インフル患者最多更新 B 型流行、高熱出ず気付かぬ例も

厚生労働省は 9 日、最新の 1 週間(1 月 29 日 - 2 月 4 日)に全国約 5 千カ所の定点医療機関から報告されたインフルエンザ患者数が、1 カ所あたり 54.33 人(前週 52.35 人)に上り、3 週連続で最多を更新したと発表した。 高熱が出ないこともある B 型の患者が最も多く、気づかないうちに職場や学校などで感染を広げている恐れがあるという。

インフル対策、手洗いやマスクで徹底 症状あれば受診を

都道府県別では、大分 77.09 人、福岡 69.96 人、埼玉 68.29 人、神奈川 66.31 人、高知 66.19 人の順で多い。 東京は 53.23 人、愛知は 62.52 人、大阪は 45.02 2人だった。 全都道府県で警報レベルの 30 人を超えた。 全国の推計患者数は約 282 万人(前週約 274 万人)。 年齢別では 5 - 9 歳が約 62 万人と最も多かった。 この 1 週間で休校や学年・学級閉鎖をした保育所や幼稚園、小中高校は 1 万 752 施設(前週 1 万 139 施設)に上った。

直近 5 週間のウイルスの割合は例年 2 - 3 月に感染者が増えてくる B 型が全体の 51.8% を占め、週を追うごとに増えている。 A 香港型が 26.2%、2009 年に新型として流行した A 型の H1N1 が 22.0% と続く。 複数のタイプが同時に流行しており、何度も感染する可能性がある。

和田小児科医院(東京都足立区)の和田紀之院長によると、B 型は高熱が出なかったり、下痢など消化器症状が多かったりすることがあるという。 インフルエンザと思わずに学校や職場に行き、感染を広げてしまう恐れがある。 和田さんは「家族にインフルエンザの感染者がいて自身も体調が悪くなった時は無理をせずに自宅で休み、熱が続くようなら医療機関で検査を受けてほしい」と話す。 感染対策には、▽ 手洗い、▽ せきの症状がある場合はマスクを着用、▽ 適度な湿度を保つ、▽ バランスのとれた栄養をとる、▽ 人混みを避けるなどが大事という。(土肥修一、福地慶太郎、asahi = 2-9-18)

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インフル大流行、関東や北日本にも 患者数最多また更新

インフルエンザの大流行が止まらない。 厚生労働省は 2 日、最新の 1 週間(1 月 22 - 28 日)に全国約 5 千カ所の定点医療機関から報告された患者数が、1 カ所あたり 52.35 人だったと発表した。 過去最多だった前週(51.93 人)からさらに増えた。 複数のウイルスのタイプが同時に流行する例年にない事態で、厚労省は注意を呼びかけている。

厚労省によると、前週に比べて関東や北日本でも感染が増えてきた。 都道府県別では福岡が最も多く 77.35 人。 次いで、大分 74.76 人、埼玉 65.41 人、神奈川 63.36 人、千葉 63.24 人と続く。 東京は 54.10 人、愛知は 62.16 人、大阪は 42.48 人だった。 北海道を除く 46 都府県で警報レベルの「30 人」を超えた。 全国の推計患者数は、約 274 万人。年齢別では 5 - 9 歳が約 61 万人、10 - 14 歳が約 42 万人にのぼった。 昨年 9 月からの累積患者数は 1 千万人を超えた。 この 1 週間で休校や学年・学級閉鎖をした保育所や幼稚園、小中高校は全国で 1 万 139 施設(前週 7,536 施設)にのぼった。

ウイルスのタイプ別では、例年は 2 - 3 月に流行する B 型に感染する人が最も多く、2009 年に新型として流行した A 型の H1N1 とともに同時に流行。 また、A 香港型の割合も前週より増えてきている。 このため、同じシーズンに何度も感染する可能性もある。 感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「感染してしまった場合はしっかり休養し、マスクを着用するなど感染を広げないようにすることが大事。 高齢者や子どもは重症化しやすいので体調の変化に注意してほしい。」と話す。 (土肥修一、福地慶太郎、asahi = 2-2-18)

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インフルエンザが大流行 患者数 283 万人、過去最多

インフルエンザが大流行している。 厚生労働省が 26 日発表した全国約 5 千カ所の定点医療機関から報告された最新の 1 週間(15 - 21 日)の患者数は、1 医療機関あたり 51.93 人。 前週から 2 倍近くに急増し、警報レベルの 30 人を大きく上回った。 現在の調査方法となった 1999 年以降で最多という。 厚労省によると、全国の推計の患者数は約 283 万人で、前週から 112 万人増えた。 年齢別では 5 - 9 歳が約 59 万人と最も多く、10 代も約 40 万人に上った。

都道府県別の定点1医療機関あたりの患者数は、鹿児島が最も多く 86.53 人。次いで、宮崎 84.97 人、福岡 83.99 人、大分 82.40 人、佐賀 69.64 人と続く。 東京は 49.67 人、愛知は 62.12 人、大阪は 44.17 人だった。 計 44 都府県で警報レベルを超えた。 休校や学年・学級閉鎖をした保育所や幼稚園、小中高校は全国で 7,536 施設に上り、前週の 161 施設から 50 倍近くに急増した。

ウイルスは直近の 5 週間では、2009 - 10 年に新型として流行した A 型の H1N1 と B 型が同程度で全体の 8 割超を占めた。 毎年 2 - 3 月に流行する B 型が例年より早めに増えている。 複数の型のウイルスが同時に流行し、患者数を押し上げているとみられる。 インフルエンザに詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は「子どもを中心に B 型の感染が広がっているとみられる。 今後、大人にも高齢者にも広がる恐れがあり、注意が必要だ。」と指摘する。(土肥修一、福地慶太郎、asahi = 1-26-18)


がん患者自身の細胞、遺伝子操作で味方に 実用化へ前進

がん患者の体内から免疫細胞を取り出し、遺伝子操作して攻撃力を高めて戻す新たな免疫療法「CAR-T (カーティー)細胞療法」の実用化に向けた動きが本格化している。 24 日には名古屋大学病院が、ほかに治療法がない急性リンパ性白血病の患者を対象に厚生労働省の部会に再生医療の臨床研究として申請し、了承された。 治療法がなくなって、これまで救えなかったがん患者への新たな治療法になると期待されている。

患者自身の T 細胞と呼ばれる免疫細胞に、がんになったリンパ球の目印を認識させ、がんを攻撃し続ける機能をもたせて体内に戻す。 一度の点滴で効果が出るとされる。 米国で承認されている同様のメカニズムの薬(商品名キムリアなど)が 4 千万 - 5 千万円と高額なことでも注目を集めている。 今回了承された計画は、信州大の中沢洋三教授が考案した独自の技術をもとに名大と信州大が共同開発した。 治療費の大幅な削減を目指している。

国内ではすでに、自治医大がタカラバイオと共同で臨床研究などを始めている。 米国で承認されたものや自治医大の治療法は、遺伝子操作にウイルスを用いている。 だが今回了承された名大のものでは、ウイルスを使わない。 高橋義行・名大教授によると、ウイルスを扱うことで生じる安全対策や施設整備のコストを 10 - 15 分の 1 以下に減らせる可能性があるという。 名大はまず 12 人の患者で、副作用の程度などの安全性や効果をみていく。 (asahi = 1-25-18)


小児ぜんそくの薬減らす研究ピンチ カギ握るネット寄付

子どもへの治療を充実させるために、ネット寄付の仕組みを活用する病院や医師が増えている。 国や民間からの助成金では、思うように研究費や設備費を確保できないケースも多い。 病院だけで資金を捻出することは難しく、善意による支援を求める動きが広がりつつある。 東京都狛江市の東京慈恵会医科大第三病院小児科教授の勝沼俊雄医師 (58) がクラウドファンディング (CF) の専用サイト「Readyfor」で寄付を呼びかけている。 目標額は 1 年間の研究費として 1 千万円。 21 日夕時点で、集まったのは 815 万円で、1 月末の期限までに目標額を達成できない場合は、寄付者に返還される。

小児ぜんそくの患者は全国で 100 万人とされる。 勝沼医師は、2005 年に妻(当時 38)を病気で亡くし、当時 5 歳だったぜんそくの次男ら息子 2 人を育ててきた。 ぜんそくのステロイド薬は、3 カ月間、毎日継続することが推奨されており、1 日 2 回、吸入しなければならない子どもや親の負担を身をもって感じてきた。 そんななか、11 年に海外の論文で、毎日吸入しなくても効果が劣らない可能性があることが示唆された。 吸入が、風邪の時や環境が変わる外泊時だけでいいことが明確になれば、親たちの負担を軽減でき、副作用の心配も減る。

勝沼医師は、毎日の吸入が必要ないことを立証するための臨床研究を始めたが、国などから研究費を受けた 3 年間で協力を得られた乳幼児は 82 人。立証に必要な 300 人に達せず、結論が出せないままになった。 企業を回って研究の趣意書を手渡したこともあったが、寄せられた額ではまかなえなかった。 そこで、研究を続けるための資金を CF で募ったところ、「自分もぜんそくで苦しんだ」、「つらい思いをする子どもたちのために」、「微力ですが」と支援の輪が広がり始めた。

勝沼医師は「薬を減らす研究は製薬会社からの援助が得られにくい。 子どもたちのために支援をお願いしたい。」と話している。 (貞国聖子、asahi = 1-21-18)


野鳥の死骸から鳥インフル陽性 簡易検査で判明 島根

鳥インフルエンザ

記事コピー (asahi = 11-29-10 〜 1-16-18)


大腸がんの転移に影響 3 種類の遺伝子変異を特定

特定の 3 種類の遺伝子に変異があると、大腸がんが転移しやすくなることを、金沢大などの研究チームが動物実験で突き止めた。 研究成果を応用すれば、大腸がんの転移を効果的に防ぐ新タイプの薬の開発につながりそうだ。 米医学誌キャンサー・リサーチに論文を発表した。 大腸がんは日本人では肺がんに次いで死亡数が多い。 肝臓に転移しやすく、外科手術で大腸がんを切除しても、肝転移が見つかると予後が悪い。

金沢大がん進展制御研究所の大島正伸教授らは、大腸がんの発がんにかかわるとされる 5 種類の遺伝子のうち、どの遺伝子に変異があると転移しやすいかをマウスを使って調べた。 その結果、特定の三つの遺伝子に変異があるマウスは、大腸がんの転移が起きやすいことが確認された。 今回はマウスを使った研究だが、人間でも同様のメカニズムが働いていると考えられるという。

この仕組みが働くのを阻む新タイプの薬が開発できれば、遺伝子変異の情報をもとに個々の患者に適した治療を行う「がんゲノム医療」に役立つと期待される。 (嘉幡久敬、asahi = 1-12-18)


ネットゲーム依存、疾病指定へ WHO 定義、各国で対策

インターネットゲームなどのやり過ぎで日常生活に支障をきたす症状について、世界保健機関 (WHO) が 2018 年、病気の世界的な統一基準である国際疾病分類 (ICD) に初めて盛り込む方針であることがわかった。

国際サッカー連盟 (FIFA) 主催の世界大会が開かれたり、五輪への採用が検討されたりするなどネットゲームが広く普及する中、負の側面であるネット依存の実態把握や対策に役立てられそうだ。 WHO 関係者によると、18 年 5 月の総会を経て、6 月に公表を予定する最新版の ICD-11 で、「Gaming disorder (ゲーム症・障害)」を新たに盛り込む。 17 年末にトルコで開かれた依存症に関する会議で、最終草案を確認した。

最終草案では、ゲーム症・障害を「持続または反復するゲーム行動」と説明。 ▽ ゲームをする衝動が止められない、▽ ゲームを最優先する、▽ 問題が起きてもゲームを続ける、▽ 個人や家族、社会、学習、仕事などに重大な問題が生じる - - を具体的な症状としている。 診断に必要な症状の継続期間は「最低 12 カ月」。 ただ特に幼少期は進行が早いとして、全ての症状にあてはまり、重症であれば、より短い期間でも依存症とみなす方針だ。

ゲームを含むネット依存はこれまで統一した定義がなく、国際的な統計もなかった。 新しい定義は各国での診断や統計調査に役立てられる。 厚生労働省の国際分類情報管理室も「公表から数年後に ICD-11 を統計調査に使う」としている。 (野上英文、asahi = 1-3-17)


長期記憶の仕組み解明 基礎生物学研、認知症薬開発に光

記憶を長期間維持するための脳内のメカニズムを解明したと、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)などの研究グループが発表した。 将来は認知症などの薬の開発につながる可能性もあるという。 英オンライン科学誌eライフに掲載された。 数時間から数年間にわたる長期記憶には脳内のたんぱく質合成が必要なことはこれまでに判明していたが今回、椎名伸之准教授(神経細胞生物学)らのグループが解明したのは、そのたんぱく質を合成する仕組み。 カギになるのは、神経細胞内のたんぱく質 RNG105 5という因子だ。

遺伝子操作で因子を欠損させたマウス 16 匹と正常なマウス 16 匹を明るい部屋と暗い部屋を自由に行き来できる装置に入れ、一度暗い部屋に電流を流して不快な経験を学習させた。 正常マウスは 1 週間後も暗い部屋を避けた一方、欠損マウスは 5 分後には暗い部屋を避けたものの、1 週間後はほぼ元通り暗い部屋に出入りするようになり、長期記憶が著しく低下した。 (小西正人、asahi = 12-24-17)


寒い部屋、血管つまり心筋梗塞リスク 高齢者対象に調査

冬は部屋の温度が低いと血がかたまりやすくなり、心筋梗塞などを起こす危険性が増す。 高齢者を対象としたそんな調査結果を奈良県立医科大の研究チームがまとめた。 室温が低い部屋で長い時間をすごしている人は血液をかためる血小板が多くなっていた。

奈良県明日香村や香芝市などに住む 60 歳以上の男女に協力してもらい、冬の時期に約 1,100 人(平均 72 歳)から血液を採取。長時間すごす部屋や寝室の温度を測り、起きているときの平均的な室内温度と血小板数との関係を調べた。 血小板は、けがをしたときなどに出血を止める働きがあるが、多すぎると血栓ができやすくなる。

部屋の温度に応じて参加者を「寒め(平均 11.7 度)」、「中間(同 16.2 度)」、「暖かめ(同 20.1 度)」の三つに分けて分析すると、寒めの部屋ですごす人の平均値は 1 マイクロリットルあたり約 23 万 9 千で、暖かめの部屋ですごす人より 5% ほど多かった。 値はいずれも正常とされる範囲内だったが、正常レベルでも値が高めだと心筋梗塞などで亡くなるリスクが上がるとする海外の研究をもとに計算すると、「寒め」の人は「暖かめ」の人より、同様の死亡リスクが 18% 高かった。

チームの佐伯圭吾教授(疫学)は「暖房費を節約しようと寒くてもがまんする高齢者もいるかもしれない。 でも、長くすごす部屋だけでも暖かくすれば、心筋梗塞や脳梗塞を防げる可能性がある。」と話す。 (編集委員・田村建二、asahi = 12-16-17)


窓にかぎ・1 階で寝る … インフル異常行動、国が対策通知

インフルエンザにかかった患者の異常行動が絶えないとして、厚生労働省は 27 日、未成年の患者が自宅で療養する場合、治療開始から 2 日間はマンションなどの玄関や窓にかぎをかけ、ベランダに面していない部屋で寝かせるなど、患者が外に出ないための対策をとるよう都道府県などに通知した。

急に走り出す、飛び降りるなどの異常行動を受けて同省は 2007 年以降、インフルを発症した未成年者は 2 日間 1 人にしないよう注意を促してきた。 今回はこれに加えて初めて具体的な対策を示した。 09 年 4 月 - 17 年 8 月にインフルエンザ治療薬使用後に異常行動と関連すると考えられる転落などによる死亡例は計 8 件。 昨季はリレンザとイナビルを使った 10 代の 2 人がマンションから飛び降りるなどして亡くなった。 いずれも薬との因果関係はわかっていない。 治療薬の有無や種類に関係なく異常行動がみられ、死亡例の報告も続くため、具体的な注意喚起が必要と今回の通知に踏み切った。

通知は、▽ 玄関ドアや部屋の窓にかぎをかける、▽ ベランダに面していない部屋に寝かせる、▽ 戸建て住宅の場合、1 階に寝かせる、▽ 窓に格子のある部屋で休ませる - - などを求めている。 国の研究班の 06 年以降の集計では、インフル患者の飛び降りなどの異常行動は毎季 40 - 270 件程度。 うち 10 - 数十% はインフルエンザ治療薬を使っていなかった。 研究代表者の岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「異常行動は薬の使用の有無に関係なく起き、発熱から 1 - 2 日に出ることが多い。 熱が出始めて 2 日間は特に注意してほしい。」と話す。

治療薬をめぐっては、タミフルをのんだ患者の転落事故が相次ぎ、厚労省は 07 年以降、10 代には使わないよう求めている。 10 代の患者への昨季の処方数は、いずれも推計でイナビル 138 万人、リレンザ 72 万人、タミフル 10 万人、ラピアクタ 3 万人。 (福地慶太郎、asahi = 11-27-17)

異常行動の例

・突然立ち上がって部屋から出ようとする
・興奮して窓を開けてベランダに出ようとする
・家から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない
・人に襲われる感覚を覚え、外に飛び出す
・変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回る

事故防止策

・玄関ドアやすべての部屋の窓のかぎをかける
・ベランダに面していない部屋で寝かせる
・窓に格子のある部屋で寝かせる
・一戸建てなら、1 階で寝かせる
* 厚生労働省の通知から


食物アレルギーの子、治療や検査で 8 人重症 学会調査

食物アレルギー治療の臨床研究に参加した子どもが一時心肺停止になった問題に関連し、全国でほかの子ども 8 人も治療や検査で重い症状が出ていたことが 19 日、わかった。 宇都宮市で開かれた日本小児アレルギー学会で報告された。 学会は改めて注意を呼びかけている。 国立病院機構相模原病院の海老沢元宏・臨床研究センター副センター長によると、調査はアレルギーのある食物を少しずつ食べて耐性をつける「経口免疫療法」や、その前段階として実際に食べて反応をみる「経口負荷試験」を実施する 344 施設が対象。 286 施設から回答を得た。

その結果、自力での呼吸が困難になるなど重いアレルギー症状が出た子どもが 18 人いた。 うち治療や検査に関連して症状が出た子どもが新たに 8 人いたことが判明。 いずれも後遺症はなく、その後回復したという。 ほかは、誤ってアレルギーのある食物を食べて重い症状が出たケースなどで、記憶障害の後遺症が出た事例もあったという。 海老沢さんは「今後同様のことが起きないために、報告された症例の詳しい発生状況を聞き、問題点などを検討していきたい」と話している。 (川村剛志、asahi = 11-19-17)

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アトピーの子、乳児期から少量の卵摂取を 学会が提言

日本小児アレルギー学会は 16 日、アトピー性皮膚炎の子どもが卵アレルギーになるのを防ぐために、乳児期から少しずつ卵を摂取する方法を推奨するとの提言を医療関係者向けに発表した。

アトピー性皮膚炎の子どもは機能が弱った皮膚から食品の成分が取り込まれ、食物アレルギーを発症するリスクが高いとされる。 提言は、湿疹を治した上で生後 6 カ月ごろから微量の鶏卵摂取を始めることが重要だとした。 一方、すでに卵アレルギーが疑われる乳児の卵の摂取は極めて危険だとして、摂取しないよう注意している。 子どもの食物アレルギーを防ぐには、以前は卵やピーナツなど原因となる食品を乳児期の早期から摂取することは避けるべきだとされてきた。 最近は、早期から少量ずつ摂取させることが発症防止につながるとの研究成果が国内外で相次いで発表されている。 (佐藤建仁、asahi = 6-16-17)


がん治療の光免疫療法、国内でも治験へ 米で実績

光を当ててがん細胞を壊す新たながん免疫療法の安全性を患者で確かめる臨床試験(治験)が、国内でも年内開始を目指して準備されていることがわかった。 開発した米国立保健研究所 (NIH) の小林久隆主任研究員が 11 日、朝日新聞の取材に答えた。 手術や抗がん剤で治らないがん患者の治癒につながる治療法の実用化への第一歩と期待を集める。

この治療法は「光免疫療法」。 近赤外光を当てると反応する化学物質と、特定のがん細胞に結びつく性質があるたんぱく質(抗体)を結合させた薬を注射すると、 抗体はがん細胞と結びつく。 近赤外光を当てると、化学物質が反応してがん細胞を破壊し、これをきっかけに免疫細胞が活性化するという。 近赤外光はテレビのリモコンなどに使われ、人体に当たっても害がない。 (南宏美、asahi = 11-11-17)


抗インフル薬、マダニ感染症に効果 治療法確立を目指す

マダニにかまれて感染する重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) について、愛媛大などのグループは 9 日、抗インフルエンザ薬の「アビガン(一般名・ファビピラビル)」を使った臨床研究の結果を発表した。 チームは一定の治療効果がみられたとし、研究を続けて治療法の確立につなげたいとしている。 アビガンは、ウイルスが遺伝子を複製し増殖するのを防ぐタイプの薬。 富士フイルムグループの富山化学工業(東京)が開発した。 グループは昨年、50 - 80 代の SFTS の患者 10 人に 5 - 14 日間のませた。 2 人は治療開始時に多臓器不全になっており死亡したが、8 人は血液中のウイルス量が減少して回復した。

研究責任者で愛媛大の安川正貴教授(内科)は「有効性を証明するため症例数を増やしたい。 早めの治療ができれば重症化を防ぎ救命できるはずだ。」と話す。 厚生労働省によると、国内では 2013 年に初めて SFTS の患者を確認。 毎年 60 人前後の患者が報告され、その約 2 割が亡くなっている。 ウイルスを保有するマダニにかまれて感染すると知られてきたが、最近では、飼い犬から人に感染した例も判明した。 (福地慶太郎、asahi = 11-9-17)

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マダニの季節、野外に注意 日本紅斑熱の患者、昨年最多

マダニにかまれて発症する日本紅斑(こうはん)熱の患者報告が増えている。 昨年は過去最多の 276 人、死者は 1999 年以降で 21 人に上る。 毎年、夏から秋が患者の増える季節。 国立感染症研究所(感染研)は「野外で活動する際は長袖、長ズボンの服で肌の露出を減らし、発熱などの症状が出れば、早めに医療機関を受診して」と呼びかけている。

感染研によると、日本紅斑熱の潜伏期間は 2 - 8 日で発熱や発疹、だるさなどの症状が特徴だ。 84 年に初めて徳島県で報告された。 細胞に寄生して増殖する細菌の仲間「リケッチア」が原因で、同じリケッチア症にはツツガムシ病などがある。 患者報告は 90 年代まで年間数十人程度だったが、2008 年に 100 人を超えた。 15 年は過去最多の 5 人が死亡し、死亡率は 2% を超えた。 発病日がわかっている死亡例の半数以上は、発症から 5 日以上たって医療機関を初めて受診していた。 (小川裕介、asahi = 7-14-17)

前 報 (8-15-16)


RS ウイルス大流行、通年化か 呼吸苦しそうなら受診を

乳幼児や高齢者がかかると重い肺炎になることがある感染症「RS ウイルス」が今年、大流行している。 秋から冬に流行するとされてきたが、今年は夏に患者数が急増した。 次第に減少してきたが、感染症がはやる季節はこれから。 専門家は予防策の徹底を、と注意を呼びかけている。 国立感染症研究所(感染研)によると、全国約 3 千カ所の定点医療機関からの週ごとの患者報告は 7 月ごろから急増。 8 月 28 日 - 9 月 3 日は 1 万人を超え、9 月 11 - 17 日には 1 万 500 人と、2003 年の調査開始から最多になった。 その後減少しているが、例年より多い状態が続いている。

患者数が増えた理由には、11 年秋から乳児らへの検査に公的医療保険がきくようになり検査数が増えたことがある。 地球温暖化の影響や、交通状況がよくなったことで人の行き来が増えた影響を指摘する声もあるが、実際にはよくわかっていない。 神奈川県立こども医療センターの今川智之・感染免疫科部長は「RS ウイルスは通年の感染症になってきている。 秋冬以外でもウイルスがずっとくすぶっている状況だ。」と指摘する。 患者数は落ち着きつつあるが、この先どうなるかは分からない。 過去にはいったん減少に転じた後に、再び増えだした年もある。 (土肥修一、武田耕太、asahi = 10-25-17)

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RS ウイルス、夏もご注意 鈴木おさむ氏長男、昨夏感染

乳幼児が初めて感染すると重い肺炎になるおそれがある「RS ウイルス感染症」。 例年は秋から冬にかけて流行するが、今年は夏から感染者が急増し、例年のこの時期の 3 倍以上という。 製薬会社アッヴィが東京都内で 3 日に開いたプレスセミナーで、昨夏に長男笑福(えふ)ちゃん (2) が感染した放送作家の鈴木おさむさんがその時の様子を語った。

鈴木さんが RS ウイルスを知ったのは、一緒に番組を手がけるスタッフの女性からだった。 この女性の子どもは生後半年ほどで感染し高熱が続いたという。 女性に「子どもが生まれたら RS ウイルスだけは気をつけてくださいね」と助言を受けたという。

鈴木さんは 2015 年 6 月に笑福ちゃんが誕生すると、1 年間仕事を抑えて、育児に取り組んだ。 「1 歳未満でかかるとすごく大変なので、最初の冬はめちゃくちゃ注意していたんですよ。」 翌年 8 月、1 歳 2 カ月になった笑福ちゃんが熱を出し、最初は風邪と診断された。 だがなかなか熱が下がらず、「これはおかしい」と再度受診。 検査で RS ウイルス感染症と判明。 笑福ちゃんは入院し、酸素吸入もした。 (asahi = 8-7-17)

前 報 (10-12-16)


頻繁に昼夜逆転 → 死亡率高く きついシフトをマウス実験

長期間にわたって頻繁に昼夜が逆転して体内時計が乱されると、死亡率が高まる傾向にあることを、京都府立医大の研究チームがマウスの実験で明らかにした。 人間でもシフト勤務の職場は多いが、シフトの組み方によって体の負担や体内時計の乱れを減らせる可能性があるとしている。 国際科学誌に発表した。 約 24 時間周期の体内時計が乱れると、睡眠障害など様々な病気のリスクが高まることが知られ、老齢マウスの実験で死亡率が上がることも分かっているが、長期的な影響は不明だった。

八木田和弘教授(環境生理学)らのチームは、明暗の切り替えのタイミングを変えて、明るい時間帯を 7 日ごとに 8 時間ずつ後ろにずらしていく「ゆるいシフト」と 4 日ごとに 8 時間ずつ前倒しする「きついシフト」の二つの環境下でマウスを育てた。 1 年 9 カ月の長期間にわたり行動リズムの変化などを調べた。 ゆるいシフトだと体内時計の乱れは軽微だったが、きついシフトではマウスが変化に適応できず、活動や休息の行動リズムが昼夜と関係なく乱れた。 きついシフトは 34 匹中 9 匹が死んだのに対し、ゆるい方は 14 匹中 1 匹だけで、死亡率はきつい方が 4.26 倍高いと推定された。 死んだマウスの 67% で白血球の増加など炎症反応が確認された。

八木田さんは「シフト勤務のタイプによって健康への影響が異なる可能性がある。 どんなシフトなら負担が少ないのか研究したい。」と話している。 (西川迅、asahi = 10-17-17)


O157 感染の 40 代男性が死亡 経路不明 前橋

前橋市は 3 日、同市の 40 代男性が腸管出血性大腸菌 O157 に感染し、1 日に死亡したと発表した。 感染経路は不明。 家族ら周辺への感染や入院先での院内感染は確認されていない。 埼玉、群馬県内の総菜店の商品を食べて食中毒になった患者から検出された菌の毒素の型とは異なるといい、市は関連はないとみている。 市によると、男性は 8 月 30 日に下痢などを発症し、9 月 2 日に医療機関に入院。 同 4 日に O157 への感染が確認され、その後、溶血性尿毒症症候群 (HUS) を発症したという。 (asahi = 10-3-17)

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相次ぐ O157 感染 11 都県で同じ遺伝子型の菌を検出

埼玉、群馬両県で販売する総菜を食べた人が腸管出血性大腸菌 O157 に相次いで感染し発症した問題で、両県や関西を含めて計 11 都県の感染者から、同じ遺伝子型の菌が検出されていたことが 2 日、厚生労働省への取材でわかった。 共通の食品からの感染や感染者からの二次感染で拡大している可能性があるとみて、厚労省は都道府県などに情報収集を呼びかけている。 東京、千葉、神奈川、栃木、新潟、三重、長野、滋賀、香川の各都県でこの夏、同じ遺伝子型の菌が確認されたという。

この遺伝子型の菌は、「VT2」と呼ばれる毒素を出すタイプの一種。 このタイプが検出された感染者は 8 月 20 日までの 1 週間で 144 人に上り、直近 5 年間で最も流行したピーク時の週当たりの報告数を上回った。 このタイプのうち、遺伝子型まで一致した菌が 11 都県で検出された。 厚労省は 1 日、このタイプの菌の感染者が判明した際には、どこで何を食べたかや家族の健康状態などを調べ、国立感染症研究所に報告するよう都道府県などに通知した。 夏休みが終わり学校給食が再開されるため、調理業者への注意喚起も求めている。

O157 に感染しても下痢や腹痛などの症状が出ない場合もある。 自覚症状がなくても、手洗いの徹底などで予防をしてほしいと厚労省は注意している。 (福地慶太郎、asahi =9-2-17)

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ポテサラ O157、「でりしゃす」 24 日から自主休業 群馬の発症者は 3 人に

埼玉県熊谷市のスーパー「食彩館マルシェ籠原店」に入る総菜店「でりしゃす籠原店」や群馬県内の系列店で販売されたポテトサラダを食べた客から腸管出血性大腸菌 O157 が相次いで検出された問題で、総菜店を経営するフレッシュコーポレーション(群馬県太田市新井町)は 24 日から「でりしゃす」の全 17 店舗を自主休業した。 31 日までの 1 週間で、同社は「原因が特定できていないが、消毒、清掃や安全対策を徹底するため」と話している。

一方、同県伊勢崎市でも同市内の系列店のポテトサラダを食べた人が 157 に感染していたことがわかり、県内の感染者は前橋市の女児と 60 代女性と合わせ、計 3 人になった。 県によると、新たに発症が判明したのは、伊勢崎市の 90 代女性。 入院中というが、ポテトサラダが原因かは断定しておらず、女性がポテトサラダを購入した時期も不明という。

また、前橋市によると、女児と 60 代女性の 2 人は今月 11 日に、同じ店舗で購入したものを食べたといい、引き続き、ポテトサラダとの因果関係を調査している。 一方、高崎市保健所は 24 日、ポテトサラダを製造した同市の食品会社が原材料の野菜を仕入れた専門業者に立ち入り調査を実施。 原因究明を急いでいる。 (sankei = 8-24-17)

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製造会社から 157 検出されず ポテトサラダ食中毒

埼玉県熊谷市や前橋市のスーパーの総菜店で買ったポテトサラダを食べた人が下痢や腹痛を訴えた問題で、群馬県高崎市保健所は 23 日、ポテトサラダをつくって出荷した市内の食品加工会社に立ち入り調査した。 腸管出血性大腸菌 157 が検出された人らが食べたのと同じ今月 6、7 両日に出荷されたポテトサラダの残りを検査したが、157 は検出されなかったと発表した。

埼玉県内では、同じ系列の総菜店でポテトサラダを買って食べた 4 - 49 歳の男女計 13 人が下痢や腹痛などを訴え、うち 9 人の便から 157 が検出された。 また、前橋市保健所などによると、群馬県内でも、ポテトサラダを食べた後に発症し、O157 に感染していた人が 3 人いることがわかった。 発症者は両県で計 16 人になった。

ポテトサラダの主な原材料はジャガイモ、ニンジン、キュウリ、タマネギ、キャベツで、高崎市内の別の業者が皮をむいたりカットしたりして加工会社に納入。 この際、塩素剤による消毒などがされたというが、高崎市保健所はこの業者にも状況を確認する。 市保健所はこの日、埼玉県側に O157 が検出されなかったことや「(施設内に)衛生管理上、明らかに不適切な箇所は確認できなかった」と伝えた。 埼玉県で重症化して意識不明だった女児 (5) は、県によると、家族の呼びかけに応じるようになったという。 (日高敏景、上田雅文、平良孝陽、asaHi = 8-23-17)


生涯医療費は 2,500 万円! 70 歳以上に集中!

医療費の半分は 70 歳以上で使う!

国民 1 人あたりが一生涯でかかる医療費を「生涯医療費」といい、年々、増加傾向にあるそうです。 厚生労働省の調べをもとに、生命保険文化センターが推計したところ、生涯医療費は 2,500 万円でした。 中には、ほとんど病院に行くことなく、つまり、医療費をかけずに亡くなる人もいるとは思いますが、平均するとこれくらいかかっているということです。

この金額は、平成 23 年度のデータをもとにした推計なので、現在はもっとかかっているかもしれません。 医療技術の進歩で検査や治療は高額化していますし、高い薬も登場していますから。 それはさておき、年齢層別に見ると、医療費は 0 - 4 歳の乳幼児期にちょっとかかり、その後は成長にともなって減っていき、20 歳から徐々に右肩上がりになっています。 そして、半分を使う分岐年齢を見てみると 70 歳です。 つまり、医療費の半分は 70 歳以上の高齢期に集中するということです。

高齢者の負担増は避けられない!? 自助努力を!

前段で触れた金額は、公的健康保険が使われた医療費です。 ありがたいことに、国民皆保険制度のおかげで、私たちは医療費の一部しか負担していません。 自己負担割合は、70 歳から 2 割(現役並み所得者は 3 割)、75 歳以上は 1 割(同)に下がります。 つまり、医療費のうち、半分以上を使う 70 歳以上は自己負担が少なくてすむわけですが、残りは保険料と税金で賄われています。 保険料も税金も現役世代が多く負担していますから、ほとんどを現役世代に出してもらっているということですね。

今の高齢者は、自分たちが現役世代だったころはそのときの高齢者の医療費を出してやっていたのだから、自分たちが出してもらう番になったと思っているでしょう。 確かに、その通りではありますが、高齢化の進展に伴って、公的健康保険制度に限らず、高齢者に優しい制度を維持する余裕はなくなっているのも確かです。 ですから、高齢者の負担を増やす制度改革が徐々に行われていますし、今後も行われるでしょう。 すると、今の高齢者は逃げ切れるかもしれませんが、これから高齢者になる世代は医療費の負担増を覚悟しなければなりません。 医療保険への加入でも貯蓄でもかまいませんので、自助努力で医療費の備えをしておきたいものです。 (All About = 10-1-17)


人工心臓、小型化で向上「生活の質」 研究、透析にも光

弱った心臓の働きを助ける補助人工心臓が小型化し、多くの患者に使われるようになってきた。 退院して社会復帰できる例も増え、利用期間も長くなっている。 膵臓(すいぞう)や腎臓でも患者の負担を減らす人工臓器の研究が進む。

実用化半世紀の道 4 割が社会復帰の例も

重い心不全などで弱った心臓の働きを助け、血液を体内で循環させる補助人工心臓。 心機能の回復や、移植を待っている間に欠かせない装置だ。 関東地方に住む男性は 2 年前、拡張型心筋症と診断されてから、血液を送り出す小型ポンプを体内に植え込む人工心臓を使っている。 自宅で生活できるようになり、仕事にも復帰。 A5 サイズのコントローラーにバッテリーをつけ、カバンに入れて介助者と外出もできる。 周りの人や物に、体内とつながるケーブルが当たらないよう注意が必要だ。

1960 年代に開発され始めた初期の補助人工心臓は体外設置型で、「拍動流型」という体外のポンプを空気圧で拍動させて血液を送り出す仕組みだった。 空気を送る駆動装置は大型で、消費電力も多いため、装着は入院が原則だった。

2000 年ごろから、小型のポンプを体内に植え込むタイプが相次いで登場。 米国では現在、年に約 3 千人が手術を受けている。 日本では 2011 年以降、四つの機種が保険適用され、これまでに約 700 例の実績がある。 16 年からは、心臓移植を受けずに植え込み型補助人工心臓をつけて過ごす長期在宅治療の治験も始まった。 東京女子医大では、植え込み型をつけた患者の 4 割が、社会復帰したり復学したりしたという。 立石実助教は「植え込み型の登場で、患者さんの QOL (生活の質)は格段に上がった」と話す。

ポンプの小型化、植え込みを可能に 課題は感染症のリスク

小型化の鍵となったのは、ポンプの工夫だ。 拍動流型はポンプが大型で、耐久性にも難点があった。 東京女子医大に在籍していた山崎健二さん(現・北海道循環器病院先進医療研究所長)は 1989 年ごろ、拍動させずに一定の速度で血液を流し続けるシステムの研究をヒントに、心臓の左心室のそばにポンプを植え込み、大動脈とつなぐ「定常流型」という方法を思いついた。

山崎さんらは、この方式を使って補助人工心臓を試作。 ポンプ内に小さな血の塊(血栓)が生じ、脳などの血管を詰まらせる塞栓(そくせん)症を防ぐため、軸受けに水が循環し、羽根車が動圧で浮いたまま回転する仕組みを採用。 ポンプの重さが 420 グラムの「EVAHEART (エバハート)」を開発した。 現在、ポンプの外側を薄くしてさらに小型・軽量化した後継機の年内承認を目指す。 海外でも、接触軸受けの「HeartMate (ハートメート) II」の次モデルは、磁気で羽根車を浮かす仕組みを採用。 バッテリーなどのケーブルを耳の後ろから出す Jarvik (ジャービック) 2000 の別のモデルが使われ始めるなど、進化が続いている。

小型の補助人工心臓の登場で、患者の生活の質が上がり、長期間使うことができるようになったが、課題も残る。 利用者は、血栓予防で血液が固まりにくくする薬を飲み続けるため、消化管出血などのリスクが高まる。 体内のポンプは外部のコントローラーとケーブルでつながり、感染症を起こしやすい。 拘束型心筋症など、一部の心臓病には使うことができない。 完全に体内に植え込める補助人工心臓の登場も待たれるが、山崎さんは「電池の故障などのたびに手術が必要になり、現実的ではない。 人の臓器に人工の機械が追いつくのは難しいのでは。」と話す。

インスリン注射、透析にも変革の一歩 人工臓器、研究進む

膵臓や腎臓の働きを担う人工臓器の研究も進んでいる。 糖の代謝に必要なインスリンを膵臓で作り出せなくなる 1 型糖尿病。 毎日インスリン注射をする手間を減らせるのが、体に常時取り付けておく携帯型のインスリンポンプだ。 腹部につけたセンサーで血糖の参考値を測り、利用者が量を設定すれば、チューブを通して自動でインスリンを注入でき、微量の調整もできる。 下がりすぎを予測するとアラームが鳴る。 ポンプを扱う日本メドトロニックの村中祥生さんは「外食中や学校、会社などで注射を打ちづらいという声は多い」と話す。

米国では、血糖値に応じて最適な注入量を決める完全自動の「人工膵臓(すいぞう)」が臨床応用されたが、日本での導入は決まっていない。 腎臓の働きが下がってくると必要になる透析も、患者にとって大きな負担だ。 東京医科大の菅野義彦主任教授と、慶応大の三木則尚教授は「インプラント(植え込み型)人工腎臓」の開発に取り組む。

三木さんが透析装置の小型化に取り組んだのがきっかけ。 透析用の濾過(ろか)フィルターを使い、血管と尿管をつなぐ。 体内で血液をこして、不要物は尿として排出する。 従来の透析回数を減らすねらいだ。 三木さんは「装置だけなら数センチ角の大きさにできる」と話す。 人間の腎臓なら、こぶし大で実現できるのではないかと言う。 この夏からはイヌによる研究が始まった。 菅野さんは「実現して透析を少しでも減らせれば、患者はとても助かるはず。 再生医療が進むまでの橋渡しになれれば」と意気込んでいる。 (水野梓)

臓器移植、平均待機 3 年 人工心臓、高まるニーズ

海外に比べて日本の臓器提供数は少ない。 昨年の脳死下臓器提供は 64 例で、心臓は 52 件だった。 2015 年時点で、人口 100 万人あたり、米国は 28.5 人、韓国は 10 人で、日本は 0.7 人だった。 心臓移植では、移植までの平均待機期間が約 3 年で、長期化している。 米国でもドナーが不足しており、補助人工心臓を使うケースは増えている。 15 年は 3 千例ほどが植え込まれたが、半数はその後も心臓移植を受けずに、補助人工心臓を植え込んだまま過ごす長期在宅治療だったという。 (asahi = 9-23-17)