中国などで拡大、謎の小児疾患の正体は「歩く肺炎」か

中国で、子どもを中心に謎の疾患が流行していることが先週報じられて以来、「歩く肺炎 (walking pneumonia)」の主要因であるマイコプラズマ菌が注目されている。 原因には呼吸器合胞体ウイルス(RS ウイルス)、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症が挙げられているが、おそらく最も重要なのがマイコプラズマ菌だ。

中国メディアは、国内の小児科病院の一部が患者であふれていると報じた。 肺炎症例の波は国内各地へと拡大。 世界保健機関 (WHO) は中国に対し、推定される感染源の詳細情報の報告を求めた。 これまでのところ中国当局は、既知の病原体であるマイコプラズマ菌、RS ウイルス、インフルエンザ、新型コロナウイルスを病原として挙げている。

マイコプラズマが原因の細菌性疾患は、症状が比較的軽く、発症しても歩けるほどであることから「歩く肺炎」と呼ばれているが、症状は数週間続くこともある。 一般に入院を必要としないが、免疫が発達途上にある幼い子どもは重症化するリスクがある。 中国で原因不明の肺炎が拡大し、病院がその対応に追われているという報道は、新型コロナウイルス流行の初期を想起させるものだ。 だが WHO の疫学者マリア・バンケルコフは 24 日のインタビューで「これは 2019 年 12 月と 2020 年 1 月の状況と同じではない」と語った。

中国以外でも、韓国とフランスで同様の肺炎症例が増加しており、主な原因としてマイコプラズマが疑われている。 韓国では、確認された症例数が 10 月中旬から 11 月中旬の間に 2 倍以上となっている。 韓国疾病管理庁が発表した概要によると、11 月第 2 週に急性細菌性呼吸器感染症で入院した患者 236 人のうち 226 人 (96%) が、マイコプラズマ肺炎を発症していた。 特に、新規患者の 80% が 5 歳未満だった点が注目される。 さらに当局は、韓国で寒い気候が早期に訪れたことが、症例の「急速な増加」に寄与した可能性を示唆した。

マイコプラズマ肺炎は、一年中いつでも発症し得るものだが、冬季に増える傾向がある。 北半球でも南半球でも、冬季にはインフルエンザ、風邪(さまざまなウイルスによって起きる)、風邪と似た症状を起こす RS ウイルス感染症が、ほぼ必ず増加する。 細菌感染症にも似たような季節性がある。 細菌感染症は日和見性であると言われ、何らかのウイルスによって免疫系が弱まることで発症する。 たとえば、インフルエンザ、RS ウイルス、あるいは一般的な風邪にかかった人は、上気道や下気道の感染症である気管支炎や肺炎を引き起こすことがある。

新型コロナウイルス感染症が今も広まっていることで、人々の免疫が弱まり、マイコプラズマ肺炎の急増につながっているという説もある。 新型コロナウイルスに感染した人の一部で免疫機能障害が数カ月以上続くことを示す証拠はあるが、新型コロナウイルスが原因の免疫障害がまん延している証拠はない。

一方、新型コロナによるロックダウン中に季節性疾患が減少したことで「免疫負債」が生じ、マイコプラズマ感染の増加につながったという説もある。  現在の中国における状況を受け、WHO は新型コロナの流行により発生した「免疫ギャップ」にも言及している。 ソーシャルディスタンスや移動制限など、新型コロナの拡大を防ぐために講じられた措置が、インフルエンザ、RS ウイルスなどの疾病に対する免疫を弱め、マイコプラズマのような日和見感染を起こしやすくなった可能性があるという考えだ。 (Joshua Cohen、Forbes = 11-29-23)


歩行「1 日 60 分以上」、筋トレ「週 2 - 3 回」で健康に 国が推奨へ

成人は 1 日 60 分以上の歩行、筋トレは週 2 - 3 回 - -。 厚生労働省の専門家検討会は 27 日、健康づくりのために推奨される身体活動・運動の目安となるガイド案をまとめた。 改訂は 10 年ぶり。 身体活動や運動量が多い人は少ない人と比べ、循環器病やがん、うつ病、認知症などの発症・罹患リスクが低いことが報告されている。 ガイド案は、科学的根拠をもとに子ども(18 歳未満)、成人(18 歳以上)、高齢者に分け、推奨する具体的な内容を示した。 個人差もあるため、強度や量を調整し、できることから取り組むよう求めている。

歩行やそれと同じ程度の活動について、成人は「1 日 60 分(1 日約 8 千歩)以上」、高齢者は「1 日 40 分(1 日約 6 千歩)以上」を推奨する。 歩行以外には、卓球やテニス、水泳などの様々なスポーツのほか、階段の昇降や風呂掃除といった日常生活の動きも例示した。 腕立て伏せやスクワット、マシンなど一定の負荷のかかる筋力トレーニングは、成人、高齢者ともに「週 2 - 3 回」を推奨。 高齢者は、ダンスやラジオ体操、ヨガなども含め、安全に配慮し転倒などに注意する。 筋トレの実施により、死亡や心血管疾患、がん、糖尿病などのリスクが、10 - 17% 低くなるとの報告もある。

子どもは、国内でのデータが乏しいため、少し息があがる程度の活動を「1 日 60 分以上」や、有酸素運動など強めの活動を「週 3 日以上」とする世界保健機関 (WHO) のガイドラインの推奨内容を参考として示した。 ガイド案は、デスクワークや、テレビ・スマホを見る際など、座ったり寝転がったりして過ごす時間が長くなりすぎないよう注意を呼びかける。 座りっぱなしの時間が長くなると、死亡リスクが増加するとの研究もある。 座った状態を 30 分ごとに中断するなどし、病気のリスクを下げることも例示した。

厚労省の来年度からの健康づくりのための計画「健康日本 21」では、▽ 日常生活での平均歩数を 20 - 64 歳は 8 千歩(65 歳以上は 6 千歩)、▽ 30 分以上の運動を週 2 回以上実施し、1 年以上継続する人の割合を 20 - 64 歳は 30% (65 歳以上は 50%) - - を目標に掲げる。 ガイドは来年度以降の自治体などの取り組みに使われる。 (神宮司実玲、asahi = 11-27-23)


急拡大「NMN 点滴」、「高用量摂取」にワシントン大・今井教授が警鐘

老化を抑えて寿命を延ばす効果があるのでは - -。 そう期待される物質「NMN」で多くの研究成果をあげてきたのが、米ワシントン大医学部の今井真一郎教授 (58) です。 NMN にはどんな働きがあるのか。最新の研究動向から、サプリや点滴のリスクまで、根掘り葉掘りのインタビューを紹介します。

NMN はどのような物質でしょうか。

「NMN はビタミン B3 として知られるニコチンアミドから生成される物質で、その存在自体は 1960 年代から知られたものです。 体内で生成され、ブロッコリーや枝豆などの食品にも微量が含まれる。 私の研究室では老化や寿命の制御を研究していて、その過程で NMN に着目し、興味深い効能について論文で初めて発表したのが 2008 年でした。」

「老化や寿命の制御に重要な働きをする『サーチュイン』という酵素が、NAD (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という物質によって活性化することがわかりました。 NAD は年齢とともに体内から減っていくが、NMN は NAD の前駆体で、体内で NAD に変わる。歳をとっても NMN を摂取すれば、NAD が増えて様々な効能を見込めると考えたわけです。」

その後、どのような効能がわかってきたのでしょうか。

「NMN が広く知られるようになったのは 11 年の論文がきっかけです。 老化とともに血糖値が高くなり、『2 型糖尿病』になったマウスに NMN を投与したところ、症状の改善が確認されました。 さらに 16 年発表の論文では、健康な大人のマウスでも、中年太りが抑えられ、目の網膜機能や骨密度の低下が抑制されるなど、様々な抗老化作用があることもわかった。 それから世界で多くの研究者が NMN について調べるようになりました。」

「少なくともマウスについては、顕著な抗老化作用があることが確認されたと言えます。 老化にともなう様々な疾患や症状が改善したり治ったりする効能です。 糖尿病やアルツハイマー病、心不全や関節炎、動脈硬化などにも作用があることが確認されています。」

マウスと人の効果の違いは

人に対する効果はどうですか。

「21年に発表したワシントン大のサミュエル・クライン教授との共同研究では、糖尿病の予備軍で肥満・閉経後の女性が NMN を摂取したところ、(血糖を下げる)インスリンの感受性が有意に改善することが確認された。 同時に、骨格筋を再構築する作用も示されました。」

「日本では、お年寄りの歩くスピードや握力が改善したという報告があります。 中国からは、運動時に酸素がより有効に使われるという報告もある。 人への効能も確認されつつある段階です。」

「ただ、フェアに言えば、動物のレベルでは抗老化作用があり、老化関連疾患の改善作用が認められると言えるが、人でも同じかどうかを断定するのはまだ早い。 ある条件や局面では人にも効果があると考えられるが、老化全般に効果があると結論づけるにはもっと研究を進める必要があります。」

高用量摂取は「現時点で反対」

野菜には微量しか入っていない物質を大量に取って大丈夫でしょうか。

「1 日に 0.25 グラム程度なら臨床試験でも安全性が確認されていますが、むやみに多く取るのはよくありません。 高用量の摂取には、私は現時点では反対です。 科学的な知見から言えば、『一定量を超えるとリスクがある』と論理的に類推できるからです。」

どういうことでしょうか。

「ビタミン B3 の過剰摂取は、肝機能の障害を起こす恐れがあります。 一般的なサプリの副作用にも挙げられています。 高用量の NMN は、ビタミン B3 の血中濃度を著しく上昇させるため、長期にわたって取り続けた場合に、何が起きるかはまだ詳しくわかっていない。 そのようなサプリを売る会社はリスクを検証し、自ら安全性を証明する責任があります。」

「ある会社が『1 日 3 グラムを摂取しても安全』とする臨床試験の結果を出しましたが、公表データを見ると『AST』という肝機能の数値が有意に上がっている。 数値は健康の範囲内だが、長く続ければ AST がさらに上昇して肝機能に悪影響を及ぼす可能性を示していると考えるべきではないでしょうか。 肝心の NAD の増加量も、より少量の摂取とほとんど変わらない結果になっています。」

NMN 点滴「リスクに触れていない」

今井さんは点滴での NMN 投与にも警鐘を鳴らしていますね。

「そうですね。 点滴投与の危険性を知らせないまま勧めるクリニックが多いことには強い懸念があります。 そうしたクリニックのホームページでは、米ハーバード大のデビッド・A・シンクレア教授の名前を挙げて、さも彼が点滴療法を開発したかのような宣伝が散見されます。 しかし、デビッド教授は点滴療法を開発も支持もしていないし、公の場では言及もしていません。」

点滴にはどんなリスクがありますか。

「人間の体内には、肝心の NAD を壊す性質を持つ『SARM1』という酵素もあり、高濃度の NMN にさらされることで活性化させる可能性があります。 これは点滴だけでなく、経口での高用量摂取にも当てはまる。 NMN の血中濃度を高めすぎると、NAD を減らす逆効果となる恐れがあります。」

「SARM1 の突然変異も見つかっていて、その変異がやがて運動神経のまひなどを起こすことがわかっています。 高濃度の NMN 投与を長く繰り返すと、同じ症状を起こす恐れがある。 NAD が分解されるときに出る物質を調べればリスクもわかるはずだが、そういう検査は実際には行われていない。 神経障害に至るには時間がかかるので、健常な人の血液を4週間ほど普通に調べたくらいで『安全』とは言えない。 研究が進んで安全性について確証が持てるまではやめたほうがいい、というのが私の見解です。」

NMN の点滴を売り込む広告は多いですよね。

「リスクに触れず、科学的な根拠もない『安全性』を唱える宣伝があふれています。 これは非常に懸念すべき状況です。 だからこそ、私自身も含めて科学者は正しい知識を広めることに努めないといけない。 何が分かっていて、何が分かっていないか。 分かっていない部分でどんな危険性があるかを積極的に発信していこうと思います。」 (聞き手・藤田知也、asahi = 11-9-23)

今井真一郎 (いまい・しんいちろう) 64 年生まれ、慶応義塾大大学院修了。 97 年に渡米し、マサチューセッツ工科大で老化と寿命のメカニズムを研究。 01 年からワシントン大助教授、13 年から同大教授


省エネで飢えしのぐ仕組み解明 マウス寿命延ばす薬の効果にも関連?

生物が生き延びるために重要な「飢え」に対抗する手段の一つを東京大の太田邦史教授らのチームが解明した。 飢えを検知すると、DNA の特定領域の状態を変えて遺伝子が働かないようにしてエネルギー消費を抑えていた。 この仕組みは、動物の寿命を延ばすある免疫抑制剤の作用ともつながっていそうだ。 研究材料は、酵母。 単細胞ながら、ヒトと同じように膜に包まれた核をもつ真核生物だ。 酵母は、栄養が不足すると、DNAの特定の領域が凝集した構造をとり、遺伝子を働かせるスイッチが入らない状態になることをチームは見つけていた。

その領域には、「リボソーム」と呼ばれるたんぱく質の合成工場を作るために必要な設計図が並んでいる。 工場作りのエネルギー消費は非常に大きいことが知られ、栄養がない時に工場作りをやめるのは、エネルギーを節約して生き延びることに役立つ。 では、どのように栄養状態を検知して、工場作りをやめるのか。 チームは、細胞内で栄養状態を伝える役割を果たす分子に注目。 栄養がある状態で、この分子が働かないようにした。すると、栄養不足の時と同じように、たんぱく質工場を作る DNA 領域が凝集した状態になり、工場作りができなくなった。

こうした結果から、栄養不足を検知すると、この分子が働かなくなり、DNA の状態を変えて、飢えに適応していると結論を出した。

ラパマイシンでなぜ寿命が延びる?

今回、重要な役割を果たすとわかったこの分子は「ターゲット・オブ・ラパマイシン(TOR)」。 ラパマイシンは、ラパヌイと呼ばれていたイースター島で採取された土壌細菌が作る物質から開発された薬で、TOR はこの薬が細胞内で作用する標的の分子として見つかった。 TORは、酵母だけでなく、動物ももつ。 ラパマイシンには、抗真菌、免疫抑制や抗がん作用がある。 それだけでなく、マウスの寿命を延ばす効果が確認され、注目を集める。

ラパマイシンに多彩な作用があるのは、TOR が、細胞の栄養状態を検知して、細胞の増殖や成長といった生物の基本的な仕組みにかかわるからだ。 一部のがん細胞では TOR が過剰に働くことも報告されている。 「今回、見つけた仕組みを応用すれば、がんの新しい治療法開発にもつながるかもしれない」と平井隼人特任研究員は話す。

今回の成果は、ラパマイシンで寿命を延ばす仕組み解明につながるかもしれないとチームは期待する。 ラパマイシンで TOR の働きを抑えることは、細胞が飢えている状態と錯覚させることになる。 飢えの状態では、たんぱく質工場を作らないように特定の DNA 領域を凝集させた状態にする。 このDNA領域に複数ある遺伝子が不安定になることが老化の原因になるという報告があるが、凝集によって安定化させる可能性があるという。 「これから研究するテーマがたくさん見つかりました」と太田教授は話す。 論文は米専門誌 セルリポーツ に掲載された。 (瀬川茂子、asahi = 11-8-23)


緊急避妊薬の処方箋なしの販売 11 月 20 日にも一部薬局で試験的に

避妊の失敗や性暴力による望まない妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」について、日本薬剤師会が 11 月 20 日にも全国の薬局約 150 店舗で、医師の処方箋なしで販売する調査研究を始める。 関係者への取材でわかった。 研究期間は 2 カ月ほどで、今年度中に結果をまとめる。 緊急避妊薬は性交後 72 時間以内にのむと、8 割の確率で避妊できるとされる。 現在は医師の処方箋が必要となる。 休日や夜間は薬が手に入りにくいなどの課題が指摘されていて、厚生労働省の専門家会議は今年 6 月、処方箋なしに薬局で購入できる「OTC 化」が望まれるとの考え方をまとめた。

研究は、これを受けたもので、厚労省の委託事業として実施する。 研究の計画案によると、▽ 研修を修了した薬剤師がいる、▽ 夜間や土日祝日にも対応できる、▽ プライバシーが確保できる販売環境がある、▽ 近隣の産婦人科医と連携できる - - といった条件を満たした薬局 2 - 3 カ所が都道府県ごとに選ばれる。 地域によって増える可能性がある。 選ばれた薬局は研究班のホームページで公開する。

販売対象は 16 歳以上の女性で、18 歳未満は保護者の同伴を求める。 薬局は購入希望の女性に対し、薬の説明をしたうえで、研究への参加の同意を得たうえで販売する。 本人に販売し、代理人などへの販売は認めない。 チェックリストに沿って販売できるか判断し、販売する場合はその場で薬をのんでもらう。 販売できない場合は産婦人科への受診を勧める。

使用直後の不安の有無、自宅から薬局までの所要時間、3 - 4 週間後に避妊に至ったかどうかの状況などを尋ねる「事後調査」をアンケートで実施する。 今後、企業から OTC 化の申請があれば、厚労省の専門家部会が開かれ、研究結果の内容をふまえ、OTC 化が適切かどうかを判断する。 (asahi = 10-12-23)

前 報 (5-16-23)


mRNA に「飾り」、ワクチンの革新生んだ技術 日本人研究者も貢献

スウェーデンのカロリンスカ研究所は 2 日、今年のノーベル生理学・医学賞を独バイオ企業ビオンテック顧問のカタリン・カリコ氏 (68)、米ペンシルベニア大のドリュー・ワイスマン教授 (64) に贈ると発表した。業績は「mRNA ワクチンの開発を可能にした塩基修飾に関する発見」。 新型コロナウイルスに対する「mRNA ワクチン」につながる基礎技術が評価された。

新型コロナに対するワクチンは、ほかのタイプも含め、世界で 130 億回以上接種された。 従来のワクチンは、薬品で処理して無害化したウイルスそのものや、ウイルスのたんぱく質を大量につくるなどしてつくっていた。 これに対し、mRNA ワクチンは、たんぱく質そのものではなく、「レシピ」にあたる mRNA を体内に届け、ウイルスのたんぱく質をつくる。 mRNA をワクチンや薬で使うという発想は 30 年以上前からあった。 だが、人工の mRNA は体内では異物とみなされる。 強い炎症反応が起き、狙い通りのたんぱく質を効率的につくり出すことができなかった。

カリコ氏とワイスマン氏は 1997 年に共同研究を始め、ある工夫を mRNA に加えることで炎症を抑えることに成功。 2005 年に論文で発表した。 その工夫とは、mRNA に「飾り」をほどこすことだった。 体の中には、感染に備え、侵入してきたウイルスの RNA を見つけ出す「RNA センサー」がある。 これが警報を出すと炎症などが起こる。 人間の遺伝情報を担うのは DNA で、その一部分のコピーとして、RNA は私たちの体内でも日々つくられている。 mRNA もその一種だ。 ウイルスに由来する RNA と異なり、体内で日々つくられる「自分の RNA」で炎症は起きない。 RNA の一部が、構造の少し異なる物質に置き換わるなどの「飾り」がほどこされていて、これがあると、センサーが反応しなくなるからだ。

カリコ氏らは、人工の mRNA の一部を別の物質に置き換え、「飾り」をほどこしたような状態にした。 すると、自分の RNA であるかのようにセンサーをだますことができ、炎症を防げた。 ファイザー社やモデルナ社のワクチンは、日本での名称には「修飾ウリジン」とついている。 これは、カリコ氏らが着目したセンサー回避の「飾り」を意味する。 mRNA ワクチンの大きな利点は、迅速な開発が可能なことだ。 ウイルスなどの遺伝情報があれば、新たな感染症が流行しても、すぐに対応できる。 新型コロナの mRNA ワクチンは、20 年 1 月にウイルスの遺伝情報が公開されてから、わずか 11 カ月で実用化された。

mRNA の配列、つまりレシピの中身を書き換えれば、様々なたんぱく質を体内でつくらせることができ、変異株にも対応しやすい。 インフルエンザやジカ熱など、ほかの病原体へのワクチンとしてだけでなく、メラノーマ(皮膚がんの一種)や心不全などの治療法としても期待され、臨床試験がはじまっている。 こうした成果の背景には、カリコ氏らだけでなく、何十年にもわたる研究の積み重ねがある。 その一つが脂質ナノ粒子 (LNP) の技術だ。

mRNA はこわれやすい物質で扱いが難しい。 mRNA を閉じ込めて分解から守るカプセルのような LNP は、改良が重ねられた結果、効率的に体内に入り、必要な場所で mRNA を放出するものになった。 実は、LNP 自体にも、免疫を刺激する作用があることが報告されている。 カリコ氏らの「飾り」で人工の mRNA が体内に入ることによる炎症を防ぎつつ、LNP が免疫反応の「スイッチ」を押す。 このことが mRNA ワクチンの高い有効性につながっていると考えられている。

日本人研究者の貢献もある。新潟薬科大の故・古市泰宏さんは約 50 年前、mRNA の先端に「キャップ」と呼ばれる構造があることを初めて報告した。 この構造があることで、mRNA がこわれにくくなり、たんぱく質がつくられる効率も大きく上がることが知られている。 新型コロナの mRNA ワクチンにも使われている。

世界保健機関 (WHO) は今年 5 月、20 年に発表した「緊急事態」の終了を宣言した。 カロリンスカ研究所は「このワクチンが何百万人もの命を救い、さらに多くの人々の重症化を防いだ」として、この発見が「私たちの時代でおきた最大の健康危機のなかで、決定的に貢献した」と評価した。 ワクチンは心筋炎などの副反応も報告されている。 同研究所は 2 日の会見で、一部の人に副反応はみられるものの、「大きな懸念とは考えていない」と述べた。(野口憲太、asahi = 10-2-23)


スギ花粉 9 割減らす薬剤、初の実証実験 30 年の研究、最終段階へ

毎春、多くの国民を悩ませるスギ花粉の飛散を抑える効果のある薬剤を、栃木県塩谷町のスギ林に有人ヘリで散布する実証実験が 26 日にあった。 約 30 年前から研究を続けてきた東京農業大学の小塩海平教授による国内初の大規模な実証実験で、効果が確認されれば技術的な実用化のめどが立つという。 小塩教授は、菓子や豆腐などに使われる食品添加物が主成分の花粉飛散防止剤を民間企業と開発し、農薬として登録した。 昨年からは花粉発生源対策の一環として林野庁から委託・補助を受け、研究は最終段階に入っている。 防止剤は農作物や生態系、土壌への影響は極めて少ないという。

この日は花粉飛散防止剤と同じ成分で、環境への影響が少ない食品添加物混合剤を使った。 2 カ所の町有林のスギ林計 6 ヘクタールに計 3,300 リットルを散布した。 芳賀町のヘリ会社の有人ヘリが 8 回に分け、鬼怒川の水で薄めた二つの濃度の混合剤をノズルを変え、まきながら飛行した。 小塩教授によると、8 月末から 10 月にかけて薬剤をまくと、出来はじめた雄花が茶色くなって枯れ、花粉を約 9 割減らすことができる。 小塩教授は、これまでドローンや無人ヘリを使い、浜松市の限られた本数、面積のスギに薬剤を散布し、効果を確認している。

日本では 1963 年、日光市で初めてスギ花粉症患者が確認された。 国内には 440 万ヘクタールのスギ林があるが、林業者の高齢化や人手不足により間伐や枝打ちが追いつかない。 そのうえ、近年、夏場の高い気温が影響し、花粉の飛散量が増えているという。 小塩教授は「スギを切ったり、植え替えたりする対策もあるが、薬剤の散布が最も効果的に花粉を減らすことができる。 安全性や環境への影響を検証しながら効果を確認したい。」と話している。 (中村尚徳、asahi = 9-27-23)


若年女性に広がる市販薬の過剰摂取 救急搬送122人「氷山の一角」

市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)で救急搬送された人は、2021 年 5 月 - 22 年末に全国 7 救急医療機関で 122 人いて、10 - 20 代や、女性がともに約 8 割を占めていたことが、厚生労働省研究班の調査でわかった。 「自傷・自殺」目的が最多で、若年女性を中心に乱用が広がっている可能性が示された。 研究班によると、市販薬の過剰摂取による救急搬送に関する疫学調査は初めて。 調査対象以外の医療機関への搬送や、医療につながっていない人も含めると、さらに多くの過剰摂取者がいるとみられ、研究班は「122 人は氷山の一角にすぎない」としている。

市販薬は医師の処方がなくてもドラッグストアやインターネットで購入できる。 一方、依存性のある成分が含まれているものがあり、治療目的以外での使用や決められた回数や量を上回って服用するケースがあった。 こうしたことから、生きづらさを抱える若年者の間で過剰摂取が増えているとの指摘がある。 研究班は、全国の救急医療機関 7 施設から、市販薬の過剰摂取後に救急搬送された 122 人の登録を受け、背景などを調べた。

122 人のうち、男性は 25 人 (20.5%)、女性は 97 人 (79.5%)、平均年齢は 25.8 歳、最年少は 12 歳だった。 10 代が 43 人 (35.2%)、20 代が 50 人 (41.0%) で、20 代までが約 8 割を占めた。 若い女性に多い傾向がみられた。 搬送時の症状は嘔吐や不整脈、意識障害などが見られた。 113 人 (92.6%) が入院、うち 69 人が集中治療室で治療を受けた。 死者はいなかったが、11 人に臓器障害などの後遺症が残った。

薬の入手経路はドラッグストアなどの実店舗での購入が 85 件 (65.9%) で、置き薬 20 件 (15.5%)、インターネットでの購入が 12 件 (9.3%) だった。 ドラッグストアが増え、手軽に入手できるようになっている。 店頭に薬剤師らがいて複数購入できず、3 店舗を回り購入した例があったという。 服用された市販薬は計 83 種類 189 品目。 解熱鎮痛薬が 47 品目 (24.9%)、せき止めが 35 品目 (18.5%)、かぜ薬が 34 品目 (18.0%) だった。 過剰摂取が初めてだったのは 77 人 (63.1%) の一方、3 回以上の「常用」は 33 人 (27.0%) いた。

使用した理由(複数回答可)は「自傷・自殺」目的が 97 件 (74.0%) と最も多く、自由記述には、死にたいわけではなく、「いなくなってしまいたい」、「自らを罰したい」との意見も含まれていた。 「その他」 31 件 (23.7%) の中には、「気分を上げたい」というストレス発散、「楽になりたかった」、「嫌なことを忘れたかった」という現実逃避のほか、「薬を飲みたくなってしまう」と依存がうかがえる意見もあった。

家族などと同居していたのが約 7 割、市販薬の情報をインターネット検索から得ていたのが約 4 割だった。 身近な人に悩みを打ち明けられず、抱え込んでいる例が多いとみられる。 調査にあたった埼玉医大臨床中毒センターの喜屋武(きゃん)玲子医師は「悩みや生きづらさが過剰摂取に走らせるのではないか」と指摘する。 「ドラッグストアで薬剤師らが悩みを聞く仕組みを整えるなど社会全体で支援する必要がある」と話している。

乱用につながる成分を含む市販薬について、厚労省は、購入時に薬剤師らが名前の確認をしたり使用目的を聞いたりする「指定第 2 類医薬品」と位置づけており、今年 4 月からは乱用を防ぐため、その対象範囲を拡大した。 同大の上條吉人・臨床中毒センター長は、指定された成分以外にも乱用につながるおそれがある成分は他にもあり、「厚労省や製薬会社を巻き込んで対策を考えていく必要がある」と述べた。 (米田悠一郎、asahi = 9-8-23)


日本人は「睡眠不足」 女性の 4 割が睡眠 6 時間未満 先進国で最下位

9 月 3 日は関係団体が定める「秋の睡眠の日」。 経済協力開発機構 (OECD) の調査によると、日本は先進国の中で、睡眠時間が最も少ない。 来年度から睡眠時間を増やす厚生労働省の計画も始まる。 OECD による 2021 年版の調査では、日本人の平均睡眠時間は 7 時間 22 分で、33 カ国の中で最も短かった。 寝床にいる時間と実際に寝ていた時間が区別されていない点には注意が必要な調査だが、最も長い南アフリカは 9 時間 13 分、平均でも 8 時間 28 分で、日本の睡眠時間の短さが際立つ。 厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、1 日の平均睡眠時間が 6 時間未満の割合は、男性が 37.5%、女性は 40.6% となっている。

専門家「睡眠量の確保を」

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史・機構長は、「十分な睡眠時間は人によって異なるが、20 代後半以降であれば 6 - 8 時間が必要だ。 睡眠は量を確保することが第一歩になる。」と指摘する。 「日中眠いことを当たり前と思っている人が多いが、居眠りをしたり、仮眠をとらざるをえなかったりする状況は、明らかに睡眠不足だ」と話す。 厚労省の調査では、ほぼすべての世代で「睡眠による休養が十分に取れていない人」の割合が増える傾向にある。 睡眠で休養を「あまりとれていない」、「まったくとれていない」と答えた人の割合は、30 代では 33.4% に上る。

厚労省は来年度から 2032 年度までの「健康日本 21」計画で、睡眠で休養がとれている人の割合を 19 年の 78.3% から 80% へ、睡眠時間が 6 - 9 時間(60 歳以上については 6 - 8 時間)の人の割合を 54.5% から 60% にする目標を設定した。 自治体、保健関係者や国民の取り組みを促す。 柳沢教授は「日本人の睡眠についての考えは世界に比べて周回遅れ。 睡眠を専門とする医師も足りていない」と指摘。 「睡眠時間をあらかじめ確保したうえで、仕事や趣味の時間を考えてほしい」と話す。

ポケモンスリープもヒット

呼吸や脈拍で睡眠の深度を測るアプリや時計が増えている。 株式会社「ポケモン(東京都)」は 7 月、眠ることで、ポケモンを捕まえることができるアプリ「ポケモンスリープ」をリリースした。 全世界で 1 千万人以上がダウンロードしており、「いつもより規則正しく寝るようになった」という声が寄せられているという。 アプリは、睡眠時間などを元に「ぐっすりタイプ」、「すやすやタイプ」、「うとうとタイプ」を判定。 それにあったポケモンの様々な寝顔が集められる仕組み。

開発した小杉要さんは「自分の睡眠タイプによって、毎朝出会えるポケモンに変化が起これば、きっと朝が楽しみになるだろうということで、自分の睡眠が反映されるというアイデアを採用した」と言う。 アプリでは、睡眠をとる時間帯は制限していない。 体内時計が夜型の睡眠リズム障害などの障害をもつ人も楽しむことができる。 理想とするのは、毎日 8 時間半の睡眠で、毎日同じ時間に就寝、起床することだという。 (江戸川夏樹、asahi = 9-3-23)


HPV ワクチン、接種対象者の 3 割が「知らない」 厚労省調査

子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス (HPV) の感染を防ぐワクチンについて、接種対象者の 28% がワクチンを「知らない」と答えていることが、厚生労働省の調査で分かった。 昨年、接種の積極的勧奨が再開されたが、対象者に十分周知されていない現状が明らかになった。 国内で子宮頸がんで亡くなる人は年約 2,900 人。 若くして亡くなったり、治療で子宮を摘出したりすることもある。 HPV ワクチンは子宮頸がんを防ぐため、小学 6 年から高校 1 年相当の女性を対象に 2013 年 4 月に定期接種化された。

だが、接種後に体の痛みなど多様な症状を訴える人が相次ぎ、厚労省は同年 6 月に積極的勧奨を中止。 その後、「多様な症状とワクチンとの関連を示す研究結果は確認されていない」として、22 年 4 月に勧奨が再開された。 積極的勧奨が中断していた期間に、接種が受けられなかった 1997 - 2006 年度生まれの対象者は、公費での「キャッチアップ接種」を受けることができる。 厚労省の調査は、接種の対象者(キャッチアップ含む)や保護者に、今年 1 - 2 月にインターネットで実施。 2,504 人が回答した。

HPV ワクチンについて、対象者本人の 28%、保護者の 9% が「知らない(聞いたことがない)」と回答。 積極的勧奨の再開を「知らない」対象者は 53%、保護者は 23% にのぼった。 キャッチアップ接種についても、「知っている」と答えたのは対象者の 19% で、53% が「知らない」とした。 また、ワクチンのリスクに関する「十分な情報がなく接種するかどうか決められない」と思うかをたずねたところ、「非常にそう思う」と「そう思う」と答えた人を合わせると、対象者、保護者とも 51% に上った。

日本で承認されている HPV ワクチンは、何種類の HPV の型を防げるかで 2 価、4 価、9 価の 3 種類がある。これまで定期接種の対象だった 2 価と 4 価のワクチンは 3 回接種だったが、今年 4 月からは、14 歳までに初回を接種すれば半年後の 2 回目接種で済む 9 価ワクチンが定期接種に加わり、体への負担も減った。 厚労省は「ワクチンを含む子宮頸がん予防の重要性について認知度を上げるため、SNS などを通じた積極的な情報発信を強化していく」としている。

22 年 4 月の積極的勧奨の再開以降、ワクチンをうつ人は増えている。 22 年度に 1 回目の定期接種をした小学 6 年 - 高校 1 年相当の女子は計 22 万 5,993 人で、標準的な接種期間(中学 1 年)の女子の人口の約 42% に相当する。 20 年度の 15.9%、21 年度の 37.4% から上昇している。 単純比較できないが、勧奨を差し控える前の接種率 70% 程度とは開きがある。 キャッチアップ接種については、1 回目を受けたのは、計 30 万 4,737 人で、伸び悩む。

スウェーデンのチームが 06 - 17 年に 10 - 30 歳の約 167 万人を調べた研究では、接種した人の子宮頸がんの発生率は 63% 低かった。 16 歳までに接種した人では 88% 低く、17 - 30 歳では 53% 低かった。 ウイルスは、主に性交渉で感染するため、初めての性交渉前にワクチンを接種することが望ましい。 日本大学板橋病院(東京都板橋区)の川名敬・主任教授(産婦人科)は「既に性交渉の経験があっても、まだ感染していない種類の HPV の型への感染を防ぐ効果が期待できる」ため、性交渉を経験した人もうった方がいいとする。 「特にキャッチアップ接種の対象者は早めにうってほしい」と話す。

そのうえで川名さんは「本人が『がんを予防するワクチンだ』と接種の意義を理解してうつことが大事。 家族でも確認したうえで、うつ前に医療機関で目的をもう一度確認できたら良い。」と話す。 厚労省は、本人や保護者向けにワクチンの効果や安全性をまとめたリーフレットをホームページで公開している。 厚労省は、HPV ワクチンの接種後の症状を専門に診る協力医療機関を全国に整備している。 厚労省研究班の調査では、75 の協力医療機関で 22 年 3 月 - 23 年 5 月に計 153 人が接種後に何らかの症状(因果関係不明を含む)を訴えて新たに受診した。 ワクチン接種数の増加にあわせて新規受診者数は増えたが、勧奨再開前と比べて「顕著な変化は認められない」としている。 (神宮司実玲、asahi = 9-2-23)


原因不明の小児肝炎、国内で 186 人 集計は終了も「研究は継続」

欧米を中心に世界保健機関 (WHO) に報告された原因不明の小児肝炎について、国立感染症研究所(感染研)は 21 日、2021 年 10 月 - 23 年 6 月 15 日、国内で 186 人の報告があったと発表した。 ただ、欧米に比べて肝移植を必要とした人は少なく、関連が指摘されているアデノウイルスを原因とする様々な症状が国内で流行している兆候もみられない、とした。 厚生労働省は 8 月 31 日をもって症例の積極的な集計をやめる。 ただし、今後も原因を探るための研究は続ける。

原因不明の小児肝炎は欧米を中心に 22 年春から報告された。 英国では肝炎になった子どもの半数からアデノウイルスを検出。 アデノ随伴ウイルスの感染を指摘する論文も発表された。 だが、原因はまだ特定されていない。 国内では小児の肝炎の統計がなく、厚生労働省が 16 歳以下で A - E 型の肝炎ウイルスが原因ではない症例について、21 年秋までさかのぼって報告を呼びかけていた。 186 例のうち、年齢の中央値は 4 歳 9 カ月。 3 人は肝移植となり、2 人が亡くなった。 検査結果が得られた 179 例のうち、20 例 (11%) でアデノウイルスが検出されたが、欧米で報告されている「41 型」というタイプは 3 例で、欧米より低い割合だった。 (後藤一也、asahi = 8-22-23)

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「原因不明の小児肝炎」国内で初の死者 1 人確認 各国で症例相次ぐ

昨年から欧米を中心に世界保健機関 (WHO) への報告が相次いでいる原因不明の小児肝炎について、国内で死者が 1 人確認されたことがわかった。 厚生労働省は死亡時期や年齢などは明らかにしていない。

厚生労働省の資料によると、国内では 3 月 17 日時点で 162 人が確認され、3 人が肝移植に至った。 一方、同省は朝日新聞の取材に対し、1 人が死亡していることを明らかにした。 同省は 16 歳以下で原因不明の肝炎の症例が確認された際に、医療機関に対し、保健所を通じて報告を求めている。 国内で死者が明らかになったのは初めてだが、死者数については、「個人情報にあたる(結核感染症課)」として公表しておらず、今後も公表しない方針という。

原因不明の小児肝炎は 2022 年 4 月、英国で報告された。 各国がさかのぼって調べたところ、21 年 10 月 - 22 年 7 月、欧米や日本などの 35 カ国から、少なくとも 1,010 人の症例が WHO に報告された。 22 年 7 月時点で、肝移植が必要なほど重症化したのは 46 人、死者は 22 人が報告されている。 (asahi = 4-2-23)

前 報 (5-7-22)


がんによる経済的負担、1 兆円は「予防可能」 感染や喫煙がリスクに

がんが日本社会に与える経済的負担が 2015 年時点で 2 兆 8,597 億円に上るとの推計を、国立がん研究センターなどの研究グループが発表した。 このうち、禁煙やワクチン接種などで予防可能ながんが 1 兆円超を占めたという。 研究グループは「適切ながん対策は命を救うだけでなく、経済的にも重要であると示された」としている。 がんは 1981 年以来、日本人の死因 1 位を占め、年間 100 万人が罹患し、38 万人が亡くなっている。 リスク要因の中には、感染や喫煙、飲酒など、予防可能とされるものも多い。

研究グループは、2015 年時点にがんで治療を受けた約 400 万人のデータをもとに、治療にかかった医療費や、働けなくなったり死亡したりした場合の労働損失を推計した。 がん全体だけでなく、予防できるリスク要因によって引き起こされるがんについても経済的負担を算出。 全体の 2 兆 8,597 億円の約 35% に相当する約 1 兆 240 億円だったという。 男女とも胃がんの経済的負担が最も高く、男性は肺がん、女性は子宮頸がんが続いた。 リスク要因別に見ると、「感染」が最も経済的負担が多く、ピロリ菌感染による胃がんは約 2,110 億円、ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染による子宮頸がんは約 640 億円だった。 次いで経済的負担の多かったリスク要因は「能動喫煙」で、肺がんが約 1,386 億円を占めていた。

研究グループの斎藤英子・国立国際医療研究センター上級研究員は「定期的ながん検診や HPV ワクチン接種、禁煙を推進することで、経済的負担の軽減につながる可能性がある」と語る。 (松本千聖、asahi = 8-19-23)