「破天荒」は豪快で大胆? 「がぜん」は断然? 言葉の使われ方が変化 「破天荒」な人生は豪快な人生のことなのか - -。 文化庁は 24 日、2020 年度の「国語に関する世論調査」を発表。 本来の意味や言い方とは異なる使われ方が広がっている言葉があることも明らかになった。 「破天荒」は、「彼の人生は破天荒だった」という例文を挙げて意味を尋ねた。 「豪快で大胆な様子」を選んだ人が 65.4% に上り、本来の意味とされる「だれも成し得なかったことをすること (23.3%)」を大きく上回った。 「がぜん」は、「我が社はがぜん有利になった」の例文で尋ねたところ、本来の意味とされてきた「急に、突然」と答えた人は 23.6%。 「とても、断然」が 67.0% に上った。 また、「わずかの時間も無駄にしない様子」の言い方を聞いたところ、「寸暇を惜しまず (43.5%)」が、本来の言い方とされてきた「寸暇を惜しんで (38.1%)」を上回った。 破天荒は、中国の試験・科挙の合格者が現れない土地を「天荒」と呼び、それを合格して破った人が「破天荒」と賞されたことが由来。 「豪快で大胆な様子」の意味と理解している人が多かったことについて、文化庁の担当者は「破る、荒いという字からの連想かもしれない。 ただ、どちらの選択肢も『特に目立つ』という点ではつながっているところもある」と分析する。 がぜんは漢字で書けば「俄然」。 文化庁の担当者は「俄(にわか)雨のように、急な様子を表す。 この漢字を使うことが少なく、『断然』という言葉に引っ張られている可能性がある。 昭和初期には『とても』という意味で使われていたこともあり、その影響が残っているかもしれない」と話す。 文化庁は「言葉は変化する。 あくまで本来の意味や言い方との比較で、正しいか間違いかではない。 場面に応じて言葉を大事に使い、豊かなコミュニケーションをとってほしい。」としている。 (神宮桃子、asahi = 9-24-21)
◇ ◇ ◇ 不要不急、3 密、コロナ言葉を 3 割が「説明・言い換えを」 世代で差 「不要不急」、「コロナ禍」、「3 密」など、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い多用されるようになった言葉は 6 割程度の人に浸透する一方、説明や言い換えが望ましいと考える人も 3 割超いる - -。 そんな結果が文化庁が 24 日に発表した 2020 年度の「国語に関する世論調査」で明らかになった。 感染対策のメッセージなどとして短期間で広く使われるようになった言葉が、意味が分かりにくいまま使われ続けてきた様子がうかがえる。 調査は今年 3 月に行い、全国 16 歳以上の 3,794 人が答えた。 新型コロナの影響で従来の面接から調査票の郵送に方法を変えた。 新型コロナ関連で使われるようになった 8 つの言葉について、「この言葉をそのまま使うのがいい」、「この言葉を使うなら、説明を付けたほうがいい」、「この言葉は使わないで、ほかの言い方をしたほうがいい」のうち、考えに最も近いものをそれぞれ尋ねた。 「ウィズコロナ」を除く 7 つの言葉で「そのまま使うのがいい」の答えが 5 割を超えた。 特に「不要不急 (67.2%)」と「コロナ禍 (66.8%)」は6割台後半だった。 一方、「ウィズコロナ」は「そのまま使うのがいい」と答えたのは 29.7% で、「説明を付けたほうがいい」と「ほかの言い方をしたほうがいい」を合わせると、7 割近い人がそのまま使わない方がいいと答えた。 年齢別に見ると、16 - 19 歳で「ソーシャルディスタンス」や「ステイホーム」を「そのまま使うのがいい」と答えたのが約 8 割なのに対し、70 歳以上では 3 - 4 割程度にとどまり、世代間で差が見られた。 文化庁の担当者は「長いカタカナ語は特に、高齢の人がそのまま使うのに抵抗がある」とみている。 調査では、マスクの着用やウェブ会議といった生活の変化がコミュニケーションにどう影響を与えているかも探った。 「マスクを着けると話し方や態度などが変わることがあると思うか」の問いに、62.4% が「あると思う」と答えた。 変わることがあると思う点を複数回答で尋ねると、「声の大きさに気を付けるようになる (74.1%)」、「はっきりとした発音で話すようになる (57.5%)」が多かった。 パソコンやスマートフォンなどを使い、ビデオ通話やウェブ会議、オンライン授業に参加したことが「ある」と答えたのは 46.2% で、「ない (53.2%)」が上回った。 「ある」と答えた人にウェブ会議などで気を付けていることを複数回答で聞いたところ、「自分が話すタイミングに気を付けるようにしている (58.4%)」が最も多かった。 (神宮桃子、asahi = 9-24-21) 国内の 100 歳以上、8 万 6,510 人に 51 年連続で過去最多を更新 国内の 100 歳以上の高齢者は、「老人の日」の 15 日時点で 8 万 6,510 人となり、51 年連続で過去最多を更新する見通しとなった。 このうち女性が 7 万 6,450 人で、全体の約 88% を占める。 厚生労働省が 14 日、発表した。 全体の数は、前年の 2020 年よりも 6,060 人増える。 20 年は 19 年に比べて 9,176 人増と大幅に増えており、今年の増加幅はやや鈍化した。 第1次世界大戦が終わったことなどを受け、1920 年の出生数が多かったためとみられる。 総人口約 1 億 2,623 万人(20 年の国勢調査の速報値)に占める割合は約 0.07% となる。 都道府県ごとに人口 10 万人あたりの人数で比べると、島根が 134.75 人で 9 年連続で最も多い。 高知が 126.29 人、鹿児島が 118.74 人と続く。 最も少ないのは 32 年連続で埼玉となり、42.40 人。 国内の最高齢者は福岡市の女性、田中カ子(かね)さんで 118 歳、男性は奈良市の上田幹蔵(みきぞう)さんで 111 歳となっている。 (石川友恵、asahi = 9-14-21)
どうなるキラキラネーム 読み仮名の戸籍記載、法制化へ 氏名の「読み仮名」を戸籍に記載するため、戸籍法令の改正に向けた検討が法務省で進んでいる。 行政手続きのデジタル化を推進するにあたり、情報システム上の管理や検索をしやすくするなどの狙いがある。 課題は、独特の読み方の場合に記載の可否をどう判断するかだ。 戸籍法は氏名や生年月日など 8 項目を戸籍に記載するよう定める一方、氏名の読み仮名は含んでいない。 出生届や婚姻届にある記入欄は事務手続きをスムーズに進められるよう通達に基づいて設けられているだけで、法律による裏付けがないのが現状だ。 これまでにも、出生届の受理などの際に戸籍に読み仮名を記載することが検討されてきた。 だが、その漢字にそぐわない読み方で届け出があった場合の判断が難しいなどの理由で、制度化が見送られた経緯がある。 今年 1 月から課題を整理してきた有識者研究会でも、漢字の読み方や意味合いを踏まえてどこまで許容されるかの判断が焦点となった。 海 = マリン、七音 = ドレミ … どこまで許容? 8 月末に取りまとめられた検討結果では、二つの判断基準が示された。 一つは、音読みや訓読み、慣用による読み方などに基づくとする案。 どんな読み方でも認めれば国語のあり方に影響を及ぼす可能性があるためで、「海」を「マリン」、「七音」を「ドレミ」と読むような「キラキラネーム」をどう考えるかも俎上に載った。 これに対し、音訓や用例の目安を定めた常用漢字表が「個々人の表記」は対象にしていないことなどから、検討の過程で問題ないと判断された。 また、慣用によることになれば名前に特有の新たな読み方を付けることが排除されかねず、「命名文化が継承されない」などと反対意見も強かった。 もう一つの案は、「権利の乱用」や「公序良俗に反する」場合の読み仮名は認めないというものだ。 過去には、「悪魔」と名付けるのは親による命名権の乱用だと判断した審判例もある。 1994 年のこの審判の中で東京家裁八王子支部は、「社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は、戸籍法上使用を許されない場合がある」と指摘した。 同じように、差別的な表現や卑猥なものを連想させるような読み方は認められない可能性がある。 研究会の検討結果を踏まえ、上川陽子法相は 16 日の法制審議会に戸籍法令の改正を諮問する。 7 日の記者会見で明らかにした。 1 年ほどの議論を経て答申を受け、法務省は 2023 年度中の法制化を目指すという。 読み仮名つきが不正防止にも 戸籍に氏名の読み仮名を記載する法制化を政府が進める背景には、読み仮名は個人を特定する情報だと明確に位置づけることで、なりすましなどの不正防止につなげる狙いがある。 無数にある漢字と違って仮名はシステム上で管理や検索もしやすい。 新型コロナウイルスの経済対策で国民全員に一律 10 万円を配った際には、振込先の口座は名義がカタカナ表記のため、戸籍と結びつけるのに手間がかかる事態も生じた。 行政、民間を問わず手続きやサービスのデジタル化を進めようと、5 月に成立したデジタル改革関連法の付則には、読み仮名の法制化の検討が盛り込まれた。 読み仮名に基づいてマイナンバーカードに氏名をローマ字で表記し、飲酒時の身分証明などとして 24 年から海外でも使えるようにする構想もある。 法制化について検討した有識者研究会は、「読み仮名(音)まで含めてその人の名前」という観点からもその意義があるとした。 法制化後は読み仮名を市区町村に届け出てもらう方法などを想定するが、届け出は年間で数百万件以上に上ると見込む。 膨大な作業量に加え、読み方の可否をめぐり難しい判断を迫られる例も出てきそうだ。 (伊藤和也、asahi = 9-7-21) パラオリ関係者、新たに 22 人が陽性 累計 219 人に
記事コピー (1-16-21 ~ 8-28-21) 「今は水を集めすぎ」 豪雨時代にふさわしい国の姿とは
記事コピー (8-20-21) 限界目前、こうなることは分かっていた日本のインフラ |静岡県熱海市で大規模な土石流が発生するなど、各地で大雨の被害が相次いでいる。 一方、千葉県八街市では、トラックが小学生の児童列に突っ込み、5 人が死傷するという痛ましい事故が発生したほか、大阪市では住宅街の崖が崩れ、民間 4 軒が落下した。 それぞれの事故は個別に発生したものであり、直接的な関連性はない。 だが近年、インフラに関連した災害や事故を目にする機会が増えているのは、決して偶然とは言えない。 日本のインフラ整備のあり方が限界に達していたところに、気候変動が重なり被害がより大きくなっている可能性が高いのだ。 危険地域に住む人の数は増加している 静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した大規模な土石流では、2021 年 7 月 14 日時点で 11 名が亡くなり、17 人が行方不明、130 棟の建物が流されるという極めて大きな被害をもたらした。 今回、発生した土石流は、盛り土が原因である可能性が高まっており、そうであれば限りなく人災に近いということになるが、それでも大雨がトリガーになったことは間違いないだろう。 近年は毎年のように各地で大雨による被害が発生している。 日本列島に降る雨の総量そのものは、長期的に見て大きな変化はないものの、1 時間あたり 50 ミリ以上の大雨が降る頻度は年を追うことに高まっている。 日本列島では大雨が降りやすくなっており、これが被害を大きくしている可能性が高い。 8 月に入ると、日本列島には次々と台風がやってくるが、台風の被害も年々大きくなっている。 台風や大雨による被害が増えている理由のひとつとされるのが気温の上昇である。 全世界的に平均気温が上昇しており、太平洋では大型の低気圧が発生しやすくなっている。 また、日本列島近辺でも上昇気流の影響が大きくなっており、大雨になりやすい条件が整っている。 局地的な大雨が増え、台風も大型化しているという状況では災害が増えるのも当然といえば当然である。 だが、こうした変化はここ数年で急に発生したものではなく、20 年近く前から何度も指摘され続けてきたことである。 20 年という短期間で国土全体を改良することは不可能だが、少なくとも大雨や台風の被害が増えることが分かっていれば、危険な地域への宅地開発を制限するといった対策は打てたはずである。 ところが、日本は全く逆の政策が行われてきたのが現実である。 山梨大学の研究によると、浸水が想定される区域に住む人の数は 1995 年から 2015 年の 20 年間で約 150 万人も増えている。 これは水害が発生しやすい地域に新しく宅地が開発されたり、タワーマンションの建設などが行われ、住人が急増したことが原因と推定される。 新規の宅地開発は容易ではなく、地理的条件を吟味し過ぎると開発できる場所がなくなってしまうという現実問題はあるかもしれない。 だが、大雨の被害多発が予想される中、わざわざ危険なエリアでの宅地開発を進めているのは望ましいことではない。 熱海の盛り土問題は詳細は明らかではないが、開発で生じた土砂の廃棄だった可能性も否定できず、こうした杜撰な盛り土は全国各地に存在していると考えられる。 宅地の造成と残土の処理は表裏一体の関係であり、最終的には国土開発全体のあり方につながってくる。 日本では人口の合理的な集約化が進まず、宅地が乱開発されているというのは昭和時代から指摘されてきた問題である。 こうした戦略性のなさというのも、一連の被害拡大に影響した可能性は否定できないだろう。 指摘され続けてきた日本の道路の危険性 インフラ整備に合理性や戦略性が欠けるという点では道路や水道も同じである。 事故が発生した八街市の現場は見通しは良好だったものの、道幅が狭くガードレールや路側帯も設置されていなかった。 小学校の PTA からは、複数回にわたってガードレール設置の要望が出ていたという。 八街市では、道路の危険性について認識していたものの、予算制約などの関係から、より危険度の高い場所の整備を優先していたため、事故が発生した場所の整備は十分に行われていなかった。 現時点において、整備の優先順位が低かったのはやむを得ないかもしれないが、一般論としては、危険な道路の問題というのは最近になって顕在化したことではない。 日本の道路は危険な箇所が多いというのは、昭和の時代から何度も指摘され続けてきたことであって、当時からもっと戦略性のある整備を行っていれば、事態は改善していただろう。 日本の道路が危険であることは数字でもハッキリしている。 日本における人口 10 万人あたりの交通事故死亡者数は 3.7 人と低い部類に入るが、歩行中に死亡する割合が 35% と諸外国と比較して突出して高い。 日本の道路は歩行者の安全を優先する形では整備されておらず、クルマに轢かれて死亡するリスクが高いというのが現実である。 道路の安全性を高めるためには相応のコストが必要となり、そのためには新規の道路建設のニーズとうまく調整する必要がある。 だが日本の場合、新規建設ばかりが最優先され、安全面が後回になってきた。 高度成長の時代ならまだしも、豊かなになった成熟国としては、ふさわしくないやり方といってよいだろう。 水道のインフラが維持できない 水道インフラについてもコスト面の精査がいい加減だったことが、大きな問題として浮上しつつある。 現在の水道インフラを維持するためには、多くの自治体で大幅な値上げが避けられない状況となっているのだ。 EY 新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構が 2021 年 3 月 31 日に公表した報告書によると、全国の 94% の自治体で水道料金の値上げが必要となり、2018 年を起点とした値上げ率の平均は 43% にも達するという。 高度成長期に整備したインフラの更新費用負担に加え、人口減少による収入減少が主な要因である。 試算は将来の人口推計や各自治体の減価償却費の推移などをもとに、2040 年に水道事情が赤字にならないためには、いくらの料金設定が必要かという視点で行われた。 2018 年時点における水道料金の全国平均(平均的な使用量の場合)は月額 3,225 円だが、2043 年には 4,642 円になる計算であり、人口が少なく人口密度が低い自治体ほど、値上げ利率が高くなる傾向が顕著となっている。 人口減少と更新費用の発生そのものは不可避だが、今のタイミングになって急に値上げが必要というのはやはり不自然である。 人口動態は数ある統計の中でも最も将来予測が容易なもののひとつであり、日本の人口が減少に転じることは 30 年以上も前から分かっていたはずである。 インフラの更新費用も建設した時点で将来予測できるものであり、本来であれば、当初から当該コストを料金に織り込むべきものである。 厚生労働省が行った調査によると、全国の水道インフラを法定耐用年数で更新した場合の更新費用は実績値を大きく上回っているという。 当初から設備の更新を考慮に入れた料金体系にしていれば、急激な値上げを回避できた可能性が高い。 水道は人口増加分しか整備されないのでまだマシだが、原理的に道路や橋、宅地などはいくらでも開発ができる。 だが、インフラというのは必ず劣化するものなので、減価償却を設定し、当該分だけ更新費用を確保できなければ継続利用することはできない。 日本ではこれまで設備の更新を考慮に入れず、新規建設の拡大を最優先してきたが、これは必ず後の世代にツケを回す結果となる。 新規建設は利益が大きく、政治的にも旨味があるが、インフラというのはこうした目先の利益で作ってはいけないものである。 日本の公共インフラは今後、急ピッチで劣化が進み、あらゆる分野で維持が困難になる。 一方で大雨や台風の被害拡大は気候の変化に伴うものなので、今後も容赦なく日本列島を襲ってくるだろう。 しかも日本政府は財政的に極めて厳しい状況にあり、以前のようには大盤振る舞いはできない。 可能な限り人口集約を進めてインフラ更新を合理化し、費用を抑えていく以外にこの問題を解決する方法はない。 (加谷珪一、JB Press = 7-26-21) フィリピンで拘束、最後の 8 人逮捕 特殊詐欺に関与疑い フィリピンから特殊詐欺の電話をかけたなどとして、警視庁は 22 日、同国から強制送還された男 8 人を窃盗容疑で逮捕した。 現地の当局が 2019 年 11 月、8 人を含む計 36 人を詐欺グループとして拘束し、20 年 2 月と今月 15 日に計 28 人を強制送還。 警視庁が同容疑で逮捕していた。 今回で全員が帰国した。 捜査 2 課によると、8 人は住所・職業不詳の 23 - 58 歳。 フィリピンの首都マニラの廃ホテルで日本の高齢者らにだましの電話をかける「かけ子」を務め、報酬を得ていたという。 逮捕容疑は 19 年 11 月、日本の仲間と共謀し、都内の 60 代の女性に「詐欺の犯人が持っていたリストにあなたの名前がある。 キャッシュカードを封筒で保管して」と警察官を装って電話をかけ、女性宅を訪問。偽のカードを入れた封筒とすりかえたというもの。 事件をめぐっては、これまでに 18 人が東京地裁で懲役 2 年 4 カ月 - 4 年 6 カ月の有罪判決を受け、今月 15 日に強制送還された 10 人が詐欺容疑で逮捕・送検された。 (asahi = 7-22-21) ウニやマグロ、20 倍売れた店も コロナ下で魚消費拡大 新型コロナ下で、家庭で魚を食べる動きが広がっている。 鮮魚店もネット販売も盛況で、1 世帯あたりの鮮魚の購入量は昨年、18 年ぶりに増加に転じた。 「巣ごもり」で自炊のレパートリーを増やす流れがあるとみられ、商機とみた食品大手は、手軽に魚料理を楽しめる商品を次々に投入している。 東京都日野市の甲州街道沿いにある鮮魚スーパー「角上(かくじょう)魚類」。 6 月下旬の土曜日に訪ねると、午前 9 時の開店前から 100 人近い客が行列を作っていた。 店内には、旬のイワシやシマアジ、イサキなど 20 種類以上の鮮魚がずらり。 客がショーケースのマダイを指さすと、店員が「さばき方はどうしますか。」 好みに応じて、その場でさばいてくれるのが特徴だ。 小学生の息子 2 人とほぼ毎週訪れるという名倉佳隆さん (44) は、タイラガイやホッキ貝を袋に詰めながら「普通のスーパーにはないような魚が食べられるのが、うれしい。 子どもも魚好きです。」と話す。 同店の来店客は以前は 50 代以上が中心だったが、昨年春の緊急事態宣言を境に客が急増し、子育て世代や 20 代も目立つようになったという。 久保田俊司店長は「外食できないかわりに、パーティー用にすしや刺し身を買う人が増えた」と分析する。 角上魚類は、日本海で早朝に水揚げされた魚を午前中に店頭に並べる新鮮さが売り物で、首都圏や群馬、長野などに計 22 店を展開する。 今年 3 月期の売上高は前年比 11.7% 増で、柳下浩三社長は「日本人は本来、魚が大好き。 新鮮な魚になじみがなかった人にも、コロナ禍でおいしさを知ってもらう流れができた。」 外食の仕入れ激減、価格が低下 東京・豊洲市場で競り落とした食材を扱う通販サイト「豊洲市場ドットコム」は、今年 3 月期の売上高が前年の 3 倍に伸びた。 飲食店の仕入れが激減して価格がコロナ前より 1 - 2 割安くなり、政府のコロナ支援策で送料無料のキャンペーンを打ったことも追い風となった。 特に売れたのが、普段は料亭や高級すし店が扱う生ウニやクロマグロ、本マグロなどの高級水産物だ。 ウニの販売量は、前年の 400 キロから 24 倍の 9.4 トンに急増。 マグロも 20 倍の 37.8 トンに増えた。 お金に余裕がある高齢者のほか、テレワークなどで在宅時間が増えた男性の利用も増えているという。 サイト運営会社の萩原章史社長は「コロナ禍を機に、魚をさばくなどの手間を嫌う人もいる主婦層とは、異なる需要が伸びている」と話す。 水産庁がまとめた 2020 年度の水産白書によると、20 年の 1 世帯あたりの生鮮魚介類の購入量は前年比 4.1% 増の 23.9 キロで、18 年ぶりに増加に転じた。 外食の機会が大きく減った一方、自宅で魚を食べる機会が増えたと分析している。 食品メーカーなど「商機」に熱視線 農林水産省の調査によると、これまで家庭の魚離れが進んできた背景には、肉人気の根強さに加えて「調理が面倒」との消費者の声もあった。 さばいたり小骨を取ったりすれば手間がかかり、グリルで焼けば洗い物も増えるからだ。 そこで食品関連会社は、この商機に従来のイメージを払拭しようと、手間をかけずに魚を食べられる商品を相次いで発売している。 キユーピーは 6 月 23 日から、手軽に魚料理ができる調理用ソース「鮭の蒸し焼き」を売り出した。 切り身や野菜と一緒にフライパンに入れて 10 分間蒸し焼きするだけで、2 - 3 人前の魚料理がつくれる。 トマト・バジル・ガーリックの 3 種類あり、シャケ以外の魚を使ったレシピもホームページで紹介している。 卸業者や調理器具メーカーと連携してレシピ提案などをする「魚の消費拡大共同プロジェクト」も始めた。 長南収社長は「幅広い年代に人気のシャケをきっかけに、日本の食卓に魚料理を増やす取り組みを進めたい。 グループ総力を挙げて魚の食べ方を提案していく。」と話す。 食品宅配大手のオイシックス・ラ・大地も、魚に力を入れる。 6 月からは期間限定で、料理に必要な食材や調味料をセットにしたミールキット「のどぐろの炊き込みご飯のもと」を売り出した。 ノドグロを丸ごと、セットのタレと一緒に炊飯器で炊けば、うまみを吸った炊き込みごはんが出来上がる。 以前から、魚料理を手軽に作れるミールキットを求める声があり、今年 3 月に水産品卸を子会社化して取り組みを本格化させた。 今後もアイナメのムニエルやイナダの漬け丼など、魚のメニューを増やしていくという。 魚の「復権」を図りたい水産庁も、こうした動きに期待する。 6 月 24 日には、コロナ禍を機に、魚消費の V 字回復を目指す戦略をまとめた。 消費者ニーズに合った商品を提案していく必要があるとして、ミールキットや、保存が利く商品の開発強化を提案。 今後の政策にも反映させるという。 (高木真也、若井琢水、asahi = 6-30-21)
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