三菱電機、ビル用機器 3 万台で法令違反 = 試験実施せず出荷

三菱電機は 22 日、ビルの入退室管理などを制御する「コントローラー」と呼ばれる機器について法令違反があったと発表した。 同社によると、電気用品安全法が定める電磁波の測定試験を実施しないまま、同法の認証適合マークを付けて計 3 万 1,930 台出荷していた。 法令違反があったのは 2012 年 12 月から今年 5 月 31 日までに出荷した製品。 使用した際に生じる電磁波ノイズが同法で規定している基準を、大半が満たさなかった。 近くでラジオを使用すると、その音声に雑音が混じる可能性があるという。 (jiji = 6-23-22)


管理職が不正を指示 墜ちたダイヤ、三菱電機
「千人以上の生活がかかっている」と当たり前に

「工場や製造ラインの採算性の向上、維持のため。 悪いとは思っていない。」 三菱電機の検査不正問題の調査結果を報告した 25 日夕の記者会見。 調査委員会の木目田裕弁護士は、不正に携わった社員らの意識をこう表現した。 発電所向けの大容量変圧器を製造する系統変電システム製作所赤穂工場(兵庫県赤穂市)。 少なくとも 1980 年代初めから品質不正が行われてきた。

始まりは 40 年以上前、利益率が落ち込んだ変圧器の採算性を維持しようと、管理職が不正を指示した。 「お前の肩には、関係会社を含め、従業員とその家族千人以上の生活がかかっている。」 社内基準を下回った設計にし、試験も規定を低くして行うよう求めた。 耐電圧試験では、設計部門が、品質管理部門に対して、実測値ではなく基準内の数字を記載するように指示。 さらに実測値も報告させ、基準内に収まっていない場合は、修正した数値を顧客に提出する試験成績書に記入するよう求めた。 木目田弁護士は「不正を行うのが当たり前のようになり、惰性のようなもので続けていた」と話す。

今回、調査委がまとめた 3 回目の報告書は、256 ページに及ぶ。 ヒアリングした担当者や管理職の大半は、当該拠点での勤務経験しかなく、他の拠点については何も知らないという反応が圧倒的多数だったという。 そうした環境が、本社や他の拠点への無関心を生んだ。 その半面で、所属する組織への帰属意識が強まり、内向きの論理をはびこらせた。 組織ぐるみの不正を「自身の帰属する拠点を守るためという正当化が顕著になされ」た結果、「品質不正の背景や温床となっていた」と分析した。

こうした構図は過去 10 年間、兵庫県内で相次いだ大手企業の不正にも当てはまる。 東洋ゴム工業(現 TOYOTIRE、伊丹市)では 2015 年、子会社が免震装置や産業用防振ゴムの製品データを改ざんした。 17 年には神戸製鋼所(神戸市中央区)で、アルミ製品などの検査不正が発覚。 21 年には住友ゴム工業(同)、今年に入ると神東塗料(尼崎市)でも不正な製品検査が明らかになった。 一連の不正の共通点は、他の部門との人事交流が少ない環境で起きたことだ。 扱う製品は企業向けで、一般消費者と向き合う必要もなかった。

その中でも三菱電機が特異なのは、不正が全国 22 拠点のうち 16 拠点と全体の 7 割を超え、他の企業よりも広がりが大きい点だ。 同社の漆間啓社長は記者会見で「これだけの件数が出ていることを真摯に受け止める。 それぞれの工場、全体を見たときに共通する風土があるのではと思っている。」と話した。 その風土を変えて、グループ従業員約 15 万人の意識を外向きにできるか - -。 神戸・和田岬での創業から 102 年目となる巨大メーカーの決意が試されている。 (高見雄樹、神戸新聞 = 5-28-22)


三菱電機、業務用エアコン 368 台をリコール

三菱電機は 17 日、2013 年 3 月 - 14 年 4 月に製造した国内向け業務用エアコン 368 台をリコールすると発表した。 室内機にオプションとして取り付けたパネルが、ワイヤの圧着加工の不良や経年劣化によって宙づりになる恐れがあるため。 これまでワイヤの脱落やパネルの宙づりは 8 台で確認されているが、人的・物的被害はなく個別の修理にとどめていた。

順次顧客に報告し、室内機の部品を交換する。 リコール対象は冷熱システム製作所(和歌山市)が製造した「2 方向天井カセット形」と呼ばれる業務用エアコンのうち、清掃時に天井からフィルターを自動で下ろせる「自動昇降パネル」が室内機に付いた製品になる。 パネルを保持する金属ワイヤが脱落する事象が 14 - 19 年に 6 件、2 本以上が脱落してパネルが宙づりになった事象が 20 - 21 年に 2 件確認されていた。 最初の報告があった時点で圧着手法を改める一方、事故につながる可能性は低いと判断し、これまでは個別の修理にとどめていた。

ただ 2 件目の宙づりが報告された 21 年 8 月以降あらためて調査し、今後も経年劣化で同様の事象が発生する可能性があると判断し、全数の修理を決めた。 三菱電機は「深くおわびする。 影響が見込まれる場合には速やかに公表する。」としている。 品質不正問題を受けて設置した調査委員会の調査対象としたことを明らかにした。 同社を巡っては、非常時に発電できなくなる恐れがあるとして 21 年 12 月に対象の全数で部品を交換すると発表した非常用発電機でも、過去に不具合の申告があったもののみを修理していたことが明らかになっている。 (nikkei = 1-17-22)


三菱電機、鎌倉製作所で新たな不正発覚 一連の問題で役員 12 人処分

検査不正問題を調べていた三菱電機は 23 日、鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)でつくる ETC 設備などで新たに不正が見つかったことを明らかにした。 一連の問題の責任について、元職を含む役員計 12 人を処分する。 漆間啓(うるまけい)社長は月額報酬の 50% を 4 カ月返上する。 同日午後に、社外の弁護士らでつくる調査委員会や漆間社長が会見し、説明する。

漆間氏のほかに処分を受けるのは柵山正樹・前会長や杉山武史・前社長ら 12 人。 元役員 6 人については、いずれも報酬の自主返納を求める。 社外弁護士らでつくるガバナンスレビュー委員会は、不正問題に適切に対応しなかったとして、柵山氏と杉山氏の経営責任について「極めて重い」と指摘した。 福山製作所(広島県福山市)や鎌倉製作所では、新たな不正が見つかった。 長崎製作所(長崎県時津町)でつくる非常用発電機について、設計ミスによる重大な不具合があったことも判明している。

三菱電機では、長崎製作所でつくる鉄道用の空調設備などの検査で、長年にわたって不正が続いていたことが 6 月に発覚した。 ほかの拠点でも不正が相次ぎ、前社長の杉山武史氏と柵山正樹会長の経営トップ 2 人が引責辞任した。 漆間氏が 7 月、専務から社長に昇格した。 漆間氏は 2017 - 19 年度の 3 年間にわたり、不正が見つかった長崎製作所などを統括する「社会システム事業本部」の担当役員だった。

三菱電機が 10 月に発表した調査報告によると、18 年度にあった一斉点検では、長崎製作所で不正の疑いがあるとの報告が事業本部に上がっていたが、長崎製作所に処理を任せて十分な改善を確認していなかった。 当時の対応について、漆間氏は 10 月の記者会見で「私が担当の時に出し切れなかった。 真摯に受け止めている。」と発言。 漆間氏の対応が適切だったかどうかが問われていた。 (村上晃一、asahi = 12-23-21)

三菱電機の不正をめぐる経緯
6月30日長崎製作所(長崎県時津町)の鉄道車両向け空調設備で検査不正を発表
7月2日当時の杉山武史社長が記者会見し引責辞任を表明
28日後任社長に漆間啓専務が昇格
8月2日冷熱システム製作所(和歌山市)の業務用空調装置で検査不備が発覚
17日受配電システム製作所(香川県丸亀市)の配電盤で検査不正を発表
9月1日福山製作所(広島県福山市)の遮断器での検査不正を発表
16日長崎製作所の「ISO9001」認証の一部取り消し
22日受配電システム製作所の「ISO9001」認証の一部取り消し
10月1日柵山正樹会長が引責辞任。長崎製作所と名古屋製作所可児工場(岐阜県可児市)の不正について調査報告を発表
12月20日長崎製作所の非常用発電機で重大な不具合があり 1,240 台の改修を発表
23日一連の問題について調査委員会が報告書を公表。新たに複数の不正が発覚し、元職を含む役員12人の処分を発表

〈三菱電機〉 国内有数の総合電機メーカー。 1921 年に三菱造船の電機製作所を母体として設立し、今年 2 月で 100 周年を迎えた。 エアコン「霧ケ峰」や冷蔵庫などの家電から、工場向けの工作機械や人工衛星、防衛関連まで幅広い製品を手がけている。 2021 年 3 月期の売上高は 4 兆 1,914 億円。 グループ従業員数は 3 月末で約 14 万 6 千人。


NY 地下鉄 2,600 両に三菱電機の空調 追加情報を要求

三菱電機の空調設備などの検査不正問題で、米ニューヨークの地下鉄を運営する公社「MTA」が三菱電機側に追加の情報提供を求めていることがわかった。 品質や安全性に関する情報を求めたとみられ、必要なら修理を要求するという。 MTA によると、保有する地下鉄車両は 6,455 両あり、三菱電機製の空調設備は約 2,600 両で使っている。 うまく空調設備が働かなければ、オーバーヒートが起こる可能性も考えられるという。

MTA は朝日新聞に対し、「サービスを提供する機器が安全性や品質基準を満たすよう、MTA は独自の厳格かつ包括的な検査プロセスを持っている」としている。 今年、これまでにオーバーヒートが起きた件数は、コロナ前の 2019 年の同時期より 13% 少ないという。 三菱電機は 30 年以上にわたり、鉄道車両の空調設備や、ブレーキやドアに使う空気圧縮機で検査を偽装していた。 不正のあった台数は調査中だが、空調設備は国内に約 6 万 8,800 台、海外に約 1 万 5,800 台出荷したという。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 7-9-21)

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数値偽装に専用プログラム 三菱電機、組織的不正か 鉄道用空調

三菱電機が鉄道車両用の空調設備の性能検査で偽装していた問題で、検査が適正と装うために、架空データを自動で作成する「専用プログラム」が使われていたことがわかった。 検査結果を記す成績書の記載内容に違和感が出ないよう、自然な数値を導き出すために使われていたとみられる。 偽装が組織的に行われていた疑いが強まった。 検査の偽装があったのは、空調設備を製造する同社の長崎製作所(長崎県時津町)。 6 月 14 日に社内で発覚した。 ▽ 冷暖房の性能、▽ 消費電力、▽ 防水、▽ 寸法や耐電圧性能などの検査で、1985 年ごろから偽装が続いていた。

複数の関係者によると、専用プログラムは複数の検査項目で使われていた。 必要な検査を適正に行っていないのに、専用プログラムを使って適正に実施したかのような架空データをつくり、成績書に記入していた。 適正な検査で実測したかのように見える自然なデータを導き出すための設定だったとみられる。 検査そのものを行っていないのに、実施したように装ったケースもあった。

同社によると、問題が発覚した性能検査は、出荷直前に同社側で実施する最終の検査という位置付け。 防水や電圧関係の性能の不備により異常な高熱や発火、延焼などが起こらないよう確認することなどが目的だ。 この検査成績書のデータが基準を満たせば「合格」として出荷される。 関係する出荷先は全国の JR や私鉄のほか、地下鉄にも及び、製品は新幹線でも使われている。 三菱電機の広報は「多大なるご迷惑をおかけし、深くおわびする」としている。 長崎製作所は、鉄道車両用の空調設備の導入計画から製造、保守までを一貫して提供している。 (柴田秀並、伊藤嘉孝)

空気圧縮設備も不正

三菱電機は 30 日夜、空調設備の「不適切検査」について正式に発表し、同社製造の「空気圧縮設備」でも検査偽装があったことを明らかにした。 鉄道車両のブレーキの作動やドアの開閉に使われる設備という。 1985 - 2020 年の空調設備の出荷は約 8 万 4,600 台で、うち海外分は約 1 万 5,800 台。 検査が不適切だった台数は「調査中」とした。 同社は「安全、機能、性能には問題がないことを確認し、本件に起因する事故は確認されていない」としている。 外部の弁護士を交えた調査委員会を設けて調べる。 (asahi = 7-1-21)

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株主「不祥事のデパート」 三菱電機、相次ぐ不正

三菱電機が長年にわたって鉄道用空調機器の性能検査を偽装していた。 こうした「品質不正」が同社で発覚するのは、これが初めてではない。

2018 年秋には、ゴム部品をつくる子会社での品質偽装が明らかになった。 硬さなどを実際よりもよく見せた製品が、エスカレーターや家電、東海道新幹線の車両などに装着されていた。 19 年夏には鋳鉄部品の製造子会社でも発覚し、不正な検査で出荷した製品がエレベーターや原発に使われていた。 さらに 20 年 2 月には三菱電機本体でも不正が見つかったと発表した。 省エネにつながるパワー半導体の一部で、顧客に示した水準の検査をしていなかった。  このように不正が次々と判明するたびに、ほかに問題がないかどうか社内で調べられたはずだ。それなのに、今になって新たに不正が発覚した。

グループ全体の問題という受け止めが不十分 指摘も

今回の不正では、安全性の重大な問題は見つかっていないとされる。 とはいえ、顧客の要求を満たさない製品を出荷し続ければ、やがて大きなトラブルにつながる懸念はぬぐえない。 三菱電機は、家電からミサイル関連の防衛装備品まで手がける日本を代表するメーカーだ。 検査不正はほかの大手メーカーでもあったが、何度も続けて見つかるのは異例だ。 最初に見つかったゴム部品の子会社の不正では、子会社の社長が会見して謝罪したが、親会社の三菱電機社長は同席しなかった。 親会社も含めたグループ全体の問題だという受け止めが、十分ではなかったとも指摘される。

三菱電機のような専門性の高い製品を幅広く手がけるメーカーでは、各地に点在する工場や研究所の独立性が強くなりがちだ。 グループ内で情報共有がしづらくなり、不正を見つけにくいとの見方もある。 ほかにも社員の労働問題やサイバー攻撃による情報流出でも、情報共有や公表の遅れなどが指摘された。 29 日にあった株主総会では、株主から「企業の根幹を支えるところで不祥事が出ている。 不祥事のデパートみたいな企業になっている。」と経営陣が批判された。 不正チェックを担う監査委員会の責任も追及された。

監査委員会は、日本企業で一般的な監査役とは違って取締役を兼ねている。 企業統治の強化につながるとされ、グローバル企業を中心に導入が広がりつつある。 チェック体制は整っているはずだったが、十分に機能していたとは言い難い。 三菱電機には、外部の目も入れた徹底した調査や再発防止策が求められる。 (内藤尚志、asahi = 6-30-21)

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三菱電機がコメント「不適切な検査が判明し調査中」

三菱電機は、長崎製作所(長崎県時津町)で製造する鉄道車両用の空調設備の一部について、不適切な検査を行っていたことが社内調査で判明し、現在、調査を進めている、とのコメントを公表した。 「速やかに対応を進め、内容を公表する予定」としている。

鉄道各社や官庁は対応に追われている。 JR 東日本は、三菱電機の空調機器を新幹線に約 1,700 台、在来線に約 8,100 台使っている。 三菱から報告があり、詳細は確認中という。 京王電鉄にも三菱から報告があり、「安全性に問題はない」とのことだった。 通常の定期点検で不備は見つかっておらず、30 日も通常運行している。

鉄道事業を所管する国土交通省は事実関係の調査を進めている。 今後、三菱電機に詳細を確認する方針だ。 鉄道の技術基準には車両の火災対策に関する定めがあり、旅客用の車体は火災の発生や延焼を防止する構造、材質であることが求められている。 今回問題となった空調設備に発火の恐れがある場合などは、この基準に抵触する可能性があるという。 製造業を所管する経済産業省には 25 日に三菱電機から不適切な検査を続けていたとの報告があった。 事実関係や原因を調べるよう伝えたという。

加藤官房長官は「遺憾だ」

三菱電機が鉄道車両用の空調設備を出荷する際、架空のデータを用いて検査を適正に実施したように装っていた問題について、加藤勝信官房長官は 30 日の記者会見で、「法令上の問題がなかったかを含めて詳細は調査中だが、不適切な検査が長年にわたり実施されてきたことの問題があり遺憾だ」と語った。 加藤氏は「事実関係の確認、原因の究明、再発防止策の策定も含め、今後の対応が適切になされるよう、政府としてしっかり機動的に対応していく」とも述べた。 三菱電機は鉄道の空調分野で国内シェアがトップクラスで、海外にも展開している。 納入先は全国の JR や私鉄、東京メトロなどの地下鉄と幅広く、製品は新幹線でも使われている。 (asahi = 6-30-21)


三菱電機、安全認証満たさず製品出荷 13 年から計 215 万台

三菱電機は 7 日、電気回路の開閉を行う電磁開閉器の一部製品で、第三者機関に安全認証登録された材料と異なるものを使用した製品を出荷していたと発表した。 対象は 2013 年から国内外に出荷した 2 機種で、計約 215 万台。 同社は今回の事態を重く受け止め、原因究明と再発防止策の策定を急ぐ。 同社によると認証登録は義務ではないという。 現時点で事故は確認されておらず、「安全性に問題はない」としている。 (jiji = 5-7-21)



三菱電機の新入社員自殺、労災認定 上司から「殺す」

2019 年夏に三菱電機の男性新入社員(当時 20 代)が自殺したことをめぐり、尼崎労働基準監督署(兵庫県)が労災だと認定したことがわかった。 教育主任だった上司から「殺すからな」などと言われたことが原因だったと判断したとみられる。 遺族側の弁護士が 11 日、会見して明らかにした。

三菱電機、相次ぐ自殺 対策「効果あると思えぬ」の声も

認定は 2 月 26 日付。 遺族側が 20 年 9 月に労災を申請していた。 遺族は弁護士を通して 11 日にコメントを公表し、「息子のケースは未然に防げたはずです。 労災認定を機に、今度こそ真剣に組織を挙げて、職場環境の改善に努めてほしい。」などとした。 三菱電機では心身の健康を害する社員が続出している。 労災認定が判明するのは、14 年 12 月以降ではこれで 6 人目で、このうち 3 人が自殺している。 ほかに子会社でも 19 年 10 月に社員の過労自殺が労災認定されている。

社員の自殺が労災と認められる例は、ほかの大企業でも相次いでいる。 15 年に広告大手電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時 24)が自ら命を絶ち、翌年に長時間労働が原因だったとして認定された。 17 年にはトヨタ自動車の男性社員(当時 28)が自殺し、19 年に上司のパワーハラスメントをもとに認定されている。

自殺の労災認定件数は、近年は年間 100 件弱で推移している。 過労やパワハラを防ぎ、社員の命を守ることは重要な課題になっている。 三菱電機では 6 年あまりの間に子会社も含め 4 人が自殺する労災が起きており、一つの企業グループでこれだけ続くのは異例だ。 三菱電機はこれまでに「働き方改革」を掲げて長時間労働を抑えるとアピールしてきたが、労災が続くことを防げなかった。

今回の労災は、生産管理システムの開発などを手がける生産技術センター(兵庫県尼崎市)に 19 年 7 月に配属された新入社員が、翌月下旬に社員寮近くの公園で自ら命を絶ったものだ。 現場に残されたメモには、当時の教育主任だった上司から「お前が飛び降りるのにちょうどいい窓あるで、死んどいた方がいいんちゃう?」、「自殺しろ」などと言われたと記されていた。 複数の関係者によると、数日後に予定されていた技術発表会に向けて、教育主任から資料の書き方などを指導されていたという。

朝日新聞が 19 年 12 月に報道して問題が発覚した。 三菱電機は報道後に、「前途ある新入社員が尊い命を落とす事態が起きましたことを非常に重く受け止め、本件について真摯に対応してまいります」とのコメントを出した。 20 年 1 月には「職場風土改革プログラム」と題する再発防止策を発表した。 杉山武史社長は同年 6 月の株主総会で質問に答える形で「やってきた施策が決して間違っていたわけではない。 いろんな価値観、働き方がある。 施策が一人ひとりにまで届いていたのか、細かな対応が不足していたという反省点をもっている。」と述べていた。

今回の自殺をめぐっては警察が捜査に乗り出す異例の展開になっていた。 兵庫県警三田署が 19 年 11 月、元教育主任を自殺教唆容疑で書類送検した。 神戸地検は 20 年 3 月、不起訴処分(嫌疑不十分)にしたと発表した。 (内藤尚志、asahi = 3-11-21)

三菱電機グループで相次ぐ労災認定 いずれも男性社員で、時期は上が発生時で下が労災認定時。 カッコ内は労基署の所在地。
12年8月自殺 当時 28 歳
14年12月名古屋北労基署(名古屋市東区)
13年6月脳こうそく 認定時 40 代
15年3月伊丹労基署(兵庫県伊丹市)
14年4月精神障害 認定時 31 歳
16年11月藤沢労基署(神奈川県藤沢市)
16年2月自殺 当時 40 代
17年6月尼崎労基署(兵庫県尼崎市)
16年4月くも膜下出血 認定時 40 代
17年8月中央労基署(東京都文京区)
17年12月自殺 当時 40 代 = 子会社の社員
19年10月但馬労基署(兵庫県豊岡市)
19年8月自殺 当時 20 代
21年3月尼崎労基署

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ブラック企業大賞で大賞を受賞した三菱電機、労務問題の再発防止策について発表

「パワーハラスメント行為を絶対に許さない職場づくりに注力」するとしています。

三菱電機は、2019 年 8 月に同社の男性新入社員の自死が発生するなど、社員の命や心身の健康にかかわる労務問題が発生していることを受け、「職場風土改革プログラム」をはじめとする再発防止策を発表しました。  同社では 2014 年以降、社員の自死や精神障害の発症といった労務問題が多発。 そのため、1 年でもっともブラックだった企業を決める「ブラック企業大賞」では、2018 年、2019 年と 2 年連続で大賞を受賞(子会社のメルコセミコンダクタエンジニアリング含む)しており、今後の取り組みについて注目が集まっています。

同社は、労務問題が発生するたびに再発防止策を講じるも同様の問題が発生している現状から、「これまでの取り組みが十分でなかった」と深く反省したとして、今回新たな施策も含めた再発防止策を発表。 「パワーハラスメント行為を絶対に許さない職場づくり」に注力するとして、社長直轄のプロジェクト「職場風土改革プログラム」を強力に推進していくとしています。

また「長時間労働の抑制・適正な労働時間管理」も重要であると認識しているとして、2016 年 4 月からさまざまな施策を推進し、労働時間削減の成果が出ている「働き方改革」に継続的に取り組んでいくとのこと。 「労務問題の再発防止を経営の最優先課題とし、社員全員が心身の健康を維持し、安心していきいきと働ける職場環境の実現にグループを挙げて全力で取り組んでまいります。(三菱電機)」 (宮原れい、ねとらぼ = 1-12-20)

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三菱電機の新入社員自殺 教唆容疑で上司書類送検

三菱電機の新入社員だった 20 代の男性が今年 8 月に自殺し、兵庫県警三田署が教育主任だった 30 代の男性社員を自殺教唆容疑で書類送検していたことが 7 日、同社や関係者への取材で分かった。 11 月 14 日付。男性は教育主任から日常的に暴言を受けていたとの証言もあり、県警が事情聴取していた。 神戸地検は刑事責任の有無を慎重に判断するとみられる。 同社などによると、男性は技術職として 4 月に入社。 7 月にシステム開発などを担う生産技術センター(兵庫県尼崎市)に配属され教育主任の指導を受けていたが、8 月下旬に自殺した。 現場に職場の人間関係に言及したメモが残されていた。

教育主任は社内調査に「死ねとは言っていないが、似たような言葉を言ったかもしれない」などと説明。 同僚社員からは、男性が暴言を受けていたとの証言が得られているという。 三菱電機は男性の自殺に関し「当局が捜査中なので詳細な回答は差し控える(広報担当者)」としている。

同社では、2014 - 17 年に長時間労働などが原因で男性社員 5 人が精神障害を患うなどして相次ぎ労災認定され、うち 2 人が自殺した。 子会社の男性社員が 17 年に過労自殺し、今年 10 月に労災認定されたことも明らかになっている。 17 年には新入社員の男性(当時 25)が職場の上司や先輩からいじめや嫌がらせを受けて自殺したとして、両親が約 1 億 1,800 万円の損害賠償を三菱電機に求める訴訟を東京地裁に起こしている。 (kyodo = 12-7-19)

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三菱電機、子会社でも過労自殺 時間外月 100 時間超も

大手電機メーカー、三菱電機の子会社の男性社員が 2017 年末に過労自殺し、今年 10 月に労災認定されたことがわかった。 三菱電機では 14 - 17 年に男性社員 5 人が長時間労働が原因で相次いで労災認定され、うち 2 人が過労自殺だったことが昨年 9 月の朝日新聞の報道で明らかになっている。 16 年度から「働き方改革」を掲げて長時間労働を抑制する方針を打ち出し、子会社への指導も進めていたが、過労自殺の再発を防げなかった。

複数の関係者によると、過労自殺したのは、半導体製品をつくる三菱電機のパワーデバイス製作所(福岡市)内に本社を置く子会社、メルコセミコンダクタエンジニアリングの 40 代(当時)の技術者。 別の子会社メルコパワーデバイスに出向後、豊岡工場(兵庫県豊岡市)で勤務していた 15 年 4 月 - 16 年 11 月の間に長時間労働による精神障害を発症した。 時間外労働が 100 時間を超えた月もあった。 豊岡工場からメルコパワーデバイスの福岡市の職場に移った後の 17 年 12 月に自殺し、遺族側は長時間労働が原因だとして昨年 7 月に労災を申請。 但馬労働基準監督署(豊岡市)が今年 10 月 4 日付で認定した。

メルコパワーは「労務管理は適切だったと考えているが、労災認定は重く受け止めている。(業務部)」 三菱電機は「関係会社の働き方改革に対する指導や支援は適切に実施してきた。 亡くなる方が出たことは重く受け止めており、関係会社を含めて適正な労務管理の徹底に引き続き取り組んでいく。(広報)」としている。 (北川慧一、内藤尚志、asahi = 11-22-19)



三菱電機、パワー半導体で検査不備 4 年 8 カ月にわたり

[東京] 三菱電機は 10 日、一部のパワー半導体製品で、出荷検査に不備があったと発表した。 パワーデバイス製作所(福岡市)が製造するパワー半導体で、2014 年 11 月上旬から 19 年 6 月下旬までの約 4 年 8 カ月にわたり、顧客と決めた規格どおりの検査を実施せず、2 種の計 4,705 台を出荷した。 品質管理強化の取り組みの中で昨年 6 月に判明した。 同顧客向け全製品の確認などで公表までに時間を要した。 品質検証の結果、該当する製品の機能や安全性に問題はないとしている。

顧客は、該当するパワー半導体を採用した製品への影響の有無を調査しているところだという。 14 年 5 月に新たな規格を取り決めた後も検査要領書の改訂の確認が不十分で、旧規格で検査していた。 意図的でないことを確認したとしている。 関係者は社内規則に従って処分する方向という。 同社は、品質管理体制のさらなる強化などに取り組み、ステークホルダーからの信頼回復に努めるとコメントしている。 (Reuters = 2-11-20)


三菱電機、子会社で検査不正 強度不足の製品が出荷

三菱電機は 2 日、鋳造部品製造子会社の菱三(りょうさん)工業(神戸市)が、顧客との契約上の品質基準に満たない製品を出荷していたと発表した。 エレベーターや原子力発電所に使う部品も含まれるが、「機能や安全性に問題はない(三菱電機広報)」としている。 2000 年ごろから 18 年末の間、鋳鉄部品の計 18 種類で、契約で指定された検査方法や検査回数を守らなかったり、誤った仕様書で製造したりする不正やミスがあった。 結果として強度不足の製品が出荷されたという。

三菱電機は昨年 12 月、産業用ゴム部品製造の子会社トーカン(千葉県松戸市)で品質データの偽装などの不正問題を発表した。 この問題を受けて、グループ内の国内事業所、子会社すべてで品質管理の点検をしたところ、昨年末ごろに菱三工業の検査不正がわかったという。 菱三工業の検査不正については、すでに国土交通省が 3 月、三菱電機のエレベーター 765 台の部品で強度不足があったと発表しており、菱三工業製のブレーキアームに問題があったことが明らかになっている。

東京電力ホールディングスなども 5 月、原発に使う菱三工業製の部品で検査不正があったと発表したが、当時は三菱電機からの公表がなかった。 その他の部品や不正件数について、三菱電機は「説明できない」(広報)」として詳細を明らかにしていない。 一方、トーカンの品質問題については 2 日の発表で、不正のあった製品の出荷先は 27 社だったとし、出荷先すべてに安全性を確認したと発表した。 (高橋諒子、asahi = 8-2-19)



三菱電機、吸引力抜群のコードレススティック掃除機発売

三菱電機は 25 日、業界トップクラスとなる毎分 12 万 5 千回転の新開発のモーターを搭載したコードレススティック掃除機「ZUBAQ (ズバキュー)」を 10 月 1 日から販売すると発表した。 価格はオープンで、実勢価格は 8 万 3 千円前後の見込み。 新製品は吸引力に加えて使い勝手の良さも特長。 充電台から本体を手前に引くだけで普通の掃除ができ、真上に持ち上げるとノズル部分だけが外れ、ハンディタイプのクリーナーとしても使える。 またソファの下など約 6 センチメートルの幅でも掃除できるよう、吸い取ったゴミをためるダストボックスを持ち手付近に配置するなどしている。

90 分でフル充電状態となり、「強」モードで連続 8 分、「標準」モードで 40 分の運転ができる。 同日、都内で開かれた販売イベントに出席したお笑い芸人の土田晃之さん、タレントのギャル曽根さんは、「見た目にもこだわっていて、収納せずに置けるのもいい」と PR した。 (sankei = 9-25-18)


三菱電機、とがった白物家電で稼ぐ FA 陰り新戦略

「電機の優等生」だった三菱電機の業績に陰りが見えている。 2018 年 4 - 6 月期の連結営業利益は 615 億円と前年同期比 18% 減となった。 稼ぎ頭だった自動化 (FA) 機器の減速が響いた。 同社が新たな柱に育てるべく注力しているのが消費者向け (BtoC) 家電事業だ。 ただ「見切りの早さ」が身上なだけに、利益率を早急に引き上げられるかが課題になる。

三菱電機の IH クッキングヒーターは 6 月に 20 周年を迎えた。 住宅のオール電化や高齢者向け施設の増加を背景に需要が拡大しているが、その先駆けとなる製品を 1974 年に日本で初めて開発・発売したのが三菱電機だ。

ルームエアコンで「世界最長寿」記録

20 周年イベントで三菱電機ホーム機器の樋口裕晃営業部長は「今後はあらゆるモノがネットにつながる IoT 対応にも取り組む。 高齢者世帯や単身世帯がターゲット層」と意欲を見せた。 IH 調理器だけではない。 ルームエアコン「霧ケ峰」は 50 年を超える歴史があり、昨年、ルームエアコンの世界最長寿ブランドとしてギネス記録に認定された。 これらの「由緒ある」生活家電の分野で近年、三菱電機が進めているのが、人工知能 (AI) や IoT といった最新技術との融合だ。

IH クッキングヒーターで料理を始めると、それに呼応して炊飯器が動きだし、子供部屋の空調も稼働。 電動窓を採光にして子供を起こし、テレビではニュースが流れ出す - -。 これは三菱電機が描く、そう遠くない未来の「朝の準備」の風景だ。 2020 年度以降の実用化を目指し、スマート家電同士の連携技術の開発を進める。 そのほか「霧ケ峰」の最近の機種には AI が搭載され、室内の温度変化を先読みし、自動で快適な温度調整をする。

空調・家電事業を含むリビング・デジタルメディア事業本部長の松本匡常務執行役は「三菱電機の家電の強みは、産業用で培った技術」と話す。 基盤になるのはモーターやインバーターなど全社横断的な技術だ。 4 月には「毎分 12 万 5,000 回の高速回転を実現した(三菱電機)」新型モーターを開発。 独自構造で現行品比 4 倍のパワーを持ち、家電に搭載すると電池持ちが良くなり、コードレス化を推進できるなど、要素技術の開発も怠らない。

「こだわりの家電」に付加価値

生活家電の市場では、中韓など新興勢との価格競争が激しい。 ここで稼ぐのが難しいのは三菱電機も例外ではない。 シーケンサーやサーボモーターなど技術的に競合が少なく、世界的な高シェア製品をいくつも抱えるファクトリーオートメーション (FA) などから成る「産業メカトロニクス」部門の営業利益率は 13.2% (18 年 3 月期)なのに対して、空調を含む家庭電器部門は 5.3%。 両部門とも売上高は 1 兆円を超えている。 約 4 兆 4,000 億円の三菱電機全社で見れば、それぞれ大きな柱ではあるものの「稼ぐ力」の差は大きい。

製品に高い付加価値を持たせ、他社と違う製品を生み出すことが活路になる。 松本常務執行役は「三菱電機の家電は松竹梅の全部はそろえていない。 たくさん売れて安い物は苦手。 強みを生かせる分野に資源を集中してきた。」と話す。 例えば炊飯器の「本炭釜」シリーズ。 かまどで炊いたごはんの味を追求し、純度 99.9% の炭素材を内釜に使った。 「売れなくてもいいから、こだわって作ってみよう(松本常務執行役)」と 06 年に 10 万円超えの価格で発売した。 単価が数万円の炊飯器市場では異例の存在となったが、現在まで続くヒット作となり「プレミアム炊飯器」市場を切り開いた。

そのほかにも「鋭角的なデザインで、全面に赤を採用したルームエアコン」、「出しっ放しにしておける形状で、空気清浄機の機能を兼ね備えたスティック型掃除機」、「乾き残りを光で知らせる衣類乾燥除湿器」など、近年のヒット作は個性的な製品が多い。 「赤いエアコン」は縁起の良い色として赤を好む中国や、デザイン感度の高いイタリアなど世界展開に期待が寄せられる。 角張った形状というデザイナーのアイデアを実現できたのも、そのための機構を開発する技術力があってこそだ。 (nikkei = 8-16-18)



報酬 1億円超が 23 人 「かたつむり」三菱電機の復活劇

たゆまざる歩みおそろしかたつむり - -。 彫刻家、北村西望の句のごとく、「地味」、「堅実」と言われながら絶好調なのが三菱電機です。 電機大手では中規模ながら本業の収益性は高く、23 人の執行役(役員)の報酬が 1 億円を超えました。 でも、1990 年代後半から今世紀初頭にかけて経営は傾きました。 なぜ再生し、躍進したのでしょうか。

「黄金ペアが三菱電機の強み」 現社長が語る好調の理由

23 人の執行役(役員)の報酬が 1 億円を超えた。 それも 2014、15 年度と 2 年連続で。 社長に至っては 2 億円を超える。 そんな大盤振る舞いをするのは三菱電機だ。 売上高約 4 兆円と電機大手では中規模ながら、約 7% の売上高営業利益率はトップクラス。 本業の収益性が高い。 高額報酬は、役員報酬の約 6 割を業績連動報酬が占め、14 年度の過去最高益更新など最近の好業績を反映したからだ。

だが、1990 年代後半から今世紀初頭にかけて経営は傾いた。 なぜ再生し、躍進したのか - -。 98 年 1 月末、三菱電機の取締役会。 普段めったに発言しない伊夫伎(いぶき)一雄監査役(元三菱銀行頭取)が声を荒らげた。 「来年度どうするか決められないようじゃ、許されないよ。」 三菱グループの重鎮の一声にその場は静まりかえった。 「ガチャン。」 伊夫伎氏は茶わんにふたをたたきつけ、無言で退席。 他の役員はその光景に息をのんだ。

伊夫伎氏の批判は、当時社長の北岡隆氏に向けられていた。 北岡氏は出身の半導体や情報通信分野の強化を進めたが、半導体不況が直撃し、連結純損益が 1 千億円近い赤字に。 総会屋利益供与事件で逮捕者も出た。 「あと 1 年社長をやる」と粘ったが、在任 6 年の北岡氏に人心はうみ、常務クラスが離反。 メインバンクを納得させる再建策を打ち出せず、ついには三菱グループの長老たちが引導を渡した。 「会長にと思ったが、そうしないほうがいいと言われて。」 北岡氏は退任会見で涙ぐみながら会長就任を阻まれたことも明らかにした。

次いで社長に就いたのは傍流の防衛・宇宙部門出身の谷口一郎氏だった。 自ら「青天のへきれき」と言う谷口氏は就任早々「もうからないものはやめる」と宣言。 事業を「拡大」、「縮小」、「現状維持」にわけた。 まずパソコンから撤退し、さらに大容量電動機部門を東芝との合弁会社に移管して切り離した。

いったん持ち直した業績はITバブル崩壊後の 2001 年、再び暗転した。 半導体部門トップだった長澤紘一氏はこのころ、三菱電機のような重電から家電まで手がける総合電機メーカーが半導体ビジネスを手がけることに限界を感じていた。 「設備投資が年間 1 千億円規模になり、それを捻出するのに社内で 1 年もの議論をしなければならなくなった。」 意思決定のスピード感、資金力の両面で米マイクロンや韓国のサムスン電子などライバルにかなわない。 「半導体を切り離せば会社は良くなる。」 役員会でそう一席ぶった。

当初は消極的だった谷口氏も、もはや半導体を抱えられないと判断。 同じ悩みをもつ日立製作所に持ちかけ、両社の半導体システム LSI 部門を分離統合(現ルネサスエレクトロニクス)させた。 当時の財務担当役員は、「投資が巨額で価格変動も激しく、三菱の体力では持ちきれなかった。」 08 年 3 月に携帯電話の撤退を決めたのもその延長線上だった。 役員会などで撤退が議論の的になっていた。 「ああいう(差別化できない)コモディティー商品は当社がやってもしょうがなかった。」 元専務はこう振り返る。

同年に米アップルのスマートフォン「iPhone」が日本でも発売された。 そして携帯撤退の半年後、リーマン・ショックが襲い、世界経済は不況に陥った。 日本メーカーのガラケー端末市場は一気にしぼんだ。 柵山正樹現社長はいま、こう語る。 「リーマン・ショック前に決断でき、撤退のタイミングがよかった。 業績が厳しくなると人の活用が難しい。」 携帯部門の約 600 人はカーナビなど他部門で吸収。 ライバルの東芝や日立がリーマン・ショック後に巨額赤字を計上するなか、三菱電機は黒字を維持した。

自社の強み、地道に追究

半導体システム LSI や携帯電話などから撤退し、売上高は 00 年度の 4 兆 1 千億円が一時、8 千億円も減った。 しかし、撤退した事業は外部から製造装置や基幹部品をそろえれば、新興国の後発メーカーでも参入できる分野だった。 三菱電機が 14 年度以降、過去最高の売上高を更新し続けたのは、こうした製品ではなく、自社独自の強みを生かせる分野があったからだ。

そんな路線をはっきり打ち立てたのは、谷口氏の後を襲った研究所出身の野間口有(たもつ)氏だった。 社長就任早々「バランス経営」を標榜し、成長性だけでなく健全性と収益力を重視。 この手堅い路線が今日まで引き継がれてゆく。 さらに野間口氏は、「電機大手各社が相似形で同じビジネスをするのは限界」と考え、独自の生き方を模索したのだ。 研究所出身なだけに自社の技術の値打ちが頭に入っていた。

その一つが、ルネサス分離のときに残された「パワー半導体」だ。 モーターを駆動したり電力を制御したりするパワー半導体は、システム LSI やメモリーなど他の半導体製品と比べて地味な存在。 「単体だと赤字ですが、それを使うエレベーター、工場プラントの制御機器は黒字。 単体ではなく全体で評価し、相乗効果を生かそう。」と野間口氏。 東芝からパワー半導体部門の一部を 04 年に買収し、むしろ強化に乗り出した。

エアコンやエレベーター、自動車部品という今の三菱電機の屋台骨を支える製品群に共通して組み込まれるのが、実は同社独自仕様のモーターだ。 モーターは消費電力が少なければ省エネに貢献し、最終製品の性能を左右する。 そのために欠かせないのがモーターとともに機器に組み込まれるパワー半導体だった。

もう一つ力を入れたのが、工場を自動化するファクトリーオートメーション (FA) 分野。 産業用制御機器を生産する同社は、機器を販売するだけでなく、顧客企業向けに、設計や在庫管理、部品発注から製造現場の機械類の作動に至るまで工場内のデータを情報システムにつなげて自動化を進め、生産効率や品質向上につなげる。 これを「e ファクトリー」と名付けた。

野間口氏が研究所を統括していた 1999 年ごろ、将来を見すえたプロジェクトを募ると、若手から寄せられたアイデアにそれがあった。 「今で言う IoT (モノのインターネット化)システムみたいな考えでした。 『これコンセプトはいいね。 商標登録だけはしておけ。』と指示しましたよ。」 生産工程の IT 化を進めるドイツ提唱の「インダストリー 4.0」がもてはやされるが、三菱電機からすると、それは自分たちが提唱した「e ファクトリー」と似たものだった。 「ウチはちょっと早すぎましてね」と野間口氏は笑う。

巨額投資が必要な分野や景気変動にさらされやすい分野からいち早く撤退した三菱電機は、基幹部品を守りつつ、収益が安定しやすい企業向けビジネスを強化してきた。 デジタル家電や情報端末など消費者むけの目立つ製品群があるわけでも、耳目をひく派手な M & A を重ねるわけでもない。 「たゆまざる歩みおそろしかたつむり - -。」 携帯電話撤退を決めた当時社長の下村節宏(せつひろ)氏は、地味だが堅実な自社の歩みを、彫刻家北村西望の俳句を借りてそう表現した。

社長交代は健全に

97 年度に 1 兆 7 千億円超もあった有利子負債は、直近では約 4 千億円に減少した。 長年の利益の蓄積である連結剰余金は 99 年 9 月に 3 千億円だったが、1 兆 5 千億円に激増している。 手元現預金と投資有価証券をあわせると約 9 千億円にもなり、資金は潤沢だ。 こんな資金力を生かして昨年、イタリアの空調メーカーを 900 億円で傘下に収めた。 大型買収は同社にとってきわめて異例のことだった。

「入社したとき(77 年)はこんなアグレッシブな会社じゃなかった」と振り返る柵山社長は「これからは IoT をいかに先取りしていくか。 中国は『知能製造』といってインテリジェントな工場をつくろうとしている。 ビジネスチャンスは増えていく。」と語る。 FA や空調分野で高い利益率を見込めそうだ。 だが、投資家からの評価は決して高くない。 「資金をためこむばかりで成長戦略が見えてこない。 投資家からすると魅力に乏しい銘柄。(米系投資ファンド)」というわけだ。

三菱電機の歴代社長は進藤貞和氏(9 年 7 カ月)、志岐守哉氏(7 年)、北岡氏(6 年)ら長く在任する例があったが、谷口氏以降 4 人の社長は示し合わせたかのように在任期間 4 年で交代している。 内規や、歴代社長の口伝があるわけでもない。 野間口氏はこう語る。 「100 年、200 年続いて欲しい組織体は、健全なるバトンタッチが非常に重要です。 長くやり過ぎてへとへとになるよりも、まだエネルギーがあるときにバトンを渡した方が健全かつ正常に引き継がれていくのです。」 それは組織の知恵といえるかもしれない。 (大鹿靖明、南日慶子、asahi = 12-26-16)