仏政府に猛反発、統合白紙に FCA、日産には謝意

欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ (FCA) は 6 日、同業大手の仏ルノーに対する経営統合の提案を取り下げると発表した。 ルノーの筆頭株主の仏政府が統合案に介入し、提案の実現が見通せないと判断したとみられる。 両社の世界販売をあわせると約 870 万台規模。 世界 3 位の自動車グループの発足をめざしていたが、統合案は白紙に戻ることになった。

ルノーは 4 日の取締役会で、FCA との統合について話し合ったが結論に至らず、5 日夕方(日本時間 6 日未明)から再び取締役会を開催。 6 時間にわたって議論を続けた。関係者によると、取締役会で統合提案の受け入れを採決したところ、ルノーと連合を組む日産自動車出身の 2 人が棄権。 仏政府の代表者が「もう少し待ってほしい。 アライアンス(提携)関係にある日産の賛成を取り付けたい。」と主張して投票の延期が決まったという。 連日の協議でも結論は出なかった。

取締役会の終了後、FCA が仏政府の対応に不満を募らせ、ルノーに提案を取り下げる意向を伝えたという。 FCA は 6 日に出した声明で、「提案の合理性にはいまも自信を持っているが、統合を成功裏に進めるためのフランスでの政治的条件が存在しないと明らかになった」として、仏政府の介入が提案撤回の理由になったと暗に批判した。 ルノーやルノーのジャンドミニク・スナール会長、日産には謝意を示した。

FCA は 5 月 27 日、ルノーと対等の立場で統合会社をつくり、本社をオランダに置く計画を提案。 スナール氏と FCA のジョン・エルカン会長の間では統合をめざす方向で一致していたが、関係者によると、ルノーに 15% を出資する仏政府が自国に有利な条件を引き出そうと要求を積み重ねた。 ルメール仏経済・財務相は「いい条件で統合されなければならない」として、「統合でルノー側の雇用が一切損なわれないこと」などの確約を引き出そうとした。 これに FCA 側が不満を募らせたという。

AFP 通信によると、統合でルノーの雇用が失われた際に FCA が支払う「罰金」や、仏政府の代表者を統合会社の取締役に送り込むことなどを仏政府が要求。 ルノーと FCA の間に大きな意見の隔たりはなかったが、仏政府と FCA が折り合えなかったという。 ルメール氏は 5 日の取締役会前に記者団に対し、「(6 月 12 日の)ルノーの株主総会までまだ日がある。 それまでに何回か取締役会が開かれることになる。」と述べ、結論を急がない考えを示していた。 最大限の妥協を引き出そうとして交渉に介入した仏政府の姿勢が裏目に出た形だ。 (パリ = 疋田多揚)

日産の姿勢が影響か

日産の西川(さいかわ)広人社長兼 CEO (最高経営責任者)は 6 日朝、報道陣に対し、「(提案取り下げを)正式に聞いていないので、きちんと聞いたらコメントする」と述べた。 FCA の提案取り下げが日産に与える影響についても「ちょっとまだよく分からない」と話すにとどめた。 FCA の提案通りに統合が実現すれば、日産が持つ 15% のルノー株が統合会社の株に置き換わり、統合会社への日産の出資比率は 7.5% に半減する可能性があった。 さらに、統合会社の世界販売台数は 872 万台(2018 年)となり、日産の 565 万台を上回るため、日産の発言力の低下が避けられないとの懸念も出ていた。

西川氏は、FCA との統合について話し合うルノーの取締役会が始まる直前の 3 日、FCA とルノーの統合が実現した場合、「ルノーの会社形態が変わることになるため、これまでの日産とルノーの関係の在り方を基本的に見直していく必要がある」などとする声明を発表。 日産に不利となる統合論議を牽制していた。 ルノーのスナール氏が 5 月末に来日したときも、西川氏は「日産にどう影響があるかよく見ていかないといけない」として、統合提案への賛同を求めるスナール氏への回答を保留していた。 (箱谷真司、木村聡史、asahi = 6-6-19)

フィアット・クライスラー・オートモービルズ (FCA)》 : イタリアの名門フィアットが、リーマン・ショック後に米クライスラーを吸収して発足。 フィアットやクライスラーのほか、アルファロメオ、マセラティ、ジープ、ダッジなどのブランドを持つ。 2018 年の世界販売は年 484 万台と、ルノーの 388 万台を上回り、ホンダ(523 万台)に次ぐ規模。

ルノー》 : フランスを代表する自動車メーカーで小型車や欧州市場に強みを持つ。 仏政府が 15% を出資する筆頭株主。 1999 年に日産自動車へ資本参加し、事実上の傘下に収めた。 両社は車台の共通化や部品の共同購入を進めている。 カルロス・ゴーン前会長の逮捕後に就任したジャンドミニク・スナール会長ら経営陣は、経営基盤の強化をねらい日産との経営統合を目指しているが、経営の独立性を保ちたい日産とのせめぎ合いが続いている。

日産自動車》 : 1933 年に横浜市で設立。 経営危機を招き、99 年に仏大手ルノーから出資を受け入れ、ルノー出身のカルロス・ゴーン前会長が長く経営トップに君臨した。 2016 年には三菱自動車を傘下に置き、ルノーとともに世界販売 1 千万台を超す 3 社連合に。 ゴーン前会長が 18 年に逮捕され、その後、経営統合を迫るルノーとのせめぎ合いが続いている。

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日産の存在感低下も 「世界連合」なら ルノーは圧力か

欧州に拠点を置く自動車大手の仏ルノーと欧米大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ (FCA) が、経営統合に向けて動き出した。 ルノーが連合を組む日産自動車と三菱自動車を含め、日米欧のメーカーが集う巨大な「世界連合」をつくり、巨額の資金が必要な次世代技術の開発などで競争力を高めることをねらう。 統合が実現すれば、経営の自主性にこだわってきた日産の経営が変化を迫られるのは避けられそうにない。

「急速に変化する自動車業界において、電気自動車 (EV) や自動運転を含めた技術変革を牽引するグローバルリーダーになる。」 FCA は 27 日、ルノーに経営統合を提案したことを公表し、統合の狙いの一つをこう説明した。 両社が統合交渉に入ることを決めた背景には、将来への共通した危機感がある。 排ガス規制が強まる欧州を中心に EV の開発に対する期待が高まっており、通信技術と融合した「コネクテッドカー」や自動運転技術の開発競争も激しい。 米グーグルや配車サービス大手の米ウーバー・テクノロジーズなど、自動車業界の枠を超えた主導権争いが熱を帯びている。

ルノーは EV では欧州で強みを発揮しているが、コネクテッドカーなどの開発は連合を組む日産に頼る。 FCA は、EV でライバルに出遅れ、次世代技術開発でも、自動運転システムを米グーグル系のウェイモに依存する。 トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン (VW) などのライバルは、次世代技術の開発で先行しており、出遅れたルノーや FCA は競争力低下に対する懸念を強めていた。 両社は経営統合により、部品の共同調達や車台の共有化などを進めて経営効率を高める。 浮いた資金を新たな技術開発に投入する考えだ。

FCA は 2009 年に経営破綻した米クライスラーを、伊フィアットが 14 年に完全子会社化して誕生した。 高級車ブランドの「マセラティ」や「アルファロメオ」を抱え、スポーツ用多目的車 (SUV) 「ジープ」ブランドなどが好調の北米市場に強みがある。 欧州市場を収益源とするルノーとの提携効果は高いとみている。 FCA の提案では、日産と三菱自との連携も視野に入れており、4 社の提携による相乗効果として年間で 10 億ユーロ(約 1,225 億円)を見込んでいる。 (ロンドン = 和気真也、ニューヨーク = 江渕崇)

産の命運は

経営統合が実現すれば、ルノーと 3 社連合を組む日産と三菱自を取り巻く状況が一変する可能性がある。 日産の西川(さいかわ)広人社長兼 CEO (最高経営責任者)は 27 日夜、ルノーと FCA の経営統合について報道陣に問われ、「アライアンス(提携)の幅が広がるので良い」と支持する姿勢を示した。 「将来に向けてポジティブな話だ」とも述べた。

3 社連合に FCA が加われば、規模拡大のメリットが見込める一方、日産の存在感が薄まる可能性がある。 3 社連合の中で最大規模の日産は、43% の日産株を持つルノーに対しても一定の発言力を維持してきた。 ルノーが日産との経営統合を求めても、「提携解消となれば、困るのは(規模が小さい)ルノーの側だ(日産幹部)」として応じない姿勢を貫いてきた。

だが、ルノーが FCA と統合すれば、両社の世界販売は計 872 万台(18 年)となり、日産の 565 万台(同)を大きく上回る。 JP モルガン証券の岸本章シニアアナリストは「アライアンスの中で、日産がどこまで発言権を維持できるかという懸念はある」と指摘する。 経営統合した場合に、日産がどう関わるかが今後の焦点になる。 ルノーや FCA は、日産や三菱自も合流する「4 社連合」への拡大を視野に入れている。 それを裏付けるように、FCA の提案書には、統合会社の取締役に日産からも 1 人指名すると明記されている。

提案書には、ルノー株を 15% 持つ仏政府の影響力を弱める内容も盛り込まれた。 2 年以上の長期株主に 2 倍の議決権を与えるフランスのフロランジュ法の成立により、ルノーに対する仏政府の議決権が拡大したが、統合後はこれを持ち越さないと踏み込んだ。 仏政府の影響力の拡大を懸念してルノーとの経営統合に否定的な日産に軟化を促す姿勢が透けて見える。

ルノー関係者は「日産との統合議論は棚上げにならない。 (FCA と)同時並行で進める。 貴重なパートナーが現れて(日産との交渉のためにも)チャンスだ」と話した。 ルノーから日産への統合圧力が一段と強まる可能性がある。 29 日には、3 社連合を統括する新組織の会合が横浜市で開催され、ルノーのジャンドミニク・スナール会長も来日する予定だ。 スナール氏が FCA との統合や日産との関係について、どう説明するかが注目される。 (疋田多揚 = パリ、木村聡史、森田岳穂、asahi = 5-27-19)

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フィアット、ルノーと提携交渉開始か 英紙報道

英紙フィナンシャル・タイムズ (FT) は 25 日、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ (FCA) が同業の仏ルノーとの間で、包括的な提携に向けた交渉を進めていると報じた。 将来、ルノーと日産自動車、三菱自動車の 3 社連合に加わる可能性もある、とする関係者の見方も伝えている。 FT によると、提携のあり方を幅広く議論している段階で、破談に終わる可能性もあるとしている。 日産は交渉に加わっていないとする関係者の声も報じた。

自動車業界は、将来を見据えた電気自動車や自動運転技術の開発が競争の軸になっており、巨額の開発資金を効率よく確保することが課題になっている。 FCA はルノーの技術を頼り、自動車の車台の共通化を持ちかけていたという。 FCA は北米市場や高級車種に強みがあり、欧州が基盤のルノーとは補完関係を見込める。 ただ、日産は北米でしのぎを削っており、提携が実現した場合、3 社連合のあり方に影響を及ぼす可能性もある。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 5-26-19)


大英博物館の漫画展「やり過ぎ」? 現地メディア酷評も

ロンドンの大英博物館で、海外では史上最大規模となる日本漫画の展覧会「Manga マンガ」展が始まった。 チケットの売れ行きはいつになく好調な一方、英主要メディアが「やり過ぎだ」と批判的に展覧会を紹介するなど、大きな関心を呼んでいる。 古代美術の殿堂を舞台に何が起きているのか。

ゴールデンカムイ登場

大英博物館の正面玄関前にはいま、野田サトルの「ゴールデンカムイ」のヒロイン、アシ●(●は小書き片仮名リ)パを使った特別展の案内パネルが掲げられている。 同館の特別展会場としては最大の約 1,100 平方メートルのギャラリーに約 50 人約 70 作品の原画などを展示。 葛飾北斎の作品を集めた一昨年の特別展より広く、日本関係の展示で使われるのは初めてとなる。 北斎の作品や明治期の新聞漫画なども交え、漫画の歴史、社会とのかかわりも伝える。

英メディアは賛否

大英によると、前売り券の売れ行きは過去 5 年の特別展で最高で、週末の予約は売り切れになる勢いだ。 前売りと入場者に占める 16 歳以下の割合は約 23% で通常の特別展よりも高いという。 一方、ハイカルチャーの拠点である大英が、サブカルチャーとも位置づけられる漫画を本格的に取り上げたことに対し、英メディアの反応は賛否が分かれた。

タイムズ紙は「やり過ぎだ」として 5 段階評価の三つ星。 「最も興味深い内容は図録にある。 漫画の不思議な世界を常連に納得させるより、子供たちを大英の魅力に引き込むのに役立つかもしれない。」 ガーディアン紙は、美術担当記者が「目の大きい漫画の主人公を、北斎の作品と同じように注目すべきだというのか。 次はレンブラントと『わんぱくデニス』の比較になる?」と二つ星で酷評した。

これに対し、同紙の書籍コミック担当ライターは「漫画は現代の文化に 1 世紀以上寄与してきた。 その影響力を過小評価すべきではない。」と反論。 「大英が歴史に寄与する公的機関であるなら、漫画はまさに歴史になりつつある立派な表現手段だ」と書くなど論争になっている。 夕刊紙イブニング・スタンダードは星四つ。 いわゆる「オタク」文化への説明が少ないなど「漫画文化の気がかりな要素を無視し、めでたすぎる内容だ。 それでも大いに楽しめる内容で、見た後に漫画の世界をより深く探りたくなる。」

権威にあらがう大英

英国の博物館、美術館で長年、最大の入館者数を誇る大英だが昨年、約 590 万人が訪れたテート・モダンに小差でその座を奪われた。 特別展には、若い世代の新たな入場者を開拓する意図もある。 大英自身、権威主義的なイメージから脱却する試みを続けており、昨年には、古今東西の「抵抗芸術」を集めた特別展で、覆面作家バンクシーの作品を正式に展示した。

同作品は、バンクシーがかつて無許可で館内にゲリラ展示したものだ。 大英の権威主義に「抵抗」した行動をアートとして受け止めた。 漫画展への論評について、同館は「大英が冒険的な試みをしたからこそ賛否両論が起きた。 論争が起きたことで展示への関心が高まっている。(広報部)」と前向きに受け止める。

大英には、もともと日本ギャラリーがあり、漫画の原画収集も進めてきた。 民俗学者の主人公「宗像(むなかた)教授」が大英を訪れるシリーズもある星野之宣(ゆきのぶ)の作品を 09 年に展示。 15 年には星野のほか、「あしたのジョー」のちばてつや、「聖☆(セイント)おにいさん」の中村光という世代の異なる 3 人の作品展を開催した。 大きな反響があり、今回の特別展につながった。

企画した同館日本セクションのニコル・ルマニエールさん(イースト・アングリア大学日本美術文化教授)は「文字よりも絵を通して伝えるインスタグラムの時代。 デジタルメディアに慣れた Z 世代の若者にとって漫画の役割は大きくなりつつある。 漫画は、22 世紀の一つの共通言語になると思う。」と話している。 同展は 8 月 26 日まで。 幕末から明治にかけて活躍した河鍋暁斎(きょうさい)の大作「新富座妖怪引幕(縦約 4 メートル、横約 17 メートル、早稲田大演劇博物館蔵)」は、作品の状態を保つため、国外で最後の公開展示になる。 混雑時には事前予約が必要。 (ロンドン = 石合力、asahi = 5-31-19)


1 を下回った韓国の出生率「他国と違う形で進んでいる」

゙永台(チョ・ヨンテ)・ソウル大学人口政策研究センター長

- - 女性が一生に産む子の数を示す合計特殊出生率が、韓国は 2018 年に 0.98 と初めて 1 を割りました。
「ありえないことが起きている。 1 を下回る事態は社会の急激な変化、例えば東欧で共産主義政権が崩壊した際に起きた。 ただ、1 年ほどですぐ回復した。」

- - 韓国は違いますね。 21 年には 0.86 まで低下すると政府が推計しています。
「他の先進国と全く違う形で進んでいる。 人間の基本的な本能に生存と再生産があるが、生存できない状態では再生産も考えられない。 韓国では子を産み育てる年齢層の生存が脅かされている。」

- - 生存が脅かされる?
「最も深刻なのが競争だ。 約 8 割が大学に進もうとし、小学生の時から塾をかけ持ち。地方大学に見向きもせず、ソウルの大学を目指す。 卒業後も大企業は狭き門だ。」 「運良く就職しても年功序列がないなか、同世代だけでなく上や下の世代とも競わされる。 世論調査で多くの若者は『できれば子供を持ちたい』と答える。 でも自分の経験を考えると、子供も幸せになれないと考える。」

- - 政府はどう対応しているのでしょう。
「文在寅(ムンジェイン)政権は、出生率低下の背景に若者の暮らしの質の問題があるとみて、月 50 万ウォン(約 5 万円)を就活生らに支給する青年手当の制度をつくった。 だが自己開発に使うのが条件なので、労働市場で再び戦えという、競争を促す制度になってしまっている。」

- - 韓国に独特の現象といえるのでしょうか。
「フランスや日本で、みなが大学を目指し、みなが首都に住もうとするだろうか。 人口が分散し競争が韓国ほど苛烈ではないため、暮らしの質が維持でき、ゆとりがある。」

- - ソウルへの一極集中も関係があると?
「興味深い例がある。 12 年にソウルの行政機能の一部を移転した中部の新都市、世宗だ。 昨年の出生率は 1.56 でソウルの 0.76 とは対照的だ。 ソウルから 2 時間ほどで、当初は通勤する人が多かったが、徐々に定住する人が増え始め、さらに現地で公務員生活を始める新卒者が増えてきた。」 「そのうち学校や病院など生活基盤が充実してきた。 じゃあ、ここで子供を産み、育てよう - - という人が増えた。 経済成長も出生率も、地方重視がカギになることを示している。」(聞き手・神谷毅、asahi = 5-26-19)

゙永台(チョ・ヨンテ) : 1972 年生まれ。 米テキサス大博士。 専門は人口学。 韓国の出生率低下や高齢化、人口減少と経済成長の関係について積極的に発信。 ベトナム政府の人口政策顧問も務める。


米、日欧に車輸出制限要求か 週内にも大統領令、米報道

トランプ米政権が、日本と欧州連合 (EU) に対して自動車の対米輸出制限を求める方向だと、米ブルームバーグ通信が 15 日報じた。 輸入車の関税引き上げは先送りするが、その代わりに、数量規制などの輸出制限で半年以内の合意をめざすという。 トランプ氏が週内にも大統領令に署名する見込み。 日本は輸出制限はできないとの立場で、日米貿易交渉の大きな火種になる可能性がある。

安全保障への脅威を理由に検討してきた輸入車や自動車部品への追加関税について、米政権が発動を判断する期限が 18 日に迫っていた。 関税引き上げは自動車業界を含め米国内にも異論が根強く、報道によると、判断を最大 180 日先延ばしする方針。 その見返りとして、米国への輸出台数などに上限を設けたり、なんらかの制限を加えたりすることへの同意を日欧に求める方向だという。

米政権は、輸入車の流入が米国の自動車生産を脅かしているとの認識で、大統領令の草案は「米企業の研究開発投資が遅れて技術革新が弱まり、国家安全保障を脅かしている」と指摘しているという。 日米貿易交渉は自動車や農産物などの物品分野での早期妥結を目指している。 日本側は協議中は輸入車関税を発動しないとトランプ氏に確認を取ったとしているが、米政権は、輸入制限もカードに加えることで、大幅な譲歩を迫る戦略とみられる。

メキシコとカナダは昨年、北米自由貿易協定 (NAFTA) に代わる新たな貿易協定「米・メキシコ・カナダ協定 (USMICA)」で、自動車輸出の数量規制につながりかねない条項をのまされている。 (ニューヨーク = 江渕崇、asahi = 5-16-19)


日本のアニメ、続々米で映画化 「潮目変わった」理由は

「ポケモン」、「ガンダム」、「君の名は。」、「ハローキティ」など、日本のアニメやゲームが続々と米ハリウッドで映画化されている。 なぜ今相次いでいるのか。 「妻と娘たちはポケモンが大好き。 ピカチュウは日本のキャラというより、国際的なキャラとして見ているよ。」 映画「デッドプール」などの主演で知られ、5 月 3 日公開の映画「名探偵ピカチュウ」にも出演するハリウッド俳優のライアン・レイノルズさんは、4 月の来日インタビューでさわやかに語った。 人気ゲーム「ポケットモンスター」を実写化し、渡辺謙さんらも出演。 ハリウッド版「ゴジラ」などを手がけたレジェンダリー・ピクチャーズが制作した。

今年 2 月には「タイタニック」などで知られるジェームズ・キャメロン監督が、原作漫画「銃夢(ガンム)」にほれ込んで制作した「アリータ : バトル・エンジェル」も公開されたほか、今後も多くの日本関連作品が公開を控えている。 「この 2、3 年で潮目が変わった」と日本のコンテンツの海外展開を図る企画会社「フィロソフィア」の藤村哲也社長はいう。 さほど有名ではない作品について海外から問い合わせが来たり、日本企業から「いきなりハリウッド企業からメールが来たがどう対応すればいいか」と相談が来たりするようになったという。

漫画「攻殻機動隊」を原作に 17 年に公開されたハリウッド映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」でエグゼクティブプロデューサーも務めた藤村さんは、「ハリウッドが白人偏重、米国中心主義から脱却しつつあるのが大きい」とみる。

16 年の米アカデミー賞、きっかけに

きっかけの一つが 2016 年の米アカデミー賞だ。演技部門の候補者が全員白人だったことに大きな批判が集まり、「多様性」重視の流れに。昨年はアフリカを舞台に黒人の王が活躍する「ブラックパンサー」や、登場人物のほぼ全員がアジア人の「クレイジー・リッチ!」が興行的にも成功した。 米国で映画制作をしている細谷佳史さんは消費者の世代交代の影響も指摘する。 「米国でも人気のアニメ『ドラゴンボール』などを見て育った世代が親になり、アメリカン・コミックスやディズニーと同じく日本の作品が家族で親しまれるようになった。」

日本企業も攻勢

中国を筆頭にアジアの映画市場が拡大している影響も見逃せないと藤村さんと細谷さんは指摘する。 ハリウッドが北米以外での興行を重視し、アジアで特に知名度の高い日本の作品への注目度が増しているとの見方だ。 作品を抱える日本企業も攻めの姿勢に転じている。 任天堂は 22 年公開予定の「スーパーマリオ」のアニメ映画に出資。 宮本茂代表取締役フェローがプロデューサーに名を連ねる。 「全面的に映画制作に関わるのは初めて(広報)」だという。 ゲーム以外でも自社のキャラクターに触れる人口を増やしたいとの経営戦略が背景にある。

一方で、日本の作品が注目されるのは、すでに人気を確立した作品に頼らざるを得ないからではないかとの見方も。 ゲームやアニメに詳しい文芸評論家の藤田直哉さんは「人々の好みが多様化して大ヒット作が出にくいため、過去のヒットコンテンツが再活用される傾向がある。 CG 技術が進歩し、映像化がたやすくなった影響も大きいだろう」とみる。

気になる出来栄えはどうか。 1993 年の「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」や 2009 年の「ドラゴンボール・エボリューション」など過去に海外で映画化されたケースでは、作品の世界観が原作からかけ離れていると批判を集めたこともあったが、「いまは日米が歩み寄って制作している。 原作ファンも満足できる映画が増えるのでは」と藤田さんは期待を寄せる。 (加藤勇介、asahi = 5-15-19)

原作(映画名)/公開年/ハリウッドでの製作会社(代表作)
銃夢(がんむ、アリータ : バトル・エンジェル)/2019 年 2 月/ライトストーム・エンターテインメント(アバター)
ポケットモンスター(名探偵ピカチュウ)/2019 年 5 月/レジェンダリー・ピクチャーズ(パシフィック・リム)
ソニック・ザ・ヘッジホッグ(ソニック・ザ・ムービー)/2019 年 11 月予定/パラマウント(スタートレック)
モンスターハンター/2020 年予定/コンスタンティン・フィルム(「バイオハザード」シリーズ)
スーパーマリオ/2022 年予定/イルミネーション(ミニオンズ)
ロックマン(MEGA MAN 〈仮称〉)/未定/チャーニン・エンターテインメント(猿の惑星)
君の名は。/未定/バッド・ロボット(スター・ウォーズ/フォースの覚醒)
進撃の巨人/未定/ヘイデイ・フィルムズ(「ハリー・ポッター」シリーズ)
機動戦士ガンダム/未定/レジェンダリー・ピクチャーズ
NARUTO/未定/ライオンズゲート(キック・アス)
ハローキティ/未定/ニュー・ライオン・シネマ(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ)


英情報通信庁、中国テレビ局を調査へ 「自白強要」の申し立て受け

ロンドン : 英国のメディア規制機関、情報通信庁(オフコム)は 8 日、中国で 2013 年に逮捕された英国人が自白したとする映像を流した中国国営テレビ局について、英国の規定に違反した可能性があるとして調査に乗り出したことを明らかにした。 オフコムに苦情を申し立てたのは、中国で企業調査委員をしていて 2013 年に逮捕された元ジャーナリストのピーター・ハンフリーさん。 自白を強要され、その映像を中国中央テレビ (CCTV) などで放送されたと訴えている。

オフコムの広報は、「CCTV のニュース番組で放送された内容を巡り、公平さとプライバシーについて調査を行う」と説明。 「規定が破られたと判断すれば、適切な措置を取る」としている。 オフコムには、英国の放送基準に抵触した報道機関に罰金を命じたり、テレビ局の放送免許を取り消したりする権限がある。 当時英製薬大手グラクソ・スミスクラインのコンサルタントだったハンフリーさんは、情報を不正に入手したとして妻とともに中国で逮捕され、テレビで自白を強要されたと訴えていた。

ハンフリーさんは苦情申し立ての中で、「拷問に等しい状況下で行われた偽のインタビューが、中国国家の命令で私の同意なく、CCTV と同局の国際放送網 CGTN によって放送された」と主張。 いずれのインタビューも「大幅に編集されていた」と訴えている。 ハンフリーさん夫妻は有罪を言い渡されて 2 年近く中国で服役し、2015 年に国外退去処分となった。 CGTN は英国に進出したばかりで、ロンドン郊外に昨年、新しい放送センターを開設している。 (CNN = 5-9-19)


中国「二つの顔」に批判 = 覇権主義を警戒 - ADB 年次総会

【ナンディ(フィジー)】アジア開発銀行 (ADB) 年次総会では、新興国として ADB の支援を受ける「借り手」と、途上国向けインフラ投資を拡大する「貸し手」の二つの顔を使い分ける中国への批判が相次いだ。 ADB から融資を受けつつ、途上国に返済し切れない債務を負わせ、インフラを「接収」した覇権主義的な行動もあり、各国が警戒を強めている。

4 日の総務会では麻生太郎財務相をはじめ、米国やフランスの出席者も、名指しこそ避けたものの、対中融資を終えるよう ADB に求めた。 背景には、中国が掲げるシルクロード経済圏構想「一帯一路」への疑心がある。 スリランカの港湾建設事業に高金利で融資し、返済不能になるや 99 年間にわたる運営権を得た手法は「債務のわな」と非難を浴びた。

こうした高まる批判を受け、中国側は軌道修正を迫られている。 2 日に行われた日中財務相会談。 麻生氏が、途上国が借入金を返済し続けられるようにする「債務の持続可能性」確保の重要性を訴えると、劉昆財政相は理解を示した。 6 月に福岡市で開かれる 20 カ国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議で議長国を務める日本は、債務の持続可能性の確保を含む「質の高いインフラ投資」原則の策定を目指す。 これに中国が応じるかが今後の焦点だ。

麻生氏は 4 日の記者会見で、質の高いインフラ投資について、「(中国が)どれくらいやるのかは、これからだ」と語り、同国の動向を注視する姿勢を示すにとどめた。 大和総研の神尾篤史主任研究員は「中国は国際的な批判には配慮するだろうが、一帯一路参加国のニーズに応えれば十分で、独自路線を進むこともあり得る」と指摘している。 (jiji = 5-5-19)

関連記事 (8-21-18)


「死の神」の小惑星アポフィス、2029 年に地球に接近

米航空宇宙局 (NASA) によると、「死の神」の名を持つ巨大小惑星が、2029 年に地球に接近する。 この小惑星「99942 アポフィス」は直径約 335 メートル。アポフィスの名は、太陽をのみ込もうとするエジプト神話のヘビ神のギリシャ名に由来する。 ただし 2029 年にアポフィスが地球に衝突する心配はなく、地球から約 3 万キロの距離を通過する見通し。

NASA の専門家によると、これほど大きな天体が地球の近くを通過することは比較的珍しく、研究者にとっては絶好の観測の機会になる。 NASA では光学望遠鏡とレーダー望遠鏡を使って観測する予定。 「レーダーを使えばわずか数メートルの精度で表面を観察できるかもしれない」という。 アポフィスは肉眼でも明るい光点として見える可能性がある。 NASA の予測モデルでは、「アポフィスが大西洋上空を通過する際、その軌道が一時的に赤からグレーに変わる。 それが最接近の瞬間だ。」、「最接近の後は昼間の空へ移動して見えなくなる」と説明している。

今回の接近は、もっと危険な小惑星が地球に接近した場合の対応を探る機会にもなる。 そうした天体に詳しい専門家はアポフィスを「潜在的に危険な小惑星 (PHA) 約 2,000 個の代表的な存在」と位置付け、「2029 年のアポフィス接近を観測することで、いつか惑星防衛に利用できるかもしれない重要な科学的知識が得られるだろう」と話している。 (CNN = 5-2-19)

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小惑星の地球衝突に備えた演習実施へ、米 NASA など

米航空宇宙局 (NASA) と米緊急事態管理局 (FEMA) が小惑星、彗星や地球接近天体 (NEO) が地球に衝突する軌道上にあるとの事態を想定し、対応策を講じる演習を来週実施することとなった。 欧州宇宙機関や NASA の惑星防衛調整局、国際小惑星警報ネットワーク (IAWN) などの国際組織も協力する。 演習は、世界中の科学者が集まる年次の惑星防衛関連会議で実施する予定。

NASA は昨年 6 月、小惑星などが地球に衝突する災害が発生する可能性は非常に小さいとしながらも、実際に発生した場合は壊滅的な被害につながるとの見解も示していた。 衝突が予想されるとのシナリオは、NASA のジェット推進研究所の NEO 研究センターが作成する。 想定によると、天文学者が 3 月 26 日に地球に危険な NEO を発見。 数カ月間の追跡調査で、2027 年に地球に衝突する確率は 100 分の 1 と判断したとした。 この確率は科学者によって行動を起こすべき水準と受けとめられている。

この事態を受け、緊急事態管理当局と科学者らはどう対応すべきかを演習で検討するとした。 惑星防衛調整局当局者は声明で、演習は緊急事態管理当局や科学者、各国政府の間でより効果的な連絡方法などの創出に寄与するだろうとした。 NASA はこれまで NEO 接近などに対応する演習に 6 度参加。 より正確な衝突場所の解明や衝撃の度合いなどに関する研究を続けており、 実際の脅威が生じた場合、より精度の高い予想が可能になるとも考えられている。 米国が打ち上げた探査機「オシリス・レックス」は昨年 12 月、小惑星「ベンヌ」に到着してもいた。 2 年間にわたって調査する予定。 (CNN = 4-27-19)


韓国徴用工訴訟の原告、日本製鉄など資産の現金化申請

韓国大法院(最高裁)が昨年秋、元徴用工や元女子勤労挺身隊をめぐる訴訟で日本企業に賠償を命じた問題で、原告代理人の弁護団と支援団体は 1 日、日本製鉄(旧新日鉄住金)や不二越が賠償に関する協議に応じなかったとして、すでに差し押さえられた資産の現金化を裁判所に申請し、受理されたと発表した。 判決が賠償を命じていることから、裁判所が株式などの差し押さえ資産の売却を命令するのは確実だ。

弁護団によると、今後、裁判所が売却命令書を日本企業に送り、現金化されるまで約 3 カ月かかるという。 現金化されれば、外交関係の悪化にとどまっていた日韓問題が企業活動にも影響を及ぼすことになる。 日本製鉄への判決で現金化の対象となっているのは、同社と韓国鉄鋼大手ポスコが合弁で設立したリサイクル会社 PNR の株式 19 万 4,794 株、9,300 万円相当。 不二越の訴訟では韓国企業との合弁会社、大成ナチ油圧の株式 7 万 6,500 株、7,300 万円相当が対象になっている。 それぞれ裁判所が差し押さえを認めていた。

このほか、三菱重工業の訴訟では、同社が韓国で保有する商標権 2 件と特許権 6 件、約 8 千万円相当が差し押さえられている。 弁護団は同日、これ以外にも財産があるかを確認する手続き裁判所に申請し、受理された。 弁護団はこれまで、企業側が誠意ある対応を示さなければ現金化の手続きに入ると警告していた。 日本政府は 1 日、韓国政府に対し、「日本企業の資産が不当に売却される事態となれば、我が国として断じて受け入れられない」と外交ルートを通じて抗議した。

元徴用工らに対する賠償問題をめぐっては、日本政府は 1965 年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決したとの立場。 1 日の抗議でも、韓国政府が協定違反の状態を是正する具体的な措置を早急にとるとともに協定に基づく協議に応じるよう改めて要求した。 抗議は、外務省の金杉憲治アジア大洋州局長が金敬翰(キムギョンハン)・在日韓国大使館次席公使に電話で伝えた。 在韓国大使館の水嶋光一・総括公使も金容吉(キムヨンギル)・韓国外交省東北アジア局長に同様に抗議した。 (神谷毅 = ソウル、鬼原民幸、asahi = 5-1-19)

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三菱重工業の韓国内財産を差し押さえ、8 千万円相当

韓国大法院(最高裁)が昨年 11 月、戦時中に日本国内の軍需工場で働いた韓国人の元女子勤労挺身(ていしん)隊員と遺族に対する賠償を、三菱重工業に命じた判決をめぐり、大田地裁は原告 4 人が申請した同社の韓国内資産の差し押さえを 22 日付で認めた。 原告の支援団体が 25 日、明らかにした。

差し押さえが認められたのは、三菱重工が韓国内で所有する商標権 2 件と特許権 6 件。 総額約 8 億 400 万ウォン(約 8 千万円)相当で、同社は売買や譲渡などができなくなった。 ただ、現金化するためには原告が別途、売却命令の申請を行う必要がある。 支援団体は声明文を通じて、「戦犯企業に対する強制執行手続きが公式に始まった。 三菱重工が誠意ある態度を示さなければ、現金化する手続きに入る」と宣言。 引き続き三菱重工に対し、話し合いに応じるように求めていくとした。 (ソウル = 武田肇、asahi = 3-25-19)

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ホンダ・ヤマハにインドネシアが制裁金 二輪で価格操作

インドネシアでバイク販売のシェアをほぼ独占するホンダとヤマハ発動機の現地法人 2 社が、2014 年にカルテルを結んでスクーターの販売価格を上げたとして、競争法違反で当局から制裁金を科された。 両社は「事実はない」と制裁に不服を訴えたが、最高裁は 29 日に訴えを退けた。 現地メディアによると、事業競争監視委員会は 17 年 2 月、アストラ・ホンダ・モーターに 225 億ルピア(約 1.7 億円)、ヤマハ・インドネシア・モーター・マニュファクチャリングに行政的制裁としては最高額の 250 億ルピア(約 1.9 億円)の制裁金を科した。 「ホンダは調査に協力的だったが、ヤマハはミスリードした」とも指摘した。

委員会の認定によると、両社は 13 - 14 年、当時の現地法人の社長が価格を協議。 ヤマハ現地法人の元社長がホンダの担当者とゴルフ場で協議した証拠もあるとした。 これら協議の後、ヤマハ社内のメールから、ホンダの価格を参照するよう指示があったことを確認したという。 そして、スズキなどシェア数 % の他社が価格を据え置くなか、「シェア 70% 以上のホンダが価格を上げると、20% シェアのヤマハが追随しており、競争していない」と指摘した。 これに対し、両社は価格操作を否定し、「寡占市場で価格が似通うのは一般的だ」と反論して、地裁、最高裁と争ってきた。

同国では、100 - 150cc のスクーターが生活の足として人気で、二輪は世界でインド、中国に次ぐ第 3 位の市場規模だ。 インドネシア二輪車製造業者協会によると、今年 1 月の同国内でのバイク販売は、ホンダが約 44 万台 (77.5%)、ヤマハが 11 万台 (19.3%) と、この 2 社がほぼ独占している。 (ジャカルタ = 野上英文、asahi = 4-30-19)


三菱 UFJ 銀がインドネシア大手銀買収 邦銀で過去最高

三菱 UFJ フィナンシャル・グループ (FG) 傘下の三菱 UFJ 銀行は 29 日、インドネシアの大手銀行バンクダナモンに約 4,200 億円を追加出資し、子会社化したと発表した。 出資総額は約 6,800 億円で、邦銀による海外銀行の買収で過去最高額となった。 アジア事業の強化が狙いで、アジアの銀行を買収で子会社にするのはタイに続き 2 カ国目だ。

三菱 UFJ 銀は 2017 年末からバンクダナモンへの出資を進めていた。 今回の追加出資で、出資比率は 40% から 94.1% に引き上げられる。 インドネシアでは外資企業が現地銀行に 4 割超を出資する場合は当局の認可が必要だが、金融基盤の強化につながるとして追加出資が認められた。 また、バンクダナモンは 5 月 1 日付で、同じ三菱 UFJFG 傘下の消費者金融アコムが子会社とする現地の銀行バンクビーエヌピーを吸収合併する。

三菱 UFJFG は、国内市場が低金利や人口減で伸び悩む中、海外事業を強化してきた。 グループの海外収益比率は約 4 割に上る。 とくに近年は、成長が続くアジア市場を「第 2 のマザーマーケット」と位置づけ、13 年にタイの大手アユタヤ銀行を買収して子会社にした。 フィリピンやベトナムの銀行にも出資している。 (柴田秀並、asahi = 4-29-19)


キッコーマン最高益、しょうゆじゃない意外な稼ぎ頭

キッコーマンは 4 月 24 日、2019 年 3 月期の決算を発表した。 純利益は前期比で 9% 増え、過去最高の 259 億円となった。 売上高は同 5.3% 増の 4,535 億円。 同社は国内のしょうゆ、食品、飲料事業のイメージが強いが、実は海外での売上高が全体の 6 割にも上る。 稼ぎ頭は海外卸売り事業だ。 同社の売上高全体の 4 割を占め、19 年 3 月期も同 10% 増の 1,921 億円に達した。 この結果、北米の冷凍食品とアフリカの調味料で不振が続く味の素を抜き、10 年ぶりに純利益で国内調味料業界首位に立つ可能性が高い。

海外卸売り事業の中心は、日本食レストランや現地スーパーなどに向けた米や味噌といった日本食材の販売だ。 海外卸売り事業の売上高は 5 年前に比べ 6 割増えている。 この事業の営業利益率は 4% 程度もある。 国内の主要食品卸会社の営業利益率が 1% を切るところも多いのに比べ、高水準といえる。 日本ブランドを前面に出して比較的高い値付けに成功している様子がうかがえる。

同社の海外卸売りの歴史は古く、50 年前に遡る。 米国の日本食市場でしょうゆを普及するにあたり、米国で事業を展開していた日系の食品卸ジャパン・フード・コーポレーション(現JFCインターナショナル社)に経営参加したのが始まりだ。 海外の日本食ブームと並行して同社の海外卸売り事業も軌道に乗り、いまや業績を支える屋台骨となった。 しょうゆの単品売りではなく、今でいうソリューション事業を半世紀前から意識していたことが、現在のグローバル展開の経営モデルを導いている。 (白井咲貴、日経ビジネス = 4-25-19)