JR 東日本、再生エネで電車運行 30 年度に使用電力の 2 割

JR 東日本は、再生可能エネルギーによる鉄道運行を加速する。 2030 年度までに鉄道事業の全使用量の約 20% に相当する電力を、風力や太陽光による自家発電に置き換える。 自家発電の約 4 割を賄う液化天然ガス (LNG) 発電所も次世代燃料電池発電への切り替えを検討する。 目標とする二酸化炭素 (CO2) の 50 年の実質排出ゼロの移行につなげる。 JR 東日本の鉄道事業は 19 年度に 199 万トンの CO2 を排出しており、30 年度には 100 万トン程度まで削減する方針だ。 鉄道事業の消費電力は年間約 58 億キロワット時。うち 4 割を東京電力など外部から購入している。

全体の 2 割に相当する約 11 億キロワット時を使う東北エリアで、30 年度をメドに再生可能エネルギー由来の自家発電に切り替え排出を実質ゼロにする。 現在稼働している再生エネ発電施設は秋田県などに 21 カ所あり、30 年度までに新たに秋田や福島などで 16 カ所、新規の発電所建設を計画・検討する。陸上風力や太陽光、バイオだけでなく、洋上風力による発電所の設置も視野に入れる。

所有する火力発電所でも脱炭素化を進める。 川崎市に4基持つ LNG 火力発電所のうち 1 基について、30 年ごろにガスタービン燃料電池複合発電 (GTFC) に切り替えを検討している。 国土交通省によると国内の運輸部門における CO2 排出総量では航空 5%、内航海運 4.9%、鉄道 3.9%。 JR 東以外の国内鉄道事業者も脱炭素の対応を急ぐ。 東急は 30 年に電力使用による CO2 排出量を 30% 削減する。 世田谷線の運行電力を 100% 再生エネルギー由来に切り替えた。 JR 西日本は 15 年に山口県に大規模太陽光発電所を設置。 一般家庭約 1,020 世帯に相当する電力を発電している。 (nikkei = 3-5-21)


オフィスビル電力で脱炭素 三菱地所、丸の内 30 棟

オフィスビルの入居増にも生かす

大手不動産会社が保有物件で使う電力を一斉に再生エネルギーに切り替える。 三菱地所は 2022 年度にも東京・丸の内に持つ約 30 棟で、東急不動産も 25 年ごろに全国の保有施設全てを再生エネ仕様とする。 入居企業が多いオフィスビルの大規模な脱炭素化は波及効果も大きい。 都市部に多い金融や飲食などサービス業などの再生エネ活用を後押ししそうだ。

三菱地所は、「新丸ビル」、「丸の内オアゾ」など丸の内地区の約 30 棟で切り替えを進める。 対象ビルの 19 年度の使用電力は計約 4 億キロワット時で、家庭なら 10 万世帯強に相当する。 二酸化炭素 (CO2) 排出量は約 20 万トンだった。 21 年 4 月から 18 棟で再生エネ由来に順次変更し、22 年度にも残りのビルの電力を切り替える。 当初は丸の内エリアで年数棟ずつ切り替える計画だったが、政府の方針などを受け前倒しで進める。 電力は ENEOS が手掛けるバイオマス発電などで調達する。

東急不動産でも、21 年 4 月に本社が入る「渋谷ソラスタ」など計 15 物件の電力を再生エネに変える。 25 年をメドにスキー場やホテルも含め、全国に保有する全施設の電力を再生エネに変更する。 当初の目標達成時期の 50 年から大幅に早める。 開発中を含め風力や太陽光など 50 を超える再生エネルギー発電事業に参加しており、こうした電源を活用する。 再生エネを使うことで電気利用のコストは上がる。水力や風力発電は火力発電より発電費用がかかるからだ。 企業が再生エネからの電力を購入する方法の 1 つの「非化石証書」がついた電力は、通常の電力より約 1 割高くなるという。

両社は増加するコストをテナントに転嫁しない方針だ。 政府が温暖化ガスの排出を 50 年までに実質ゼロにする方針を示し、オフィスの脱炭素化を立地や設備などと並ぶテナント誘致の柱と位置づける。 他の不動産会社も脱炭素を急いでいる。 三井不動産は「東京ミッドタウン日比谷」で再生エネを導入する。 東京・丸の内の「鉄鋼ビル」を運営する鉄鋼ビルディングも 1 月に導入済みだ。

オフィスで使われる電力は企業・事業所が使う電力の約 6% を占める。 三菱地所によると丸の内地区だけで金融やサービス業など千社以上の企業が活動し、多くの企業の再生エネ利用につながる。 日本不動産研究所によると全国には 3 千平方メートル以上のオフィスビルが約 1 万 600 棟あり、今後こうした物件が再エネ対応に変われば効果は大きい。 再生エネの発電量に占める割合は 19 年度速報値で 18% だった。 経済産業省は 50 年の発電量に占める再生エネの割合を約 5 - 6 割に高める案を示している。 安定した電力を確保しながら日本の産業全体で脱炭素を進めるために、再生エネの拡大に加え、電力を効率的に使う蓄電などの技術開発が不可欠になる。 (nikkei = 1-18-21)


花王が日本企業初のトリプル A 獲得
環境先進企業を選定する 2020 年度 CDP スコアで

花王は、国際非営利団体 CDP が昨年 12 月に発表した 2020 年度の環境先進企業に関する調査結果で、「気候変動」、「森林」、「水」の 3 つ分野で最高評価の "A リスト" 企業に選定された。 評価対象となった約 5,800 社の中でトリプル A 企業は前年度の 6 社から 10 社に増加。 国内企業では、トリプル A 獲得は初となる。 花王の A リスト入りは「気候変動」分野が 2 回目、「森林」分野は初、「水」分野は 4 回目。

同社は 2019 年 4 月に ESG 戦略「Kirei Lifestyle Plan (キレイライフスタイルプラン)」を策定。 製品のライフサイクル全体を通して環境負荷低減に積極的に取り組む。 今回の A リスト選定で評価された点は、CO2 削減目標の策定、パーム油や紙・パルプの持続可能な調達の推進、国内外工場における水使用量の削減や節水製品の提供、消費者などさまざまなステークホルダーと協働で行う "いっしょに eco" の活動、気候変動や森林伐採、水リスクがビジネスに及ぼすリスクについての積極的な開示など。

本年度の調査で A リストに選定された企業は 300 社以上となり、前年度比 45% 増だった。 国別では日本企業が最も多く 66 社が A リストに選ばれ、次いで米国が 58 社、英国が 21 社、ドイツが 19 社、フランスが 18 社の順だった。 A リストに選定された日本企業は、欧州事業の全電力を再生可能エネルギーに切り替えたトヨタのほか、富士通、キリン、三菱電機、NEC、サントリー食品インターナショナルなど。 A リスト企業は増加傾向にあるものの、全体の 74% は C - D スコアの間にあり、環境情報の開示をし始めたばかりの企業が大部分を占めている。 (澤田まり子、WWD = 1-1-21)


昭和生まれの水力発電所、次の時代へ回れ JR 東が改修

発電開始から 80 年余りの歴史がある JR 東日本の信濃川発電所の千手発電所(新潟県十日町市)。 老朽化した発電機の更新作業などの様子が 26 日、報道関係者らに公開された。 国有鉄道の電化を推進する戦前の国策により建設され、土木遺産にも選ばれた発電所は、2027 年 3 月の完工をめざし、改修工事が進められている。 千手発電所は、十日町市街地を望む信濃川左岸の河岸段丘、水田地帯にあり、周囲には工場もある。 工事は昨年 7 月に着工、主に老朽化した水力発電機や鉄管、変電設備を取り換える。 発電機は現行の 5 基から 4 基に減らすのに伴い、水を送る水圧鉄管も 5 本から 4 本に減らす。

最も工事が進む 2 号機で 26 日、水力発電の「心臓部」の水車の据え付け工事などが公開された。 ステンレス鋳鋼製の円盤状の水車(外径 3.5 メートル、高さ 1.6 メートル、重さ 21 トン)は、内部に流水を取り込みその勢いで回転し、同軸でつないだ装置で発電する。 水車の寿命は約 40 年。 今回が 2 度目の交換。水を受ける羽根の形を曲線的にし、水流による摩耗を軽減して長寿命化を図り、水の勢いをより発電に生かす改良を施した。

発電機を支えるコンクリートの基礎部分も一部改修・強化したが、ほとんどは建設当時のままという。 担当者は「昭和初期の建設だが、コンクリートの密度の高さなど十分な強度があり、当時の建設技術やものづくりへの意欲の高さがうかがい知れる。」 5 基の発電機のうち 1 基を予備機とし、最大 4 基で発電する。 設計上の最大出力は 1 時間当たり 12 万キロワット。約 1 時間で 1 周する山手線の編成で 200 周分にあたる。 だが、雪解け水で最も水かさが増す春先に 4 基がフル稼働しても 11 万 3 千キロワットが限度。 改修後は発電機の稼働率を上げ、常時 4 基の発電体制になり、発電装置の技術改良や施設の改修など全基が入れ替わると、現行から 6 千キロワット発電効率が上がる見込みだ。

信濃川発電所業務改善事務所によると、屋外に見える 5 本の導水管は、1 本当たり最大毎秒 62 トンの水量を誇る。 うち 1 - 3 号機につながる 3 本は、終戦後までコンクリートで筒状に覆われ、敷地から約 30 メートルの高さにある工作物の屋根部分は、今もコンクリートで頑丈に補強されている。 西峰勲所長は「当時は首都圏に送電する貴重かつ重要施設。 米軍の空襲から守ろうとした。」と解説する。 地元関係者の話では、発電所外壁にも終戦後はしばらく迷彩色が施されていたという。

JR 東は今春、本社内に「エネルギー戦略部」を新設。 13 年度に 215 万トンだった鉄道事業の二酸化炭素排出量を 50 年度に実質ゼロとすることを目指す。 自営電力計画の戦略ユニットの橋本慎マネージャーは「(二酸化炭素を出さない)信濃川発電所はまさに長期成長戦略には重要な施設で、確実に業務を遂行する使命がある。 (水力発電だけでなく)古いものも守って更新する一方、技術革新を取り入れながら大きな目標に向かっていく」と述べた。 (松本英仁、asahi = 11-29-20)

JR 東日本・信濃川発電所 : 新潟県十日町、小千谷両市にある千手、小千谷第二、小千谷の 3 発電所、宮中取水ダム、三つの調整池の総称。 最大出力は千手 12 万キロワット、小千谷第二 20.6 万キロワット、小千谷 12.3 万キロワットの計約 45 万キロワット。 3 発電所でJR東日本が使用する総電力量の 20% 余りを担う。 1931 年 - 90 年まで 5 期にわたる工事で完成。 千手と小千谷は導水管で結ばれ、同じ水を 2 度発電に使う 2 段式発電は全国的に珍しいという。

流量観測装置のプログラムを操作して、水利権で許可された水量を超えて不正取水していたことが発覚、2009 - 10 年の 1 年 3 カ月にわたり、国土交通省が水利権を取り消し、発電を止めたことがある。 鉄道会社が事業に使う水力発電所としては国内唯一で、宮中取水ダム、浅河原調整池を含む千手発電所の施設群は 16 年度に土木学会の「選奨土木遺産」に認定された。


ANA、エコ燃料を定期便に利用 CO2 を 9 割削減へ

全日本空輸 (ANA) は 6 日、環境に良いジェット燃料 (SAF) の給油作業を報道陣に公開した。 国内の定期航空便での使用は初めて。 二酸化炭素 (CO2) 排出量が既存のジェット燃料より 9 割低く、今後も積極的に利用する方針。 フィンランドの燃料製造会社から SAF 混合のジェット燃料 550 万リットルを調達。 この日は米ヒューストン行きのボーイング機に 7 万 6 千リットルを給油した。

今回はフィンランドから輸入したが、ANA はこの会社と 2023 年以降、シンガポールの製油所でつくった SAF を調達する覚書を交わした。 ANA は 2050 年までに、飛行機の運航に伴う CO2 排出量を 05 年の 776 万トンから半減させる計画で、SAF の利用もこの一環だ。 日本航空も SAF の導入に力を入れている。 18 年に米国の製造会社に 9 億円を出資した。 22 年度にも生ゴミなどを原料とする燃料を米国発日本行きの定期便で使う予定。 日航は 50 年までに CO2 排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。 (木村聡史、asahi = 11-7-20)

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「飛び恥」運動波及、ANAHD が持続可能な航空燃料の導入拡大

→ ネステから代替航空燃料を購入−今後は長期契約で取引も
→ 航空業界で CO2 排出量削減の取り組み加速、供給確保の動き活発化

環境活動家グレタ・トゥンベリさんをきっかけに注目を集めた、二酸化炭素 (CO2) を大量に排出する空の旅を手控えるよう呼びかける「飛び恥」運動が欧州などで広がる中、国内航空大手の ANA ホールディングスも温室効果ガスの排出削減に向けて動きを加速させている。 ANAHD 傘下の全日本空輸によると、同社がフィンランドに本社を置くネステから購入した約 5,500 キロリットルの「持続可能な航空燃料 (SAF)」が 24 日、羽田空港に到着した。 これは大型旅客機「ボーイング 777」で東京 - ロンドン間を 25 往復飛ぶのが可能な量。

今回は 1 回だけの取引だが、両社は 8 月、長期契約についても今後協議することで基本合意しており、全日空は 2022 年に生産能力を増強する予定のネステのシンガポール工場から SAF を調達することを計画している。 同社は廃食油や動物性、植物性の油脂など環境負荷の低い原料を使って燃料を生産している。 気候変動問題に対する関心の高まりを受け、国連の専門機関である国際民間航空機関 (ICAO) が 21 年以降は国際線で CO2 の排出量を増加させない目標を掲げている。 航空各社が加盟する国際航空運送協会 (IATA) も 50 年までに 05 年比で排出量を半減するなどの行動計画を策定している。

欧州を中心に「飛び恥」運動が大きく広がっているほか、日本政府も 26 日に CO2 など温室効果ガスの排出量を 50 年までに実質ゼロとする方針を明らかにする見込みであることから、航空各社は目標達成に向けた取り組みを加速させる必要に迫られている。 ANAHD のサステナビリティ推進部マネジャーの杉森弘明氏は、当面は排出量取引制度を活用すればいいという雰囲気が航空業界全体にあり、「慌てる必要はないと思っていた」と振り返る。 しかし、グレタさんの活動をきっかけに飛び恥に対する関心が高まったこともあって、昨年ごろから積極的に SAF を調達する方向に切り替えたという。

新型コロナウイルスの影響による移動制限などで旅客需要は急減し、航空会社の多くが苦境に陥っている。 杉森氏は従来のジェット燃料より割高な SAF の導入を手控える動きが「多少はあるかもしれない」とする一方で、CO2 排出権を海外で調達して排出量を相殺することに対しても厳しい目が注がれるようになったことから、安易には選択できないと話した。 ANAHD は中長期環境計画で、21 年 3 月期までの代替航空燃料の本格使用開始の検討を掲げている。 米ランザテックとは昨年 6 月、エタノールを原料に米国で製造する SAF を 21 年以降に購入することで合意している。

全日空の調達部エネルギーチーム、吉川浩平マネジャーによると米国にあるランザテックの実証プラントから数年間燃料を調達するほか、米国内外での生産拡大にあわせて購入量を増やす「二段重ねの提携を考えている」という。 ICAO によると、航空分野は全世界の温室効果ガスの約 2% を排出。 運航方法の改善や航空機の技術革新による CO2 排出削減には限界があり、長期目標の達成に向けて SAF の利用は不可欠とみられるが、課題の一つが生産量だ。 IATA によると、20 年の SAF の 生産量見通しは 4 万キロリットルと世界のジェット燃料需要のわずか 0.015% にとどまる。

吉川氏は「需要に対して造れる人がとにかく限られているので、調べれば調べるほど買うのが大変と分かってきた」と語る。 現在、世界で SAF を量産しているのはネステと米ワールドエナジーの 2 社のみ。 SAF 確保に向けた競争がし烈になる中、SAF の製造企業と「関係をしっかり作って、実績を作らなければ手遅れになるという危機感」があると話した。 (稲島剛史、竹沢紫帆、Elizabeth Low、Bloomberg = 10-26-20)