「西九州新幹線」未整備区間に "新ルート" 浮上、これでようやく膠着状態打破となるのか?

佐賀県知事、新ルート協議に前向き

未整備区間の整備方針が決まらず、膠着している西九州新幹線に新たな動きが出てきた。 与党検討委員会で新ルートが浮上するなどしているためで、この状況を打開できるのだろうか。 「(西九州新幹線のルートについて)佐賀駅自体は難しいが、ちょっと南へ行くなどいろんな可能性を検討してもいいと思う。」 山口祥義佐賀県知事は 1 月 23 日の記者会見で新ルートの協議について、前向きな姿勢を示した。

長崎県とは 1 月中旬、南里隆副知事が長崎県の馬場裕子副知事と面談したが、山口知事は、「長崎県が話をしたいのなら、いつでも対応する」と述べた。 ただ、佐賀駅を通るルートのフル規格化整備で地元負担が長崎県の 2.5 倍に膨らむことについては、「負担金は少なくとも 1,400 億円。 これでは財政を組めない状況になる。 この点も議論したい。」と訴えている。

ルート選定の難題

西九州新幹線は福岡市から長崎県長崎市へ向かう。 当初は異なる幅の線路を走れるフリーゲージトレインを導入、博多駅(福岡市博多区)から新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)まで九州新幹線、新鳥栖駅から佐賀駅(佐賀県佐賀市)を通って武雄温泉駅(佐賀県武雄市)まで長崎本線、武雄温泉駅から長崎駅(長崎県長崎市)まで新設のフル規格区間を走る計画だった。

しかし、フリーゲージトレインの実用化に失敗し、フル規格の武雄温泉 - 長崎間 69.6km が 2022 年、部分開通した。 新鳥栖 - 武雄温泉間は在来線特急を乗り継ぐ形。 国土交通省や長崎県、JR 九州はフル規格での早期全線開通を希望しているが、佐賀県が佐賀駅を通るルートに難色を示し、膠着状態に陥っている。 佐賀県は 2021 年、佐賀駅を通るルートに加え、北側の長崎自動車道付近、南側の佐賀空港付近を通る 2 ルートを検討対象に加えるよう要請した。 佐賀駅から博多駅までは在来線特急で約 40 分。 フル規格新幹線の必要性をそれほど 強く感じておらず、長崎本線が並行在来線として経営分離されるのを避けたい思いが透けて見える。

3 ルートのなかでは、佐賀空港が福岡空港を補完する役割を担える佐賀空港ルートに期待していたが、空港周辺が軟弱地盤なうえ、高さ制限や有明海の漁業への影響が考えられることから、早津江川への架橋が難しいとして国交省などの賛成を得られていない。

久留米商議所からも新ルート提案

新たなルートは、佐賀駅と佐賀空港のほぼ中間を走る地域高規格道の有明海沿岸道路付近を通る。 山口知事が 2023 年 10 月、与党検討委員会の森山裕委員長に佐賀県の考えを伝えた。 ルートはほぼ農地のなかを進む。 用地買収費を抑えられそうな一方で、佐賀駅、佐賀空港のいずれからも直線距離で 6 - 8km 離れた「中途半端な位置」にある。 国交省はより多くの利用が見込める佐賀駅ルートを支持しているが、検討委員会では新たなルートが検討対象になっているもようだ。

佐賀空港ルートだと九州新幹線との分岐を新鳥栖駅ではなく、筑後船小屋駅(福岡県筑後市)にする案が浮上していた。 この方法では、佐賀県内だけの未整備区間に福岡県が加わる。 西九州新幹線が福岡市など福岡県北部にそれほど大きなメリットがあるように見えないだけに、福岡県が負担金を受け入れるかどうか未知数の部分が残る。 福岡県の久留米商工会議所からも新ルートの提案が出ている。 本村康人会頭が商議所の新年祝賀会で明らかにしたもので、新鳥栖駅ではなく、久留米駅(福岡県久留米市)から佐賀空港北側へフル規格の路線を通す構想だ。

久留米市など筑後地方への経済波及効果や佐賀空港の活性化が期待できる。 福岡県の動向が気になるが、佐賀県からすると地元負担が軽減される。 穴見英三専務理事は「筑後の経済団体などと連携するとともに、商議所を挙げて推進に取り組みたい」と意気込んでいる。

ボールは国交省や JR 九州へ

これに対し、JR九州の古宮洋二社長は 1 月 25 日の記者会見で、「佐賀駅を通るルートが一番利用しやすく、経済効果が出る」と従来通りの立場を強調した。 久留米ルートに対しては「遠回りになって時間がかかるうえ、運賃が高くなる」と問題点を指摘している。 ただ、未整備区間のルートについてさまざまな意見が出始めたことを「一歩前進」と評価した。 佐賀県と国交省鉄道局の話し合いが 2023 年末に 10 か月ぶりに再開され、膠着打開を模索し始めたことも念頭に置いた発言と見られる。

西九州新幹線部分開業区間の開業後 1 年間の 1 日平均乗客数は約 6,600 人。 国交省は 2022 年に特急料金を認可した際、需要予測を約 7,300 人としていた。 予測を下回った理由としてはコロナ禍だけでなく、乗り換えの煩雑さが影響したと考えられる。 利用促進には乗り換えの解消が欠かせない。 今のところ、国交省や JR 九州は新ルートに歩み寄る姿勢を見せていないが、近い将来、新ルートの採用で早期の全線フル規格化に踏み切るか、あくまで経済効果にこだわり、佐賀県に同意を強いる正面突破を図るかの二者択一を迫られる可能性がある。

斉藤鉄夫国土交通相は 2023 年末の記者会見で佐賀県と国交省の話し合いが再開されたことについて「素直な意見交換ができたことは一定の意義があった」と述べた。 膠着状態を打開できるのか、ボールは国交省や JR 九州に渡っているようだ。 (高田泰、Merkmal = 1-27-24)


九州新幹線長崎ルート「南回り」協議の用意 佐賀知事、与党委に伝達

九州新幹線長崎ルート(西九州新幹線)新鳥栖 - 武雄温泉間の未着工区間の整備方針を巡り、佐賀県の山口祥義知事が与党検討委員会の森山裕委員長に対し、佐賀空港を通る南回りルートを軸に国との協議に応じる考えを伝達していたことが 1 日、判明した。 山口知事が記者団の取材に答えた。 山口知事と森山氏は 10 月 27 日、西九州新幹線の整備方針について東京都内で協議。 山口知事は 1 日の取材に対し、南回りルートが一考に値するなどとの考えを森山氏に示したとし、「その場合の課題もさまざまな観点で意見交換をした」と説明。 財政スキームなどについても「トータルで説明した」と述べた。

その上で「九州全体で考えることが大事だし、道路や港湾、空港も含めてどうあるべきかという観点では森山委員長と一致している。 それを具体的な案に落とせるかどうかだ。」と強調。 今後の協議の見通しについては「大きなところで整理ができないと、(国との)幅広い協議を事務的に続けても動いていかない。 大きな方向性として、何か整理ができれば前に進む可能性も出てくる。」と述べた。 山口知事は県議会 9 月定例会で南回りルートについて「一考に値する」などと言及していた。 (五十嵐隆浩、mainichi = 11-2-23)


1 年間で地球 8 周走った「かもめ」 ピカピカにしてお化粧してお祝い

西九州新幹線(武雄温泉 - 長崎)の開業から 1 年を迎えた 23 日、沿線 5 駅で記念の催しがあり、地域の交通網に新風を吹き込んだ新幹線の節目を祝った。 大村市の大村車両基地(長崎県大村市)でも、1 年間走り続けてきた車両を感謝を込めて清掃する催しを開催。 関係者らは今後に向けて、「県内全域に新幹線の熱の波及を」などと誓った。

かもめを水鉄砲で「丸洗い」

大村車両基地であったのは、1 年間走ってきた N700S かもめの車体を洗ってねぎらうイベント「GO MARU-ARAI (まるあらい)」。 約 58 倍の競争率となった公募で当選した親子連れら約 150 人が参加した。 イベントでは基地の工場内の車両にモップで洗剤を塗りつけた後、水鉄砲などで水をかけて車体をピカピカにした。 JR 九州によると、掃除の対象になった編成は、この 1 年間でほぼ地球 8 周にあたる 31 万 8 千キロを走行したという。 憧れの新幹線を間近で見ることができるとあって、家族連れらからは「すごいなー」、「かっこいい」などの声が上がった。

佐賀県有田町から家族で来た中原幸志さん (5) は「モップから新幹線のつるつるした感じが伝わってきた。 水鉄砲で水をかけるのが楽しかった。」とうれしそうに話した。 1 周年を記念した特別新幹線「GO WEST 号」のメイクアップ塗装も披露された。 先頭のライト周辺にはアイラインとまつげ、車両先端下部に口紅を塗った口のデザイン。 JR 九州の列車を数多くデザインしてきた水戸岡鋭治さんが手がけた。 「どうやって九州らしい、楽しい電車を作れるか考えた」と水戸岡さん。 「できれば毎年、誕生日にメイクアップを続けていきたい」と話した。

JR 九州社長「買い物需要の喚起を」

JR 九州の古宮洋二社長は「早くて便利な新幹線を PR するには利用して頂くのが一番。 こうしたイベントを通じて地元の人に愛していただけるようがんばっていきたい」と話した。 2 年目に向けては「平日の動きが芳しくない。 ビジネスや通勤通学、買い物の需要を喚起して平日も伸ばしていきたい。 最低でも 1 年目以上の利用を達成したい。」と話した。 長崎県の大石賢吾知事は「沿線自治体がにぎわっている状況は実感している。 沿線だけでなく、県内全域に新幹線の熱を波及させていかなければならない。」と 1 年を総括。 また、「沿線市を中心にまちづくりへの投資が盛んになっている。 これは新幹線の効果。 これからも、にぎわいをみんなで共感していくことが大切になる。」と話した。

大村市の園田裕史市長は「大村は交通が便利な街ということで、人口が増え続けている。 今後も新幹線を生かした町づくり、住みやすさのアピールを続けていきたい。 この車両基地もイベントの場として生かし、交流人口の拡大したい。 県内各地への新幹線経済効果の波及も県と連携していきたい。」と話した。 「GO WEST 号」は長崎駅に移動。 午後 1 時半すぎに出発式があり、さっそく客を乗せて2 年目の仕事を始めた。 ピカピカのかもめには、この日に合わせて JR 九州が発売した、乗り放題の切符を兼ねた真っ赤な T シャツを着た多くの人らが乗り込んだ。 シャツはネット販売と沿線 5 駅での当日販売で計約 6,800 枚売れたという。

出発の合図を送った県出身のタレント、長濱ねるさんは 1 年前の開業日にも出発の合図を送り、「西九州新幹線長崎県広報大使」として県内を PR してきた。 長濱さんは「街によって色んな顔があると知った。 かもめを使い、全国の人に長崎に来てほしい」、「長崎に帰るたびに街が変わっていて、変化の中にあるんだなと感じる」などと話した。 長崎駅のコンコースでは、ミカンやサバずし、お茶や波佐見焼など県内各地の特産品も売られた。 真っ赤な T シャツを着た家族連れらが駅ビル内を行き交い、買い物や食事を楽しんでいた。 (天野光一、寿柳聡、asahi = 9-23-23)


西九州新幹線、この T シャツあれば 1 日乗り放題 開業 1 周年記念

JR 九州は 1 日、西九州新幹線(武雄温泉 - 長崎)が開業 1 周年となる 23 日に 1 日乗り放題になる「T シャツきっぷ」を発売した。 ネットで予約し、希望する沿線 5 駅で当日受け取って着るか手持ちすれば改札を通ることができる。 1 枚大人 3 千円、こども 1,500 円(いずれも税込み)で限定計 1 万枚を発売。 同社や N700S かもめのイメージカラーの赤に染め上げられ、きっぷを模したタグが裾につく。開封後の払い戻しはできない。

JR 九州では節目のこの日、「西九州が真っ赤に染まる日」と題して記念イベントを予定。 特別仕様の N700S かもめ「Go West 90 号(長崎午後 1 時 58 分発、武雄温泉午後 2 時 29 分着)」と、「Go West 91 号(武雄温泉午後 2 時 41 分発、長崎午後 3 時 11 分着)」を運行する。 武雄温泉、嬉野温泉、新大村、諫早、長崎各駅などでは朝から夕方にかけて郷土芸能の披露や特産品の販売といったイベントがあり、乗り放題の T シャツきっぷがあれば、各駅の催し巡りを楽しめそうだ。 T シャツきっぷの購入は JR 九州トラベルデスクのサイト で。 初日は午後 3 時までに計 1,840 枚(大人 1,600 枚、こども 240 枚)が売れた。 申し込みは 22 日午後 3 時まで(売り切れ次第終了)。 (寿柳聡、asahi = 9-2-23)