女性従業員「ただただショック」、市長「雇用危機」 … アツギ東北工場閉鎖に悲鳴

ストッキング大手「アツギ(神奈川県海老名市)」の 100% 子会社「アツギ東北」が、青森県むつ市などの工場の閉鎖を発表してから一夜明けた 21 日、地元には衝撃が広がった。 500 人以上の働き口を失う「市始まって以来の雇用危機(宮下宗一郎市長)。」 支援策の検討が急がれるが、有効策は見通せない。

アツギによると、21 日は事業所内で従業員向けの説明を行ったという。 朝、工場に出勤途中だった女性従業員は「ただただショック。 今後のことはまだ考えられない。」と不安げに語った。 アツギの古川雅啓・執行役員管理統括は読売新聞の取材に「50 年以上続いた工場を閉鎖するのは苦渋の決断で、地域経済への影響も小さくないと考えている。 労働組合との協議を通じて対応を検討したい。」と声を絞り出した。

「アツギ東北むつ事業所」は、1965 年に解散した「むつ製鉄」の代替企業として誘致され、66 年に操業開始。 アツギの国内生産の基幹工場で、従業員数は一時約 1,000 人に達し、現在も 500 人以上が勤める。 民間では、下北地域最大の雇用の場となっている。 新型コロナウイルスの感染拡大はストッキング市場にも暗い影を落としている。 外出自粛で需要が落ち込み、2021 年 3 月期連結決算は 3 年連続の赤字で、21 年 9 月中間決算も赤字幅が前年同期より拡大。 むつ事業所は半世紀の歴史に幕を下ろさざるをえなくなった。

むつ事業所では既に希望退職を募集しており、20 年夏以降に約 270 人が離職。 当時、市は支援金の支給や一部を市で採用するなどの救済措置を取った。 ただ、今回の人員整理は 2 倍に迫る規模で、市の担当者は「人口 5 万人のまちで 500 人が職を失えば市だけで対応できるレベルではない。 工場の閉鎖は想定しておらず、どう対処してよいかわからない」と悲鳴を上げる。 地域経済への影響を緩和できるかは、不透明な情勢だ。 (yomiuri = 1-22-22)


希望退職の募集ラッシュ、2 年連続 80 社超え 今年もすでに 9 社判明

2021 年に希望退職を募った上場企業は 84 社あったと、東京商工リサーチが 20 日に集計して発表した。 20 年の 93 社から減ったとはいえ、2 年連続の 80 社超えはリーマン・ショックの影響が大きかった 09 - 10 年以来。 業種別ではアパレル・繊維が 11 社を占め、2 年続けて最多となった。 電気機器の 10 社、観光を含むサービスの 7 社が続いた。

募集者数(非公表の企業は応募者数)の合計は、判明した 69 社分で 1 万 5,892 人になった。 20 年は 1 万 8,635 人で、2 年続けて 1 万 5 千人を超えたのは 02 - 03 年以来。 人減らしの波はコロナ禍で苦しむ業種にとどまらず、脱炭素などの課題に直面した大手企業にも広がり、大規模な募集も相次いだ。 今年もすでに 9 社の募集が判明しており、当面は高水準で推移しそうだ。

上場企業が希望退職を募る場合、東京証券取引所のルールで公表を義務づけられているが、業績への影響が小さければ免除される。 公表されていないものや非上場企業による募集もあり、実際の数はもっと多いとみられる。 (内藤尚志、asahi = 1-20-22)

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「早期・希望退職者」が 20 年ぶりの高水準、黒字企業が人員削減に注力する理由

新型コロナ感染拡大から 2 年。 今秋以降、新型コロナの新規感染者数が全国で急減し、ワクチン 2 回目接種率も全国で 7 割を超えた。 10 月下旬には東京都内の飲食店の時短制限営業も解除され、経済活動はアフターコロナに向けて動きだした感がある。 だが、上場企業の人員削減は 2020 年に続き、今年も依然として高い水準を維持している。 新規求人はコロナ前の水準まで戻らないが、上場企業では 1,000 人以上を対象にした大型募集も目立つ。 変異株「オミクロン株」の感染拡大も懸念される中で、早期・希望退職募集は新たなフェーズに入ったようだ。(東京商工リサーチ情報部 二木章吉)

2 年連続で 1 万 5,000 人超え だらだら続く退職者の募集

2021 年の「上場企業の早期・希望退職」を実施した企業は、12 月 9 日現在で 80 社、1 万 5,296 人に達する。 これは 2020 年(92 社、1 万 8,635 人)に続き、実施社数が 80 社を超え、対象人数は 1 万 5,000 人を上回った。 2 年連続の 1 万 5,000 人超は、IT バブルや平成不況の影響が後を引いていた 2002 年(3 万 9,732 人)、2003 年(1 万 6,833 人)以来、約 20 年ぶりの水準となる。 未曽有の大不況といわれたリーマン・ショック直後の 2009 年には 191 社・2 万 2,950 人と 7 年ぶりに 2 万人を超えた。 しかし、翌 2010 年は 85 社・1 万 2,223 人と沈静化し、上場企業の人員削減は「瞬間最大風速」的な側面があった。

ところが、コロナ禍はインバウンド需要が消失し、長引く外出自粛と消費低迷が観光や外食、アパレル、小売(スーパー除く)など、対面型のサービス業を中心に直撃した。 希望退職の多い業種は、「アパレル・繊維関連」で 2020 年が 18 社、2021 年が 11 社(12 月 9 日現在)と 2 年連続で最多となった。 低価格品の台頭に加え、消費増税と暖冬による重衣料の販売不振、そこにコロナ禍での外出自粛による通勤着・高価格品の需要減少が業績悪化に拍車を掛けた。 この他では、観光が 2010 年以来、運送(交通インフラ)が 2013 年以来、それぞれ募集を実施した。 コロナ禍が急襲した業種で、多くの上場企業が人員削減という "最後の手段" に手を付けた。

人員削減のみならず 不動産売却も増加

人員削減と並び、業績悪化時の応急的な止血策の代表格が「不動産売却」だ。 不動産売却は「早期・希望退職」と同様、コロナ禍で件数は高水準で推移した。 2020 年、早期・希望退職と不動産売却の両方を実施した上場企業は 11 社。 募集企業全体の 1 割超 (11.9%) にのぼり、この数字はリーマン直後の 2009 年(11社)と並ぶ。 業種は限定的だが、コロナ禍の景況感はリーマン・ショック時と相関性があるといわれる。 上場企業の人員削減と不動産売却もまた、リーマン・ショックとコロナ禍は同じような動きを示す。

リーマン・ショック時は 2009 年と 2010 年の 2 年連続で実施社数が 10 件を超えた。 だが、コロナ禍は 2020 年こそ 11 社だったが、2021 年は 1 社にとどまる。リーマン時より、経営が影響を受けた期間は比較的短いようだ。 この背景は、リーマン・ショック時とコロナ禍で影響を受けた業種の違いが大きい。 リーマン・ショック直後に不動産売却・早期希望退職の両方を実施したのは、電気機器や精密機器、機械など製造業の中でも、とりわけ国内外での需給動向に影響を受ける企業での実施が目立った。

一方、コロナの影響を受けたのは、外食やアパレル・繊維、広告・イベント、観光など、サービス業が中心で、内需への依存度合いも大きい。 こうした業種は製造業に比べ身軽で、本社や営業拠点が必ずしも自社所有でない企業も散見される。 2020 年に人員削減・不動産売却の両方を実施した企業は、エイベックスや電通グループ、三陽商会、フレンドリーなど、「コロナ直撃業種」が多い。

これらの企業は不動産売却益でコロナによる大規模な損失を補填した面もある。 上記の募集人数も比較的小規模で済み、複合的な止血措置がある意味 "効果的に" 働いたともいえる。 ただ、リーマン・ショック時と異なる点は、コロナ禍では本社という "本丸" 売却が目立ったことも特徴だろう。

黒字企業で進む 大規模な人員削減

コロナ前の 2019 年は、「早期・希望退職」を実施した企業のうち、半数以上の 57.2% が直近決算で最終利益が黒字だった。 このため、「黒字リストラ」というワードが話題となった。 その後、わずか数カ月で早期・希望退職を取り巻く様相はガラリと変わった。 コロナの感染拡大で、業績悪化を引き金にした人員削減は、BtoC 業種を中心に急増。 有効求人倍率はコロナ前の 1.6 倍台(2019 年 8 月)から、たった 1 年弱で 1. 0 倍台(2020 年 7 月)に急低下した。 労働市場を大波が覆う中、多くの人がコロナを理由に人員削減の対象となり、2020 年の実施企業の収益は前年とは逆に半数以上 (54.8%) が赤字だった。

こうした中で 2021 年春以降、コロナを背景とした上場企業の人員削減は、規模の大きな製造業を中心に募集人数 1,000 人超の大型募集が相次いだ。 12 月 9 日までに 1,000 人以上の大型募集の実施企業は 5 社で、金融危機時の 2001 年(6 社)に次ぐ、20 年ぶりの高水準となっている。 主な企業と募集人数は、日本たばこ産業がパートタイマー、子会社の従業員を合わせて計 2,950 人、本田技研工業の約 2,000 人、KNT-CT ホールディングス (HD) 1,376 人などだ。

2020 年の実施企業は、全体の 61.3% (49 社、12 月 9 日現在)が赤字だった。 1,000 人以上の大型募集に限ると、5 社のうち、KNT-CTHD を除く 4 社が直近本決算で最終利益が黒字の「黒字リストラ」だった。 黒字企業が全社的に大規模募集を実施し、赤字企業は小規模な募集という、人員削減の "二極化" が生じている。 これまでの早期・希望退職は、「業績不振による人員削減」および「業績は黒字だが、事業の構造転換を狙った中高年対象の人員削減」が中心だった。 そしてコロナ禍では「市場の将来性を見越して全社員を対象にした人員削減」も加速している。

2021 年の早期・希望退職は、件数・募集人数ともに前年を若干下回る水準で落ち着きそうだ。 ただ、長引くコロナ禍が直撃した業種を中心に、募集人数 200 人以下の小規模募集は今後も見込まれる。 2022 年の早期・希望退職は、大企業による全社的な募集動向のいかんによっては、3 年連続で募集人数が 1万 5,000 人を上回る可能性もある。 業績悪化を理由にした人員削減だけでなく、緊急事態宣言の解除に代表される行動制限の緩和等も追い風にし、業績に問題なく、経営資源に余裕のある企業が業務の効率化、中長期的な経営見直しで募集する機運も高まっている。

働く側も、よりタイムリーに雇用を取り巻く環境変化を捉えなければならない局面に来ているのかもしれない。 (Diamond = 12-20-21)


障害者雇用拡大目指し トクヤマが農業に参入 山口

山口県周南市の総合化学メーカー・トクヤマが農業に参入する。 障害者の雇用拡大を目指して、柳井市でリーフレタスの栽培を始めることになった。 柳井市への進出協定に調印したのは障害者雇用の拡大に力を入れるトクヤマと、近代的なハウス栽培のノウハウを持つ山梨県のサラダボウル、それに JA 山口県など。 トクヤマは去年 12 月、サラダボウルと新たに農業法人「トクヤマゆうゆうファーム」を設立した。

柳井市余田の遊休化している既存のビニルハウスを一部活用して、JA 山口県が施設を建設しゆうゆうファームに貸し出す。 施設面積は約 1 万 4,500 平方メートル。 リーフレタスは水耕栽培で種まきから育苗、栽培、商品としてのパッキングまでこのハウス内で行われる。 温度管理や水やりなどオートメーション化した最新の設備を導入し、単位面積あたりの生産量は国内トップクラス。 年間 500 万株の出荷を見込んでいる。 作業の 8 割は障害者が担えるとして、トクヤマは来年度から毎年 2 - 3 人以上の障害者を雇用し、最終的には 20 人の障害者雇用を見込んでいる。

「1 年を通じてやれる農業に着目して、こういったものであればハンデキャップを負った障害者の方々もかなり活躍いただける。 それがみなさんの生きがいになるというような社会の実現を、ぜひ我々も目指していきたい。(トクヤマ・横田浩社長)」

施設は 6 月に着工、来年 3 月の完成を目指していて、リーフレタスの栽培開始は来年 4 月の予定。 (KRY 山口放送 = 1-14-22)


冬のボーナス、大手企業は 2 年連続減 … 平均妥結額 82 万 955 円

経団連は 22 日、大手企業の今冬のボーナス(賞与・一時金)妥結額の集計結果を発表した。 集計した 164 社の平均妥結額は昨冬比 5.16% 減の 82 万 955 円となり、2 年連続で減少した。 金額は 2013 年(80 万 6,007 円)以来、8 年ぶりの低水準だった。 経団連によると、回答した企業の 4 分の 3 が、春闘などで夏と冬を合わせた年間のボーナス支給額を決めており、多くの企業でコロナ禍の影響を受けたという。 非製造業は 18.01% 減の 71 万 2,019 円で、製造・非製造の集計を始めた 1997 年以降で金額は最低となり、減少率は最大だった。 製造業は 1.32% 減の 85 万 3,475 円だった。 (yomiuri = 12-22-21)


9 月の生活保護申請 6% 増 コロナで雇用悪化が影響か

厚生労働省は 1 日、9 月の生活保護申請は 2 万 156 件で、前年同月比 6.1% 増えたと発表した。 前年同月比増は 5 カ月連続。 9 月の受給世帯数は 164 万 1,564 で、同省によると、2018 年 1 月以降、毎月ベースで見ると最多だった。 新型コロナウイルスによる雇用情勢悪化の影響とみられる。 9 月の受給世帯は、高齢者の単身世帯が約半数を占めた。 9月から生活保護を受け始めたのは 1 万 7,829 世帯で前年同月比 7.3% 増。 それ以前から受けている人を含む 9 月の受給者数は 203 万 8,210 人で、同 0.5% 減となった。 (kyodo = 12-1-21)


大学生内定率 71.2% 急落した前年から 1.4 ポイント改善

来春卒業予定の大学生の就職内定率は、10 月 1 日時点で 71.2% だった。 文部科学省と厚生労働省が 19 日、発表した。 コロナ禍で急落した昨年同期の 69.8% から 1.4 ポイント改善したが、一昨年同期と比べると 5.6 ポイント低く、コロナ前の水準には回復していない。

企業が正式な内定を出す 10 月 1 日時点の状況について、国公立大 24 校と私立大 38 校の計 4,770 人を抽出して調査した。 男子の内定率は 70.7% (昨年同期比 1.9 ポイント増)、女子は 71.7% (同 0.8 ポイント増)で男女とも昨年から上昇。 ただ、いずれも一昨年同期比では 6 ポイントほど低い。 文系は 70.8% (昨年同期比 2.1 ポイント増)、理系は 72.6% (同 1.9 ポイント減)だった。 文科省の担当者は「航空や観光、飲食業の景況が本調子でない分、一昨年よりは内定率が低い。  引き続き採用は続いており、就職支援に取り組む。」と話す。 (桑原紀彦、asahi = 11-19-21)

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製造業の大卒内定者 3 年ぶり増 22 年春入社、本社調査

日本経済新聞社が 24 日まとめた 2022 年度の採用状況調査で、主要企業の大卒採用の内定者数(22 年春入社)は 21 年春入社数と比べて 2.2% 減となった。 前回調査の 11.4% 減から改善し、製造業では 3 年ぶりのプラスとなった。 半面、非製造業はマイナス圏が続き回復が遅れている。 大卒と大学院修了を合わせた内定者数は 10 万 9,547 人だった。 グローバル化が進み世界経済の回復の恩恵をいち早く受ける製造業は、14.6% 減から 0.4% 増となった。 電機が 10.2% 減から 3.5% 増、自動車が 29.4% 減から 4.2% 増と回復をけん引する。

三菱自動車は 21 年度実績と比べて 3 倍超の 143 人に内定を出した。 「構造改革のために採用を絞ったが 22 年度以降は要員構成を適切に維持する。(同社)」 一方、外出自粛が直撃した業種を含む非製造業は 3.4% 減となった。 21 年度の 9.8% 減よりは改善したが製造業と比べると回復は遅い。 ホテル・旅行や鉄道・バスなどが大きな影響を受け、JTB グループや JR 九州は内定者ゼロだった。 「新型コロナウイルス禍の影響を受け、22 年度新卒採用は見合わせている (JTB)」という。

内定者数の 3 年連続マイナスはリーマン・ショック時以来 2 度目だが、比較すると底堅さもある。 リーマン・ショック後の 10 年度には 3 割近く落ち込んだが、新型コロナ下では 1 割減にとどまった。 日本総合研究所の山田久副理事長は「若年層の人口減や中途の争奪戦もあり、一定量の新卒採用は欠かせない」と話す。 この間、企業の採用戦略は大きく変わった。 中途が新卒と並ぶ採用活動の柱として定着した。 デジタルトランスフォーメーション (DX) など事業変革が求められるなか、即戦力となっている。

中途採用計画は前年度実績比で 20 年度に 2% 減少したが、足元の 21 年度は 19.7% 増と急回復し、初めて 8 万人を超えた。 総務省の労働力調査によると 20 年の転職者数は 319 万人で 19 年から約 1 割減少したが、採用意欲は回復傾向にある。 23 年度の見通しでは新卒採用を「増やす」と回答した企業は全体の 11.1% で「減らす」の 2.1% を大きく上回った。 出遅れる非製造業でも「増やす」が 13% と 21 年度調査の 7.4% から高まっている。 (nikkei = 10-24-21)


非正規社員 10 万人の転職支援 国が学び直しの研修費負担

IT 人材の確保と今後の課題

記事コピー (10-2-21 & 11-17-21)


東リの偽装請負を認定 「みなし制度」で直接雇用 大阪高裁判決

住宅建材大手の東リ(兵庫県伊丹市)の工場で建材の製造などを行っていた労働者が、「偽装請負」の状態で働かされていたと訴えた訴訟の控訴審判決が4日、大阪高裁であった。清水響裁判長は、偽装請負には当たらないとした一審・神戸地裁判決を取り消したうえで、同社と直接の雇用関係にあると認め、未払い賃金の支払いを命じた。 2015年施行の改正労働者派遣法で、偽装請負の場合、派遣を受けた企業側が労働者に直接雇用を申し込んだとみなす「みなし制度」が導入された。このみなし制度を適用した今回の判決は、企業の雇用形態について、改めて見直しを迫るものとなりそうだ。

原告は東リから業務を請け負っていた会社の社員だった5人。東リの工場で建材の製造や検査をしていた。17年に両社の契約が終わり、業務は別の人材派遣会社に引き継がれたが、5人は解雇されたため、東リと直接の雇用関係があることの確認を求め、提訴した。 清水裁判長は、東リが直接、5人に業務を指示していた一方、請負業者は5人の労働実態も把握していなかったとし「業務請負の実態があったとは認められず、偽装請負の状態にあった」と認定した。

そのうえで、企業が「日常的かつ継続的に偽装請負の状態を続けていたと認められる」場合には、偽装請負を認識していたとして「みなし制度」が適用される、と指摘。東リの偽装請負は製造業への労働者派遣が禁じられていた1999年ごろから続いていたと認め、東リが5人に直接雇用を申し込んだとみなされると結論づけた。 判決後に会見した原告の1人、藤沢泰弘さん(58)は「違法派遣や偽装請負で働かされている人はたくさんいる。判決が、非正規労働者が直接雇用の権利を得る礎になれば」と語った。(森下裕介、asahi = 11-4-21)


「小山ロール」の人気洋菓子店 過労死ライン超えの残業で 2 度勧告

ロールケーキ「小山ロール」で知られる洋菓子店「パティシエ エス コヤマ(兵庫県三田市)」の運営会社が、労使協定で定めた上限(月 100 時間未満)を超える時間外労働を半数の社員らにさせたとして、伊丹労働基準監督署から労働基準法違反で2度にわたって是正勧告を受けていた。同社が取材に明らかにした。 月 100 時間の時間外労働は、労災認定基準の目安の「過労死ライン」と呼ばれる。

同社によると、2018 年 1 月、洋菓子の製造や販売などを担う社員・契約社員約 100 人のうち、55 人の時間外労働が「月 100 時間未満」の上限を超えていたと認定された。 21 年 1 月にも 48 人が上限を超えたと認定され、それぞれ是正勧告を受けた。 同社は取材に「長時間労働が常態化していた。 1 度目の是正勧告を受けた時の労務担当の社員が翌年に退職し、その内容が社内で共有されていなかった。」と説明した。 労基署には 3 月、労働環境の改善状況をまとめた是正報告書を提出したが、一部の社員の長時間労働が解消できておらず、新たな報告書を作成中という。

2 度目の是正勧告を受けた社内調査では、一部の社員らに対する残業代の未払いも発覚し、支払いを進めているという。 同社はテレビ番組に出演していたパティシエの小山進氏 (57) が 1999 年に設立した。 看板商品はロールケーキ「小山ロール」。 2003 年に開いた店舗が三田市にあるほか、ネットでも販売する。 小山氏は世界的なチョコレートコンテストで最優秀賞に選ばれたこともある。 同社によると、20 年 8 月期の売上高は約 18 億 6 千万円。

小山氏は 3 日付で同社ホームページに「労働関係法令に対する認識が不足しており、取り組みが不十分でありましたことを重く受け止めております」とのコメントを出した。 (井岡諒、asahi = 11-3-21)


仕事の切れ目が全ての切れ目に 隠れていた格差、危機のたび噴出

記事コピー (10-22-21)


学童指導員の雇い止めは「不当労働行為」 大阪府労働委が復帰を命令

大阪府労働委員会は 14 日、守口市から学童保育事業の委託を受けた「共立メンテナンス(東京)」が指導員 10 人を雇い止めにしたのは不当労働行為にあたると認め、同社に対し、職場復帰させるなどの救済措置をとるよう命令した。 命令などによると、守口市は 2019 年 4 月、学童保育事業を同社に委託。 指導員と 1 年更新の雇用契約を結び、翌年 3 月に雇い止めにした。 指導員 10 人が加入していた労働組合が、雇い止めや団体交渉に応じないのは不当労働行為にあたるとして昨年 8 月、府労働委員会に申し立てていた。

命令は、委託契約の際、長期的に安定した形態で指導員を雇う方針が示されていたことなどを挙げ、継続的に働けると期待できるような状況にあったと指摘。 10 人が組合で中心的な役割を担っていたため、合理的な理由なしに雇用契約を終えたとし、組合への支配介入にもあたると判断した。 共立メンテナンスの担当者は、取材に対し「内容を拝見し、今後の対応を検討する」と話した。 市の広報担当者も「今後速やかに共立メンテナンスから(命令の)報告を受け、対応を検討する」と語った。 (堀之内健史、asahi = 10-14-21)


コロナで急拡大のギグ・エコノミー 英国で働き手の権利保護の動き

スマホのアプリなどで単発の仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」という働き方がコロナ下で急拡大している。 働く時間などが自由な半面、働き手の立場の弱さが課題だ。 英国では今年、代表格の配車大手ウーバーが運転手の処遇を見直した。 潮流を変えるきっかけとなるか。

8 月上旬、出張先からロンドンに戻り、空港の玄関を出たのは夜 10 時近かった。 電車に乗ろうと思ったが、自宅まで地下鉄を乗り継ぐと 2 時間弱かかる。 駅から 20 分ほど荷物を引いて歩くが、やや不安な時間だ。 考えた末、スマートフォンを取り出し、開いたのは「Uber (ウーバー)」のアプリ。 タクシーより安価に送迎を頼める配車サービスだ。 英国では多くの人が利用している。

アプリで目的地を入力すると、運賃が約 30 ポンド(約 4,500 円)と提示された。 この金額は需給などで変動するが、事前にわかるのはありがたい。 依頼ボタンを押し、近くにいる運転手との「マッチング」が始まる。 5 分ほどで待ち合わせ場所の駐車場に到着した車に乗り込み、家路へ。 40 分ほどのドライブだ。 ルーマニア出身だという運転手のミーハイさんが、運転手用のアプリ画面を見せてくれた。 私を運ぶ仕事を請け負った金額は、24 ポンドと表示されている。 差額の 6 ポンドはウーバーに入る。

働き手と、労働力を必要としている人や企業を仲介し、ギグ・エコノミーを支えるウーバーのような事業者は「プラットフォーマー」と呼ばれ、世界で増えている。 ギグ・エコノミーはプラットフォーマーからネットやアプリを介して単発・短期の仕事を請け負う働き方で、英語のギグは、音楽家が開く単発のライブ演奏から来ている。 マスターカードは 2019 年のリポートで、ギグ・エコノミーの市場規模が 23 年には 4,552 億ドル(約 50 兆円)と、18 年の推定 2,040 億ドル(約 22.4 兆円)の 2 倍以上に拡大すると見込んだ。

ギグ・エコノミーの働き手にとって最大の魅力は「柔軟性」とされる。 働く時間や場所を自分で決められ、組織に属さなくて良い気ままさもある。 ミーハイさんは毎朝、妻を仕事に送り出した後、子どもを幼稚園に送る。 時間の融通が利くため、この仕事を選んだという。 一方で、ギグ・エコノミーでは働き手は「個人事業主」とされ、プラットフォーマーとの交渉力が弱く、不安定な労働環境や社会保障の不備などが課題となっている。

これを覆す事態が英国で起きた。 ウーバー運転手が起こした裁判で英最高裁が今年 2 月、運転手を「ワーカー」と認める判決を出した。 ワーカーは、従業員などの「労働者」と、「個人事業主」の中間に位置する英国特有の区分で、雇用関係がない企業からも労働者の権利を限定的に得られる。 ウーバーは仕事を仲介するサービスを提供しているだけで運転手との雇用関係はなく、福利厚生の提供義務もないとしてきた。 だが、判決直後の 3 月、英国の運転手約 7 万人を自社のワーカーと認めた。 最低賃金を保証し、条件を満たす運転手は年金制度に加えるなど、雇用主に準じる義務を一部負うことにした。

ウーバーは運転手の週ごとの稼ぎに応じて有給休暇に充当できる手当も支給するようになった。 「今までより安心して休めます」と話すミーハイさんも、9 月いっぱい仕事を休んでいる。 「家族の時間だと約束したから」と、スマホの電源はほとんど入れていない。

英シンクタンクのレゾリューション財団で労働問題が専門のハナ・スローター氏は、「(08 年の)金融危機以後、英経済はギグ・エコノミーを含めた個人事業主に頼る傾向が強まっていた」と話す。 企業がコストを減らすため、仕事の一部を正社員でない働き手に担わせるようになったからだ。 「しかし、柔軟な働き方で得したのは企業で、働き手には請け負う仕事の価格決定権がないなど柔軟性が乏しいことが最高裁判決やウーバーの対応で明白になった」と指摘する。 ギグ・エコノミー全体に影響する画期的な動きだと受け止める。

ただ、働き手の不満は多く、ある運転手は「改善して欲しいことがたくさんある」と話す。 たとえば、ロンドン中心部を走るのに必要な 1 日 15 ポンドの混雑税の負担軽減などを求める声があがる。 ウーバーは今年 5 月、幅広い職種の 50 万人が加盟する英国の有力労組 GMB と協定を結び、労働環境などをめぐる「労使交渉」に臨むことも発表した。 130 年を超える歴史を持つ GMB は、最高裁の運転手側勝訴を陰で支えた労組としても知られる。

8 月下旬にはウーバー側と GMB 双方の代表者が会談。 ウーバーの北東欧地域担当幹部のジェイミー・ヘイウッド氏は「GMB との建設的な協力で、何ができるかを(配車)業界全体に示したい。 誰と働いているかに関わらず、すべての運転手が権利と保護を受けられるようにしたい。」と声明で述べた。

長年、ウーバー問題に取り組んできた GMB のミック・リックス執行役員は「運転手の声をまとめ、変化を起こすためのスタート地点に立てた」とし、「この動きは他国や他のプラットフォーマーにも影響する」と期待する。 「デリバリーなどアルゴリズムが動かす働き方は、コロナ禍に経済の主流を担った」とも述べ、「働き手が利用されるだけの仕事ではなく、より良い仕事になるよう社会の中で再度位置づけていく必要がある」と指摘する。

コロナ禍の感染対策で厳しい外出制限が敷かれた英国では、昨年から料理や日用品の宅配系サービスが増えた。 コロナ禍で失職した人の受け皿にもなり、街中に配達員があふれている。 9 月中旬、ロンドン北部のマクドナルド前には宅配バイクがずらりと並んでいた。 配達員らは路上でたばこやコーヒーを片手に依頼を待つ。スマホに依頼が届くと店内で品物を受け取り、バイクにまたがって届け先に向かう。 10 分ほどすると戻ってきてまた待機する。

週 6 日、宅配サービスで働くイラン人のアレックスさん (28) は、ガス会社で働ける資格をとるため学んでいるため、日中は出来ないが、朝 8 時から夜 11 時ごろの間で、1 日に 20 回ほど配達を請け負う。 1 回で受け取るのは 5 ポンド前後で、100 ポンドを稼ぐのが目安だ。 ただ、「待ち時間が多く、雨の日はずぶぬれ。 ウーバー運転手よりきつい仕事なのに、向こうは有給休暇がもらえ、こちらは何もない。」とこぼす。

英国ではウーバー運転手以外に、ギグ・エコノミーの働き手たちをワーカーとする動きはまだ波及していない。 日本でも展開する料理宅配サービスの「ウーバーイーツ」の配達員や、インドの「オラ」やエストニアの「ボルト」などウーバーのライバル企業も増えているが、各社とも運転手は個人事業主のままだ。 企業任せには限界があり、働き手の法的保護を模索する国もある。 難しいのは働き方の自由さと保護のバランスだ。

スペインでは 5 月、プラットフォーマーに配達員の雇用を義務づける政令をつくった。 しかし、働き方の制約を嫌う一部の配達員が政令に反対する抗議活動を展開。 一方で、育児休暇や手当の金額の上積みを求める大規模なストライキも 8 月に起きた。 ウーバーを生んだ米国のカリフォルニア州では昨年 1 月、ギグ・エコノミーの働き手を「従業員」とすることを義務づける法律が施行された。 ところが昨年 11 月の住民投票で配車アプリの運転手や配達員らは適用除外とすることが賛成多数で決まり、保護への機運は薄れた。

英政府は 17 年ごろから法制度の検討を始めたが、政権交代や欧州連合 (EU) 離脱、コロナ禍の混乱などで進展していない。 ウーバーイーツなどが広がり、ギグ・エコノミーが拡大中の日本では、今年 9 月から料理宅配サービスの配達員が労災保険の対象になるなど前進も見られるが、法的な保護の枠組みづくりはまだまだ。 三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの山本洋平氏は、「労働者でも、個人事業主でもない中間的な働き手区分などがある諸外国の例を見ながら、どのような社会保障が必要か検討するべきだ」と話す。

記者から : 健全な成長へ働き手に目を

コロナ禍で多くの犠牲者を出した英国では長いロックダウン生活が続いた。 市民は自由に外出できず、飲食店は営業を制限された。 頼みの綱が宅配だった。 消費者の食べる楽しみと、店の存続を支えた。 配達を担ったギグ・エコノミーの働き手たちは、コロナ下の経済の主役級の活躍をしている。 だが、実際には地道な仕事だ。 ロンドンの商店街で取材した彼らは、雨が降っても配達依頼を店内で待つことが許されず、暇な時間をおしゃべりやコーヒーで紛らわしていた。 寒い冬が来ても、この光景は変わらないだろう。

多くは移民だった。 アフガニスタン出身のモハメドさん (40) は「英語が苦手な我々は働き口が少ない。 コロナ禍で倒産した会社から転じた仲間も多い。」と話した。 ギグ・エコノミーは企業が効率性を追求する中で生まれた。 さらに急拡大しているいま、働き手の姿に目を凝らさなければ、健全な成長はできない。 (わけ・しんや、asahi = 9-26-21)


高齢者 4 人に 1 人が労働者 総務省推計、65 歳以上人口が 29% 超に

総務省は 20 日の敬老の日に合わせ、2015 年の国勢調査を基にした高齢者の人口推計を公表した。 65 歳以上の人口は前年より 22 万人増えて 3,640 万人、総人口に占める割合(高齢化率)は 29.1% となり、それぞれ過去最高を更新した。 政府が「生涯現役社会」を目指す中、高齢者の就業率は 25.1% と初めて「4 人に 1 人」に達した。 高齢者の女性は 2,057 万人(女性人口の 32.0%)、男性は 1,583 万人(男性人口の 26.0%)。 1947 - 49 年生まれの「団塊の世代」を含む 70 歳以上の人口は 2,852 万人(総人口の 22.8%)と、前年より 61 万人増えた。

30% に迫る高齢化率は世界最高で、2 位のイタリア (23.6%)、3 位のポルトガル (23.1%) を大きく上回る。 高齢者の就業者数は 17 年連続で増え、906 万人と過去最多を更新した。 就業率も 9 年連続で上昇して 25% を超えた。 日本は主要 7 カ国 (G7) の中では最も高齢者の就業率が高い。 就業者全体に高齢者が占める割合も、過去最高の 13.6% になった。 産業別に見ると「卸売業、小売業」が 128 万人と最も多く、次いで「農業、林業」が 106 万人、「サービス業(他に分類されないもの)」が 104 万人で続いた。

働き方は、パート・アルバイトなど非正規の職員・従業員が 7 割を超える。 その理由について、男女ともに 3 割を超える人が「自分の都合のよい時間に働きたいから」と答え、最も多かった。 一方で、「家計の補助などを得たいから」と答えたのは女性で 2 番目 (21.6%)、男性で 3 番目 (16.2%) だった。 政府は「生涯現役で活躍できる社会を創る必要がある」とし、高齢者の就労を進める一方で、高齢者に新たな医療や介護の負担を求める社会保障改革を進めている。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、高齢化率は今後も上昇を続け、71 - 74 年生まれの第 2 次ベビーブーム世代が 65 歳以上となる 40 年には、35.3% になる見込みだ。 (小泉浩樹、asahi = 9-19-21)


若い教員に伝えたい 「私の部活動指導は間違っていた」と

記事コピー (9-18-21)

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高校の先生の超過勤務抑制、半数超が目標達成できず 北海道教委調査

北海道教育委員会はこのほど、道立学校教員の超過勤務時間の調査結果を公表した。 道教委は年間超過勤務を 360 時間以内とすることを目標としているが、高校教員は半数以上の 52.8% が達成できていなかった。 調査対象の教員は、中等教育学校を含む道立高校 195 校の 7,524 人、特別支援学校 66 校の 4,388 人で、校長、教頭、主幹教諭、教諭ら。 2020 年 5 月 - 今年 3 月、各教員に配布した QR コードを出退勤時間に読み取る方式で、時間外の在校時間(超過勤務時間)を集計した。

調査の結果、高校の全教員の平均年間時間外在校時間は 410.3 時間。52.8% に当たる 3,976 人が 360 時間を超えていた。 道教委は、「学校における働き方改革 北海道アクションプラン」で、教員の時間外在校時間の目標を月 45 時間以内、年間 360 時間以内としている。 月別の 1 人当たり平均時間を見てみると、7 月(49.3 時間)、9 月(45.5 時間)、10 月(49.0 時間)は、目標の 45.0 時間を上回っていた。 この 3 カ月間は、目標を達成している教員の割合も全体の 51.2% - 55.7% にとどまり、他の月と比べて低かった。

昨年 5 - 6 月はコロナによる一斉休校などで時間外在校時間が少なかったが、この 3 カ月は部活などの影響で勤務時間が増えたとみられる。 特別支援学校の教員は、年間を通して 1 人当たりの月別時間外在校時間は 45 時間を下回り、年間でも 8 割以上が 360 時間以内を達成していた。 道教委では詳細な分析を進め、特に超過勤務が多い学校や教員には個別に聞き取りをするなど支援し、働き方改革を進めるとしている。 この調査では、自宅に仕事持ち帰っているケースなどは含まれていない。 (芳垣文子、asahi = 9-13-21)


富士そば、労組幹部の解雇は「無効」の審判 雇調金不正は認めて返還

立ち食いそば店「名代富士そば」の店舗運営会社に懲戒解雇された労働組合の幹部 2 人が申し立てた労働審判で、東京地裁の労働審判委員会が 2 人の解雇を無効と判断し、未払い賃金 318 万円をそれぞれに払うよう会社側に命じたことがわかった。 2 日付。 会社側は異議を申し立て、引き続き裁判で争う方針だ。

この会社は、富士そばを展開する店舗運営会社「ダイタンディッシュ(東京都渋谷区)」。 首都圏を中心に富士そばチェーンを展開するダイタンホールディングス (HD) の子会社の一つだ。 ダイタンディッシュは、未払いの残業代などを求めた「富士そば労働組合」の安部茂人委員長と書記長の 2 人を 1 月 29 日付で懲戒解雇。 ともに複数の店舗を管理する係長でもあった 2 人が、これを不当として労働審判を起こしていた。

会社側は、@ 未払いの残業代請求の労働審判を有利にするため、業務報告書などの勤務記録を事後的に改ざん・捏造した、A 会社側の反証を困難にするため、会社のシステムにある勤怠データを改ざんした、などと解雇の理由を挙げた。 2 人はこれに対し、出退勤の勤務実態を裏付ける知人との SMS のやりとりなどを示しながら勤務記録は正確だと反論し、データの改ざんも否定していた。 2 人の代理人弁護士によると、労働審判では、会社側の主張は懲戒解雇の理由として正当とは認められなかったという。

会社側、審判の日に改めて 1 カ月後の解雇を予告

労働審判では「懲戒解雇」の有効性が争われたが、会社側は 2 日にあった審判に提出した書面のなかで、2 人による新たな捏造が判明したと主張。 1 カ月後の 10 月 2 日付で 2 人を「普通解雇」にするとも予告した。 だが労働審判委員会はこの予告については審判の対象外とし、懲戒解雇のみ無効と判断した。 懲戒解雇の有効性を争う審判のさなかに会社側が普通解雇も予告したことについて、2 人の代理人である棗(なつめ)一郎弁護士は取材に対し、「労働審判の意義が損なわれ、許されない」と批判した。 安部委員長は「会社は解雇無効の結果を受け入れてほしい。 一日も早く復職して、良い会社づくりに取り組みたい。」と訴えた。

ダイタン HD は取材に対し、労働審判の結果について「当社の主張はおおむね認められ、そのうえで、それが解雇に値するかについて当社の主張が残念ながら理解を得られなかった」とコメントした。 異議を申し立てて裁判に移行させ、普通解雇の適法性も含めて改めて判断を仰ぐという。

2 人は、富士そば労組として、店舗運営会社による雇用調整助成金(雇調金)の不正受給の疑いも告発してきた経緯がある。 その一部について厚生労働省が不正と認定し、違約金を含めて約 300 万円の返還を命じる処分が出たことも関係者への取材でわかった。 処分を受けたのはダイタン HD 傘下の別の店舗運営会社「ダイタンミール(東京都渋谷区)」。 ダイタン HD によると、東京労働局の処分に従い、すでに全額を返還したという。

退社決まった従業員の有給休暇分、不正受給と認定

厚労省関係者やダイタン HD の説明によると、不正受給と認定されたのはダイタンミールの従業員 1 人についての 2020 年 7 - 8 月の 1 カ月分の申請。別の運営会社の店で働くために退社が決まったこの従業員の有給休暇について、本来なら雇調金の対象にならないのに休業手当を支払ったことにして申請し、受給していたという。 不正受給の認定は 1 人でも、同じ月に受給した全員分の返還義務が生じ、さらに違約金も上乗せされる決まりだ。 このため、返還額は約 300 万円となった。 さらに、ダイタンミールには処分から 5 年間は新たな雇調金の申請ができないペナルティーも科された。

ダイタン HD は取材に対し、事実関係を認めて「深くおわび申し上げます」と謝罪。 ダイタンミールの当時の常務取締役が責任をとって退任したとしたうえで、「他のグループ会社については不正との指摘は受けていない。 コンプライアンス体制の確立に向けて引き続き努力していきたい。」などと答えた。 (江口悟、asahi = 9-4-21)