平家物語縁起

辻村寿三郎さんが作製された人形による「平家物語縁起」が新宿高島屋でも展示されました。

特徴のある高い鼻に左右不揃いの半月に近い眼。 栄華を極める人物のきらびやかな衣装と、身をやつしてしまった人物のすさんだ姿。 海外交易で一門と国を富ませた清盛ですが、伝染病まで持ち込んでしまい、己自身がその病にむしばまれていきます。

しかも黄泉の世界からは崇徳帝の怨霊が人身御供に送られた信西入道だけでは満足できず、まだまだ浮世の人物を狙っているのでしょう。 そこは、生への執着、苦悩が否応なく再現される世界でした。

言うまでもなく、人形のまとう衣装もしっかりと考証されていますので、宮廷の装いが武士に、そして江戸時代以降の庶民へと吸収され、変遷していったかよく分かります。

ちょうど 4 年前、同じ場所で、内藤清美さんによる「艶源氏」の紙人形展が開かれました。 それを思い出すと、どうしても比較してしまいます。 無彩の白い紙人形でも、登場人物が発する、情念、情欲、情怨を感じ取り、その迫力に魅せられてしまいました。 白黒反転した陽炎のように、光源氏と取り巻く女性たちの息づかいまで、前世から現世へと呼び戻して貰った思いでした。

まさしく、この「艶源氏」と今回の「平家物語縁起」の共通のテーマは「無常」です。 「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり ・・・。」

(竜、10-14-12)

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