北海道 3 泊 4 日約 100 万円が即完売
 夏だけ北海道を走る「伊豆急の特別列車」が鉄道愛好家以外にも人気なワケ
 JR 北海道と東急が手を組んだ前例のない取り組み

2020 年から夏の北海道で企画されている約 100 万円の列車旅行が人気を集めている。 伊豆急行(東急グループ)の観光列車「The Royal Express (ザ・ロイヤルエクスプレス)」を、夏季だけ北海道に遠征させるもので、JR 北海道と東急による異例のコラボだ。 プランは 3 つあり、どれも 3 泊 4 日で約 100 万円と高額だが、発売すると即完売だという。 人気企画の背景をレイルウェイ・ライターの岸田法眼さんが紹介する - -。

JR 北海道と東急の異例のコラボ企画

東急株式会社(以下、東急)と JR 北海道は 2020 年から夏季限定で、北海道内で伊豆急行(東急グループの企業)の豪華列車「The Royal Express (ザ・ロイヤルエクスプレス)」を使用した「The Royal Express 〜 Hokkaido Cruise Train 〜」を運行している。 普段は伊豆を走る私鉄の列車が JR 北海道に遠征するという異例の企画だ。 この取り組みはいかにして始まったのだろうか。

ヴァイオリニストが実際に乗車

「The Royal Express」は、2100 系アルファリゾート 21 を改造したジョイフルトレインで、2017 年 7 月に登場。 横浜 - 伊豆急下田間を走る。 魅力あふれる車両にするため、30 年以上にわたり、鉄道車両をデザインし続けた鉄道デザイナーの第一人者である水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所)を起用した。 車体は高貴な色とされるロイヤルブルーを主体にアクセントカラーとしてゴールドを添えている。 車内はウォールナットやホワイトシカモアなど多種の木材をふんだんに使用しつつ、和と洋を融合した豪華絢爛な車両に仕上がっている。 実際に乗ってみると、非日常的な雰囲気で、見慣れた車窓が新鮮に映るほど。

1・2 号車はゴールドクラス、3 号車はマルチカー(展覧会、結婚式、会議などにも使える車両)、4 号車はキッチンカー、5 - 8 号車はプラチナクラスとなっている。 3・4 号車以外は特急形車両のグリーン車に相当する。 面白いのは、5・6 号車にピアノを設置していることだ。 音旅演出家の大迫淳英氏(ヴァイオリニスト)が実際に乗車し、ピアニストとともに生演奏を披露することで、旅のシーンを彩る。

車内ではコース料理を堪能できるほか、1 泊 2 日のクルーズプラン(プラチナクラスのみ適用)では、一流の旅館もしくはホテルに宿泊できる。 片道乗車のみの食事つき乗車プランでは、横浜 - 伊豆急下田間の乗車と食事が満喫できる。 当初、「The Royal Express」の定員は約 100 人だった。 2020 年に料理をすべてコース料理に統一することや、洋式トイレに温水洗浄便座を追設、2・7 号車にピアノを新規配置するなど、高付加価値のサービスを実現するための改装を行った結果、定員が約 50 人に変更された。

札幌発 3 泊 4 日の優雅な旅

「The Royal Express」はリピーターが現れるほど、伊豆観光の旗手として成果を上げた。 2020 年からは夏季限定で「The Royal Express 〜Hokkaido Cruise Train 〜」を始めている。 札幌発の 3 泊 4 日の行程で、車窓から北海道の雄大な景色と食事、現地観光と宿泊を楽しむものだ。 2023 年は 7 月から 9 月にかけて、以下の 3 プランが運行される。

  • Hokkaido Cruise Train : 札幌→十勝川温泉→知床→富良野→札幌(旅行代金 : ひとり当たり 82 万 - 118 万 3,000 円)
  • Hokkaido Cruise Limited : 札幌→十勝川温泉→阿寒摩周国立公園→阿寒湖→富良野→札幌(旅行代金 : ひとり当たり 82 万 - 118 万 3,000 円)
  • Hokkaido 日本最北端の旅 : 札幌→上川→宗谷岬→稚内→オロロンライン→富良野→札幌

今回の目玉と言えるのが「Hokkaido 日本最北端の旅」だ。 その旅程は、まず札幌から旭川へ移動し、そこからバスで大雪山に近い上川の宿泊施設へ移動。 2 日目は旭川から一路北へ進み、南稚内で下車。 バスで宗谷岬、稚内市街へ向かう。 3 日目は絶景のドライブルートで知られるオロロンラインを経て旭川まで南下し、バスで富良野へ。 4 日目に札幌へ帰着する。 旅行代金はひとり当たり 88 万円 - 123 万円だという。 車内では、北海道の食材を使った料理が提供される。

なぜ北海道に遠征するようになったのか

なぜ中小私鉄の車両が、期間限定とはいえ、JR 北海道の鉄路を運行するようになったのか。 きっかけとなったのが 2018 年 9 月 6 日に発生した北海道胆振東部地震だ。 以降、2019 年 1 月末まで震度 1 以上の地震が 332 回発生し、うち 2 回は震度 5 弱だった。 これにより、北海道の観光客が減少してゆく。 JR 北海道は、国土交通省から 2014 年 1 月 24 日と 2018 年 7 月 27 日の 2 回にわたりに受けた経営改善に向けた監督命令の着実な実施および、北海道胆振東部地震の影響を受けた北海道観光活性化の両面から、早急に道内での観光列車運行を計画した。

ただ、JR 北海道にそのような車両がないことから、観光に特化したジョイフルトレインを保有している道外の鉄道事業者に対して、「北海道内への持ち込みと期間限定運行ができないか」と協力要請を行った。 そこに東急が手を挙げた。 「素晴らしい自然、大地、人の力が感じられる世界に誇れる観光地を活性化させるお手伝いができたら(東急広報)」という想いで、新たなプロジェクトを立ち上げたのだ。 国や北海道からは、今回のプロジェクトの実現に向けたバックアップを受けたことも大きい。 JR 北海道と東急は北海道の沿線自治体に対し、運行にあたって歓迎などの協力を要請した。

前例のない取り組み

JR 北海道の路線は交流電化と非電化がある。 伊豆急行はすべて直流電車なので「The Royal Express」は自力走行ができない。 車内設備の電源確保のために電源車が、牽引用にディーゼル機関車がそれぞれ必要になる。北海道での「The Royal Express」は電車ではなく、機関車牽引による客車扱いであることを示す。 そこで東急は JR 東日本から電源車のマニ 50 形を購入した。 ただ、マニ 50 形は給電能力が 5 両分までという制約から、「The Royal Express」は 1・4・5・6・8 号車の 5 両編成に組み直す。 さらにパンタグラフも外し、交流電化区間の架線に触れないようにした。

JR 北海道は、水戸岡氏がカラーリングをデザインしたディーゼル機関車を用意した。 さらに JR 貨物の協力を得て、「The Royal Express」を約 1,200 キロ離れた伊豆高原 - 伊東 - 札幌運転所間を回送運搬することになった。 このような運搬はすぐにできるものではない。 定期の貨物列車ではないので、伊東 - 札幌運転所間のダイヤ、牽引する機関車の手配など、詳細を決める必要があり、運転日の数カ月前までには決めなければならない。

この企画が発表された 2019 年 2 月 12 日は手探りの状態だったと推察する。 複数の鉄道事業者が協力した前例のない取り組みが成功し、2023 年で 4 期目を迎えた以上、今後はそのノウハウを東急と JR 北海道以外の鉄道事業者が取り組むことに期待したい。

初年度の抽選倍率は 8 倍強

かつて北海道には、上野 - 札幌間の寝台特急〈北斗星〉〈カシオペア〉、大阪 - 札幌間の寝台特急〈トワイライトエクスプレス〉という豪華な夜行列車があり、長い時間をかけて列車の旅を楽しむという「ゆとり」が好評を博していた。 そうした「ゆとり列車」が北海道の活性化に寄与する列車だったことは言うまでもない。 夜行列車が壊滅に近い状況の中、「The Royal Express」の北海道遠征は、新たな「ゆとり列車」となるだろう。 東急は、この企画について「伊豆では、観光列車が走ることで沿線地域が活性化していった。 そのノウハウをいかし、北海道を元気にしたい。(広報)」と語る。

JR 北海道はこれまで SL 列車、トロッコ列車、リゾート気動車など、特化型車両による臨時列車を運行してきた。 ただ、プレスリリースで宣伝しても、全国紙や全国ネットが大きく取り上げない限り、少なくとも鉄道の知名度向上、来道者数の増加にはつながらない。 だが、「The Royal Express」が "来道" するだけでも道内はもとより、道外でもビッグニュースになる。

「本プロジェクトは、『JR 北海道が単独では維持することが困難な線区』のうち、『鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区』において、沿線地域の皆さまの御理解と御協力を得ながら進めている線区ごとのアクションプランの具体的な取り組みのひとつともなり、線区の維持・活性化につながるものと考えています。(JR 北海道広報)」 JR 北海道はこの企画で得たノウハウを今後の観光列車の運転につなげていきたい考えだ。 2023 年は「日本最北端の旅」と銘打ち、稚内市へ向かうプランを新設している。 2024 年以降は道南などの新しいプランにも期待したい。 東急によると、応募倍率の 2020 年度は約 8.2 倍、2021・2022 年度は約 3 倍で、リピーターもいるという。

特別列車だけでは路線は生き残れない

東急と JR 北海道・貨物の取り組みに、JR 西日本・四国も注目したようで、2024 年 1 月から 3 月にかけて、「The Royal Express」は四国・瀬戸内エリアに遠征する。 岡山 - 高松 - 松山方面を周遊する予定である。 直流電化エリアながら、JR 四国予讃線は断面が小さいトンネルが多く、「The Royal Express」のパンタグラフでは走行できないため、岡山 - 高松間は JR 西日本の電気機関車、それ以外の JR 四国エリアでは JR 貨物の電気機関車の牽引になるという。

JR 北海道も含め、このような取り組みは画期的であり、話題性がある半面、鉄道の活性化につなげるには、「北海道そのもののファン」、「四国そのもののファン」を増やすことに尽きる。 "特別な列車" ではなく、"日常の列車" そのものが観光地になり、満員にならないと路線の存廃問題につながる恐れがある。 現に JR 四国の西牧世博社長は 2023 年 4 月 25 日に 3 路線 4 線区の存廃について示唆した。 その中に特急〈伊予灘ものがたり〉が好評を博す予讃線向井原 - 伊予大洲間が含まれており、"特別な列車" を強調しているだけでは路線の長きにわたる存続につながらない。

巻き返しを図る JR 北海道

JR 北海道は単独での維持が困難なローカル線の廃止を進めた一方、巻き返しを図っている。 2020 年からキハ 261 系 5000番台を 2 編成導入し、「観光列車に活用できる特急形気動車」として、観光列車やイベント列車、繁忙期の臨時列車及び定期列車の代替輸送用としている。 このうち、ラベンダー編成は北海道と国の支援を受け、北海道高速鉄道開発株式会社が所有し、JR 北海道が無償貸与を受けている。

さらに同様の展開で H100 形の一部も仕様を変更したラッピング車両として、根室本線釧路 - 根室間、釧網本線、石北本線、富良野線にも投入された。 今後も室蘭本線、日高本線、宗谷本線、根室本線の別区間にも投入される予定だ。 2020 年夏から北海道の支援による、在来線の特急自由席も乗り放題の「Hokkaido Love! 6 日間周遊パス(1 枚 1 万 2,000 円)」が不定期で発売されると、累計で約 20 万 9,000 枚の売り上げを記録する大ヒット商品となった。 ただ、道内周遊の促進を目的とした乗車券のため、北海道新幹線はエリア対象外である。

しかし、北海道新幹線 1 日平均の乗車人員は減っている。 2016 年度 6,200 人、2017 年度 5,000 人、2018 年度 4,600 人、2019 年度 4,500 人、2020 年度 1,500 人、2021 年度 1,700 人という状況なので、今後は JR 東日本と連携し、青森県内の主要駅での発売を検討してもいいのではないだろうか。 (岸田法眼、President = 5-31-23)



JR 九州「新型高速船」、国内運航阻む規制のわな 日韓航路に就航できず活用模索も波高し

「いらっしゃいませ。」 船内に足を踏み入れると乗務員たちが元気な声で出迎えてくれた。 JR 九州のグループ会社、JR 九州高速船が建造した新型高速船「QUEEN BEETLE (クイーンビートル)」のクルーたちだ。 昨年 11 月 24 日に博多港で関係者・報道向けの内覧会と試乗会が行われた。 本来なら昨年 7 月 15 日に運航を始める予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期に。 JR 九州高速船は福岡市の博多港と韓国・釜山を結ぶ日韓航路に高速船「BEETLE (ビートル)」を 3 隻運航しているが、日韓航路も運休中。 クルーたちにとって、待ちに待った出番だった。

JR 九州はクイーンビートルを用いて、2020 年の大みそかの夜に博多港で年越しのカウントダウンクルーズを行う構想を練っていた。 当局のゴーサインが出れば、いつでも出港できるよう準備も整えていた。 しかし九州運輸局からの連絡はない。 役所の仕事納めは 12 月 29 日。 ぎりぎりまで粘ったが、朗報はついに届かなかった。

豪華な内装「海のななつ星」

クイーンビートルは「洋上の女王」とでも形容すべき、美しい船だ。 トリマランと呼ばれる三胴船で、主船体の両側に2つの副船体を持つ。 白と赤を基調とした外観デザインや豪華な内装は豪華列車「ななつ星 in 九州」のデザインで知られる水戸岡鋭治氏の手によるものだ。 その意味では、「海のななつ星」と形容したほうがいいかもしれない。

JR 九州高速船はオーストラリアの大手造船会社、オースタルと 2017 年 12 月に建造に向けた協議を開始することで合意、新型高速船構想がスタートした。 3 隻あるビートルのうち 1 隻をクイーンビートルに置き換える。 クイーンビートルの旅客定員は 502 人。 同 191 人のビートルの 2 倍以上の輸送力がある。 建造費は約 57 億円。 最後尾車両の車窓と建造費を組み合わせて「30 億円の額縁」と評されるななつ星のおよそ 2 倍の金額だ。

日韓航路には JR 九州高速船のほか、日本郵船系のカメリアラインも就航しているが、むしろライバルは格安航空 (LCC) だ。 福岡空港 - 釜山・金海国際空港間の所要時間は 1 時間を切る。 これに対してビートルの所要時間はおよそ 3 時間。時間勝負では飛行機に太刀打ちできない。 価格面では LCC、ビートルともに値引き合戦を繰り返している。 これでは集客できてもそれに見合う収益は得られない。

「船旅」自体の楽しさを PR

そこで、JR 九州は「逆転の発想」で飛行機に対抗することにした。 移動時間の長さを逆手に取り、移動時間の過ごし方で勝負する。 日韓航路を 3 時間 40 分で結ぶクイーンビートルは、高速性でビートルに劣るが、航行中にシートベルトの着用が義務付けられているビートルと違い、航行中に広い船内を歩き回って免税店での買い物や軽食カウンターでの食事を楽しんでもらうことができる。 子供が遊べるキッズスペースもある。 外のデッキに出て、海を眺め、風を感じることもできる。

片道 5,000 円の追加料金で利用できるビジネスクラスは、座席の足元空間が広く、座り心地に優れる。 船旅自体を楽しむという仕掛け作りは水戸岡氏にとってはお手の物だ。 「船内を自由に歩き回って心地よい時間を過ごしてほしい。」 水戸岡氏はこう意気込みを語った。 ただ、タイミングが悪かった。 博多 - 釜山、下関 - 釜山、対馬 - 釜山を合わせた日韓旅客定期航路全体の輸送実績は 2018 年度に過去最高を更新したものの、その足元では日韓関係の冷え込みが進行しており、2019 年度の上半期(4 - 9 月)には前年同期比 36% 減とマイナスに転じた。 JR 九州は「欧米の団体客を中心に営業強化する」と強気の姿勢を崩さなかったが、そこへ新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけた。

日韓関係の悪化に新型コロナのダブルパンチで就航時期が見通せない。 JR 九州は 2019 年度連結決算でクイーンビートルの建造費全額を減損損失として計上した。 クイーンビートルは収益を生まない資産とみなされた。 新型コロナはクイーンビートルの建造にも影響を与えた。 同船はオーストラリアの造船所で建造されたが、新型コロナの世界的な感染拡大により、オーストラリア政府は外国人の入国を制限。 このため、クイーンビートルに搭載される機器のメーカー検査員が入国できず、完成検査ができない状態となったのだ。 当初 5 - 6 月に予定されていた日本への回航は大幅に遅れ、10 月にようやく実現した。

国内航路での活用を模索

日韓航路が再開するまでの間、JR 九州は国内航路での活用を模索した。 カウントダウンクルーズに続き、1 月中旬から博多港近海を周遊するツアーを行う計画もあった。 ただ、そのためにはある条件をクリアする必要がある。 船舶には、国内航路を運航できるのは原則として国内船籍の船舶のみと定めた「カボタージュ制度」という世界で広く採用されているルールがある。 日本でも船舶法がカボタージュ制度を定めている。

ビートルは日本国籍の船舶だが、クイーンビートルはコスト削減の観点から、船舶登録に関わる手続きが簡素で登録税が安価なパナマ船籍にした。 しかし、カボタージュ制度により外国船籍の船舶は国内航路の運航はできない。 とはいえ例外はあり、船舶法は国土交通大臣が特別な許可を与えたときはこの限りではないとしている。 九州運輸局は、「JR 九州の希望に沿うよう対処する」という姿勢を示し、JR 九州は国内就航を可能とする特例措置の申請を行うべく、九州運輸局と調整を始めた。

これで解決かと思われたが、意外なところから「待った」がかかった。 海運・水産業で働く船員で構成される全日本海員組合がクイーンビートルの国内就航に断固反対の姿勢を示したのだ。 「カボタージュ制度が緩和された場合、フェリー・旅客船産業はコストが優位な外国船籍に駆逐され壊滅的な打撃を受けることはもとより、早晩、内航海運産業にも波及することや、船員の雇用問題にまで発展することが危惧されます。」 全日本海員組合は 11 月 25 日、国土交通省への申し入れ文書でこのように説明している。

ここでいう「コスト」の多くを占めるのは船員の人件費。 日本船籍の船舶は基本的に日本人船員の雇用が義務付けられているが、カボタージュ制度の緩和によって外国船籍の船舶が次々と国内航路に就航するようになれば、こうした外国船籍の船舶が運航コストの削減を狙って日本人の代わりに外国人の船員を大量に乗せる可能性がある。 船員にとっては職場を失うことにつながりかねない。

規制緩和すると影響は大きい

カボタージュ制度の緩和の影響は各方面に及ぶ。 ダイヤモンド・プリンセスの乗客のコロナ感染でみそを付けたが、コロナ禍の前は大型クルーズ船による船旅が大人気だった。 ただ、ダイヤモンド・プリンセスを含む多くの大型クルーズ船は外国船籍。 外国船籍のクルーズ船は日本の都市のみに寄港する国内クルーズは実施できないことから、必ず外国の港を経由していた。 クイーンビートルに国内運航を認めると、極端な話、クルーズ船の運航の仕組みが変わる可能性もある。 さらにいえば、客船だけでなく国内のコンテナ船輸送も外国船籍にとって代わられる可能性すらある。

問題の解決策として、海運に詳しい専門家は、「クイーンビートルを日本船籍に変更すればいい」と提案する。 「船籍変更が難しいというなら、その制度を簡素化すればいい。 カボタージュ制度に特例を設けるよりもそのほうが業界への影響は小さい。」 クイーンビートルが将来日韓航路に就航すれば、韓国人客を接客する韓国人クルーが乗船する可能性はあるにせよ、国内ツアーに関しては乗務員全員が日本人。 少なくともクイーンビートルが国内運航したことによって外国人に職場を奪われるという心配はない。 それでも、今回の特例がきっかけで国内運航の秩序が崩れる可能性をはらんでいるというのは、なんとも皮肉な話だ。 (東洋経済 = 1-11-21)



赤字鉄道を革新せよ ピンクの斬新バス会社と丹鉄の挑戦

京都府と兵庫県の北部を結ぶ「京都丹後鉄道(丹鉄)」が、様々なアイデアで経営の立て直しに奮闘中だ。 全国有数の赤字路線を引き継ぎ、運行を担うのはピンクの高速バスで知られる「WILLER (ウィラー、大阪市)」グループ。 高級感のある独立シートなど斬新な発想でバス業界を牽引してきたが、ローカル鉄道の姿を変えることはできるか。

10 月 5 日、丹鉄の観光列車「丹後くろまつ号」の新たな企画の運行が始まった。 沿線の京都・舞鶴のレストランが特別コースを振る舞い、今回は初めて地元産ワインや地酒の飲み放題も用意した。 鹿児島市から初めて参加した小川理恵さん (56) は「海岸線の景色もきれいで、またぜひ来たい」と話した。 日本三景の一つ、京都・天橋立なども沿線に持つ丹鉄。 総延長 114 キロの鉄道の運行を 2015 年 4 月から、ウィラー傘下の「ウィラー・トレインズ(京都府宮津市)」が担う。

丹鉄はかつて、「北近畿タンゴ鉄道 (KTR)」として京都府や沿線自治体などが出資する第三セクターによる全国最大の赤字路線だった。 沿線の人口減などで経営が行き詰まり、施設保有と鉄道運行を別会社にする「上下分離方式」によって、運行事業者にウィラーが名乗りをあげた。

ウィラーは 1994 年に創業した西日本ツアーズが前身だ。 06 年に高速バス事業に参入すると、インターネット予約を業界でいち早く導入。 鉄道などに比べて安さが売りだった高速バス業界で、隣同士が女性になるように座席を割り振り、座席自体も快適さを追求するなど、女性客の需要を掘り起こしてきた。 (中島嘉克、asahi = 10-21-18)


災害に負けるな、ローカル線 地方鉄道の意義

相次ぐ自然災害で、各地の鉄道網が大きな打撃を受けている。 特にローカル線では、被害の大きかった区間が不通になるなど、影響は甚大だ。 不通の期間が長引き、そのまま路線が廃止された例もあり、「廃線」という事態も現実味を帯びてくる。 だが、そうなる前に考えなければならないこともあるのではないか。 何といっても鉄道は、そこに住む人、訪れる人、みんなの「足」なのだから。 JR 全路線を完全乗車したローカルジャーナリストの田中輝美さんに寄稿してもらった。

戻ったにぎわい

「本当によかった。」 今年 8 月 8 日、島根県雲南市の JR 木次(きすき)駅で、出雲大東駅の業務を委託された指定管理者「つむぎ」の南波由美子代表 (42) は、ほっとした表情を見せた。 この日、7 月の西日本豪雨の被害を受け、一部不通となっていた JR 木次線が全線で運行を再開したのだ。 木次駅には「ようこそ木次線へ」、「がんばってます木次線」といった横断幕が並び、沿線住民らがダンスを披露。 運行 20 周年を迎えた人気のトロッコ列車「奥出雲おろち号」の出発をにぎやかに見送った。

南波さんが安堵の表情を浮かべたのには理由がある。 同じ島根県内では、3 月末にJR三江(さんこう)線が廃止になったばかりだからだ。 松江市の宍道駅と広島県庄原市の備後落合駅を結ぶ JR 西日本木次線(路線距離 : 81.9 キロ)は 2017 年度、輸送密度(1 日 1 キロ・メートルあたりの平均輸送量)が 204 人で、三江線を除けば JR 西日本管内で下から 2 番目の少なさとなっており、木次線をめぐる状況の厳しさを指摘する記事がインターネットに載ったこともある。

さらに、豪雨直後は再開まで 1 年以上かかるという見通しが示されたこともあって、沿線では「復旧せずこのまま廃止になるのか」と不安感や危機感が募っていた。

自然災害の爪痕

実際、自然災害はローカル線廃止の要因になってきた。 2005 年 9 月、宮崎県の高千穂鉄道は台風で鉄橋が流されて運休し、その後、廃止が決まった。 隣の鹿児島県の鹿児島交通枕崎線も集中豪雨での被害が、岩手県の JR 岩泉線も土砂崩れによる脱線事故が引き金となり、それぞれ廃止になっている。 とはいえ、被災した鉄道がすべて廃止になるわけではない。 大ヒットした NHK 連続テレビ小説「あまちゃん」で有名になった岩手県の三陸鉄道は、東日本大震災の被災から 3 年がかりで復旧し、「奇跡の復活」と言われた。

そのほか、11 年 7 月の新潟・福島豪雨で不通となった福島県の JR 只見線会津川口 - 只見間は、21 年度の復旧に向け、工事が進められている。 今年 6 月、被災した鉄道の復旧支援を拡大する改正鉄道軌道整備法が成立し、国の補助が受けられるようになったことで、地元負担が当初予定より半減した。同法は今後の鉄道の災害復旧の後押しになるだろう。

バスの輸送力には限界も

鉄道が廃止になった場合は、代替交通機関としてバスが使われることが多い。 2000 年と翌 01 年に福井県で列車衝突事故を起こした京福電鉄が運行停止となった際にも、代行バスが走った。 しかし、鉄道では 1 便 2 両で計 300 人を運ぶのに対し、バスは 1 台 40 人。 福井市内への通勤・通学で利用する人が多く、全員が乗れずに積み残されることが起こった。

自家用車への切り替えなど車に頼る人が増えた結果、交通量が増えて渋滞が起こり、会社員や高校生の遅刻が多発。 もともと自家用車で通勤していた人にも影響が及んだ。 雪が降り積もる冬季は、渋滞がさらにひどくなる。 お年寄りがバスを待って立ち続ける姿も見られた。 こうして高齢者や生徒など車を持たない、いわゆる「交通弱者」は出掛けにくくなり、人との交流が減ったり、観光客が減ったり、地域の疲弊につながったりしたとして、代行バスは「壮大な負の社会実験」と、新聞でも取り上げられた。

こうした経緯から、大量輸送、定時運行という鉄道の強みがあらためて見直され、京福電鉄の後継となる第三セクター「えちぜん鉄道」の誕生へとつながっていった。 現在、「えちぜん鉄道」は車両にアテンダント(乗務員)を配置し、お年寄りの乗り降りを手助けするなど、地元の人に寄り添ったサービスを展開している。

鉄道だからこその要素とは

福井県のケースは大量輸送という鉄道の強みが発揮できる場合であり、沿線地域が人口減少に直面する多くのローカル線では、事情は異なってくる。 バスは、鉄道に比べて維持や運行のコストが低く、バス停の設置も容易で小回りがきく。 こうしたメリットを活用すれば、鉄道廃止後でも移動しやすい地域をつくっていく道はあるだろう。

それでも、鉄道には「鉄道だからこそ」の要素がある。 例えば、鉄道に乗ることが好きな「乗り鉄」をはじめ、鉄道写真を撮る「撮り鉄」、駅舎をめぐる「駅鉄」。 さらに、切符を集める「切符鉄」、駅弁を楽しむ「駅弁鉄」、列車の駆動音や構内放送などの音を収録する「音鉄」など、 日本の鉄道ファンの裾野は広い。 鉄道があるから来るという人は確実にいる。 ローカル線には、地域に人を呼び込むポテンシャルがあると言えるのだ。

人口 3,000 人の鳥取県若桜町に本社を置く若桜鉄道。 2015 年に沿線で行われた「SL 壮行社会実験」では、全国から 1 万 3,000 人もの人が集まり、地域への経済効果は推定で 1,805 万円に上った。 また、鉄道会社の経営者に「鉄道とバスの違いは何か」と尋ねた際、「鉄道があれば、地図に路線名や駅が載る。 その広告効果は非常に大きい」と口にする人が多かったことは印象的だった。

鉄道と地域は運命共同体

本格的な人口減少時代に突入した日本で、これから地域に新しい鉄道や路線をつくることは基本的に難しい。 そう考えると、いまローカル線が走っている地域は、他の地域が持つことが難しい「資源」を持っていると言い換えることもできる。 冒頭に紹介した木次線では、地元の劇団が車両内と駅舎で演劇を上演する「観劇列車」や、地元の食と酒を楽しむツアー、親子連れ対象の運転士体験などが次々と行われ、地域を盛り上げている。 いずれも沿線住民が企画し、豪華な「観光列車」ではなく一般の車両を活用して工夫していることが特徴的だ。

こうして鉄道を生かす動きは、各地で起こっている。 私がまとめた 2013 年度のデータでは、JR をのぞく全国 82 の地域鉄道のうち 6 割近い 49 の鉄道が、前年度より乗客数を伸ばしていた。 この傾向は現在も続いている。 取材で全国を回ってみて、気付いたことがある。 鉄道と地域は運命共同体であるということだ。 定説として言われる「鉄道がなくなって栄えた地域はない」というのは、多くの地域に当てはまる。 ローカル線を地域資源ととらえ、その資源を生かすかどうかは、地域次第なのだ。 (田中輝美 = 山陰中央新報記者、yomiuri = 10-7-18)


涙がボロボロあふれて止まらない! 九州新幹線開業直前に自前でつくった幻のテレビ CM 「祝! 九州」はこれだ

いま、宝くじに当たるより難しい? サービスを、あなたはご存じだろうか? JR 九州。 正式名「九州旅客鉄道株式会社」。 名前だけ聞くと、旧態依然の鉄道会社のイメージを持つかもしれない。だが、この会社の「あるサービス」が、ひそかに感動の輪を広げている。 九州以外で暮らしているとわからない。 でも、九州に行くと景色は一変する。

その名は、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州(以下、ななつ星)」。 いまや「世界一の豪華列車」と称され、高額にもかかわらず、2013 年の運行開始以来、予約数が定員をはるかに上回る状態が続いている。 DX (デラックス)スイート(7 号車の最高客室)の過去最高競争率が 316 倍、昨年 11 月の『日経 MJ』には「ブランド作りとは世界の王でも断る覚悟」と題して、そのフェアな抽選システムが新聞一面に紹介された。

だが、驚くべきは、「ななつ星」だけではない。 この会社、バリバリの鉄道会社なのに、売上の 6 割は鉄道以外の収入で、8 年連続増収なのだ。 JR 九州を率いるのは唐池恒二氏。 8 月 27 日、韓国と九州を結ぶ真っ赤な新型高速船「クイーンビートル」を 2020 年 8 月に就航すると発表。 さらに、7 月には、中国・アリババグループとの戦略的資本提携を発表。 2020 年の東京オリンピックを控え、ますます九州が熱くなりそうだ。

記者は、この 20 年、数々の経営者を見てきたが、これほどスケールの大きい経営者は記憶がない。 1987 年の国鉄分割民営化の会社スタート時、JR 九州は、JR 北海道、JR 四国とともに「三島(さんとう) JR」と称され、300 億円の赤字。 中央から完全に見放されていた。 それが今はどうだろう。 高速船、外食、不動産、建設、農業、ホテル、流通、ドラッグストアなど、売上の 6 割を鉄道以外の収入にして 8 年連続増収。 2016 年に東証一部上場、2017 年に黒字 500 億円を達成。 今年 3 月 1 日の『カンブリア宮殿(テレビ東京系)』でも、逆境と屈辱から這い上がってきた姿が紹介された。

今回、再現性のあるノウハウ、熱きマインド、破天荒なエピソードを一冊に凝縮した、唐池恒二氏の著書『感動経営 - - 世界一の豪華列車「ななつ星」トップが明かす 49 の心得』が、9 月 13 日に発売されたばかりの唐池氏に「感動経営」の秘訣を語っていただこう。 (構成 : 寺田庸二)

テレビ CM を自前でつくろうと呼びかけた

九州新幹線全線開通 CM 180 秒

2011 年 3 月 12 日。 九州新幹線鹿児島ルートは、いよいよ開業を迎えることとなった。 国鉄時代の 1973 年に整備新幹線として国の法律により計画決定されて以来、じつに 38 年の時を経て、満を持しての全線開業となった。 先立って 2004 年に部分開業していた新八代(熊本) - 鹿児島中央間へつながるかたちで、博多 - 新八代間が開通。 これにより、博多 - 鹿児島中央間は、最速 1 時間 19 分で結ばれることになった。

沿線住民の皆さん、国鉄時代からこの事業にかかわってきた先輩社員、OB・OG から大きな喜びの声が寄せられていた。 鉄道事業部営業部長として部分開業にかかわり、全線開業の節目を社長として迎えた私としては、喜びの声に応えないわけにはいかない。 トップの仕事は機を見逃さず、決断することだ。 そこで、わが社らしい手づくり感とぬくもりにあふれたテレビ CM を企画することにした。

涙がボロボロあふれて止まらない

開業までおよそ 2 ヵ月というタイミングを迎え、実際のルートで試験運転がほぼ毎日、平均して 2 - 3 往復ほど行われていた。 (CM 撮影は、ここしかない!) 開業のちょうど 20 日前に当たる 2 月 20 日、試験運転の一本を使って、CM 撮影を行うことを決定し、博多駅 - 鹿児島中央駅間の沿線を中心に出演者の募集告知を打つことにした。

対象は、この全線開業を共に祝っていただける方々約 1 万人。 内容は、2 月 20 日に試験運転で走る新幹線に向かって思い思いの衣装、スタイル、横断幕その他諸々で、新幹線に手を振って声援を送ってください、というもの。 イメージは、人気映画『スラムドッグ $ ミリオネア』のラストシーンにあるようなインド映画風のダンス。

当日は、新幹線車内にスタンバイしたムービーカメラ 7 台、スチールカメラ 6 台を中心に、空からも地上からも合計約 50 台のカメラがその模様を撮影することになっていた。 Web で事前の参加登録を受け付けていたが、応募状況はまずまず。 あとは当日を待つばかりとなった。 2 月 20 日当日、試験運転の新幹線が鹿児島中央駅を走り出すと、そこから先はもうずっと信じられない光景が続いていた。

沿線の道や広場、川原にグラウンド、学校の校舎やマンションなど、いたるところであふれんばかりのひとびとが、思い思いの格好と小道具でちぎれんばかりに手を振ってくれている。 先生たちと "結託" したのか、学生服や部活動のユニフォーム姿の学生たちも目立つ。 チアリーダーチームもいれば、線路から見えるところでプロレスをしている人たち、新郎新婦の結婚衣装、プールに花や風船を浮かべてあったり、マンションに大きな垂れ幕なんて演出もあった。

面白おかしいものばっかりだったから、新幹線の中でみんなで笑い転げていたが、なぜだかみんなが泣いていた。 この CM のいいだしっぺだった私も、涙がボロボロあふれて止まらない。 カメラマンチームもレンズを見つめて、粛々と仕事をしながら、全員ボロボロ泣いていた。 次々と移りゆく景色のなかで、沿線のひとたちがいろんな姿で現れては通りすぎてゆく。

結局、私たちは完全に見誤っていた。 1 万人も募集してみて、何千人くらいのひとたちがうまくカメラに収まってくれるだろうか、そんなことを思っていた。 ふたを開けてみれば、事前登録者数をはるかに上回る、募集した 1 万人の倍の 2 万人が集まっていたという。 新幹線の撮影があるからと、急遽かけつけ、驚くようなコスプレや演出で「出演」をはたした猛者たちも大勢いたようだ。

飾りもなく、台本もない CM。 それが功を奏した。 インド風ダンスが云々、といった事前のイメージのすべて上を行く、ものすごい CM ができた。 現在でもネット上の動画サイトで、「祝! 九州」などで検索すると出てくるので、まだ観ていない方はぜひご覧いただきたい。 大急ぎで編集、制作されたこの CM は、2011 年 3 月 9 日にスタートし、そして 11 日の夕方まで放送された。 (唐池恒二、Diamond = 9-16-18)



木の枝でショートが原因 JR 東日本「四季島」の 8 時間立ち往生

JR 東日本福島支店は 3 日、豪華寝台列車「トランスイート四季島」が JR 磐越西線喜多方駅(福島県喜多方市)で約 8 時間立ち往生したトラブルは、車両の屋根にあった木の枝でショートが起きたことが原因だったと発表した。 同支店によると、5 月の四季島の運行開始後、車両トラブルは初めて。 トラブルは 2 日午前 6 時 15 分ごろに発生。 非電化区間が喜多方駅で終わり、電化区間での走行に備えてパンタグラフを上げたところ、木の枝によってショートが起き、パンタグラフを動かすための空気配管が損傷した。

そのまま走行すると他の機器に影響する恐れがあったため、修理を終えた午後 2 時 40 分ごろ出発した。乗客 32 人は喜多方駅から会津若松駅に向かう予定だったが、バスで移動した。 このトラブルにより停電が発生し、列車 5 本が運休、約 360 人に影響が出た。 四季島は 10 両編成で 17 の客室を備え、全てスイートルーム。 東北、甲信越地方などを 1 - 3 泊で巡る豪華な旅で注目されている。 (sankei = 7-3-17)


「瑞風」、大阪駅を出発 豪華寝台列車、最高 120 万円

JR 西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の一番列車が 17 日午前、大阪駅を出発した。 山陰地方を巡り、山口・下関駅に至る 1 泊 2 日の旅。 乗客は 1 日 1 駅で途中下車し、周辺観光を楽しむ。 最高 67 倍の抽選を通った 31 人が乗り込んだ列車は午前 10 時 20 分、多くの人に見送られて、10 番ホームを出発した。 11 月までの申し込みは終わり、12 月と来年 2 月(1 月はメンテナンスで運休)の出発分を募集している。 1 泊 2 日と 2 泊 3 日の計 5 種類のコースがあり、値段は 1 人 25 万 - 120 万円。(広島敦史、asahi = 6-17-17)

前 報 (11-30-16)


ななつ星、阿蘇に再び乗り入れへ 初の全面ルート変更

JR 九州は 29 日、九州を周遊する豪華寝台列車「ななつ星」の 3 泊 4 日コースについて、来年 3 月から経由地や宿泊場所を大幅に見直すと発表した。 1 日目に門司港を経由し、夜に大分方面から阿蘇に入るルートを盛り込むことが目玉だ。 2013 年秋から運行するななつ星の 3 泊 4 日コースは現在、博多から大分、宮崎、鹿児島を通って肥薩おれんじ鉄道を経由し、博多に戻る。 当初は阿蘇地方がルートに入っていたが、昨年 4 月の熊本地震で豊肥線が一部不通になり、現在は阿蘇を通らず九州を周遊するルートにしている。

今回の変更は、「阿蘇の復興に協力したい(青柳俊彦社長)」として、阿蘇にななつ星を再び乗り入れる案を優先して検討したという。 博多から門司港に寄ったあと、大分方面から阿蘇に入り、また大分方面に戻って宮崎、鹿児島などを経由し、博多に戻る。 2 日目には大分・由布院で地元の高級旅館に宿泊。 大分・宇佐や熊本・人吉などでは列車を降りて「立ち寄り観光」も。 ルートの一部変更はあったが、大幅刷新は初めてとなる。

JR 東日本が 5 月に「トランスイート四季島」の運行を始めるなど、豪華列車も競争相手が増えている。 今回のルート見直しとは直接関係がないというが、ななつ星の予約への影響について、JR 九州の青柳社長は 29 日の会見で、「心配がなかったというとウソになる」と警戒心も示した。(湯地正裕、asahi = 5-29-17)


絶景の展望車・ひのき風呂 … 豪華寝台「四季島」に試乗

JR 東日本が 5 月 1 日から運行を始める豪華寝台列車「トランスイート四季島(しきしま)」の報道向けの試乗会が 26 日午前に開かれた。 展望車の大きな窓からは都会から田園へと変わりゆく風景が一望できた。 車両には揺れや震動を抑える技術を複数採用され、快適な乗り心地だった。 午前 9 時 5 分、上野駅の 13 番ホーム。 かつて東北・北海道方面の寝台列車が使用していた場所に、淡い金色のボディーの四季島が入線した。 試乗会があることは一般客には知らせていない。 突然の豪華列車の登場に驚いて、携帯電話のカメラで撮影する人もいた。

四季島は 1 号車と 10 号車が展望車。 6 両ある客室(定員 34 人)のうち 5 両がスイート(15 室)で、1 両が「デラックススイート(1 室)」と最高級の「四季島スイート(同)」だ。 ラウンジとダイニングが各 1 両ある。 発着はすべて上野駅。 13 番ホーム上に、入線を待ったり旅を終えた後にくつろいだりできる乗客専用のラウンジが新設されている。 13 番ホームと 14 番ホームの間に設けた専用のエントランスを通り、5 号車のラウンジカーから、いよいよ乗車だ。

乗車前、報道陣には JR 東日本の担当者から警察の鑑識課員らが現場でつけるような足カバーを渡された。 そう、真新しい車体、汚してはいけない。 この日の試乗は宇都宮駅までの約 1 時間 40 分。 上野駅を午前 9 時 34 分に発車した。 まず、先頭 10 号車の展望車に向かった。 両側の壁から天井までは、三角形の大きなガラス窓が組み合わされて開放感がある。 緑色のじゅうたんが敷かれ、景色を楽しむための真っ白な 1 人がけソファ 4 脚とロングソファ 1 脚が配置されていた。

ビルや住宅の密集地を抜けると、荒川河川敷の新緑が目に飛び込んできた。 大宮駅を過ぎると、車窓は関東平野の田園風景に様変わり。 JR 東営業部の高橋敦司・四季島担当部長は「函館の日の出や日本海の絶景など、おすすめはたくさんある。 移りゆく風景を楽しんでほしい。」と話す。

7 号車の最高級客室「四季島スイート」に入った。 壁面には和紙や木を使用し伝統的な「和」を意識。 広さ約 20 平方メートルのメゾネットタイプで、1 階がツインのベッドルーム、2 階は畳敷きで掘りごたつがある。 室内は真新しい木の香りがした。 ひのき風呂も備え、湯船横には大きな窓がある。 四季折々の風景を楽しみながら、ゆったりとお湯につかることができそうだ。

ダイニングは 6 号車。 中央で高低差のある二つのフロアに分かれている。 18 席あり、天井には有機 EL のシャンデリアが光る。 フレンチや和食を中心に、四季島が立ち寄る東日本各地の料理人たちが腕をふるう。 料理を監修するのは、東京ステーションホテルを運営する日本ホテルの取締役統括名誉総料理長の中村勝宏氏だ。

メイン料理のサンプルの写真撮影もできた。 メニューは「漢方和牛のロースト 黒にんにくとバルサミコのソースで」。 だが、「残念ながらご試食はいただけません。(JR 東の担当者)」 各車両には専門のクルーが待機し、洗練された身のこなしや言葉遣いで、報道陣に対応した。 5 号車のラウンジではピアノの生演奏が流れ、バーカウンターでカクテルを作るパフォーマンスも行われた。

揺れは少なく、「四季島スイート」を始めとする客室内はとても静かだった。 東北新幹線の E5 系車両などで使われている左右の揺れを低減させる「フルアクティブサスペンション」と、上下の揺れを抑える「セミアクティブサスペンション」を展望車以外の 2 - 9 号車に採用したためだという。さらに、床と床下に制御ゴムを挟む構造を取り入れ防振・防音効果を高めている。 最高速度は時速 110 キロだが、食事の時間は揺れを抑えるため速度を落として運転するという。

また、電化・非電化区間の双方を走るため、電化区間では架線から供給される電力で、非電化区間では車両に搭載したエンジンによる自給電力でそれぞれ走行する。 EDC 方式と呼ばれるもので国内で初めて採用した。 車両の製造などの総事業費は約 100 億円だ。 1 泊 2 日、2 泊 3 日、3 泊 4 日の旅が設定されている。 料金の最高額は 1 人 95 万円(2 人 1 室利用)だが、すでに来年 3 月運行分まで満席だという。

5 月 1 日の一番列車は、日光(栃木)、函館(北海道)、洞爺(同)、弘前(青森)、鶴岡(山形)、新津(新潟)、東三条(同)などを経て上野駅に戻る 3 泊 4 日コース。 車内での食事・宿泊だけでなく、途中下車して観光したり温泉旅館に宿泊したりする。 倍率は「四季島スイート」で 76 倍だった。 上野 - 宇都宮間でも存分に楽しめたが、もっと地方に行けば四季折々の雄大な山々や里山の姿、海岸線の絶景などが楽しめるだろう。 仕事ではなくプライベートで乗ってみたいところだ。 朝風呂に入りながら眺める車窓の風景は最高だろうな、と想像した。

四季島の詳細は ホームページ かツアーデスク (0570・00・7216) へ。 (宮山大樹、asahi = 4-26-17)

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