「日本風」で売る企業も 中国市場の勝者が世界制する?

上海で 10 日まで開かれていた中国国際輸入博覧会を取材した。 広大な展示会場を回っていると、日本語で「16 週間、香りが続く!」という女性の声が聞こえてきた。 ちょうど目の前には日本の生活用品大手のブース。 でも、声はそちらからではない。 振り向くと、その大手企業と同じくらいの大きさで、別の企業のブースがあった。 近寄ると、人々が大行列をなしていた。 製品のサンプル品をもらえるからのようだ。 展示されていた洗濯用洗剤のパッケージには、カタカナとアルファベットを組み合わせた「フレッシュ HY」や「Ka ポッド」の文字。 日系企業の新製品だろうか。 社名を探すと、「王子石鹸」と書いた看板を見つけた。

経済部で化学メーカーの担当をしていた経験はあるが、社名も製品名も聞き覚えがない。 スマートフォンで調べてみると、会社は大阪にあるらしい。 さらにホームページの会社概要をみると、実はこの会社、シンガポールや香港、広州などに拠点を置く大手化学メーカー「威莱」の系列だった。 「中華系の企業じゃないか。」 その後、自分も威莱の液体の手洗い石鹸を北京の自宅やオフィスで使っていることに気づいた。 王子石鹸のホームページには「日本人の生活様式や嗜好に応じて、日本で開発されたもの」とある。 王子石鹸の担当者に聞くと、中国などで人気の日本品質の商品をつくろうと 3 年前に進出。 中国などへの輸出だけでなく、日本でも市場参入を狙っているという。

輸入博は、外国の企業が中国のバイヤーに製品やサービスをアピールする場だ。 中華系企業が日本を語っているのをみて、なんだか複雑な気分になった。 中国での日本企業のブランド力は、いまだに強い。 トヨタ自動車や資生堂、パナソニックをはじめ、社名やブランドが幅広く浸透している企業は少なくない。 一方、そうした日本の有名企業と見間違うような、いわゆる「パクリ」商品は昔からあった。 だが、王子石鹸は正確にはパクリではない。 「日本風」であることを売りにしているのだ。

日本風を売りにした中国企業のビジネスでは、「本家」の日本企業を超える成功を実現したケースもある。 例えば、2013 年に広州で創業し、日本風雑貨店を営む名創優品産業だ。 いまや中国だけでなく世界 80 カ国以上に 4,200 店超を展開する。 四角の赤地に白で書かれたロゴはユニクロを連想させ、「メイソウ」、「MINISO」という名前や均一の低価格という設定は 100 円ショップのダイソーを彷彿とさせる。 白を基調とした小物雑貨は無印良品のようだ。 ハローキティーの商品もある。

「日本風」で驚異的な成長

そんな名創は 10 月、米国のニューヨーク証券取引所に上場した。 上場直後の時価総額は 70 億ドル(約 7,200 億円)。驚異的な成長スピードは、もはやどちらが「本家」かわからなくなる。 「どうせ日本企業のパクリだ。」 そう馬鹿にして、目をそらすのはたやすい。 だが、ビジネスは競争だ。 「オリジナルをつくった者は尊敬を集めるべきだ」と私は信じるが、ビジネスで勝つか負けるかは別の問題だ。 こっちが本当の日本式ですと叫んだところで、消費者にはそれほど大きな問題ではない。 4 年前に北京に留学した際、世界中から集まった留学生仲間から「ミニソウでこんなかわいいものを買った」、「日本はすごいね」といわれた。 「日本の企業ではないよ」と言っても、彼らはがっかりはしない。 高品質な日本風の製品をお得な値段で買った満足感があるからだ。

日本は、おもてなしの質が高い、品質やサービスは世界一信頼できる、客は最高水準の体験をしている - -。 「クールジャパン」をはじめ、そうした特色を持つ日本ブランドを強調することは多いが、ブランド力の強さにあぐらをかいてはいないだろうか。 液晶表示装置の技術力が高ければ売れるといって韓国勢に追いやられた薄型テレビ、カメラ付き携帯電話を初めてつくったのに、いまや世界トップに全く食い込めない日本製スマホの厳しい状況を思い起こしてしまう。

中国経済を長くウォッチしているアナリストが先日こんなことを言っていた。 「いまや中国市場での勝者が世界を制する時代になっている。 何でもありの厳しい競争にもまれ、そこで勝ち抜かなければ、世界から取り残されていく。」 日本企業はどうか。 「多くの日本企業は中国に進出こそするが、その競争からは逃げているようにみえる」という。 すでに国内総生産 (GDP) で日本を追い抜いた中国。 市場は速いスピードで変化し、激烈な競争を強いられる。 そこで企業が生き残るのは容易ではない。 勝つためには「日本風」や「日本製」、「日本で開発」なども強く訴求するということなのだろう。 グローバル展開する日本企業にとっては、そんな彼らとの競争が、当たり前の時代になっている。 (中国総局・西山明宏、asahi = 11-10-20)


中国不動産大手、千葉市に独自ブランドホテル 日本初

中国の不動産大手、緑地集団グループは千葉市に独自ブランドのホテルを 2021 年 1 月にも全面開業する。 中国を中心にホテル事業を展開してきたが、日本に初めて進出する。 他の事業者が撤退した施設を引き継ぐ。 新型コロナウイルスの収束後を見据え、日本でのブランド浸透を目指す。 同市中央区の複合施設「千葉ポートスクエア」のホテル棟に、独自ブランド「ザ・キューブホテル千葉」を開業する。 建物は地上 21 階で客室数は 270 室。 施設全体は市中央卸売市場跡に 1993 年開業したが、ホテルは運営事業者が相次ぎ交代。 13 年からは全国チェーンの「カンデオホテルズ千葉」が営業していたが、契約満了を理由に 5 月で閉館していた。

ホテルやオフィス、商業施設が入る千葉ポートスクエア自体、開業後の景気低迷などから経営が長く安定しなかった。 16 年に緑地集団とラオックスの共同出資会社が約 100 億円を投じ、施設全体の資産受益権を取得。 今回、ホテルも緑地集団グループの運営として一体感を強める。 ザ・キューブホテルは緑地集団グループのホテル運営会社が 12 年から上海で運営を始めた。 中国では四ツ星級の高級ホテルブランドとして展開している。 13 年にはドイツのフランクフルトに中国以外で初めて開業した。 現在の施設数は 15 カ所。カナダのトロントでもプレオープン中で、海外でも拠点を広げている。

新型コロナの感染状況によるが、キューブホテル千葉は今秋にも宿泊客を限定した部分営業を始め、需要が見込めそうであれば一般客の予約も受け付けたい考えだ。 東京五輪・パラリンピックの開催やインバウンド(訪日外国人)の回復もにらみつつ、21 年 1 月にも全面開業を目指す。 客室や共用部分などの改装を進め、ルームサービスの提供や上層階でのバーの開設などホテルの機能も段階的に充実していく。 当初の宿泊料金はカンデオホテルズを踏襲してビジネス客も利用できる水準を想定するが、改装やサービス向上の効果をみながら、徐々に引き上げていく。 ホテル棟で宴会場などを運営するティーケーピー (TKP) とも引き続き連携する。

ロジャー・ロウネンバーグ総支配人は「新型コロナの影響は大きいが、厳しい状況下での開業はエキサイティングな挑戦だ」と意欲を示す。 新型コロナの感染拡大によるインバウンドの急速な落ち込みや国内の外出自粛が打撃となり、全国でホテルの運営から手を引く動きが出ている。 緑地集団は中国からの送客力を生かし、新施設を通じて日本でのホテル事業の足場を築く。 (nikkei = 7-15-20)



中国・シャオミが日本参入 16 日に新型スマホ発売

中国スマートフォン大手の小米科技(シャオミ)が、今月 16 日に日本市場に参入すると発表した。 中国主要メーカーでは昨年参入した OPPO (オッポ)以来。来春にサービスが始まる次世代の高速移動通信方式「5G」を見据え、中国勢の参入が相次ぐ。

シャオミは世界 4 位のスマホメーカー。 日本で発売するのは 1 億画素のカメラを搭載した新型スマホ。税込み 5 万円台からという低価格が売りだ。 2020 年参入予定だったが、前倒しした。 同社幹部は 9 日、都内で開いた記者会見で参入理由について「来年から 5G への切り替えが始まる」ことを挙げた。 日本では中国メーカーが存在感を高めつつある。 MM 総研によると、SIM フリースマホの出荷台数で、昨年度は華為技術(ファーウェイ)がシェア 33% で首位。 世界 5 位のオッポは 3.7% にとどまるが、急速にシェアを伸ばしている。 関係者によると、日本の携帯電話各社は来春に向けて、価格競争力に優れる中国製の 5G スマホの調達を積極的に検討している。

10 月には携帯料金のルールが変わり、値引き上限が 2 万円に規制された。 高価格なスマホを大幅に値引きして買い替えを促すかつての手法は使えず、定価で値頃感のある機種の需要が高まっている。 シャオミはあらゆるものがインターネットにつながる「IoT」商品にも力を入れており、この日はスマホで遠隔操作できる炊飯器を日本で発売すると発表。 日本製が世界的に強い分野にあえて挑戦する。

同社が中国などで展開する実店舗「小米之家」では、スマートテレビや冷蔵庫などの家電のほか、AI スピーカーなどをそろえる。 スマート家電の「無印良品」をめざし、シンプルなデザインで統一している。 担当者は「製品の外観の一致性を大事にしている。 同じ色にしていればセットとして買いたくなる。」と話す。 (井上亮、栗林史子、asahi = 12-9-19)

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中国スマホ「オッポ」、日本に上陸 高性能でも 3 万円台

日本であまり知られていないスマートフォンの中国トップメーカーの一角、「OPPO (オッポ)」が日本市場の開拓に力を入れている。 高額な iPhone (アイフォーン)が非常に高いシェアを占め、世界でも特殊と言われる日本市場に適応しようと、独自モデルの開発や知名度アップに取り組む。 市場規模では中国より小さい日本に注力するのは、将来を見据えた理由があるという。

一から日本向け製品を開発

今月上旬、東京都内であったオッポの商品発表会には 100 人超の報道陣が集まった。 目玉は昨年 2 月に日本市場に参入してから初めて投入する、日本向けの独自モデル「Reno A (リノ A)」だ。 海外のスマホメーカーが、海外向け機種を日本向けに手直しして販売する手法は珍しくはない。 だがオッポの新機種は、一から日本向けにつくられた。 防水や「おサイフケータイ」といった日本市場向けには必須ともいえる機能に加え、心臓部の CPU の処理能力は速く、画面内の指紋認証にも対応する。

それでいて価格は税抜き 3 万 5,800 円。 iPhone の最新機種は 10 万円超、韓国のサムスン電子や中国の華為技術(ファーウェイ)でも 5 万円超の機種が珍しくないなか、比較的高性能なスマホとしては割安だ。 会場の専門記者からは「破格のコストパフォーマンスだ」と驚きの声があがった。 イメージキャラクターに起用したタレント・指原莉乃さんと登壇したオッポ日本法人の鄧宇辰社長は「今まで日本のスマホが高すぎただけ」と話す。 「Reno A」は市場攻略のための戦略商品といえる。 機種の性能や価格とともに日本市場への本気度をうかがわせたのが、新モデルの発表に合わせてお披露目したテレビ CM だ。 指原さんが登場する、同社として日本向けに初の CM を流す。

厳しい日本市場で鍛える

オッポは中国・広東省に本社を置く。 設立は 2004 年で 08 年に携帯電話事業に参入した。 日本での知名度は高くないが、40 カ国以上に進出。中国や東南アジアではシェア上位で、世界でも5位。世界のスマホ市場で代表的なメーカーのひとつに数えられる。そのオッポがなぜ今、日本に本腰を入れるのか。 日本法人の河野謙三取締役は「世界で一番と言っていいほど要求が厳しい日本でブランドを確立できれば、今後開拓をめざす米国や欧州でも勝負できるようになる」と説明する。 インドネシアの現地法人などでもトップを経験した鄧社長は、「日本の通信会社は品質などに対する要求が高い。 ユーザーも美的感覚が特殊だ。」と評する。

参入から1年半超。低 - 高価格帯まで商品ラインナップを広げ、日本市場を研究してきた。 調査会社 BCN によると、最近は月間販売台数のシェアが 1 割を超え、アンドロイドを OS (基本ソフト)に使うスマホの中では、ファーウェイ、台湾 ASUS、シャープの 3 強に食い込む存在になっている。 とはいえ、SIM フリーという主に格安スマホ向けの販売が中心だ。 日本で約 9 割が使う NTT ドコモ、au (KDDI)、ソフトバンクの通信大手 3 社では採用されていない。 今はレンタルサービスで使い勝手を試してもらい浸透を狙う。 今後は、直売店や修理などに対応するアフターサービス拠点の充実も検討するという。

変わる「iPhone 天国」

日本の携帯電話市場では長く「iPhone 天国」が続いてきた。 携帯電話大手が通信契約と端末販売をセットにした営業に力を入れ、高額の iPhone を格安で販売。 代わりに料金が高めの通信契約をしてもらう手法が続いてきたからだ。 日本のスマホ市場では、iPhone のシェアが 5 割超と、世界的にも高水準だ。 そんな市場環境も今後は変わりそうだ。 総務省は通信料引き下げを狙い、通信契約と端末のセット販売を規制。 10 月からの新たな販売ルールでは、端末の過度な値引きはできなくなった。 通信契約と端末販売の「分離」が進むとみられ、メーカーの販促費のおかげで割安だった iPhone には逆風が吹き、もともと割安な中国勢にはチャンスとなる可能性がある。

ただ、中国勢ではオッポの先輩格にあたるファーウェイには、米中貿易摩擦の影響で別の面から強い逆風が吹いている。 ファーウェイは 11 年に初めて日本市場にスマホを投入してから順調にシェアを伸ばし、18 年度の SIM フリーのスマホ出荷台数シェアでは国内 1 位を誇る。 ただ、米国による輸出規制を受け、今年は携帯大手 3 社が一時発売や予約を停止する混乱もあった。 ドコモは来春始める次世代の高速通信方式「5G」では、ファーウェイ製の 5G 対応スマホを採用しない方針だ。

薄い日本勢の存在感

それでも、「iPhone 天国」だった国内市場が大きな転換点を迎えていることには変わりがない。 本来は中国勢だけでなく、ソニーやシャープなど日本勢にもチャンスのはずだが、すでに日本のスマホは世界の市場でほとんど存在感をなくしている。 日本市場でこそ何とか踏ん張っているが、MM 総研の横田英明研究部長は「日本勢は長期的には厳しい戦いを迫られる」と見る。

中国勢など世界で展開しているメーカーは生産台数が多く、1 台あたりの単価を安くつくれるメリットが働く。 「ハイエンドは iPhone が独走しているので日系は中 - 低価格を取らなければいけないが、価格競争力で中国勢に対し厳しい。(横田氏)」 「5G の時代には技術面でも太刀打ちできなくなる可能性もある」という。 オッポの日本での攻勢は、日本の電機大手の存在感が薄まっていることの裏返しともいえる。 (井上亮、asahi = 10-23-19)


中国蓄電池、BYD が日本参入 CATL は半値で

中国のエネルギー関連企業が再生可能エネルギーの普及のカギを握る据え置き型蓄電池で相次ぎ日本に参入する。 電池大手の比亜迪 (BYD) は 2021 年から工場などに設置する蓄電池を販売する。

寧徳時代新能源科技 (CATL) も低価格品を売り出す。 国家戦略で環境技術開発を推進する中国の攻勢が一段と強まりそうだ。 中国企業は太陽光パネルで 7 割の世界シェアを占め、日本国内でも 5 割を超える。 日本では国の再生エネ買い取り価格が下がっており、太陽光発電で余った電力を蓄える需要が増えると判断した。 日本勢との競争の激化で普及が進みそうだ。

BYD は自社製の電気自動車 (EV) 向けに開発するリチウムイオン電池を応用した据え置き型蓄電池を新たに日本で販売する。 20 年から商談を本格化し、21 年ごろから工場・ビルや発電施設に納入する。 価格は競合他社と同水準にする。 EV バスで使い劣化した蓄電池を据え置き型に再利用する仕組みも検討する。

車載用で世界首位の CATL は太陽光関連企業と組み、住宅・産業向けの蓄電池を 20 年に日本で発売する。 価格を他社製品の半分に抑える。 中国勢では太陽光パネル世界 3 位のトリナ・ソーラーや 10 位のサンテックパワーも据え置き型で日本市場に本格参入する。

EV 用や据え置き型蓄電池では現在、リチウムイオン電池の活用が主流だ。 リチウムイオン電池は 1991 年にソニーが世界で初めて実用化し日本勢のシェアが高かった。 近年は中国勢が技術力を高め、17 年に CATL が車載用で首位となり、3 位に BYD が続く。 中国では 6 月に補助金が減額され、EV 販売が落ち込んでいる。 EV 用を据え置き型に回して収益を確保する。 米国の対中制裁関税でリチウムイオン電池が対象になり、米国向けの一部を日本に振り向ける狙いもある。

中国政府は 15 年からハイテク産業の育成策「中国製造 2025」を掲げ、EV や再生エネを重点分野に位置づける。 大気汚染対策も目的として、太陽光や風力発電の普及を後押しする。 関連企業は政府の手厚い補助金を生かし、低コストを武器に中国国外でも攻勢をかける。 (nikkei = 9-2-19)

据え置き型蓄電池 価格が普及の課題に

  • 工場やオフィス、住宅や発電施設などに設置する蓄電池。 従来は鉛電池が多く使われていたが、最近では量産効果で価格が下がったリチウムイオン電池が増えている。 大規模施設ではレドックスフロー電池やナトリウム硫黄 (NAS) 電池なども使われる。

  • かつては通信施設やデータセンターなど稼働を止められない施設が、停電時の非常用電源として導入するケースが多かった。 今後は気象条件で発電量が変動する太陽光や風力を使いこなす用途が増える見込み。 例えば昼に余った電気を蓄電池にため、夜間に使えば、電力会社から購入する電力量を減らせる。 風力発電施設に設置し、発電量の変動を抑える用途も増えるとみられる。

  • 普及の課題は価格だ。 国内では家庭用は 150 万円前後かかるため、蓄電池の導入コストを電気代の削減分で回収するのは難しい。 一方で、電気代の高いオーストラリアなどでは蓄電池を導入した方が安くなる地域も出始めている。 価格が一段と下がれば、日本でも蓄電池を導入する企業や家庭は増えそうだ。



中国空調大手 AUX、神戸に研究拠点 省エネ技術向上

中国の空調機器メーカー、奥克斯集団 (AUX) は神戸市に研究拠点を開設する。 エアコンの省エネルギーや低騒音につながる技術を研究する。 同社は家庭用エアコンで世界 5 位のシェアを持つ。 中国外の研究拠点は初めて。 パナソニックなど空調機器メーカーが多く立地する関西で優秀な技術者を採用し、高性能な商品を開発する。

8 月半ばに開く神戸市の研究拠点では、室外機のコンプレッサー(圧縮機)や騒音の原因になりがちなファンなどを研究対象とする。 コンプレッサーは冷媒の温度を制御したり、循環させたりする役割を担う。 エアコンの部品のなかで電力を多く消費するため、効率よく動かせば省エネ性能を改善できる。 研究拠点には電子基板の耐久テストなどをする小型の実験室を備える。 開設当初は技術者を 5 - 6 人程度配置し、3 年後に 30 人前後まで増やす計画。 空調関連技術について、関西の大学などとの共同研究にも取り組みたいという。

AUX が神戸市に研究拠点を開設するのは、技術者を確保しやすいとみているからだ。 関西にはパナソニックやダイキン工業といった空調機器の有力企業が立地する。 日本企業よりも有利な待遇を用意し、転職希望者らを受け入れる。 前所属企業と交わした秘密保持契約に反しない範囲で研究業務に従事してもらう。 また、AUX は浙江省寧波市に本社を置いている。 同市の空港と関西国際空港には直行便が就航し、片道 3 時間ほどで行き来できる近さも魅力としている。

1986 年設立の同社はエアコンを中心とする白物家電を生産・販売している。 中国では海爾集団(ハイアール)や美的集団(マイディア)などに次ぐ位置につける。 17 年の売上高は 649 億元(約 1 兆 1,000 億円)だった。 AUX の家庭用エアコンはインターネット通販で比較的安価に買えることから、中国や東南アジアなどの消費者の支持を集めている。 世界の家庭用エアコン市場は珠海格力電器、マイディア、ハイアールの中国企業がトップ 3 を占める。 AUX は 4 位のパナソニックを追い上げている。

AUX は中国に研究拠点を設けているものの、省エネや騒音などの環境技術の研究はやや出遅れていた。 同技術に詳しい日本人技術者らを採用することで、環境性能の高いエアコンを開発する。 主力の家庭用に加え、これまで手薄だった業務用のシェア拡大も狙う。 (nikkei = 8-6-18)


世界最大の中国・車載電池メーカー日本進出で、パナソニックとガチンコ

創業からわずか 7 年で上場した CATL、日本で強まる存在感

車載電池で世界トップの中国・寧徳時代新能源科技 (CATL) は日本法人を設置し、国内自動車メーカーとの取引拡大を狙っている。 日系企業と取引が深いパナソニックは警戒感を強める。 中国 CATL が横浜市内に日本法人を開所して 1 カ月。 高層ビルにある新しいオフィスで日本法人の多田直純社長は、「中国からくるエンジニアたちが気持ちよく働けるように景色のいい場所にした」と笑顔をみせる。

CATL は創業からわずか 7 年で上場したベンチャーだ。 TDK の電池子会社、中国 ATL から独立して誕生した後、中国の地場メーカーや独 BMW 向けにリチウムイオン電池の供給を開始。 中国政府の強力なバックアップを受けながら急成長を遂げ、17 年には出荷量で世界トップに躍り出た。 CATL は電池需要の拡大に合わせ新工場を本格稼働させ、20 年には年間生産能力を現状の 2 倍の 50 ギガワット時(ギガは 10 億)まで引き上げる。 さらに同社初の海外工場を欧州に新設する計画があるほか、「米国への工場新設も視野に入れる。(多田社長)」 世界で電池を安定供給できる体制づくり着々と進める。

日系自動車メーカーにとっても CATL の存在感が強まっている。 5 月の日本法人開所式にはトヨタ、日産、ホンダなど各社の幹部がそろって出席。 テクノ・システム・リサーチ(東京都千代田区)の藤田光貴アシスタントディレクターは、「中国の新エネルギー車 (NEV) 規制に合わせて電動車を投入するには、中国政府の支援を受ける CATL 製を使った方がリスクが少ない。 性能、品質も合格点には達している。」と分析する。 CATL はこれから欧州や日系メーカーとの取引を広げて、中国市場で走る車だけでなく、世界中で販売される戦略車への電池の採用を狙う。 最終的には世界ブランドへの成長を目指す。

パナソニックや LG 化学、これまで電池業界をけん引してきたメーカーにとっても無視できないほど巨大化し続ける CATL。 ただパナソニックで車載事業を担当する伊藤好生副社長執行役員は、「(当社は)量よりも質を重視する。 当社の電池の価値を理解してくれる "トップランナー顧客" である米テスラやトヨタなどとしっかりやっていく」と冷静。 エネルギー密度や安全性の高さといった技術で差別化し戦っていく姿勢を鮮明にする。

トヨタ自動車は 17 年 12 月にパナソニックと EV 用車載電池での協業の検討を始めた。 同社とはすでに HV 用電池で提携するが、EV 用は物量確保が難しいため、別の枠組みを用意。 開発段階から連携し、電池の性能・品質にトヨタが関与する形を残すと同時に、生産面では他の日本メーカーを呼び込んで規模を拡大し、コスト低減を狙う。

果たして CATL は世界が認める電池メーカーへと上り詰めていくことができるのか。 多田社長は将来像に近づくための課題として、「品質を磨き続けていくこと」と指摘する。 特に環境技術で実績を残してきた日系メーカーと取引する重要性をあげ、「品質に厳しいお客さまからの指摘を真摯に受け止め、学んでいくことが一段の成長につながる」と強調する。 (後藤 信之、Newswitch = 6-25-18)