「禁句の中国批判を堂々と展開」 ドイツで "脱中国" の外務大臣が国民人気を集めるワケ
メルケル政権の親中路線を痛烈批判

得票率 14.8% だった緑の党から "素人外相" が誕生

ドイツに新政府が発足してからすでに 1 カ月が過ぎた。16 年の長きに亘った CDU (キリスト教民主同盟)のメルケル政権を引き継いだのは、社民党 (SPD)) のオラフ・ショルツ政権。 緑の党、自民党 (FDP) との 3 党連立政権である。

社民党は言うまでもなく、社会民主主義を信奉する人たちの政党だ。 緑の党は、今では環境党のような顔をしているが、元はと言えば新左翼の流れを汲むかなりの左翼。 今も外は緑だけれど中身は赤く、スイカとも言われる。 つまり、この 2 党を見る限り、EU の真ん中に左寄りの政権が誕生したことは間違いない。 ただ、3 つ目の自民党は、自由な市場経済を重視するリベラル党で、信条としては保守。 元々緑の党とは反りが合わない。 つまり、3 党がどのように折り合いをつけていくかが新政権の課題でもある。

さて、この政権内で無視できない力を振るっているのが、実は緑の党だ。 先の総選挙で、緑の党を率いて戦ったのは、ダブル党首の一人であるアナレーナ・ベアボック氏(41 歳・女性)。 選挙戦中にスキャンダルが出たこともあり、得票率は 14.8% にとどまったが、それでも政権には滑り込んだ。 そして、蓋を開けてみたら、政治経験の浅いベアボック氏が、いきなり女性で初のドイツ外相に就任。 そんな素人が欧州の重要国ドイツの外交を担えるのかと不安を覚える国民は多い。

怖いもの知らずの言動に中国側が反発するほど

しかし、目下のところベアボック外相は健闘している。 まだ正式に政府が発足していなかった昨年 11 月、早くも彼女は中国には妥協のない態度で臨むと公言し、北京五輪の外交的ボイコットにまで言及した。 さらに 12 月の日刊紙「ディ・ターゲスツァイトゥンク」のインタビューでは、「雄弁な沈黙は長期的には外交ではない。 たとえ、これまで多くの人がそう思っていたにせよ。」と述べて、皆を驚かせた。

雄弁な沈黙というのは、多弁でありながら言うべきことは何も言っていないという意味だから、これまでのメルケル政権の親中路線に対する痛烈な批判である。 メディアと国民が偉大な政治家と持ち上げるメルケル前首相にここまで盾突くとは、怖いもの知らずというか、自らの理念に忠実というか。 ちなみに新政権の施政方針には、南シナ海、台湾、香港、さらに新疆ウイグルなど各種中国問題がてんこ盛りだ。

いずれにせよ、ある程度予想していたとはいえ、ベアボック氏の発言に一番びっくりしたのは中国共産党だろう。 ベルリンの中国大使館はすぐさま、「われわれが必要としているのは壁を作ることではなく、橋を架けることだ」と反発、けたたましく警鐘を鳴らした。 中国側にすれば、せっかく長年かけて培ってきた独中の枢軸が、こんな小娘の生意気な言葉で覆されるなど絶対にあってはならない。

"メルケル派" のメディアも手のひらを返し始めた

そのベアボック氏、正式就任と同時に G7 の外相会議に出席し、その翌日からはパリ、ブリュッセル、ワルシャワ、そして、新年明けたらワシントンと、精力的に飛び回っている。 そして、それら一部始終を、独メディアが非常に好意的に追う。

風見鶏のマスメディアがベアボック氏にエールを送り始めた理由は、最近、世界で高まりつつある中国批判と無関係ではないだろう。 これまで彼らはメルケル前首相に忠実で、中国批判は極力控えていたが、さすがにそろそろ修正が必要だと思い始めている。 そこで、ちゃっかりベアボック氏の反中旋風に便乗するつもりだ。 そう思って見ると、最近の報道に使われているベアボック氏の写真は、スキャンダルで叩かれていた頃のそれとは打って変わって、どれもこれも気分がスカッとするほど凛々しい。

実はドイツの政界ではここのところ、これまでの親中政策を修正しようという動きが次第に高まっている。 しかもそれは緑の党だけでなく、今までメルケル首相の権力の下、中国批判が封じ込められていた CDU 内でも同様だ。 ただ、肝心の社民党は、これまでの 16 年のうちの 12 年もメルケル政権と連立を組んでいた上、「メルケル政治の継続」を謳い文句に選挙に臨んだため、思い切った政策転換が打ちにくいという問題を抱えている。 つまり、今やショルツ首相にしてみれば、ベアボック氏の人気はまさに渡りに船。 そういう意味では、ベアボック氏は今、適正な波の上に乗っかっている。

中国資本によるドイツ企業の買収が相次いだが …

さて、ドイツと中国の密接な関係は、すでによく知られている。 中国の資本によるドイツ企業の買収も、ここ 10 年ほどで急速に進行している。

例えば、フランクフルトにあるもう一つの空港、ハーン空港。 以前、米軍が空軍基地として使っていたもので、一時はドイツ国の航空母艦とまで言われた。 90 年の終わりよりアイルランドの格安航空会社ライアン・エアが使用、空港の持ち主は、95 年からはラインランド = プファルツ州 (82.5%) とヘッセン州 (17.5%) だったが、2016 年、それを買収しようとしたのが、上海の SYT 社 (Shanghai Yiqian Trading)。 交渉は SYT 社の全権代表であったチョウ氏が取り仕切った。 取引値段は 1,300 万ユーロと言われる。

チョウ氏によれば、SYT 社は中国でも有数のホールディングカンパニーで、資金を提供する Guo Qing 社も 20 万人の従業員を抱えるゼネコンという話だった。 ハーン空港を、中国人旅行者のメッカにするとか、独中貿易に特化した空港として大開発をするとか、勇ましい話が飛び交った。 これが実現すれば雇用も増え、地域の活性化に役立つと、地元の政治家は浮足立った。

ところが、第 1 回目の支払いがなされず、調べてみると、SYT 社の存在を、中国の商工会議所は知らなかった。 南西ドイツ放送 (SWR) の上海特派員が同社の本社を訪ねてみると、小さな部屋で、積み上げられた段ボール箱の間に 5 人の従業員が座っていたそうだ。 典型的なペーパーカンパニーだが、部屋に積み上げられた段ボール箱にちなんで、ドイツの新聞は同社を「段ボールカンパニー」と呼んだ。

ドイツの技術が中国に流出している

当然、商談は潰れ、その後の仕切り直しで、結局、ハーン空港は、その翌年に中国の海運大手の海航集団が買い取った。 しかし、昨年、同社も倒産。 空港は閉鎖されてはいないが、すでに展望はない。 それにしても不思議なのは、普段は用心深いドイツ人が、なぜ中国に対してだけはこれほど無防備なのかということだ。

産業ロボットの先進技術を持つ KUKA 社が中国に買収されて大問題になったのも、やはり 2016 年だった。 以来、さすがのドイツ政府も慎重になり、その後、中国の福建芯片投資基金 (FGC) が試みたアイクストロン (Aixtron) 社の買収は認めなかった。 アイクストロンは半導体の生産設備(有機金属化合物半導体用 MO-CVD 装置)を手がけるハイテク企業で、正確に言えば、この買収をドイツ政府に止めさせたのは米国だった。 米国は、同社の技術が中国へ流出し、核技術、ミサイル、人工衛星など軍事産業に流用されることを懸念した。

ただ、米国のアクションも、はっきり言って、時すでに遅しの感は否めない。 今や北京のメルセデスの最新工場では、KUKA のロボットが活躍し、現地スタッフは「ドイツの技術と中国のスピード」と豪語している(現地で見てきた人の話)。 また、アイクストロン社の持つ技術も、おそらく中国はすでに他の方法で手に入れているに違いない。

救いの神だった中国企業が災いのもとに転じる恐れ

さらに今年の新年早々、衝撃的なニュースが流れた。 ドイツの伝統的な造船企業である MV ウェルフテンの経営が破綻した。 同社は豪華クルーズ船の建造では世界一の規模を誇り、中でも現在建造中の「グローバル・ドリーム」号は破格。 最高 9,500 人の乗客と 2,500 人の乗務員を収容し、甲板には遊園地やジェットコースターまである。こういう巨大なアイデアを出すのはもちろん中国人で、2016 年より MV ウェルフテンはゲンティン香港の所有だ。 豪華クルーズブームの最中、中国の富裕層の需要を見込んで 20 億ユーロが投資された。

ところがコロナでクルーズもカジノも立ち行かなくなり、お金の尽きたゲンティン香港は、MV ウェルフテン救済のための出資 6,000 万ユーロも拒否した。 1 月 10 日時点では 12 月の給与も支払われていない。 そこで仕方なく経済省が 6 億ユーロを注ぎ込み、今、手がけている豪華船だけは完成させるというが、すでに 1,900 人の雇用が揺らいでいる。

MV ウェルフテンの経営破綻が何を示しているかというと、従来の懸念材料であった技術の流出とは別に、これからは、救いの神だった中国企業が災いのもとに変わるかもしれないという事実だ。 ドイツ人は破格なことに憧れがちで、それだけに中国人の広げる大風呂敷に魅了される。 そして、中国人とウィン・ウィンの関係を構築した自分たちの才覚に満足し、中国人と歴史問題などでつまづいている日本人を少しバカにしていた。 しかも、独中の共栄はこれからもずっと続くと思い込んでいた。 しかし、今、その幻想がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

ウィン・ウィンどころか中国優勢になっている

ただ、実際問題として、ドイツはすでに中国から離れられない。 ドイツの自動車産業は巨大な中国市場に完全に依存している。 しかも 2025 年には中国での車の販売数は、現在の 2,400 万台から 3,550 万台に伸びると言われ、投資も衰えていない。 ディ・ヴェルト紙によれば、昨年 BMW は中国に新たに 10 億ユーロを投資する予定だったというし、70 年代から中国に進出しているフォルクスワーゲン社は、今では生産した車の 4 割が中国市場向けだ。 同社の中国事業の歴史を見ている限り、天安門事件など存在しなかったかのようだ。

5G の整備に関しては、他の多くの国々がセキュリティ問題を懸念してファーウェイの技術を排除しているにもかかわらず、ドイツは採用の方向に進むと思われる。 ファーウェイを排除など、すでにドイツにはできない。 独中ウィン・ウィンの時代は終わって、中国が優勢になっている。 すでにフォルクスワーゲン社は、自動運転技術の開発でファーウェイとの提携を検討しており(日本経済新聞 1 月 11 日付)、同社の EV が走る盗聴器となることを懸念する声も上がっている。

なお、ドイツと中国の密着は、すでにあらゆるところで起こっている。 国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長が中国の言いなりなのは日本でも知られているが、ドイツのオリンピックスポーツ連盟のトーマス・ヴァイカート会長も、今回のベアボック氏の冬季五輪のボイコット案に関して、「いい加減にすべきだ!」と憤った。

ベアボック外交を産業界は支持するのか

思えば 2007 年、首相に就任してそれほど間もなかったメルケル氏は、首相官邸にダライ・ラマ 14 世を招き、激しい中国の攻撃に晒さらされた。 以来、氏は中国の嫌がることは一切言わなくなり(常にアリバイ程度)、商売一筋に切り替えた。 一方、メルケル氏はプーチン大統領とは仲の悪そうなシーンを演出しつつ、実は深いところで共感していたとも言われる。 ただ、そんな変幻自在のメルケル氏も、トランプ前大統領相手の外交には完全に失敗し、4 年間、独米関係を停滞させた。

今後、ベアボック氏がどんな外交を紡ぎ、何を成功に導き、どこから反発を受けるのか、すべてはまだ霧の中だ。 しかも、肝心なのは、氏の中国に対する挑戦を、ドイツの産業界がどこまで大目に見てくれるかという点だろう。 また、ショルツ首相がこの元気な外相をどのように利用し、どの程度コントロールできるのかも興味深いところだ。

ショルツ新政権は何が飛び出すか分からないガチャ政権だ。 16 年のメルケル政治に退屈しきっていたドイツ国民にとっては、それはそれで楽しみな政権でもあるようだが、激しい脱線はヨーロッパ全体に混乱をもたらす。 そういう意味で緑の党はかなりの危険ファクターでもある。 特に、これから世界の列強に揉まれるであろうベアボック氏の動向が注目されている。 (川口マーン惠美、President = 1-18-22)


ウイグル人権侵害、EU が中国を制裁へ 天安門事件以来

欧州連合 (EU) は 22 日、中国でウイグル族に対して深刻な人権侵害が続いているとして、中国当局者らへの制裁を発動した。 中国政府や当局者の責任を問う制裁は 1989 年の天安門事件以来で、中国側の反発は必至だ。 また、ミャンマー国軍関係者ら 11 人への制裁も正式に決めた。 EU 加盟国の代表者会議が中国への制裁で一致したことを踏まえ、22 日に正式な手続きをとった。 発表によると、対象は中国共産党の地元党委員会幹部ら 4 人と、ウイグル族の人たちらの「収容施設」を管理する公安当局の組織で、EU への渡航禁止や EU 域内の資産の凍結を科した。

EU は、中国の新疆ウイグル自治区で信教の自由が侵害され、政治的な「再教育」がなされていると批判し、中国の習近平(シーチンピン)国家主席らとの会談の場でも「深い懸念」を表明してきた。 EU はこれまでにも、サイバー攻撃にかかわったなどとして、中国人や中国企業に制裁を科している。 とはいえ、中国政府や当局者の対応を問題視しての制裁は、EU の前身の欧州共同体 (EC) が天安門事件後に武器禁輸措置をとって以来だ。

米国のトランプ前政権は、中国のウイグル族への対応は、民族的な集団の破壊を意図した集団殺害や出生防止措置などを指す「ジェノサイド」だと認定。 バイデン政権もこれを踏襲して、厳しい対中姿勢を示している。 EU の制裁の効果は限定的だとの見方もあるが、米国と足並みをそろえる形で強い態度をとった。 EU は昨年末、中国と投資協定の締結で基本合意したものの、人権問題より経済優先だとの批判が内部から出た。 またオランダ議会は 2 月、ウイグル族にジェノサイドが行われているとの動議を採択している。

中国側は、制裁検討が伝えられた時点で同国の EU 代表部が「対立ではなく対話をのぞむ」とツイッターで発言して牽制。 米中の外交トップ会談では「(欧米諸国の)ジェノサイド批判は今世紀最大のうそ」と強く反論していた。 また、ミャンマー情勢について EU は、国軍によるクーデターや多数の死者が出ている市民への弾圧の責任を問うた。 (ブリュッセル = 青田秀樹、asahi = 3-22-21)



中国と EU、投資協定で大筋合意 人権問題脇に経済優先

欧州連合 (EU) と中国が、互いの市場に企業が参入しやすくなる投資協定で大筋合意した。 30 日にも発表する。 米国の政権交代を前にEUとの関係を強化しておきたい中国と、成長を続ける中国経済の取り込みを目ざすEUの思惑が一致した。 人権問題では両者の溝が深く、EU 内から批判が出る可能性もある。 協定では、中国政府が自国企業に出す補助金に問題がないかを点検したり、中国側が求める技術移転に歯止めをかけたりする仕組みを想定。 そのうえで自動車やエネルギーなどの分野で相互の市場参入の拡大につなげる。 また中国側は、労働者の権利保護に取り組むと約束したという。 EU 側では欧州議会の承認も含め、協定発効までに数カ月から 1 年単位の時間がかかる見通しだ。

交渉は 2014 年に始まってから難航が続いたが、6 月からこの年末まで EU の回り持ち議長国を務め、自動車をはじめ中国市場で稼ぐドイツが交渉妥結を急いでいた。 コロナ禍からの経済回復を目指し、再び成長軌道にある中国との経済関係の強化を優先した。 EU はこれまで、中国を「統治システムが異なるライバル」と位置づけるとともに、香港や新疆ウイグル自治区などでの人権抑圧をめぐり、繰り返し懸念を表明してきた。 だが、こうした問題を脇に置き、投資協定を急いだ形となった。 欧州議会のビュティコファ議員(緑の党)は独紙に「ドイツは自国の自動車産業が再び利益を得るために、他の全ての問題をないがしろにしている」と非難した。

米新政権の発足前、急ぐ中国

中国側は、習近平国家主席が 9 日、マクロン仏大統領との電話会談で「投資協定交渉の妥結を急ぎ、中国とEUの関係を新たな段階に進めなければならない」と指摘。 23 日には李克強首相がスペイン、オランダ両首相と電話で会談し、早期妥結の姿勢を示していた。 対立してきた米国のバイデン新政権の発足を前に、中国は周辺国との関係強化を急ぐ。 トランプ米大統領と違って国際協調路線をとるバイデン氏が対中包囲網を形成することを警戒するためだ。 そもそも米中対立の構図は変わらず、制裁を受けた半導体など工業分野を中心に米国とのデカップリング(切り離し)が進むのは避けられないとみる。

中国にとって、工業分野などでのサプライチェーンを維持するためにも、日本や EU の重要性は高まっている。 日本とは 11 月に合意に達した地域的包括的経済連携 (RCEP) によって、初めて自由貿易協定を結んだ。 EU や日本との関係強化は、両者と米国との関係にくさびを打ち込むことにもつながる。 中国政府関係者は「米国と一緒になって中国をいじめるような状況はなんとしても避けたい」と狙いを話す。 (北京 = 西山明宏、ブリュッセル = 青田秀樹、ベルリン = 野島淳、asahi = 12-30-20)


AIIB、5 年目の岐路 金総裁「環境融資を 5 割に」

2016 年に中国主導で開業したアジアインフラ投資銀行 (AIIB) が 7 月下旬、5 回目となる年次総会を北京で開いた。 強まる米中対立に新型コロナウイルス禍が重なり、堅調な経営を続けてきた AIIB も岐路に立っている。 2 期目の続投が決まった金立群総裁は 7 月 29 日、朝日新聞の単独インタビューに応じた。 新型コロナによる経済危機対応として加盟国への財政支援を積極的に進めながら、25 年までに気候変動対策の融資を総融資額の半分にまで引き上げる目標を語った。

アジアの膨大なインフラ建設需要に対応し、投融資を提供する開発金融機関。 現在、103 カ国が参加しており、設立を主導した中国が 26.6% と最大の議決権を持つ。 2013 年に中国の習近平国家主席が設立構想を表明。 16 年 1 月に開業し、これまでに計 196 億ドル(約 2 兆円)の投融資をしてきた。 投融資の対象になるアジアの途上国だけでなく、日米を除く先進国 7 カ国 (G7) はすべて参加ている。  競合するアジア開発銀行 (ADB) を主導してきた日米は一貫して距離を置いているが、加藤隆俊元財務官が国際諮問委員会のメンバーに入っており、日本人職員もいる。

- - 新型コロナウイルスは銀行経営やプロジェクトの実施にどのような影響を与えていますか。

「総額 130 億ドル(1.4 兆円)のコロナ危機対応の資金枠『新型コロナウイルス危機復興ファシリティー』を設け、コロナ対策で財政が逼迫する(インド、インドネシア、フィリピンなど)国々にすでに計 60 億ドル(約 6,350 億円)を貸し出しました。 過去の融資総額(196 億ドル)の約 3 分の 1 にあたります。 コロナで苦しむ国々に対して(金利の減免など)金融支援や医療機器・設備、防護服なども支援しました。 (コロナ禍による)経済の減速は(銀行経営にも)大きな圧力になっていることは否定しません。 大勢に影響は出ていませんが、一部には困難も出るでしょう。 プロジェクトを正常に進めるためにも、各国の財政に支援をしているのです。」

- - 経験のない財政支援には行内でも反対があったそうですが。

「反対ではなく、議論がありました。 我々はインフラ投資銀行として、本来は無償援助や財政支援はしてきませんでしたし、保健衛生分野に対しては経験もありません。 しかし、世界経済にも加盟国の人々にも緊急事態です。 理事会で議論し、臨時措置として踏み切りました。 専門家を招聘したり、世界銀行や ADB の知見を借りた協調融資をしたりして実施しました。」

- - 開業から 19 年まで件数ベースで半数強が世銀や ADB との協調融資です。 単独での事業が少ないのではないのではないでしょうか。

行員の能力、高める必要

「今後は単独の融資を増やす方向です。 行員の能力を高める必要があります。 ただ、協調融資は引き続き必要だと考えています。 インフラ建設は巨額の資金が必要で、1 行だけではまかない切れない場合も多い。 さらに、借り入れ国の立場でも、リスクを分散させる意味で同じ貸し手に集中させないようにしています。」

- - 今後の融資の重点はなんですか。

「コロナ禍が過ぎれば、インフラを対象とした投融資に戻ります。 そのなかで、まず重視しているのは気候変動対策です。 19 年は融資総額の 39% でしたが、25 年には50% まで引き上げます。 デジタル経済の促進などソフト面にも力を入れます。 デジタル環境の格差を縮小するため低所得国を支援します。 この分野は収益を上げられるプロジェクトもありますから、民間企業とも協力したいと考えています。 融資も半分は民間向けにする目標です。 また、アジア域外の国々への融資を 15% から大幅に増やします。 アジアと域外をつなぐのが狙いです。」

気候変動とデジタル化対応

AIIB はすでにこの二つの分野への投融資に手を付けている。 気候変動では 2020 年 3 月にオマーンの太陽光発電事業を承認し、総額 4 億ドル(約 420 億円)の事業費のうち 6 千万ドル分を AIIB が融資することにした。 デジタル化では 19 年 7 月、カンボジアの光ファイバーの網敷設プロジェクトに 7,500 万ドルを投資することを決めている。

- - 気候変動は AIIB に域外から数多く加盟している欧州が重視している課題ですね。 いっぽう、デジタル分野については、中国企業は強い競争力を持っています。 アジア域外への融資を増やすことも含めて、中国政府が推進する「デジタル一帯一路」戦略を後押しすることになるのではありませんか。 中国企業による IT 網の敷設につながると、安全保障上から問題視する加盟国もあります。

「事業はすべて国際入札にかけます。 あらゆる国の企業に公平な機会があります。 我々の職員の採用やプロジェクトの入札は他の国際機関と異なり、加盟国には限っていません。 (非加盟国の)米国人や日本人もいます。 たとえば、あるプロジェクトチームリーダーは日本人です。 日本の専門家にはもっと来てほしいし、日本企業にはプロジェクトの国際入札に参加してほしい。 債券の発行にあたってはすでに日本の野村証券も関わりました。」

国家間の争い、珍しくない

- - AIIB の加盟国は開業時の 57 カ国から 103 カ国に増えました。 同時に、国際情勢も 5 年で大きく変わりました。 AIIB 最大の出資国である中国と、非加盟の大国・米国との間の対立は激しさを増しています。 中国と最大の投融資先であるインドとの関係も悪化しています。 こうした中で AIIB は中国政府、また一帯一路戦略との距離を保てますか。 習近平国家主席は 28 日の開幕式で「AIIB は(習氏のスローガンである)人類運命共同体の構築を推進する共同のプラットフォーム」と述べました。

「我々は高い国際標準で運営し、評価をされています。 それを続けます。 国家の間には時に、争いごとが起きる。 貿易や投資、その他の問題についても意見が異なることはある。 歴史上、珍しいことではありません。 我々の銀行は非政治的な組織であり、加盟国どうし、あるいは非加盟の国家との間の争いに巻き込まれるべきではない。 国どうしの争いごとについて評論はしないし、ましてや干渉することもない。 個人的には、平和的な発展に向けて積極的に前を向くしかないと考えている。」

- - 職員は現在、54 カ国から 300 人あまりですね。 融資額の拡大にあわせた人員計画をどう考えていますか。 プロジェクトは増えているのに海外拠点はゼロのままで大丈夫ですか。

「将来は融資額の大きい国の中にはオフィスが必要になってくると思います。 ただ、人員を含めてあくまでも少数精鋭でいきたい。 (AIIB の)支出の 7 割が人件費なのです。 我々は 21 世紀の銀行として開業しました。 IT、デジタル技術の時代の銀行なのです。 コロナの影響ではありますが、今回のようなバーチャル総会もリモートワークもできる。 新しい技術を駆使して、最小の投入で最大のアウトプットを目指します。 私は裏面が使われていない紙は、捨てませんよ。 環境のためにも節約のためにも。」

「銀行を設立する交渉を始めた 2014 年は、欧州には債務危機の影響が残っていました。 そこから捻出してくれた出資金です。 これは彼らの納税者のお金です。 銀行として総裁としてむだにするわけにはいきません。 クリーン(反汚職)、リーン(少数精鋭)をゆるめるつもりはありません。」 (聞き手 = 編集委員・吉岡桂子、福田直之、asahi = 8-1-20)



中国の買収、ドイツ「待った」 投資の流れ一方向 欧州の不快感映す

中国の北京にある欧州連合 (EU) 商工会議所のイエルク・ブトケ会頭が指摘するように、中国は世界で企業を買収し放題だ。 しかし、海外企業による中国企業買収となると、かなり趣が異なる。 選択肢が少ない上、どれも事実上、不可能に近いからだ。

だが、ドイツはここにきて中国企業による自国企業の買収に待ったをかけた。 ドイツ政府は 24 日、中国の投資ファンド、福建芯片投資基金 (FGC) が 6 億 7,000 万ユーロ(約 770 億円)で半導体製造装置メーカーのアイクストロンを買収する計画を再審査すると決めた。 中国国有化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)が 440 億ドル(約 4 兆 6,300 億円)でスイスの農薬大手シンジェンタを買収する案も、規制手続きの関係で年内に買収を完了させられないことが 10 月下旬、判明した。 これは欧州が一連の買収案件を見直しているということだ。

欧州が中国企業による買収に警戒を見せ始めたのは、中国企業が海外で買収することに問題があるからではない。 中国政府が外国企業に対し、持ち株比率への法的制限から複雑に入り組んだ規制、非公式な障壁まで様々な厳しい条件を設けているからだ。

ドイツの中小企業だけが中国企業の買収対象ではない。 大連万達集団(ワンダ・グループ)は米ハリウッドで買収を重ねており、中国の複合企業である海航集団(HNA グループ)は 24 日、米ホテルチェーンのヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスの株式 25% を 65 億ドルで取得する計画を発表した。 中国企業はもはや衣料品や玩具、電子機器などの生産だけでは満足できなくなっているのだ。

日本が 1980 年代後半、国内の高い資産価格と低利で調達した資金にものをいわせ、世界で買収攻勢をかけたが、中国企業による買収の一部も同じ結末を迎えるだろう。 日本企業は当時、どう扱えばいいか分からない資産を高値づかみし、問題に突き当たった。 だが、ドイツの動きは買われる側としても、中国による直接投資の急増を深刻に受け止める必要があることを物語っている。

手っ取り早く製造業を強化

アイクストロン買収計画の見直しは、高度な技術を持つドイツ企業が相次ぎ買収された後に出てきた動きだ。 ドイツの産業用ロボット大手クーカは今年、広東省の大手家電メーカー、美的集団に 45 億ユーロで買収された。 中国企業は他にもドイツのコンクリートポンプ車や工作機械を手掛ける企業などを買収している。

こうした攻勢は不思議ではない。 中国政府は昨年、製造業を強化する 10 カ年計画「中国製造 2025」を発表し工作機械、ロボット工学、航空宇宙、医薬品、IT (情報技術)など 10 の産業の先端分野に進出するよう自国企業に呼びかけた。 自力でドイツや米国の先端企業に勝てないなら買収するしかないということだろう。

これは不穏な話ではない。 中国企業が海外企業の買収に乗り出すというのは、むしろ海外企業にとっては以前よりいい点がある。 中国はこれまで、自国市場への参入を求める欧米企業には中国企業と合弁会社を設立させ、それによって参入の対価として技術を移転させ、「自主創新(独自技術の開発)」に火をつけることを目指していた。

だが、買収する場合、中国企業はドイツや米国の対象企業から取得できる高度技術に対し、市場価格を大幅に上回るプレミアムを相手企業に払うことになる。 過去には、例えば独シーメンスや川崎重工業、仏アルストムは、中国の高速鉄道網の契約を勝ち取るために中国企業と合弁会社を設立し、企業秘密を共有しなければならなかっただけに、それよりは魅力的なアプローチといえるだろう。

急速に技術力をつけ成長したいという中国の野心が問題なわけでもない。 中国としては、軽工業がバングラデシュなど賃金の低い国々へ移っていく中で、手をこまぬいているわけにはいかない。 中国がロボットや先進的な工作機械などの専門技術を取得したからといって、欧米の安全保障が損なわれるわけでもない。

欧米がいら立つのは、投資の流れが圧倒的に一方向になってきているためだ。 中国は経済力をつけ 01 年に世界貿易機関 (WTO) へ加盟したことで、世界最大の製品輸出国となり、貿易の不均衡が拡大した。 ドイツをはじめ先進諸国は従来、M & A (合併・買収)における不均衡を心配する必要などなかったが、もはやそうはいかない。

門戸開放など中国は行動を

中国の WTO 加盟を認めたのは、グローバル企業の中国市場へのアクセスをしやすくするためであり、自動車生産など一部の産業では実際、海外からの投資が実現した。 ところが、中国は海外企業による医療や物流、通信などの産業への投資を過剰なまでに制限している。 中国不動産大手の中国泛海控股集団は 23 日、米保険大手ジェンワース・ファイナンシャルを約 27 億ドルで買収することで問題なく合意したと発表したが、中国での海外保険会社の市場シェアはまだ微々たるものにすぎない。

中国が自国企業への外資の投資を制限したのは過去においては正当な理由があった。 外資が大量に流入することで自国の産業がつぶされるのを防ぐためだ。 しかし、中国経済はこの 15 年間に急成長を遂げたが、自由化はさして進まなかった。 国の規制が緩和されても、省政府や地方の役人は様々な形で国内企業を優遇し続けている。

中国企業による買収攻勢になすすべがないドイツは窮地に立たされている。 EU には、海外企業による慎重な判断を必要とする買収を審査する米国の対米外国投資委員会 (CFIUS) のような機関がない。 EU は中国に対し、欧州企業が容易に参入できるよう強く求めているが、不均衡は中国にとってはむしろ好都合で、中国政府との交渉は一筋縄ではいかない。

だが、中国にとって虫のいい状況が続くはずがない。 中国が規制を緩和するか、欧米が規制を強化するかのいずれかだ。 このままでは欧米は規制を強化し、中国企業による買収は認められなくなるだろう。 そうなれば、全員が不幸になる。 (John Gapper、The Financial Times = 10-30-16)



EU が特殊鋼管めぐり中国を WTO 提訴、60 日以内に協議

[ジュネーブ] 欧州連合 (EU) は 13 日、中国が海外製の特殊鋼管に反ダンピング(不当廉売)課税をかけていることは不当として世界貿易機関 (WTO) に提訴したと発表した。 対象となっているのは、発電所などで利用されるシームレス(継ぎ目なし)高性能ステンレス鋼管。

EU は声明で、「EU は、(中国の)反ダンピング課税は、手続き上の観点と本質的な観点の双方において、WTO 協定に違反すると確信している」とし、「欧州製品に対する税率 9.7 - 11.1% の課税により、中国市場へのアクセスが大きく阻まれている」とした。 同問題をめぐっては日本が前年 12 月に WTO に提訴しており、EU はこの枠組みに参加することになる見通し。

EU の WTO 提訴を受け、中国は 60 日以内に EU と協議を通して問題解決を目指すことができるが、EU は中国と日本の協議は問題解決には至らなかったと指摘した。 EU と中国の通商問題をめぐっては、EU が中国製の太陽光パネルへの反ダンピング課税を導入したのに対し、中国は欧州産のワインに対する調査を開始、欧州車にも不当廉売の申し立てが行われるなど、摩擦が広がりつつある。

中国の外交官は「鋼管に対する反ダンピング課税は特に目新しい問題ではなく、中国は法律に則って行動している。 EU は中国の措置を非常に注意深く見守っているとの姿勢を示したいものと見られる」とし、「太陽光パネルについて協議を開始することが、双方にとり重要となる」と述べた。 これについて EU の外交官は、来週、欧州委員会が中国側と協議を行う予定になっていることを明らかにした。

EU の提訴の詳細は現時点では明らかになっていないが、WTO によると、EU は WTO 協定の「関税及び貿易に関する一般協定」の第 6 条「ダンピング防止税及び相殺関税」など、日本が提訴のなかで挙げた条項に言及している。 発電所向けの鉄鋼製品への中国の反ダンピング課税に対しては、米国もこれまでに提訴。 前年、中国の敗訴が決定している。 (Reuters = 6-14-13)


中国で欧州車にも不当廉売の申し立て、業界は摩擦激化懸念

[フランクフルト] 欧州自動車工業会 (ACEA) は 7 日、排気量 2 リットル以上の欧州製自動車の不当廉売をめぐって、中国商務省に不服の申し立てがあったと明らかにした。 北京の事務所や弁護士を通じて得た情報と説明している。 欧州連合 (EU) が中国製太陽光パネルへの反ダンピング課税導入を発表すると、中国は 5 日、直ちに欧州産ワインの不当廉売について調査を開始した。 中国富裕層の間で人気が高まっている欧州の高級自動車でも中国側が調査を始めれば、双方の貿易摩擦が激化する可能性がある。

中国商務省のコメントは現時点で得られていない。 欧州委員会は憶測にはコメントしないとしている。 中国の関係筋は、当局は太陽光パネルの問題解決に注力しているとして、欧州車への正式な調査が近く開始される公算は小さいと指摘。 「友好的な解決策を見い出すのに 2 カ月の猶予がある。 2 カ月経っても未解決なら、その後どうなるか分からない。」と述べた。 中国による欧州産ワインの調査開始は、太陽光パネルで中国への反ダンピング課税を支持したフランス、イタリアなど南欧諸国へのけん制の色合いが濃いと見られていた。

中国が欧州高級車を標的にすれば、中国側の姿勢が変化したことを示唆している。 太陽光パネルへの課税にドイツなどは反対しており、中国側が配慮を示したと考えられていたためだ。 欧州高級車は BMW やダイムラー、フォルクスワーゲン (VW) など独メーカーが大きなシェアを握る。

ACEA の広報担当者は「一部の独メーカーは問題を真剣に受け止めている」と述べた。 2011 年に米国で生産した欧州高級車にも輸入関税をかけられた経緯があるためとしており、「現実的な脅威」と述べた。 ドイツ自動車工業連盟 (VDA) は EU と中国に対し、話し合いを通じた問題解決を要請した。 (Reuters = 6-8-13)


中国、報復で欧州ワインの安売り調査か 貿易摩擦拡大の懸念

ロンドン : 中国商務省は 5 日、欧州連合 (EU) 加盟国が輸出するワインが不当に安売り(ダンピング)されている疑いがあるとして調査を開始したことを明らかにした。 EU の行政機関、欧州委員会が 4 日に域内へ輸出される中国製太陽光パネルを対象にした反ダンピングの相殺関税を導入したことへの対抗措置とみられる。

EU 生産のワインの中国への輸出額は昨年、約 7 億 6,300 万ユーロ相当。 現在の為替相場では約 992 億円相当。 フランス産が約 7 割、残りはスペインとイタリアが大半を占める。 中国では中間層の増加と共に欧州の高級品への需要が近年高まっている。 商務省などによると、中国のワイン製造者は昨年、EU 産ワインがダンピングされているとして調査を要請。 欧州の製造業者が政府からの不公正な補助金に支えられ、中国の業者に被害を与えていると主張した。

欧州委の報道担当者は、今回のダンピング調査開始を受け中国は世界貿易機関 (WTO) の加盟国として調査する権利があると指摘。 その上で、WTO の規則が順守されているか注視すると述べた。 また、欧州のワイン製造業界が中国への輸出でダンピングや補助金を得ていたとは判断していないと語った。 欧州委のデフフト委員(通商担当)によると、中国製の太陽光パネルへの相殺関税 11.8% は今月 6 日から課される。 平均税率は今年 8 月に 47.6% に達する見通し。

EU と中国との交渉がまとまらなかった場合、12 月には恒久関税となる。 中国と EU の間の物とサービスの貿易額は約 4,800 億ユーロ相当。 中国製太陽光パネルの輸出額は約 210 億ユーロとなっている。 最近欧州を訪問した中国の李克強(リーコーチアン)首相はバローゾ欧州委委員長との会談で、欧州側が太陽光パネルに相殺関税を打ち出した場合、対中関係に影響するとして報復措置も警告。 中国外務省によると、首相は貿易戦争の回避も訴えた。 (CNN = 6-6-13)


中国太陽光パネルに反ダンピング課税 欧州委が暫定措置

【ブリュッセル = 野島淳】 欧州連合 (EU) の行政機関の欧州委員会は 4 日、中国製の太陽光パネルが EU 市場で不当に安い価格で売られる「ダンピング」にあたるとして、暫定的に半年間、相殺関税をかけると発表した。 欧州委によると、過去最大のダンピング紛争という。 中国側の反発は必至で、欧州製品への課税など、対抗措置を求める議論が盛り上がる可能性もある。

欧州委は 8 月 6 日まで、中国製の太陽光パネルと関連製品に対し、11.8% の相殺関税をかけ、その後 4 カ月間は平均 47.6% に引き上げる。 この間、中国側と交渉し、ダンピング防止策をとるよう求める。 EU は 12 月までに、加盟国の担当相による理事会を経て、5 年間の恒久関税にするかどうかを判断する。 (asahi = 6-5-13)


独首相「摩擦解決、対話で」 中国首相と会見

【ベルリン = 松井健】 ドイツのメルケル首相は 26 日、訪独中の李克強(リーコーチアン)・中国首相との共同会見で、欧州連合 (EU) と中国との間で起きている太陽光パネルなどの貿易摩擦を対話で解決するよう求めた。 中国側の考えを支持するもので、中国製パネルへの相殺関税発動など中国との対立につながりかねない措置を避けたい姿勢を鮮明にした。

EU の行政執行機関の欧州委員会は現在、中国製の太陽光パネルや通信設備が不当に安く売られる「ダンピング」の疑いがあるとみて、相殺関税をかけるかどうかを検討。 中国側は強く反発する一方で、李首相の初外遊先の一つに中国との経済関係が EU 内で最も密接なドイツを選び、慎重な対応をするよう働きかけを強めていた。 (asahi = 5-27-13)


EU は中国との FTA 締結排除せず、まず市場開放求める

[ブリュッセル] 欧州連合 (EU) は中国との自由貿易協定 (FTA) 交渉に前向きだが、まずは投資に関する市場開放で中国からの譲歩を引き出す構えであることが、ロイターが 21 日入手した EU の文書で明らかになった。 この文書は昨年の EU 中国首脳会議で中国側が提出した両国間の関係強化に関する提案への回答として EU の外交担当部門がまとめたもので、まだ草案の段階。

欧州委員会は今月、中国との投資協定交渉に入るための指令を採択する見通しだが、文書によると、それ以上に広範な貿易協定の検討は、中国がまず要求にこたえることが前提。 文書は「(中国が)現在の市場アクセスの障害と競争上の懸念の大元の原因に対処できれば」将来的に FTA 締結を検討する可能性があるとしている。

文書はまた「野心的な投資協定」が締結されれば、関係強化への準備が整いその能力も備わった印になるとの見解を示した。 中国と EU は秋にも首脳会談を行う見通しで、その際にこの文書が合意を得る可能性がある。 EU は中国製の太陽光パネルや通信機器に対する反ダンピング課税を警告するなど圧力を掛ける一方で、中国の前に FTA という「えさ」をぶらさげている。 (Reuters = 5-22-13)


EU、通商政策で中国に攻勢 反ダンピングに米欧 FTA も

【ベルリン = 宮下日出男】 欧州連合 (EU) が通商政策で中国に攻勢をかけている。 太陽光パネルに続き、中国製の通信機器についてもダンピング(不当廉売)の疑いで調査を開始すると決定した。 貿易摩擦の激化が予想される上、米国との自由貿易協定 (FTA) 締結に向けた動きも圧力となり、中国側はいらだちを強めているようだ。

欧州委員会は 15 日、中国製通信機器について、不正な輸出補助を受け、不当な安価で輸出されている疑いが強いとして調査開始決定を発表した。 対象は携帯電話などの端末の製品ではなく、通信ネットワークに使われる設備や部品。 輸出総額は年間 10 億ユーロ(約 1,300 億円)に上る。

欧州委はすぐには調査を始めず、当面は交渉による解決を目指すことで是正への圧力をかける考えだ。 ただ、今回の決定は欧州企業の申請を受けずに欧州委が独自で判断した異例の措置で、「中国当局が真剣に取り組むよう望む(報道官)」と強気の姿勢だ。

欧州委は今月、中国製太陽光パネルに対して 47% の反ダンピング関税を暫定的に課すため、加盟国に提案する方針を決めたばかり。 さらに 16 日からは中国製の陶磁器や台所用品に最大 36% の同関税を適用した。 欧州委がダンピングなどで調査している 31 件中、18 件に中国が絡んでいる。

最大の輸出先である EU でこうした事態が続けば中国側の打撃は小さくないとみられ、中国商務省の報道官は 16 日、「中国と EU の貿易関係を著しく損う」と、対抗措置をとる可能性を示唆して牽制した。 李克強首相も訪中したギリシャのサマラス首相に、「EU で前向きな役割を果たせる」として、課税や調査回避に向け協力を要請した。

一方、EU は米欧 FTA 締結のため、6 月末までの交渉入りを目指す。 世界全体の貿易量の約 3 割を占める巨大 FTA の創設は、貿易・投資促進による双方の経済効果だけでなく、世界経済で影響力を増す中国など新興国に対抗する狙いもある。

通商担当のデフフト欧州委員はこれまでに、米欧 FTA は「世界の政治・経済における欧米という自由世界の影響力にかかわる問題」とも指摘している。 ロイター通信などによると、中国側はこれに対し、EU の幹部が訪中した際などに、米欧の市場から隔離されることへの懸念も伝えているという。 (sankei = 5-17-13)


中国、EU が通信機器の不当廉売調査開始なら報復措置発動へ

[ブリュッセル] 中国商務省報道官は 16 日、欧州連合 (EU) が正式に中国の通信機器メーカーに対し反ダンピング(不当廉売)調査を開始した場合、報復措置の発動に踏み切ると警告した。 欧州委のデフフト委員(通商担当)は 15 日、中国に対し、中国の通信機器メーカーが中国政府から補助金を受け不当に安く輸出していなかったか調査を開始することで、他の欧州委員と概ね合意したと発表。 ただ、解決に向け中国当局とまず交渉するとの姿勢を示した。

調査の対象となる企業は明らかにされていないが、EU 当局筋はロイターに対し、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊 (ZTE) が主な対象となるとの見通しを示している。 これを受け、中国商務省の沈丹陽・報道官は北京で記者団に対し、「欧州当局が調査開始に踏み切る場合、中国は世界貿易機関 (WTO) 協定、および中国の国内法に則って、中国の正当な権利と国益を守るために断固とした措置をとる」と述べた。

同報道官は、先の EU 訪問団の訪中の際、中国側は欧州委に対し通信機器をめぐる問題について提案を行ったものの、これに対する返答はまだないことを明らかにし、「対話を当して事態解決を図ることに対する EU の誠意に疑問を投げかけるものだ」と述べた。 エリクソン、アルカテル・ルーセント、ノキア・シーメンス・ネットワークスなどの欧州勢は、安価な中国製品の流入で圧迫を受けているものの、中国側の報復を恐れ、欧州委当局に苦情を申し立てていなかった。

このため、EU が今回実際に反ダンピング調査の開始に踏み切った場合、企業側からの訴えを受けずに調査開始した始めてのケースとなる。 華為技術と中興通訊はともに、中国政府から補助金を受けているとの疑いを否定。 華為技術は、市場シェアを引き上げるために自社製品を製造コストを下回る価格で販売しているとの疑いについても否定している。

中国外交筋はロイターに対し、「EU は最終的には中国と大きな問題を引き起こしたくないと考えるとみている」と予想。 「中国製品に対し(制裁)関税が発動されれば、中国だけでなく EU の産業の利益も阻害される」とし、EU は対話に応じるとの見方を示した。 (Reuters = 5-17-13)