寄付 193 億円、ふるさと納税に市職員全力 深夜 2 時の更新ボタンも

宮崎市から南西へ車で約 1 時間。 人口 16 万人の宮崎県都城市は、2023 年度のふるさと納税の寄付受け付け額が約 193 億円で、2 年連続全国トップとなった。 24 年 12 月、記者が市役所を訪れると、市ふるさと納税局の職員 28 人が庁内外で作業に追われていた。 首都圏やデジタル空間での広告、約 2 千種ある返礼品の数量確保のための生産者との調整 …。 年末に向け、数カ月かけ進めてきたという。 23 年に返礼品の鶏肉産地偽装が発覚したことから、14 人が産地チェックを担う。

同局の野見山修一参事 (51) は、市のふるさと納税の生き字引的存在だ。 市が力を入れ始めた 14 年、唯一の担当職員だった。 昨年度の寄付総額が 1 兆円を超えたふるさと納税。 駆け込み寄付が増える年末に勝負をかける自治体を取材しました。

当時、幅広くそろえていた返礼品を、知名度のある宮崎牛と芋焼酎「黒霧島」などに絞り込み、「宮崎牛まるごと 1 頭分 300 万円」、「焼酎 1 年分、黒霧島の一升瓶 365 本」といった企画で注目を集めた。 現在、総務省は「返礼品は寄付額の 3 割以下」などの規制を定めているが、その規制がなかった当時、市はふるさと納税を「対外的 PR のツール」と割り切り、返礼率 8 割ほどで寄付を募った。

「市内の名産品はお茶や木刀など他にもあるなかで、『肉と焼酎』に絞った戦略は当初、地元からの反発もあった」と野見山さん。 それでも「1 年限定でやらせてほしい」と理解を求め、県外の人から「とじょう」と誤読されることも多かった市の知名度を上げることに注力した。 15 年度には、受け入れ額 42 億円で初の全国トップに立った。

野見山さんは、全国の返礼品が掲載される仲介サイトの攻略法も分析した。 各自治体の最新情報が更新順に積み上がっていく欄では、多くの人が閲覧する週末にかけて市の情報が画面上部に残るよう、金曜の深夜 2 時に更新ボタンを押した。「ライバル自治体の公務員も、さすがに深夜や週末には動いていない。 休日も 1 時間に 1 回はサイトをチェックするほど、のめり込みました。」

野見山さんは「近年は競争が激化し、サイト管理や PR に強い民間の『中間業者』に業務委託する自治体も増えている。 それでも全国上位をキープできているのは、早い段階で『都城といえば』という認知を広げ、ブランディングやファン作りに成功した結果だと思う。」と話す。 「市職員なのに、市民以外の人へのサービスを考える、全く逆の仕事ですよね」と語るが、23 年度は経費を除く 98 億円が市の収入になった。

経費のぞく 98 億円が市収入に 宮崎県内唯一の「人口増」にも効果

これを原資に昨年 4 月に始めたのが、独自の移住支援策だ。 「全国どこから移住しても世帯最大 500 万円」をうたうと、新設した市人口減少対策課には「自分ももらえるのか」といった問い合わせが殺到し、職員を増員する事態になった。 移住者は 23 年度、前年度比 8.5 倍の 3,710 人に。 市人口は 13 年ぶりの増加に転じ、宮崎県内 26 市町村で唯一の人口増だった。 総務省によると、都道府県別の移住相談は従来、東京や大阪からのアクセスが良い長野や兵庫などが上位を占めていたが、宮崎県が 22 年度の 17 位から 23 年度はトップに浮上。 都城市が牽引役とみられる。

ただ、宮崎県内からの移住が約 4 割を占め、人口の奪い合いにすぎないとの批判もあり、市は 24 年度の給付の減額や移住後の居住要件を「5 年以上」から「10 年以上」に厳しくするなどした。 一方で、ふるさと納税の寄付金を財源に、保育料、中学生以下の医療費、妊産婦の健診費の三つの「完全無料化」は続く。 県内の別の自治体関係者は「うちもふるさと納税を頑張って伸ばしているが、金額は都城の足元にも及ばない。 そのお金を移住の支援金として使われてしまうと … 決して悪いことではないので言いにくいが、同じ土俵の戦いとは到底思えない。」と漏らす。

1,740 位の山口県阿武町の目標は年500万円

一方、山口県阿武町の昨年度の寄付受け入れ額は 427 万円。全 1,788 自治体で 1,740 位だった。 担当職員は 1 で、地元事業者から手挙げがあった「特産キウイのジャム」、「,地元菓子店のクッキー」などを順次、返礼品にしてきたという。 「消防ホースの自動巻き取り機」といったニッチな品もある。 担当者は「都会のかっこよさとは違う、この地域の雰囲気と魅力を知ってもらえればいい。」 町の知名度不足は課題と捉えており、新たに返礼品開発や PR を担う民間事業者との契約を検討中という。 今年度の目標額は 500 万円だ。

「勝ちすぎ」、「負けすぎ」格差に対策は

ふるさと納税に詳しい慶応大の保田(ほうだ)隆明教授(経営学)は「市場が拡大を続ける中、リソースの限られる小規模の自治体や、『いつかブームも終わるのでは』と思っていた自治体も、遮二無二やらざるをえない状態になっている」とみる。 寄付金は用途の自由度が高く、自治体にとって便利な財源だ。 特に人口が先細る地方では、関係・交流人口を増やすことができ、返礼品で地元業者の支援にもつながるなどメリットは多く、「有効活用以外の道はないだろう。」

ただ、寄付先に選ばれるには知名度が必要で、受け入れ額の全国上位は固定化しつつあるという。 集める寄付金が増えるほど、返礼品の発送事務やマーケティングにも力を入れることができるため、自治体間の格差は広がりやすい。 こうした現状は仕方がないのだろうか。 保田教授は「たとえば、勝ちすぎている自治体には(寄付額などに)上限を設け、負けすぎている自治体には手当てをするといったルール改正の議論はあり得る」と話す。 (福井万穂、asahi = 12-28-24)


ふるさと納税、ついに 1 兆円 課題はあっても「存続させるしかない」

全国の自治体が 2023 年度に受け入れたふるさと納税の寄付額が、初めて 1 兆円を超えた。 松本剛明総務相は 2 日の閣議後会見で、「地方に関心を持っていただきたいというところからスタートした。 認知度が高まって多く利用されていることそのものに大変意義がある。」と語った。

ふるさと納税、初の 1 兆円超え 「流出元」の自治体からは恨み節も

一方、ふるさと納税をめぐっては、返礼品だけでなく仲介サイトの競争も激しくなっている。 とくに、利用者を囲い込むためポイントの還元率を高める動きが広がっている。 たとえば、仲介サイトを通じて 10 万円寄付し、3 万円分の返礼品を受け取ったとする。 ポイント還元が5%なら、実質 2 千円の負担で計 3 万 5 千円相当の見返りがある。 ポイントが「隠れ返礼品」となり、総務省が定める「自己負担 2 千円・返礼割合は 3 割以下」の枠を超えてしまう。

ポイント規制、楽天あらためて反発

総務省が来年 10 月に始める新ルールは、そうしたサイトで寄付を募ることを禁止するものだ。 それに猛反発するのが、楽天グループだ。 この日、都内で記者会見を開き、「ふるさと納税がすでに国民に定着し、多くの国民が楽しみにしているなかで、水を差すものだ」と不満をあらわにした。

ふるさと納税サイト お金の流れのイメージ

総務省が新ルールを公表したのは 6 月。 関係者によると、楽天を含めた大手仲介サイト各社と事前に協議をし、一定の理解を得ていたという。 楽天側は 8 月 2 日に開いた会見で、「具体的な内容が明示されないまま突然発表され驚いた」とした。 総務省は「ポイント目当ての寄付は、本来の趣旨とかけ離れている」と規制のねらいを説明する。 ただ、抜本的な制度の見直しや廃止に踏み込む考えはないという。 経済官庁の幹部はいう。 「ふるさと納税は、菅さん(菅義偉元首相)が手がけた制度だから、存続させるしかない。 そのうえで、どう課題に向き合うか。 総務省は両にらみで対応するしかない。」 (上地兼太郎、千葉卓朗、asahi = 8-3-24)


ふるさと納税厳格化のその後 仲介サイトはノーダメージ、憤る自治体

ふるさと納税の経費ルールが昨年 10 月に厳格化され、自治体が返礼品や人件費の費用削減に追われている。 手数料の引き下げを仲介サイトに働きかける動きもあるが十分に進んでいない。 仲介サイト事業者の間では、返礼品を提供する企業からも手数料をとる「二重取り」の仕組みが新たに広がるなど、規制側とはいたちごっこの状態だ。

「仲介サイトへお金が流出する割合が増えただけ。 『サイト栄えて地域滅びる』だ。」

九州のある市の担当者は、総務省が昨年 10 月に実施したルール改正についてこう憤る。 ふるさと納税では総務省が、返礼品や仲介サイトへの手数料といった経費の割合を「寄付額の 5 割以下」とするよう自治体に求めている。 だが仲介サイト側が一部の手数料を「募集外経費」と称し、5 割ルールの枠外で徴収する慣行が広がっていた。 NTT データ経営研究所の試算では、実際には寄付額の 55 - 59% が自治体外に流出していたという。

問題視した総務省は昨年 10 月、「募集外経費」も含めた全ての経費を 5 割に含むよう、自治体に対しルールを厳格化した。 少なくとも寄付の半分以上が自治体に入るべきだとの考えからだった。 総務省関係者によると、同省は当初、オーバーしていた分はサイト側が手数料率を削ってくれると期待した。 自治体側にも、仲介サイトに対し削減を要望する動きもあった。 ところが市場シェアの 90% 以上を握る大手サイト 4 社はすべて、手数料を据え置いた。 このため、結局、自治体側が返礼品の量を減らしたり、同じ返礼品でも寄付額を増やしたりといった対応に迫られた。

危機感を持つ自治体が合同で仲介サイトに働きかける動きもある。 だが溝はなかなか埋まっていない。 昨年 11 月中旬、自治体有志でつくる「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」と、仲介サイトやコールセンターなどを担う中間委託事業者などでつくる「ふるさと納税協会」が共同でイベントを開催した。 目玉は「共同宣言」の採択だった。 朝日新聞が入手した共同宣言の「案」には当初、「ポータルサイト利用料等の引き下げなど、地方自治体における募集経費の負担軽減につながる方策を検討する」との文言が盛り込まれていた。 仲介サイトに対し、手数料引き下げを明示的に求めるものだ。

ところが実際の宣言文からはこの文言が消えた。 民間事業者の努力として「ふるさと納税に係る各種サービス、業務の更なる効率化等を通じて、地方自治体の経費が削減されるよう努める」との内容にとどまった。 関西の自治体担当者は文言が修正されていたことに気づき、自治体連合の事務局に問い合わせた。 だが返答は「協会側とのすり合わせの結果」とだけ。 この自治体担当者は「そもそも仲介サイト以外は削減努力をしている。 内容が骨抜きになり、宣言の意味はなかった。」と不満を漏らす。

自治体連合の事務局は「自治体の意見を反映して当初案を作成したが、協会側が『仲介サイトだけを具体的に明記してほしくない』との意向だった。 最終的に今の宣言文になった。」と説明する。 ふるさと納税協会の関係者は「協会には他の業者も加盟するのに仲介サイトだけを明示するのは適切ではない。」と話す。

事業者からも手数料得る「二重取り」も

経費ルールの厳格化をうけ、仲介サイトによる新たな枠組みが波紋を呼んでいる。 旅行したい自治体に寄付をすると、返礼品として寄付の 3 割相当分のポイントがもらえ、ホテルや旅館など対象施設で使うことができる仕組み。 仲介サイトは自治体からだけでなく、ホテルなど事業者からも手数料をとるのが特徴だ。 朝日新聞が入手した資料には「手数料率 7%」とあった。 1 万円を寄付すれば寄付者は 3 千円分のポイントを得る。 全額をホテルに使うと 210 円分がホテルからサイトに入る計算だ。

自治体と返礼品事業者から手数料「二重取り」をする仲介サイト

京都市はこの枠組みで返礼品を提供する。 市の担当者は「サイト側が(ホテルなどの)対象事業者を選んでおり、我々は関与していない。」 サイトが事業者からも手数料を得ていることを知らなかったという。 九州の宿泊施設の経営者によると手数料は通常の大手旅行サイトの半分ほどといい「我々としては集客でき、手数料も高くないので気にならなかった」と話す。 仲介サイトの広報担当者はこの枠組みについて「法令や総務省のガイドラインなど、ふるさと納税に関する各種ルールに則ったものであると認識している。 これまで行政機関を含む第三者より何らかの指摘を受けたことはない。」と取材に答える。

今後、この枠組みは広がりそうか。 別の仲介サイト事業者は「こうした手法は違法でない以上、今後、事業者側から手数料を得るスキームに争いの場が移るかもしれない。」と見る。 制度に詳しい平田英明法政大教授は「原資を税金とするふるさと納税が民間業者に中抜きされ、制度の趣旨にもとる。 総務省は自治体にルール順守を求めるが、仲介サイトなどの民間業者を直接規制していない。 自治体との取引条件に、経費の開示を求めるなど毅然とした対応が必要だ。」と話す。 (柴田秀並、asahi = 2-20-24)



ふるさと納税、過去最高の 9,654 億円 上位は固定化「新たな格差」

総務省は 1 日、全国の自治体が 2022 年度に受け入れたふるさと納税の寄付総額が前年度比 1.2 倍の 9,654 億円だったと発表した。 寄付件数も同 1.2 倍の 5, 184 万件で、いずれも過去最高を更新した。 一方で、寄付を多く集める上位の自治体の固定化が目立つ。 識者からは「新たな地方間格差が生まれている」との指摘がある。 ふるさと納税は寄付額のうち 2 千円を超える分が住民税や所得税から控除される仕組みで、実質 2 千円で寄付先の自治体から様々な返礼品がもらえる。

総務省が公表した調査によると、22 年度に寄付額が最多だったのは宮崎県都城市(前年度は 2 位)で 195 億円、2 位は北海道紋別市(同 1 位)で 194 億円、3 位は北海道根室市(同 3 位)で 176 億円。 トップ 5 自治体は前年度と同じ顔ぶれだ。 22 年度までの 3 年間では、寄付額トップ 10 の自治体のうち半分が同じだった。 今年のトップ 3 に、北海道白糠町と山梨県富士吉田市が加わる。 トップ 20 自治体で見ても半分が同じで、上位の固定化は鮮明になりつつある。

さらに、トップ 20 自治体の寄付額が、全国の寄付総額の 2 割ほどを占める状態もここ数年続いている。 一部の自治体に寄付が偏っている。 要因として挙げられるのが、寄付の後に自治体から送られてくる返礼品にある。 仲介サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクによると、人気の品は、「肉類」、「魚介類」、「果物類」だという。 トップ自治体は、ブランド牛やカニやホタテ、ウナギなど、もともと国内有数の産地が目立つ。 総務省が上位自治体の公表を始めた 14 年度以降、常にトップ 10 に入り続けている都城市は、肉用牛の農業算出額が全国 1 位。 焼酎「黒霧島」で知られる霧島酒造もあり、返礼品が寄付額の多さを下支えする。 ほかに紋別市はカニ、根室市はホタテ、佐賀県上峰町は米の産地だ。

寄付者はカタログショッピングのように返礼品で寄付先を選んでいると言われており、仲介サイトとのタイアップで周知がうまくいったことも押し上げている要因だ。 そうした土壌が、自治体間の「返礼品競争」の過熱を生んでいる。 「返礼品の調達にかかる費用は寄付額の 3 割以下」とする基準があるが、違反する自治体も出ている。 一方で、知名度の高くない産品は伸び悩んでいる。 沖縄県粟国村は、昨年 10 月から 1 万円以上で地元産の塩や黒糖を送る返礼品をはじめた。 ただ、「せっかく島に魅力を感じ寄付してもらうものだから」との理由で手数料がとられる仲介サイトには未登録。 激しい自治体間競争に埋没してしまい、22 年度は 21 万円の寄付額を集めるのがやっとだった。 担当者は「割ける人員も少なく、なかなか難しい」と語る。

ふるさと納税に詳しい法政大の平田英明教授は「特色のある一次産品を用意できる自治体が上位になりやすく、寄付者も満足すればリピーターになる。 結果、流入額の勝ち組と負け組が固定化しやすい。 新たな地方間格差というゆがみを生んでいる」と指摘する。 もともとふるさと納税は、都市から地方への税収移転を目的に始まった。 23 年度の住民税収は横浜市で 272 億円、名古屋市で 159 億円、大阪市で 148 億円減る。 だが、恩恵を受けている地方の自治体は一部にとどまっている。 (柴田秀並、鈴木友里子、asahi = 8-1-23)