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新型コロナ影響 失業者 8万人超 見込み含め 6日までに 厚労省

新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人は、見込みも含めて 8 万人を超えたことが厚生労働省の調査でわかりました。 緊急事態宣言による雇用への影響が懸念されていて、厚生労働省は、助成金などを活用し企業に雇用を維持するよう呼びかけています。 厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化した企業などから解雇されたり、契約を更新されない「雇い止め」にされたりしたケースについて調査しています。

それによりますと、去年 1 月末からことし 1 月 6 日までに解雇や「雇い止め」で仕事を失った人は、見込みも含めて 8 万 121 人となり 8 万人を超えたことがわかりました。 全国のハローワークなどで把握できた人数であるため、仕事を失った人は実際にはさらに多いとみられます。 新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人は、去年 5 月 21 日に 1 万人を超えた後、8 月 31 日に 5 万人、11 月 6 日に 7 万人を超えていました。

先月 25日時点のデータを業種別でみると、
▽ 製造業が 1 万 6,717 人、
▽ 飲食業が 1 万 1,021 人、
▽ 小売業が 1 万 399 人、
▽ 宿泊業が 9,620 人、
▽ 労働者派遣業が 5,165 人などとなっています。

都道府県別では
▽ 東京が 1 万 9,318 人、
▽ 大阪が 6,657 人、
▽ 愛知が 4,696 人、
▽ 神奈川が 3,594 人などとなっています。

また、新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人のうち、パートやアルバイトなど非正規雇用で働いていた人は去年 5 月 25 日から先 月 25 日までで、3 万 8,009 人となっています。 首都圏の 1 都 3 県を対象に緊急事態宣言が出されることで、解雇や「雇い止め」がさらに増えるなど、雇用への影響を懸念する声が労働組合などから出ています。 厚生労働省は、国の雇用調整助成金などを積極的に活用し、企業に雇用を維持するよう引き続き、呼びかけています。 (NHK = 1-7-21)


解雇・年収半減・中国移住 … 海外エアラインの働き手苦境

新型コロナウイルスの影響で航空需要が落ち込み、航空会社でリストラが相次いでいます。 なかでも、日本が「本国」ではないため、もともと契約社員など非正規社員も多かったのが海外エアライン。 あっさりと契約を打ちきられたり、勤務日数が減らされたりしている働き手が、苦しい状況を語りました。 今年 8 月 21 日、フィリピン航空で機内通訳として働く契約社員たちが、会社の会議室に集められた。 「9 割以上、旅客が減った。 未曽有の危機に直面している。」 日本支社の幹部は、経営状況の厳しさを約 30 分にわたって説明した後、こう告げた。

「みなさん 16 人の雇用を、10 月 20 日をもって終結する決断にいたりました。」

渡されたのは、契約終了を告げる英文が書かれた 1 枚の紙だった。 その場にいた契約社員たちは、突然の出来事にあぜんとしていたという。 取材に応じた 20 代女性は「その場で説明されるまで全く知らされず、ショックだった」と話す。

フライトと手取りが消えた

女性は新型コロナ禍の前まで、週 4 便のフライトに搭乗し、接客対応をしていた。 しかし、3 月にフィリピンの首都・マニラがロックダウンされて以降、フライトはなくなった。 基本給の 6 割の休業手当が支払われたが、フライトに応じた手当の分は支払われないため、月収は手取りで月 10 万円前後になったという。 以降 8 月まで、ほとんど会社から連絡はなかったが、会議室に呼ばれる 3 日前にメールが来た。 女性は、契約終了を伝えられた説明の場で、労務担当者が「(解雇を)回避する努力はした。 会社が生き残るためには、身を削る必要もある。」と話していたことに憤りを隠せない。 「切り捨てるなら、役員報酬をどれだけ減らしたのかなども明示するべきだ」と話す。

同僚には、国の助成金制度などを使いながら引き続き休業手当を払って休ませ、雇用を維持するように求める人もいた。 だが、会社側は「先が見えないため、(解雇を)決断せざるを得なかった」と言うばかりだったという。 女性は今は別の仕事をしている。 それでも、空に飛行機を見かけると「今でも落ち込んでしまう」と話す。 同時に解雇された社員で、まだ仕事に就いていない人もいるという。 フィリピン航空日本支社は朝日新聞の取材に「コメントはできない」としている。

「飼い殺しのようだ」

解雇はされなくても、勤務日数や賃金が大きく減った働き手も少なくない。 あるアジア系の航空会社の地上職として勤務する 50 代の男性は、新型コロナ禍で休業状態となった今春以来、週 2 日程度の勤務が続く。 それでも「地方空港で勤務するスタッフは、もっと働けていない状態です」と気遣う。 男性の勤めている航空会社では、労働組合の組合員平均で 50% 近く年収が下がった。 国内大手の全日本空輸が労使交渉で妥結した、年収ベースで平均 3 割の賃下げよりも下げ幅は大きい。 生活に困るなどして会社を離れた同僚は 10 人を超えた。

男性の会社は 40 - 50 代が多く、「副業をしてもいいと言われても、仕事がない」と嘆く。 1 月には定期便の運航が一部再開する予定だが、足もとでは改めて新型コロナの感染拡大が世界的に問題となっており、先は見通せない。 失業手当の水準などが会社都合の扱いとなる希望退職も募ってはおらず、「飼い殺しされているようだ。」 貯金を切り崩す日々が続く。

米系や欧州系でも

リストラはしても一定の雇用は維持しようとする国内エアラインと違い、海外エアラインは、本社の方針一つでドライな日本撤退などに踏みきる場合もある。 エアラインの働き手らが入る労組で作る航空労組連絡会(航空連)の調査によると、米系や欧州系でも同様の雇い止めや賃下げなどが相次いでおり、正社員にも 10 社近くが希望退職を募っているという。

特に雇い止めの動きが目立つのが、もともとの人数も多かった客室乗務員だ。 客室乗務員らでつくる労組「ジャパンキャビンクルーユニオン」などは 12 月 3 日、厚生労働省に、雇用維持に向けた働きかけなどを強めるように要請した。 中国系の航空会社で、契約社員の客室乗務員として働いていた女性も、この日の要請に参加。 「来月の生活も分からない状況。 先が見えない。」と呼びかけた。

「中国移住か、契約終了か」

女性は 9 月に会社から、中国に移住して働くか、契約終了かを選ぶように迫るメールが届いた。 労組に入って団体交渉し、中国に移住できない理由や、助成金を活用しての休業を求めることなどを訴えたが、契約終了となった。 今は、アルバイトを掛け持ちして生活をやりくりしている。 ジャパンキャビンクルーユニオンの木谷憲子・中央執行委員長は、「本国の乗務員は正社員でも、日本では契約社員にしている海外エアラインは多い。 『雇用の調整弁』として使われている状況が新型コロナであぶり出された。」と、もともと海外エアラインの働き手が失職しやすい構造にあったことを指摘する。 海外系で働いてきた日本の客室乗務員が解雇や雇い止めに遭っているケースは、ほかにも複数あるという。

航空連の丸山伸弥事務局次長は、日本路線は新型コロナ前は訪日観光の需要でドル箱だったため、リストラが進むと従来の需要が戻った時に職場が人手不足に陥るのではないかと懸念。 「コロナの収束後、きちんとした体制が組めるか心配だ」と話す。 (吉田貴司、asahi = 12-26-20)


JAL 職員が助っ人巫女に 「日頃の接客生かしたい」

福岡空港のカウンターで勤務する日本航空 (JAL) の職員 31 人が新年、福岡県宗像市の宗像大社で巫女(みこ)として勤務することになった。 21 日にあった研修では白衣に緋袴(ひばかま)姿で参拝者への言葉遣いやお守りの受け渡しなどを学んだ。 JAL は宗像大社を機内誌や機内放送で紹介した縁で、2017 年に市と連携協定を結んで人材交流を続けている。

宗像大社は新年、新型コロナ感染対策で授与所を増やして参拝者を迎えるため、人手の確保が急務に。 コロナで業務が減っていた JAL が手助けを申し出た。 社内の募集に対し職員約 100 人から応募があり、元日から 11 日まで交代で参拝客を迎える。 権禰宜(ごんねぎ)の長友貞治さん (43) は「職員の皆様は接客のプロで大変心強い。 こちらも学ぶ姿勢で臨みたい。」 研修に参加した入社 1 年目の立山佳奈さん (24) は「日頃の接客を生かせればと思います。」 JAL 側は「異業種交流の経験を空の旅の質の向上につなげたい」としている。 (棚橋咲月、asahi = 12-21-20)


ANA、客室乗務員の地方居住を容認へ 労働組合に提案

全日本空輸 (ANA) が、客室乗務員の地方居住を認めるしくみを来年 4 月から時限的に導入すると、労働組合に提案していることが 28 日わかった。 勤務日数や給与を減らす代わりに、兼業や副業をしやすくする。 新型コロナウイルスの影響で減便が続く中、人件費を抑え、雇用を確保するねらいがある。 全日空が提案しているしくみは、国際線は勤務日数が 2 割減と 5 割減、国内線は 5 割減になる三つのパターン。 国内外の 5 割減を選べば地方居住が可能となる。

全日空に約 8 千人いる客室乗務員の大半は、規則によって発着便数が多い羽田、成田両空港の近くに住んでいる。 新しいしくみを選べば、出身地で副業に就いたり、配偶者の転勤に同行したりすることも可能となる。 休日も国際線は半年前、国内線なら 1 年前に決まるようになり、副業もしやすくなる。 現在は月末にならないと来月の休日が確定しないため、副業などがしにくかった。 新型コロナによる減便で、客室乗務員は勤務日数が減っている。 乗務するたびに支給される手当も減り、収入の減少がほかの社員より大きくなっている側面がある。 全日空としては、需要が回復したときに備えて、一定の客室乗務員はつなぎとめておく必要がある。 このため、時限的に地方居住の容認という働き方の多様化を認めることにした。 (木村聡史、asahi = 11-28-20)


JTB、グループ 6,500 人削減 4 - 9 月期最終赤字 781 億円

JTB は 20 日、2020 年 4 - 9 月期の連結決算で、最終損益が過去最大となる 781 億円の赤字(前年同期は 43 億円の黒字)になったと発表した。 業績の急激な悪化をうけ、国内の店舗を統廃合などで 115 店舗削減するほか、早期退職や自然減などでグループ人員を全体の約 2 割にあたる 6,500 人を削減する方針も発表した。 コロナ禍で旅行需要が急減したことが経営を直撃している。 売上高は前年同期比 81% 減の 1,298 億円。 営業損益は 710 億円の赤字(同 64 億円の黒字)となった。 収益の柱である国内旅行の売上高が同 85% 減の 399 億円、海外旅行も同 91% 減の 218 億円にとどまったことが響いた。

構造改革として 21 年度までに経費を中心にコストを約 1,400 億円改善する。 国内店舗数は 19 年度比で 25% 減らす。 国内のグループ会社を統合や売却などで 10 社以上削減するほか、海外のグループ会社でも 190 拠点以上減らす。 また、現在 2 万 9,000 人いるグループ人員は 21 年度に 2 万 2,500 人まで減らす。 22 年度の新卒採用も見合わせることも加味して国内で 2,800 人、海外で 3,700 人を減らす目標だ。 詳細は今後詰めるとしている。 役員報酬や賞与も一時的に減らすとしている。

コロナ禍で 20 年初頭以降、旅行需要は急減している。 足元では政府の需要喚起策「Go To トラベル」キャンペーンなどが寄与して国内の個人需要は一部で戻りつつあるが、国内の団体旅行はなお低迷が続く。 世界中で感染が再拡大しており、海外旅行も回復の見通しが立たない。 経費削減に取り組み、まずは黒字化を目指す。 人員削減について山北栄二郎社長は「人材は会社の財産なので、断腸の思いだ。 来期は確実に黒字化する覚悟だ」と話した。 (nikkei = 11-20-20)


ノジマ、JAL・ANA からの受け入れ者向けに研修

家電量販店のノジマは 16 日、日本航空 (JAL) と ANA ホールディングス (HD) から受け入れた社員向けの研修を実施した。 出向者には研修後、ノジマの店舗やコールセンターなどで働く。 新型コロナウイルスによる「巣ごもり需要」で家電販売は好調に推移しており、経営が厳しい航空会社の従業員を受け入れ、人手の確保につなげる。

横浜市のホテルで出向者向けの研修を実施した。 JAL から 125 人、ANA からは 32 人、合計 157 人が参加し、まずノジマの経営方針や接客の心構えについて学んだ。 出向者はノジマの基本業務について約 1 週間研修した後、店頭での接客やコールセンターでの応対など、現場に配属される。 野島広司社長は受け入れた JAL や ANA の社員らに対して「出向は企業留学。 チャンスと思って頑張ってほしい。」と話した。 (Nikkei = 11-16-20)


青山商事、希望退職 400 人募集 80 店閉店へ

紳士服最大手の青山商事は 10 日、400 人程度の希望退職者を募集すると発表した。 同社が希望退職を募るのは初。 単体正社員の約 1 割に相当する。 同日、2021 年 3 月期の連結決算が創業以来最大の最終赤字となる見通しを発表した。 新型コロナウイルスの影響でスーツ販売が苦戦しており、22 年 3 月期までに約 80 店を閉店することも明らかにした。 希望退職は 21 年 3 月 31 日時点で 40 歳以上 63 歳未満かつ勤続 5 年以上の正社員と無期契約社員が対象で、400 人程度を目安に募集する。 募集期間は今年 12 月 14 日から 21 年 2 月 19 日までで、退職日は同 5 月 31 日を予定する。 応募者には割り増しで退職金を支給する。

青山理社長は日本経済新聞の取材に対し「コロナ禍でスーツ需要が一気に落ち込んだ」と話し、約 80 店の閉店計画を明らかにした。 新型コロナの影響で店舗の臨時休業や営業時間の短縮を実施しており、全体の落ち込みを補いきれなかった。 今後は既存店の省人化を進める。 青山商事は 10 日、店舗に関する減損損失など 115 億円を計上し、21 年 3 月期の連結最終赤字が 292 億円(前年同期は 169 億円)になりそうだと発表した。 通期で初の無配となる。 店舗の営業は再開したが、在宅勤務の普及や結婚式などの自粛が響く。 (nikkei = 11-10-20)


CA が「アンテナショップ」に派遣 … 社内から「非難轟々」の日本航空
しかも手当もなにもない …

苦肉の策

「便数激減で、大半の CA (客室乗務員)は乗務手当がほぼゼロの状態。 そこにきて、慣れない仕事に配置換えして手当も支払わないなんて …。」 不満の声を上げるのは、JAL の現役 CA だ。 JAL は 11 月から、新事業「ふるさと応援隊」を始めると発表した。 長引くコロナ禍で、同社の国際線は約 88% の減便となっている。 そのせいで余剰人員となった CA に、乗務以外の仕事を割り当てる苦肉の策だ。 具体的には何をするのか。 JAL 幹部が言う。 「全社で約 6,000 人の CA のうち約 1,000 人に、月に数日は客室乗務をしてもらいながら、残りの日は全国の観光地のイベントの手伝い、特産品 PR などに携わってもらう予定です。」

この唐突な配置転換策に JAL 社内でブーイングが広がっている。 理由のひとつは、業務内容がはっきりしないことだ。 同社中堅社員が話す。 「ANA が 10 月 7 日に『賃金 3 割カット』を発表したのを見て、『ウチもコロナ対策を出さないと』と、生煮えのまま焦って発表した施策なんです。 アンテナショップで働くという話も出ていますが、販売のプロでもない CA をいきなり現場に投入して、効果が上がるとは思えない。 コンパニオンをさせるつもりか、という声すらある。」 もうひとつ不満を招いているのが、冒頭の CA も述べた通り、馴染みの薄い地方に派遣され、全く新しい仕事を割り当てられるのに、手当などは支給されないこと。 彼女らの窮状はまったく改善しないのだ。

いま CA の懐事情は極めて厳しい。 コロナ前には東京五輪に備えた国際線増便で、月収 30 万円を超えるのが普通だったが、現在はほぼ基本給のみが支払われている状態だ。 「若手は手取り 15 万円ほどで、最低賃金並みです。 パイロットには、コロナ禍でも 30 万円以上の給与が保障されているのに。(冒頭の CA)」 別の CA も、今回の新事業について「家賃を払うのにも苦労している最中、タダ働き同然の仕打ちでがっかり」と肩を落とす。 コロナは、女性の「憧れの職業」をも徐々に破壊している。 (現代ビジネス = 11-2-20)


ANA、社員 3,500 人削減へ 一部は他社に出向を要請

ANA ホールディングス (HD) が、外部企業に社員の出向受け入れを要請したことがわかった。 定年退職による自然減や、新規の採用活動の停止、希望退職などとあわせ、2022 年度までに 3,500 人程度の要員削減を見込む。 27 日に発表予定の構造改革では、人件費の削減や保有している飛行機の処分などで計 1 千億円以上のコスト削減策を示す。

ANA グループの社員は 6 月時点で約 4 万 5 千人。 新型コロナウイルスの影響で経営が厳しくなる前から、定年退職や早期退職で毎年 3 千人弱の自然減があり、採用でこれを補っていた。 ANA はすでに来春の新規採用を見送ることを決めており、希望退職も募集している。 さらに別の企業に社員を出向させることで、コロナ禍で余分となった社員を減らし、スリム化をはかる。

人件費については要員減に加え、賃金カットや一時金(ボーナス)の減額で、年収平均で 3 割減となる削減策を労働組合に提案している。 また、大型機を中心に 30 機程度の飛行機を処分する計画で、整備費などの固定費も抑える。 これらによって、コストを計 1 千億円以上減らす計画だ。 また、マイレージ会員の情報を旅行商品や保険などの事業に生かすため、来春までに子会社を再編することも新たに明らかになった。 子会社の「ANA セールス」の旅行事業と、マイレージの運営を担う「ANA X」を来春をめどに統合する。 主力の航空事業以外の分野もてこ入れする。

ANA は、新型コロナの感染拡大で航空需要が低迷。 今年 4- 8 月の旅客数は、国際線が前年同期比 96.3% 減となり、国内線も回復基調に転じているが今も例年並みには回復していない。 27 日には、21 年 3 月期の最終的なもうけを示す純損益が、通年で 5 千億円前後の赤字(前年は 276 億円の黒字)になる見通しも発表する方向だ。 赤字額は、これまで最大だったリーマン・ショック後の 10 年 3 月期(573 億円)を、大きく上回る規模で構造改革が急務となっている。 (asahi = 10-25-20)


JTB、国内 480 店を 5 年で 2 割減へ 要員縮小も視野

旅行業界最大手の JTB が国内店舗の改革に乗り出す。 2019 年度当初に 480 あった国内店舗をおよそ 5 年かけて 2 割減らすとともに、オンラインでの接客を活用し、既存店舗の規模も見直す考えだ。 新型コロナウイルスの影響で業績悪化に苦しむ中、コスト削減とともにデジタル化も進めて効率的な店舗運営に切り替える。

山北栄二郎社長が朝日新聞の取材に明らかにした。

およそ 100 弱の店舗閉鎖を想定しているが、具体的にどの店舗を閉めるかは今後詰めていく。 店舗の閉鎖にあわせて、社員の配置転換なども進める。 山北社長は「ある程度の要員縮小はしていく。 いろんなオプションを(社員に)提供するような形にしたい。」と話した。 JTB は全国の主要都市に店舗を展開している。 多くに国内、海外の専門スタッフを配置する「総合デパート」のような店舗運営を売りにしていた。 今後は専門性の高い部署が、必要に応じてオンラインで接客をサポートできる仕組みを構築し、効率化をはかる。

新型コロナの感染拡大以降、旅行需要は一気に落ち込んだ。 JTB も緊急事態宣言の期間は店舗の休業を余儀なくされた。 国内旅行は、政府の観光支援策「Go To トラベル」などの効果で回復傾向にあるものの、販売単価が高い海外ツアー旅行などは回復の見通しが立っていない。 山北社長は「(旅行需要が)完全に回復するのは少し長い時間がかかる。 店舗の数を絞るとともにフル装備の店舗を、デジタルをベースにした軽い構造に変えていく。 スピード感をもってやっていきたい。」と述べた。

観光庁による大手旅行業者の旅行取扱額によると、JTB の 4 - 8 月の取扱額は 845 億円。 前年同期と比べて 88% 減と大きく落ち込んでいる。 JTB は、社員約 1 万 3 千人に対し、冬の賞与(ボーナス)をゼロにすることを労使で合意済みだ。 資金繰りについても「春に 1,400 億円の資金手当てをした(山北社長)」という。 旅行業界では、取扱高の 8 割が海外関連というエイチ・アイ・エス (HIS) が、国内店舗約 260 店のうち、都市部を中心に 3 分の 1 ほどを来夏をめどに閉鎖すると明らかにしている。

旅行客の減少は航空業界への影響も大きい。 全日本空輸 (ANA) は、大幅な減便だけでなく、賃金カットやボーナスの削減により、社員平均で年収 3 割減となる人件費削減策を労働組合に提案している。 (木村聡史、asahi = 10-17-20)


ANA と JAL 「希望退職」実施をめぐる決定的な差
両社の対応がわかれた「2 つの要因」とは?

ついに雇用維持の限界がきた。 ANA ホールディングス傘下で国内航空最大手の全日本空輸は 10 月 7 日、退職金の割り増しによる希望退職の募集を労働組合に打診した。 2013 年度には同様の条件で希望退職を募り 40 人が応じたが、今回の募集人員の規模に定めはない。 7 月末の決算会見で ANA の福澤一郎常務は「雇用を守りながらこの危機を乗り越えるという基本方針は変わっていない」と語っていた。 だが、本格的な航空需要の回復期が見通せず、ついに方針を転換した。

今回、希望退職のほかにも、今冬の一時金をゼロとすることや、一般社員の月給の減額も提案。 夏季一時金が従来比 50% 減となったこともあり、社員の年収は前年比約 3 割減となる見込みだ。 ほかにも、スキルアップなどの条件付きだった最大 2 年間の無給休業制度を、事由を問わない形に切り替える。

JAL は人員削減を否定

全日本空輸は 2020 年 3 月末時点で 1 万 4,830 人の従業員を抱える。 ただ、新型コロナウイルスの影響で 4 - 8 月までの旅客数は国際線で前年同期比 96.3% 減、国内線も同 82.2% 減と大きく低迷している。 ANA の資金総額は 2020 年 6 月末時点で現預金と有価証券、融資枠を合わせて 1 兆円を超えるが、前 2020 年 3 月期決算をもとにすると、固定費だけで月に約 800 億円の現金が流出する。 今第 1 四半期(2020 年 4 - 6 月期)だけで1088億円の純損失を計上し、純資産9743億円の侵食も進む。

ANAが人員削減に踏み切る一方、気になるのはライバルである日本航空(JAL)の動向だ。 同社の赤坂祐二社長は、奇しくも ANA 内で希望退職が提案された同日に開かれた定例会見で、人員削減について「まったくそういう考えはない。 必ず航空需要は戻るので準備をしっかりする。」と雇用維持を貫くと明言した。 2 社の対応がわかれた要因は大きく 2 つある。 まずは財務格差だ。 JAL は 2010 年の経営破綻後、5,215 億円の債務免除で財務の健全化が進んだ。 6 月末時点で ANA の有利子負債は 1 兆 3,589 億円、自己資本比率は 33.9% であるのに対し、JAL はそれぞれ 5,046 億円、45.9% と差がある。

とくに JAL は、1 年以内に返済や償還が必要な短期の有利子負債が 6 月末時点で 507 億円と非常に小さい。 2021 年 3 月期から IFRS (国際会計基準)に移行していることもあり、「自己資本比率は日本基準だとさらに 8 - 9 ポイント高い(JAL の菊山英樹専務)」という。

もう 1 つがコードシェアと自社便をめぐる戦略の違いだ。 コードシェアとは、提携相手の運航便を自社便として扱い、座席を販売し合う仕組み。 ここ数年、JAL は自社便の代わりにコードシェアの提携先を急拡大してきた。 例えば、ある海外エアラインが羽田に就航する際、JAL とコードシェアすればその販売網を活用し、より多くの日本人に座席を販売できる。 逆に JAL 側は、自前で就航するのに必要な機材投資や固定費を抑えつつ、事実上の新規就航や増便ができる。 直近 2 年間だけでも JAL は海外エアライン 12 社とコードシェアを始めた。

一方、同期間に ANA がコードシェアを開始した提携先は 2 社にとどまる。 ANA は自社便の運航規模拡大に力を注いできたこともあり、直近 2 年間で機材など固定資産の増加額が年間 3,500 億円超と、JAL の同 2,000 億円台前半を上回る。 ANA のように自社の販売網だけで満席にできる都市を探し出し、自社便を飛ばして収益の丸取りを図るのが市場の拡大局面における王道だ。 6 年前は JAL の営業利益が ANA よりも約 1,000 億円大きかったが、自社便の強化で 2019 年 3 月期には約 100 億円差まで縮まるなど、ANA が JAL を猛追してきた。

だが、自社便戦略は需要が急減すると固定費が重くのしかかる。 期末に新型コロナが直撃した 2020 年 3 月期の営業利益は JAL が 1,006 億円、ANA が 608 億円と、再び約 400 億円の差が開いた。 JAL は「いたずらにシェアを拡大する経営は行わず、リスク耐性を保てる健全な範囲での成長を意識してきた(菊山専務)」と強調する。

カギを握る ANA の事業構造改革

ANA の今後を占うのが、10 月末の決算と同時に発表される事業構造改革だ。 全日本空輸で常勤顧問を務める藤村修一氏(運輸総合研究所の客員研究員)は 8 月、同研究所が主催するイベントにおいて「ほとんどの海外同業は(新型コロナの影響が) 4 - 5 年続くとみて、事業規模を小さくして再出発したいと考えている。 日本の航空会社も基本的なコンセプトは同じだ」と含みを持たせており、ANA が国際線をどこまで縮小するかが焦点になる。

それに伴い、中期的な余剰人員の発生は避けられない。 すでに JAL は、業務量の減っている約 1,000 人の客室乗務員を地方の観光振興と兼業させる「ふるさと応援隊」の結成を発表し、人員配置における取り組みを見せている。 ANA も雇用の維持に向けて、大胆な従業員の適正配置が急務だ。 (森田宗一郎、東洋経済 = 10-13-20)

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ANA、副業拡大へ 他社と雇用契約可能に

全日本空輸 (ANA) が従業員に認める副業の範囲を大幅に広げる方針を固めたことが 10 日、分かった。 勤務時間外にパートやアルバイトなどとして働く雇用契約を他社と結べるようにする。 ANA は新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が悪化し、一般社員の年収を平均約 3 割削減する方針で、副業によって収入を確保しやすくする。 来年の開始を想定し、労働組合に提示した。 対象はパイロットや客室乗務員を含む全従業員約 1 万 5,000 人。 現在は家庭教師など個人事業主の立場での副業を認めているが、制度はあまり活用されていない。 範囲拡大には、副業で得た経験を自社の業務に生かしてもらう狙いもある。 今後、持ち株会社 ANA ホールディングス傘下の各社でも検討する。 (jiji = 10-10-20)

◇ ◇ ◇

ANA、賃下げと賞与ゼロを労組に提案 希望退職も

全日本空輸 (ANA) が 7 日、社員の基本給の引き下げと、冬の一時金(ボーナス)をゼロにすることを労働組合に提案したことがわかった。 すでに実施している夏の一時金の減額と合わせ、年収ベースで平均 3 割減になるという。 併せて退職金を割り増す希望退職も募る。 新型コロナウイルスの影響で航空需要が激減。 業績が悪化しており、コスト削減が急務だった。 基本給の削減率や、希望退職の規模は明らかになっていない。 希望退職については、パイロットは対象外という。

ANA は新型コロナの影響がなかった 2018 年度、夏と冬の一時金を合わせて月例賃金の 6 カ月分を支給していた。 だが新型コロナの影響で経営状況が悪化。 グループ全体で、今年 4 - 6 月期の旅客数は前年同期と比べて国内線で 88.2% 減、国際線で 96.3% 減に陥り、純損益で過去最大となる 1,088 億円の赤字を計上していた。 このため今年の夏の一時金は 1 カ月分に減額。 新型コロナの収束が見通せないことから、さらなる人件費削減の提案に踏み切った。 ANA の社員は 1 万 5 千人。 グループの 3 万 3 千人にも、同様の人件費削減策を提案する方針だ。 (木村聡史、asahi = 10-7-20)


三菱自動車、国内で 500 人規模の希望退職募集へ 新型コロナ影響

業績が低迷している三菱自動車工業は国内で働く従業員を対象に 500 人規模で希望退職を募集する方針を固めました。 新型コロナウイルスの影響などで今年度 3,600 億円の最終赤字になる見通しで、合理化によって立て直しを急ぐねらいです。

三菱自動車工業は新型コロナウイルスの影響などで販売が落ち込み、昨年度の決算が 257 億円の最終赤字になったうえ、今年度の赤字は 3,600 億円になる見通しを示しています。 関係者によりますと会社は 11 月にも 45 歳以上の従業員を対象に 500 人規模で希望退職を募る方針を固めました。 海外ではすでに募集を始めていますが、今回は本社や愛知県の岡崎製作所、岡山県の水島製作所など国内で募集する見通しです。

三菱自動車は、四輪駆動車ブームをけん引したパジェロの生産終了を決めたほか、世界にさきがけて量産を始めた電気自動車、アイ・ミーブの生産も終了する方向で調整するなど合理化を進めています。 新型コロナウイルスの影響が長期化するおそれがある中、会社では、合理化と希望退職による人件費の削減で立て直しを急ぐとともに販売のシェアが比較的高い東南アジアの事業に力を入れることにしています。 (NHK = 9-26-20)


USJ、アルバイトの契約更新せず コロナ影響で入場減

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)の運営会社が、園内で働くアルバイトの契約更新を取りやめていることが 16 日、分かった。 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、早期の入場者数の回復が厳しいとみて、人件費の削減を進める考えだ。 運営会社によると、更新しない対象は、グッズ販売やレストランの接客などのアルバイト全般。 今月から一部のアルバイトの契約更新を見送っているという。 USJ の従業員は約 1 万 1 千人で、うち約 9 千人をアルバイトが占めている。

USJ は 2 月末に臨時休業。 6 月以降、来場者の地域を限定するなどして営業を段階的に再開し、7 月からは全国の来場者を受け付けている。 ただ、感染対策として来場者数を通常の客数の多い日の半分以下に抑えている。 新型コロナの影響で東京ディズニーリゾート (TDR) を運営するオリエンタルランドも、約 4 千人いる正社員と嘱託社員の冬の賞与を 7 割削減することを明らかにしている。 イベント中止で仕事がなくなったとするダンサーらには配置転換や退職を求めるという。 (神山純一、asahi = 9-16-20)


雇用者報酬下げ幅最大 「成長と分配の好循環」止まる

日本経済が戦後最悪のマイナス成長に沈んだ 4 - 6 月期は、賃金の総額である雇用者報酬も前期比 3.7% 減と過去最大の落ち込みになった。 新型コロナウイルス禍で 1 人当たりの賃金と雇用者数がともに減った。 物価変動を除く実質の雇用者報酬はリーマン危機後の底だった 2009 年 4 - 6 月期でも 2.0% 減。 統計をさかのぼれる 1994 年以降でこれまで最も下げ幅が大きかったのは、02 年 4 - 6 月期の 2.2% 減だ。 当時は失業率も高かった。

12 年末に発足した第 2 次安倍晋三政権は「成長と分配の好循環」を掲げ、企業に賃上げを促してきた。 首相は先の通常国会で「6 年間で雇用は 380 万人増加した」と強調した。 雇用者報酬は前年比でみると 1 - 3 月期まで 5 年間ずっとプラスだった。 4 - 6 月期は一転、3.3% のマイナスとなった。

雇用者数を季節による変動を差し引いて集計すると、6 月までの 3 カ月で 145 万人減った。 企業活動の停滞で、非正規従業員の雇い止めなどが広がった。 1 人当たりの現金給与総額も残業代の減少などを受けて 6 月に前年同月比 1.7% 減と低迷する。 20 年の春季労使交渉の賃上げ率は前年より縮み、今夏のボーナスも鉄鋼や鉄道などを中心に減った企業が多い。

4 - 6 月期の雇用者報酬の減少は金額にすると 2.6 兆円程度。 仮に 1 年間回復しなければ 10 兆円規模の減額となる。 計 12 兆円あまりの定額給付金の効果が薄れると家計はいよいよ厳しくなる。 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「20 年度の家計の可処分所得は給付金が押し上げ、21 年度は反動で落ち込む。 雇用所得環境の悪化が消費の回復を遅らせる可能性が高い。」とみる。 分配が減り、成長の妨げになる悪循環が忍び寄る。 (nikkei = 8-20-20)


コロナで解雇や雇い止め、3 万人超に 宿泊・飲食業多く

新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止め(見込みを含む)にあった人が、1 日時点で 3 万人を超えたことを厚生労働省が 2 日、明らかにした。 増加ペースはやや遅くなったが、政府の緊急事態宣言が解除された後も、雇用への打撃の広がりは収まっていない。 厚労省は 2 月に集計を始めた。 4 月末の時点では 4 千人弱だったが、その後は急増し、3 週間後の 5 月 21 日に 1 万人を突破。 その 2 週間後の 6 月 4 日に 2 万人を超えた。 そこから今回、7 月 1 日に 3 万 1,710 人で 3 万人を超えるまでは、約 4 週間かかった。 ただ、各地の労働局が把握できた分に限られており、実際はさらに多いとみられる。

直近で内訳が分かる 6 月 26 日時点の 2 万 8,173 人をみると、業種別では宿泊業(5,613 人)が最も多く、飲食業(4,194 人)、製造業(4,133 人)が続いた。 地域別では、東京都(4,571 人)、大阪府(3,248 人)、北海道(1,348 人)の順に多かった。 1 週間で増えた人数の約 65% を非正規の働き手が占めていた。 また 5 月に失業手当を受け取り始めた人は 14 万 3,696 人で、前年同月より 13% 増えた。 新型コロナが影響しているとみられる。 (滝沢卓、asahi = 7-2-20)


「失業予備軍が大量に …」  コロナ休業なお 423 万人

新型コロナウイルスによる打撃が一層深まった 5 月の雇用統計。 さらに失業者が増える恐れがある中、企業同士が業種を超えて連携して、雇用をつなぐ試みも広がっている。 総務省によると、会社から仕事を休まされた休業者は、4 月下旬の時点では 597 万人いたが、5 月下旬の時点では 423 万人に減った。 緊急事態宣言が順次解除されていくなか、職場に戻る動きも広がった。 ただ、総務省が一定数の休業者を分析したところ、4 月下旬に休業していた人のうち、5 月下旬の時点で仕事に戻った人は約 4 割。 約 5 割は休業したままで、仕事を失ったり離れたりした人が約 7% いたという。 さらに、新たに休業した人も加わっている。

三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの小林真一郎・主席研究員は「失業予備軍が大量にいることに変わりない。 6 月末に契約が切れる非正規の働き手を中心に、休業者から失業者に転じる可能性があり、予断を許さない。」と指摘する。 企業が働き手の雇用を維持して休業手当を払った場合に支援する政府の雇用調整助成金は、6 月 29 日時点で、29 万 7 千件の申請に対して 19 万 3 千件が支給決定された。 厚生労働省によると、1 事業所あたりの従業員数は平均 19 人で、働き手ベースではのべ約 366 万人に払われた計算になる。

休業手当を受け取れていない中小企業の働き手に向け、月 33 万円を上限に休業前の賃金の 8 割を給付する「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」も創設が決まったが、申請の受け付けなどの詳細はまだ明らかになっていない。 加藤勝信厚労相は、30 日の閣議後会見で「システムの整備にもう少し時間がかかっているが、7 月上旬に申請受け付けを開始できるよう作業を進めている」と述べた。

すすむ人手のシェアリング

現場では、仕事の減った職場と人手不足の職場が連携する動きも出ている。 大手居酒屋チェーン「塚田農場」の東京都内の店舗で責任者を務める佐藤亜希子さんは、店が休んだ 5 月いっぱい、小型スーパー「まいばすけっと」に出向して週 3 - 4 日働いた。 仕事はレジ打ちや品出し。 「戸惑ったが、慣れると負担は感じなかった。」 スーパーの給料と居酒屋の休業手当を合わせると、以前と同じ収入になった。

塚田農場を運営するエー・ピーカンパニーは、4 月 2 日から全店を休業。 そこで緊急事態宣言中も仕事が増えたスーパーや物流など計 13 社に、社員 690 人のうち 400 人超をあっせんした。 閉店が続く一部店舗の従業員らは今も出向中だ。 一方、外出自粛で利用が急増した「まいばすけっと」は人手不足を補うため、複数の飲食業者から計約 200 人を受け入れた。

IT 業界も工夫を凝らす。 レジャー予約サイト運営「アソビュー」の営業担当の大石真実さんは、オンライン診療システムを手がける「メドレー」に 5 月から出向して営業を担当している。 「学ぶことも多く、来て良かった。」 アソビューは緊急事態宣言後、売り上げが激減。 山野智久社長は、解雇を選べば「従業員に『ベンチャーなんて行かなければよかった』という思いを抱かせる」上、組織を作り直すのにも時間がかかると考えた。 そこで、巣ごもりや在宅勤務の広がりで需要が急増したオンラインサービスなどの企業に従業員を出向させて、雇用を保ちつつ本人の成長にもつなげてもらうことにした。

山野社長が考案した仕組みを引き継ぎ、現在、仲介役を担っているのは一般社団法人「災害時緊急支援プラットフォーム」。 東京の IT 企業を中心に、出向元として10 社超、出向先として 70 社ほどが登録する。 期間は原則 1 年で、給与は出向先企業が全額負担し、出向前の水準を保つことが原則だ。 終了後、本人と出向先の双方が希望すれば、転籍も認めるという。

こうした「シェアリング」の動きを、日本総研の山田久・主席研究員は「異なる分野で働くことで経験が広がり、元の仕事に復帰したときにプラスになるだろう。 たとえば旅館が農業体験を売り出すなど、産業の融合が進むきっかけになる。」と注目する。 一方、労災が起きた時に責任があいまいになるなどの心配もあるため、「政府が指針などのルール作りに乗りだし、民間の動きを後押しするべきだ」と提案する。 (若井琢水、鈴木友里子、岡林佐和、asahi = 7-1-20)


在宅勤務、あっという間に大変化 気づけぬサービス残業

「移動減り、考える時間増えた」 でも …

6 月上旬の平日午前 8 時、パナソニック社員の神村圭さん (32) は、都内の自宅で仕事を始めた。 向かうのはかつて物置だったスペース。 長時間のパソコン作業に耐えられるよう、ネット通販で約 1 万円のイスを買い、即席の「仕事部屋」に仕立てた。 まずは、オンラインでこの日の仕事内容を同僚と共有。 その後も、打ち合わせがオンラインで続く。 コーヒー休憩や昼食を挟み、午後 2 時からはオンライン営業。 飲食店向けの機器を顧客に売り込んだ。

2 月下旬に在宅勤務になって以降、外回りをバリバリこなしていた神村さんの仕事や生活のスタイルは 180 度変わった。 東京・汐留までの往復 2 時間の通勤時間や、外回りの移動時間はゼロに。 「移動が減り、考える時間が増えた。」 妻と 1 歳の長女と食事ができるようになり、週 3 回は長女をお風呂に入れている。 一方で、課長職の神村さんが心配しているのが、部下とのコミュニケーション不足だ。 週に 1 度、誰でも参加できる雑談時間をネット上で設け、仕事の悩みを聞くようにした。

パナソニックでは 4 月 7 日の緊急事態宣言以降、原則在宅勤務とした。 宣言解除後も積極的な活用を求めており、神村さんの職場ではまだ 9 割程度の社員が在宅勤務だという。 人と人との接触を避ける新型コロナウイルス対策を求められ、企業は在宅勤務の壁になってきた対面重視の日本の商慣行を見直さざるを得なくなった。 その結果、会社も働き手も通勤や会議の時間の削減など、生産性の向上につながる利点を実感した例は多い。

日本より厳しい行動規制が行われた欧州では、在宅勤務のルールを定める法制化の動きも出てきた。 ドイツや英国で、労働者が企業に在宅勤務を求める権利を法律で定めることなどが検討されている。 日本ではそこまでの動きは見られないが、家電製造や保険など、業種によっては在宅勤務の人が 7 割超という民間調査もあり、第 2 波の予防策としても定着しそうだ。 だが、多くの企業がコロナを契機に在宅勤務を急拡大させたため、今後解決するべき課題は多い。 在宅勤務は労働時間の管理が難しく、サービス残業につながりやすい。 いまは労働時間に応じて賃金を支払う給与体系の企業が多く、仕事の成果をどうはかるかを見直す動きも出てきている。

日立製作所は来年 4 月以降も国内従業員約 3 万 3 千人の出社率を半分にとどめる一方、人事制度の転換を打ち出した。 仕事の内容で従業員を採用する欧米流の「ジョブ型」に転換し、労働時間ではなく、成果に応じて評価や賃金を決めるという。 経団連会長も務める日立の中西宏明会長は「在宅勤務で勤務時間を管理しても意味がない。 成果で働き方を決める方向に行かないとダメだ。 もう元の働き方には戻れないし、戻しちゃいけない。」と言い切る。 だがそれは、労働時間規制を緩和し、成果主義の徹底をめざしてきた財界の従来の主張と重なる。 それだけに、在宅勤務の労働者を守る制度をどう整えるのかは、コロナ時代の働き方改革の大きな課題になる。

「在宅」 できない人たちは

働き方の見直しが進むなか、どうしても感染リスクと隣り合わせで働かざるを得ない「エッセンシャルワーカー」の待遇も課題になる。 「小田原の倉庫内で感染者が出て、従業員に不安が広がった。」 ネット通販大手アマゾンジャパンの首都圏の倉庫で働く男性は、3 月下旬ごろの様子をそう話す。

同社の神奈川県小田原市内の倉庫は国内でも最大級。 ここで 3 月下旬から 4 月上旬にかけ、感染者が 2 人出た。 1 人目の感染発覚後、作業はいったんストップしたが、半日後には再開。 関係者によると、濃厚接触者や感染経路について従業員に知らされたのは、約 1 週間後。 同社は 1 月ごろから従業員の間を 2 メートル開けるなどの対策を取っており、感染発覚後はさらに対策を強化したという。 米国では、アマゾンの従業員らが感染予防策の強化を求める抗議活動も盛んになったが、日本では同様の動きは見られない。 アマゾンジャパンの直接雇用ではなく、協力会社の従業員が大半で、「声を上げづらい仕組みになっている」と男性はいう。

客足が途絶えた飲食店の頼みの綱になった宅配代行サービスでも、配達員の不安は増している。 都内でウーバーイーツの配達員として働く男性 (43) は人通りの多い商店街を自転車で通るたびに、感染のリスクを感じる。 商品を受け取りに、飲食店がある商店街や狭い路地を通らざるを得ないことは多い。 配達員からマスクや消毒液の配布を求める声が上がり、ウーバーもこれに押される形で 4 月下旬、約 90 万枚のマスクを配布すると発表した。 男性は「物流や宅配はもはや社会のインフラ。 在宅勤務できない私たちには、それなりの手当があってもいい。」と話す。

「カスハラ」深刻、疲労はピークに

小売りや外食などの労組を束ねる日本最大の産業別組織「UA ゼンセン」は 5 月 27 日、現場の労働者の安全確保に関する要請書を加藤勝信厚生労働相に手渡した。 ゼンセン傘下の労組の働き手の多くは、スーパーの店員や配達員らエッセンシャルワーカーで、疲弊がピークに達していた。 「働いているお店の売り上げ減少が深刻」、「感染回避のための出勤減で、長時間労働や休日出勤が増えている。」 来店客から従業員への迷惑行為「カスタマーハラスメント」も深刻だった。 「従業員はマスクをしているのに客には売らないのか」、「釣り銭を手渡しするな」と客から非難されることもある。

大手スーパーやドラッグストアでは、従業員に特別ボーナスを出す企業も出ているが、まだまだ限定的な動きに過ぎない。 日本企業はリーマン・ショック後、得られた利益を配当増などで株主に還元しつつ、残りを手元にため込んできた。企業の「内部留保」(利益剰余金)は 2018 年度、約 463 兆円で 7 年連続過去最高を更新したが、働き手の取り分である労働分配率は低迷したままだ。 コロナ危機で、この流れは変わるのか。 多くの企業が業績悪化に直面するなか、どれだけこうした働き手の待遇改善が進むかはまだ見通せない。 (asahi = 6-30-20)

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