X 線天文衛星「ひとみ」運用失敗、NEC が 5 億円支払い

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 5 日、運用を断念した X 線天文衛星「ひとみ」をめぐり、NEC から 5 億円の支払いを受けることで民事調停が成立したと発表した。 NEC はひとみのシステム開発を担当。 プログラムの不備が運用断念につながったとして、JAXA が 2 月に東京簡裁に申し立てた。 NEC 側は調停案を受け入れた理由について「JAXA の期待に応えられなかったことへの反省と道義的責任を感じたため」としている。 ひとみは 2016 年 2 月に打ち上げたが、姿勢が制御できなくなり分解。 同年 4 月に運用停止に追い込まれた。 費用は日本だけで打ち上げも含めて 310 億円かかった。 (nikkei = 9-5-17)

前 報 (4-28-16)


衣類折りたたみまで全自動 「未来の洗濯機」を披露へ

パナソニックが、洗濯・乾燥から衣類の折りたたみまで自動でできる洗濯機の開発を進めている。 ベルリンで、9 月 1 日に一般公開が始まる欧州最大の家電見本市「IFA」の会場に、デモ用の試作品を展示する。

一般公開に先立ち 8 月 30 日、報道陣向けに初公開した。 壁に埋め込まれた機械は大人の身長ほどで、大型タンスのようだ。 手を触れるとあらわれた投入口に衣類を投じると、素材や汚れ具合を自動的に把握。 台の上に一枚ずつ広げ、上から洗剤入りの水をかける。同時に下から水を吸い取ることで、繊維の汚れを取る。 通常の洗濯機より衣類が傷みにくいのだという。

その後、温風をあてて乾燥。 ロボットアームで折りたたみ、作業終了となる。 自動で衣服を折りたたむ機械は、ベンチャー企業のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(東京)や大和ハウス工業といっしょに開発を進めている。 パナソニックは、将来の家電を提案するプロジェクトを社内で立ち上げており、洗濯機はアイデアの一つ。 7 - 10 年後の市販をめざしている。

IFA ではこのほか、音声での指示で動く冷蔵庫も展示。 「テーブルまで来て」と呼びかけると、台車で走って近づく。 事前に部屋の間取りを記憶している。 テレビをみていて飲み物を取りに行くのが面倒な時などに便利そうだ。 IFA には世界の家電メーカーなど約 1,800 の企業や団体が出展。 一般公開は 9 月 1 - 6 日。 (ベルリン = 寺西和男、asahi = 8-31-17)


みちびき 3 号、打ち上げ成功 = 日本版 GPS 衛星 - 鹿児島

三菱重工業と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 19 日午後 2 時 29 分、日本版 GPS (全地球測位システム)の実現を目指す政府の測位衛星「みちびき」 3 号機を、鹿児島県・種子島宇宙センターから H2A ロケット 35 号機で打ち上げた。 みちびき 3 号機は約 30 分後にロケットから分離され、予定の軌道に投入された。 打ち上げは成功した。

みちびきは米国の GPS を補完し、最高で数センチ - 数 10 センチ単位の精密測位を実現する日本独自の測位衛星。 日本のほぼ真上を「8 の字」を描くように周回する準天頂衛星 3 機(1、2、4 号機)と、静止衛星 1 機(3 号機)の計 4 機体制を年内に整備する計画で、来年 4 月から測位データの提供を開始する。 3 号機の打ち上げは 12 日に予定されていたが、直前の点検で、ロケットエンジンなどのバルブを動かすヘリウムガスの圧力低下が見つかり延期。 ヘリウムタンクの漏えい箇所を特定し、部品を交換した。

種子島で記者会見した林芳正文部科学相は「延期に際し、現場の方々に立ち止まる勇気を見せていただいたことに敬意を表したい」と述べた。 三菱重工の阿部直彦防衛・宇宙セグメント長は「無事に衛星を軌道に乗せることができ、安堵している。 気持ちを引き締め、細心の注意と最大限の努力を続けたい。」と話した。 1 号機は 2010 年 9 月、2 号機は今年 6 月に打ち上げられた。 4 号機は秋に打ち上げる。 (jiji = 8-19-17)

◇ ◇ ◇

日本版 GPS 衛星「みちびき」 2 号機、打ち上げ成功

三菱重工業と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、日本版 GPS (全地球測位システム)をめざす準天頂衛星「みちびき」 2 号機を載せた H2A ロケット 34 号機の打ち上げに成功した。 1 日午前 9 時 17 分に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げ、約 28 分後に衛星を分離し、所定の軌道へ投入した。 H2A の打ち上げ成功は 28 回連続。 成功率は 97.05% と、国際的に高い信頼性の目安とされる 95% を大きく上回る。

準天頂衛星は位置を測る電波を地球に送り、受信機の正確な位置がわかる。 日本の真上を通る軌道を飛び、電波がビルや山に遮られにくい。 位置情報の精度が飛躍的に向上する。 GPS で約 10 メートルだった誤差が、準天頂衛星と地上設備を GPS と併用するとほぼ 6 センチメートルにおさまる。 政府は今年度中に準天頂衛星をあと 2 基打ち上げ、1、2 号機と合わせて合計 4 基体制の運用を来春にも始める。

4 基そろうと少なくとも 1 基が常に日本上空にとどまり、高精度な位置情報サービスをいつでも利用できるようになる。 正確に走る自動運転車や無人で動く農機、高齢者の居場所を見守るサービスなどへの応用が期待される。 米国の GPS は軍事システムとして開発が進み、位置情報を部隊の配置などに生かしてきた。 GPS を民生分野でも使えるようにし、スマートフォン(スマホ)で使う位置情報サービスの普及や自動運転の研究を後押ししている。

政府は 2023 年度をめどに 4 基から 7 基体制へ拡充する計画をまとめている。 7 基になると、GPS に頼らず、日本独自に位置情報を取得できるようになる。 日常生活に欠かせなくなった位置情報が使えなくなると社会が混乱しかねない。 安全保障の面からも、日本独自の衛星測位システムの構築を急ぐ。 海外では欧州や中国などが独自の衛星測位システムの整備を始めている。 (nikkei = 6-1-17)


聴覚障害者も外国人もアプリで一緒に会議、UD トーク

会議や講演の言葉を拾い、即座に文字に変換したり翻訳したりして表示するスマートフォンやタブレット端末向けアプリがある。 東京のベンチャー企業が開発した「UD トーク」だ。 聴覚障害者や外国人を交えたコミュニケーションに役立つとして、自治体や学校、企業で導入が広がっている。 会話を取材記録として残すのが常の記者も仕事に使えるかも知れない。 どんなアプリなのか、品川区の区民会館「きゅりあん」が導入した際の説明会を取材した。

品川区の担当者が説明会で示した使い方はこうだ。 事前にアプリを iPad にインストール。 アプリを開き、「トークに参加する」のボタンを押すと、QR コードリーダーが立ち上がった。 手元の紙にあった QR コードを読み込む。 すると、共有する会話が文字になって画面に映し出された。

発言を会話記録上に乗せるときは、画面下にある「タップして話す」のボタンを押しながら話す。 「こんにちは。 会議室を使いたいのですが。」 ボタンを押した区の担当者が話した内容が、iPad の画面に文字で映し出された。 翻訳機能をオンにしてあるため、日本語の文章の下に、ほぼ同時に英文も映し出される。 外国人が発言したことを想定して英語で話すと、日本語に翻訳もされた。 なかなかの精度 …… あ、いや、ところどころ、発言の聞き取りにミスが生じ、意味不明な単語も。 う〜ん、精度は話す人の滑舌などに左右されるようで、まだ向上の余地がありそうだ。

きゅりあんは貸し会議室や劇場を備えた区の施設。 担当者は「会話をリアルタイムに文字化できるので、聴覚障害者や難聴の高齢者が利用しやすい環境をつくれる。 他の言語に文字翻訳すれば、多国籍の方が利用可能になる」と利点を説明。 さらに「会議の内容をテキスト化して議事録に使えるので、テープ起こしも必要なくなる」と話し、積極的な利用を呼びかけた。

UD トークの「UD」は、多様な人々が快適に利用できる「ユニバーサルデザイン」からとった。 アプリが世に出たのは 2013 年 7 月。 開発したのは東京都練馬区にあるベンチャー企業、シャムロック・レコードだ。 社長の青木秀仁さん (41) は元々、音楽バンドのミュージシャン。 インディースで出した CD のレーベル名を、そのまま社名にしたという。 11 年に音楽活動を終了し、収入源だったプログラマーの仕事を本格化。 音声認識会社から委託を受け、システム開発などを手がけた。

あるとき、仕事の関係で音声認識の技術について聴覚障害者向けに話す機会を得た。 ところが、思いがけず苦戦する。 「自分の意図を伝えるのに、手話通訳がいないと筆談するしかない。」 円滑なコミュニケーションが難しかった。 「この課題をアプリで埋められないか。」 そう思い立ったのが、アプリ開発のきっかけだ。 東日本大震災を機に社会貢献できる道を探していたこともあり、開発に熱が入った。

UD トークは、青木さんが仕事を受託していたアドバンスト・メディアの音声認識エンジン「AmiVoice (アミボイス)」を利用している。 声を音響分析し、膨大な量の例文や辞書の蓄積データと瞬時につきあわせて適切な言葉でテキスト化する技術だ。 青木さんは、聴覚障害者を交えた実際の会話シーンを意識し、ストレスなく使えるアプリを考えた。

目指したのが「ワンボタンで使える便利さ。」 会話の前に細かい環境設定をすれば声の正確な認識率は高められる。 ただ、それだと操作が煩わしい。 できればボタンを一つ押すぐらいで使える手軽さが必要だ。 ボタンの大きさを大きくし、自然な会話を邪魔しない仕立てにした。 会話テキストの共有も、ボタン一つで発効される QR コードを読み込むことで簡単にできるようにした。

細かい心遣いもある。 テキスト表記される漢字は、子どもたちが使うことも考慮して小学校の学年ごとに漢字レベルを設定できる。 習っていない漢字は使われないようにする配慮だ。 ちなみに、「大阪弁で表示する」を選ぶこともできる。 ちょっとした遊び心だが、聴覚障害者には「雰囲気が伝わる」と好評だという。 翻訳機能は約 30 の外国語に対応。 個人向けの無料版は米グーグルの翻訳サービスを利用。 月額 2 万 4 千円からの使用料がかかる法人向けは、翻訳専門の会社のサービスを使って精度を高めた。

青木さんはアプリを開発後、手話を学んだという。 周囲から「手話を学ばなくてもいいようにアプリ開発したのでは?」と驚かれるというが、「大きな誤解がある」と話す。 このアプリを本来、一番必要とするのは誰か。 「聴覚障害者ではなく健常者だ」と青木さんは言う。 健常者が聴覚障害者に自分の意思を理解してもらう場面で生きるからだ。 「そもそも、自分で使うためにつくったアプリですからね」と話す。 逆に、手話で話す聴覚障害者の意図をきちんと理解するには、やはり手話を理解できた方がいい。 だから、青木さんは手話を学んだ。 「どちらもコミュニケーションの幅を広げる選択肢」と言う。 使いこなせれば、豊かな会話ができるという発想だ。

UD トークは現在、200 以上の自治体や法人に広がっている。 自治体では東京都練馬区や港区、大阪市などが聴覚障害者や外国人の対応に活用し始めた。 製薬会社や航空会社などでも窓口での接客や社内のコミュニケーションに役立てられている。 聴覚障害のある学生の学習支援ツールとして、全国約 50 の大学が導入しているという。 (和気真也、asahi = 8-10-17)


「ルンバ」全価格帯で IoT 対応に スマホアプリで操作

ロボット掃除機大手のアイロボットジャパンは 3 日、外出先などからスマートフォンのアプリで操作できる「ルンバ 890」と「ルンバ 690」を 24 日から売り出すと発表した。 インターネットでつながる「IoT 対応」は上位機種だけだったが、全ての価格帯に拡大した。 さまざまな家電がネットでつながる「スマートホーム」市場をリードするねらいだ。 掃除の開始や停止のほか、掃除の進み具合や履歴をスマホやタブレットで確認できる。 ごみが掃除機内にたまったと知らせてもくれる。 公式ストアでの価格は「890」が税抜き 6 万 9,880 円、「690」が同 4 万 9,880 円。 (asahi = 8-3-17)


月面探査車、砂丘で通信試験へ 打ち上げまで 150 日

世界初の月面探査レースに日本から参加するチーム HAKUTO (ハクト、袴田武史代表)の探査車 SORATO (ソラト)の打ち上げまで、31 日であと 150 日となった。 レースに向け、ハクトはソラトの車体の軽量化や部品の加工などの作業を進めている。 8 月には鳥取市の鳥取砂丘でソラトを走行させ、屋外で初の通信試験を行う。 月面を想定し、さまざまな条件で電波の受信状況などを測定する。

一方、ハクトを応援する「HAKUTO SUPPORTERS CLUB」の会員とハクトのメンバーとの交流会が 29 日に開かれた。 ソラトの開発状況や、ロケット打ち上げをめぐる現状について、会員が説明を受けた。 参加した千葉県の会社員阿曽秀昭さん (63) は「日本の技術力が宇宙ビジネスにつながるという意味だけでなく、プロジェクトにかけるメンバーのためにもレースで優勝してほしい」と期待を込めた。

打ち上げまであと 150 日。 レースに向けたハクトの動きを追う特集ページ「HAKUTO の挑戦 月への旅路」を立ち上げました。 朝日新聞社はハクトとメディアパートナー契約を結んでおり、ソラトの製作過程などをきめ細かく取り上げていきます。また、民間の宇宙開発をめぐる動きも幅広く報じていきます。 特集ページでは、レースの流れをわかりやすくコンピューターグラフィックスで解説します。 またハクトを日々取材する記者が撮ったとっておきの写真や、朝日新聞が撮りためた月の過去の秘蔵カットなどを「日めくり HAKUTO」で毎日紹介します。 ぜひご期待ください。 (石川達也、山本晋、asahi = 7-31-17)


「ホリエモン」ロケット、海に落下 エンジン緊急停止

宇宙ベンチャーのインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)は 30 日、同町から小型ロケット「MOMO」を打ち上げた。 打ち上げ直後に機体との通信が途絶えたため、エンジンを緊急停止。 目標だった地上 100 キロ以上の宇宙空間には達しなかったとみられる。

同社によると、MOMO は同日午後 4 時 32 分に、大樹町の発射場から打ち上げられた。 約 80 秒後に飛行データを正常に取得できなかったため、エンジンを緊急停止した。 打ち上げからエンジンを 120 秒燃焼させて、宇宙空間に到達する計画だったが、当時の高度は 30 キロほどで、宇宙空間には達していないとみられる。 機体は太平洋の沖合約 8 キロに落下したとみられる。

MOMO は全長約 10 メートル、重さ約 1,150 キロ。 無重力環境の測定装置や通信試験装置を積み、民間企業が独自に開発したロケットとして初めて宇宙空間(高度 100 キロ)到達をめざしていた。 同社はロケット開発のベンチャー企業で、元ライブドア社長で実業家の堀江貴文さんが出資。 企業や大学の超小型衛星の打ち上げ需要を見込み、2020 年ごろに小型ロケットによる打ち上げサービスの開始をめざしている。 (田中誠士、asahi = 7-30-17)

◇ ◇ ◇

日本初の民間単独ロケット、打ち上げへ 堀江氏ら出資

北海道大樹(たいき)町のロケット開発ベンチャー「インターステラテクノロジズ」は 6 日、都内で記者会見し、29 日に同町から小型ロケットを打ち上げると発表した。 民間単独で宇宙にロケットを打ち上げるプロジェクトで、元ライブドア社長で実業家の堀江貴文さんが出資している。 成功すれば、民間単独では日本初という。 ロケットは全長約 10 メートル、重さ約 1,150 キロ。 燃料はエタノールと液体酸素で、約 20 キロの観測装置を搭載できる。 既製品を使ってコストを削減し、商業化する際は打ち上げ費用を 5 千万円以下に抑えることをめざす。

同社によると、打ち上げ時間は 29 日午前 10 時 20 分 - 午後 0 時半を予定している。 悪天候やトラブルがあれば延期する。 打ち上げの 4 分後に宇宙空間(高度 100 キロ)に到達し、その後、落下する。 約 4 分間、無重力状態になるという。 今回は実証実験の段階だが、堀江さんは「科学実験やエンターテインメントなどで事業化したい」と話す。 2020 年ごろには超小型衛星を載せて打ち上げることを目指すという。 (杉本崇、asahi = 7-6-17)


宇宙飛行士の相棒ロボットへ JAXA 初の自律移動型球体ドローン「Int-Ball」の映像が公開

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、遠隔操作で国際宇宙ステーション (ISS) 内を移動して撮影可能なドローン「Int-Ball (イントボール)」の映像を初公開しました。 動画では無重力の船内で自律的に位置を制御し、回転しながら周囲を撮影する様子が見られます。 Int-Ball は直径 150 ミリ以下という小さめの球体ドローンで、かわいらしい目のような点灯 LED が付いたデザインとなっています。 筑波宇宙センターからの遠隔操作によって静止画と動画の撮影を行い、映像はリアルタイムでの確認が可能です。

将来的には自律飛行が可能なノーメンテナンスのドローンとなる予定で、これにより宇宙飛行士たちの作業時間の 10% を占めるという撮影タスクをゼロに。宇宙飛行士の相棒ロボットとして活躍予定です。 現在は初期検証中。 現段階では既存のドローン技術を採用した作りで、筐体と内部構造は 3D プリントで製造。正面に撮影用のメインモニターカメラがある他、左右には「画像航法カメラ」や「超音波距離センサ」があり、さらに船内に設置された立体マーカーを用いて位置を認識。 またジャイロなどの装置が 1 つになった「超小型三軸姿勢制御モジュール」も搭載されています。

今後は日本の実験棟「きぼう」船内外実験の自動化・自律化を進め、探査ミッション等に利用可能なロボティクス技術の獲得を目指すとしています。 (ねとらぼ = 7-16-17)


五輪に難題 東京ビッグサイト使用不能で 1 兆円損失の危機

2020 年東京五輪が日本経済に甚大な打撃を与えかねない。 大会期間中、「東京ビッグサイト」が使用不能になり、企業が商品を出展する「展示会」が最長 20 カ月も開けなくなる。 この問題は想像以上に深刻なのだ。 15 年度の実績で、ビッグサイトは計 302 件の展示会やイベントなどを開催し、約 1,605 万人が来場した。 文具や精密機器、メガネにテーブルウエア関連と、あらゆる分野の商談展が連日開催され、年間約 3 兆円分の取引が成立しているという。

ところが、五輪に向けメーンの展示場を「国際放送センター」や「プレスセンター」として使用するため、最長で 19 年 4 月から 20 年 11 月まで使用不能になってしまうのだ。 東京都は、対策として仮設展示場を建設中だが、こちらは少なくとも 20 年 6 - 9 月は警備の都合上、展示会は開催できなくなる。 代わりとなりそうな「さいたまスーパーアリーナ」や「幕張メッセ」も競技会場となっているため使用不可。 日本展示会協会の試算によると、その経済的損失はナント、1 兆円を超えるのだ。

都は「関係者の方たちに利用時期の調整をお願いし、影響が大きくならないよう対策する(産業労働局)」というが、小手先の対応ではとても解決できそうにない。 「ビッグサイトでは大規模な展示会の場合、1 日で 2,000 社以上の企業が参加し、取引額は約 500 億円にも上ります。 たった 1 日会場が使用停止になっただけで、巨額の損失が出てしまう。 影響は、参加企業以外に、展示用のブースを造る会社や警備会社など多岐に及びます。 こちらは 1,000 社以上の中小零細企業が関わり、年間 1,000 億円もの売り上げが失われる。 多くの業界に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。(業界関係者)」

この問題に取り組む建築エコノミストの森山高至氏はこう言う。 「そもそも、五輪の会場選定計画がズサンだったのではないでしょうか。 北京、ロンドン、リオ五輪では展示会など他の事業に影響が出ないよう、プレスセンター用に仮設会場を新設したのです。 問題解決には、東京周辺で代替地を探すか、後利用できるようなプレスセンターを改めて新設すべきでしょう。」 スンナリと代替地が見つかるとは思えないが、果たして …。 (日刊ゲンダイ = 7-9-17)


ペット鎧で出陣ニャー リアルな印刷技術、世界中に拡散

犬や猫に着せられるペット用鎧が SNS で話題だ。 製造元には世界中から問い合わせが相次ぐ。 作ったのは福岡市南区のシルクスクリーン印刷会社「スタッフ」。精密機械の梱包などに使う発泡樹脂に、リアルに重々しい印刷をほどこした。 約 100 グラムと軽量。

フェイスブックで、今年 5 月末に赤い鎧を着たシバイヌの写真が拡散されると、海外のニュースも取り上げた。 手作業で作るため、木村英司社長 (61) は「猫の手も犬の手も借りたいが、海外の人に喜んでもらえてありがたい」と話す。 価格は猫用は 1 万 4 千 - 1 万 6 千円程度。 犬は体格に応じて要相談。 同社のブランド「サムライエイジ」の ホームページ。(小原智恵、asahi = 6-29-17)

------------------------------

串刺しも皮むきも … ロボがお助け 食品業界の救世主に?

人手不足を背景に、人の代わりとなってロボットや機械が食品をつくる場面が増えてきた。 作業効率をよくするため、高性能の産業ロボットが次々と開発されている。 食品以外の現場でも使われ、ロボットをレンタルする企業も出始めた。 東京で 16 日まで開かれている国際食品工業展。 人手がかかる作業を補えるロボットや機械がお目見えし、過去最多となる 789 社が集まった。

鈴茂器工(東京都)は、自動化が進む回転ずし業界向けに、シャリ玉を 1 時間あたり 4,800 貫つくれる業界最速というロボットを持ち込んだ。 不二精機(福岡県)は、生産能力を 1.5 倍にし、1 時間あたり 5,200 個のいなりずしをつくれる機械を売り込む。 担当者は「スピードに加え、より少人数で扱える機械の需要が強くなっている。」

串刺し機の国内シェア 8 割超のコジマ技研工業(神奈川県)は、冷凍肉を串に刺す速さを 2 倍にした最新機が目玉だ。 能力は冷凍肉は 1 時間に 3 千本、生肉なら 6 千本。 手作業にこだわっていた小さな店が小型機を求めることも増えた。 小嶋道弘社長は「パートが集まらず、やむなく自動化を選ぶようだ。 人手不足は商機だ。」と話す。 果物の皮むきを熟練作業者の約 3 倍の速さでできるアストラ(福島県)の機械「瞬助」や、パン生地にクリームなどを自動で包む小型機を展示したレオン自動機(栃木県)なども注目されていた。 (植松佳香、伊沢友之、asahi = 6-14-17)


ソニー、電子ペーパー腕時計の進化版「FES Watch U」 スマホでデザイン自作も

ソニーは、電子ペーパー採用腕時計の新モデル「FES Watch U (FES-WA1)」を 6 月 12 日より発売する。 3 種類のカラーを用意し、価格は Premium Black (B) が 6 万円、Silver (S) と White (W) が各 46,000 円。 ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program (SAP)」から生まれ、15 年 11 月に発売された「FES Watch」に続く電子ペーパー採用腕時計の第 2 弾モデル。 文字盤だけでなくベルト部分にも省電力のモノクロ電子ペーパーを採用し、服装やシーンに合わせて、時計全体の柄を変えて楽しめるのが特徴。 側面のボタンを押すとデザインが切り替わる。

新モデルの FES Watch U は、スマートフォンとの連携にも新たに対応できる。 Bluetooth 4.1 LE (Low Energy) 接続により、スマホでダウンロードしたデザインを時計に転送することで、より多くのパターンの柄を利用可能。 専用アプリ「FES Closet」を使って、様々なクリエイターが FES Watch U 向けに制作した「TOKYO MONOCHROME COLLECTION」のデザインを無料でダウンロードして利用できる。

TOKYO MONOCHROME COLLECTION の参加クリエイターは、6 月時点で 7 名が発表。 アートディレクターの井上嗣也、ANREALAGE デザイナーの森永邦彦、書道家 万美 (Calligrapher Mami)、イラストレーターの長場雄、エドツワキ、JULIUS デザイナーの堀川達郎、FULL BK デザイナーの DJ DARUMA。 当初は 8 種類のデザインからスタート。 12 月までに 10 名のクリエイターが参加予定で、新たなデザインも順次追加される。 さらに、スマホのカメラで撮影した写真やライブラリ内の画像を FES Watch U の形に合わせて切り出し、オリジナルのデザインを作ることも可能。 スマホ用アプリの対応 OS は iOS 9 以上と Android 5.0 以上。 独自プロファイルを採用する。

スマホのカメラで撮影したデザインを転送して適用できる

3 モデルとも機能は共通だが、Premium Black モデルは使用する素材を変更して質感を高めているのが特徴。 風防の部分に反射加工を施したサファイアガラスを採用し、強度を向上したほか、高い透明度によりデザインを引き立たせるという。 ブラックの部分にはチタン加工物をコーティングしたイオンプレーティング処理を行ない、ファッション性と耐傷性の高さを両立させた。 Silver/White はミネラルガラスを採用する。

ディスプレイはアクティブマトリクス型フレキシブル電子ペーパー。 IPX5/IPX7 防水に対応する。 ケースの外形寸法は 43 x 12mm (直径 x 厚さ)、ベルト幅は 23.5mm。 ケース材質はステンレス鋼の SUS316。 ベルト材質は表面がシリコン、裏面がポリウレタンエラストマー。 重量は 75g。 リチウムイオン電池を内蔵し、連続動作時間は約 2 週間(通常モード時)。 充電クレードルが付属し、充電時間は約 2.5 時間。 精度は平均月差 +/-30 秒。 (中林暁、AV Watch = 6-12-17)


初のナノカーレース、日本は途中棄権 世界最小の車競う

分子でできた世界最小の車による初の国際レース「ナノカーレース」が 4 月 28、29 両日、仏トゥールーズであった。 日本の物質・材料研究機構のチームは、車を制御するコンピューターの不具合で途中棄権に終わった。 優勝は米国とオーストリアの合同チームとスイスチームの 2 チーム。 3 位が別の米国チーム、4 位が独チームで、仏チームも途中棄権した。

同機構によると、車は全長数ナノメートル(ナノは 10 億分の 1)で、特殊な針で電気刺激を与えて、金の板上の 100 ナノメートル(1 万分の 1 ミリ)を走らせるのを、6 チームが競った。 日本チームはレース開始約 15 分後に、主催者側から与えられたコンピューターソフトの不具合で、針が車などにぶつかり、途中棄権した。 米・オーストリア合同チームが最初に走破したが、銀の板上だったため、金の板上を走った中で唯一完走したスイスチームとともに 1 位となった。

日本チームのリーダーで、同機構の中西和嘉(わか)主任研究員 (39) は「リタイアするまで、10 分間に 1 ナノメートル移動という記録を残せた。 各国の仲間とかえがたい経験ができた。」とコメントした。 (三嶋伸一、asahi = 4-30-17)


ルネサス株の一部売却を検討 革新機構、経営再建進み

半導体大手、ルネサスエレクトロニクスの筆頭株主の官民ファンド、産業革新機構が、株式の一部売却を検討していることが 27 日わかった。 ルネサスの再建が進んだことを受け、5 月にも株式売却で 7 割の保有比率を 5 割程度に引き下げ、関与を薄める方向だ。

ルネサスは 2011 年の東日本大震災で主力工場が被災し経営が悪化。 そのため革新機構は 13 年にトヨタ自動車など 8 社と共同で約 1,500 億円を出資した。 現在は株式の約 69% をもつ筆頭株主。 ルネサスは 16 年 3 月期には純損益が 2 年連続の黒字となるなど業績が回復し、革新機構は株式の一部売却を検討していた。 ルネサスは主力の自動車向けの需要回復やリストラで業績が改善。 今年 2 月には、米半導体メーカーのインターシルを約 32 億ドル(約 3,500 億円)で買収するなど、積極投資にも転じている。 (川田俊男、asahi = 4-27-17)

前 報 (9-13-16)


アイリスオーヤマ、エアコンに参入 スマホで遠隔操作

アイリスオーヤマは 13 日、無線通信機器を内蔵し、外出先からスマートフォンで操作できる、家庭用エアコンを開発したと発表した。 全国の家電量販店やホームセンターなどで、28 日から売り出す。

人感センサーにより、不在時に自動で節電する機能も付けた。 単身や少人数世帯向きの 6 畳用、10 畳用に絞った。 店頭想定価格は無線通信機器付きの 6 畳用が税抜き 7 万 9,800 円、10 畳用が同 9 万 9,800 円。 無線通信機器や人感センサーが付かないタイプ(6 畳用 6 万 9,800 円など)もある。 同社がエアコンを売り出すのは初めて。 同社は 2016 年から家電の開発拠点を大阪に集約した。 今後は洗濯機や冷蔵庫なども売り出す計画だ。 (金本有加、asahi = 4-14-17)


ソニー、"紙のように読み書きできる" A4 サイズデジタルペーパー

ソニーは、PDF などの電子文書を "まるで紙のように読み書きできる" を追求したデジタルペーパー「DPT-RP1」を 6 月 5 日より発売する。 価格はオープンプライスで、店頭予想価格は 8 万円前後。 A4 サイズ相当となる 13.3 型/1,650 x 2,200 ドットの高解像度電子ペーパーディスプレイを搭載したデジタル端末。 重さ約 349g、厚さ約 5.9mm と 10 型以上のディスプレイ採用では、世界最薄最軽量という。 16GB のストレージメモリを内蔵し、うち 11GB がユーザー領域。 約 1 万ファイルの PDF を保存できる。

前機種のデジタルペーパー「DPT-S1」は、現在、文献や論文などの文書を扱う大学教員や医師、大量の紙を扱う税理士や弁護士などに利用され、ペーパーレス化を実現しているが、2 世代目の「DPT-RP1」は、利用者の声を参考に、より紙のような使い勝手を実現できるよう、一層の軽量化を図ったほか、前機種よりもページ送り速度を最大約 2 倍に高めるなどで、読みやすさを向上した。 ディスプレイも高解像度化し、さらに字体を滑らかに表現、図や表の拡大にも対応する。

また、独自開発したノンスリップパネルを画面に採用。 ペン先の滑りを抑え、適度な抵抗感を持たせることで、より紙に近い書き心地を実現している。 2 種類の芯から好みの書き味を選択可能。 また、ペン先と描画位置のズレが少なく、ペンの動きに対する遅延も少ないため、手書き時の違和感を抑えられているほか、新採用の静電容量タッチパネルと充電式アクティブスタイラスペンの組み合わせで、画面の端まで細かく書き込めるという。

CPU は、Mervell IAP140。 IEEE 802.11a/b/g/n/ac 無線 LAN や Bluetooth Ver.4.2 を搭載する。 PC 用アプリ「Digital Paper App」も用意し、パソコンとの間でファイル転送や管理をワイヤレス経由で行なえる。 microUSB 経由での有線接続にも対応。 アプリの同期機能を使うことで、フォルダやクラウドストレージなどと簡単に連携できる。 対応 OS は Windows 7/8/10 と Mac OS X。

また、パソコンの印刷メニューからプリンターとして「デジタルペーパー」を選べば、様々なファイル形式のドキュメントやメール、Web 画面などを PDF に変換して、デジタルぺーパーに転送できる。 充電時間は約 3.5 時間(AC アダプタ)/約 5.5 時間 (USB)、バッテリ駆動時間は約 3 週間 (Wi-Fi OFF)/約 1 週間 (Wi-Fi ON)。 外形寸法は約 302.6 x 224 x 5.9mm (縦 x 横 x 厚み)。 スタイラスペンや USB ケーブル、替芯、芯抜きなどが付属。 スタイラスペンの電池持続時間は約 1 カ月。

法人や業務向けの展開を見込んでおり、パートナー企業との業務システム連携が行なえる「デジタルペーパー連携サーバーソフトウェア」を有償で提供。 WebAPI を利用して、業務システム連携を可能とし、高いセキュリティの中でのドキュメント管理が行なえるという。 具体的には大学のレポートやフィードバック、医療現場における同意書や問診票などの院内文書のデジタルペーパー化、介護現場や製造現場における書類改修や送付に伴う移動の軽減などを見込んでいる。

なお、4 月 10 日付けで、ソニーセミコンダクタソリューションズと電子ペーパーを手掛ける E Ink Holdings が、電子ペーパーディスプレイ事業を運営する合弁会社設立で合意。 電子ペーパーを活用した商品や関連するアプリケーション、連携プラットフォームの企画・開発・設計・製造・販売などを展開する。 商品やアプリケーションを提供するほか、パートナー企業とのサービスやシステム連携などを、様々な業態の事業者に働きかけ、市場の活性化や新市場の創造を推進。 「将来的には電子ペーパーディスプレイを、社会基盤を構築する一つのツールにまで普及させる」という。

合弁会社は台湾に登記され、日本における子会社は 4 月に発足予定。 新会社の資本金は約 15 億円。 合弁会社の主要株主となる E Ink 子会社と、ソニーセミコンダクタソリューションズの合計出資比率は約 70% で、残りの株式については、ベンチャーキャピタル企業が保有する見込み。 (臼田勤哉、AV Watch = 4-10-17)

前 報 (5-14-13)


日本の科学研究「この 10 年で失速」 英ネイチャー特集

日本の科学研究はこの 10 年で失速しており、科学界のエリートとしての座を追われかねない - -。 英科学誌「ネイチャー」が日本の科学研究の現状を憂慮する別刷り特集を、23 日付で発行する。 発表論文数などをもとに分析した。 政府の研究開発への支出が 2001 年以降停滞しており、その結果、高水準の研究を生みだす能力に衰えが出ているなどと指摘している。

リポートでは、ネイチャーやサイエンスなど研究者が選ぶ上位 68 の学術誌に掲載された論文を分析。 16 年の日本の論文の絶対数は 12 年と比べて 8.3% 減っていた。 さらに、より多くの学術誌に掲載された論文のデータベースを分析したところ、全体の収録論文の数は 05 年から 15 年までに約 8 割増えているのに対し、日本からの論文は 14% 増にとどまった。 全体に占める割合も 7.4% から 4.7% に低下しているという。 (香取啓介、asahi = 3-23-17)


オムロン社賞、世界 4.6 万人が競う 危機しのいだ理念

ヤシの街路樹が 3 キロにわたってまっすぐ続いた先に工場のゲートはあった。 気温は 30 度ほど。 構内ではヒジャブ姿の女性従業員が足早に歩く。 インドネシアの首都、ジャカルタから東へ約 35 キロ。 西ジャワ州の郊外に開かれた工業団地に電子機器大手オムロンの工場がある。 設立は 1992 年。 家電などに使われる電子部品から、工場向けの産業機械まで幅広く手がけ、約 2 千人超が働くアジアの拠点工場だ。

試作・開発棟を訪ねるとラジャニ・シレガルさん (28) が松葉杖を器用に使いながら産業機器の配線をこなしていた。 16 歳の時にサッカーでけがをし、のちに右足の下半分を失った。 職業訓練校に通った後、2011 年にオムロンに入った。 「健常者と同じ待遇なのはこの工場しかなかった。 インドネシアではとても珍しいのです。」

今は 35 人の肢体や聴覚の障害者が働く。 人事担当のナナ・スディアナさん (49) は「障害者の働きが他の社員に良い刺激になっている。 知的障害者や視覚障害者の受け入れはこれからの課題です。」 1999 年から障害者雇用を始め、工場のイラワン・サントソ社長 (50) が取り組みを強めた。 2007 年に社長に就き、10 年に国立障害者職業リハビリテーションセンターと提携。 研修生を受け入れ、卒業生を雇用した。

オムロン工場の障害者雇用率は 1.5%。 法律では 1% の雇用が求められているが工業団地の他の工場ではほぼゼロだった。 他の工場にも雇用を求める活動を進め、インドネシア政府から表彰を受けた。 「政府の要請もあるが、オムロンの企業理念の実践のために重要な取り組みなのです。」 サントソ社長はそう話す。

企業理念の核は 1959 年に創業者・立石一真(かずま)氏が制定した「社憲」だ。 われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう - -。 一真氏は「最もよくひとを幸福にするひとが最もよく幸福になる」との哲学を貫いたカリスマ経営者だ。 72 年に障害者を中心とした日本初の電子部品工場「オムロン太陽(大分県別府市)」も設立した。

サントソ社長は「精神的な標語ではなく、論理的な考えだと気づきました。」 社会に貢献すれば社会に助けられる。 工場で働く障害者たちはいつか故郷に帰る。 いい会社だったと話してくれれば評判になり、いずれ優秀な人材がオムロンに集まってくる。 こう考えるようになった。 「会社を 3 - 4 年経営するのは易しい。 でも、ずっと続けるにはそんな積み重ねが重要です。」 工場では、始業前に従業員たちが社憲を唱和する。

オムロン世界賞とは

オムロンには、企業理念を日々の仕事に結びつけるための大きな仕掛けがある。 2012 年に始めた「TOGA (The Omron Global Awards = オムロン世界賞)」だ。 世界に広がる社員がチームを作り、企業理念に基づくテーマでの仕事を宣言。 そのプロセスや成果を 1 年がかりで競う。 役員も加わる地域ごとの選考を経て、優秀なチームが 5 月 10 日の創業記念日に表彰される。 昨年 5 月に選ばれたのは「労災を減らす」ことをめざして工場の安全対策ビジネスを進めた韓国のチームや、「偽造医薬品による事故をなくす」と検査システムを開発したドイツのチームなど 13 組。 社会課題を解決する新ビジネスとしても期待されている。

今も 5 月に向けた選考が進んでいる。 「多品種少量生産ができる機械を開発。 趣味のラジコン知識も生かした。」 「電子部品の小型化に挑戦し、取引先の協力を得て成功した。」 3 日、京都市の本社であった予選会。 16 チームが取り組みを発表した。 会場は社員なら出入り自由で、300 人ほどが時間を見つけては聞きに来た。 国内 30 拠点に中継もされた。

今回は、世界中の延べ 4 万 6 千人から 5 千のテーマが寄せられた。 社員数の 3 万 8 千人を超える規模。 初回の 2 万人、2,500 テーマから 2 倍になった。 「理念に基づいた実践的な仕事を全社で共有してほしい」と TOGA の事務局を務める有沢暢敏さん (48) は説明する。

TOGA を始めたのは、11 年に就任した山田義仁社長 (55)。 「大企業でも社会に必要とされなくなればつぶれる時代。 オムロンも理念を忘れれば、淘汰される。 逆に、みんなが理念を意識した仕事をすれば、どんな波も乗り越えられる。」 社会の課題をいち早く捉え、解決策を売り出せればビジネスにつながる。 そんな取り組みが次々に生まれるような挑戦を社員に促しているのだ。 (西村宏治、asahi = 3-20-17)