スコットランド、独立派が過半数 再び住民投票を要求へ 英スコットランド議会選の開票が 7 - 8 日あり、スコットランド国民党 (SNP) など独立を掲げる政党で過半数を維持するのが確実となった。 独立の是非を問う住民投票を再び実施するよう求める声が高まる情勢。 英ジョンソン政権は、英国の分裂回避に向けたかじ取りを迫られる。 選挙は 6 日投票。 BBC などの 8 日夜の集計によると、議会の定数 129 のうち、独立派の SNP が 64 議席前後、スコットランド緑の党が 8 議席前後の見通し。 合わせて過半数の 65 議席を超えるのは確実だ。 議会が選出する自治政府は、現第一大臣(首相)の SNP 党首ニコラ・スタージョン氏が続投し、住民投票実施を政府に要求する見通し。 同氏は集計結果を受けて勝利宣言し、「住民投票を妨げる民主的正当性はない」と述べ、実施への意欲を示した。 ジョンソン政権は拒否を公言しているが … SNP は、多数の犠牲者を出したジョンソン政権の新型コロナウイルス対策への批判も吸収。 現有 61 議席から増やしたものの、当初予想された単独での過半数は微妙な状況で、緑の党との連立を組むとみられる。 スコットランド独立の是非を問う住民投票は 2014 年に実施され、55 対 45 の割合で反対票が多数を占めた。 しかし、英国は 2016 年に国民投票で欧州連合 (EU) 離脱を決め、昨年には実際に離脱。 親 EU 感情が根強いスコットランドでは、英国から独立して EU への再加盟を求める声が高まっていた。 住民投票実施の権限は自治政府ではなく英政府にある。 ジョンソン政権は拒否を公言しているが、地元世論の高まりを突っぱね続けられるかは不透明だ。 英国では、スコットランド独立は連合王国の解体につながりかねない危機と受け止められている。 近年は北アイルランドでも隣国アイルランドとの統合を求める世論が高まっている。 6 日には他の地方選の投票もあり、ロンドン市長選では 8 日、労働党の現職サディク・カーン市長が再選を決めた。 (エディンバラ = 国末憲人、asahi = 5-9-21) ◇ ◇ ◇ 英国からの独立派が優勢 6 日にスコットランド議会選 今月 6 日投票の英スコットランドの議会選(定数 129)で、英国からの独立を掲げる与党スコットランド国民党 (SNP) が優勢を維持している。 英国の欧州連合 (EU) 離脱(ブレグジット)を受けて、独立の是非を問う 2 度目の住民投票を公約に掲げており、「連合王国(ユナイテッド・キングダム)」の行方を占う選挙になりそうだ。 スコットランド議会選は、同日実施される英国の地方選の一つ。 SNP は改選前、61 議席と過半数にわずかに届いておらず、今回は単独過半数の 65 議席に届くかが焦点。 英紙タイムズは 3 日、SNP 66 議席、保守党 27 議席、労働党 19 議席、緑の党 11 議席との予測を伝えている。 新型コロナウイルス対策をとっての開票作業となり、結果の確定には数日かかる見通しだ。 SNP は公約で、コロナ危機が終わるのを条件に、5 年の任期の前半で、独立の是非を問う 2 度目の住民投票の実施を掲げる。 英国から独立することで「ブレグジット(の混乱)から脱出」でき、独立後に EU 再加盟を果たせば、「英国の 7 倍ある EU 単一市場への完全なアクセスを取り戻せる」などと訴える。 2014 年の初の住民投票では、独立への反対が 55% と賛成の 45% を上回った。 だが、16 年の EU からの離脱をめぐる国民投票では、スコットランドは反対が 62% を占めており、「状況が変わった」と主張している。 今回の結果が、北アイルランドやウェールズでの独立や分離の動きに影響を与える可能性もある。 ただ、住民投票の実現へのハードルは高い。 法的に有効なものとなるには、英国議会の同意が必要とされるが、ジョンソン英首相は 3 月、独立を争点にした住民投票は「極めて毒性が強く、分断的」だと批判。 「一世代に一度」であるべきだとして反対する。 選挙結果によっては、司法判断に持ち込まれる可能性も指摘されている。 コロナ対応も選挙情勢を左右する。 英国は感染状況が欧州最悪の時期もあったが、最近のワクチン接種は順調に進んでおり、英国残留派にプラスに働くとみられている。 世論調査では賛否は拮抗 スコットランドでは公共サービスの充実や医療、寛大な移民政策が支持され、親 EUの意識が強いとされる。 英国人口の 8 割超を占めるイングランドが牽引する格好でEU離脱が決まったことに住民は不満を募らせる。 「ブレグジットで全てが変わった。 このままではスコットランドはずっとイングランドの意向に従う運命だと思い知らされた。」と、北部アバディーンに住むシュモン・ホックさん (37) は話す。 14 年の住民投票では、反対派が「スコットランドが英国から独立すれば、EU の市民権も失う」と主張していた。 ホックさんも EU 残留を願って反対運動に参加した。 地元には欧州大陸や北欧の観光客が多く、貿易でのつながりも深い。 独立して EU から外れることなど想像できなかった。 それなのに、英国そのものが EU から離脱してしまい、それを機に賛成派に転じた。 今では熱心な SNP 支持者だ。 「EU 残留を望んだのに無理やり離脱させられた。 平等や正義を重視し、移民に寛容な社会を実現したくてもウェストミンスター(英議会)や保守党政権は福祉削減や緊縮政策で正反対に進む。 スコットランドは英国で残飯のように扱われていると気づいたんだ。」 世論調査によると、独立への賛成派と反対派が拮抗している。 ホックさんのように賛成派に転じた人が少なくないためとみられる。 (アバディーン = 金成隆一、asahi = 5-5-21) 株取引が一夜にして英国外に シティー、色あせる金融街 世界中からお金が集まる「金融センター」として名高い、英ロンドンの金融街シティー。 英国の象徴とも言える場所の一つで、欧州連合 (EU) 離脱後もその地位は揺るがない、と言われてきた。 ところが、その触れ込みに疑問符がつく事態が起きている。 新型コロナウイルスの感染対策で、外出制限が続くロンドン。 2 月末の平日の昼間、大学生のマナー・タマーさん (19) は大きな柱を備えた重厚な建物を背景に、友人とインスタグラム用の写真を撮っていた。 「柱の雰囲気が良い」と満足そう。 そして、「この建物が何かは知らないけれど」と笑いながら見上げたのは、中央銀行のイングランド銀行だ。 ロンドンの金融街シティーのど真ん中。道を挟んで王立取引所が立ち、近くには世界的な保険市場のロイズ・オブ・ロンドンがある。 通常なら銀行員らが行き交う街だが、いまやオフィスは在宅勤務が基本となり、人影はまばら。 静かな街の古い建物群は映画のセットのようで、この機を逃すまいと若者が撮影にやってきていた。 シティー ロンドンの中心部にある 1 マイル(約 1.6 キロ)四方の自治区「シティー・オブ・ロンドン」の略称。 イングランド銀行やロンドン証券取引所、国際的な金融機関に加え、会計や法律関係の事務所が集まっています。 米ニューヨークのウォール街と並ぶ世界の金融センターと称されます。 2020 年にはここから 800 を超えるベンチャー企業が生まれました。 思いがけぬ「インスタ映え」の場所となったシティー。 だが、英国が EU から完全離脱したいま、人影の少なさにとどまらない厳しい変化にさらされている。 1 月。 シティーを抱えるロンドンは、「EU 企業の株式が欧州で最も多く取引される都市」の地位を失った。 首位に躍り出たのがオランダのアムステルダム。 ロンドンの取引量の大半が移ってしまった。 理由は明らかだ。 EU には、ユーロで売り買いされる EU 企業の株は EU 内の取引所で扱う、という原則がある。 ロンドンは今年から「EU 外」となり、EU 企業株の売買高が 9 割減った。 受け皿のアムステルダムは売買に必要なシステムの運用会社などが集まり、取引所や証券会社の拠点も多い。 出し抜く機会 EU の思惑 同様に、ロンドンが得意とする金融派生商品(デリバティブ)の取引もニューヨークなどに流れている。 昨年末の「完全離脱」を前に、英国は EU と貿易のルールを決める協定を結んだ。 自動車など製造業の関税をゼロにすることが焦点で、金融は別枠。 EU が英国の規制内容などを吟味し、EU と同等の水準だと認めれば従来通り取引できるようにする、という仕組みだった。 昨年末まで EU 経済圏の一員だった英国は本来、認められやすい。 EU の銀行なども望んでおり、シティー関係者には「なんとかなる」との見方が強かった。 だが、実際には EU 側は今も結論を出さず、一部の取引は、ロンドンから移らざるをえなくなった。 この機にロンドンを出し抜き、域内の金融都市の存在感を高めたい EU 側の思惑があるとみられる。 EU の金融行政を統括するマイレッド・マクギネス氏は 3 月下旬、「離脱を選んだ英国のために、単一市場を作り直すようなことはしない」と明言している。 英国と EU は 3 月 26 日、今後も規制をめぐる協議を続けることを確認した。 世界に照準 失うものは サッチャー政権下の 1980 年代、英国経済は構造改革を進め、金融を含むサービス産業を伸ばした。 黒字を確保するサービス輸出の中でも金融は「最も重要な産業」と言われる。 中心を担うロンドンは世界の金融センターとしてニューヨークと双璧をなす存在だ。 投資マネーと情報、金融や法律、会計、IT の人材が集まるロンドンは強い、との評価は欧州金融界で広く共有されてきた。 離脱前にはライバルに「ロンドンは圧倒的。 (欧州の他都市が)取って代わることはできない。(ドイツの金融業界幹部)」と言わしめた。 だが、今や楽観論ばかりではなくなった。 「株取引が一夜にしてアムステルダムに移り、本当に盤石なのか、疑問を持った金融関係者は多いのでは」と指摘するのは大和総研ロンドンリサーチセンターの菅野泰夫氏だ。 「EU 企業がお金を調達する場合、ロンドンではやりにくくなる可能性がある。 投資家や金融の営業職、アナリストらが徐々に大陸側に移ることもありうる。」と予測する。 強気な見方もある。 EU を離れた英国は「グローバル・ブリテン」を外交方針に掲げる。 英金融団体「ザ・シティー UK」のニコラ・ワトキンソン専務は「株取引の一部が EU 側に移るのは想定内だ」としつつ、「英国のビジネスはいま、日本や米国、長期的な成長が期待できるインドなどに目を向けている」と指摘する。 日本と結んだ包括的経済連携協定 (EPA) ではデジタル分野のルールを EU より柔軟な内容にしたが、狙いは金融と IT を合わせた「フィンテック」産業を育てることだ。 ただ、こうした戦略も欧州の金融センターたる盤石の地位があってこそ。 それが、ロンドンの株取引の急減で揺れる。 英国が他地域と経済関係を深めようとするほど、経済規制の内容では EU の水準とズレが生じる可能性が高くなるという面もある。 EU が英国を「同等の水準」と簡単には認めない理由の一つでもある。 英国は世界に目を向けつつ、今後も EU との経済関係は強化していきたい考えだ。 しかし、完全離脱早々、両者の関係はぎくしゃくしている。 原因は離脱交渉時も悩みの種となった問題だ。 英国内の結束も揺さぶりつつある渦中の地はロンドンから西へ向かい、海を渡った先。北アイルランドだ。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 4-10-21)
英国、TPP 加盟申請を発表 EU 離脱の「成果」急ぐ 英国政府は 30 日夜(日本時間 31 日朝)、環太平洋経済連携協定 (TPP) に正式に加盟申請すると発表した。 トラス国際貿易相が 2 月 1 日、今年の TPP 議長国を務める日本の西村康稔経済再生相らとオンラインで会談し伝達する。 昨年末に欧州連合 (EU) から完全離脱した英国は、TPP 加盟を新たな経済戦略の柱と位置づける。 TPP は 2018 年に日本や豪州、シンガポールなど 11 カ国で開始。 発足メンバー以外の国からの加入要請は初めてで、欧州からの申請も初となる。 日本が主導する自由貿易の枠組み拡大に弾みがつきそうだ。 英政府は発表文で、TPP への加盟は、日本やカナダなどの経済大国だけでなく、急成長するメキシコやマレーシア、ベトナムなどへの市場アクセスを深めると分析。 食品や自動車関連の輸出入を促すほか、データ流通などを円滑にし、企業のビジネス機会や雇用創出につながると主張した。 ジョンソン英首相は声明で「TPP に新たに加わる初めての国を目指して申請することは、世界中の友人やパートナーと最良のビジネス関係を築き、自由貿易を熱烈に推進する立場を示すものだ」と述べた。 英国は昨年末、貿易額の半分を占める EU と自由貿易協定を結んだ上で、移行期間を終えて離脱を完遂。 ジョンソン政権は、痛みを伴った離脱の成果を示すため、EU 以外との新たな経済関係構築を急いでいる。 ただ、単一で最大の貿易国である米国との貿易交渉は進展が遅く、新たな軸としてTPPへの期待を膨らませている。 英国は今春にも交渉に入りたい意向だ。 これまで英国と非公式な意見交換を続けてきた現加盟国も、作業部会を開いて本格的な検討に入るとみられる。 日本は昨年、英国の加入意思に歓迎の意向を示している。 英政府によると、世界の国内総生産 (GDP) の 13% を占める TPP の経済圏は英国の加入で 16% に高まる。 TPP では、日本と共に交渉を主導した米国が 17 年 1 月のトランプ政権誕生直後に離脱。 バイデン政権に代わり、日本側は米国の復帰を望んでいる。 このほか中国が加盟意欲を示しており、韓国なども加盟を検討している。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 1-31-21) 英首相「法律と運命、取り戻した」 EU と FTA 合意 英国と欧州連合 (EU) は 24 日、年明けからの新たな経済関係を定めた自由貿易協定 (FTA) の締結で合意した。 関税ゼロでの貿易を続けられるようにする内容。 英国は今年 1 月末に EU を離脱し、移行期間が終わる年明けから混乱を避けつつ経済的に独立する道筋もつけた。 「協定が出来た。」 交渉成立直後、ジョンソン英首相は両手を広げて親指を突き立てた写真をツイッターに投稿。 同日開いた記者会見では「私たちは法律と運命に関する主権を取り戻した」と強調した。 一方のフォンデアライエン欧州委員長は「長く曲がりくねった道のりだったが、公平でバランスのとれた良い協定」と述べた。 協定は、貿易の関税ゼロを維持し、品目ごとに輸出入できる数量の限度も設けない。 これがなければ、年明けから両地域でのビジネスや社会生活は混乱する恐れがあった。英国とEU諸国の製造業や農業は、供給網で複雑に絡み合っているからだ。 交渉は終盤、「主権回復」にこだわる英国と、加盟国の「結束」のために、離脱した英国にいいとこ取りを許したくない EU 側の思惑が衝突し、難航した。 EU 側は、英国が EU の単一市場にアクセスする条件として、英国の企業補助金ルールを EU 基準に合わせることを求めた。 両者は互いのルールを尊重しあうことを確認し、一方の補助金政策などに問題があれば、是正措置を含めて協議する場を設ける仕組みを導入することにした。 最後までもめた英近海での EU 漁船の漁業権をめぐっては、5 年半の移行期間を設けて EU 漁船の安定操業を図りつつ、英国漁船がとれる枠を一定量増やすことで折り合うなど、互いに譲り合う形で妥結した。 交渉は欧州をコロナ禍が襲う中で進んだ。 途中、双方とも破談も辞さない強硬姿勢を見せたが、協定なしに年明けを迎えて深く傷ついた経済にさらなる負担をかけられない状況だった。 欧州自動車工業会は声明で「合意は産業にとって救いだ。 合意なしの離脱による壊滅的な影響は避けられた。」と述べた。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 12-25-20) 英首相、失敗の「可能性高い」 EU との貿易交渉 【ロンドン】 ジョンソン英首相は 10 日、難航している欧州連合 (EU) との自由貿易協定 (FTA) 交渉がまとまらず、協定の年末発効という目標を達成できない「可能性は高い」と述べた。 交渉が失敗に終われば、英 EU 間の物流などが年明け以降に混乱する事態が予想されるため、ジョンソン氏は閣議で準備を指示した。 ジョンソン氏は EU のフォンデアライエン欧州委員長との 9 日の会談で、漁業などの主要な懸案で大きな溝が残っていることを確認。 交渉官レベルで妥協点を模索しながら、交渉を続けるか否かを 13 日までに判断することで一致した。 しかし、欧州委員会は英国と妥結に至らない場合を想定した対応策を 10 日発表。 ジョンソン氏はこれを受け、緊急時への備えを加速させる姿勢をアピールしたようだ。 (jiji = 12-11-20) 英・EU 迫る時間切れ 英首相「FTA なし準備を」 年末までの自由貿易協定 (FTA) の妥結を目指す英国と欧州連合 (EU) の交渉が決裂し、経済が混乱するリスクが高まっている。 ジョンソン英首相は 16 日、EU 側の交渉姿勢に変化がない限り、合意できないと明言した。 交渉は危機的な局面を迎えた。 「FTA なしの結果に備える必要がある。」 ジョンソン氏は 16 日、英 BBC などのインタビューを通じ、国民や経済界に呼びかけた。 ジョンソン氏は「真剣な交渉を拒否し、FTA 締結を除外している」と EU を批判する一方、「EU の姿勢に根本的な変化があれば、耳を傾ける」とも述べ、交渉継続の余地は残した。 ジョンソン氏は 15 日の EU 首脳会議までに合意できなければ、交渉決裂を判断すると表明してきた。 ジョンソン氏が交渉打ち切りもちらつかせつつ圧力をかけたのは、EU の妥協を交渉続行の条件としていたためだ。 EU のミシェル大統領は 15 日の記者会見で「交渉の進展の乏しさを懸念している。 英国に必要な動きをするよう求める。」と述べ、英側に一方的に譲歩を求める姿勢をにじませた。 これに英側が強く反発したかたちだ。 EU 側はジョンソン氏の反応を受けても、立場を変えていない。 フォンデアライエン欧州委員長は 16 日、ツイッターに「予定通り交渉チームは来週ロンドンで集中した交渉にのぞむ」と交渉続行の考えを表明した。 1 月末に EU を離脱した英国は激変緩和のため、年末までは EU 加盟国と同等に扱われる「移行期間」の恩恵を受けられる。 この期間が終わる前に、EU 加盟時と大きく変わらない水準での FTA で EU と合意できるかどうかが交渉の焦点だ。 決裂すれば年明けに急に関税が復活するなど、経済活動に混乱を及ぼす懸念がある。 両者とも非難合戦を続けながらも交渉の席を立たないのは、交渉決裂で世界経済や市場が動揺した際に、その責任を相手に押しつける思惑がのぞく。 お互いが決裂は判断せずに「相手の譲歩が足りない」とにらみ合ったまま、残り時間が刻々と少なくなっている。 FTA の発効を年明けに間に合わせるには、英 EU 双方の議会手続きなども踏まえると、遅くとも 11 月中の合意が欠かせない。 交渉に全く進展がないわけではない。 3 月の交渉開始時に両者が設けた 11 のテーマのうち、社会保障や原子力分野での協力など半分ほどの分野では合意が近づいているもようだ。 ただ現段階ではすべての交渉項目で合意しない限り、関税ゼロを維持するための FTA も発効しない原則だ。 中でも漁業分野が最難関とみられている。 英側は毎年、自国海域での漁獲量などを EU と交渉して決める新しい仕組みを主張する。 EU は加盟国の漁船が現状に近い形で長期的に英海域で操業できる権利を求めている。 英側は英海域での EU 漁船の操業を移行期間終了後も数年は認める妥協策を EU に提案したとみられる。 しかしフランスのマクロン大統領は 16 日の首脳会議終了後の記者会見で「我々の漁業を犠牲にするような合意は受け入れない」と訴えた。 EU 側も首脳会議で「FTA なし」への準備加速で一致。 英国の揺さぶりに対抗をみせる。 ただ年末までの EU 議長国を務めるドイツのメルケル首相が「合意に向けて妥協する意思があることを示さなければならない」と述べるなど、交渉継続の方針は変わらない。 決裂すれば新型コロナで傷ついた「社会への重大な追加の打撃となる(アイルランドのマーティン首相)」との懸念は英・EU ともに根強い。 (ロンドン = 中島裕介、ブリュッセル = 竹内康雄、nikkei = 10-17-20) 英、FTA 交渉 6 月までに進展なければ打ち切り示唆 英国のジョンソン政権は 27 日、1 月末に離脱した欧州連合 (EU) との自由貿易協定 (FTA) など、新たな関係を決める交渉の方針を公表した。 6 月までに協議に進展がなければ、交渉打ち切りも辞さない強硬な姿勢で臨むことを明らかにした。 英国は現在、EU と離脱前の関係を維持する「移行期間」にある。 英国が発表した文書によると、6 月までに合意の大まかな内容がまとまらなかった場合、英国政府は、FTA がないまま年末に移行期間が終了することを前提に、交渉をやめて国内向けの準備に集中するかどうかを決めるとしている。 英・EU の交渉が 3 月 2 日に始まるのを前に、多くの点で対立する EU 側を牽制した形だ。 EU 側は、FTA 交渉でこれまでと同じ「関税ゼロ、数量制限ゼロ」を目指すと明言。 その条件として、英近海での EU 側の漁業者の操業をこれまで通り認めることなどを挙げていた。 これに対し英国側は「英国が独立した沿岸国になるという事実を合意に反映させる」などとし、英近海への EU 漁船のアクセス制限を示唆した。 (ロンドン = 下司佳代子、asahi = 2-28-20) マクロン仏大統領「英国民に同じ権利ない」 演説で警告 英国の欧州連合 (EU) からの離脱をめぐり、フランスのマクロン大統領は 31 日夜、国民向けにテレビ演説し、「ショックだ。 歴史的な警告のシグナルだ。」と語った。 離脱の原因について「自分たちの困難に際して、我々は欧州をスケープゴートにしすぎてきた」と指摘し、二度と加盟国の離脱を招くことのないよう、EU の機能強化に向けた改革をすべきだと訴えた。 今後の EU との関係を決める英国との交渉については、「英国民は EU を去ると決めた。 これまでと同じ義務は持たないし、同じ権利を持つこともない」と述べ、関税ゼロといったこれまでの権利だけつまみ食いすることがないよう警告。 「(EU に残る) 27 カ国は団結する。 交渉では我々の利益の維持にとことんこだわる。」と強調した。 (パリ = 疋田多揚、asahi = 2-1-20) イギリス、EU 離脱でも視界不良 関係再構築はいばら道 英国が 1 月 31 日に欧州連合 (EU) から離脱した。 47 年間かかわった欧州統合と距離を置き、今後は各国と新たな関係づくりを目指す。 ただ、離脱して市民生活や経済が上向くのか、視界は晴れない。 まずは、別の道を歩み出したとはいえ関係が深い EU との貿易交渉から成果が問われる。 31 日午後 11 時(EU 本部があるブリュッセルの 2 月 1 日午前 0 時)、ロンドンの英国議会前の広場の大型画面が離脱を告げると、集まった離脱支持派の数千人から大歓声がわいた。 ジョンソン英首相は離脱を前に公開した録画演説の中で「取り戻した主権を、人々が票を投じて求めた変化のために使おう」と強調。 今後は移民の制限や自由貿易の交渉などが可能になるとし、「法律やルールをこの国の利益のためにつくろう」と述べた。 EU の行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長も同日、ブリュッセルで記者会見。 「英国が EU を離脱しても、欧州が向き合う課題も手にする機会も変わらない」とし、「英国とは最良の関係を築きたいが、加盟国ほど良くはなり得ない」と語った。 英国はまず、輸出入の半分を占め、最も経済的関係が深い EU と今後の関係を再構築する必要があるが、思惑は微妙に食い違う。 英メディアによると、英国と EU は 3 月にも、工業品や農産品について「関税ゼロ」とする自由貿易協定 (FTA) の交渉に入る。 これまで EU の単一市場で共に経済を育て、製造業や農業の供給網は切り離せない。 関税率を抑え、通関の簡略化も検討する。 問題はその先だ。 「自由と規制」 貿易交渉、食い違う思惑 英国側は金融分野がこれまで通り EU 域内で営業できることを目指している。 これに対し EU は、今後の英国の金融ルールが EU 基準を満たしているかみる「同等性評価」を 6 月末までに実施する。 EU 内の拠点から英国へのデータの移転を認めるか判断するため、英国のデータ保護についても同等性を評価する。 EU はこのほか、対等な競争環境を確保するため、英国の雇用や環境基準、政府補助金なども EU 側と合わせてもらう必要があると考えている。 ジョンソン氏は EU の規制から解き放たれることが「離脱の利点」と訴えてきており、規制緩和が念頭にある。 簡単には応じられない。 もう一つ焦点になりそうなのが漁業権の問題だ。 EU 全体の漁獲量のうち 4 割以上が英国の海域でとれるとされる。 EU 側は、EU の漁業者が英近海で引き続き操業できる道を探る。 だが、英国にとって漁業権は「取り戻した主権」の象徴で、議論を呼びそうだ。 年内期限の「移行期間」、英首相「延長はない」 経済的な混乱を避けるため、年内は英国が EU のルール内に残る「移行期間」を設けており、貿易協定はこの間に結ぶ必要がある。 残された時間は少ない。 英シンクタンク「グローバル・カウンセル」で貿易交渉に詳しいダニエル・カパレッリ氏は「EU 27 カ国の批准がいる FTA の成立には通常 3 - 6 カ月かかる」と話す。 協定案を加盟各国の言語に訳したり、各国議会で議論したりするためで、「逆算すると遅くても 10 月には案を固める必要がある」と指摘する。 年末までに FTA が結べなければ、世界貿易機関 (WTO) ルールに基づく関税率が適用されたり、煩雑な関税手続きで物流が混乱したりするおそれがある。 影響は世界経済にも及びかねない。英国に欧州の拠点工場を持つ日産自動車など、日系企業にも影響は大きい。 移行期間は英・EU が 6 月末までに判断すれば、最大 2 年延長できる。 しかし、背水の陣で交渉したいジョンソン氏は「延長はない」としており、先行き不透明な状態が続く。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 2-1-20) 英 EU 離脱また迷走 = ジョンソン首相、メイ氏と同じ轍も 【ロンドン】 英国の欧州連合 (EU) 離脱が再び迷走を始めた。 英議会は 19 日、離脱期限の来年 1 月末までの延期要請を求める内容の動議を可決。 ジョンソン首相が EU とまとめた合意案の採決は見送られた。 10 月末の離脱期限まで 2 週間を切っているが、離脱はまたも遠のいた。 アルゼンチンとのフォークランド紛争さなかの 1982 年以来、37 年ぶりに開かれた異例の土曜日の議会。 首相は下院投票での敗北後、「英国にとっても欧州全体にとっても、10 月末にこの合意案とともに離脱することが最善だ」と強弁したが、議場にむなしく響くばかりだった。 就任から 90 日弱。 首相は 10 月末に何があろうと離脱すると主張し、大方の予想に反して EU との再交渉で新合意案にこぎつけた。 しかし、下院で過半数を確保できず、離脱に失敗したメイ前首相と同じ轍を踏む可能性もある。 ロンドン中心部では、離脱の是非を問い直す 2 度目の国民投票実施を求める抗議デモが行われ、約 100 万人(主催者発表)が参加した。 議会前広場では参加者らが「首相は合意案を自賛するのなら、国民投票にかけるべきだ」と声を上げ、離脱阻止を訴えた。 混迷する議会。 離脱と残留に分断されたままの世論。 ロイター通信によると、隣国フランスのマクロン大統領は「これ以上の離脱延期は誰の利益にもならない」と、いら立ちを隠さなかった。 (jiji = 10-20-19) 合意なき EU 離脱、回避の機運 ジョンソン首相が譲歩か 10 月末に期限が迫る英国の欧州連合 (EU) 離脱をめぐり、英・EU 双方の交渉担当者が 11 日、会談し、EU 側は建設的だったとし、今後数日で交渉を加速させるとの声明を発表した。 最悪の結末である「合意なき離脱」を回避できそうだとの見方がやや強まっている。 EU のバルニエ首席交渉官は 11 日の会談後、合意に向け前向きな姿勢を示した。 ある EU 高官は「会合でいくつかアイデアが出た」と明かしており、EU 側が評価する何らかの譲歩を英側がしたとみられる。 トゥスク EU 首脳会議常任議長も同日、「わずかな可能性も利用しなければ」と交渉継続を明言した。 ジョンソン英首相は今月 2 日、離脱に伴う混乱を避ける案を EU 側に示したが、当初の EU 側の評価は厳しく、合意は困難との見方が優勢だった。 しかし、ジョンソン氏と、離脱の影響を最も受ける隣国アイルランドのバラッカー首相が 10 日会談し、「合意を可能にする道筋が見えてきた」とする共同声明を発表。 翌 11 日付英各紙は「合意への希望が生まれてきた」と報じ、為替市場では英ポンドが上昇した。 英国の EU 離脱交渉で最大の懸案となっているのは、英領北アイルランドと地続きの EU 加盟国であるアイルランド共和国と、英国の国境管理をどうするかだ。 EU はこれまで、英領北アイルランドの帰属をめぐる紛争が再燃することを警戒し、離脱後も「完全に開かれた国境」の維持を主張。 当面の対策として、英領北アイルランドに EU の関税や規制の適用を続け、両地域間で税関検査などを不要にする案を主張してきた。 これに対し、英国は「離脱後も英国が EU の属国になってしまう」と猛反発しており、ジョンソン氏の新提案では「英領北アイルランドへの EU の規制の適用は、英領北アイルランド議会が判断する」と主張。 関税ルールは英領北アイルランドを含む英国として統一し、EU とは別にするとした。 英領北アイルランドとアイルランドの間で必要になる税関検査については国境周辺を避け、別の場所でするとした。 合意なき離脱になれば、経済や市民生活に大きな影響が出ることが懸念されている。 (ロンドン = 国末憲人、ブリュッセル = 津阪直樹、asahi = 10-13-19) EU 首脳会議、英離脱を 10 月末に延期 メイ首相も同意 英国を除く欧州連合 (EU) 27 カ国はブリュッセルで開いた臨時の首脳会議で 11 日未明(日本時間同日朝)、英国の EU 離脱期限を現行の 12 日から 10 月 31 日に延期することで一致した。 EU 側から提案を受けた英国のメイ首相も同意した。 英国側は 6 月 30 日までの短期延期を求めていたが、事態打開のためには不十分と判断したとみられる。 経済や社会に混乱をもたらす「合意なき離脱」を避けるため、英国の EU 離脱は当初の予定から大幅に先延ばしされる見通しだ。 (ブリュッセル = 津阪直樹、asahi = 4-11-19) 英 EU 離脱延期を義務付け 英下院が 1 票差で可決 【ロンドン = 佐竹実】 英議会下院は 3 日夜(日本時間 4 日朝)、欧州連合 (EU) 離脱の延期について EU に申請する法案を可決した。 上院の可決を経て成立すればメイ首相は申請を法的に義務付けられる。 関税の復活などで経済的に混乱を招く「合意なき離脱」の回避に向けた策の一つだが、英側の延期申請を EU が承認するかどうかは不透明だ。 賛成 313 票、反対 312 票の僅差で可決した。 4 日にも上院を経て法律が成立する。 上院は追認する可能性が高い。 EU は 12 日までに明確な離脱方針を示すよう求めていたが、英議会は混乱を続けて離脱案をまとめられていない。 何もせずに 12 日を迎えた場合は自動的に合意なき離脱となり経済が混乱するため、一部議員から延期申請を義務付ける法案が提出されていた。 これまでも議員からの動議として可決されたケースはあったが、いずれも法的拘束力はなかった。 EU は 10 日の臨時首脳会議で英の離脱延期について審議するため、メイ首相はこの前に延期申請をすることになる。 EU 全加盟国が了承すれば短期延期が認められるが、英側は明確な離脱方針を示す必要がある。 メイ首相と EU がこれまでにまとめた離脱案は、EU ルールに縛られ続ける恐れがある条項への反発が強く、英議会が否決してきた。 英国は欧州議会選前の 5 月 22 日までに、離脱関連の法案を成立させて EU を円滑に離脱することを目指す。 (nikkei = 4-4-19) 英下院「離脱延期」可決、EU に要請へ - 首相案承認なら 3 カ月
英議会は 14 日、欧州連合 (EU) に離脱延期を要請する政府案を可決した。 メイ首相は EU と取りまとめた離脱合意案をこれまで 2 度にわたり下院で否決されたが、自らの離脱案を再び議会に諮る機会を得た。 賛成 412、反対 202 で可決された政府案は、メイ首相の不人気な離脱案を 20 日までに承認し、6 月 30 日までの延期を経て EU を離脱するか、さもなければ EU が設定する条件に従い、長期の離脱延期を余儀なくされるか議会に選択を迫る内容であり、首相の戦略を反映している。 メイ首相はこの日、自らの離脱案が来週中に承認されない場合は、議会が優位に立つチャンスを 25 日に与えることも約束した。 これは支持を取り付ける必要がある離脱強硬派に脅しをかける戦術といえる。 労働党のヒラリー・ベン議員がまとめ、首相から主導権を奪うはずだった超党派の提案の採決が 14 日に行われたが、与党保守党からの造反もあってわずか 2 票差での否決となり、情勢は予断を許さない。 14 日に可決された政府案には、保守党から半分を上回る下院議員が反対票を投じ、野党の力に頼らざるを得ない状況が露呈した。 採決の前に政府案に賛成を呼び掛ける演説を行っていたバークレイ EU 離脱担当相をはじめ、フォックス国際貿易相やウィリアムソン国防相、レッドソム下院院内総務も造反した。 英紙テレグラフが報じたところでは、コックス英法務長官は、離脱案の最大の懸案であるアイルランド国境を巡る「バックストップ(安全策)」条項について、「条約法に関するウィーン条約」の規定に基づき履行停止できるという新たな法的助言を提示し、閣外協力で政権を支えてきた北アイルランドのプロテスタント強硬派、民主統一党 (DUP) および与党内の欧州懐疑派から離脱案への支持取り付けを目指している。 ウィーン条約62条は「状況の根本的な変化」が起きた場合、履行を停止できると定めており、バックストップが恒久化しつつある状況もそのような理由に含まれる可能性があると理解される。 EU は 5 月後半までの離脱延期を容認する可能性も示唆しているが、首脳らの立場は一致しておらず、英国は離脱延期の明確な理由を示す必要があると EU 当局者は述べている。 (Tim Ross、Bloomberg = 3-15-19) メイ英首相、EU 離脱 3 カ月の延期容認 議会に姿勢示す 3 月 29 日に予定される英国の欧州連合 (EU) からの離脱をめぐり、メイ英首相は 26 日の英議会で、3 カ月ほどの延期を容認する姿勢を初めて示した。 議会では、離脱条件などの議論がまとまっておらず、EU との間で合意がないままの離脱になりかねない。 社会の混乱を避けるため、英・EU 双方から、延期すべきだとの圧力が強まっていた。 メイ氏は、3 月 12 日までに予定している英議会採決で離脱協定案が再び否決された場合、EU との合意がないまま 29 日に離脱することを認めるかどうか、13 日までに採決すると表明。 これが否決された場合、「短期間に限定」した離脱延期を認めるかどうか、14 日までに採決すると述べた。 延期する場合、5 月下旬の欧州議会選挙に英国が参加しない前提で、「6 月末まで」とした。 ただ、延期の選択肢を示したのは、あくまで離脱期限が迫っているからだとし、「延期はしたくない。 EU と合意した上で 3 月 29 日の離脱に集中すべきだ」、「延期しても『合意なき離脱』は除外されない」との持論も強調した。 離脱延期を決めるには、英と EU の双方で承認が必要だ。 英議会では、EU と早く決別したい与党・保守党の強硬離脱派が延期に反対する見通しだが、合意なき離脱は避けるべきだとの意見が議会全体では多い。 閣僚からも、離脱を延期し、合意なき離脱を排除しなければ辞職するとの表明が相次いでいる。 (ロンドン = 下司佳代子、シャルムエルシェイク〈エジプト東部〉 = 津阪直樹、asahi = 2-26-19) |