佐 波 理 綴

「佐波理綴 30 年の歩み」展を観覧しました。 '佐波理' の名は、正倉院の御物からいただいたとのことですが、この綴れ織の製作工程についての説明は見当たりませんでした。 筆者が見る限り、多彩で光沢のある箔を細く裁断、それを織り込んで柄を作り出しています、と述べると、やはり最初に思いつくのが「孔雀の羽」。 言うまでもなく、展示品の中にもありました。 発色、グラデーション、明暗、輝きなどが他の織り方より、ずっと容易に表現できるわけです。

和装の場合は、主に帯として製作されてきました。 従って、色も緑、紫、濃紺、チャコールグレーなど、少しばかり、濃いめの色使いが多いように思います。 金色など光輝く色調であれば、むしろサンクトペテルブルグのエルミタージュに置かれる方が似合うのかもしれません。 展示作品のメインのシリーズは、まるで旅行展のようです。 京都の名所、日本の原風景、更には遠く中東、ヨーロッパへ。 写真や絵画から織物へ映し出され、それが再び、眼の中では現実の風景となって蘇ります。

展示されている作品の中に鎧の縅(おどし、鎧の札を繋ぎ合わせる織紐の部分)の重ね合わせをシンプルに図案化し、発色を落とし、微妙で、繊細なグラデーションで表現しているものがありましたが、数ある作品の中でとりわけ西欧人に受け入れられたとのこと、確かに納得できます。

佐波理さんの商品がきものビギナーの最初の一枚になることはないでしょうし、着るものの基本的な要素、耐用性、機能性といったものとは対極にあります。 だからこそ、それを持つ方にとっては誇りでもあります。 '辻が花の絞り' のように、さらに進化を続け、いつまでも大切に残しておいて欲しいものです。

(竜、9-2-11)

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