中国人民銀、仮想通貨を全面禁止 「違法」と位置付け

[上海/ロンドン] 中国人民銀行(中央銀行)を含む中国の証券、銀行規制当局などの 10 機関は 24 日、暗号資産(仮想通貨)の取引と採掘(マイニング)を全面的に禁止すると発表した。 仮想通貨に関連する活動を「違法」と位置付け、海外の取引所が中国本土向けのサービスを提供することも禁止。 市場では、ビットコインなどの仮想通貨のほか、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーン関連企業の株価が急落している。

人民銀は声明で、仮想通貨が伝統的な通貨と同じように流通することがあってはならないとし、海外の取引所が中国本土向けのサービスを提供することも禁止すると表明。 金融機関、決済会社、インターネット企業が仮想通貨の取引を手助けすることも禁止し、こうした行為のリスク監視を強化する方針を示した。 その上で「人々の財産を守り、経済・金融・社会の秩序を維持するため、仮想通貨の投機、関連する金融活動、不正行為を断固として取り締まる」と表明した。

国家発展改革委員会(発改委)は、仮想通貨のマイニング活動は中国の経済成長にほとんど貢献しない一方で、カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)達成を阻害するとし、マイニングに必要な資金支援と電力供給を断ち切ると表明した。 発表を受けてビットコインは 4 万 0,693 ドルと、9% を超えて下落。 イーサと XRP も共に 10% 下落した。 米株式市場上場のマイニング関連銘柄も急落し、ライオット・ブロックチェーン、マラソン・デジタル、ビット・デジタルは 6.3 - 7.5% 安。 仮想通貨交換業者のコインベース・グローバルは 3.4% 下落した。

仮想通貨ブローカー、エニグマ・セキュリティーズの調査責任者ジョセフ・エドワーズ氏は「仮想通貨市場は全体的に極めて脆弱。 この種の下押し要因でパニック状態になる。 仮想通貨は中国では引き続きグレーエリアに存在する」と指摘。 「市場は幾分かパニック状態になっている」と述べた。 中国は 5 月、金融機関と決済機関による仮想通貨取引に関連するサービスの提供を禁止。 これに先立ち 2013 年と 17 年にの類似の規制強化を打ち出していた。

ニューヨーク大学のウインストン・マー非常勤教授は「中国のこれまでの仮想通貨市場に対する取り締まりの中で、今回は最多の機関が関与し、最も包括的な規制の枠組みとなった」と指摘。 ロンドンに本拠を置くビクワント・クリプト・エクスチェンジのジョージ・ザリア最高経営責任者 (CFO) は「中国当局は、資本を巡る規制強化の政策に逆行するとして、仮想通貨市場の発展を支持しない姿勢を極めて明確に示した」と述べた。

コインシェアーズの調査部門責任者、クリストファー・ベンドキセン氏は、今回の措置のあおりを受けるのは主に中国企業になると指摘。 「中国企業は年間約 60 億ドルのマイニング活動による収入を失う。 失われた分はカザフスタン、ロシア、米国などに流れる。」との見方を示した。 アナリストは、中国当局は仮想通貨がデジタル人民元に対する脅威になると見なしていると指摘。 米国のパット・トゥーミー上院議員(共和党)は「中国当局は経済的な自由を忌避するあまり、ここ数十年で最大の革新に自国民が参加することも容認できなくなっている」と批判した。

今回の決定で主要な仮想通貨取引所がどの程度の影響を受けるかは、現時点では不明。 仮想通貨取引所大手バイナンスの広報担当者によると、同社は中国から 17 年以降、締め出されている。 米決済大手のペイパルの広報担当者は、中国で仮想通貨に関連するサービスは提供していないとした。 コインベースはコメントを控えている。 (Reuters = 9-24-21)

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中国ビットコイン採掘業界、政府の禁止措置で壊滅状態

[上海] 暗号資産(仮想通貨)・ビットコインの「マイニング(採掘)」で世界シェアの 50% 強を占める中国では、政府と金融当局が先月、マイニング禁止の方針を打ち出した。 このため業者が機器を投げ売りしたり、米テキサス州やカザフスタンなど海外に逃げ出そうとしたりしており、国内のマイニング業界は壊滅状態に陥っている。

南西部の四川省で仮想通貨のマイニング施設を運営するマイク・ファン氏は「マイニング業者の多くは政府の方針に従い、事業から撤退している。 マイニング機器の売られ方は、まるで金属スクラップのようだ。」と話す。 四川省は、ビットコインのマイニング拠点として新疆ウイグル自治区に次いで国内 2 位の規模。 だが、地元政府が 1 週間前に仮想通貨禁止令を出した。

世界全体にビットコイン取引の熱狂が広がった影響で、中国国内にも仮想通貨の投機的取引が復活し、国務院(内閣に相当)は 5 月下旬、金融リスクを回避するため、ビットコインの取引とマイニングに対する取り締まり強化を発表した。 新たな方針発表は中国人民銀行(中央銀行)が中央銀行デジタル通貨 (CBDC) 「デジタル人民元」の試験を進めるタイミングと重なった。

中国の当局者は、仮想通貨が経済の秩序を乱し、違法な資産取引や資金洗浄を後押しすると説明している。 アナリストによると、中国政府の懸念要素には、デジタル人民元との競合や、電力を大量に消費するビットコインのマイニングによる環境被害も含まれる。 中央の禁止方針発表を受けて、内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区、雲南省、四川省などマイニング施設が集中している地方が、マイニング事業根絶に向けた具体策を公表。 海外投資家の間で中国という巨大市場が混乱に見舞われるとの警戒感が広がり、ビットコイン価格が急落して一時は 3 万ドルを割り込み、4 月に付けた過去最高値から半分以下の水準になった。

雲南省でマイニング事業を運営するリュー・ホンフェイ氏は「政府が容認しないなら、廃業せざるを得ない。 中国で共産党に盾突くことなどできるわけがない。」と述べた。 OKEx インサイツのシニアディレクター、アダム・ジェームズ氏の話では、一連の禁止措置によって中国におけるビットコインのマイニング産業の最大 90% で廃業の可能性がある。 ビットコインなど仮想通貨は、大量の電力を消費し、高性能コンピューターで複雑な問題を解くことで採掘される。 コンサルタント会社のブロックスブリッジ・コンサルティングの創業者、ニシャント・シャルマ氏は、中国では「ほとんどのマイニング業者が装置を停止し、手放している」と明かした。

シャルマ氏は、中国のマイニング事業者の廃業がそのまま「どの海外の事業者にとっても恩恵になっている」と説明し、その理由としてハッシュレート(採掘に利用されるコンピューターの計算力を測る指標)に占める割合が自動的に高まり、これに比例する形でマイニングの報酬が増える点を挙げた。 ニューヨーク大学法学部の非常勤教授、ウィンストン・マー氏は「中国ではマイニングの時代が終わった。」と言い切った。

海外移転

マイニングのための装置「リグ」は、禁止発表後に中国本土で価格が暴落した。 四川省のマイニング業者は、リグの価格が 4 月と 5 月には 1 台が 4,000 元(620 ドル)前後だったが、今では安ければ 700 - 800 元で買えると教えてくれた。 中国で最大のマイニング装置メーカー、ビットメインは 25 日、中国での製品販売停止を発表。 米国、カナダ、オーストラリア、ロシア、カザフスタン、インドネシアなどで「高質な」電力供給のある場所を顧客ともども探していると表明した。 BIT マイニングは 21 日、マイニング装置 320 台をカザフスタンへ無事に送ったと発表した。 これは第 1 弾で、計 3 回に分けて 7 月 1 日までに 2,600 台を送る計画だ。

BIT マイニングのトップは、声明で「質の高い代替的なマイニング資源を求めて海外での展開を加速する」と述べた。 BIT は米テキサス州の仮想通貨データセンターにも投資している。 四川省でマイニング施設を運営するファン・デンジー氏のチームもカザフスタンなど海外での可能性も模索している。 「政府が方針を転換しなければ、ほかに選択肢はない。 中央政府の決定は無視できない。」という。

一方、スンと名乗ったあるプロジェクトマネジャーは、国内のマイニング業者がロシアに移転するのを手助けしているが、これまでのところ引き合いは低調だ。 「装置を海外に移すのはリスクが大きい。 事実上、自分の資産の管理権を手放すことになるから。」と語るスン氏は、規制の緩い広東省で、新たな電力供給の確保も進めている。 マイニング業者の中には、最終的に禁止措置が緩和されると期待する声もある。 四川省のマイニング業者のワン・ウェイフェン氏は「電力供給は止められたが、プロジェクトの中止は命じられていない。 だから様子見だ。 まだ、かすかな望みはある。」と強調した。 (Samuel Shen、Andrew Galbraith、Reuters = 6-28-21)


仮想通貨 660 億円流出か サイバー攻撃、過去最大

|【ニューヨーク】 「分散型金融」と呼ばれる暗号資産(仮想通貨)サービスを手掛けるポリ・ネットワークは 10 日、サイバー攻撃を受けて仮想通貨が不正に流出したと発表した。 米メディアによると流出額は約 6 億ドル(約 660 億円)。 2018 年に仮想通貨交換業者のコインチェックから流出した 580 億円相当を上回り、過去最大になると伝えた。 分散型金融は、特定の仲介者や管理主体を必要としない仮想通貨の金融サービスで、プログラムで自律的に運営されている。 仮想通貨の売買や貸し借りを容易にできるのが特徴で、利用者が近年急増しているとされるが、安全性の課題が浮き彫りになった。 (kyodo = 8-11-21)


ビットコイン、テスラの購入後の上げ失う - 中国人民銀など逆風

→ 中国人民銀行、仮想通貨を決済手段として認めない方針を表明
一 一時 10% 安の 3 万 8,973 ドル、最高値から約 40% 下落し 2 月以来の安値

仮想通貨ビットコインは 19 日の取引で下落。 4 万ドルを割り込み、電気自動車メーカー、テスラが同通貨を購入したと最高経営責任者 (CEO) のイーロン・マスク氏が明らかにして以降の上げを全て失った。 マスク氏はテスラがビットコインによる支払いを受け入れるとも 2 月 8 日に述べていた。 ビットコインはロンドン時間午前 6 時 36 分(日本時間午後 2 時 36 分)現在、3 万 9,360 ドル前後。 6 万 5,000 ドルに近い過去最高値からは約 40% 下落した。 アジア時間には一時 10% 安の 3 万 8,973 ドルとなった。

マスク氏は先週、テスラがビットコイン支払いの受け入れをやめたと発言し市場を驚かせた。 18 日には中国人民銀行(中央銀行)が仮想通貨を決済手段として認めない方針をあらためて示し、ビットコインのほかイーサ、ドージコイン、そして先週話題を呼んだインターネットコンピューターなどの仮想通貨が下落した。 シティー・インデックスのシニア金融市場アナリスト、フィオナ・チンコッタ氏は「仮想通貨のこうした大きな変動は、資産としての投機的な性格を際立たせる」と述べた。

人民銀はメッセージアプリ微信(ウィーチャット)の公式アカウントで、仮想通貨は実際の通貨ではないため市場で使用されるべきではなく、使用はできないと明言。 金融機関や決済サービス会社が、製品やサービスの価格を仮想通貨で設定することは許されないと説明した。 サクソ・マーケッツのアジア太平洋地域最高経営責任者 (CEO) のアダム・レイノルズ氏は中国の動きについて「驚きは全くない」とコメント。 購入で国境を越える資金移動が伴う「仮想通貨の国内利用を避けることは資本規制維持に欠かせない。 強い資本規制を敷く政府が容認できるデジタル通貨は自国の中央銀行デジタル通貨 (CBDC) だけだ」と話した。

人民銀は CBDC である「デジタル人民元」の実用化に取り組んでいる。 (Vildana Hajric & Joanna Ossinger、Bloomberg = 5-19-21)



ビットコイン最高値更新、一時 2 万 9,000 ドル突破 - 勢い衰えず

→ 時 2 万 9,292 ドル - 日本時間午前 10 時 12 分現在は 2 万 8,520 ドル
一 コロナ禍でビットコインは今年に入り 4 倍に上昇

世界最大の暗号資産(仮想通貨)ビットコインが 31 日、過去最高値を再び更新した。 今月に入り約 50% 上げているが、勢いが衰える兆しは見られない。 ビットコインは香港時間午前 9 時 12 分(日本時間同 10 時 12 分)現在、2 万 8,520 ドル。 一時 2 万 9,292 ドルを付けた。 このままいけば、月間上昇率は 2019 年 5 月以来の大きさとなる。 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の中、ビットコインは今年に入り 4 倍に上昇している。 (Eric Lam、Bloomberg = 12-31-20)


ビットコインたった 1 日で 5 割急落 暗号資産も「売り」

代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインの取引価格が 12 日夜から 13 日午前にかけて急落し、1 年ぶりの安値となった。 英暗号資産取引所ビットスタンプによると、日本時間 12 日午後 7 時ごろに 7,300 ドル程度で取引されていたが、その後に急落し、13 日午前 11 時過ぎに 3,850 ドルまで下げ、47% の下落になった。 新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株安を受け、リスクを避けるために暗号資産全般にも売りが広がる。 取引量急増で、アクセスしにくくなった取引所もある。 (北京 = 福田直之、asahi = 3-13-20)



ビットコイン、半日で 4 割急騰 習氏の発言で買い殺到?

代表的な暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格が 25 日夜から上昇し、26 日午前までの 15 時間あまりで 4 割も急騰した。 暗号資産の取引を禁じる中国で、習近平(シーチンピン)国家主席が暗号資産の根幹技術の推進に言及したことが買いを誘ったのでは、と話題を呼んでいる。 7,400 ドル(約 80 万円)台で低迷していたビットコインの価格は日本時間 25 日午後 7 時半ごろから上がり始め、26 日午前 11 時前には一時、1 万ドルの大台を突破した。 午後 2 時時点では 9,600 ドル台で取引されている。

相場が上向く直前に流れたのが、習氏が 24 日に開かれた中国共産党の勉強会で、ビットコインの根幹技術「ブロックチェーン」に言及したことを伝える国営新華社通信の記事だった。 それによると、習氏は「ブロックチェーン標準化の研究に力を入れ、国際的な発言権とルール制定権を高めなければならない」と語ったという。 中国は 2017 年に国内でビットコインなど暗号資産の取引を禁じているが、ブロックチェーンについては積極的に活用する方針で、社会インフラへの活用などが進められている。 (北京 = 福田直之、asahi = 10-26-19)


仮想通貨リブラから 5 社離脱 ビザ・マスターカードなど

米フェイスブック (FB) が計画を主導する暗号資産(仮想通貨)「リブラ」の発行・管理団体から、米クレジットカード大手のビザとマスターカードなど 5 社が離脱したことが 11 日、わかった。 合わせて世界 5 千万規模の店舗網を持つ米カード大手 2 社や、主要な支払い・決済会社の相次ぐ離脱は、リブラの普及にとって大きな痛手だ。

発行・管理団体「リブラ協会」からの離脱が明らかになったのは、ビザとマスターカードのほか、米決済支援大手ストライプ、南米の決済大手メルカドパゴ、米競売大手イーベイの 5 社。 ビザは 11 日、朝日新聞の取材に対し、「当社は現時点では、リブラ協会には参加しない決断をした」と説明する一方で、リブラが規制当局が求める水準の対応ができるのか注視している姿勢を示し、リブラに対して引き続き関心を寄せている考えを示した。

今月 4 日に離脱した米ネット決済大手ペイパルを合わせると、もともとリブラ協会を構成していた 28 の企業・団体のうち、主要な 6 社が離脱した。 参加企業は、FB 子会社「カリブラ」など 22 の企業・団体に減った。 支払い・決済会社は従来 6 社あったが、このうち 5 社が抜けた形だ。 リブラはもともと、世界で二十数億人に上る FB 利用者のほか、ビザとマスターカードの世界計 5 千万の店舗網、ペイパルやストライプなどの主要なオンライン決済企業の参加によりネット上で幅広く使える、という広範囲の利用網が大きな強みとみられていた。 それだけに、今回のビザやストライプなど主要な支払い・決済会社の離脱は、影響が大きい。

この時期に主要企業が相次いで離脱するのは、週明けの 14 日に、参加企業がリブラ協会への関与を明確にする「リブラ委員会」の初会合が、スイスで開催されるためだ。 リブラの発行計画に対して、米議会からは最近、参加企業には厳しい規制を適用すべきだという声が高まっている。 風当たりが強まっていることを受け、「リブラ委員会」の初会合を前に、離脱する企業が増えているものとみられる。 FB は 6 月、FB 子会社など 28 の企業・団体で「リブラ協会」を設立し、来年上半期に暗号資産の発行をめざすと発表していた。 (サンフランシスコ = 尾形聡彦、asahi = 10-12-19)

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FB 暗号資産リブラに「重大な懸念」 FRB 議長が警戒

米連邦準備制度理事会 (FRB) のパウエル議長が、米フェイスブック (FB) が計画する暗号資産(仮想通貨)リブラについて強い警戒感を示した。 パウエル氏は 10 日、米下院での証言でリブラについて「プライバシーやマネーロンダリング、消費者保護、金融制度の安定性などの点で多くの重大な懸念がある」と述べた。

パウエル氏は、FB がリブラの計画を発表した 6 月の数カ月前に、FRB との間で協議したと説明。 すでに FRB 内にはリブラの課題について検討する専門部署を設けており、「世界中の政府や中央銀行とも連携して課題を調べる」という。 FB が「ブロックチェーン」の技術を用いてつくる巨大な「通貨圏」と、既存の国家や中央銀行をベースとした金融秩序とがどう折り合うのかは、まだ見極めにくい段階だ。 パウエル氏は「(リブラの)懸念に取り組むにあたっては辛抱強く慎重な姿勢が求められるべきで、実現に向けて全力疾走するようなことはすべきではない」と警告した。 (ワシントン = 青山直篤、asahi = 7-12-19)

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フェイスブック仮想通貨、極秘計画の内幕

ここ数年で最も大胆な賭けに出る準備を進めていた米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者 (CEO) が示した最初のヒントを、ほとんどの人は見逃していた。 2018 年の抱負をまとめた文書の最後から 2 番目の段落。 暗号化と暗号通貨について「もっと踏み込んで研究する」と同氏は書いていた。 ザッカーバーグ氏はすでに社内チームを立ち上げ、ひそかに新たなグローバル通貨の可能性について研究を始めていた。

それからわずか 18 カ月で、その答えを公表できる準備が整った。 「リブラ」だ。 実物資産の裏付けを持つ仮想通貨(暗号資産)で、米国のビザやマスターカード、ペイパル、ウーバーテクノロジーズ、スウェーデンのスポティファイなど 27 のパートナーが協力する。

元ペイパル社長が中心的役割

中心的役割を果たしたのは、元ペイパル社長のデービッド・マーカス氏。 このプロジェクトのために社内全体から技術者を引き込んだ。 18 年前半、英政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカへの情報流出事件でフェイスブックの危機が深刻化するなかでも、仮想通貨チームは速やかに動き、水面下で外部のブロックチェーン(分散型台帳)技術の専門家に接触して協力を仰いでいた。

米ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツが支援するスタートアップ企業アンカレッジ、仮想通貨の保管事業を手がける米コインベースや香港のザポに出資する米リビット・キャピタルなど、仮想通貨やフィンテックの会社は、18 年 5 月にマーカス氏が正式にブロックチェーンチームのリーダーに指名される前の時点で、フェイスブックと話を進めていたという。 これらの企業は全て、スイスに本拠を置き 20 年前半にリブラを立ち上げる非営利組織、リブラ協会の「創設パートナー」となっている。

パートナー企業によると、いくらかの紆余曲折はあったものの、フェイスブックは当初から新たな仮想通貨の開発を明確な目標としていた。 フェイスブックは 18 年前半にブロックチェーン技術の模索を始め、スタートアップ企業に接触した。 2 人の関係筋によると、米アルゴランドなどの買収を考えていたという。 だが、フェイスブックの支配権とリブラの分散化の度合いをめぐる意見対立などから、買収協議は不調に終わった。

フェイスブックの内部では、新しい通貨の開発は相当な難題と受け止められていた。 社内の技術者や製品マネジャーは、広告アルゴリズムの最適化や写真共有の単純化に精通した人材だ。 「もう 1 年以上、毎日 20 時間くらいやっているが、まだのみ込めていない」と、18 年 6 月に画像共有サイトを提供するインスタグラムからフェイスブックのブロックチェーン製品担当責任者になったケビン・ウェイル氏は言う。 リブラは「私がこれまで手がけてきたあらゆるものと異なっている」と同氏は先週、サンフランシスコ造幣局(史跡)での取材で語った。

「全く新しい技術で、急激に進化」

「基本的に全く新しい技術で、しかも急激に進化している。 グローバル通貨の経験者などいない。 どこを向いても新しくて、刺激的だ。」 フェイスブックの新たな取り組みは、ほどなく社外に波紋を広げ始めた。 マーカス氏は 18 年 8 月、仮想通貨保管の大手であるコインベースの取締役から退いた。 就任からわずか 9 カ月後のことだった。 これは最終的にリブラに 100 社のパートナーを引き入れようとするフェイスブックにとって、最初期の試金石となった。 コインベースは創設パートナーの 1 社だ。

「あまりにも厄介なことにならないよう願っている」と、コインベースの事業開発責任者で元フェイスブック社員のジム・ミグダル氏は言う。 「うまくいくと確信しているが、こちらもすべてがバラ色になる万能薬のようなものを持っているわけではない。」 当初の勢いとは裏腹に、19 年初めの時点でフェイスブックのブロックチェーンチームは士気がしぼんでいた。 プロジェクトのある関係者によると、取り組みが具体的な成果につながるのか、多くのメンバーが不安を感じていたという。

だが、この関係者によると、傘下の 3 つの SNS の対話機能を 1 つの暗号化システムに統合することなど、ザッカーバーグ氏が 1 月末にプライバシー重視の方針を打ち出した頃、リブラに「ゴーサイン」が出たという。 フェイスブックが他のパートナー候補に本格的な売り込みを始めたのはこの時期で、相手先には完全な守秘を求めていた。 「全てが秘密のベールに覆われていた」と言うのは、現時点でリブラの唯一の学術的パートナーである非営利団体クリエイティブ・デストラクション・ラボのチーフエコノミスト、ジョシュア・ガンス氏だ。

リブラ支配権手放す

それでもフェイスブックは重要な一つの譲歩をした。 リブラの発行開始とともに支配権を手放すことを約束したのだ。 ガンス氏は「驚くべきことに、私たちは他の全てのパートナーと同等の議決権を得る」と話す。 「私たちにとっては思わぬ恵みだ。」

創設パートナーとしてリブラ協会に加盟するには、リブラ・インベストメント・トークンに 1,000 万ドル(約 11 億円)以上投資することや、時価総額 10 億ドルまたは 2,000 万人以上の顧客基盤という一定の規模を持つことなどが要件となる。 その見返りとして創設パートナーには、まだ定款が最終決定していない協会のガバナンス(統治)の策定に参画することや、消費者や取引先を引き込むための様々な奨励策が認められる。

フェイスブックは、時間の経過とともに、リブラ協会は同社だけでなく創設パートナーに対する依存度も下がっていくとしている。 だが、同協会が今週公表した文書には、フェイスブックは「2019 年末まで主導的役割を維持することが見込まれる」と記されており、実質的には来年のネットワーク立ち上げまで支配権を握り続ける。 クレジットカード会社のビザとマスターカードは真っ先に声をかけられたグループに属するが、英ネット通販のファーフェッチや米決済サービス大手ペイパルなどは、ほんの 2 カ月前に加わった。

「動きは速かった。 このようなプロジェクトは多くの人が一斉に飛び乗る必要がある。 簡単なことではない。」と、ファーフェッチのステファニー・フェア最高戦略責任者 (CSO) は言う。 「誰を引き込み、どのようにプラットフォームをつくり上げるか、(フェイスブックは)考え抜いていた。」 だが、フェイスブックは事を急ぎすぎていると懸念する向きもある。

「個人的つながり優先」との非難も

「これは全てマラソンのようなものなのに、フェイスブックはダッシュしようとしている」と、ある世界的な銀行で技術革新を担当する幹部は言う。 最初のパートナーに加えられなかった企業からは、フェイスブックは商業的関係や個人的なつながりのある企業を選び出したと非難する声が上がっている。 銀行は 1 社も入っておらず、グーグルやアップルなど、シリコンバレーを本拠とするフェイスブックの最大のライバル企業も外れている。

だが、マーカス氏は妥当な選択だと主張する。 「このようなネットワークの立ち上げでは基本的に、初期段階で最大の価値をもたらすのは誰かということになる」と同氏は言う。 「となると相手は限られる。 選ばれたのは、計画実現への困難な旅を私たちと共にすることについて、最も情熱的なエネルギーを持つ会社だ。」 一部のパートナーも、この先数カ月が見込み違いの展開になれば離脱もありうると本音を漏らしている。

「必要なところまで行き着くには、信じられないほどの量のキャンペーンやセキュリティー、知識が求められる」と、非営利団体ウイメンズ・ワールド・バンキングのトム・ジョーンズ最高執行責任者 (COO) は言う。 マスターカードのジョン・ランバート上級副社長(デジタルソリューション担当)は「特定の参加者に負担が偏ると、うまくいかなくなる」と言う。 「信頼が極めて重要だ。」 (Tim Bradshaw, Martin Coulter & Hannah Murphy、Finacial Times = 6-20-19)


暗号資産 35 億円相当が流出 ビットポイントジャパン

金融サービスなどを手がけるリミックスポイントは 12 日、グループの暗号資産(仮想通貨)交換業者「ビットポイントジャパン」が運営する交換所が不正アクセスを受け、ビットコインなど総額約 35 億円相当の暗号資産が外部に流出したと発表した。 暗号資産の巨額流出は、2018 年 9 月にテックビューロが運営する交換所「Zaif (ザイフ)」で約 67 億円相当が流出して以来。

リミックスポイントによると、11 日午後 10 時 10 分ごろ、取り扱う暗号資産の送金で異常を検知し、12 日午前 2 時ごろまでに不正流出を確認した。 ビットポイントジャパンは 12 日午前 10 時半までに暗号資産の売買や交換を含むすべてのサービスを停止した。 流出した暗号資産はビットコインのほか、ビットコインキャッシュ、イーサリアム、ライトコイン、リップルの 5 種類。 流出した 35 億円分のうち、25 億円分が顧客の資産で、10 億円分は自社の資産だったという。 流出した顧客の資産については、ビットポイントジャパンで補償する方針。

ビットポイントジャパンは 18 年 6 月に金融庁から業務改善命令を受け、内部統制や経営管理の強化を図っていた。 今年 6 月、継続的な報告期間が終了していた。 (高橋克典、asahi = 7-12-19)