韓国・サムスン電子、「新環境経営戦略」を発表

韓国のサムスン電子は 9 月 15 日、環境経営の基本的方針となる「新環境経営戦略」を発表した。 低消費電力半導体や家電などの開発、再生可能エネルギーの利用拡大による、2050 年カーボンニュートラルの達成やリサイクルの拡大が主な柱となっている(注 1)。 同社は、2030 年までに半導体用プロセスガスの削減や、廃電子製品の回収とリサイクル、水資源の保存、汚染物質の最小化などの環境経営の課題に対し、7 兆ウォン(約 7,210 億円、1 ウォン = 約 0.103 円)以上を投資し、ビジネスモデルを環境経営に転換する。 新環境経営戦略の概要は次のとおり。

  1. カーボンニュートラルに向けた挑戦

    1. 部門ごとの達成時期

      2030 年までに DX 部門(家電、IT、モバイルなど)でカーボンニュートラルを達成し、DS 部門(半導体・ディスプレーなど)を含む全事業は 2050 年までの達成を基本目標と設定する(注 2)。

    2. 排出源別の達成手段

      直接排出について、主な排出源である半導体用プロセスガスと液化天然ガス (LNG) などの燃料使用を最小化するため、2030 年までにプロセスガスの処理効率を大幅に改善する新技術を開発し、処理施設を各生産ラインに拡大する。 また、LNG ボイラーの使用を抑えるため、排熱の拡大や電気熱源の導入を検討する。 間接排出については、再生可能エネルギー証書 (REC) の購入、グリーン料金制度 (Green Pricing)、再生可能エネルギーの電力販売契約 (PPA)、再生可能エネルギーの直接発電などを通じ、2050 年までに使用電力する電力を再生可能エネルギー由来に転換する。

    3. 国際的イニシアチブの「RE100」に加盟する

  2. 節電製品の開発、資源のリサイクル

    1. 主力商品別の達成手段

      半導体では、低消費電力技術の確保を通じ、2025 年までにデータセンターとモバイル端末で使用するメモリーの消費電力を大幅に削減する。 製品では、スマートフォン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、パソコン、モニターの 7 種類の製品の代表モデルに低消費電力の技術を採用、2030 年の電力消費量を 2009 年の同一性能モデル比で平均 30% 削減する。

    2. リサイクル製品の利用拡大

      2030 年までに製品に使用するプラスチック製品の 5 割を再生レジンに代替する。 廃電子製品の回収も拡大し、2030 年までに 180 カ国に拡大する。 これにより、2009 年から 2030 年までの累計で 1,000 万トン、2050 年までの累計で 2,500 万トンの廃電子回収を目指す。 このほか、半導体製造に必要不可欠な水の再利用の促進、二酸化炭素の貯留・再利用システムの開発と商用化、PM2.5 の排出削減技術の開発なども積極的に取り組んでいくとしている。 (当間正明、JETRO = 9-20-22)

(注 1) 同社は世界で使用電力が最も多い ICT (情報通信技術)製造企業(2021 年は 25.8 テラワット時)
(注 2) 同社は 2021 年に 1,700 万トン強の二酸化炭素を排出している


環境省 2030 年までに金属やプラスチックのリサイクル量倍増へ

資源のリサイクルなどによる循環経済の市場規模を拡大しようと、環境省は 2030 年までの工程表を公表し、電化製品に含まれる金属やペットボトルなどのプラスチックのリサイクル量を 2 倍に増やすなど取り組みを加速させる方針です。 環境省は 2030 年までにリサイクルやリユースなどの循環経済の市場規模を現在の 50 兆円から 80 兆円以上に拡大させるとする政府の成長戦略達成に向けた工程表を公表しました。

具体的には、▽ 太陽光パネルや電化製品など使用済み製品からレアメタルなどの金属をリサイクルする量や、▽ ペットボトルなどのプラスチックの回収量を現在の倍にするとしています。

また、▽ 家庭で余った食料品を支援が必要な世帯に届ける「フードドライブ」の活用や、▽ 廃棄した食品を原料にした航空機の代替燃料「SAF (さふ)」の製造を進めることで、食品の廃棄量を現在よりも 100 万トン以上減らし、年間 400 万トン以下に抑えるとしています。

環境省はこうした取り組みを進めることで国内の温室効果ガスの排出量をおよそ 36% 削減できる余地があると試算しています。 西村環境大臣は「脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進するとともに金属の回収などの優れた技術を日本の強みとして 世界に発信したい」としています。 (NHK = 9-11-22)


G20 環境・気候閣僚会合 ロシアと欧米対立 共同声明まとまらず

G20 = 主要 20 か国の環境と気候変動問題の閣僚会合が 31 日、インドネシアで開かれましたが、ウクライナ侵攻をめぐってロシアと欧米各国が対立して共同声明をまとめることができず、今後の気候変動対策に懸念を残す結果となりました。 インドネシアのバリ島で開かれた G20 = 主要 20 か国の環境・気候閣僚会合は日本から西村環境大臣が出席し、各地で異常気象や災害を引き起こしている気候変動の問題や、海洋プラスチックごみ対策などについて議論されました。

会合では気候変動対策について世界の平均気温の上昇を 1.5 度に抑える努力をするとした「パリ協定」の実行をめぐって先進国と発展途上国の間で意見が対立しました。 また、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり日本や欧米各国が相次いで非難を表明し、会合の成果となる共同声明にも非難の文言を盛り込もうとしたことについてロシア側が反発したことから、共同声明の採択には至りませんでした。

会合終了後、西村大臣は「内容に合意が得られなかった。 国連の COP など今後の重要な会議で今回議論になった部分を含めてしっかり前進させていきたい」と述べました。 G20 各国は世界の温室効果ガスの排出量のおよそ 8 割を占めていますが、ロシアと各国の対立が鮮明となったことで、ことし 11 月の COP27 で検討される今後の気候変動対策に懸念を残す結果となりました。

議長国インドネシア "議長総括として発表"

G20 = 主要 20 か国の議長国を務めるインドネシアのシティ・ヌルバヤ・バカール環境林業相は会合のあとに行った記者発表で、干ばつなどの影響を軽減すること、気候変動の影響や生物多様性の損失などを食い止めるために、森林の生態系の保護や土地の保全の取り組みを改善していくことなどで合意できたと成果を強調しました。 そして「議長総括の中で今後、連携して取り組む姿勢を確認できてうれしく思う」と述べ、各国の合意に基づいて議論の成果を示す共同声明は採択できず、議長総括として発表することを明らかにしました。

そのうえで「インドネシアは議長国として環境分野で途上国と先進国の橋渡し役としての立場を取っている。 インドネシアは公平で、自由で活発な政治を維持していく。」と述べ、今後も議長国として議論がまとまるよう、努めていく姿勢を強調しました。

専門家「大変残念だ」

今回、共同声明が採択されなかったことについて気候変動問題の国際交渉に詳しい東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は「気候変動ではパキスタンの洪水のように、とりわけ途上国で大きな影響を及ぼしている。 こうした問題にしっかり主要国が連携をして対策の強化や加速が求められている中で、G20 として参加国の合意という形で文書をまとめることができなかったことは大変残念だ」と話しました。

そして「ロシアのウクライナ侵攻が、気候変動をはじめとする地球規模の課題の進展に大きな影響を及ぼす可能性があることを示している」と指摘し、「ことし 11 月の国連の会議 COP には 190 か国以上が集まるので、気候変動問題について 1 歩でも進めるよう期待したい。 それが、ロシアのウクライナ侵攻の中でも地球規模の課題にしっかり国際社会が取り組んでいく意思を示すことにもなると思う」と話しました。 (NHK = 9-1-22)


ライチョウ復活作戦、ついに最終局面 動物園育ちが木曽駒ケ岳お散歩

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トキが生息 環境整備地域に小山市と周辺 17 自治体が選定

国の特別天然記念物のトキが飛来した際に、生息できる環境の整備を進める地域の一つとして、(栃木県)小山市と周辺の 17 の自治体が選ばれました。 環境省は、トキの野生復帰に向けて、新潟県佐渡市で人工繁殖と野外への放鳥の取り組みを進めていますが、生息数が回復していることなどから、佐渡市以外でも定着させることを目指し、新たに放鳥を行うことにしています。 今月、放鳥の候補地として、石川県の能登半島の 9 つの市と町、それに島根県出雲市の 2 か所が選ばれました。

このほか放鳥はしないものの、トキが飛来した際のねぐらや巣作りなどの環境整備を進める地域として、秋田県にかほ市と宮城県登米市に加え、小山市と周辺の 17 の自治体が選ばれました。 小山市はこれまでもトキのエサとなる生物を増やそうと、農薬をできるだけ使わないよう農業者に呼びかける取り組みなどを進めていて、今後は佐渡市などと情報を共有しながら、環境整備を進めていくということです。 環境省は 2035 年ごろまでには、佐渡市以外でもトキを定着させたいとして、今回の候補地で環境面の調査を行い、放鳥の時期などを検討することにしています。 (NHK = 8-23-22)


気温 52 度超、降水量 300 ミリ超 世界の 3 分の 1 に気候リスク

地球温暖化がいまのまま進むと、今世紀末までに世界人口の 3 分の 1 が、気温が 52 度を超えたり、1 日の降水量が 300 ミリを超えたりするような気候災害にあうリスクにさらされる - -。 こんな予測が東京大学の研究グループによる分析で明らかになった。 世界各地で 20 年に 1 度の高温や豪雨に見舞われるリスクが、温暖化によって現在から今世紀末までにどう変化するかを分析した。

研究によると、現在のペースで温室効果ガス排出が続いた場合、これまでに人類が経験したことがないレベルの気候リスクにさらされるのは、世界人口の 34% にあたる約 25 億 2 千万人に上るという。 これは、気温が 52 度を超えたり、1 日に 300 ミリ以上の雨が降ったりするレベルだ。 また、たとえ世界の平均気温を、パリ協定の当初の目標である、産業革命前から 2 度未満の上昇に抑えられたとしても、世界人口の 16% にあたる約 11 億人が、同じレベルの気候リスクにさらされるという。

これらの地域は、すでに温暖化の深刻な影響を受けている南アジアやアフリカのサヘル地域などの人口密集地が中心となる。 世界のだれもが経験していない気候リスクに適応するのは難しく、さらに大きな影響が懸念されるという。 ほかの多くの地域も極端現象の激甚化は避けられないため、被害が先に現れる地域の適応策に学ぶ必要がある。

研究結果は、近く英国物理学会の学術誌に掲載される。 中心になって論文を書いた東京大学大学院工学系研究科博士課程の佐野太一さん (25) は「研究結果は、これまでの経験に基づいた適応策では不十分であり、一層の温室効果ガス削減と国際的な支援や協調が必要であることを示している」と話している。 (編集委員・石井徹、asahi = 8-13-22)


フランスで厳しい干ばつ、飲み水が不足する町も

フランスで歴史的な干ばつが続き 100 以上の自治体が水不足に直面する中、フランス政府は 5 日、危機対策チームを立ち上げた。 フランス政府のクリストフ・ベシュ・エコロジー転換相は、「水道管にもう何も残っていない」ため、水不足の自治体に給水車を派遣していると述べた。 首相官邸によると、フランスの観測史上最悪の干ばつだという。 93 の地域で、水の使用が制限されている。 北西部や南東部のほとんどで、水を節約するため、農地への給水が禁止された。

フランス気象庁によると、7 月の降水量はわずか 9.7 ミリで、1961 年 3 月以来、最も乾燥した 1 カ月を記録した。 少なくとも今後 2 週間は、乾燥した状態が続く見通し。 AFP 通信によると、フランス電力 (EDF) は一部の原子力発電所の出力を落としている。 周辺の川の水温が高すぎて、十分な冷却効果が得られないためという。 テレビ局 TF1 によると、アルプス地方の畜産農家は毎日、トラックで谷へ下りて動物用の水を集めて運ばなくてはならず、毎週の燃料代が数百ユーロ単位でかさむ事態になっている。

フランスで 6 月から続く熱波のため、樹木の落葉が例年になく進み、すでに各地は秋のような枯れた光景になっている。 フランス本土の大半が水不足の影響を受けているため、農産物の収穫が減るかもしれないと懸念されている。 その場合、ウクライナでの戦争による世界的な食糧危機がさらに悪化するおそれがある。 戦争の影響でロシアとウクライナからの穀物輸出が急減しているため、欧州ではすでに食品価格の高騰が家計を直撃している。

フランス農業・食料省によると、主に動物の飼料に使われるトウモロコシの生産高は昨年より 18.5% 少なくなる見通し。 主な産地は東部と西部で、すでに収穫が始まっている。 フランスのテレビ局 BFMTV によると、フランスだけでなく、ハンガリーやルーマニア、ブルガリアでも今年のトウモロコシ収穫高は熱波の影響で昨年より減る見通しで、それに伴う価格上昇が予想されている。 (BBC = 8-6-22)

◇ ◇ ◇

英国での気温 40.3 度の猛烈熱波、国際研究チーム「1,000 年に 1 度の異常気象」

欧米の気候学者らでつくる国際研究チーム「ワールド・ウェザー・アトリビューション」は 28 日、英国で今月 19 日に観測史上初となる最高気温 40 度超を記録した猛烈な熱波は、1,000 年に 1 度の頻度の異常気象だったと発表した。 チームは「人為的な温室効果ガス排出による気候変動がなければ、起こり得なかった」としている。 今回の熱波では、これまでの記録を 3 - 4 度上回る最高気温を英国各地で観測。 リンカンシャー州では国内最高の 40.3 度まで上昇し、国内で数百人規模の死者も出た。

チームは、地球の気候を予測するモデルなどを用いて分析。 その結果、英国でこうした熱波が起きる確率は、産業革命前に比べ、10 倍以上高まっていたことがわかったという。 最高気温も、気候変動の影響で 2 - 4 度押し上げられたと推測された。 気候変動によって熱波の強度や発生確率は高まっており、今後さらに激甚化すると予測されている。 東京大大気海洋研究所の渡部雅浩教授(気候力学)は「欧州に限らず、気候変動によってまた猛烈な熱波に襲われる可能性が高く、備えが必要だ」と指摘している。 (yomiuri = 7-30-22)


中国、年平均地表面温度が顕著な上昇率示す

【北京】 中国気象局は 3 日、「中国気候変動青書 (2022)」を発表し、気候システムの総合観測と複数の重要な指標によると、地球温暖化の傾向がさらに進んでいることを明らかにした。 21 年の世界の平均気温は産業革命前 (1850 - 1900 年の平均値)より 1.11 度高く、完全な気象観測記録を残すようになってから 7 回あった最も暖かい年の一つとなった。 中国の年平均地表面温度は 1951 - 2021 年に 10 年当たり 0.26 度上昇し、上昇率が際立った。

国家気候センターの袁佳双(えん・かそう)副主任は、中国では過去 20 年間が 20 世紀以降で最も暖かい時期だったと説明。 21 年の地表面温度は平年より 0.97 度高く、1901 年以降の最高値となったと述べた。 青書によると、1901 年以降の最も暖かい 10 年のうち、1998 年を除く 9 回は 21 世紀だった。 青書では、中国各地の年平均地表面温度が 1961 - 2021 年に大きく上昇し、地域別の上昇率の差が大きかったことが明らかになった。 地域別でトップの青蔵地区は 10 年当たり 0.37 度の割合で上昇。 華北地域、東北地域、西北地域がこれに続いた。

年平均地表面温度は 1951 - 2021 年に最高気温と最低気温がともに上昇しており、最低気温の上昇率が顕著だった。 21 年は最高地表面温度が平年より 1.01 度高く、07 年とともに 1951 年以降の最高値になったほか、最低気温も平年値より 1.2 度高く、1951 年以降で最も高かった。 猛暑日数は 1961 - 2021 年に 10 年当たり 6.0 日の割合で増加しており、特に 1990 年代半ば以降が顕著だった。 2021 年は 81.3 日で、平年より 37.6 日増え、1961 年以降で最も多かった。

極端な高温の発生頻度は 1961 - 2021 年に 10 年ごとの変化の特徴が顕著で、1990 年代半ばから大きく増えている。中国では 2021 年、極端な高温が 810 地点・日が記録され、平年より 530 地点・日増えた。 うち、雲南省の元江、四川省の富順などの 62 カ所では最高気温が観測史上最高を更新した。 (中国・新華社 = 8-4-22)


再エネ、法令違反なら FIT 交付金支払い停止 トラブル防止へ提言案

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波紋呼ぶ、太陽光パネルの義務化案 それでも東京都が踏み込む理由

東京都内の新築建物に太陽光発電パネルの設置を原則義務づける案をめぐり、建築主側の負担を減らす策が検討されている。 脱炭素化を大きく進めたい都は、戸建て住宅を含む全国初の仕組みを導入したい考えだが、都内の住宅価格はただでさえ高値。 住宅需要を冷え込ませず、強い温暖化対策に踏み込めるか。

「納得と理解を」慎重さ求める声

「住宅購入者の意向により(太陽光パネルを)多く設置したり、設置しないことができる仕組みとする。」 6 月の都議会で小池百合子知事はそう答弁し、建築主側に過度な負担をかけない制度とする考えを示した。 都議から「都民に選択の余地を残すなど納得と理解を得るべきだ」などと慎重な議論を求める意見が相次いでいた。 案は、環境や建築が専門の研究者らでつくる都の環境審議会が 5 月に示した。 「脱炭素社会」へパネル設置義務化が必要とする都の方針を受けて具体化したもので、都はこの案をもとに、秋以降、条例改正案を都議会に提出する構えだ。

審議会の案を分かりやすくいえば、@ ビルやマンションの大きな建物は建築主に、A 一般の住宅はメーカーに、それぞれパネル設置を義務づける内容。 対象者を具体的に示すと、@ 延べ床面積 2 千平方メートル以上の新築建物の建築主、A 年間の供給建物が計 2 万平方メートル以上の大手メーカーで、都は、A を約 50 社と見込んでいる。 日照に恵まれない場所もあるため、例外も設ける。 例えば、A は、会社ごとにノルマの発電総量を決め、それを達成できる範囲でパネル設置の物件を各社が決められるようにする。 また既存建物は、追加の改修工事が必要となるため義務対象から除く。

都は、都内の建物の 85% がパネル設置に適していると試算しており、制度導入後は、@ と、A の合計で年間約 2 万 5 千棟にパネルが新たに設置されると見込む。 集合住宅だけでなく、A に含まれる戸建て住宅まで対象にすれば全国初の制度となる。 そこまで視野に入れる理由として、都は、家庭部門で二酸化炭素 (CO2) 排出量が多い点を挙げる。

都は、「世界の大都市の責務(小池知事)」として 2050 年までに温室効果ガスを実質ゼロにする目標を「ゼロエミッション東京戦略」として公表した。 30 年時点で「00 年度比の半分」とする中期目標も決めている。 しかし、19 年度の実績を 00 年度と比べると、CO2 排出量は車や交通機関などの運輸部門で 46.8% 減ったが、家庭部門は逆に 25.6% 増えた。 人口や世帯数の増加が要因とみられている。 都内の CO2 排出量のうち、家庭部門は 3 割を占める。

都内の建物は全部で約 200 万棟に上り、年間約 2 万 5 千棟にパネルが設置されても効果は限定的。都は今のところ効果予測を示していないが、50 年までに都内の住宅の 7 割が建て替えられるとみており、「今から設置を進めることが重要(担当者)」と主張する。

京都府は「個人への義務化、ハードル高い」

議論の主な焦点はやはり、パネル設置の費用負担だ。 都の試算では、出力 4 キロワット(4 人世帯の 1 日の電力をまかなえる程度)の太陽光発電設備を戸建て住宅に設置する場合、初期費用は約 92 万円。また経済産業省の資料によると、年間維持費は 1 キロワット分で 3,690 円。 4 キロワットなら単純計算で 1 万 4,760 円かかる。

都が目指す制度の先行例はある。 京都府は 11 年、ビルなど延べ床面積 2 千平方メートル以上の新築建物に再生可能エネルギーによる発電設備設置を義務化し、20 年には対象を「300 平方メートル以上」に広げた。 群馬県も今春、同様の条例を施行したが、両府県とも戸建て住宅は対象外。 義務対象が主に事業者となるビルなどの建物と違い、個人に義務を課すことになる戸建て住宅は個別に事情も違うため「ハードルが高い(京都府の担当者)」という。

国も昨年 10 月、「2030 年の新築戸建て住宅のうち、6 割に太陽光発電パネルを設置」という目標を第 6 次エネルギー基本計画に明記した。 しかし、立地条件で日照量が変わる点や建築主側の負担が増えるといった課題があり、義務化までは踏み込んでいない。

住宅価格、1 年間で 800 万円高騰

都の検討案が実現すると、一般住宅のパネル設置費は住宅価格に転嫁されそうだ。 想定される懸念に対し、都は「電気代が減って設置費用は 10 年間で回収でき、売電で収入も得られる」と利点を強調する。

ただ、都内の住宅価格は高騰している。 不動産調査会社の東京カンテイによると、新築戸建て住宅の平均価格は 5,240 万円(5 月時点)で、直近 1 年間で 800 万円も値上がりした。 「コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、円安で人件費、建材費、燃料費が跳ね上がった。 この傾向は当面続くだろう。」とみる。 パネル設置の義務化で住宅取得の初期費用がさらに 100 万円近く値上がりした場合、「お客様によっては戸建ての購入を諦める人が出てくるかもしれない(設置義務が課せられそうな大手住宅メーカーの担当者)」という不安も聞かれる。

住宅メーカーなどでつくる一般社団法人「住宅生産団体連合会」は、設置義務化案を検討してきた都の審議会で、制度導入には建築主や住宅購入者への都の金銭支援が必要だと主張した。 同会の担当者は取材に対し、「負担感が減るよう支援をつけてほしい」と話した。 設置費支援について小池知事は 6 月の都議会で「都民の不安を払拭する方策を丁寧に説明し、必要な支援につなげていく」と述べ、対策検討の方針を示した。 ある都幹部は全額補助の可能性も挙げつつ、パネル設置が個人の売電収入にもつながるため、「都が(補助を)やりすぎるのもどうかと思う」と話す。 (笠原真、asahi = 7-21-22)


EV 排出量、全固体電池ならリチウムイオン電池より 3 割減 = 欧州団体

[ロンドン] 欧州の交通系環境保護団体トランスポート・アンド・エンバイロメント (T & E) は 19 日、電気自動車 (EV) 電池の排出量で、新技術の全固体電池の方が現在のリチウムイオン電池よりも 29% 減る可能性があるとの試算を発表した。 全固体電池で最も有望なタイプで比較すると、最大 39% が削減できる可能性があるという。 T & E 幹部は、EV そのものが既に地球にとってより良い技術だと指摘。 その上で、全固体電池はエネルギー密度が高いため、使用する原材料がより少なくて済み、排出量もより少なくなる技術だと強調した。 T & E は欧州議会や欧州連合 (EU) 加盟国がまとめる新 EV 電池規制で排出量削減に向けた奨励策の実施を訴えた。

全固体電池はエネルギー貯蔵力が高く、充電も早く、液体型であるリチウムイオン電池よりはるかに安全とされるほか、必要なコバルト原料も少ない。 コバルトの大半を生産するコンゴ(旧ザイール)では、非正規業者による採掘現場の危険な労働環境や児童労働が問題になっている。 米自動車大手フォード・モーターやドイツの BMW はそれぞれ供給業者と協業して全固体電池の開発に取り組んでおり、2020 年代の後半に EV への導入が始まると期待されている。 (Reuters = 7-19-22)


国内最大級バイオマス発電所起工 出力 7.5 万キロワット 下関

国内最大級のバイオマス発電施設「長府バイオマス発電所」の起工式が 6 日、山口県下関市長府扇町で開かれた。 2025 年 1 月の運転開始を予定している。 長府バイオマス発電所は、石油資源開発(東京都)、東京エネシス(同)、MOT 総合研究所(宇部市)、長府製作所(下関市)、川崎近海汽船(東京都)の 5 社による出資で設立した「長府バイオパワー合同会社」が事業主体となって運営する。

建設地は長府製作所が所有する敷地(6 万 2,800 平方メートル)で、総事業費は約 450 億円。 発電出力は 7 万 4,950 キロワットで、年間売電量は一般家庭約 17 万世帯分に相当する年間約 5.2 億キロワット時。 発電した電力は中国電力ネットワークに売電する。 燃料はベトナムやタイ、マレーシアから輸入する木質ペレットで、年間約 30 万トンを使用するという。

起工式には関係者ら 53 人が出席。 神事の後、施主を代表して石油資源開発の藤田昌宏社長が「この発電施設は環境負荷の低い木質ペレットを燃料としています。 再生可能エネルギーに由来する電力の普及、拡大に貢献するものと期待しております。」とあいさつした。 県内で同規模の木質バイオマス発電所は、下関市彦島迫町で九州電力グループが運営する「下関バイオマス発電所」があり、22 年 2 月に運転を開始している。 (部坂有香、mainichi = 7-7-22)


都庁「一斉消灯」に「労働環境悪化」批判 それが誤解だと言える理由

東京電力管内に電力需給逼迫注意報が発令されたことを受け、東京都庁では節電の一環として、14 時に執務室の照明の一斉消灯を行っている。 暗い室内でパソコンに向き合う職員の様子が報じられると、ツイッター上で「足元とか危なくないか」、「労働環境の悪化のほうが問題」といった批判の声が広がった。 労働環境に問題はないのか。 cast ニュースは東京都の担当者に取材した。

「一旦消灯し、改めて必要なところのみ点灯」

東京電力管内の電力需給が厳しくなっている影響で、都庁では 2022 年 6 月 27 日から一斉消灯の取り組みを開始した。 各種メディアはこの取り組みを紹介し、パソコンの光しかないような暗い室内で働く都職員の様子を放送した。 ツイッター上では職員の労働環境を懸念する声が広がった。 取材に対し東京都庁財務局建築保全部庁舎整備課の担当者は、消灯は一時的なものだと説明する。

「一斉消灯は使ってない部分の照明がついていないか再確認するために行っております。 不要な照明を消す行動を促すために一旦消灯し、改めて必要なところのみ点灯し必要な電気だけを用いて節電しております。」

担当者によると、都庁では昼休みにも照明を消灯している。 13 時に業務に戻り照明を利用後、14 時に一斉消灯を実施する。 必要な照明を洗い出すことを目的としているほか、電力需給のひっ迫がピークを迎える前に職員の意識を高めるねらいもあると説明している。 一斉消灯導入後は、通路や通路に面した打ち合わせコーナーの照明が落とされることが増えたという。 部屋の隅にあるコピー機などは、必要な時に限り電源を入れるようになった。 一斉消灯は今後も継続予定で、職員の節電意識の定着や、安定的な電力の確保によって解消される見込みだ。

突入電流による電力アップは?

また一部メディアでは再点灯を行っていることも報じられていたが、ツイッターでは、電源を入れたときに一時的に大電流が流れる「突入電流」が無駄ではないかと言う声も寄せられた。 こうした声に対しては、担当者は次のように説明する。

「確かに従来の蛍光灯であれば大きな電流を用いるかもしれませんが、都庁の多くの部屋では LED 電球を導入しておりますので突入電流で大幅な電力アップはないと思います。」

都庁のほとんどの執務室は LED に切り替えられ、省エネ対策を行っているという。 都庁では様々な節電対策を行っているが、各種メディアでは消灯の様子に重きを置いて報じられていた。 担当者は、一斉消灯の取材の受け方について次のように振り返る。

「今となっては慎重に撮ってもらうなど、取材の受け方にもう少し注意が必要だったかもしれません。 消灯後の再点灯は人稼働率の低いエレベーターの電源を切るシーンなどいくつかの取材に応じました。 また再点灯には人の操作を必要としますので、初日はスタンバイが遅れました。 現在はすぐに必要箇所の点灯を行っています。 照明の利用を禁じるなど労働安全衛生規則の逸脱はございません。」

そのうえで、都庁の一斉消灯が大きな注目を集めたことについては次のように受け止めた。

「都庁の取り組みに関心を持ってもらえたことはありがたいことだと受け止めています。 誤解を与えてしまったのは大変申し訳ないのですが、『真っ暗でいいのか』といった我々の労働環境への心配は、応援の気持ちによるものだと思います。 また少なからず節電や電気のことに意識を向けてもらえたのならば、一斉消灯を行った効果はあったのではないかと思います。」 (Jcast = 6-29-22)


「グリーン・ニューディール」 環境と成長、両立できる?

地球の危機に立ち向かう環境対策によって、同時に経済成長も実現する - -。 「グリーン・ニューディール」と呼ばれる考え方が、世界で支持を集めている。 「しかし、それでは脱炭素は間に合わない」と成長をめざすこと自体を見直すよう訴える斎藤幸平さん。 「脱成長を言う前に、やるべきことがある」とグリーン・ニューディールの可能性を説く明日香寿川さん。 2 人に持論を語ってもらった。

「グリーン政策」では間に合わぬ 東京大学大学院准教授・斎藤幸平さん

脱成長論が注目された理由をどう考えますか。

「人類の経済活動が地球環境を破壊する『人新世(ひとしんせい)』と呼ばれる時代に突入し、気候変動の被害が誰の目にも明らかになったからだろう。 そのうえグローバル経済のせいで広まったコロナ禍があり、経済成長がもたらす負の側面に関心が集まった。 危機は今後も続く。 特に気候変動による被害は、慢性的に社会を不安定にさせる。 気候変動の被害を最小化し、脱炭素をめざすためには脱成長は必須だ。 社会を安定させ、貧富の格差を是正するためにも、むやみな利潤追求はあきらめなくてはダメだ。」

コロナ後の社会はどうなっていくでしょうか。

「SDGs などの小手先の対応でグリーン政策による経済成長をめざし、浪費型社会を続けるのか。 あるいは取り返しのつかないほど人類が地球環境を変えてしまった状況を反省し、別の経済のあり方をめざすのか。 その大きな分岐点に立っている。」

日本政府は、成長と脱炭素を両立させる「グリーン成長」を打ち出しています。

「電気自動車 (EV) の導入を進め、再生可能エネルギーを増やせば、デカップリング(経済成長と環境負荷を切り離すこと)は起きるだろう。 ただ、問題はそれで間に合うのかということだ。 実際は 2030 年までに二酸化炭素排出量を半分減らさなくてはいけない。 100 年後なら経済成長を続けながら脱炭素ができる技術革新があるかもしれない。 だが、短期間では実現性にとぼしい。」

「経済規模が大きくなるほど多くの資源とエネルギーを使う。 浪費的な社会のあり方が続く限り、脱炭素への困難さは増す。 再エネ、省エネはもちろんだが、消費のあり方、働き方、商品の種類を変えていくことが必要だ。」

資本主義の枠内での脱炭素実現は無理なのでしょうか。

「資本主義の本質は資本を増やすこと、経済成長を求め続けることだ。 それが膨大な無駄を生み、気候変動を解決する足かせになっている。 企業が脱炭素化したと掲げる商品をつくっても、大量生産・大量消費の生活様式が続くならば、気候変動は止められない。」

「必要なのはライフスタイルそのものを大きく変えることだ。 例えば国内で、鉄道で 2 時間半でいける東京 - 大阪などは飛行機を飛ばさない。 これは市場に任せていては絶対にできない。 危機感をもった社会が市場に対して命じなければ実現できない。」

環境対策で良質な雇用を生み出し、経済を発展させる「グリーン・ニューディール」についてはどのように考えますか。

「環境によいとされる先進的な電気自動車などをたくさんつくり、新たな需要を喚起すれば、雇用も生まれるという成長モデルだ。 だが、それで救われるのは先進国の重工業だけだ。 レアメタルなど資源採掘の需要が高まれば、途上国の人々の暮らしや自然は破壊される可能性がある。」

「私が提唱するのは成長なきグリーン・ニューディールだ。 技術革新は起こすが、つくる車の台数は増やさない。 代わりに、人々の労働時間を減らしていく。 今までの資本主義では、生産力が上がっても、もっとたくさんつくるので労働時間は減らなかった。 それをやめて、短く働く社会に転換する必要がある。」

現代社会は成長をあきらめきれるでしょうか。

「有限の地球環境で無限の経済成長はできないという当たり前の現実を受け止めるべきだ。 この間、成長をめざした必死の改革で格差は拡大し、幸福度は下がった。 そもそも、私たちが生きていくために不可欠な、教育や介護、保育のようなエッセンシャルな分野で利潤を求める必要はない。 成長を前提にせずに、人々の基本的なニーズは満たされる社会を構想する必要がある。」(聞き手・土居新平)

さいとう・こうへい : 1987 年生まれ。 大阪市立大学大学院経済学研究科准教授を経て今春から東京大学大学院総合文化研究科准教授。 専門は経済思想、社会思想。 著書「人新世の『資本論』(集英社新書)」が 45 万部を突破した。

「脱成長」の前に、やるべきことある 東北大学教授・明日香寿川さん

「グリーン・ニューディール」を目指す動きが世界に広がっています。 リーマン・ショック後に一時盛り上がってしぼんだのが、再び脚光を浴びています。

「この 10 年あまりで気候危機が目に見える形で深刻化したことだけでなく、再生可能エネルギーが安くなり、エネルギー転換が理想論や精神論ではなくなったことが大きい。 そこに『ジェネレーション・レフト』と呼ばれる若い世代が声を上げるようになった。」

「温暖化を止めるなら、地球全体で今後排出できる二酸化炭素 (CO2) 量には限りがある。 誰が、どれだけ排出してきたか、そしてこれから排出できるのか。 先進国と途上国、今の世代と未来世代の間の、分配や正義の問題なのだという認識も広がっている。」

欧米の場合は環境対策による雇用創出が大きな目玉です。

「失業率が高い欧州や途上国とは、単純に比べられない面もある。 ただ、とくに地方に着目すれば日本でも雇用は足りていない。 グリーン・ニューディールは環境対策を通じ、とりわけ地方で多くの良質な雇用をつくりだす。」

そもそも成長をあきらめなければ気候危機は避けられない、との考え方も広がっています。

「経済成長の意義を問うことは重要だが、成長か脱成長かという話になると、人によって定義が異なり、議論が発散してしまう。 そして結局、何も変わらない。」

「私たち先進国に住む人たちの過剰消費は問題だ。 しかし、温暖化対策のために脱成長するとしても、いつ誰が何をどれだけやればいいのか。 CO2 排出はどれだけ減るのか。 具体的な提案がなく、多くの人はよくわからない。」

脱成長論の火付け役となった斎藤幸平さんは、金融取引税や富裕税、飛行機・スポーツカー・牛肉など環境に悪いものへの規制や課税を提言しています。

「それらには賛成だ。 しかし、同様の提言は、何十年前も前から無数の研究者や環境 NGO が行ってきた。 それなのに、日本ではなかなか実現しない。 仕事や利権を失うことを恐れる人たちが反対し、基本的には経済を重視する国民全体の支持もないからだ。 それが現実であり、選挙を見ればわかる。人間の欲望をコントロールするという難しい問題もある。」

「歴史や人間の本質から学ぶなら、『気候対策としてだけでなく、雇用確保やエネルギーコスト低下、そして経済成長につながる』と言った方が、政策が実現する可能性はより高まる。」

気候危機を食い止めるのに、グリーン・ニューディールで間に合うでしょうか。

「脱成長という言葉で社会を変える方が、よほど時間がかかるように思う。 脱成長を意識して、志向・ライフスタイルの変化や我慢による省エネも必要だ。 しかし、そのような種類の省エネのほかにも、ただちに取り組むべき省エネはたくさんあり、ポテンシャルは極めて大きい。 典型的なのが建物の断熱強化、照明の更新、工場への省エネ設備導入で、これらの多くは投資した分を回収できる。」

コロナ禍を機に、資本主義そのものを見直そうという機運も世界で高まっています。

「格差や差別が資本主義の問題だという認識が強まったことが、脱成長論に支持が集まる要因になっている。 しかし、私が理解する脱成長論はやはり抽象的で漠然としたものだ。 結果的に、あいまいな形で個人に責任を帰することになり、社会のシステムチェンジにもつながらないのではないか。」

「要は、脱成長が必要な分野がある一方で、成長が必要な分野もあるということであり、具体的な政策を含めたもう少し丁寧な議論が必要ではないか。 気候危機には脱成長しか解決策はないという紋切り型の議論は、結果的に再エネや省エネの過小評価につながり、戦略的にもどうかと考える。」 (聞き手・江渕崇、asahi = 6-19-22)


あすか・じゅせん : 1959 年生まれ。 東北大学東北アジア研究センター・環境科学研究科教授。 専門は環境エネルギー政策。 近著に「グリーン・ニューディール 世界を動かすガバニング・アジェンダ(岩波新書)」。