中国「三峡ダム」危機 最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する
譚●(王へんに路)美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)
<四川省で起きた大規模な山崩れは、本当に大雨だけが原因なのか。 世界最大の三峡ダムが一帯で大地震を頻発させているという指摘があり、さらには砂礫により、ダムそのものも機能不全に陥っている。>
6 月 24 日、中国・四川省で大規模な山崩れが発生した。 中国メディアによれば、住宅 62 戸が土砂に埋まり、120 人以上が生き埋めになったという。 山崩れの現場は、四川大地震と同じ場所であり、ここ数日、大雨が降りつづいて地盤が緩んでいたことが原因だとされる。 だが原因はそれほど単純なものではないだろう。 2008 年 5 月に発生した四川大地震はマグニチュード 7.9 を記録し、甚大な被害をもたらした。 震源地近くでは地表に 7 メートルの段差が現れ、破壊力は阪神・淡路大震災の約 30 倍であった。
専門家は、四川盆地の北西の端にかかる約 300 キロにわたる龍門山断層帯の一部がずれたために起きたと分析し、これによって地質変動が起こり、龍門山脈断層帯は新たな活動期に入ったと指摘している。 今後、さらに大規模な地震が発生する可能性が高いのである。 四川盆地はもともと標高 5,000 メートル級の山々がつらなるチベット高原から急勾配で下った場所に位置する標高 500 メートル程度の盆地で、ユーラシア・プレートと揚子江プレートの境界線の上にあり、大小さまざまな断層帯が複雑に入り組む地震の多発地帯である。
それに加えて、最近の中国の研究では、地震発生の原因のひとつは「三峡ダム」の巨大な水圧ではないかとの指摘がある。 ダムの貯水池にためた水の重圧と、地面から地下に沁みこんだ水が断層に達することで、断層がずれやすくなったという分析である。
建設中から数々の難題、天気や地震にまで悪影響
三峡ダムは、中国政府が「百年の大計」として鳴り物入りで建設した世界最大のダムである。 16 年の歳月を費やして、四川省重慶市から湖北省宜昌市の間にいたる長江の中流域の中でも、とくに水流が激しい「三峡」と呼ばれる場所に建設された。 竣工は 2009 年だ。 ダムは 70 万キロワットの発電機 32 台を擁し、総発電量 2,250 万キロワットを誇り、当初の計画では、湖北、河南、湖南、上海、広東など主要な大都市に電力が供給され、全中国の年間消費エネルギーの 1 割を供給でき、慢性的な電力不足の解消に役立つはずだった。
だが、建設中から数々の難題が生じた。 まず「汚職の温床」と化した。 総工費 2,000 億元のうち 34 億元が汚職や賄賂に消えた。 国民の多大な犠牲も強いた。 はじめに地域住民約 110 万人が立ち退きを迫られ、強制的に荒地へ移住させられて貧困化し、10 万人が流民になった。 李白、杜甫、白楽天などの詩に歌われた 1000 カ所以上もの文化財と美しい景観が水没し、魚類の生態系が破壊され、希少動物の河イルカ(ヨウコウイルカ)が絶滅したことは、中国内外で議論の的になった。
そればかりではない。 四川大地震が発生した同じ 2008 年、竣工を目前に控えた三峡ダムで試験的に貯水が開始されると、下流域でがけ崩れと地滑りが頻発した。 この年の 9 月までに発生したがけ崩れと地滑りは、合計 32 カ所、総距離 33 キロに達し、崩れた土砂の量は約 2 億立方メートルにのぼった。 その後の調査で、地盤の変形などが合計 5,286 カ所見つかり、大きなひずみが生じていることが判明した。 ダムの構造物や防水壁には約 1 万カ所の亀裂が見つかり、補修に奔走した。
そして 2009 年、三峡ダムが完成すると、今度は気候不順が起きた。 貯水池にためた膨大な量の水が蒸発して大気中にとどまり、濃霧、長雨、豪雨などが発生するようになったのだ。 気候不順は年々激しくなり、2013 年までに、南雪災害、西南干ばつなどの災害が相次いだ。 2016 年にも豪雨による洪水が発生。 エルニーニョ現象が原因だとされたが、死者、行方不明者は 128 人にのぼり、中下流域で 130 万人が避難を余儀なくされた。
大地震が次々に起きた。 2008 年の四川大地震以外にも、●(さんずいに文)川大地震、青海省大地震など、毎年のように大小の地震が発生した。 2014 年には、三峡ダムから約 30 キロ上流にある湖北省でマグニチュード 4.7 の地震が連続して 2 度起きている。 総じてみれば、人工物である三峡ダムが天気や地震にまで影響を及ぼすとは、まるで信じられないような話ではある。
水が流れず、貯水できず、解決策も見いだせない
だが、三峡ダムにとって、さらに深刻な事態がもちあがっている。 長江上流から流れて来る砂礫で、ダムがほぼ機能不全に陥り、危機的状況にあることだ。 怒涛のように押し寄せる大量の砂礫で貯水池が埋まり、アオコが発生してヘドロ状態になっている。 ヘドロは雑草や発泡スチロールなどのゴミと一体になり、ダムの水門を詰まらせた。 ゴミの堆積物は 5 万平方メートル、高さ 60 センチに達し、水面にたまったゴミの上を歩ける場所があるほどだという。 地元では環境団体などが毎日 3,000 トンのゴミを掻き出しているが、お手上げ状態だとされる。
重慶市でも、押し寄せる砂礫で長江の水深が浅くなった。 水底から取り除いた砂礫は 50 メートルも積みあがった。重慶大橋付近の川幅はもともと 420 メートルあったが、橋脚が砂礫に埋もれて砂州となり、今では川幅が約半分の 240 メートルに狭まっている。 大型船舶の航行にも著しい支障をきたしている。 水が流れず、貯水できないダムなど何の役にも立たないが、三峡ダムが周囲に及ぼす悪影響は、この先、増えることはあっても減ることはないだろう。 中国政府も技術者も根本的な解決策を見いだせず、すでに匙を投げてしまっているからだ。 だれも責任を取ろうとする者がいないまま、今も三峡ダムは放置されている。
著名な水利学者の遺言「ダムは 10 年もたない」
もし三峡ダムが地震の原因のひとつであるなら、今後さらに四川大地震のような大規模な地震が起きる可能性があるだろう。 そして大地震が発生したとき、原因を作った「瀕死」の三峡ダムは、果たして持ち堪えられるだろうか? 万一、ダムが決壊するようなことがあれば、長江流域の広大な土地が洪水に見舞われ、穀倉地帯は壊滅して、数千万人の犠牲者が出るだろう。 長江の河口部にある上海では都市機能が完全に麻痺し、市民の飲み水すら枯渇してしまう。 そんな事態は想像するだけでも恐ろしい。
三峡ダムが建設された当初、中国政府は「千年はもつ」と豪語したが、数々の難題が発覚して、わずか数年で「百年もつ」とトーンダウンした。 今日、巷では「10 年もつのか」と危ぶむ声がある。 「10 年」と区切るのは、かつて三峡ダムの建設に反対した著名な水利学者、清華大学の故・黄万里教授の言葉に由来している。
戦前、アメリカのイリノイ大学で博士号を取得した黄教授は、建国間もない中国で黄河ダム建設の計画が進められたときに強く反対し、毛沢東から「右派」の烙印を押されて 22 年間の強制労働に追われた。 1980 年代に名誉回復した後、長江の三峡ダム建設が国家の議題にのぼると、中国政府に 6 度も上申書を提出して反対したが、ケ小平と李鵬首相(当時)に無視された。 黄教授が反対した理由は、21 世紀の今日、私たちが直面している危機的状況を言い当てたからにほかならない。
そして「もしダムを強硬に建設したら、10年もたないだろう」と警告した。 2001 年 8 月、黄教授は病床で家族に向かって三峡ダムを見守りつづけるようにと告げ、「どうにも立ち行かなくなったら、破壊するより方法はない」と遺言を残した。 享年 90。 中国の「水利事業の良心」と称えられる伝説的な人物である。 もし「10 年もたない」とすれば、期限は 2019 年だ。 あと 2 年で三峡ダムは決壊するかもしれないのだ。 タイムリミットは刻一刻と近づきつつある。 唯一の解決策は、黄教授の遺言通り、人間の手で破壊することだけなのだろうか。 (Newsweek = 7-3-17)
[執筆者] 譚●(王へんに路)美(タン・ロミ) : 作家、慶應義塾大学文学部訪問教授。 東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。 日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。 著書に『中国共産党を作った 13 人』、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(ともに新潮社)、『中国共産党 葬られた歴史(文春新書)』、『江青に妬まれた女 - ファーストレディ王光美の人生(NHK 出版)』、『ザッツ・ア・グッド・クエッション! - 日米中、笑う経済最前線(日本経済新聞社)』、その他多数。 新著は『帝都東京を中国革命で歩く(白水社)』。
女子高生の死亡事件まで! 中国の電信詐欺は撲滅できるか
現在、電話や携帯メールなどを駆使した電信詐欺は中国の社会問題の一つとなっている。 詐欺自体はどこの国でもあることだが、中国の詐欺は多様化しており、手口も巧妙になっている。 今年 8 月には電信詐欺の恐ろしさを物語る事件が起こった。
電信詐欺の「魔の手」が 若い命を奪う
8 月 19 日、山東省臨沂区羅庄市の高校生、徐玉玉さんのもとに「奨学金 2,600 元が支給される」旨の電話が入った。 徐さんは電話の指示通り ATM にカードを 3 回差し込んだが、奨学金を手にできなかったため、電話の主に連絡すると、「ほかにカードはないか」と言われ、「学費支払い用のカードならある」と返答しところ、電話の主は「学費支払い用のカードはまだ使えない。 使えるようにする必要があるので、口座に入っている学費を指定の口座に移し替えてほしい。 そうすれば、30 分後に奨学金を学費と共に学費支払い用の口座に戻す」との指示があった。
徐さんは何も疑うことなく指示通り学費 9,900 元を引き出して指定の口座に振り込んだ。 ところが、30 分待っても奨学金の入金はなかった。 そして、彼女は学費を騙し取られたことに気づいた。 貧しい家庭に育った徐さんにとって、1 万元近くの大金が一瞬にして騙し取られたことは大きなショックだった。 地元公安局の派出所へ被害を届け出た帰り道、徐さんの心臓は急に止まり、2 日後に帰らぬ人となった。
もしこの事件がなければ、徐さんは 9 月 1 日に南京郵電大学に入学予定だった。 この事件は中国メディアで報道され、多くの人々の注目を集めた。 筆者の周りの中国人たちからは「何をするにも命が大事だ。 時間がかかっても稼げただろうに。」 「金を騙し取られたことは確かに大変なことだけど、今後の人生にはもっと大きな困難が待ち構えているかもしれない。 気持ちが弱い。」と、お金を騙し取られた徐さんの問題を指摘する声が聞かれた。
しかし、メディアの報道は、むしろ社会にも問題があるという態度である。 8 月 25 日付『新京報』の評論は、女学生を「社会経験が浅い」などと責め立てるのは酷な話であるとして、この事件を学生個人の問題に矮小化することを批判し、次のように述べている。 「公共安全が保障された社会とは、人々に『護身術』を学ばせて危機感をなくすようにする社会ではない。 良好な管理が行われ、秩序が健全な公共空間は、人々に詐欺防止を呼びかける必要はなく、『いい人が騙される』という傾向がまかり通ることのない場所であるべきである。」
この事件は、「徐さんの防犯意識の不足が招いた悲劇」ともいえる。 だが、単純にそう結論付けることはできない。 なぜか。 それは犯人が正確な個人情報を握った上で絶妙なタイミングを見計らって詐欺電話をかけてきているからだ。
8 月 17 日、徐さんは臨沂区の教育局で奨学金申請の手続きを済ませ、その後教育局から数日後に奨学金支給を告げる電話があった。 そして、19 日午後 4 時頃、徐さんの母親の携帯電話にも直接、詐欺電話があった。 犯人の電話の内容と事実には食い違いがみられなかったため、徐さんも何の疑いを持たなかった。 さらに、彼女の同級生とその親にも奨学金を振り込む旨の詐欺電話があったため、学校や関連機関が厳重に管理すべき個人情報が何らかのルートで漏れていたことはほぼ間違いない。
電信詐欺が起きても中国の警察はほとんど取り合わないので、正確な被害者数は定かではない。 だが、今回の事件は、全国の人々の注目を集めたため、警察はすぐに動き、容疑者 6 名が逮捕された。 しかし、ネット民の反応は「捕まったのは詐欺グループの末端の雑魚だろう」と手厳しい。 確かに、非常に正確な個人情報を元にした詐欺だっただけに、情報収集と実際の詐欺行為は別のグループによるもので、犯罪自体は何段階かに役割が分かれていると考えられ、少数の犯行ではないことは誰の目から見ても明らかである。
後を絶たない電信詐欺は 改革開放の「負の遺産?」
現在の中国では、電信詐欺は珍しい話題ではない。 公安部の統計によると、2011 年、2012 年、2013 年に全国で起こった電話・電子メール・携帯メールなどを利用した詐欺事件はそれぞれ 10 万件、17 万件、30 万件だったが、2014 年は 40 万件、2015 年は 59 万件に急増し、被害金額は 222 億元に達した。 そのうち、100 億元余りは台湾からのものである。 電信詐欺は「まず台湾で盛んになり、その後、東南アジアや東アジア、大陸部に蔓延した」というのが大方の見方になっている。
なぜ電信詐欺が起こり、それが拡大するのだろうか? 理由は三つあると思う。 一つ目の理由は、拝金主義によるモラルの欠如である。 改革開放以来、中国は市場経済を取り入れた経済建設を行い、人々の生活水準を向上させたが、その一方で拝金主義が横行し、「金のためなら手段を選ばない」、「自分さえ儲かればそれでいい」という風潮が現れた。 そのため、専ら個人の利益を追求し、他者のことを考えないという「秩序を欠いた競争」が見られるようになった。
二つ目の理由は、改革開放の「負の遺産」ともいえる経済格差により、詐欺グループが生まれ、勢力が拡大したことである。 周知のように、一部の地域から豊かになることを容認した改革開放路線は、格差拡大を招いた。 北京や上海などの大都市に比べ、内陸部は所得、民度ともに低い。 また貧しい地域では教育を受ける機会に恵まれない人たちもおり、そういう人たちは高い所得を得られる仕事に就けない。 そのため、一部の者はこうした犯罪に手を染める。 今回の徐さんの事件の犯人も貧しい地方の出身だった。 その傾向は詐欺の「職業化」を助長することになる。
三つ目の理由は、個人情報の漏洩である。 中国に長く滞在している人は「中国にはプライバシーはない」と冗談でいうが、それは一定の説得力がある。 先進国では、個人情報の漏洩は信用問題にかかわるため、厳重に管理し、それに関する法律も整備されている。 中国は、だいぶ改善されてきたものの、個人情報がどこからか漏れており、連絡先を教えたはずのないところから電話がかかってくることもある。
例えば、住宅を購入後、リフォーム会社から電話がかかってきたり、子どもが生まれた後には、粉ミルクや記念写真撮影の営業電話がある。 それは、各部門が個人情報を他に転送する各段階でどこからか漏れていると考えられる。
9 月 6 日付の『財新ネット』の報道によると、列車の切符や航空券購入時の個人情報、携帯電話を換えた際の情報、同アプリの中の個人情報、公共 Wi-Fi、ソーシャルメディア、インターネット調査の個人情報が漏れている可能性があり、そしてそれを業者が広告業者に売り、一部が詐欺グループの手に渡るという。 この個人情報の漏洩は、電信詐欺の温床となり、先に述べた事件のような悲劇を生むこともあるので、対策は急務である。
以上の理由から拡大している電信詐欺。 現在の中国は「インターネット+」を掲げて国策としてインターネットの発展を推進しており、その一方で詐欺グループは IT 技術を駆使して個人情報を盗み出そうともしているため、「高度化」する彼らの技術とそれを防ぐ技術の戦いとなっている。
多様化する詐欺の撲滅に 中国共産党動く
現在の中国の詐欺は「職業化」し、多様化している。 日本でよく見かける「オレオレ詐欺」や「あなたは○○に当選しました」ということを電話やメールで告げる当選詐欺は中国でも多いし、性的に不能な夫を持つ富裕層の「奥さん」を騙り、「私を妊娠させれば高額の報酬を払います」という広告を出して、手続費などの名目で金を騙し取る「重金求子」詐欺、また航空会社職員を騙って「搭乗予定の便がキャンセルになったので、払い戻しや変更を行う」といい、手続費の名目で金を振り込ませる詐欺もある。
人々の欲望や不安に付け込む詐欺の手口というのは万国共通である。 とくに、当選詐欺や「重金求子」詐欺は高額の収入を楽して得たいという人間の心理をうまく突いている。 冒頭の事件も、奨学金を得て両親の負担を減らしたいという女子高生の思いをうまく利用したものだった。 こうした状況を受けて、中国共産党中央と中国政府も電信詐欺撲滅に動いた。 習近平総書記、李克強国務院総理ら党と政府の指導者は、電信詐欺の撲滅を関係部門に指示した。
電信詐欺対策は治安維持を担当する公安部門のみではなしえず、多くの部門間の協力が不可欠である。 そのため、2015 年 6 月に、公安部、工信部(工業・情報化部)、中国人民銀行、銀監会(中国銀行業監督管理委員会)など 23 の部門や機関から構成される連席会議制度が国務院の承認を得て設けられ、関係各部門の連携によって中国社会にはびこる電信詐欺の撲滅を目指した。 これにより、多くの部門が秩序立てて電信詐欺退治に関わり、迅速に行動を起せるような態勢が整った。
こうした協力体制の下、中国は電信詐欺撲滅を目指して次の対策を講じている。 まずは個人の防犯意識の向上を呼びかけることである。 これについては、テレビ、新聞などの主流メディアやその他メディアでも詐欺に対する注意を喚起している。 また、南京郵電大学の楊震学長は今年の両会(全国人民代表大会、政治協商会議)で、「楽して利益が得られることなどない」と個々人の防犯意識の向上を呼びかけている。 今後は徐事件の教訓を生かし、詐欺のターゲットになりやすい学生に向けても関連の教育を行う必要があろう。
次に、公安部門が他の部門と協力して犯人の割り出しを行ったり、詐欺行為の取り締まりを強化したりする詐欺撲滅行動である。 それは、2015 年 11 月 1 日から半年にわたって行われ、その後 2016 年末まで延長された。 ケニアとマレーシアなどを拠点に中国人を狙った電信詐欺を行っていた台湾の詐欺グループを中国に送還させるなど、一応の成果は挙げたが、詐欺を撲滅するには至っていない。
これについては政府も認めており、2016 年 2 月 25 日、電信・インターネット新型違法犯罪撲滅工作部の第二回連席会議が開かれ、会議を招集した郭声〓・公安部長(〓の文字は王へんに昆)は「現在ものすごい勢いで増えている電信・インターネット違法犯罪を根本的に封じ込めることができていないため、人々の不満の大きい重要問題となっている」と述べて、詐欺問題対策が楽観を許さないことを示唆している。
関連業界への監督管理を強め 政策措置を徹底せよ
2010 年から一貫して電信詐欺に注目している全国人民代表大会代表の陳偉才氏は、「銀行と通信事業者は電信詐欺の『最大の支援者』であり、悪党を助けて悪事を働くのだ」と述べ、銀行と通信事業者への監督管理がゆるく、はなはだしきは放任している状況を批判した。
陳氏は、犯罪グループは大量の電話カードやキャッシュカードを持っているが、それは通信事業者、銀行双方に問題があるためだと指摘している。 例えば、通信業者には、ネットでの電話番号変更を頻繁に行って管理を難しくしており、ひどいケースになると一部従業員が犯罪に加担するといった問題が見られる。 銀行には、カードの乱発、実名制の不徹底といった現象が見られ、これらの問題は詐欺事件が後を絶たない原因の一つとなっているという。
陳氏はさらに、「私は最近、広州駅で電話カードを買ったが、個人情報を登録する必要がなかった。 このことは携帯電話の実名制が真に徹底していないことを示している」と述べ、厳しいとされた実名制が機能していないことを問題視している。 8 月 26 日付『人民日報』掲載の評論も、「実名制の実施が厳密ではなく、電話番号の実際の帰属地が不明なことと監督管理措置が行き届いていないことが架空の通信業者を生み、それを電信詐欺の温床にしている」と述べ、2013 年より始まっている実名制が思うような結果を出していないと指摘している。
社会の安定は、習政権にとって最も重要な課題の一つだ。 それは不満分子による暴動、中国共産党のイデオロギーに反対する思想の広がりを抑えることも社会秩序の安定を保つことだが、詐欺の拡大傾向も、人々の生活を脅かすものであり、それを放置することは政権の安定も揺るがす恐れがある。 ゆえに、大衆の利益を守ることを理念とする中国共産党はこの取り組みを重視している。
ただ、実名制の例でも見たように、電信詐欺の拡大は政府の措置の不徹底が招いたことは否定できない。 政策措置の不徹底は、他の分野でもいえることである。 そのため、習政権は厳しい党改革を実施して「不作為」幹部を厳しく処罰している。 さらに、2014 年 10 月に開かれた中国共産党第 18 期中央委員会第四回全体会議は「依法治国(法によって国を治める)」を再度提起し、すべての政策措置は法的裏づけが必要で、全党・全国民が「ルールを守る」意識を持つことを強調した。 今後の詐欺対策が有効に機能するには、政府の政策措置の徹底がカギとなる。
今回取り上げた電信詐欺についていうと、前出の楊震氏は個人情報の保護に関する法律制定を提案しているが、この法律制定が実現しても、実行されないのでは意味がなく、それを徹底させることが非常に重要である。 (吉田陽介、Diamond online = 9-26-16)
天津の爆発事故現場、早くも公園化計画 批判相次ぐ
160 人超の死者を出した中国天津市浜海新区の爆発事故に関連し、同市は事故現場を「海港エコ公園」として整備する計画を明らかにした。 国営新華社通信などが 5 日、伝えた。 大惨事の犠牲者の追悼碑なども建てるとしているが、原因究明も済んでいない中での発表に批判が相次いでいる。 新華社によると、公園は 24 ヘクタールで「エコ、活気、暮らし、記念」を理念とし、事故前に着工していた小学校や幼稚園も敷地内に建てる。 11 月に着工し、来年 7 月の完成を目指すという。
ネットでは「(事故車両を埋めようとした)温州の高速鉄道と同じだ。 うわべを取り繕う素早さに吐き気がする。」 「汚染の処理は終わったのか。 安全なら市政府を跡地に移せ。」などと批判が相次いでいる。 8 月 12 日深夜に起きた爆発事故は、5 日までに 161 人が死亡し、12 人が行方不明のまま。 爆発の直接の原因は解明されていない。(北京 = 林望、asahi = 9-5-15)
天津の爆発、現場近くの海で魚大量死 住民から不安の声
中国天津市浜海新区の爆発現場近くの海で 20 日、大量の魚が死んでいるのが見つかった。 爆発現場にあった大量の化学物質との関連は現時点ではわかっておらず、当局が慎重に調べているが、住民からは不安の声が上がっている。 一方、共産党最高指導部が 20 日、会議を開き、習近平(シーチンピン)国家主席が爆発事故の責任の徹底追及を指示した。 国営中央テレビなどによると、20 日午後、爆発現場の南約 6 キロにある河口部で大量の魚が死んでいるのが見つかった。 同市環境当局幹部は会見で「原因はいくつもありうる」として、爆発事故との関係を慎重に調べる意向を示した。 (北京 = 林望、asahi = 8-20-15)
「神経ガス検出」を否定 情報錯そう 中国天津市
【北京】 中国天津市で起こった爆発現場で神経ガスが検出されたと伝えた国営中央テレビの報道について、同市環境保護局の温武瑞局長は 19 日、「そのような物質は検出されていない」と否定した。 国営新華社通信も「爆発現場では根本的に神経ガスは生成できない」と語る専門家の見解を紹介。 中央テレビも「神経ガス検出」を報じた番組をウェブサイトから削除した。 (jiji = 8-19-15)
天津爆発、大気中から神経ガス検出 国営テレビ報道
中国・天津市の「浜海新区」で 12 日に起きた爆発事故で、大気中などから神経ガスが検出されていることが消防当局の話で明らかになった。 国営中国中央テレビが 19 日までに伝えた。
同テレビが 17 日、北京公安消防総隊副参謀長の話として、爆発現場の周辺を調べた結果、「神経ガスが検出された」と報じた。 これを受け、中国国内メディアも 19 日に一斉に報じ、地元住民らを中心に人体にどの程度影響を及ぼすのかなど、不安が募っている。 天津市はこれまで現場近くでシアン化ナトリウム約 700 トンを確認したと公表。 大気中で基準値をわずかに上回るシアン化水素を検出したほか、廃水からも基準値を超えるシアン化合物を検出したとしていたが、神経ガスについては公式に説明していなかった。(北京 = 倉重奈苗、asahi = 8-19-15)
天津爆発に腐敗問題の影 中国政府高官ら規律違反の疑い
中国共産党中央規律検査委員会は 18 日、天津市の「浜海新区」の危険化学物質保管施設で 12 日に起きた爆発事故の現場で指揮していた楊棟梁・国家安全生産監督管理総局長を規律違反の疑いで調べていると発表した。 地元行政幹部 2 人も収賄容疑で調べられていることも判明。 事故との関係は不明だが、大惨事の背後に官民の癒着がなかったのか、注目されている。
楊氏は爆発が起きた翌日、郭声?公安相らと共に現地に入り、事故対応の陣頭指揮をとっていた。 具体的な容疑は明らかになっていないが、楊氏は 1990 年代以降、同市内の国営化学メーカー幹部を経て、同市で主に経済行政分野の要職を歴任。 10 年以上、同市副市長を務め、浜海新区開発にも関わった。 2012 年 5 月に中央政府で経済活動上の安全管理を担う現ポストに転じた直後、港湾部での危険物取り扱い許可の発給要件を緩めたことが今回の事故の伏線になったとの報道もある。
また、天津市検察当局は 17 日夕、浜海新区で建設工事の許認可権を持つ同区計画・国土資源管理局の元副局長ら新区幹部計 2 人を収賄などの疑いで捜査していると発表した。 2 人は 7 月までに当局の調査を受けていることが発表されていたが、検察が改めて調査を発表したことから、事故との関係を疑う声が強まっている。 今回の事故では、爆発現場から数百メートルの範囲にあるマンション群が壊滅的な被害を受けた。 被害に遭った住民は数千人以上に上り、賠償などを求めて政府への批判を強めている。 (北京 = 林望、asahi = 8-18-15)
天津爆発 現場の倉庫に危険物 3,000 トン
中国の天津で起きた大規模な爆発で、現場となった倉庫には毒物のシアン化ナトリウムに加え、爆薬の原料にもなる硝酸アンモニウムなど、合わせて 3,000 トンに上る危険物が保管されていたことが分かりました。 地元メディアは、捜査当局が倉庫を所有する会社の経営陣ら 10 人の身柄を確保したと伝えています。
中国の天津港近くにある倉庫とその周辺で 12 日深夜に起きた大規模な爆発では、18 日までに 114 人の死亡が確認されています。 これまでに現場の倉庫には、およそ 700 トンに上る毒物のシアン化ナトリウムが保管されていたことが分かっていますが、中国メディアは公安省の幹部の話として、現場の倉庫には、これに加え爆薬の原料にもなる硝酸アンモニウム 800 トン、硝酸カリウム 500 トンなど、全部で 40 種類余りの危険物、3,000 トンが保管されていたと伝えています。
また、天津の地元メディアは 18 日、捜査当局が発生直後の 13 日に、倉庫を所有する会社の経営陣ら 10 人の身柄を確保していたと伝えました。 中国メディアは、身柄を確保された中に地元の公安局の元局長の息子が含まれているとも指摘しており、大惨事の背景に危険物のずさんな管理を見逃した行政と企業との癒着があったのではないかという見方が広がっています。 (NHK = 8-18-15)
中国天津の大規模爆発、避難住民が政府に補償要求
[天津(中国)] 中国の天津市で起きた大規模爆発事故では、拡散された有害物質の除去作業を当局が進める中で、避難を余儀なくされた住民数百人が、政府に対して補償を求めている。 当局者らによると、12 日に発生した同爆発事故による死者は 114 人。 新華社は、700 人以上が負傷し、消防士ら 70 人が行方不明だとしている。
今回の爆発では巨大な火の玉が上空高く舞い上がり、コンテナ港の周辺一帯に火の粉が飛び散った。 現場の建物は炎に包まれ、爆発の衝撃は数キロ離れた場所のガラス窓を揺らすほどの大きさだった。 天津市の当局は、現場の倉庫に保管されていた毒物のシアン化ナトリウムが約 700 トンに上ることを明らかにしている。 報道機関向け説明会場になっている現地ホテルの外では 17 日、住民ら約 200 人が集まって抗議を行った。 爆発現場近くに自宅があるという Li Jiao さんは「これはデモではない。 政府の関心を引く唯一の方法なのだ。」と語った。
天津市の人口は約 1,500 万人。 現場周辺からは約 6,300 人が避難したという。 この日の抗議集会では、一部で政府に自宅の「買い戻し」を要求する声があがったほか、「家を直せ。 それが我々の要求だ。」と書かれたプラカードも見られた。 治安部隊と集会参加者の間で衝突は起きていない。 クレディ・スイスは、さまざまな中国メディアの報道から試算し、天津の大規模爆発による当初の保険損失は合計で 10 億 - 15 億ドルとの見方を示している。 (Reuters = 8-18-15)
天津爆発、消防関係者ら 95 人不明が判明 死者 112
中国天津市の「浜海新区」で起きた爆発事故で、同市は 16 日、事故による死者が 112 人になったと発表した。 さらに、95 人が行方不明となっていることも判明。 犠牲者が大幅に増える可能性も出てきた。 国営新華社通信が伝えた。 行方不明の 95 人のうち、85 人が消防関係者という。 被害状況の確認の遅れに、市民らからも批判の声が高まっている。 現場には多量のシアン化合物が残っている疑いが浮上し、当局が処理のため周囲 3 キロを立ち入り禁止にするなど緊張が続いている。
爆発が起きた危険化学物質の貯蔵施設が住宅地の近くに造られるなど、「人災」との批判が強まっている。 12 日の発生から、14 日夕までに現場の火災がほぼおさまり行方不明者の捜索が本格化。 犠牲者の数が一気に増えた。 今後もさらに増える可能性がある。 15 日昼ごろ、現場で再び炎が上がり、小規模の爆発が起きた。 同じころ、市当局は現場周辺 1 キロ前後だった立ち入り禁止区域を周辺 3 キロに拡大。 地元関係者によると、現場で毒性の強い多量のシアン化ナトリウムが確認されたことによる措置とみられる。 (天津 = 林望、asahi = 8-16-15)
天津の爆発事故、死者 85 人に 不明者の捜索が本格化
中国・天津市の「浜海新区」で起きた爆発事故で、同市当局は 15 日午前、事故による死者が 14 日夜の段階で 85 人に上ったことを明らかにした。 治療を受けているけが人は 721 人で、うち重傷が 33 人。 当局は現場で続いていた火災を 14 日夕までにほぼ鎮圧した。 行方不明になっていた人の捜索が本格化した模様だ。(天津 = 林望、asahi = 8-15-15)
天津爆発、当局批判広がる 放水で過誤か、数十人の捜索続く
【天津】 中国天津市で起きた大規模爆発事故は 14 日、発生から 2 度目の朝を迎えた。 地元メディアによると、数十人の行方が分からなくなっており、当局が捜索活動を続けた。 中国国内では被害を食い止められなかった当局への批判が拡大している。 現場は 14 日も複数箇所で煙が立ち上り、火災は完全には収まっていない。 香港メディアは同日、専門家の話として、現場に駆け付けた消防隊が消火のために放水したところ、現場にあった化学物質が反応して大きな爆発につながった可能性があると報じた。 消火活動に過誤があったとの見方も出てきた。 現場は危険物の集積地で二次災害の危険がある。(kyodo = 8-14-15)
中国天津市の爆発で 44 人死亡・520 人負傷、火薬 24 トン分に相当か
[天津/北京(中国)] 中国天津市の工業地帯で現地時間 12 日夜に起きた大規模な爆発で、当局や国営メディアは 13 日、死者は少なくとも 44 人に上ると発表した。 死者には消防士 10 人以上が含まれているという。 天津市当局は中国版ツイッターの微博(ウェイボ)で、少なくとも 520 人が負傷したとし、このうち 60 人以上は重傷だと明らかにした。 中央テレビ (CCTV) によると、爆発は現地時間午後 11 時半(日本時間 13 日午前 0 時半)ごろ、爆発物の積荷付近で 2 回起きたという。 新華社は、1 回目の爆発は TNT 火薬 3 トン、2 回目は同 21 トンに相当する規模だったと伝えている。
CCTV のマイクロブログによると、習近平国家主席は、関係当局に、爆発で起きた火災の迅速な消火、負傷者の救出、周辺地域及び住民の安全確保に全力を挙げるよう指示した。 京報網が天津市の消防当局の話として伝えたところによると、現場で消火活動にあたっていた消防士 36 人と連絡が取れなくなっていた。 天津市は人口約 1,500 万人の港湾都市。 インターネットに投稿された動画には、爆発やその衝撃波で住宅や車が揺れる様子が映し出されている。 港湾当局者によると、天津港は通常通り運営されているという。
教師だというカナダ人女性は BBC に対し、「窓の外を見ると、空が真っ赤に染まっていた。 皆、地震だと思ってアパートの外へ避難した。 爆発による閃光がすさまじかった。」と語った。 (Reuters = 8-13-15)
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