日産本社ビルの売却検討、リストラ費用捻出 今年度 600 億円上積み

経営再建中の日産自動車が横浜市の本社ビルの売却を検討していることが 23 日、わかった。 売却と同時に賃貸契約を結び、引き続き本社として使う案が検討されている。 売却によって得た資金は、工場や人員のリストラ費用に充てる。 日産は 2009 年に都内から創業の地の横浜市に「グローバル本社」を移した。 車を展示するギャラリーも併設されている。 横浜市の中心部にある本社の資産価値は 1 千億円ほどになるとの見方もある。

日産は 23 日に証券アナリスト向けの決算説明会のやりとりを公開した。 この中で、日産のイバン・エスピノーサ社長は、26 年 3 月期決算に計上するリストラ費用が、現時点で約 600 億円増える可能性があると明らかにした。 エスピノーサ社長は「再編費用は資産売却を通じてまかなう」としている。 日産の 25 年 3 月期決算は、過去 3 番目に大きな赤字となる 6,708 億円の純損失を計上した。 米国と中国での不振が続いて販売台数がピーク時からおよそ 4 割少ない 334 万台に減少。 500 万台体制の生産能力が過剰になっている。

このためエスピノーサ社長は内田誠・前社長がまとめた従来の再建計画を修正。 今月 13 日、予定していた人員削減を 2 倍超の 2 万人に拡大し、国内外で七つの完成車工場を減らすと表明した。 国内では追浜(おっぱま)工場(神奈川県横須賀市)、子会社の日産車体の湘南工場(同県平塚市)の閉鎖を検討している。 (西山明宏、松岡大将、asahi = 5-23-25)


日産の工場、創業の地から消えるのか 生産の主力だった追浜と湘南

経営再建中の日産自動車が、国内に五つある完成車工場のうち、追浜工場(横須賀市)と、子会社の湘南工場(平塚市)の閉鎖案を検討していることが 17 日、分かった。 稼働率が低い両工場での生産をやめることで収益力を改善しようとの考えだ。 国内の完成車工場が閉鎖されれば、かつてカルロス・ゴーン氏が主導して進めた大規模リストラによって 2001 年に閉鎖された村山工場(東京都武蔵村山市)以来となる。 創業の地の神奈川県内から完成車工場が消えると、集積する取引先や地域経済にも打撃となる。 地元などの強い反発が予想されるため、同社は閉鎖に踏み切るか、慎重に検討する方針だ。

追浜は「ノート」など 2 車種、湘南は「AD」など商用車

追浜工場は 1961 年に操業を始めた。 テストコースを併設し、量産型の電気自動車 (EV) 「リーフ」をはじめ先進技術を搭載した車の生産を手がけてきた。 生産能力は年間 24 万台で、従業員数は約 3,900 人(24 年 10 月末時点)。 かつては主力工場の一つだったが、現在はコンパクトカーの「ノート」と「ノートオーラ」を生産するのみとなっている。 子会社「日産車体」の湘南工場は年間 15 万台の生産能力を持ち、主に商用車の「NV200 バネット」、「AD」などを生産している。 追浜、湘南のいずれも生産する車種が少なく、稼働率も低いことから、削減の検討対象になったとみられる。

日産は今月 13 日に発表した 25 年 3 月期決算で、過去 3 番目に大きい 6,708 億円の純損失を計上した。 米中での不振で販売台数が落ち込んで生産能力が過剰になり、自動車事業は 2,158 億円の営業赤字となった。 4 月に就任したイバン・エスピノーサ社長による新体制は、内田誠・前社長が主導した従来の再建計画の中身では不十分と判断。 再建計画を見直し、27 年度までに国内外で七つの完成車工場を削減し、合計 2 万人を人員削減する方針を今月 13 日に示した。

アルゼンチンやインド、メキシコでも閉鎖検討

7 工場の閉鎖を掲げる中、国内だけでなく海外でもメキシコなど複数の国で計 5 工場を減らすことを検討する。 アルゼンチンやインドのほか、メキシコでも工場の一部閉鎖を検討するとみられる。 特にインド事業では、現地合弁会社の株式を合弁相手の仏自動車大手ルノーに売却すると発表していた。 日産は削減する工場については「検討」の段階としており、今後、閉鎖が決まれば、多額のリストラ費用を積み増す必要に迫られそうだ。 日産は「一部の工場の閉鎖に関する報道があったが、臆測に基づくもので当社から発表した情報ではない」とコメントしている。 (西山明宏、松岡大将、asahi = t5-17-25)

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日産、6,708 億円の赤字 国内外で 7 工場を削減する方針

日産自動車は 13 日、2025 年 3 月期の純損益が 6,708 億円の赤字(前年は 4,266 億円の黒字)だったと発表した。 経営再建のために、国内外で七つの完成車工場を減らす。 人員削減は、既に発表していた 9 千人から計 2 万人に広げる。 四半世紀前に並ぶ、大規模リストラに踏み出す。 日産の赤字額としては、00 年 3 月期(6,843 億円)、20 年 3 月期(6,712 億円)に次ぐ 3 番目の規模となる。 2 万人の削減と多くの工場を閉じるのは、カルロス・ゴーン氏の主導で進められた再建計画「日産リバイバルプラン」以来となる。

日産は 4 月 24 日、25 年 3 月期の業績予想を大幅に引き下げ、純損益の赤字が 2 月時点の予想から 9 倍に膨らんで 7 千億 - 7,500 億円になりそうだと発表していた。 25 年 3 月期の売上高は前年比 0.4% 減の 12 兆 6,332 億円、本業のもうけを示す営業利益は 87.7% 減の 697 億円だった。 世界販売は 2.8% 減の 334 万台で、2 年ぶりに減少した。 この日の説明会でイバン・エスピノーサ社長は、25 年 3 月期時点で 2 千億円を超える営業赤字に陥った自動車事業を「26 年度までに黒字化する」との目標を示した。

そのために、国内外で 17 ある完成車の工場を 10 に減らし、従来計画に 1 万 1 千人を追加して 2 万人を削減するなどして、24 年度の実績比で固定費と変動費を計 5 千億円削る。 エスピノーサ氏は「痛みを伴うが、いま手を打たなければ悪化するだけだ」と話した。 削減する工場について「現時点では言えないが、(検討対象に)日本も含まれている」と述べた。 国内の完成車工場は、子会社も含めて栃木、神奈川、福岡の 3 県に五つある。

26 年 3 月期の業績予想については、トランプ米政権の関税政策の影響から、「環境の不確実性を踏まえた」として、売上高予想のみを示し、利益予想は公表を見送った。 「トランプ関税」による 26 年 3 月期の影響額は最大で 4,500 億円と見積もった。 日産の業績不振は昨年から表面化しており、同年 11 月に世界で従業員 9 千人と生産能力を 2 割削減するリストラ計画を示していた。 業績不振を受け、内田誠・前社長が今年 3 月に退任。 4 月に社長に就いたエスピノーサ氏が率いる新体制が再建計画を再検討していた。 (西山明宏、asahi = 5-13-25)

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日産、1 万人を追加リストラへ 社員全体の 15%、計 2 万人規模に

経営不振に陥っている日産自動車は、国内外で 1 万人を追加で削減する方針を固めた。 これまでに 9 千人の削減を明らかにしており、リストラ対象は合計で社員全体の 15% に当たる約 2 万人となる。 近く発表する見通しだ。 日産は 25 年 3 月期決算の純損益が最大 7,500 億円の赤字を見込んでおり、同社の赤字額としては過去最大となる見通しだ。 昨年 11 月には、国内外で 9 千人と生産能力 2 割を削減すると発表していた。 関係者によると、4 月 1 日に発足したイバン・エスピノーサ社長による新体制で再建計画を精査した結果、さらなる人員削減が必要だと判断したという。

日産の経営不振の原因、販売台数の落ち込みなどによって高コスト体質に陥っている点にある。 同社によると、17 年度に 577 万台だった販売台数は 24 年度は 330 万台ほどと、4 割超低下した。 主力の米国市場ではブランド価値の低下やハイブリッド車など新車種の投入がうまくいかず、中国では地場メーカーとの電気自動車などでの競争で販売台数を落としている。 その一方、生産能力では500万台の体制を維持しているなど、利益が出づらい構造になっていた。 (asahi = 5-12-25)


背水の日産、最大 7,500 億円赤字 販売も資金繰りも … くすぶる懸念

日産自動車は 24 日、2025 年 3 月期決算の純損益が最大で 7,500 億円の赤字になる見通しだと発表した。 同社の純損失額としては過去最大となる。 主要市場の米国と中国での販売低迷や、経営再建に向けたリストラ費用がかさむことなどが響いた。 2 月時点の業績予想では、純損益は 800 億円の赤字としていた。 これまで過去最大の赤字額は 2000 年 3 月期の 6,843 億円。 仏ルノーから派遣されたカルロス・ゴーン氏が日産の COO (最高執行責任者)就任した時期にまでさかのぼる。 今回過去最大の純損失を計上する見通しとなった理由について、日産は大きく二つ示している。

工場の減損に退職金に … かさむリストラ費用

保有する工場などの資産の価値が販売台数や業績低迷などによって目減りしたため、その分を減損損失として 5 千億円計上する。 また、9 千人の人員削減を進める中で支払う退職金や下請け業者への補償金などで 600 億円以上がかかる見通しだという。 販売が伸び悩んでいることも業績悪化の見通しに影響した。 24 日に示した新たな見通しでは、本業のもうけを示す営業利益予想も下方修正。 従来の 1,200 億円から約 3 割少ない 850 億円になるとした。

ホンダとの統合協議破談 → 自力再建の道行くが

日産が 24 日に発表した 2024 年度の世界販売は、前年度比 4.3% 減の 329 万 8 千台。 20 年度からの 5 年間で 2 割近く販売台数を落としてきた。 北米でのブランド価値の低下や商品ラインアップの不足などで利益が出なくなっている。 中国では電気自動車 (EV) やプラグインハイブリッド車 (PHV) で現地メーカーとの厳しい価格競争が続き、販売台数は減少の一途をたどっている。

こうした販売への逆風によって業績悪化が顕在化したのは昨年夏だった。 同年 11 月に再建計画を打ち出し、9 千人の削減や 3 工場の閉鎖などのリストラ策を進めようとしている。 過剰になった生産能力を削ることで、かつてほどの販売台数がなくても利益が出る体制にするのが狙いだ。 ホンダとの経営統合協議が破談となって自力での成長を目指す日産にとって、どれだけ低コストの体質に転換できるかが将来を左右する。

一連の業績悪化の責任をとるかたちで退任した内田誠前社長の後任として、今月就任したイバン・エスピノーサ社長にとっては、利益を出せる生産体制を再構築し、売れる車を投入することが喫緊(きっきん)の課題となる。 だが、米国のトランプ政権による輸入車への関税など、事業の先行きが読みづらい状況になっており、先行きは楽観できない。 日産が米国で販売している車に占める輸入車の比率はそれほど高くないため、関税による直接の影響はそれほどでもないとされる。 しかし、一連のトランプ関税の影響で米国の景気が冷え込めば、採算が悪化していた米国での販売にさらなる逆風となる。

資金繰りへの懸念もくすぶる。日産の自動車事業の「ネットキャッシュ(現預金などから有利子負債を引いた金額)」は約 1.5 兆円あり問題はないとするが、今後さらなる構造改革費用を計上する可能性もある。 日産は、5 月 13 日に 25 年 3 月期決算を発表する。 これに合わせて、どんな再建の方針を示すかが、注目される。 (西山明宏、asahi = 4-24-25)


日産自動車の内田誠社長が退任表明 後任はエスピノーサ氏

日産自動車は 11 日、内田誠社長が退任し、後任にチーフプランニングオフィサーのイヴァン・エスピノーサ氏を起用する人事を発表した。 4 月 1 日付。 社長交代は 2019 年 12 月以来、約 5 年ぶり。 足元の業績が低迷しており、経営トップを交代して再建を加速させる狙いがある。 同社が今春発表する2025 年 3 月期決算は、純損益の見通しが 800 億円の赤字に転落するなど、業績が低迷。 これまでに、世界で従業員 9 千人の削減やタイなど 3 工場の閉鎖を盛り込んだ再建計画を発表している。 ホンダとの経営統合協議が破談に終わり、当面は自力で再建を進めることになった。

後任のエスピノーサ氏、グローバル商品企画の中核担う

エスピノーサ氏は、01 年にメキシコのモンテレイ工科大学を卒業。 日産へは、03 年にメキシコの現地法人に入り、商品企画を担当したのが最初となる。 以降、同国やタイなどアセアン地域で商品企画などを担当。 18 年に日産本体の常務執行役員となってからは、グローバル商品企画の中核を担っている。 日産が経営不振に陥った原因の一つが、人気車種の「不在」だ。 特に、日産の世界販売台数の 4 割弱を占める主戦場の北米市場では、安売りが長く続いたことで、ブランド価値が低下。 現地で人気を得ているハイブリッド車を含む新車投入の遅れも傷口を広げた。

さらに、世界最大の中国市場では、現地勢が主導する低価格競争に直面し販売が急減。 同社が今春発表する 25 年 3 月期決算は、純損益が 800 億円の赤字に転落する見通しだ。 関係者からは「売れる車がない」との声も漏れる。 大規模なリストラを盛り込んだ再建計画を進める一方、車のラインアップを強化して成長軌道に戻ることができるのか。 エスピノーサ氏の力量が問われている。 (西山明宏、asahi = 3-11-25)


台湾の鴻海「買収ではなく提携が目的」 日産筆頭株主との接触認める

台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業の劉揚偉会長は 12 日、同社が経営参画を模索していると報じられている日産自動車について、筆頭株主の仏ルノーとの接触を認めた上で「買収ではなく、提携が目的だ」と述べた。 台湾北部・新北市にある鴻海本社であった行事に出席し、台湾メディアの取材に答えた。 劉氏は日産株を保有するルノーと提携について協議しているが、株式取得が主要な目的ではないと話した。

鴻海は電気自動車 (EV) の受託生産ビジネスの確立を目指している。 劉氏は以前から日産やホンダを含む日本の自動車メーカーと接触してきたと述べ、鴻海のビジネスモデルである受託生産に基づいた提携を考えていると説明した。 業績悪化に見舞われた日産は、ホンダとの経営統合協議は決裂の見通し。 EV分野の強化を急ぐ鴻海は昨年 12 月にルノーに日産株買い取りを打診したと報じられるなど、動向が注目されている。 (台北・林哲平、mainichi = 2-12-25)

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台湾鴻海の幹部、日産側と接触か 台湾メディア「連携模索」と報じる

台湾の中央通信社は 7 日、台湾の受託生産大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の幹部が 1 月 29 日の春節前に訪日し、日産自動車との連携の可能性を探るため、日産幹部と接触したと報じた。 関係筋の話として伝えた。

中央通信社によると、訪日したのは、日産出身で鴻海の EV 部門の戦略を担う関潤氏。 劉揚偉・董事長(会長)は関氏に日産との連携を実現するよう指示しており、関氏は日産がホンダとの経営統合について結論を出す前のタイミングで訪日し、連携の可能性を探ったという。 中央通信社に対し、鴻海はコメントしなかった。 中央通信社は昨年 12 月、日産の大株主である仏自動車大手ルノーと日産株の買い取りを交渉するために、鴻海が関氏をフランスへ派遣したと報じていた。 (台北・高田正幸、asahi = 2-7-25)


「一人負け」日産、追い詰められた社長 消えないゴーン時代の呪縛

横浜港を見下ろす日産自動車グローバル本社。 10 月下旬、この 22 階建てビルの一室に、社長の内田誠をはじめとした取締役らが顔を並べた。 「社長の経営責任をはっきりさせるべきだ」、「再建計画の中身が不十分ではないか」 - -。

9,000 人リストラ「痛恨の極み」 苦境の日産、原因は米国と中国

複数の関係者によると、内田は翌月に発表する 2024 年 9 月中間決算が厳しい数字になると説明。 再建計画にも言及した。 社外取締役からは内田の責任を問う厳しい声が出た。 議事録を残す正式な取締役会ではなく、「意見交換」の場だった、という。

「辞任拒否」のメッセージ

11 月 7 日に発表した中間決算は、黒字こそ維持したが、前年比 9 割超の減益。 従業員 9 千人と 2 割の生産能力の削減というリストラ計画もあわせて公表した。 内田は厳しい表情で言った。 「世界 13 万人以上の従業員とその家族の生活を預かる身として、責任を痛感する。」 そしてこう続けた。 「再び日産を成長軌道に戻す。 その道筋をつけることが私の社長としての最大の役割であり、果たすべき役目をやり遂げる覚悟だ。」 日産関係者は「辞任拒否」のメッセージだと受け止めた。

約 20 年にわたり君臨したカルロス・ゴーンの失脚と、その直後の経営危機。 再建へのかじ取りを託された内田は、いったんはその役目を果たしたかのようにみえた。 しかし、21 年度以降は上向いていた業績は、いまや海外事業の失速により急降下。 トヨタ自動車やホンダと比べても「一人負け」の様相を呈す。 内田が社長に就いて、今月で丸 5 年が過ぎた。 「ここから変わることができるのか。」 そんな声が社内だけでなく、政府や銀行の幹部からも相次ぐ。

変化に対応できない組織

日産はこの四半世紀、幾度もリストラを断行してきた。 筆頭株主の仏ルノーから乗り込んできたゴーンが主導した「リバイバルプラン」では、倒産寸前だった同社が短期で再建した半面、国内外の多くの工場が閉じられ、2 万人超が社を去った。 ゴーンが失脚して新体制に移行後も、ゴーン時代の「拡大路線」のひずみで業績が悪化。 1 万 2,500 人の削減に踏み切った。 そして、今回のリストラだ。

不振の原因をたどると、戦略ミスと、変化に対応できない組織の姿に行き当たる。 「ハイブリッド車 (HV) がここまで急速に上がってくるのは、去年の今頃まで読めていなかった。」 内田は中間決算会見で、米国市場ではいま HV が人気を集めているのに、日産には HV がない理由をこう釈明した。 北米地域では、昨年の中間期に 2,400 億円あった営業利益が吹き飛び、むしろ 40 億円の赤字に陥った。

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しかし、内田の言葉を聞いた日産幹部は、首をかしげる。 「HVが強いトヨタやホンダ以外のメーカーも米国で業績が伸びている。 本当に HV のせいなのか?」

EV でリーダーになるはずが

10 年、日産は世界初の量産型電気自動車 (EV) 「リーフ」を日米欧で発売した。 当時社長だったゴーンはこう息巻いた。 「HV ではトヨタがリーダーで、あとは追随者。 しかし EV では我々がリーダーになれる。」 それから 14 年。  現実はまったく違っている。 世界の EV 市場を牛耳るのは米テスラや中国 BYD といった後発メーカーだ。 日産のシェアは 2% に満たず、世界の十指にも入らない。

脱炭素化の風に乗ってEVが来る――。多くのメーカーと同じく、あるいはそれ以上に、日産はEVに期待をかけた。だが、肝心の車種と言えば、日本や中国など地域限定モデルを除けば、世界展開するEVは7年前の2代目「リーフ」と、3年前に発売したスポーツ用多目的車(SUV)の「アリア」だけ。 EV 普及の鍵を握る車載用電池の開発でも、日産は 19 年に子会社の車載用電池メーカーを中国企業に売却した。 他社からの調達で十分だとの判断だったが、「売ったのは間違い。 何とか買い戻せないか.。」 社内ではそんな声も出ている。

「HV は必要ない」の誤算

そんな EV 市場の急成長は今年に入っていったん収束した。 日産の世界販売台数の 3 割弱を占める米国で勝つには HV が要る。 しかし、その HV がない。 戦略ミスは明白だった。 「HV は必要ない.。」 ある日産幹部は、過去に米国へ HV を投入するか検討した際、現地からこんな声があったと証言する。 当時、日本ではトヨタと異なる独自技術の HV を投入し、支持を得ていた。 だが国土が広大な米国の道路事情に合わない性能や、現地で人気の中大型車向けに搭載できないことも考慮されたためだ。

「そもそも誰もが EV が来ると信じて疑わなかった(日産幹部)」ことも大きかったという。 そんな楽観論がまかり通るのも、「うちは縦割りの会社、特に現地法人の力が強いから。」 ある社員はこう解説する。 EV では存在感を示せず、代わりうる HV もない。 そんな米国市場で日産が頼るのが、「販売奨励金」を積んで、ローンの金利負担を含めた車の実質的な値段を下げる手法だ。 奨励金を積むほど収益は圧迫される。 政府幹部は「日産はブランド戦略ができていない。 米国では『安い車』扱いだ」。

「技術の日産はもういない」

日産の苦境は、「両輪」であるはずの下請けとの関係からも浮かび上がる。 「昔は『技術の日産』なんて言われたけど、今はもう、なくなっちゃった。」 関東地方の 2 次下請け企業の社長は言う。 長年、各社に部品を納めてきたが、日産の技術力の低下を感じるという。 ゴーンの「改革」は、日産を頂点とする下請けの重層的な構造 - - いわゆる「ケイレツ」にも及んだ。 下請けにコストカットを強く求め、応じられない企業は日産の取引先リストから消えていった。

中には、部品の品質を高めるといった「改善」を提案する下請けもいたという。 しかし、スケールメリット(規模の経済)を求めてルノーと部品の共通化を進める日産の下ではいつしか、「上の指示通りに安くつくれるところが評価されるようになった」と、別の下請け幹部は言う。 日産の業績が V 字回復し、そしてゴーンが日産を追われた後も、下請けへの冷風はやまなかった。 下請けからは「あの時は、ああするしかなかったと思う。 でも、その次って変えていかないと。」との声もあがる。 日産幹部は「購買担当は 1 円でも安いものを買えばよい価値観になった。 技術を分かっている人間というより、単なるバイヤー」と話す。

頻発する目標未達で「話にならない」

日産は今年 3 月、下請けへの支払代金を一方的に減額していたとして、公正取引委員会から勧告を受けた。 業界内では、「日産に対する下請けの不満が表面化した動き」と見る向きもある。 下請けに部品代金の減額、いわゆるコストダウンを求めることは自動車業界に根付いた商慣行とされる。 しかし、下請けが日産に不満を募らせるのは、トヨタやホンダと比べて生産計画の下方修正が頻発するためだ。

14 - 23 年度の過去 10 年間、日産の販売台数が年度当初の目標をクリアしたのは 16 年度の一度きり。 内田が社長就任後に掲げた 4 回の目標はすべて未達な上に、うち 3 回は当初目標から 1 割以上も少なかった。 24 年度の目標はすでに下方修正した。 下請けは基本的に、完成車メーカーの目標台数に基づいて部品代金を算出する。 実際の生産台数が下ぶれれば、部品 1 個あたりのコストは上がる。 しかし、そのコスト増分を代金に転嫁することも受け入れられないことがあるという。

「トヨタは厳しいけど量を確保してくれる。  生かさず殺さずだから我々は食っていける。 日産は話にならない。 自衛策は日産以外の販路開拓だ。」

「戦略立てる人材が育っていない」

いつか来た道のようなリストラ計画。 9 月中間決算の後、ある日産幹部は「人を削減するのだから、信賞必罰がなければ示しがつかない」と話した。 「いまの経営陣のままでは無理だろう。」 そんな声も社内から漏れ聞こえる。 だが、今月 11 日に示された、来年 1 月からの経営体制は刷新感に乏しかった。 財務部門のトップのスティーブン・マーが中国事業の担当に移り、後任には、北米事業担当のジェレミー・パパンが就く。 パパンが担当している北米事業は業績不振の最大の要因となった部門だが、銀行出身で財務担当の経験を重視され、マー氏はリストラ策を確実に実施するため役員にとどまったとみられる。

内田の社長続投も決まった。 社内には「実務がわかっておらず、決断できない人」といった厳しい声がある一方、「ここで放り出したら、ノーアウト満塁、ノースリーでの投手交代になる」と、理解を示す声もある。 内田の社長就任時、日産は、内田と、ルノー出身のアシュワニ・グプタ、関潤の「3 頭体制」を敷いた。 しかし、関は日本電産(現ニデック)に移り、グプタも「コンプライアンス問題(日産幹部)」により社を去った。

「日産ほどの大きな会社はトップ 1 人でやっていくのは無理。 それなのに、戦略を立てられる人材が育っていない。」 「役員の在任期間が長すぎて若手や中堅が昇進できず、ふん詰まりを起こしている。」 日産幹部はこう嘆く。

ホンダ「助け舟は出さない」

日産と内田の眼前には課題が山積している。 先月末には、東芝の筆頭株主でもあった、「物言う株主」のエフィッシモ・キャピタル・マネージメント系とみられる投資ファンドが日産株を買い集めたことも判明した。 今後、厳しい業績に対して株主の立場から注文が出る可能性もある。 EV 事業での協業を進めるホンダとの関係をどこまで進めるのかにも注目が集まる。 事業連携にとどまらず、資本提携まで深めることを期待する向きもある。

だが、ホンダの幹部は「こちらから助け舟を出すという発想はない」と話す。 「助ける、という発想はお互いにとってよくない。 (日産の)再建計画をちゃんとやってほしいということだ。」 日産幹部は、内田が今春までに役員体制を全面的に刷新する考えだ、と明かす。 (西山明宏 松岡大将、asahi = 12-15-24)


日産が従業員 9,000 人削減へ、生産能力も 2割減の 400 万台に … 社長は基本報酬の半額を返上

日産自動車は 7 日、業績再建に向け、グループ従業員の 7% にあたる 9,000 人の人員削減を柱とした構造改革を発表した。 経営効率化のため、世界の生産能力を 2 割減の 400 万台程度に引き下げる。 事業運営の資金確保のため、保有する三菱自動車の株式の一部を市場に売却する。 経営責任の明確化として、内田社長は今月から当面の間、基本報酬の半額を返上する。 yomiuri = 11-7-24)


日産、米新興 EV メーカー「フィスカー」へ 600 億円出資協議 … 今月中にも決定か

【ニューヨーク = 小林泰裕】ロイター通信は 1 日、日産自動車が米新興電気自動車 (EV) メーカー「フィスカー」への出資に向けて協議していると報じた。 出資額は 4 億ドル(約 600 億円)を超えるとみられ、今月中にも交渉がまとまる可能性があるという。 報道によると、日産の米国内の工場でフィスカーの EV を 2026 年から製造することや、フィスカーの技術を活用して日産が独自のピックアップトラック型 EV を開発することなどが協議されている。

フィスカーは EV 需要の減速で業績が低迷し、2 月 29 日には従業員の 15% 削減を発表した。 その際、具体名は明かさなかったが、大手自動車メーカーと投資や共同開発について交渉中だと明らかにしていた。 調査会社 JATO によると、23 年 10 - 12 月期の米国での EV 販売台数は、日産が約 5,000 台、フィスカーが約 2,000 台だった。 いずれも、テスラの約 17 万台やフォード・モーターの約 2 万 4,000 台を大きく下回っている。 (yomiuri = 3-2-24)