されていますが、専用の船を使って輸入する際はマイナス 162 度まで冷やされていて、「冷熱」と呼ばれる冷たいエネルギーはガスとして使用する際にほとんどが捨てられています。

研究グループは、二酸化炭素を吸収する特殊な物質を溶かした溶液と「冷熱」を組み合わせました。 大気中の二酸化炭素を特殊な溶液で吸収させたうえで、「冷熱」で冷やすと二酸化炭素がドライアイスとなって回収できます。 現在は実験室のレベルで二酸化炭素を回収する効率がさらにあがるよう新しい物質の開発を行っていて、10 年後をめどに実証プラントを作る計画です。

名古屋大学の則永行庸教授は「原理としてはかなり明快で、全体として CO2 を減らす技術ができるように研究開発を進めたい」と話しています。 また、東邦ガス先端技術アドバイザーの梅田良人さんは「有効利用されていない冷熱はもったいないもので、地球温暖化は深刻な問題になっているので、この技術で貢献したい」と話しています。

「膜」を使って "回収"

九州大学ネガティブエミッションテクノロジー研究センターの藤川茂紀教授は極めて薄い膜を使って大気中から二酸化炭素を回収する独自の発想で開発に取り組んでいます。 これまでに厚さが食品用のラップのおよそ 300 分の1にあたる 34 ナノメートルという極めて薄い膜を作成しています。 この膜には二酸化炭素の分子が通ることができる小さな隙間があり、二酸化炭素を回収することができます。 膜の化学的な性質を変えることで二酸化炭素の分子をより選択的に通すよう改良し、数年後までに家庭や職場などで使える小型の試作機を開発したいとしています。 藤川教授は「膜を使う手法は世界中でこれ以外にはないと思う。 課題も多いが頑張りたい。」と話しています。 (NHK = 5-8-21)


水素、緑も青も総力戦 50 年に全エネルギーの 16% に

原子番号 1 番、元素記号 H。 「水素」が温暖化ガス排出を実質的になくすカーボンゼロの切り札に浮上した。 宇宙の元素で最も多い水素は枯渇せず、燃やしても水になるだけ。 究極の資源 H を制する競争が始まった。 オーストラリア南東部のビクトリア州ラトローブバレー。 日本の発電量 240 年分に当たる大量の低品位石炭、褐炭が眠るこの地で 1 月、水素の製造が始まった。 採掘したての褐炭を乾燥させて砕き、酸素を注入して水素をつくる。 1 日あたり 2 トンの褐炭から 70 キログラムの水素ができる。 年内にはセ氏マイナス 253 度で液化した水素を専用船で日本に運ぶ。

川崎重工業の子会社、ハイドロジェン・エンジニアリング・オーストラリアの川副洋史取締役は「製造、液化した水素を海上で大量輸送する供給網をつくるのは世界初」と話す。 2030 年代の商用化後は水素製造時に出る二酸化炭素 (CO2) を約 80 キロメートル離れた海岸沖の地底に埋める。 脱炭素の王道は太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電化だが、大型飛行機は電気で飛ばすのが難しい。 高温で鉄鉱石を溶かす高炉も電気では動かない。 水素は燃やせばロケットを飛ばせるほどのエネルギーを生み、CO2 も出さない。 カーボンゼロの最後の扉を開くカギとなる。

英石油大手 BP は「カーボンゼロならば 50 年の最終エネルギー消費の 16% を水素が占める」とみる。 「世界でも安い水素の供給源は限られる。 もたもたしていると他国にとられる。」 水素を成長事業にすえる千代田化工建設の森本孝和フロンティアビジネス本部副本部長は焦りを隠さない。 世界はすでに総力戦に入った。 世界の関連企業でつくる「水素協議会」によると、1 月までに世界で 200 以上の事業計画が公表された。 投資額は合計 3,000 億ドル(約 33 兆円)を超す。

無色透明の水素を専門家は製法で「色分け」する。 石炭や天然ガスなど化石燃料から取り出すと「グレー」。 いま流通する工業用水素の 99% がそうだが、CO2 は削減できない。 豪州の例のように化石燃料由来でも製造過程で CO2 を回収すれば「ブルー」。 そして CO2 を出さない再生エネの電気で水を分解してつくる「グリーン」だ。 欧州連合 (EU) はグリーン水素に傾斜する。 30 年までに水を電気分解する装置に最大 420 億ユーロ(5 兆 5 千億円)を官民で投じ、日本の 30 年目標の 3 倍超の年 1,000 万トンをつくる。 いまの製造コストはブルーより高いが、再生エネと電解装置の値下がりで将来は逆転するとの見方もある。

ロシア、カナダなど資源大国はブルーに前向きで、サウジアラビアや豪州のように両方をてがける国もある。 ブルー水素に生き残りをかけるオイルメジャーの思惑もからみ、水素の「規格争い」は一筋縄ではいかない。 コストが普及を阻む。 水素を製鉄に使う場合、1 キログラム 1 ドル(約 109 円)が実用化の目安とされるが、いまの生産コストはブルーが同 2 - 3 ドル、グリーンが同 2 - 9 ドルとまだ高い。 日本で水素を発電に使うなら同 2 ドルで採算があうが、現状で豪州からの輸入液化水素は同 17 - 18 ドルと上回る。

炭素税の導入も課題だ。 石炭を使う高炉の代わりに水素で鉄を還元する方法に切り替えると、鉄鋼製品は値上がりする。 調査会社ブルームバーグ NEF (BNEF) は水素が 1 キログラム 1 ドルに下がった場合、CO2 1 トンあたり 50 ドル前後の炭素税をかけると長期的に水素製鉄が高炉より優位になると試算する。 炭素税が高炉の鉄鋼価格を 1 - 2 割押し上げるとみられる。 日本は 17 年に世界初の水素戦略をまとめ、関連特許の出願数も首位。 世界をリードできるはずが、日本企業関係者は外国政府との折衝で「日本は導入が遅くてイライラする」とよく言われる。

EU は 50 年までに官民で最大 4,700 億ユーロを水素に投じ、米バイデン政権も研究開発を支援する。 日本は脱炭素基金から 3,700 億円をあてるが、迫力不足。 BNEF によると国内総生産 (GDP) に対する水素関連予算の比率は韓国や仏独が 0.03% に対し、日本は 3 分の 1 の 0.01% にとどまる。 大気汚染が深刻だった 60 年代、液化天然ガス (LNG) は硫黄や窒素をほぼ含まない「無公害燃料」と呼ばれた。 リスクも大きかったが、東京ガスと東京電力が共同調達で手をむすび、旧通産省が後押しするオールジャパン体制を構築。 世界に先駆けて供給網を整え、アジアに関連インフラを輸出するまでに成長した。

「夢の燃料」と呼ばれる水素。ブルーかグリーンか、輸入か国内生産か、炭素税はどうするのか。 日本が初めて LNG を輸入してから約半世紀。 カーボンゼロに向け、官民一体で再び見取り図を描くときだ。 (nikkei = 5-3-21)


世界最高水準の人工光合成に成功、植物超え 豊田中央研

トヨタ自動車グループの豊田中央研究所(愛知県長久手市)は 21 日、太陽光を活用して二酸化炭素 (CO2) から有機物を生成する「人工光合成」の効率を世界最高水準に高めたと発表した。 変換効率は植物を上回る水準といい、CO2 を有効利用する手段として有望視する。 将来的には、工場から排出された CO2 を回収し、人工光合成に活用できると見込んでいる。 研究では、太陽光エネルギーを活用し、CO2 と水から有機物の「ギ酸」を生成する。 生成したギ酸は、水素をつくったり、発電の燃料にしたりして使うことを想定しているという。

豊田中研は 2011 年に人工光合成の実証に成功し、その後も、装置の大型化と、より多くのギ酸を作り出すために変換効率の向上に取り組んできた。 今回の研究では、11 年に 1 センチ角の大きさだった装置を 36 センチ角に拡大。 装置の構造を見直すことで、変換効率は 17 年の 1.5% から、植物を上回る水準の 7.2% まで高めた。 同社によると、同じ大きさの人工光合成の装置では世界最高の水準だという。 今後は実用化に向け、コスト削減や耐久性の向上に取り組む。 豊田中研の志満津孝取締役は「2030 年ごろには実用化に向けた技術基盤を確立したい」と話す。 (三浦惇平、asahi = 4-22-21)


温室効果ガス 46% 削減目標 首相が示す「野心的」水準

菅義偉首相は 22 日、2030 年度の温室効果ガスの新たな削減目標について、13 年度比で「46% 削減」するとの方針を表明した。 現在の 26% 削減から大幅に引き上げる。 政府の地球温暖化対策推進本部で明らかにした。 この日夜に開幕するオンラインによる米主催の気候変動サミットに出席し、日本政府の新たな目標を各国の首脳に伝える。 推進本部で首相は「13 年度から 46% 削減することをめざす。 さらに 50% の高みに向けて挑戦を続けていく」と述べた。 従来の目標の 26% 減に対し、19 年度は 14% 減となっている。 これが 46% 減になると、あと 10 年で 32% 減らさなければならず、削減ペースを急激に上げる必要が出てくる。

首相は昨年 10 月、日本の温室効果ガスの排出を 50 年に「実質ゼロ」にすると宣言しており、その達成のために中間に位置する 30 年度の目標を見直した。 国際協調も強く意識し 46% 削減という「野心的」な水準を掲げたが、脱炭素への転換に伴う産業や暮らしへの影響は大きくなりそうだ。 政府内では、経済産業省側を中心に「40% 削減」までは可能との見方があった。 経済成長しても温室効果ガスの排出が減らせるとの考えに転換したり、再生可能エネルギーの普及を織り込んだりして、目標数値の根拠を積み上げた。

しかし、欧州連合 (EU) は昨年、30 年の目標を 55% 減(1990 年比)と高い水準を掲げた。 英国も 20 日、35 年までに 78% 減(同)という積極的な目標を公表。 バイデン米政権は 22 日、30 年に 50 - 52% 減(05 年比)と打ち出した。 環境省側などは、欧米に見劣りしない「45% 削減」を軸としつつ、小泉進次郎環境相はさらに高い「50% 削減」もめざしたとされる。 政府内で水準をめぐって綱引きがあったが、最後はバイデン米大統領との首脳会談を踏まえて首相がトップダウンで 46% を決めた。

気候変動対策をめぐっては、16 日のバイデン氏との日米首脳会談後に出された共同声明で、「30 年までに確固たる気候行動を取ることにコミットした」との文言が入った。 首相は共同記者会見で「日米で世界の脱炭素をリードしていくことを確認した」と語るなど、バイデン氏が重視する気候変動サミットで「野心的」な目標を掲げる意向を示していた。 ただ、太陽光や風力など再生可能エネルギーを大幅に導入すれば電気代に跳ね返る可能性がある。 化石燃料に多くを頼る産業や社会生活で、「痛み」を伴う変革も求められる。 発電時に二酸化炭素を出さないものの、世論の反発が強い原発の位置づけも焦点になりそうだ。

15 年に採択された温暖化対策の国際ルール「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を 2 度以内、できれば 1.5 度に抑えることをめざしている。 各国が削減目標の見直しを進めていた。 (asahi = 4-22-21)

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パリ協定の目標達成「到底おぼつかない」 国連報告書

地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の下で、各国・地域が提出・更新した温室効果ガスの排出削減目標を積み上げても、協定の掲げる気温上昇を抑える目標達成にはほど遠いことが 26 日、国連の報告書で明らかになった。 パリ協定は産業革命以降の気温上昇を 2 度未満、できれば 1.5 度に抑えることを目標として掲げ、各国に削減目標の提出・更新を義務づけている。 「2 度未満」の達成に 2030 年に 10 年比約 25% 減、「1.5 度」の達成には、約 45% 減が必要とされる。

だが国連が昨年末までに提出・更新された世界 75 の国・地域の削減目標を積み上げたところ、全体で 30 年比 1% 減の効果にとどまることがわかった。 気候変動枠組み条約のエスピノーザ条約事務局長は、新型コロナウイルスの世界的流行で各国の削減目標改定が遅れていることに理解を示しつつ、「現在の削減の水準では、パリ協定の目標達成は到底おぼつかない」としている。 グテーレス国連事務総長は「報告書は地球にとっての危険信号だ。 各国政府は 1.5 度目標を達成できる野心に全く近づいていない」とコメントし、11 月に英国で開かれる第 26 回同条約締約国会議 (COP26) までに、主要排出国に強化した削減目標の提出を求めた。

日本政府は 15 年に 30 年に 26% 削減(2013 年比)する目標を掲げ、更新していない。 バイデン政権でパリ協定に復帰した米国は、4 月 22 日に開催を呼びかける主要排出国を招いた首脳会合までに、新たな 30 年の削減目標を公表する。 最大排出国の中国の新目標発表も期待される。 フィゲレス前気候変動枠組み条約事務局長は「現状はまだ弱いが、今年、主要排出国は大きく変えるチャンスがある。 米国や中国、日本などの経済大国は、パリ協定の目標達成のため、2030 年に 50% 削減することが国際競争上の利益にもなる」とコメントしている。 (ワシントン = 香取啓介、asahi = 2-27-21)


Apple など、2 億ドル規模の森林再生基金を立ち上げ

Apple は 4 月 15 日、温室効果ガス削減の取り組みとしては初となる「Restore Fund (再生基金)」の設立を発表した。 大気中から CO2 を削減することを目指す森林プロジェクトに直接投資を行うことで、投資家が金銭的なリターンを得るもの。 基金の総額は 2 億ドル規模。 2021 年後半にも、基金の支援対象となる新しいプロジェクトが決定される予定。

同基金は、環境保護団体コンサベーション・インターナショナルと投資銀行ゴールドマン・サックスとの共同プロジェクトによるもの。 大気中から少なくとも年間 100 万トンの CO2 を削減することを目指すとともに、実現可能な財政モデルを提示することで、森林再生に向けた投資活動を拡大することがねらい。 この取り組みは、Apple がバリューチェーン全体を 2030 年までにカーボンニュートラルにすることを目指す活動の一環として実施される。 同社のサプライチェーンと製品について、同社が 2030 年までに直接的に削減できる CO2 排出は75%を見込んでいる。 残り 25% 分についてはこの基金を通じて、大気中から CO2 を削減することで解決する考え。

今回の「Restore Fund」によるパートナーシップは、自然界にある解決手段に着目し、これを事業者にとって魅力的なビジネスに仕上げる方法での拡大を目指している。 Restore Fund では Verra、気候変動に関する政府間パネル、国連の気候変動枠組条約のような専門組織によって開発・制度化された国際標準を使用。 緩衝地帯や自然保護区の設定を通じ、生物多様性を向上させる「働く森林」への投資を優先するという。 なお、コンサベーション・インターナショナルは同基金への共同投資者として、プロジェクトが環境・社会基準を満たしているか評価する。

なお、Apple は 2017 年から同社製品のパッケージに 100% 責任ある方法で調達された木材繊維のみを使用するとともに、これまで面積 100 万エーカー以上の森林の管理を向上させてきたという。 (環境ビジネス = 4-20-21)


日本の温室効果ガス、2.9% 削減 コロナの影響はなし

環境省は 13 日、2019 年度の温室効果ガスの総排出量の確報値を発表した。 二酸化炭素 (CO2) 換算で 12 億 1,200 万トンで、前年度と比べて 2.9% 減った。 減少は 6 年連続。 鉄鋼など製造業の生産量が減ったことや再生可能エネルギーの導入拡大の影響が大きい。 20 年度に感染拡大が本格化した新型コロナウイルスの影響はほぼないという。

温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で、日本は排出量を 30 年度に 13 年度比で 26% 削減する目標をかかげており、19 年度時点では 14% 削減となった。 省エネや再エネの拡大、原発の再稼働が要因という。 小泉進次郎環境相は「国民の皆様の取り組みが反映された。 結果を楽観視せず、引き続き取り組みを進める必要がある」と話した。 政府は 11 月の国連気候変動枠組み条約締約国会議 (COP26) に向けて 30 年度の削減目標を見直す。 昨年 10 月には 50 年の排出を「実質ゼロ」にする新たな長期目標を打ち出しており、40% 以上の削減とする方向で調整している。 (川田俊男、asahi = 4-13-21)


青色の天然着色料が発見される

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米環境保護庁、自動車排ガス規制見直し案を 7 月末までに提出見込み

4 月 22、23 日に予定されている、ジョー・バイデン米国大統領主宰の気候変動サミットを前に、バイデン政権で環境政策にかかわる複数の高官が今後の環境政策の見通しを示した。

環境保護庁 (EPA) のマイケル・リーガン長官は 4 月 6 日、ブルームバーグのインタビューの中で、自動車の温室効果ガス排出に関し、7 月末までに「気候変動危機の緊急性」に対応するのに十分強力な新しい規制を提案する予定であることを明らかにした。 EPA は現在、バイデン大統領が 1 月 20 日に署名した大統領令に基づき、トランプ前政権下で緩和された温室効果ガス排出規制(SAFE 規制)と燃費基準制定の権限を連邦政府に一元化する「One National Program Rule」の見直しを行っている。

SAFE 規制の見直し期間は 2021 年7月までと定められており、今回のリーガン長官の発言は EPA が同大統領令を予定どおり実行する見通しであることを裏付けた。 また同長官は、4 月を期限とする One National Program Rule の見直しに関しては、カリフォルニア州の適用除外に触れ、「私は州の法的な主導権を固く信じていることを明確にしてきた」と語った。

リーガン長官は、気候変動サミットまでに米国が発表する予定の 2030 年までの温室効果ガス削減目標に関して、油井、自動車、発電所を対象とする一連の規制によって支えられると述べた。 さらに、2035 年までに発電部門で、2050 年までに全米で温室効果ガス排出をネットゼロとする目標達成のため、EPA は温室効果ガスの 1 つメタンガスの削減計画に焦点を当てていることを強調した。

企業に気候変動リスクの開示を求める大統領令発出か

ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使は 4 月 7 日に行われた IMF のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事との討論会で、バイデン大統領が金融機関や企業に対し気候変動リスクの情報開示を義務付ける大統領令を近く発出する予定だと語った。 ケリー特使は「(大統領令により)投資に対して気候危機に基づき評価が行われ、長期的なリスクが検討されるようになる」と述べるとともに、バッテリーや代替燃料などでの新技術への需要がベンチャーキャピタルによる投資活動を増大させるとの見方を示した。 (大原典子、宮野慶太、JETRO = 4-9-21)


アップルの供給元 110 社、「再生エネ 100%」に

米アップルは 31 日、同社の気候変動対策の取り組みに呼応して、世界の供給元の部品メーカー 110 社以上が、アップル向けの生産で使う電気を 100% 再生可能エネルギーでまかなう取り組みを進めていると発表した。 日本では新たに村田製作所とツジデンが加わった。 米欧の巨大企業が再生エネの使用に傾くなか、日本企業も対応を迫られるケースが増えている。

アップルは昨年 7 月、2030 年までに同社のサプライチェーンや製品サイクルで、100% の「カーボンニュートラル」を達成すると表明した。 部品メーカーに対し、アップル向けの部品を作る際に再生エネ比率を 100% にするよう求めている。 昨年 7 月の時点では、ソニーなど 70 社以上がこの取り組みに参加。 今回、参加企業が 110 社超に拡大した。 日本では再生エネの比率は 2 割にとどまり、欧州などに比べて取り組みが大幅に遅れている。 ただ、そうした日本の国内状況にかかわらず、アップルなどの巨大企業が日本の取引先に再生エネの使用率を 100% にするよう求めるケースが増え、日本企業側が対応を迫られている形だ。 (サンフランシスコ = 尾形聡彦、asahi = 3-31-21)


494MW の洋上風力発電事業に環境大臣意見 山形県遊佐町沖で計画

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瀬戸内法改正案 小泉環境相に聞く 持続可能な海へ礎、保全推進期待

瀬戸内海の豊かな海づくりを目指す瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)の改正案が今国会に提出されている。 法案を所管する小泉進次郎環境相は山陽新聞社のインタビューに応じ「持続可能な瀬戸内海をつくる礎となる」と改正の意義を強調し、岡山県をはじめ地域住民による環境保全活動の一層の推進に期待を示した。

- - 改正案のポイントは。

「一律に規制してきた水質管理を見直し、地域ごとにきめ細かく対応できるようにする。 水環境行政の大きな転換となる。 (基本理念には)世界的な問題の気候変動を踏まえる旨を追加する。 対策ができなければ、瀬戸内海の水温は今世紀中に 3 - 4 度上昇する予測もあり、漁業やその恵みを受けている商店や観光業にも影響は及ぶ。 法改正は持続可能な瀬戸内海をつくる礎となる意義を持つ。」

- - 海洋プラスチックごみの抑制にも力を入れる。

「ペットボトルごみの調査では、海外からの流入も多い他の海域に対し、瀬戸内海は 9 割が国内から出されていた。 地域で行動を起こせば効果がてきめんに表れるだろう。 上流域と一体でごみの回収に取り組む方たちもいるし、ごみは資源としてさまざまな製品に変換できる。 サーキュラーエコノミー(循環型経済)を先行的に実現する地域になるよう後押ししたい。」

- - 藻場の再生に向けた取り組みも促す。

「二酸化炭素 (CO2) を吸収する藻場は、海の中の森であり『ブルーカーボン』と呼ばれる。 藻場による CO2 吸収量がどこまでインパクトを出せるのか、今後分析していく。 目の前の海にブルーカーボンができ、見たり触れたりすることで人々のライフスタイルの転換につながってほしい。」

- - 地域の役割は。

「環境改善は住民や市民団体の努力がなければ実現できず、今まで頑張ってきた皆さんに感謝している。 一方、水質改善により漁業への影響などさまざまな問題が出てくる。 豊かな海づくりに大事なのは、地域内や広域とのコミュニケーションを密にする場をつくる点にある。 地域をよく理解している地元自治体と連携していく。」

- - 瀬戸内海や岡山県の将来をどう展望しているか。

「世界が(温室効果ガス排出を実質ゼロにする)カーボンニュートラルを目指す中、真っ先に実現する地域になってもらいたい。 晴れの国・岡山は、太陽光をはじめとする自然エネルギーを最大限活用できる可能性を秘め、真庭市の森林資源を生かしたまちづくりは先駆的な取り組みだ。 これからは、晴れの国の新たな価値をもっと伝えられる時代になるだろう。」

瀬戸内法 : 公害や赤潮が頻発していた瀬戸内海の水質改善と環境保全を目的とし、1973 年に臨時措置法として制定、5 年後に恒久法に改められた。 議員立法による 2015 年の改正で生物多様性を確保し、豊かな海を目指す基本理念が新たに定められた。 今回の改正案には、ノリの色落ちの要因といわれる水質改善で低下した窒素やリンの濃度を増やす制度の創設、プラスチックごみの発生抑制対策を国と沿岸自治体の責務に規定することなどが盛り込まれている。 (山陽新聞 = 3-20-21)


蓄電池開発、「定置型」、「全固体」共に日本勢が強み

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伊藤忠、卒 FIT 家庭の太陽光環境価値を取引 蓄電システムで仕組みを構築

伊藤忠商事(東京都港区)は 3 月 3 日、蓄電システムを通じて、家庭用太陽光発電システムの自家消費電力を環境価値として取り出しポイント化する仕組みを世界で初めて構築し、その機能を備えた家庭用蓄電システム「Smart Star 3」を 5 月に発売すると発表した。 同社は、取り出した家庭の環境価値を脱炭素社会の実現を目指すパートナー企業に提供し、顧客に対しては価値に応じたポイント還元を行うサービスを展開する。 日々蓄積する顧客の環境価値ポイントは専用アプリで確認ができ、買い物等に利用することができるという。 また、「Smart Star 3」は、電気自動車 (EV) 用充電コンセントを標準装備しており、急速に普及していく EV の充電インフラとしての役割を担うことも狙いとしている。

卒 FIT 家庭の「埋没価値」に着目

「Smart Star 3」は、NF ブロッサムテクノロジーズ(神奈川県横浜市)と共同で開発・製造する、 家庭用蓄電システム「Smart Star」シリーズの新製品。 「Smart Star」シリーズは、停電時にも太陽光発電システムと連動可能な自立運転機能や、太陽光発電システムの固定価格買取制度 (FIT) 期間満了に伴う自家消費ニーズを捉えた AI (人工知能)による最適制御機能「GridShare」を備える。 これらの機能に加え、「環境と経済の好循環を生み出す次世代の分散型電源(同社)」として、「Smart Star 3」を市場に投入する。

「Smart Star 3」は、定格容量 13.16kWh、最大 5.5kVA 出力が可能な家庭用リチウムイオン蓄電システム。 その最大の特徴として、同社は、「蓄電システム自身が新たな価値を生み出す」ことをあげる。 「商業用の太陽光発電システムの自家消費電力が環境価値として取引されるのに対し、家庭における自家消費電力は、これまで認識されず「埋没価値」として見過ごされてきた」と指摘。今後増加する卒 FIT 家庭の「埋没価値」に着目し、蓄電システムを通じて家庭の環境価値を取り出す仕組みを構築した。

次世代電力取引などに蓄電システムを活用

「Smart Star」シリーズの累計販売台数は、2021 年 2 月時点で 4 万台(約 400MWh)超。 ネットワークにつながった AI 機能付き蓄電システムは 3 万台(約 300MWh)を超え、伊藤忠商事の AI プラットフォーム上にある分散型電源の数は年々増加しているという。

伊藤忠商事は、今回のサービスで、アプリを通じて顧客と直接接点を持つことで、AI プラットフォームに蓄積する蓄電システムのデータを活用した既存サービスのさらなる向上を目指す。 また、ネットワークにつながった蓄電システムを統合制御するバーチャルパワープラント事業、近い将来実現が期待される電力個人間取引 (P2P) 等、蓄電システムを活用した新たなサービスの提供を見据え、今後さらに「Smart Star 3」の独自性を高めていくとしている。 (環境ビジネス = 3-5-21)


JR 東日本、再生エネで電車運行 30 年度に使用電力の 2 割

SDGs への企業の取り組み

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国内最大級の水素製造プラント 伊藤忠、仏大手と提携

産業ガス世界大手の仏エア・リキードと伊藤忠商事は 2020 年代半ばに、世界最大級の液化水素製造プラントを中部地方に設置する。 液化天然ガス (LNG) から製造する方式を採るとみられ、現状よりも価格を抑えながら燃料電池車 (FCV) など向けに供給する。 世界が水素活用の取り組みを加速する中、普及のカギを握る水素生産の体制作りが国内で本格化してきた。

政府は 50 年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする戦略の中で、水素を有力な脱炭素エネルギーと位置づけている。 同戦略では 30 年に年間最大 300 万トンの水素供給を掲げており、実現に向けた供給整備が課題になっている。 現状、日本で供給される水素の大半は産業用途の圧縮水素だが、大量輸送が可能なことなどからエネルギー利用は液化水素が今後の本命技術で、エア・リキードと伊藤忠の連合も液化に対応する。

このほど日本での水素供給網の構築を巡る戦略的協業の覚書を結んだ。 新プラントが生産する 1 日あたりの液化水素は FCV 4 万 2,000 台分をフル充填できる約 30 トンを想定。 現在、国内での液化水素は岩谷産業を中心に 1 日約 44 トン程度が生産されており、これに匹敵する規模となる。 投資額はエア・リキードが米ネバダ州で約 200 億円を投じて建設している世界最大級の液化水素プラントと同等規模になる見通しだ。 水素の製造方法は LNG を水素と二酸化炭素 (CO2) に分解する方式を軸に検討する。 製造段階で発生する CO2 は回収し、飲料品向けの発泡剤やドライアイスなど工業用途で外部に販売する。

セ氏 0 度、1 気圧、湿度 0% の基準状態での体積をノルマル立方メートルと呼ぶが、1 ノルマル立方メートルの水素単価が足元で 100 円程度なのに対し、政府は 30 年に 3 分の 1 以下となる 30 円の水準とすることをめざしている。 大規模設備で水素普及の壁となっているコストを削減する。 現在、LNG からつくる液化水素は CO2 の回収費用も含めて 1 キログラムあたり 1,100 円前後の最終価格で企業間取引がされている。 水素を用いた発電コストを電力換算(1 キロワット時)すると約 52 円と一般電力の約 2 倍する。 エア・リキードなどは 1,000 円以下での提供を目指す。

水素の供給先は国内にある自動車向けの水素ステーションを見込む。 20 年 12 月時点で国内の水素ステーションは 137 カ所あるが、政府は 30 年に 900 カ所に引き上げる方針だ。 現在 FCV の国内保有台数は 4,000 台程度だが、伊藤忠ではトラックなど商用車を含めた FCV 市場が膨らむと想定し水素供給のビジネスを強化する。 火力発電や製鉄業界に対しても水素の利用を促していく。 石油化学業界など工業向けとあわせエア・リキードと連携して販路を開拓する。

水素普及で先行する欧州連合(EU)は20年7月に「水素戦略」を公表した。 EU は CO2 を発生させないように再生可能エネルギーを使って水を電気分解し水素を得る「グリーン水素」に注力している。 30 年にグリーン水素だけで 1,000 万トンの導入を目指す。 1 キログラムあたり 300 - 700 円で製造できるとされる。 日本でも福島県に再生エネを活用して水素を製造する世界最大級の設備があるが、再生エネのコストが高い日本で欧州並みを実現するには時間がかかる。 当面は化石燃料由来の製造法で水素普及を急ぐ。

エア・リキードは水素製造では独リンデなどと並ぶ世界大手。 20 年 12 月期の連結純利益は 3,100 億円、売上高は 2 兆 6,000 億円だった。 水素ステーションでも世界に存在する約 500 カ所のうち約 120 カ所を設置している。 日本国内でも 13 カ所を運営し、22 年中に 4 カ所を新設する。 (nikkei = 2-25-21)


太陽光発電、山梨県が独自規制へ 森林伐採伴う開発禁止

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東芝・GE、洋上風力提携 日本で基幹設備生産へ

東芝と米ゼネラル・エレクトリック (GE) が洋上風力発電の基幹設備を共同生産する提携交渉を進めていることが明らかになった。 政府は再生可能エネルギーの主力電源として洋上風力発電を位置づけたが、欧州や中国勢が先行。 日本勢は日立製作所などが相次ぎ撤退して苦戦を強いられている。 東芝は世界シェア上位の GE と組み、コストを削減し、急成長する市場で参入を急ぐ。 国土が狭い日本では大規模な太陽光発電や陸上の風力発電の拡大余地は乏しい。 政府は約 2 万キロワットの発電能力にとどまる洋上風力を、2040 年までに 3,000 万 - 4,500 万キロワットに拡大する計画だ。 原子力発電所 30 基超に相当する規模だ。

ただ、洋上風力の世界シェアはシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(スペイン)など欧州勢や中国勢が独占している。 日本勢は市場参入は早かったものの、規模が限定的で収益化できず日立製作所や日本製鋼所が風車生産から撤退。 三菱重工業も販売のみで生産していない。 数万点に及ぶ部品で構成する洋上風力発電は産業の裾野が広い。 政府は 40 年までに国内における部品の調達比率 60% を目指す。 国内で洋上風力発電のサプライチェーンを構築するには、基幹設備を生産する国内プレーヤーが不可欠だった。

今回、東芝と GE はナセルと呼ばれる洋上風力の基幹設備の共同生産を検討している。 風車の中心にある駆動部分で、発電機や増速機などを格納する。 タービンや水力発電の水車などを製造する京浜事業所(横浜市)を活用し、ナセルの組み立てを共同展開する。 火力発電の新規建設から撤退することで、同事業所で生じる空きスペースなどを活用するとみられる。 世界的な脱炭素の流れを受け、東芝は再エネ分野を成長の柱に据え事業拡大の機会をうかがっていた。 風力発電市場(陸上・洋上合計)で世界シェアトップの GE と設備の部品の共通化を進めるなどして、コスト競争力を確保したい考えだ。

現在、提携内容の詳細を詰めており 3 月をめどに公表する。 ナセル以外の設備の共同生産のほか、利益率の高い発電設備の保守・運用サービスにも提携範囲を広げることも検討している。 将来的には気象や海域の様子が似ているアジア進出も視野に入れる。 一方、米国で主に事業展開してきた GE は大型案件が期待できる日本市場で生産拠点の確保が急務と判断。 過去に原子力や火力発電で提携関係にあった東芝と手を組む。

政府は欧州に比べ出遅れる洋上風力の活性化策として、漁業関係者など地元調整を支援する仕組みを設けたほか、長期間にわたり洋上風力を運営できるように再生エネルギー海域利用法を 19 年 4 月に施行した。 補助金・税制などによる設備投資支援策も調整している。 成長性や政府支援策などを背景に日本で洋上風力ビジネスの投資魅力が増している。 欧州勢もシーメンスガメサが日本市場開拓をにらみ 21 年に台湾で年間 100 基程度の風車の組み立て工場を稼働させる。 既に多くの洋上風力を手掛ける欧州勢のコスト競争力は高いだけに、東芝・GE が提携で国内でシェアを確保できるか不透明な面がある。 (nikkei = 2-22-21)