源氏物語の 1000 年
「小袖 江戸のオートクチュール」展でも、きもの姿の方を見かけたのですが、やはり、こちらでも目立ちました。 館内では何の違和感もなく溶け込み、又、おのずと心がなごむのは気のせいだけではないと思います。
源氏物語が書かれて 1000 年。 この地球上でも比類なき芸術作品であることは誰しも否定できません。 ここに積み上がった古い綴じ本には、多くの挿絵を挟み読みやすく書き直されたものまであり、長い間、多くの人々に愛され、読み継がれてきたのもよくわかります。
ただ展示会では、どうしても絵巻が展示の中心に位置してしまいます。 源氏物語の絵巻が最初に描かれて、おそらく 800 年余、現在まで多くの絵師に受け継がれ描かれてきました。 その大半が、お手本どおりに絵を再生させており、幸いにして今も平安の世をかいま見ることができます。 日本古来のこのやり方で、木造建築も又、同様に護られ、ほぼ建立当時のままに残されていることはたいそうありがたいことです。
さて、絵巻作製に携わった絵師の気持ちはどうだったのでしょうか? 己の解釈や創造力まで内にしまって絵を仕上げることに、少なからず抵抗もあったのではないかと思えてなりません。 あの宗達の絵からでさえ、筆のにぶりを感じたのですが ・・・。
やはり近世になって、忠実な模写から脱却できた時、源氏の絵巻も新しく、力強く生まれ変わってきたようです。 たとえば、松園の描く六条御息所はご自身の化身なのかもしれません。 師匠栖鳳への激しい嫉妬、とストレートに受け止めてしまうのは筆者だけではなかったと思います。