高齢者、習氏に反旗 特殊部隊が「白髪運動」弾圧 - 中国・武漢デモ

中国湖北省武漢市で 2 月、医療手当の削減に反対する高齢者を中心とした 1 万人規模のデモが起き、「政府打倒」の声が上がった。 香港メディアなどによると、遼寧省や広東省でも同様のデモが発生。 開催中の全国人民代表大会(全人代)で、権力基盤を一層強固にしている習近平国家主席だが、大衆の不満は徐々に拡大。 治安要員の大量動員で参加者を拘束し、徹底した統制で封じ込めを図っている。

武漢での高齢者によるデモは 2 月 8、15 日に 2 週連続で発生。 昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策に反対する人々が白紙を掲げて抗議した「白紙運動」にならって「白髪運動」と呼ばれる。 武漢は 20 世紀初頭に辛亥革命の発端となった「武昌蜂起」の地。 最近では、コロナ感染の爆発に最初に直面し、「英雄都市」と宣伝されている。 体制にとって「模範」となってきた場所で、公然と体制批判が叫ばれた事態は、習政権にとって大きな衝撃だった。

2 月下旬、デモが起きた武漢中心部の中山公園を訪れると、広い区域が仕切りで封鎖されていた。 売店で働く女性によると、仕切りはデモの後に設置されたという。 女性は当日の様子について「多数の警察が出動していた。 事前情報があったようで、前日から待機していた。」と振り返った。 武漢のタクシー運転手は「警察は周辺の道を封鎖していた。 他都市からも動員されたのだろう。 特殊部隊が目立った。」と話した。

当局はデモ参加者らの摘発を進め、2 月中に少なくとも 5 人を逮捕。逮捕者には、新型コロナで父を亡くし、政府の責任を追及してきた張海氏も含まれると報じられた。 こうした状況を反映してか、「当事者」に当たる年齢の市民は一様に口が重い。 多くの高齢者にデモに関して尋ねたが「何も知らない」と首を振るだけだった。

医療保険制度の変更は、毎月支給される補助金が 7 割減となるなど、高齢者の生活を直撃した。 制度変更の背景には、ゼロコロナによる PCR 検査の実施などで地方財政が逼迫していることがある。 香港紙・明報によると、3 億 5,000 万人が制度変更の影響を受けるとみられている。 昨年 11 月の北京の白紙運動は若者が主体だった。 ある知識人は「(1960、70 年代の)文化大革命や(89 年に民主化運動が武力弾圧された)天安門事件を直接知らない若い層は共産党の怖さを知らない」と指摘した。 白髪運動は「怖さ」を熟知する世代が反旗を翻しており、体制への不満は相当に根深いと言える。 (jiji = 3-11-23)


突然の「バス運行停止」、波紋呼び撤回 中国で深刻になる地方財政難

「3月から都心部でのバスの運行をやめます。」 中国内陸部、河南省商丘市のバス会社が 2 月 23 日に出した通知が、人口 770 万人の市で波紋を呼んだ。 財政補助がもらえないことやコロナ禍の影響などを理由に挙げ、「公益性のある事業を続けられなくなった」とした。 ところが、バス会社はその日のうちに「困難を克服し、バスの運行は停止しない」と撤回。 前の通知が社会によくない影響を与えたとして謝罪した。 さらに同日、商丘市政府も「公共交通の正常運営を確保する」と宣言し、火消しを図った。

一連の動きは、中国の SNS などで大きな注目を集めた。 中国メディアによると、2 日後には運転手らに滞っていた 5 カ月分の給料が支払われたという。 中国では地方の財政難が大きな課題として浮上している。 北京で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でも、政府活動報告で「一部の地方政府の財政難がさらに深刻になっている」との危機感が示された。

騒ぎになった内陸部の街へ

市民のライフラインのバスの運行が止まりかねない事態で騒ぎになった商丘に、記者は 3 月上旬に赴いた。 商丘駅前のバス乗り場からバスに乗ってみると、30 分ほどバスに揺られる間、乗り降りした客は記者を除いて計 8 人だった。 幹線道路を走るこのバスを降りた女性 (68) は、市中心部に買い物に行った帰りだった。 「もしバスがなくなったら、年寄りは出かける方法がなくなって本当に困ってしまう。」 地元住民の話などによると、都心部のバスは、コロナ禍で出かける人が減り、乗客が減ったため便数を減らし、不便で客が離れるという悪循環に陥っていた。

女性は「コロナで乗客が少なくなって、バスの運転手に給料も払えなくなったけど、もうコロナは過去の話だから、また乗客も戻ってくるんじゃないか」と言った。 景気の低迷などにより悪化してきた中国の地方財政に、追い打ちをかけたのがコロナ禍だった。 中央政府が打ち出した「ゼロコロナ」政策で大規模な PCR 検査や地域の封鎖などに巨費を投じたツケが、公共交通への補助金など、市民の生活に影響しているのではないか。 そう考える市民の声が聞かれた。

バスの運行をなくすことには、反対が多かった。 市中心部でバスを待っていた王麗君さん (71) は「バスがなくなったら不便に決まっている。 一つの都市にバスが走ってないなんてあり得ない。 コロナのころはバスがなかなか来なくて、30 分も 1 時間も待つことがあった。 そうなると、出かけなくなった。 いまはコロナ前のように戻っているから、またバスに乗るようになった。」と語った。 観光をしていた女性 (26) は「ふだんバスにはたまに乗る。 バスが走っていない都市なんて考えられない。 バスは基本的なインフラだと思う。 経営の状況はわからないけど、運行は続けるべきだ。」という。

「政府ががんばったのは、コロナ対策の封鎖だけ」

タクシー運転手 (42) の男性は「商丘にはお金がない。 産業らしい産業もないこの街で、政府がこの数年がんばったのは、コロナ対策の封鎖だけ。」と市当局の無策を責めた。 「もし本当にバスの運行を止めてしまったら、商丘にとって大恥だ。 バスは公共のインフラ。 いくら乗る人が少なくても、お金がなくても、歯を食いしばってバスの運行を続けるべきだ。」 飲食店で働く女性 (46) は「ふだんバスには乗らないけど、高齢者の生活のためにバスはなくしてはいけない。 コロナ対策でお金を使いすぎて、政府のお金がなくなってしまったんでしょう。」

会社員の男性 (50) も「3 年間のコロナ対策で政府にお金がなくなった」とみている。 「コロナで落ち込んだ景気が回復するのには、1 年はかかるだろう」と考えている。 複数のタクシー運転手は、タクシーのガソリン代への公的補助が年々減らされていると証言した。 ストライキを起こそうという動きがあるといい、うち 1 人は「ストライキがあれば参加するつもりだ」と話した。 ゼロコロナ関連の支出は全国で昨年 1 年間だけで約 3,500 億元(約 6.8 兆円)にのぼったとの試算もある。 地方財政のほころびが、路線バスの運行停止や社会保障の削減といった形で市民生活を直撃する例が、中国の各地で相次ぐ。 (商丘 = 金順姫、asahi = 3-9-23)


「PCR にいくら使った?」武漢の高齢者デモ、政府への信頼は失望に

中国の湖北省武漢市で 2 月、医療保険制度の改革に反対する高齢者らが、2 回にわたって大規模な抗議デモを起こした。 近年の中国では珍しい、大勢が街頭に繰り出す異議申し立ての動きだった。 なぜ怒っているのか。 武漢の街で高齢者たちに思いを尋ねた。 「私たち年寄りは、どうやって生きていったらいいのか。」 2 月 27 日、デモ現場近くの中山公園で知り合い 2 人と話をしていた 70 歳の男性はぶちまけた。 「政府はやりたい放題。 退職した人間はお金がない。 一人っ子政策のせいで、子どもは夫婦で 4 人の老人を養わなければいけない。 共産党に数十年も貢献してきた。 私たちの要求は大したことではないのに。」

2 月 8 日と 15 日のデモでは、毎月 200 - 二百数十元(1 元は約 20 円)ほど支給されていた医療補助が、約 80 元に引き下げられた退職者らが怒り、撤回を求める声を上げた。 中国では武漢だけでなく全国で、中央の方針の下で同様の改革が進む。 これまで病院での診療費や薬代の支払いの有無にかかわらず、医療保険から個人口座にお金が振り込まれてきたが、この額が減らされる。

武漢市医療保障局は 2 月 9 日、「高齢化で医療ニーズが増え続けている」として改革が必要だと説明し、長期的には患者や高齢者の利益になると訴えた。 だが、市民の反発は収まらず、翌週のデモにつながった。 当局はデモをすること自体は容認した。 SNS 上には一部が警官隊ともみ合う様子も投稿されたが、抗議活動をあからさまに押さえつけるのではなく、慎重に対応したといえる。

ゼロコロナ政策の後遺症

市民の不満の背景に横たわるのは、約 3 年間にわたったゼロコロナ政策の後遺症だ。 国営の新華社通信は 2 月 15 日、「お金がなくなったのが改革の原因だという見方は、誤解だ」という内容の記事を配信した。 だが、延々と繰り返された無料の PCR 検査や封鎖、隔離にお金をつぎこんで地方財政が悪化したことが、医療補助の減額につながったとの受け止めが広がっている。

中山公園を訪れていた元工場労働者の男性 (67) は「何年も無料で PCR 検査をしてお金がなくなったから、庶民のお金に手を出した」と語った。 妻は 66 歳。 もし自分が病気になって、一人息子に負担をかけたら、と思うと心配でたまらない。 「中央政府のことを信じていいのかどうかよくわからないが、地方政府が大衆の利益をどう考えているのか、信じられなくなった。」

会社勤めをして退職したという女性 (60) は「私たちは政治家ではないから、なぜお金が足りなくなったのかは知らない。 個人の利益のことにしか関心がない。 庶民のお金は、どんなことがあっても削るべきではない。」と言った。 長江沿いの公園でも退職者に話を聞いた。 64 歳の男性は「これまでは薬を買うのに十分で、残りのお金はためていたのに、いまは薬を買うのに足りない。 いまの政府はお金がなくなったら、庶民のお金にすぐ手を出す。」と憤る。

ベンチに座っていた男性 (68) は「希望がない。 今回の医療改革で政府はあからさまに他人のお金を取り上げて、薬も買えなくなった。」と話し、さらに続けた。「PCR 検査は無料だと言っていたのに、結局みんなのお金だったんじゃないか。 庶民はだまされていた。 PCR 検査も封鎖も、全部ムダだった。 この 3 年、コロナ対策で一体いくら浪費したのか。 そのお金で外国のコロナの薬を買えば良かったんだ。」 そして口をついて出たのは、政府への不信だった。 「以前は政府をとても信頼していた。 いまはみんな政府に失望している。 庶民の心が離れた。 政府をまったく信じられなくなった。」

路線バスの運行にも影響

ゼロコロナ政策を続けるために投じた膨大な出費は、政府の財政をむしばんでいる。 中国の証券会社によると、2022 年の国内総生産 (GDP) に対する地方政府の負債額は 29%。 コロナ前は 20% 前後を維持してきたが、この 3 年間で急上昇した。 21 年には、地方政府の歳入に対する負債の割合が初めて 100% を超えた。 冷え込んだ経済の刺激策として、インフラ建設などを進めたことも影響したとみられる。

「財政補助がないことなどから、3 月から運行を停止する。」 河南省商丘市の路線バスを運行している会社は 2 月下旬、こんな通知を発表した。 中国メディアによると、市政府からの運営の補助金が 22 年には前年の半額にまで下げられるなど、政府の財政難が影響していたという。 路線バスの運行停止は、他の地方都市でも相次いでいる。 昨年 7 月には四川省で市の学校や行政機関に食事を提供するサービスの 30 年分の運営権がオークションにかけられた。 同省では 21 年にも世界遺産「楽山大仏」の観光地内を走るカートや売店の 30 年分の運営権が売却されていた。 中国メディアからは「地方財政が危機を迎えているサインだ」と注目された。

少子高齢化と財政難

中国は昨年、61 年ぶりに人口が減ったことが明らかになった。 少子高齢化は今後も加速する見通しで、日本の経験に照らせば、医療費や社会保障費はさらに膨らむ。 経済刺激のための財政出動なども重なり、負担はますます増えるとみられる。 まさにそのタイミングで、財政難が鮮明となっている。 中国では 5 日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が始まる。 ゼロコロナ政策は終わったが、各地にその傷痕が広がる。

看板政策と掲げたゼロコロナで「欧米よりも優れた対応をした」と繰り返したことは、習近平(シーチンピン)指導部が 3 期目を手中にする後押しともなった。 ただ、社会に刻まれたその代償は、今後の政権運営に重くのしかかる。 (武漢 = 金順姫、北京 = 西山明宏、asahi = 3-2-23)