アップルのゴーグル型新端末、スマホに続くか 9 年ぶりの大型新製品

米アップルが 5 日、仮想空間と現実空間を組み合わせた複合現実 (MR) 端末「Apple Vision Pro (アップル・ビジョン・プロ)」を発表した。 2015 年に発売したアップルウォッチ以来、約 9 年ぶりの大型の新製品となる。 新たな端末は、iPhone (アイフォーン)などのスマートフォンに続く次世代のコンピューターの形となるか。 「One more thing(もう一つある)…。」 ティム・クック最高経営責任者 (CEO) は 5 日の発表会の最後に、創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が大きな発表の際に使った決まり文句で、新端末を披露した。

「iPhone がモバイルコンピューティングをもたらしたように、ビジョンプロは空間コンピューティングをもたらす。 強力なパーソナルテクノロジーの新次元をもたらす旅の始まりだ。」 クック氏はそう強調した。 価格は 3,499 ドル(約 49 万円)で、来年初めに米国で発売し、順次他の地域でも販売する。 ゴーグル型の新端末の特徴は、現実空間にデジタル空間の画像を重ね合わせている点だ。 クック氏が「空間コンピューティング」と呼ぶように、立体的な空間に写真や映画などの画像を重ねて見ることができる。

デモでは、現実の自分の部屋の風景の上にアプリのアイコンが表示され、映画や写真などを見る場面が紹介された。 たとえば、雪山が映った写真をパノラマ機能でみると、実際にその場にいるかのような体験もできるという。 仕事での活用例も示され、ズームやチームスなどの会議システムも使える。 コントローラーは必要なく、目の動きや音声だけで画面内の操作ができる。 端末上のダイヤルを回すと、現実空間と仮想空間の風景の見え方も調節できるという。 完全に仮想空間に没入する仮想現実 (VR) に対し、現実空間に仮想の画像を重ねる拡張現実 (AR) と呼ばれる技術がある。 この二つを組み合わせ、仮想と現実の空間をより融合させたのが MR だ。

ジョブズ氏が最後に発売した端末は 10 年のタブレット端末「iPad (アイパッド)」。 11 年に CEO に就いたクック氏が世に出す端末としては、ウォッチに次ぐ二つ目となる。 初代 iPhone が発売されたのは 07 年。 アップルはそれ以来、毎年端末の改善を重ね、今では全社の売り上げの半分超を占める。 パソコン「マック」やアイパッドなどを含めたデザイン性を売りにした端末で消費者を引きつけ、アプリや動画配信、金融など様々なサービスもあわせて稼ぐのがアップルのビジネスモデルだ。 アプリ配信サービス「アップストア」の昨年の販売総額は 1.1 兆ドル(約 150 兆円)にのぼる。

ただ、主力の iPhone の改善は小幅にとどまり、大きな驚きが減ったとの指摘がある。 最近では対話型 AI (人工知能)「ChatGPT (チャットGPT)」などの生成 AI に注目が集まり、インターネットや iPhone の誕生に匹敵する変化が起きているといわれている。 人々のコンピューターとの接し方が変わりつつあるなか、アップルもスマホの先を見据えた構想を示した形だ。

アップルの新端末発表を、「メタバース」と呼ばれる仮想空間分野の関係者は歓迎する。 「いまのメタバースは 1990 年代のインターネットのようなもので、いずれはゲームチェンジャーになる。 アップルの参入は間違いなく人々の関心を高める。」 仮想空間上のショールームをつくる技術を提供する米企業マイタバースのロバート・マクイリス氏はそう話した。 ただ、端末の普及には時間がかかるとみられており、ハードルも立ちはだかる。

先行する米メタの VR 端末「クエスト 2」は 299 ドルで、アップルの新端末は 10 倍以上の価格となる。 メタが昨年発売した上位機種「クエスト プロ」の当初の価格は 1,499 ドルで、今年に入って 999 ドルと大幅に引き下げた。 フェイスブック (B) が 21 年に社名を「メタ」に変え、仮想空間に注力する姿勢を鮮明にした後、メタバースへの関心が急速に高まった。 だが、生成 AI に注目が集まるなか、ブームは後退している。

米調査会社 IDC によると、昨年の世界の VR と AR 端末の出荷台数は 880 万台にとどまり、前年比で約 21% 減った。 今年は約 1 千万台に増える見込みだが、同社は 21 年時点で今年の出荷台数を 2,600 万台と予想しており、当初の見込みを大幅に下回る。 専門家によると、アップルの新端末の年間出荷台数は数十万台程度にとどまるとされ、まずは開発者らを対象にしているとみられている。 米ローゼンブラット証券のアナリスト、バートン・クロケット氏は「アップルの新端末の本格的な普及には、iPhone に近い 1 千ドル前後に価格を下げる必要がある。 今後 1、2 年で価格が下げられるかが本当のテストになる」と話した。 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 6-6-23)


シンガポール航空、無制限の機内 Wi-Fi サービスを全クラス対象に拡大

シンガポール航空は 7 月 1 日から、無制限の機内 Wi-Fi サービスの対象を全路線・全クラスの利用者に拡大する。 2 月からプレミアムエコノミー、エコノミークラスの利用者にはそれぞれ時間限定で無料プランを提供していたが、今回のサービス拡大により、全クラスで時間制限なしでの利用が可能となる(B737-800NG は対象外)。

機内 Wi-Fi を利用するには、シンガポール航空のポイントプログラム「クリスフライヤー」会員なら、Web サイトのトップページにある「予約の管理」オプション、あるいはチェックイン時に自身のクリスフライヤー会員情報を入力しておく必要がある。 クリスフライヤー会員でない場合は、搭乗前にオンライン会員登録を行なうか、機内で自身のデバイスでシンガポール航空の機内コンテンツ「デジタル・コンテント・ポータル」から会員登録をすることにより、機内 Wi-Fi サービスを利用できるようになる。 (Impress Watch = 6-2-23)


「らくらくスマートフォン」開発元が民事再生 製造と販売事業を停止

「らくらくスマートフォン」などの開発を手がける「FCNT(神奈川県大和市)」は 30 日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。 帝国データバンクによると、負債額はグループ 3 社で計約 1,193 億円になるという。 スマホ市場の競争激化や部品の高騰で事業環境が悪化していた。 ともに民事再生法の適用を申請したのは、携帯電話端末の製造を担う「ジャパン・イーエム・ソリューションズ (JEMS)」と、両社の親会社の「REINOWA ホールディングス」。

FCNT は同日、携帯端末市場の成熟によって販売が伸び悩むなか、円安の進行や半導体不足などでコストが高騰し、急速に収益と資金繰りが悪化したと説明。 携帯端末の製造と販売は事業を停止し、修理やアフターサービスも当面停止して携帯キャリアなどと協議していくとしている。 一方、シニア向け SNS などのサービス事業は複数社からスポンサー支援の意向を受けているといい、他社への事業承継を目指すという。 JEMS も投資ファンドから支援の意向があり、FCNT 向け以外の事業は承継を予定している。

帝国データバンクによると、FCNT の 2022 年 3 月期の売上高は約 843 億 5,500 万円、純損益が約 15 億 2,600 万円の最終赤字に陥っていた。 民間調査会社「MM 総研」によると、2022 年度の国内での携帯電話のメーカー別出荷台数は、FCNT はアップル (47.1%)、シャープ (12.1%) に次ぐ 3 位で、9.9% を占めた。 横田英明副所長は「高齢者向けは一定のニーズはあるが、スマートフォンは大画面で、拡大もできるのでシニアの人も使いやすい。 (一般向けとの)垣根がなくなっていた。」とし、販売台数が伸びていなかったと指摘した。

22 年度は、物価高や値上げの影響で携帯電話の出荷台数が前年度比 12.8% 減の 3,193 万台。 00 年度以降で 2 番目に少なく、市場全体も減速した。 横田氏は「事業としてやっていくには、国内メーカーにとって厳しい状況だ」と話す。 国内のスマホメーカーでは、京セラが一般向けの携帯電話事業から撤退することを表明。 国内大手で事業を継続するのは、ソニーとシャープのみとなる。 (田中奏子、杉山歩、asahi = 5-30-23)


工場出荷前に数百万台のスマホがすでにマルウェアに感染
Trend Micro が発表 安価な Android 端末が対象

「舞台裏 : 犯罪企業が数百万台のモバイル機器を事前に感染させる方法」と題した講演を、Trend Micro の研究者らが 5 月に開催したセキュリティイベント「Black Hat Asia 2023」で発表した。 スマートフォンの製造業界では、多くの企業が別の企業に委託して OEM (Original Equipment Manufacturer)で端末を製造している。 メリットも多いが、リスクもある。

主な脅威の一つは、製造委託先の企業が製造工程で攻撃者に侵入される可能性があることだ。 製造工程にアクセスされ、出荷前の端末に悪意のあるコードを仕込まれる。 攻撃者の目的は、仕込んだマルウェアを使って個人情報や機密情報などを盗み出し、収集した情報を悪意者に提供して利益を得ることなどである。 購入する一般ユーザーからすると、新品を購入したにもかかわらず感染端末をつかまされるという事態に陥る。

研究者らは、ファームウェアの手動調査とテレメトリーデータの分析を通じて、世界中に数百万台の感染端末が存在していることを発見した。 また、そのほとんどが東南アジアと東ヨーロッパに集中していることを明らかにした。 研究者によると、少なくとも 10 社のスマートフォンがマルウェアに感染していたという。 このような感染端末を避ける方法として、研究者らは、安全を保証するものではないが、ハイエンド機種を購入することである程度回避できる可能性があると述べている。

なぜなら、この攻撃の背景には安価なスマートフォンが続々と登場してきた情勢にあるからだという。 ファームウェアの競争が激しくなりコストの低下、サプライヤーのもうけがなくなり、利益を得るために犯罪に手を染めるという。 そのため、数百万台の感染端末はスマートウォッチやスマートテレビなども含まれるが、ほとんどは安価な Android 搭載スマートフォンだという。 (山下裕毅、ITmedia = 5-23-23)


携帯乗り換え手続きのワンストップ化、大手 4 社が 24 日スタート

携帯大手 4 社は 19 日、電話番号を変えずに契約する携帯会社を乗り換える「番号持ち運び制度 8MNP)」について、手続きを乗り換え先のみで完結できるサービスを、24 日から始めると発表した。 これまでは乗り換え元と、乗り換え先の 2 カ所で手続きが必要だった。 まずはオンラインでの手続きから始めるとしており、携帯各社の競争につながるかが注目される。

新たな仕組みは、NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの大手 4 社で一斉に開始する。 一部の格安スマホ事業者 (MVNO) も導入する。 各社のオンラインショップや公式サイトなどで受け付けを始めるという。 現在は、乗り換え元の携帯会社で「MNP 予約番号」を事前に発行してもらい、それを使って乗り換え先の携帯会社で契約を結ぶ必要がある。手間がかかるうえ、乗り換え元で解約を引き留められることもあり、MNP が普及しにくい要因となっていた。

24 日から始まる仕組みでは、MNP 予約番号の取得は要らなくなる。 乗り換え先の携帯会社のサイトなどに入り、申し込みを進めれば、手続きは完結する。 総務省の有識者会議は、携帯会社間の乗り換えをしやすくすることで競争を促そうと、2021 年に MNP 手続きのワンストップ化を提言。 これを受けて、同省と携帯各社が導入に向けて協議をしてきた。 競争が進めば、携帯料金のさらなる値下げにつながる可能性がある。 (asahi = 5-19-23)


スマホ不通、なぜか解約 … SIM スワップ被害の実態

スマホに侵入するマルウェア

記事コピー (9-2-15~ 5-11-23)


クアルコムが決算受け下落 スマホ需要が依然として弱い アップルも連れ安

携帯用半導体のクアルコムが下落。 前日引け後に 1 - 3 月期決算(第 2 四半期)を発表し、売上高は予想を上回ったものの、1 株利益は予想範囲内となった。 ただ、第 3 四半期のガイダンスでは 1 株利益、売上高とも予想を下回る見通しを示したことが嫌気されている。 モバイル機器の需要が依然として低迷していることを示した。 同社は、携帯メーカーが在庫を消化すれば、受注は回復すると投資家にコミットしている。 しかし、今回の決算はそれが予想以上に時間がかかっていることが示唆された格好。

同社のエイモン CEO は声明で、「この厳しい環境を乗り切るために、コントロールできる重要な要素、すなわち、最先端の技術ロードマップ、クラス最高の製品ポートフォリオ、強力な顧客関係、および業務効率に引き続き注力して行く」と述べた。 「最優先事項は多角化戦略を実行し、長期的な価値をもたらす分野に投資することだ」とも語った。 同社は中国メーカーから売上げの大部分を得ている。 同国ではゼロコロナ政策による封鎖で個人消費が抑制されていたが、同社によると、まだ迅速な回復は見られていないという。

アナリストからもネガティブなコメントが聞かれ、「今回の決算はスマホ市場の弱さが持続していることが秘めされた。 ガイダンスは、これらの厳しい状況が短期的に持続する可能性が高いことを示唆している。」と述べている。 一方、「年内には在庫が一掃され始め、来年には市場が安定し始めるだろう」とも語った。 同社の決算を受けて、本日引け後に決算発表を予定しているアップル調な値動きをしている。 (Minkabu = 5-4-23)


「デジタル円」便利になる? スマホで決済可能に 有識者会議始まる

スマホによるキャッシュレスの時代

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栗原市、75 歳以上の高齢者世帯にスマホ購入費を補助

スマートフォンを活用して行政の防災情報を広く確認してもらおうと、栗原市では、75 歳以上の高齢者の世帯を対象に、スマートフォンの購入費を補助する取り組みを 4 月から始めました。 栗原市では、市が発信するメールや無料通話アプリ「LINE」を活用した防災情報を発信していて、多くの市民がどこでも情報を受け取れる仕組み作りを進めています。

このため、市では、スマートフォンを高齢者にも普及させようと、4 月から 75 歳以上の高齢者の世帯を対象に、購入費を補助する取り組みを始めました。 対象は、家族全員が 75 歳以上か、今年度中に全員が 75 歳以上になる世帯のうち、スマートフォンを 1 人も持っていない世帯だということです。

補助は 1 世帯につき 1 台分限りで、最大で 2 万円の補助を受けることができ、市が指定した販売店で購入することが条件だということです。 市によりますと、宮城県内では初めての試みだということで、佐藤智市長は「スマートフォンでは緊急地震速報や気象情報を確実に伝えることができるので、補助することにしました。 操作に慣れない人のためにも教室を開催し、回数を増やして対応していきたい。」と話していました。 (NHK = 4-13-23)

〈編者〉 とうとう「スマホ必須」の時代が来たようです。 緊急通報のみならず、マイナカード + スマホで、殆どの手続きが済まされるとなると、確かにこれ以上の選択はありません。 お願いは、「LINE」といえども自治体からの一方通行ではなく、面倒でも必ずインタラクティブ(双方向性)であることを心がけて下さい。


「マンガ動画」でどうする? 巨大地震でスマホが使えなくなったとき

〈生活から切り離せなくなったスマホ、災害時に使えなくなったらどうなるのでしょうか〉

災害が起きたとき、電気、水道、ガスが使えないのはもちろん困りますが、通信インフラとして欠かせないスマートフォンが使えなくなることは想像以上に困ることになるでしょう。 スマホは通話だけでなく、ネットで調べ物をしたり、アプリを使ったり、私たちの生活に欠かせないものになっています。 巨大地震が発生したことを舞台にスマホが使えなくなったらどうなるかを解説しています。 (asahi = 4-1-23)


呼び返し機能なくてもローミング導入へ 110番など、総務省方針

総務省は 30 日、大規模な通信障害が起きた場合でも、少なくとも 110 番や 119 番などの緊急通報はできるようにする方針を示した。 障害時に利用者が他社の回線に乗り入れる「ローミング」について、警察や消防などからかけ直しをするための「呼び返し機能」がない方式も認める。

同日の有識者会議「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」で案を示した。 「呼び返し機能」は法令で備えることが定められている。 しかし、昨夏に KDDI が起こした通信障害では、通信網の中枢部分で不具合が生じ、緊急通報がつながりにくくなり混乱が広がった。 この反省から同省は、「呼び返し機能」が実現できない場合でも、緊急通報に限ってローミングを導入する方針を決めた。 「呼び返し機能」が可能な場合については、一般通話を含めたローミングを実現させる方針を同省はすでに示している。 携帯大手などは 2025 年度末までに実現させる計画だ。 (鈴木康朗、asahi = 3-30-23)


一般人のスマホ普及が変えたニュースの映像事情

スマホのカメラがニュースを変えた

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スマホの所有開始年齢は 12 歳、キッズケータイは 7 歳

モバイル社会研究所は 2023 年 2 月 27 日、2022 年 11 月に実施した親と子に関する最新の調査の中から、スマホ所有年齢・きっかけについての調査結果を公表。 子供のスマホの所有開始年齢は 12 歳、キッズケータイ所有開始年齢は 7 歳がもっとも多くなった。 モバイル社会研究所の「2022 年親と子の調査」は、関東 1 都 6 県の小・中学生とその親を対象に、2022 年 11 月に実施。 有効回答数は 500 件。 モバイル社会研究所は 2 月 27 日、調査のうち小中学生のスマホ所有状況について「スマホの所有開始年齢 低年齢化は鈍化傾向」と公表した。

子供のスマホの所有開始年齢は、全体でみると 2021 年と変わらず 10.6 歳であった。 2019 年 - 2021 年に比べ低年齢化が鈍化し、男女差も縮まる結果となった。  また、スマホ所有開始年齢でもっとも多いのは 12 歳。 スマホは中学入学前に持ち始める割合が多いことがわかった。 一方、キッズケータイの所有開始年齢は 7 歳がもっとも多く、小学入学前後で持ち始める割合が多いことが明らかとなった。

小学生からスマホを持たせている理由については、男子・女子問わず「緊急の連絡のため」がもっとも多い結果を得た。 特に、男子が 2021 年より 19 ポイントアップ。 中学生になってからスマホを持たせた親の理由には、「緊急の連絡のため」、「子から欲しいと言われた」、「進学または進級」、「友達が持ち始めた」が上位の理由としてあげられた。 また、2022 年は 2021 年と比較して男女差がなくなっているという特徴がみられた。 (ReseMom = 3-9-23)


スマホ普及率 65% → 80% に 高知県日高村でデジタル化が進むワケ

人口約 5,000 人、日本一の透明度を誇る仁淀川(によどがわ)をはじめ豊かな自然に恵まれ、フルーツトマトの栽培が盛んな高知県日高村。 「村まるごとデジタル化」を掲げる同村では、「スマートフォン普及率 100%」を目指し、2021 年 5 月からさまざまな施策に取り組んでいる。 行政の DX を本格化する前に、まずは住民がデジタルサービスを利用できる環境をつくろうと始まった同プロジェクト。 開始前に 64.5% だったスマホ普及率は、22 年 6 月時点で 79.7% まで向上している。 どのようにして普及率を上げたのか。 住民の生活はどう変わったのか。 高知県日高村役場企画課安岡周総氏に聞いた。

70 代以上の高齢者がスマホを持たない理由

高齢化率が約 43% の日高村では、村全体の活力の低下や人口減による税収減、住民同士のつながりの希薄化などが課題とされている。 住民の暮らしの質向上には DX の推進が急務だが、そもそも住民がデジタルデバイスを使えていない状態での DX は無理がある。そんな背景があり、「スマートフォン普及率 100% を掲げたという。 プロジェクト開始前の普及率は 64.5%。 特に課題となるのが 70 代以降で、80 - 90 代は 10% 前後だった。 日高村が実施したアンケートによれば、スマホを持たない理由は、1 位「必要ない」、2 位「使い方が分からない」、3 位「価格が高い」となる。

そうした層にスマホを普及させるアプローチとして、スマホ購入やランニングコストの支援、スマホ普及事業の説明会や体験会、スマホ教室や相談所の設置などを開始した。 同時に、「健康」、「防災」、「情報」の 3 分野でスマホを活用した取り組みも始めた。

「スマホを持たない理由のうち、『使い方が分からない』と『価格が高い』は、比較的解決しやすい。 しかし、『必要ない』と思う方々の考えを変えるには、自分の命に直結するような分野での利用法を示すことが重要ではないかと考えました。(安岡氏)」

「スマホは必要ない」と考える高齢者に何をした?

今でこそ一定の成果をあげている本事業だが、最初から筋書き通りに進んだわけではない。 スマホ普及事業においては、入り口として村の拠点となる数カ所で「スマホ普及事業の説明会」を開催したが、ほとんど誰も来なかった。

「スマホが必要ない、よく分からないと思っている人に対して、こちら側の都合で決めた日時・場所に説明を聞きに来てくださいと言っても、『自分には必要ない』と思いますよね。 住民の課題感を理解できていませんでした。(安岡氏)」

そこで、全 82 の自治体に電話や手紙で連絡を取り、「説明会を開催したいので都合のいい日時を教えてください」と依頼し、職員が各自治体に出向いた。 コロナ禍のため約50の自治体での実施にとどまったが、6 カ月に 1 回ほど説明会を繰り返し、参加者が増えた。 そこでは、こんな話をしたそうだ。

「人口減少に伴い、社会保障費制度の維持が困難になっている。 デジタル化しなければ、行政サービスが受けられなくなる。 だから、みなさんにスマホを持っていただき、自身で必要な情報を取得してもらえたら、このぐらいの予算が削減できる。 いざというときに、すぐに必要な情報にリーチもできる。 また、最長でも 26 年 3 月には 3G サービスが終了し、多くのガラケーが使えなくなる。 われわれはスマホの所持を強制しているのではなく、ガラケーがなくなるのだから今から練習したほうがいいだろうと。 みなさんの選択肢として、この事業を進めていると訴えました。(安岡氏)」

同時に、スマホ購入や切り替えの手続きができるよう KDDI のショップを出張所として村内に設けた。 その取り組みが継続して、現在は出張販売も兼ねた「よろず相談所」として運営されている。 このほか、村唯一のスーパーマーケットにも代理店を置いて販売キャンペーンを展開するなど、住民の生活圏内に出向くようにした。 こういった施策が、スマホの普及につながったようだ。

健康、防災、情報、デジタルサービスも好調

スマホ普及事業と両軸で始めた、「健康」、「防災」、「情報」の 3 分野でのスマホ活用事業も好調だ。 健康分野では、KDDI が提供する「ポケットヘルスケア」を 21 年 6 月から 1 年間、展開。 健康管理や健康関連の情報取得ができるほか、健康活動ポイントに応じたインセンティブとして村内で使える地域通貨を付与して、利用を促進した。 その結果、663 人の住民がサービスを利用した。 提供終了後、アプリの利用による医療費抑制効果を分析したところ、概算で約 1,000 万円の結果となった。

マイナンバーカードを設定すると 1 万ポイントを付与するキャンペーンも実施。 約 1,200 件の応募があった。 防災分野では、高知県が提供する「高知防災アプリ」を活用。 雨量など防災関連の情報通知や防災マップの表示、安否確認などが可能だ。 村民への情報は LINE で自治体公式アカウントをつくり、運営している。 通行止めや大雪の際の凍結防止剤の配布など、緊急性が高い情報を主に配信し、住民から好評だという。 現在の登録者数は人口の約 34% となる約 1,700 人で、そのうち 50 代以上が 58% だ。

普及率 100% にできるのか

日高村のスマホの普及率は約 80% に上がったと紹介したが、分母には 0 - 9 歳までの子どもやスマホを持つのが難しい要介護者や障がい者も含まれる。 そういった住民を除外すると、実質の普及率は約 86% となる。 いまだスマホを持たない住民は、約 500 人だ。

「この 500 人の方たちは、必要ない、使い方が分からない、価格が高いという 3 つとは別の課題も抱えているはず。 例えば、感情論的なもので行政を信用できない、デジタルの安全性を疑っているとか。 イノベーター理論でいうラガード(遅滞者)で、とにかく保守的。 特別なことをするというより、現在の取り組みを継続していくことが重要かなあと。 そのうえでポイントを付与するなど、プラスワンの取り組みを都度やっていく必要があるでしょう。 何がササるかは分からないので、トライアンドエラーを高速で進めていきます。(安岡氏)」

普及率 100% は達成できていないが、住民への情報伝達が容易になり、役場の DX を進めやすくなったと感じているそうだ。

「他の自治体から、『どうしたら専用アプリの利用者が伸びますか?』といった質問を多くいただきますが、多くは住民のニーズを把握せず、サービスを利用できる環境をつくれていないのが原因。 行政側が一方的に導入したサービスは理解されないし、共感もされない。 だから使われない。 DX といっても、泥臭いアナログな作業を 1 年半にわたり繰り返して、ここまできました。 遠回りが一番の近道ですよ。(安岡氏)」

国連経済社会局 (UNDESA) が発表した「世界デジタル政府ランキング 2022」で 1 位となったデンマークでは、1968 年に日本のマイナンバーにあたる個人番号(CPR 番号)が導入され、2001 年にデジタル戦略が打ち出された。 今日では、多くの行政手続きがオンラインで完結する。 "市民のための ICT・IoT 活用"、"人間中心" を方針として、段階的にデジタル化を進展させたが、IT を使わなければ公共サービスが使えないという強制力も普及に貢献したという。 身体的・精神的な理由がある場合は、公共機関とのデジタルコミュニケーションの免除申請ができる。

こうした民主主義国家の DX を参考にするならば、最終的には「特例を除きデジタル化を押し切る」必要性もあるのかもしれない。 (ITmedia = 2-5-23)