西九州新幹線、全駅で乗客が退避 「午後3時34分に爆破」と予告

|JR 九州は 28 日午後、西九州新幹線の施設を爆破するとの予告が長崎、佐賀両県内の自治体に届いたことを受け、沿線の全駅で駅舎から退避するよう乗客に呼びかけた。 午後 3 時ごろから全線で上下線とも運転を見合わせたが、安全を確認したうえで午後 4 時過ぎに運行を再開した。 西九州新幹線は 23 日に開業したばかり。

新大村駅がある長崎県大村市によると、爆破予告のメールは 28 日午前 5 時 28 分に市の情報受け付けの宛先に届いた。 「西九州新幹線の施設複数箇所に高性能な爆弾を仕掛けた。 爆破時間は 9 月 28 日水曜日の午後 3 時 34 分」などと書かれていた。 差出人は過去の別の爆破予告に使われている名称と同じだった。 市は愉快犯の可能性が高いとみているが、警察に届け出るとともに駅周辺の見回りなどをしている。

また、嬉野温泉駅のある佐賀県嬉野市と、武雄温泉駅のある同県武雄市にも同時刻に同じ内容のメールが届いた。 同市の武雄消防署は 28 日午後 2 時 45 分、朝日新聞の取材に対し「爆破予告があったという情報は、午後 2 時に県危機管理防災課から入ったが、現在待機している状況」としている。 佐賀県警武雄署によると、午前中に武雄市役所から「爆破予告」の連絡が入り、武雄温泉駅周辺で不審物を探したが、不審物は見つかっていない。 線路沿いのパトロールもしているが、異常はないという。

鹿島署などは威力業務妨害などの容疑で、嬉野温泉駅などに警察官を派遣し警戒を続けている。 JR 諫早駅からかもめに乗って佐賀県の嬉野市に宿泊予定だったという女性 (82) は、駅に 1 時間半足止めとなった。 「せっかく開通したのに、遅延に、爆破予告。 毎日のように何か起きている。」と話していた。 (asahi = 9-28-22)


西九州新幹線が開業 一番列車、満席の予約で長崎駅を出発

長崎県と佐賀県を結ぶ JR 九州の西九州新幹線(武雄温泉―長崎)が 23 日、開業。 午前 6 時 17 分、上り一番列車の武雄温泉駅行き「かもめ 2 号」が満席の予約で長崎駅を出発しました。 (asahi = 9-23-22)


博多に「直通」しない西九州新幹線 通過地の佐賀反発、開業前に暗雲

九州新幹線西九州ルート(西九州新幹線)の武雄温泉 - 長崎の開業まで 23 日で 1 カ月となった。 自治体や企業はコロナ禍で観光が落ち込んでいるだけに経済の活性化を期待する。 一方で、開業区間は 66 キロと実質的に最短の新幹線となる。 建設費は 6,197 億円までふくらみ、費用対効果や地元の負担などが課題だ。 整備新幹線は北陸や北海道でも建設中で、進め方が改めて問われる。

「確実に成功させ開業効果を最大にしたい。 長崎と佐賀にたくさんの人を呼び込みたい。」 JR 九州の古宮洋二社長は 22 日、IC カードの会見で西九州新幹線についてこう語った。 博多とは武雄温泉で在来線の特急と結ぶ。 博多 - 長崎は最速 1 時間 20 分と 30 分短くなり、自由席の料金は 5,520 円と 460 円高くなる。 武雄温泉と長崎の間には嬉野温泉、新大村、諫早の 3 駅ができる。 並行在来線の肥前山口 - 諫早は、長崎県と佐賀県が税金で鉄道施設を管理し、JR が運行する。

いまは九州新幹線鹿児島ルートとは直接つながっておらず、どこまで利用者が増えるのか不透明だ。 建設費は 2012 年の認可時点の約 5 千億円から 2 割超増えた。 国土交通省は得られる便益と費用を比べた費用対効果を当初は「1.1」と見込んでいた。 ところが建設費の増加もあって、19 年の試算では「0.5」まで落ち込んだ。 在来線の特急を乗り継がないと博多まで行けないことも、費用対効果の低下につながっている。 在来線も走れる「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」を導入する計画だったが、開発に失敗した。 国交省は武雄温泉から九州新幹線の新鳥栖までの約 50 キロを早期に整備したい考えだ。

だが、通過する佐賀県にとってはメリットが大きいとはいえない。 JR 九州が並行在来線を切り離したり、特急列車を減らしたりすることも想定される。 佐賀県側は「合意が守られていない」と反発しており、武雄温泉 - 新鳥栖の着工のめどは立っていない。 22 日の会見で佐賀県の山口祥義知事はフリーゲージトレインの開発が前提だったと主張。 武雄温泉 - 新鳥栖が未着工区間とされることについては「ぴんとこない」と不満をにじませた。 同席した長崎県の大石賢吾知事は、フル規格でつながることを実現したいとしつつ、「長崎県の思いだけでは難しい。一緒に課題を解決して実現させたい」と述べた。 (加藤裕則)

整備新幹線 膨らむ工費

整備新幹線では北陸(金沢 - 敦賀)や北海道(新函館北斗 - 札幌)でも工事が進む。 金沢―敦賀は 24 年春に開業予定だ。 新函館北斗 - 札幌は 30 年度末(31 年 3 月末)をめざしている。 建設費や並行在来線の課題は西九州と共通している。

建設費は当初の予定より上ぶれを繰り返してきた。 北陸の金沢 - 敦賀間は 12 年の着工時には建設費を 1 兆 1,600 億円と見積もっていたが、2 度引き上げられ 1 兆 6,800 億円と 4 割以上増えた。 1997 年に開業した北陸の高崎 - 長野は 2,400 億円、北海道の新青森 - 新函館北斗も 1,100 億円の追加費用がかかった。 近年は人件費や資材価格が値上がりしており、建設中の区間ではさらなる上ぶれも予想される。 北陸は敦賀から新大阪まで延ばす計画だ。 国交省は敦賀 - 新大阪間の建設費を 2 兆 1 千億円と 16 年に見積もったが、実際は大きく増加するとみられる。

新幹線に巨費が投じられるなか在来線は存廃の危機に直面している。 北海道新幹線の札幌延伸にともなう並行在来線のうち小樽―長万部の約 140 キロの区間は、JR 北海道から切り離され廃線となる見通しだ。 赤字ローカル線は全国で増えている。 国鉄時代にはバス転換などの基準は、1 キロあたりの 1 日平均乗客数(輸送密度)が 4 千人未満とされていた。 JR の 4 千人未満の路線は民営化直後には全体の 36% だったが、マイカーの普及や過疎化もあって、2020 年度には 57% となった。

JR 東日本は 7 月、輸送密度 2 千人未満の路線の収支状況を公表した。 35 路線 66 区間のすべてが赤字だった。 JR 東海を除く JR 各社はローカル線の収支を明らかにし、バス転換などを視野に自治体側と協議していきたい考えだ。 国も輸送密度 1 千人未満の路線を対象に、自治体と鉄道会社が見直し協議に入る新たな枠組みをつくる。 並行在来線を含め身近な路線が揺らぐなか、新幹線重視には疑問の声もある。 それでも、税金で高速鉄道網をつくることへの要望は根強い。 国交省のある幹部は「地方における観光のにぎわい創出など経済効果が大きい。 新幹線はまだまだ求められている。」とする。 (松本真弥、野口陽)

税金投入 JR負担抑える

自治体や JR 側が整備新幹線を望むのは、建設費の多くが国の税金でまかなわれるためだ。自治体にとっては地元の建設会社などにお金が落ちる公共工事としての利点もある。 JR 側は設備投資の負担を抑えつつ、在来線と比べ収益力の高い路線を手に入れることができる。 整備新幹線は 1973 年に北海道、東北、北陸、九州・鹿児島、九州・長崎の 5 路線の計画ができた。

いまの仕組みでは国交省が管轄する鉄道・運輸機構が線路や駅をつくる。 機構は新幹線を運行する JR 各社に線路などを貸し出して建設費の一部を時間をかけて回収する。 JR 側の負担割合は一概には言えない。 残りの建設費のうち 3 分の 2 を国、3 分の 1 を沿線の都道府県や市町村が負担する。 自治体の負担は半分ほどが将来、交付税措置で国から戻ってくる。

15 年に開業した北陸の長野 - 金沢(228 キロ)の建設費は約 1 兆 8 千億円。 この区間の貸付料は年 245 億円で、JR東日本と西日本が 30 年間にわたって計 7.350 億円を支払う。 西九州の JR 九州への貸付料は決まっていない。 長崎県はこれまでに約 1 千億円を出している。 (高木真也、asahi = 8-23-22)

整備新幹線をめぐる主な動き
1970年全国新幹線鉄道整備法が成立
73年5 路線(北海道、東北、北陸、九州・鹿児島、九州・長崎)の整備計画決定
87年国鉄民営化で JR 各社が発足
97年北陸・高崎 - 長野が開業
2002年東北・盛岡 - 八戸が開業
04年九州・新八代 - 鹿児島中央が開業
09年収支採算性など着工 5 条件を決める
10年東北・八戸 - 新青森が開業
11年九州・博多 - 新八代が開業
15年北陸・長野 - 金沢が開業
16年北海道・新青森 - 新函館北斗が開業
22年9 月 23 日に九州の武雄温泉 - 長崎が開業予定
24年春に北陸新幹線の金沢 - 敦賀が開業予定
31年3 月末めどに北海道の新函館北斗 - 札幌の開業をめざす
西九州新幹線の主な経緯
1985年旧国鉄が長崎県佐世保市を通る博多 - 長崎のルートを公表
91年佐賀県の井本勇知事(当時)が佐世保市を通らない新ルートとスーパー特急の利用を公表
92年長崎県が佐世保市を通らず武雄温泉などを通る博多 - 長崎のルートを決める
2007年並行在来線の肥前山口 - 諫早について佐賀県と長崎県が鉄道施設を管理し JR 九州が運行を担う「上下分離方式」を採用
08年武雄温泉 - 諫早をフル規格で着工 新鳥栖 - 武雄温泉はフリーゲージトレイン(FGT) で計画
16年FGT の開発が遅れ、武雄温泉で乗り継ぐリレー方式を決める
19年与党の整備新幹線の検討委員会が新鳥栖 - 武雄温泉をフル規格で建設する方針を決める

博多 - 長崎の自由席は 5,520 円 9 月開業の西九州新幹線で JR 九州

JR 九州は 27 日、9 月 23 日に開業する西九州新幹線(武雄温泉 - 長崎)の運賃と特急料金を国土交通省に認可申請した。 博多 - 長崎で在来線特急と新幹線を乗り継ぐ自由席の料金は計 5,520 円。 現在の在来線特急より 460 円高い。 最短の所要時間は 30 分短い 1 時間 20 分となる。 新幹線のルートのうち、新鳥栖 - 武雄温泉は未着工。 そのため、武雄温泉駅(佐賀県武雄市)のホームで新幹線と特急を接続する「対面乗り換え」方式をとる。

乗り継ぐ場合の特急料金は、割高感を抑えるため、在来線特急と新幹線をそれぞれ 1 割引きにした。 認可後、ウェブ予約などの割引料金も改めて設定する。 未着工区間の新鳥栖―武雄温泉は整備方法を巡り、国や佐賀県などの間で協議が続いている。 (asahi = 4-27-22)


西九州新幹線 9 月 23 日開業へ JR 九州 武雄温泉 - 長崎の 66 キロ

JR 九州が西九州新幹線(武雄温泉 - 長崎)の開業日を 9 月 23 日とする方向で最終調整していることがわかった。 複数の関係者が 17 日明らかにした。 同社はこれまで「2022 年秋開業」と説明していた。 3 連休の初日にあたる 9 月 23 日とするのは、秋の行楽シーズンを意識したとみられる。 この区間は全長約 66 キロ。駅数は新駅二つを含む 5 駅。 列車名は「かもめ」に決まっている。 九州新幹線とつなぐ新鳥栖 - 武雄温泉の区間は未着工で、佐賀県や国土交通省と協議を続けている。 (asahi = 2-17-22)


西九州新幹線「かもめ」海上輸送で西海橋を通過

西九州新幹線の「かもめ」はおととい製造工場がある山口県下松市を出発し 320 キロにわたる "船旅" を続けています。 今日は午前 8 時半ごろ、針尾瀬戸に姿を現し西海橋の下を通過しました。 西海橋には珍しい新幹線の海上輸送を一目見ようと朝からカメラを手にした人たちが駆けつけていました。 車両は今日午前中に川棚港に到着しました。 このあと大村市の車両基地に運ばれ、今年秋の開通を待つことになります。 (NBC 長崎放送 = 1-8-22)



長崎新幹線アセス費、概算要求見送り濃厚 議論進展せず

九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の未着工区間(新鳥栖 - 武雄温泉)の整備を巡る協議が難航を続けている。 フル規格で進めたい国土交通省と、反発する佐賀県の溝が埋まらず、着地点が見いだせないからだ。 このため、9 月末が期限となっている来年度予算の概算要求に環境影響評価(アセスメント)の費用は盛り込まれない見通しだ。 国交省は 6 月、佐賀県に 1 通のメールを送った。 内容は、フル規格に限らず、ミニ新幹線やスーパー特急など複数の方式を盛り込んだアセスの提案だった。 この提案が通れば、整備方式の議論を継続しながらアセスを進めることができる。 「こんな提案、財務省は普通、許さない。 そこを目をつむってもらって出した『奇策』だ。」 国交省幹部はこう打ち明ける。

協議の期限を区切ることを嫌う佐賀県に配慮した形の提案だったが、県は国交省の本音を見透かすように「実質的にフル規格やミニ新幹線のためのアセス」としてはねつけた。 「奇策」に出た背景には、国交省の焦りがある。 与党検討委員会でフル規格での整備方針を決めたのは昨年 8 月。 しかし、博多までの時間短縮効果が限られ、660 億円もの負担の割に利点が薄い佐賀県はフル規格に反対している。 赤羽一嘉国交相と山口祥義知事の 2 度のトップ会談などを経ても、議論の進展はみられない。

長崎新幹線の未着工区間について、国交省は 2023 年度の着工をめざしている。 23 年度は北陸新幹線(敦賀 - 新大阪)の着工が想定される時期だ。 これまで国での新幹線の財源の議論は、複数の路線を一括して行われてきた。 国交省は、北陸新幹線に後れをとれば、財源が確保できず、開業の時期も見通せなくなると懸念する。 23 年度に着工するには 9 月末ごろまでにアセスの準備に入る必要があると考える国交省は、当初 7 月末としたアセス案への回答期限を 9 月末に延ばし、引き続き回答を待っているが、県幹部は「そもそもスケジュールありきの議論はしていない」と意に介さない。

議論の行方はどうなるのか。国交省鉄道局の寺田吉道次長は 2 日、参考人として招かれた佐賀県議会の終了後、「佐賀県の同意が得られなければアセス費を盛り込むのは難しい」と話した。 別の国交省幹部は「年末の予算編成まで、アセスに理解が得られるように、引き続き努力していく」と長期戦も見据えている。 (松本真弥、高橋尚之、asahi = 9-11-20)


「手紙のやりとり」に大臣怒り 長崎新幹線、迷走なお

九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)をめぐり、国土交通省と佐賀県の応酬が続いている。 佐賀県内の新鳥栖 - 武雄温泉の整備について、前向きな協議入りに向けて一時は歩み寄った両者。 ところが、事務方同士の調整はうまくいかない。 しびれを切らし、まず口火を切ったのは赤羽一嘉(かずよし)国土交通相だった。 「残念ながら、現状は手紙のやりとりが続いている。 率直に申し上げて、非常に理解に苦しむ状況であります。 われわれの信頼関係を損ねるようなかたちでの事務方のやりとりというのは、理解できない。」 18 日、東京・霞が関の国交省。 閣議後会見に臨んだ赤羽国交相は、佐賀県の山口祥義(よしのり)知事への憤りを隠さなかった。

博多駅から佐賀県内を通り、長崎駅に至る構想の長崎新幹線。 博多 - 新鳥栖は鹿児島ルートと共用し、武雄温泉 - 長崎は 2022 年度に開業する計画だ。 ともに通常の新幹線と同じ「フル規格」で走る。 ただ、佐賀県内の新鳥栖 - 武雄温泉は開業の見通しが立っていない。 与党は昨夏、この区間をフル規格で整備する方針を打ち出した。 だが、地元の佐賀県は反発している。 財政負担を強いられる割に、整備してもメリットが見えにくいからだ。

与党が折衝役に選んだのは、新幹線を所管する国交省。 赤羽国交相は昨年 12 月、山口知事と新幹線についての 2 回目の面会に臨んだ。 国交省内の大臣室内で 2 人だけで話し、幅広い協議入りに向けて検討を進めることで合意。 事務方同士で、協議の前提条件を確認する文書をつくることにした。 年が明けた 1 月にはさっそく、国交省の課長が佐賀県庁を訪ね、文書案を県側に手渡した。 この後、「手紙のやりとり」が始まった。 佐賀県は約 1 カ月後の今月 12 日、国交省の出した文書に対し、質問の文書を送った。

「協議は、フル規格に誘導するような進め方であってはならないと考えるが、これについての考えを伺う。」
「なぜ、このように協議を急がれるのか?」

質問は 12 項目にわたった。 国交省はすぐに反応し、2 日後の 14 日には回答の文書を送り返した。 しかし、佐賀県側から次に回答の「手紙」が来るのはさらに 1 カ月後の 3 月 19 日以降の見通しだった。 赤羽国交相は怒っていた。 トップ同士の面会で山口知事の顔は立てた。 事務方同士の整理を終え、1 月中には実際の協議に移りたい考えだった。 だが佐賀県側からぶつけられたのは、協議で議論すべき内容に近いものにも見えた。

「手紙のやりとりの中で『フル規格を前提としないのか』とか、何を今さらそんなことを確認しているのか。 結論がどうなるのかということを、事前のやりとりで確認を取るのは非常に違和感を感じる。」
「これは知事と私の信頼関係で始めていること。 確認したい点があれば知事から直接私に話があることが大事なのではないか。」

新型コロナウイルスの感染拡大など、問題が山積みだった今月 18 日の閣議後会見。 時間が限られる中、記者の質問を受け、赤羽国交相はせきを切ったように語っていた。 国交省関係者は会見を振り返り、上司である赤羽国交相の気持ちを代弁するように言い放った。

「知事が『政治家同士、一対一で会いたい』と言うから大臣は 2 回会った。 信頼関係を築いて、佐賀の言い分を聞く場をつくることを約束したつもりだったのに、ごちゃごちゃ言ってくる。 これに対する怒りだ。」

山口知事の目にはどう映ったのか。 佐賀県はもともと、新鳥栖 - 武雄温泉に「新幹線整備は求めたことはない」との立場だ。 過去、違う整備方式の「スーパー特急」や「フリーゲージトレイン」に合意したことはある。 だがフル規格に同意したことはない。 こうした中で湧いたフル規格は与党の「押しつけ」のようにさえ見えていた。 赤羽国交相の会見があった日の翌 19 日。 山口知事はこの日開会した県議会後、歩きながら記者団の質問に答えた。

「事務方は、それこそ『一つひとつ丁寧にやろう』というのが職務。 そこは大臣にご理解いただきたい。 やみくもに時間を遅らせていると思われるのも極めて心外だ。」

一方で、こんなメッセージも発信した。

「文書というのがお気に召さないようであれば、むしろ、こちらから案を出し、対面で、公開の場で両者が話をできる環境をつくる。」

協議の前提条件を確認する文書案を、国交省ではなく佐賀県が自らつくり、議論を交わす考えだ。 国交省側に一定程度、歩み寄る姿勢をのぞかせたように見える。 ただ、その時期のめどは、県議会定例会が閉会する 3 月 19 日以降だという。 一歩進んだかと思えば、半歩、あるいはもっと後退したかのような議論が続く。 新鳥栖 - 武雄温泉をどうするか、協議は始まってすらいない。 今後、両者は歩み寄るのか、反目しあうのか。 先は見通せない。 (高橋尚之、福井万穂、山下裕志、asahi = 2-25-20)


新幹線長崎ルート 国、フル規格なら法改正も 佐賀県の負担減へ財源変更

九州新幹線長崎ルートの未着工区間(新鳥栖 - 武雄温泉)を巡り、国土交通省がフル規格で整備する場合の佐賀県の負担軽減策として、整備新幹線の地方負担に関する法律やルールの改正を視野に入れていることが分かった。 距離に応じて沿線自治体が負担する現行のルールから、受益の割合を勘案して負担する仕組みに変えることや、JR が国に支払う施設使用料の「貸付料」の運用規則の見直しが軸になる。 佐賀県から負担軽減を提案された場合に検討に入る。

財源ルールの変更は、他の整備区間や候補の路線を抱える全国の自治体にも影響を与える。 国交省が想定するのは、地方負担の根拠法となる全国新幹線鉄道整備法(全幹法)の改正。 現行法は、通過する距離に応じて沿線自治体に負担を義務付けている。 長崎ルートの未着工区間は佐賀県内だけを通過するため、受益が大きいとみられる長崎県には負担が発生しない。 一方、道路法は国道がある都道府県の負担金の一部を「著しく利益を受ける他の都道府県に分担させることができる」と定め、受益を勘案して負担できる仕組みになっている。 国が全幹法改正を検討する場合、参考にするとみられる。 隣県が佐賀県の負担を肩代わりできることになる。

国が法改正と併せて視野に入れるのが、全幹法施行令に定められている貸付料の配分ルールの変更だ。 現在は JR 各社が国側に支払った貸付料を一つにプールし、各線区の工事状況に応じて配分している。 国交省は昨年 4 月、未着工区間をフル規格で整備した場合の佐賀県の実質負担額として 660 億円を示した。 これは長崎ルートの貸付料をプールせずにそのまま建設費に充てた「仮定に基づく試算」と説明してきたが、11 月に佐賀県議会の自民党会派が開いた非公開の会合では、国交省鉄道局の幹部が「県が協議に入れば、制度改正に向けて努力する姿勢で 660 億円を示した」とし、努力目標との位置付けを強調したという。

法改正には他の整備区間との調整が必要で、政府関係者は「かなりの力を要する」とみる。 鉄道局幹部は「佐賀県から提案があれば検討する用意はある。 『法律があるから無理』と入り口で言うつもりはない。」と話す。 ただ、佐賀県は「フル規格が前提の協議には応じられない」としており、フル規格で整備する場合の負担軽減を求める状況にない。 与党は昨年 8 月、「整備方式はフル規格が適当」との方針をまとめ、国交省に佐賀県などと協議の場を設けるよう求めた。 佐賀県の山口祥義知事は赤羽一嘉国交相と 12 月に会談し、「幅広い協議」に向け事務レベルで確認作業を進めることで一致した。 (佐賀新聞 = 1-1-20)


並行在来線、ディーゼル列車導入で乗り換え必要に 佐賀

2022 年度予定の九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の武雄温泉―長崎間の暫定開業で、並行在来線の普通列車は、分岐点となる肥前山口で乗り換えが必要になりそうなことが分かってきた。 並行在来線の大部分が非電化されてディーゼル列車が走ることになり、速度の関係で佐賀方面の長崎線に乗り入れできない恐れがあるという。

並行在来線となる肥前山口 - 諫早間は、鉄道施設を佐賀、長崎両県が管理し、列車の運行は JR 九州が担う「上下分離方式」での存続が決まっている。 維持管理費を節約するため、特急がなくなる肥前鹿島 - 諫早間は非電化区間とし、電車より速度が遅いディーゼル列車を走らせることが前提とされてきた。 佐賀県によると、2016 年に長崎県や JR 九州などと結んだ 6 者合意などでは「開業から 23 年間は、普通列車は『現行水準』を維持」という。 JR 九州によると、現行は通勤通学の時間帯を中心に約半数が佐賀や鳥栖まで直通。 平日の肥前鹿島は上下 35 本が発着し、直通は 24 本を占める。

ただ、県によると、JR 九州は「速度の遅いディーゼル車両の並行在来線からの乗り入れは、ダイヤ編成上難しい」との見方を示しているという。 その場合、佐賀などに向かう乗客は、肥前山口でディーゼル車両から電車への乗り換えが必要となる見込みだ。 佐賀県は「これでは利便性が維持されない」として、JR 九州と長崎県との協議のなかで「直通列車も残してほしい」と求めているという。 6 者合意の『現行水準』は本数だけでなく、「直通かどうかも関わる」との立場だ。

2 つの新車両 期待と問題と

県は従来のディーゼル列車に代わり、二つの新しい車両に期待を寄せている。 一つは、JR 九州が 16 年に導入した蓄電池電車、愛称「DENCHA (デンチャ)」。 非電化区間は蓄電池の電力を使い、その他の区間は電車と同じように走る。 同社によると、走っているのは福岡県の往復の距離が 20 キロ台の区間。 肥前鹿島 - 諫早間は 45.8 キロある。 蓄電池電車は最大 90 キロ走れるが、発車と停車を繰り返し、事故などで長時間停車する可能性もあるため、県が求める並行在来線での導入は「困難と言わざるを得ない」とする。

もう一つは、ディーゼルと電気の「ハイブリッド列車」で、県は "速さ" に魅力を感じている。 こちらは技術上は導入できるが、速度は従来のディーゼル列車と変わらないという。 JR 九州は「ダイヤは需要動向に応じ、可能な限り利便性を確保するよう開業直前に決定するもの。 現時点ではコメントできない。」としている。 (福井万穂、asahi = 12-10-19)


「ルート再考も視野に」 長崎新幹線問題 JR 九州初代社長・石井幸孝氏

<オピニオン>

九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の建設問題が暗礁に乗り上げている。 一般には、メリットの少ない佐賀県が財政負担の額で妥協するかどうかが焦点のように語られているが、それはいささか当を得ていない議論である。

白紙に戻った大前提

改めて整理すると、同ルートは、JR がまだ国鉄だった 1972 年、当時の運輸省が定めた新幹線基本計画で福岡市と長崎市を結ぶ路線として決まり、翌年、全国 5 路線の一つとして整備計画に格上げされたが、国鉄経営の悪化で建設は棚上げになった。 この時点で、ルートは佐賀県鳥栖市で分岐するとか、佐賀駅を通過するなどとは書かれていない。 それ以降、佐賀県内のルートや整備方式、並行在来線についてさまざま議論があって、決着は付いていなかった。

JR の発足に伴い、経費節減案を前提に整備新幹線の建設が再開された。 西九州ルートはスーパー特急方式(曲線の多い武雄温泉 - 長崎 = 当初は諫早 = 間だけ新ルートを建設し、狭軌の在来線レールを引いて在来線特急が直通する方式)に決まり、工事が始まったのである。 その後、車輪の幅を変えられるフリーゲージトレイン (FGT) の導入が国から提案され、それを前提に武雄温泉−長崎間をフル規格とし、暫定的には武雄温泉で在来線と乗り継ぐ構想で工事が進んできた。 従って、武雄温泉以東の取り扱いは現行のJR長崎線のままであった。

ところが、FGT 断念の事態となり、議論の前提が白紙化したわけである。 これに対して与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームは先頃、新鳥栖 - 武雄温泉のフル規格整備方針を打ち出したが、国・長崎県と、現計画ではデメリットが多く反対という佐賀県とは同床異夢のままである。 ここに至り、北海道から鹿児島まで日本列島を縦貫する新幹線大動脈に接続する、短い横断新幹線はいかなる姿が望ましいか、という本質論に直面しているのである。

そもそも新幹線は、路線距離 300 - 700 キロの区間を 2 - 3 時間で結ぶのが最も得意な乗り物だ。 それも沿線の人口密度がある程度高いことが必須条件である。 長崎新幹線を含め、路線距離が 100 キロ程度の横断線は単体では成り立たない。 大動脈の縦貫線につながり遠隔地へ直通できたり、沿線の拠点機能が大動脈に直結できたりする、などのメリットがないと投資効果は生まれない。 新幹線の建設は、完成後 100 年のスパンで活用すべき一大プロジェクトである。 国家、九州内外の広域、長崎県、佐賀県のいずれにも将来にわたって効果が発揮されるルート選択こそが重要なのである。

佐賀空港ハブ化が鍵

さて、日本が先進国のみならず途上国も含め諸外国に後れを取っているのが、国際ハブ(拠点)空港の整備である。 人口減少時代を生き抜く道として、世界の交流拠点機能づくりを念頭に置くべきである。 日本には本格的なハブ空港はないと言っても過言ではない。 首都圏でも羽田と成田を組み合わせてまかなっているのが実態だ。 アジアの拠点を目指す福岡空港も 2,800 メートル滑走路 1 本しかなく超過密状態で、慢性的な発着遅延を起こしており、全国に影響している。

現在、2,500 メートル滑走路を増設計画中だが、2 本の滑走路間隔は 210 メートルで、しかも空港面積が極端に狭く駐機場や誘導路の渋滞で、やがては限界がくると思われる。 都心に近い福岡空港は午後 10 時以降は使えないのも弱点だ。 佐賀空港は現在、2 千メートル滑走路 1 本だけだが、周囲に市街地はなく、4 千メートル級への延長や、間隔を 250 メートルほど取った 4 千メートル級のさらなる増設も可能ではないか。 もちろん、24 時間使用の想定である。 国内を見渡したとき本格的なハブ空港の素質を持っている貴重な存在だ。

以上の基本認識に立って長崎新幹線のあり方を考えれば、佐賀県内のルートは肥前山口から佐賀空港経由を検討すべきである。 現在の九州新幹線鹿児島ルートとは筑後船小屋付近で接続すると最短ルートになり、佐賀空港 - 博多間は所要 25 分である。 地下鉄に乗り換えて 5 分で福岡空港だ。 佐賀空港から福岡空港、長崎空港(新大村駅)それぞれへ新幹線で1時間以内で移動でき、お客さまから見ればこれらは共用空港とも言える。

活路は「物流」にあり

人口減少が進む中、日本の鉄道は、新幹線であっても旅客頼りでは将来は厳しい。 人の移動はビジネスの IT 化でさらに少なくなろう。 だからこそ、新幹線を物流に使わない手はない。 まとまった量の貨物を高速で 500 キロ以上の遠隔地に運ぶ長距離物流は、人手不足のトラック業界とすみ分けができる。 新幹線物流が実現すれば、佐賀空港付近には物流団地や工業団地も造れよう。 有明海沿岸道路を介して九州自動車道、長崎・大分自動車道ともつながる。

佐賀空港から佐賀大 - 佐賀県庁 - 佐賀都心 - JR 佐賀駅 - 佐賀大和 IC を、南北に中量輸送機関の新交通システムで結べば利便性が高まる。 建設費が安く静粛な空気浮上リニア式軌道など選択肢はいくつかある。 また、長崎新幹線は佐賀空港から東進し、福岡県の南部、西鉄天神大牟田線と交わる場所で乗換駅を造るのもよい。 大川市と柳川市の中間に駅ができれば、新幹線で大阪方面から来たお客さまの西鉄乗り継ぎに便利で、ウィンウィン(相互利益)の関係となろう。

佐賀駅や肥前鹿島駅を通る現在の長崎線は、現行に近い快速列車主体の運行を維持して福岡都市圏への通勤通学の利便性を保てれば、第三セクターで保有して JR に運行委託する手法などもあり得る。 佐賀県内の通勤・用務客の輸送体系は現行がベストで、新幹線は代替にはならない。 将来的には、武雄温泉以西は、佐世保線を標準軌化(ミニ新幹線化)して、佐世保 - 武雄温泉 - 長崎間で県内新幹線快速を運行させる道も開けよう。 長崎市内では長崎港を接点として海路と物流新幹線の連携も検討してよい。

つまり本稿は、佐賀空港を西日本最大のハブ空港に格上げ整備し、新幹線をフル活用して佐賀、長崎、福岡 3 県の総合的な地域浮揚を目指せ - という提言である。 もちろん課題は多いが、長崎新幹線の問題には、今こそ、そうした大局的な観点での議論が求められているのではないか。 (西日本新聞 = 10-23-19)

▼ 石井幸孝氏(いしい・よしたか) : 1932 年広島県生まれ。 東京大工学部卒、国鉄入社。 車両技術者を経て経営陣入り、86 年九州総局長。 国鉄改革に携わり、87 年 JR 九州初代社長。 近著に「人口減少と鉄道(朝日新書)」。


採算性に疑問、それでも工事は続く 迷走する長崎新幹線

事業で投じた費用に対する効果を示す「費用対効果」。 巨額の公費が動く公共事業では、計画の正当性を示す重要な指標だ。 ところが長崎新幹線の建設では、それが軽視されるかのような事態が起きている。 計画が迷走する中で一体何が起きているのか。 見えてきたのは、事業の前提が何度崩れても立ち止まらず、ひたすら完成を目指す関係者の姿だった。

投資効果は「0.5」。 3 月 29 日、国土交通省が明らかにした数値は衝撃的だった。 現在建設中の九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の武雄温泉―長崎を結ぶ区間の、工事の費用と、完成による社会的効果を比べた数値だ。 効果を計算する際は、新幹線が 50 年間走ると想定し、完成による便益を工事費で割る。 便益とは、新幹線による移動時間の短縮など、社会全体が得られるメリットをお金に換算したものだ。 工事の着工では、この投資効果が「1.0」を上回ることが条件だ。 長崎新幹線の工事が 2012 年に着工したとき、投資効果は「1.1」とされ、条件を満たしていた。

だが、その後の工事費は人件費の高騰などで 2 割多い 6,200 億円に拡大。 改めて投資効果を再評価したところ、その数値は「0.5」まで下がってしまったのだ。 投資効果が下がったのは工事費増加だけが原因ではない。 長崎新幹線の路線の根幹にかかわる誤算が、その背景にある。

車両開発の誤算

九州では、南北を貫く博多 - 鹿児島中央間がすでに開通している。 長崎新幹線は、博多から鹿児島中央へ向かう途中の新鳥栖(佐賀県)から、西へ長崎まで向かう約 120 キロのルートだ。 このルートのうち、新鳥栖から武雄温泉(佐賀県)までは在来線を使い、武雄温泉から長崎までは新幹線専用のフル規格で整備することになっていた。 規格が異なる路線を走らせるため、在来線とフル規格を乗り継げる新型車両、フリーゲージトレイン (FGT) を開発する計画だった。 FGT なら車輪の幅を変え、どちらの規格の路線も走れる。 だが、FGT の開発では不具合が多発し、運行コストも想定外に上がる可能性が出た。 17 年に JR 九州は導入の断念を表明し、国交省も追認せざるを得なくなった。

それでも続く工事

工事の前提が変わり、投資効果も大きく低下した。 それなら事業は見直す - - ということにはならないのが、新幹線の建設だ。 フル規格でつくる武雄温泉 - 長崎間はすでに、6 割の工事が終わっている。 再評価では、全体の工事費を盛り込んだ投資効果だけでなく、残りの工事費を便益で割った投資効果も算出する。 6 割の工事が終わっているのだから、残りの工事費は少なく、便益を割った投資効果は大きめになる。 実際、この区間の投資効果は 1 を超える。

さすがにこの投資効果が 1 を割り込めば工事は見直されるが、今回は 1 を超えたので結局見直されない。 要するに、「ここまで作ったのだから、完成させなければ損(関係者)」という考え方だ。 もちろん国交省はそれ以上のメリットも強調する。 新幹線開業による地域振興や、在来線よりも災害に強くダイヤが安定しているなどだ。 さらに国交省は、開業後の運行方法でも「最も厳しい想定で試算した」という。

乗り換え前提で開業へ

どう「厳しい」のか。 現在の長崎新幹線の計画では、在来線とフル規格が混在する。 だが FGT の運行が断念された今、在来線部分をどうするかが計画の最大の焦点だ。 すでに武雄温泉 - 長崎間のフル規格区間が先行して工事され、同区間は 22 年度に暫定開業する予定だ。 残る新鳥栖 - 武雄温泉間は当面、在来線を使い、「対面乗り換え方式」を採る。

例えば博多から長崎へ向かう場合、今の在来線特急では 1 時間 48 分かかる。 暫定開業後は、武雄温泉までは在来線特急を使い、武雄温泉で降りて、ホームの対面の新幹線に乗り換え、長崎へ向かう。 乗り換え時間を含めて所要時間は最短で約 1 時間 20 分。 現在からの時間短縮は「大幅」とはいえないレベルだ。 国交省の言う「最も厳しい想定」とは、この対面乗り換え方式が今後 50 年間も続くと想定した、というものだ。 それでも一定のメリットがあるからこそ事業継続の必要性はあるとする。

決まらぬ整備方法

それでは、この便利とは言えず、採算も高いとはいえない乗り換え前提の方式は今後どうするのか。 それはまだ決まっていない。 新鳥栖 - 武雄温泉間をどう整備するのか。 この区間もフル規格にすれば、事業費は 6,200 億円。 在来線に新幹線用のレールも敷く、秋田新幹線や山形新幹線のような「ミニ新幹線」の場合は 1,800 億 - 2,700 億円かかる。 フル規格なら、博多 - 長崎間は 51 分、ミニなら同区間は 1 時間 13 - 19 分。 当然フル規格なら利便性は大きく高まるが、多額の負担を誰がどう負担するのか。 地元の長崎、佐賀県、国、JR 九州の調整はつかないままだ。

未着工区間の整備方式が決まらなければ、対面乗り換え方式が将来にわたって続くことになる。 JR 九州は、「収支採算性が成り立たない」として長期化は受け入れない立場で、長崎県とともに一刻も早くフル規格に決めて工事に入るように求めている。 課題になるのが佐賀県の説得だ。 フル規格にしてもミニ新幹線にしても、自県の負担額が増えるため、「二者択一から選ぶ立場にない(山口祥義知事)」と佐賀県は議論に応じない姿勢だ。

佐賀県の負担額を軽くできないかを与党は話し合っているが、新幹線の負担ルールは全国一律で決まっており、ルール変更は簡単ではない。 それでも、与党は 6 月にもフル規格かミニ新幹線か方向性を示すことを目指している。

着工判断に疑問符

そもそも、投資効果が「0.5」という数字を突きつけられたのに、「完成させなければ損」という理屈で工事を続けることに問題はないのか。 長崎新幹線は、FGT の採用を前提に置かなければ、投資効果が「1.0」を超えなかった可能性がある。 ある関係者は「FGT のおかげで存命した新幹線」とも表現する。 その FGT が頓挫したのに建設を続けることに問題はないのか。

財務省の関係者は、「投資効果の確認は、必要性の薄い新幹線計画に歯止めをかけるために重要な指標」と強調し、「1.0 を割っても工事はできるという悪例にしてはいけない」と警戒する。 しかし、整備方法を巡る議論が活発な一方、もはや工事を見直すという選択肢はほとんど議論されていない。 1970 年代に国がつくることを決めた「整備新幹線」の工事は長崎と北陸新幹線で終わる。 そしてその後には、整備新幹線への格上げを狙う、四国や山陰などの「基本計画路線」が待ち構えている。

甘い投資効果の見通しで建設を始め、前提が変わっても工事が続く - - そうした事態を繰り返されれば、巨額の費用の負担は国や地方の財政、JR の運賃に跳ね返る。 事業の着工前、着工後のより厳しい評価が関係者には求められている。 (女屋泰之、asahi = 4-22-19)

前 報 (7-28-17)