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温暖化で国内流行の可能性は 「チクングニア熱」 40 カ国で感染報告 蚊が媒介する感染症「チクングニア熱」の感染者が今年、世界的に多く報告されている。 世界保健機関 (WHO) も流行の広がりを懸念する。 大きな脅威は、地球温暖化だ。 蚊が媒介する感染症では、日本では 10 年ほど前に、東京・代々木公園などを中心にデング熱の国内感染が報告された。 チクングニア熱が日本で流行するおそれはあるのか。 チクングニア熱は蚊がウイルスを媒介することで感染する。 東京医科大学病院の濱田篤郎客員教授によると、もともとはアフリカ東部で多くみられた病気で、2000 年代に入りアジアや南太平洋、中南米などに広がった。 「チクングニア」は、アフリカ東部の言語で「腰をかがめて歩く」を意味する。 発症すると、発熱に加え、かがまないと歩けないような強い関節痛が起きるとされる。 ワクチンは開発されているが、日本では承認されていない。 有効な治療薬はないが、ほとんどの患者は対症療法で回復する。 ただし、高齢者は重症化することがある。 妊娠中に感染すると流産のリスクがあるという。 WHO は 10 月、今年 1 - 9 月に 40 カ国で計 44 万 5,271 件の感染例(疑い例を含む)を確認した、と発表した。 死亡は 155 例報告された。 インドとバングラデシュから 3 万例以上、中国では広東省で大きな流行があり 1 万 6 千例以上が報告された。 フランスやイタリアでも流行した。 東京・代々木公園を中心に「デング熱」、感染拡大の過去 厚生労働省は 8 月、海外から入国した人に感染が確認される「輸入症例」の増加が懸念されるとして、全国の自治体などに文書を出し、予防対策を周知するよう呼びかけた。 国内では今年、20 例が報告されている。 世界的に流行の広がりが懸念されているのには、理由がある。 ひとつは地球温暖化の影響だ。 チクングニア熱は、日本などの都市部にも多いヒトスジシマカが媒介しやすい、とされる。 温暖化の影響で蚊の活動期間は長くなる傾向にある。 さらに卵から成虫に発育するまでの期間が短くなり、結果として、蚊の個体数も増えているという。 コロナ対策が緩和されて以降、国境を越えた人の移動も活発になっている。 日本で流行が起きても不思議ではない状況にある、と濱田さんは指摘する。 日本では 14 年、同じヒトスジシマカが媒介する「デング熱」で、海外への渡航歴がない人の感染が確認された。 感染場所のひとつとされた東京・代々木公園は一時閉鎖される騒ぎとなり、首都圏などで約 160 人の感染が報告された。 濱田さんによると、チクングニア熱のほうがデング熱よりも、蚊のなかでウイルスが増えやすく、感染が広がりやすいと推測されているという。 個人や地域レベルで … 「蚊を増やさないための対策重要」 蚊が媒介する感染症は日本ではかつて、日本脳炎が注目されていた。 1960 年代に年間 2 千人以上の患者が報告されたが、ワクチン接種の広がりもあり、患者数は大きく減少。 現在も患者は少数報告されているが、関心は低くなった。 一方で、自宅などで水たまりを放置すると罰金が科されるシンガポールのような国もあるという。 蚊の繁殖につながるためで、蚊が媒介する感染症への警戒感が強い。 「植木鉢の皿にたまった水をこまめに流したり、水がたまりやすい古タイヤを外に放置しないようにしたり、個人や地域のレベルで蚊を増やさないようにする対策は日本でも重要になっている」と濱田さんは呼びかける。 年末年始に向けて、流行している地域に旅行を考えている場合も要注意だ。 ヒトスジシマカは主に夜間ではなく、昼間に活動する。 日中も虫よけスプレーを使ったり、なるべく肌の露出を避けたりといった対策が重要になる。 「これから蚊の活動時期ではなくなっていくため、すぐにチクングニア熱の国内流行を懸念する状況にはない。 発症しても大半の人は重症化せずに回復するので、過剰におそれることはない」と濱田さん。 それでも、気候変動の影響で蚊が媒介する感染症への懸念が世界的に高まり、日本も蚊が多い環境になっている。 「国内流行が今後ないとは言えない。 感染者が増えると、重症化する人が出てくるおそれがあり、注意が必要だ。」と濱田さんは話す。 (編集委員・武田耕太、asahi = 11-12-25)
市販薬 2 成分、規制対象に追加へ オーバードーズ対策でせき止めなど 若者の間で広がる市販薬の過量服用(オーバードーズ)をめぐって厚生労働省は 11 日、市販薬に対する販売規制の対象に、新しくせき止め薬などに使われる 2 成分を追加する方針を決めた。 対象となれば、購入時の乱用についての情報提供が薬剤師などの義務となり、18 歳未満への複数個の販売も禁止される。 対象は、せき止め成分の「デキストロメトルファン」とアレルギー薬に使われる「ジフェンヒドラミン」。 この成分を含む市販の飲み薬に販売規制がかかることになる。 市販薬の乱用は、孤立やストレスから逃れる手段として若者を中心に広がっている。 身体への深刻な影響が懸念されている。 厚労省の研究班の 2024 年度の調査では、過去 1 年間に市販薬を乱用した経験がある高校生は 1.4%、中学生は 1.8% と推計されている。 乱用されやすいものは、「乱用のおそれのある医薬品」として販売規制がかけられている。 現在は「ジヒドロコデイン」など 6 成分が指定されている。 来年 5 月に施行する改正医薬品医療機器法(薬機法)で、乱用のおそれのある医薬品は「指定乱用防止医薬品」に名称が変わり、規制も強化される。 この変更に合わせ、厚労省の調査会は 11 日、デキストロメトルファンとジフェンヒドラミンを加えた計 8 成分を指定乱用防止医薬品に指定する方針を了承した。 今後、パブリックコメントで一般からの意見を募り、結果を踏まえ指定が正式に決まる。 来年 5 月から新たなルールのもとで販売されることになると見込まれる。 追加される 2 成分をめぐっては、昨年度の厚労省の研究班の調査で乱用が広がっていることが確認され、研究班は直ちに「乱用のおそれのある医薬品」に指定するべきだとする見解をまとめていた。 指定されると、乱用についての注意喚起を薬剤師などが書面で行うことが義務化される。 商品の陳列は、購入者の手の届かないところか、薬剤師などが常駐する設備から 7 メートル以内に置くことも求められる。 販売方法についても、18 歳未満には 1 箱(小容量)しか販売できず、1 箱であっても、かぜ薬、解熱鎮痛薬、鼻炎薬なら 7 日分以上、その他は 5 日分以上とする方向で調整中の「大容量」は販売できなくなる。 また、薬局などでの対面販売かビデオ通話を使った販売が基本になる。 単純なインターネット販売は、18 歳以上の成人が小容量を購入する場合に限定される。 課題も残る。 販売時には、他の店舗でも対象成分を含む商品を購入していないか確認することになっているが、購入者が偽って複数店舗を回るなどして結果的に大量に薬を入手することまでを防ぐのは難しい。 成分指定について議論した 11 日の調査会で、厚労省の担当者は「販売時の対応が(業界団体のガイドラインなどで)設定されることで、頻回購入を試みる場合でもハードルが上がる」と話し、一定の抑止力になるとの見解を示した。 (野口憲太、asahi = 11-11-25) 慢性の腰痛に湿布薬処方は「低価値」 医療費のムダ 3 千億円の試算 患者の健康にとってほとんど、またはまったくメリットのない「低価値(ローバリュー)な医療」に、日本では年間に最大で 3 千億円以上費やされているとする試算を、筑波大学や米カリフォルニア大学ロサンゼルス校などのチームがまとめた。 研究結果は、専門家による査読を受ける前の 論文(プレプリント) として公表した。 うち 456 億円を、長期的な腰の痛みなどに対する湿布薬などの「外用薬」の処方が占めた。 長期の痛みにこれらの薬は効果が乏しいとされ、増え続ける医療費を抑えるための議論にも影響を与えそうだ。 アンケート「その医療、必要?」 低価値医療にはさまざまなケースがあり、典型的なのが「風邪に対する抗菌薬の処方」。 ウイルス感染が原因となる一般的な風邪には、細菌をやっつける抗菌薬を使っても効果がなく、薬が効きにくい耐性菌を生むなど、弊害のほうが大きい。 レセプトのデータを解析 こうした低価値医療のうち、どんな医療行為がどれくらい、ムダともいえる医療費の支出につながっているのか。 チームは医療費の請求に用いられる「診療報酬明細書(レセプト)」のデータベースを用いて調べた。 これまでの研究などをもとに、価値が低い、またはまったくないと判断できる薬の処方や検査、手術など 52 種類の医療行為を選定。 2022 年 4 月 - 23 年 3 月に、国内のさまざまな世代約 190 万人に提供された医療行為のうち、低価値医療に該当する件数やかかった医療費を算出した。 何を低価値な医療行為とするか、判断する基準には幅もあるため、件数や医療費はより厳しめの定義(狭義)とやや広めの定義(広義)にわけて導き出した。 その結果、この 1 年間におよそ狭義で 310 万件、広義で 370 万件の低価値医療が提供され、患者全体の約 4 割の人が、少なくとも 1 件の低価値医療を受けていたことがわかった。 低価値医療に費やされた医療費は全体の 0.7 - 1% に該当した。 これを、患者の年齢などを調整したうえで、全国規模にあてはめて推計すると、狭義で 2,070 億円、広義で 3,310 億円に達した。 チームは 22 年に、病院で提供された医療のデータをもとに、「低価値医療に費やされる額は年間約 1 千億円」とする推計を論文発表していた。 今回は診療所なども対象に含め、低価値医療と認定した医療行為を増やしたことから、総額が大きくなった。 急性期の痛みには効果あっても … 内訳で最も多かったのが、「慢性疼痛(とうつう)に対する、外用のサリチル酸製剤または長期の外用 NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」。 使われ方としては、腰痛などに対し、NSAIDs を湿布薬として処方されるケースが代表的だ。 外用の NSAIDs は、骨格筋の急性の痛みには一定の効果があるが、数カ月以上にわたる慢性の痛みにはほとんど効果がないとする研究結果がある。 これをもとにチームの専門医らで議論し、腰痛も含めた慢性疼痛への外用 NSAIDs 長期処方は「低価値」と判断した。 湿布薬は、処方薬と同じ成分が含まれ、医師の処方箋(せん)がいらない市販薬(OTC 医薬品)も販売されている。 現在、医療費の削減を目的に、処方される湿布薬を保険適用の対象からはずすことの是非について議論が始まっている。 アンケート「その医療、必要?」 研究の中心になった宮脇敦士・筑波大学准教授(医療政策学)は「低価値な医療を見直すことは、患者に健康被害をもたらすことなく、ケースによってはより安全性を高める形で、限られた資源をより有効に使っていくことにつながる。 今回の結果を、より望ましい医療の姿を探る議論に役立ててほしい。」と話す。 (田村建二、asahi = 11-2-25) 「グエー死んだンゴ」 8 文字からの寄付の輪 遺族「がん研究進めば」 がん研究への寄付が増えている。 きっかけは、今月がんで亡くなった北大生の中山奏琉(かなる)さん (22) が生前、X に投稿した「グエー死んだンゴ」の 8 文字。 父親の和彦さん (48) = 北海道津別町 = は「多くの方々が関心を寄せて寄付していると聞いて、素直にうれしい。 息子の場合、治療の手立てが一切ないという説明だったので、何もできることがなかった。 希少がんも含めて治療が難しい病気の研究が進めばと思う。」と話す。 生前に予約配信 発端の一文は、中山さん(アカウント名 : なかやま)が 14 日午後 8 時に投稿した。 「グエー死んだンゴ」は 2010 年代に匿名掲示板「2 ちゃんねる(現 5 ちゃんねる)」で生まれたネットスラングで、相手の言葉にショックを受け、死んだふりをする時などに使われてきた。 和彦さんによると、中山さんは「類上皮肉腫」と闘っていた。 国立がん研究センター(東京)の希少がんセンターのホームページによると、新規患者は年間 20 人ほどで、希少がんの一つという。 中山さんは 10 日の投稿で「多分そろそろ死ぬ」と記し、3 日後の 13 日に「なかやまの友人です」とする投稿で、12 日夜に亡くなったと伝えられた。 周囲によると 14 日の投稿は、生前に予約配信していたと見られる。 手術や抗がん剤治療を続けながらも、ユーモアを交えたひょうひょうとした語り口で発信を続けてきた中山さん。 X では感服の声が上がり、「グエー死んだンゴ」に対するお約束の返答となるネットスラング「成仏してクレメンス!」と書く返信が相次いだ。
国立がん研究センター「心より感謝」 投稿をきっかけに「香典」として、医療機関に寄付する動きも広がった。 献血や骨髄バンクへの登録を表明する投稿もあった。 国立がん研究センターによると、国立がん研究センター基金への寄付件数は増えている。 ただ、具体的な件数や金額は「お答えを差し控える」とした。 その上で「多くの方からXのポストを見て、がん医療・がん研究の支援のため寄付をしたいとのコメントをいただいております。 併せて、医療従事者への応援や、がん克服への願いを込めたメッセージも多数いただいております。 SNS を通じて多くの方々が寄付という形でご支援の輪を広げてくださったことに、心より感謝しております。」とコメントした。 朝日新聞の調べでは、寄付の申し込み順に割り振られる受け付け番号は 22 日に 2 万 6 千番台となっており、14 日の投稿以降の寄付件数は 2 万件近くに上り、それ以前から急増している。 表示回数 3 億回 父の思い 同センターに寄付したという静岡県在住の会社員 (33) は、取材に「祖父や知人など身近な人たちにもがんが多い。 全てのがん患者の皆さんががんに打ち勝てることを祈っている。」と語った。 これまでネットで寄付ができることを知らなかったといい、多くの人に知ってもらおうと X で発信したという。 自身も腫瘍の治療中という川崎市在住で 20 代会社員女性は、初めて医療関係の団体に寄付したという。 取材に「私も SNS 上で人の優しさに何度も救われた経験がある。 今度は私が誰かの明日のために力になれればと思った。」と話した。 「グエー死んだンゴ」の投稿には、22 日午後 1 時時点で 84 万の「いいね」がつき、表示回数は 3 億に達している。 和彦さんは「息子の X アカウントの存在は知らなかったが、葬儀の際に友人から話題になっていると聞いて驚いた」と話す。 「息子が痛がって苦しみ、若くして亡くなるまでの様子をずっと見てきた。 研究が進み、息子のような人が少しでも減ってくれればと願っている。」 (小川尭洋、編集委員・山下知子、asahi = 10-22-25) 鳥インフル今季初確認、すでに卵価格は高騰 「ピークはこれから」
記事コピー (11-5-20〜10-22-25) ノーベル賞の坂口さん夫妻、研究も人生も「2 人ならなんとかなる」 ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大特任教授の坂口志文さん (74) と、妻で阪大招聘教員の教子(のりこ)さん (71) が 7 日、会見を開いた。 共に研究を進めてきた「同志」として道のりを振り返った。 2人が出会ったのは、坂口さんが 1977 - 80 年に愛知県がんセンターに所属していたころ。 教子さんはそこまで研究にうち込む人を見たことがなかった。 その後、坂口さんと渡米。 皮膚科医だった教子さんは研究所の様子をみて、「創造的で楽しい」と研究の魅力にひかれた。 約 10 年間、2 人で米国の研究所を転々としながら、地道に研究を続けた。 「毎日新しいデータが出るとわくわくする。」。そう語る教子さんは常に楽天的だった。 「困ったな、どうしようかなと思ったことは何回もある。 でも、2 人で考えればなんとかなる。」と思っていたという。 のちに「制御性 T 細胞」と呼ぶ、免疫反応の暴走を止めるブレーキ役の細胞を発見したとして、坂口さん、教子さんらの署名が入った論文を発表したのは 1995 年。 ただ、教子さんはまだ「それがどれくらいすごいのかはよくわからなかった。」 近年、国際的な賞を次々と受賞するようになったが、研究姿勢は変わらない。 「目の前のやるべきことを淡々とやってきました」と坂口さん。 そして今回のノーベル賞。 受賞決定の知らせを受け、教子さんもシンプルな言葉で喜びを表現した。 「ただ、『よかったね』って。 それ以外ないです。」 研究室の運営にも教子さんは欠かせない。 留学生にいろいろ質問された坂口さんは「アスク、ノリコ(教子に聞いて)」と一言。 坂口さんは他の研究者から、「本当に困ったことはないでしょう、みんなノリコが解決してくれるから」と言われたこともあった。 長年、職場でも家でもいっしょに過ごしてきた。 家ではあまり話をしないという。 それは、お互いに「気にならない、空気のごとく」という存在だから。 坂口さんが何も言わなくても、「考えていることがわかる」と教子さん。 坂口さんは「私が毎日やっていることを全部知っている。 めんどくさくなくてよかった。」と笑いを誘いつつ、「いつも感謝している」と話した。 2 人の関係性をたずねられると、「研究だけでなく重要な課題を理解し、いっしょに解決してきた同志」と坂口さん。 教子さんも「苦しいこともいろいろあったけど、一人でなく 2 人で対処してきた同志」と笑顔でこたえた。 (藤谷和広、瀬川茂子、asahi = 10-7-25) ◇ ◇ ◇ ノーベル生理学・医学賞、阪大の坂口志文氏らに 制御性 T 細胞を発見 スウェーデンのカロリンスカ研究所は 6 日、今年のノーベル生理学・医学賞を、大阪大の坂口志文(しもん)特任教授 (74) らに贈ると発表した。 業績は「免疫が制御される仕組みの発見」。 病原体を攻撃する免疫細胞の中に、免疫反応の暴走を止めるブレーキ役の「制御性 T 細胞」を発見した。 この細胞の働きが弱まると、免疫細胞が体内の正常な組織を攻撃して自己免疫疾患などの病気になることも突き止めた。 同日夜に会見した坂口さんは「うれしい驚き。 この研究がもう少し人の役に立つとなんらかのごほうびがあるかもしれないと思っていた。 驚きとともに光栄です。」と話した。 受賞が決まったのは坂口さんの他に、米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウさんと米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデルさん。人の体内には、様々な種類の細胞が連係し、病気を引き起こす細菌やウイルスなどの異物を排除する「免疫」の機能が備わっている。 しかし、何らかの原因で、病原体でないものに免疫が強く働くことがある。 自分の組織を攻撃する関節リウマチや 1 型糖尿病といった自己免疫疾患や、本来は無害な花粉などに過剰に反応するアレルギーを引き起こす。 坂口さんは 1980 年代、免疫の司令塔役の「T 細胞」をつくれないマウスを使った実験で、免疫の働きにブレーキをかけるタイプの T 細胞があることに気づいた。 ブレーキ役を取り除いた T 細胞の集団をこのマウスに移植し、自己免疫疾患が起きることも確認した。 95 年に存在を証明する論文を発表。 ブレーキ役を「制御性 T 細胞 (Treg)」と命名し、さらに詳しい機能を明らかにした。 免疫のブレーキ役となる制御性 T 細胞は様々な病気に関わる。 制御性 T 細胞の働きを強めることで、自己免疫疾患やアレルギー、臓器移植後の拒絶反応を抑えられる可能性があり、治療への応用に対する期待も高い。 一方で、がん細胞を攻撃する免疫細胞にまでブレーキをかけてしまい、がんを守る「盾」のように振る舞うこともわかってきた。 そこで、逆に制御性 T 細胞を弱めてがんを治療する研究も国内外で進んでいる。 ブランコウさんとラムズデルさんは、制御性 T 細胞の存在を裏付ける重要な発見をした。 1940 年代、原子爆弾の開発を進めていた米国の研究所で、放射線の影響を調べる過程で偶然、病弱な雄のマウスが生まれた。 その後、研究者たちはこのマウスが病弱になる原因を調べていた。 90 年代、米のバイオ企業で働いていた両氏は、病弱となる原因の遺伝子を調べ「FOXP3」という遺伝子を発見。 この遺伝子が、制御性 T 細胞の働きを決めていることが後に明らかとなった。 日本のノーベル賞受賞(米国籍を含む)は、24 年平和賞の日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に続き 2 年連続。 個人では 21 年物理学賞の真鍋淑郎氏以来 29 人目。 生理学・医学賞は利根川進・米マサチューセッツ工科大教授(87 年)、山中伸弥・京都大教授(12 年)、大村智・北里大特別栄誉教授(15 年)、大隅良典・東京科学大栄誉教授(16 年)、本庶佑・京都大特別教授(18 年)に続いて 6 人目。 授賞式は 12 月 10 日にストックホルムである。 賞金は 1,100 万スウェーデンクローナ(約 1 億 7,000 万円)で、3 人で分ける。 相次ぐノーベル賞受賞者からの喜びの声 大阪大特任教授の坂口志文さんのノーベル生理学・医学賞の受賞が決まったことに、過去のノーベル賞受賞者からも喜びの声が相次いだ。 2018 年に生理学・医学賞を受けた本庶佑・京都大特別教授はコメントを寄せ、「坂口先生は京都大学医学部の後輩で、同じ免疫学の、T 細胞の制御に関する分野なので、特に誇りに思っています。」と喜んだ。 12 年に生理学・医学賞を受けた京都大の山中伸弥教授は、所属する京大 iPS 細胞研究所の X (旧ツイッター)に投稿。 「坂口先生は、免疫学における常識を覆され、自己免疫疾患やがん、さらには臓器移植など、幅広く医学に大きく貢献されました。 ご業績に心から敬意を表します。」などと祝った。 物理学賞を 1973 年に受賞した江崎玲於奈さん (100) は朝日新聞の取材に「ノーベル賞はやはり世界最高の科学賞だ」と語った。 日本は 21 世紀以降では、自然科学 3 賞の受賞数が米国に継いで世界 2 番目に多い国だが、坂口さんの受賞で 4 年ぶり。 「近年、ノーベル賞受賞が少し減っているように感じて心配だったが、坂口さんの受賞で、基礎研究の重要さに改めて光が当たってほしい」と語った。 (asahi = 10-6-25) 旬の「ごまさば」に気候変動の影 身に寄生するアニサキス、日本海へ 旬を迎える生のサバ料理に、寄生虫「アニサキス」による食中毒が目立っている。 マサバの刺し身を甘めのしょうゆやゴマだれであえる「ごまさば」を提供する店では、対策に本腰を入れ始めた。 福岡市中央区の「博多海鮮処 まんぷく屋大名店」。 ごまさばはイカの活き造りと並ぶ人気メニューだ。 朝の仕込みでマサバをさばく際、アニサキスがいないか目視で入念にチェックする。 仕上げに手にするのが、今年から導入した「ブラックライト」。 懐中電灯のような小さな黒い筒から青い光をマサバの身に投射する。 体長数センチの白い糸状のアニサキスがいれば、浮かび上がる仕組みだ。 肉眼で見つけられないものも逃さないよう、万全を期す。 この日は見つからず、上野剛店長 (37) は「大丈夫そうですね」とホッとした表情を浮かべた。 アニサキスが目立ち始めたのは昨年ごろから。 近くの市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)では「ごまさばが食べられなくなるかもしれない」という声を聞く。 店で提供するのをやめるか悩む同業者もいるという。 上野さんは「観光客も楽しみにしてくれている。 細心の注意を払って提供を続けたい。」と話す。 厚生労働省によると、アニサキスは、サバのほか、サンマやカツオ、アジなどの魚介類に寄生する。 食後 1 時間から数日で激しい腹痛などの症状が出る。 昨年のアニサキスが原因の食中毒は全国で 330 件。 ノロウイルスよりも多く、原因別で最多で全体の 3 割超を占めた。 サバの生食文化がある福岡県では 2015 年は 4 件だったが、23 年は 51 件となり、昨年も 29 件に上った。 29 件を食品別にみると、ごまさば 6 件を含めサバが原因の可能性がある食中毒が少なくとも 15 件に上り、半数を超えた。 飲食店だけでなく、家庭でも発生している。 福岡県の発表では、昨年 12 月に友人が釣ったサバを刺し身にして食べた 80 代の女性がアニサキスが原因で食中毒になったという。 福岡でアニサキスが寄生したサバによる食中毒が目立つようになったのはなぜなのか。 国立感染症研究所(感染研)客員研究員の杉山広さんは、「マサバの回遊ルートが気候変動の影響で変わったことが大きい」とみる。 杉山さんによると、これまでは福岡など日本海側では、内臓にとどまりやすい「P 型」アニサキスの寄生するサバが、太平洋側では、筋肉(身)にも入り込む「S 型」アニサキスの寄生するサバがそれぞれ回遊していたという。 だが、近年は、S 型の寄生するサバが日本海側にも移動するようになったことが、各地の漁港で水揚げされたサバを調査してわかってきたという。 漁場環境に影響を与えた「黒潮大蛇行」による海流(流路)の変化や海水温の上昇が原因とみられるという。 18 年にカツオが原因のアニサキス食中毒が急増したのも、黒潮大蛇行による流路の変化が影響したとみられ、特定の魚種ではアニサキスの寄生状況が短期間に大きく変わる例もあるという。 厚労省によると、アニサキスの食中毒の予防には 70 度以上の加熱、または 60 度以上で 1 分間の加熱調理が効果的という。 生で食べるためには、マイナス 20 度で 24 時間以上の冷凍で死滅させられるが、一般的な家庭用冷凍庫はマイナス 18 度。 杉山さんによると、2 晩置くなど冷凍時間の延長が有効という。 (波多野大介、asahi = 10-5-25) 問診生成 AI の運用開始、医療現場の負担軽減 大阪国際がんセンター 「足のむくみが気になります」、「いつからですか」 …。 患者が体調について人工知能 (AI) と会話をすると、電子カルテに記録が蓄積される「問診生成 AI」を大阪国際がんセンターなどが開発し、運用を始めたと 1 日発表した。 これまで外来で抗がん剤治療を受ける患者は、体調や副作用について「治療日誌」などに手書きで記録し持参していたが、正確に状況の変化を記録できないこともあった。 医師はその場で記録を読み、患者に質問して電子カルテに入力した。 患者は医師、看護師、薬剤師から同じ質問を繰り返し受けていた。 そこで、同センター、医薬基盤・健康・栄養研究所、日本 IBM で生成 AI を利用したシステムを開発した。 患者や家族がスマートフォンやパソコンを使って、日々の体調を記録したりチャットで話したりすると、AI が情報を整理し電子カルテに入力する。 症状の経過や要約、前週との比較が簡単にできるようにした。 医師は診察前に患者の状況を把握して迅速で的確な診療ができるようになり、患者に向き合う時間が増えるとしている。 患者も記録を簡単に振り返り、体調管理に活用できる。 薬が切り替わっても記録が途切れないメリットもあるという。 この AI 開発は、昨年 3 月から始まった生成 AI を活用する共同研究の一環で、看護音声入力生成 AI も開発した。 看護師は 1 日平均 94 分を記録作業に費やしており、AI 支援で記録作業の負荷を減らすねらいだ。 看護師の日々の会議や患者の電話対応で、メモをとり後に記録を作る方法を、AI が作成した要約を確認して編集する方式にした。 記録に費やす時間を 4 割削減することが目標だという。 「AI を利用して医療現場の負荷を減らし、患者に還元する体制を作っていきたい」と医薬基盤研の中村祐輔理事長は話す。 (瀬川茂子、asahi = 10-1-25) 大学病院、7 割赤字に 24 年度計 508 億円、医薬品・材料の支出増 全国の約 7 割の大学病院の 2024 年度収支が赤字だったことが、全国医学部長病院長会議の調査でわかった。 大学病院全体の収支の合計も 508 億円の赤字で、前年度の 168 億円の赤字から大幅に増えた。 物価や人件費の高騰が主な要因としていて、病院長会議は国に財政支援を求めている。 調査は全国 81 の大学病院本院を対象に実施し、9 月 30 日に結果を発表した。 24 年度の経常収支が赤字だったのは、国立で 30 病院、公立で 7 病院、私立で 20 病院だった。 調査データのある 16 - 18 年度と、20 年度、22 年度の経営状況は全体で毎年約 300 億 - 1,200 億円の黒字で、23 年度から赤字に転じていた。 どんな費用が増加しているかを、回答した 68 病院の結果から見たところ、22 年度と比べて、▽ 医薬品費 14.4%、▽ 診療に使う材料費 14.1%、▽ 施設の保守管理や病院食などのための委託費 11.4%、▽ 職員の給与費 7.0% と軒並み増えていた。 病院長会議は、経営状況の悪化により、大学病院本来の機能である高度な手術や研究・教育の維持が難しくなると訴えている。 調査結果は 病院長会議 のウェブサイトから見ることができる。 (野口憲太、asahi = 9-30-25) 患者増え続ける原因不明の難病 8 年で 1.4 倍に 国の研究班が推計 難病の潰瘍性大腸炎とクローン病の患者が 8 年で約 1.4 倍に増加しているとの推計を厚生労働省の研究班が公表した。 1991 年からは約 10 倍と増え続けており、専門家は「もはやまれな病気ではない」と訴えている。 潰瘍性大腸炎は大腸、クローン病は大腸や小腸など消化管の粘膜に炎症が起こり、下痢や腹痛のほか、さまざまな合併症を引き起こす。 原因不明の慢性疾患で、根本的な治療法がない。 研究班は病院の規模などを考慮しつつ無作為に抽出した 3,583 の診療科を対象に、2023 年の 1 年間に受診した患者数を調査。 1,798 の診療科から回答を得た。 推計患者数は、潰瘍性大腸炎が 31 万 6,900 人、クローン病が 9 万 5,700 人だった。 前回 15 年の調査ではそれぞれ約 22.0 万人、約 7.1 万人で、いずれも約 1.4 倍に増加していた。 人口 10 万人あたりでは、潰瘍性大腸炎が 254.8 人、クローン病が 77.0 人だった。 増加の原因は不明だが、研究代表者の久松理一・杏林大学教授は「長年にわたる衛生環境や食生活の変化によって腸内細菌が攪乱され、免疫のバランスが崩れる一因になっているのでは」とみる。 潰瘍性大腸炎とクローン病の患者は 20 代を中心とする若年層に多い。 久松教授は「メンタルの問題にされて診断がつくまでに数年かかる人、学校や職場で言い出しづらいと感じている人もいる。 こういう病気がいま増えていると知ってほしい。」と話す。 (藤谷和広、asahi = 9-28-25) 前 報 (5-18-25) AI で設計のウイルスが細菌を殺すことに成功 世界初の成果に懸念も AI (人工知能)を使って設計したウイルスによって、世界で初めて細菌を殺すことができた - -。 米スタンフォード大などのチームがそんな論文を発表した。 専門家による査読前だが、治療に使える可能性とともに脅威も示しており、米メディアは生物兵器に転用されるリスクを報じている。 論文は 17 日に査読前論文を扱う「bioRxiv (バイオアーカイブ)」で公開された。 ウイルスは、DNA や RNA などの遺伝情報(ゲノム)がたんぱく質の殻に入っている単純な構造だ。 たんぱく質の設計図でもあるゲノムを人工的に合成すれば、ウイルスを作り替えることができる。 「画期的な成果」 論文によると、チームは大量のゲノム配列を学習させた言語モデル「Evo (エボ)」を使い、ウイルスのゲノム配列を設計して、合成した。 細菌に感染して増殖するウイルス「バクテリオファージ」として作った約 300 種類のうち 16 種類で大腸菌に感染する機能を確認できた。 これらの人工ウイルスは大腸菌の複製を止めることに成功。 大腸菌は複製できなくなれば死滅する。 ウイルスは、体内に入れて狙った細菌を殺す治療にも使える。 チームは AI でウイルスを設計できたことは「画期的な成果であり、新たなバイオテクノロジーや治療法の実現を期待させる」とした。 バイオテロへの懸念 一方、AI によるウイルスの作製は、バイオテロなどの脅威につながるとして、かねて懸念されていた問題だ。 今回の論文によって現実味を帯びてきたことに、米メディアや科学誌からも様々な声が上がっている。 チームは論文で、ゲノムの設計に使ったモデルは、ヒトに感染するウイルスを作ることにつながるデータは除外していると説明している。 ただ、米紙ワシントン・ポストは、安全策があってもリスクがあるとし、「同じ技術がヒトに致死的なウイルスを簡単に作ることに利用され、安全保障上の脅威に変わるおそれがある」と指摘した。 米科学誌ネイチャーも「AI がつくる生命への一歩」と題した記事でこの論文を取り上げた。 「AI がヒトに危害を加えかねないウイルスの設計に利用されることに、倫理的な懸念がある」としたが、生物学においては常に懸念されることであるとも説明した。 (サンフランシスコ・市野塊、asahi = 9-27-25) 日本は風疹「排除状態」、WHO 認定 土着株の感染例確認されず 厚生労働省は 26 日、日本国内で広がっていた風疹のウイルスが国内で確認されない「排除状態」にあると世界保健機関 (WHO) の西太平洋地域事務局が認定したと発表した。 厚労省によると、国内では 2020 年 3 月を最後に土着のウイルスによる感染例は確認されておらず、土着株による感染の広がりが3 年間確認されないことなどとする事務局の認定基準を満たしていたという。 風疹は、過去に公的な予防接種を受ける機会がなかった 40 - 50 代の男性を中心に数年おきに流行を繰り返し、13 年は全国で 1 万 4 千人超、18 - 19 年も計 5 千人超が感染した。 12 - 14 年には、妊婦が感染することでおなかの赤ちゃんが白内障や難聴、心臓病などになる「先天性風疹症候群」も 45 人報告された。 これを受けて厚労省は 19 - 24 年度、この年代の男性に原則無料で抗体検査やワクチン接種を受けられるようにする対策を実施。 21 年以降、感染者数は年間 10 人前後で推移していた。 (土肥修一、asahi = 9-27-25) 後発医薬品で沢井製薬と日医工が協業合意 一部製品の生産販売を集約 後発薬(ジェネリック医薬品)大手の沢井製薬(大阪市)と日医工(富山市)は 10 日、一部製品の生産・販売を集約する協業を始めることで合意したと発表した。 互いの協力で生産効率を高め、製品の安定供給につなげる狙いがある。 協業の対象は 15 成分、30 品目。 そのうち 14 品目は生産をどちらかの工場に寄せ、残りはどちらかが製品の販売を辞める方向で協議を進める。 2026 年以降、順次実施していくという。 20 年以降に複数のメーカーで相次いだ品質不正の背景には、各社で続く少量多品目の非効率な生産の問題があるとされる。 沢井光郎・沢井製薬会長は「薬の供給量の多い大手同士の協業は、供給不安の早期解決に大きく寄与する」とコメントしている。 (清井聡、asahi = 9-10-25) 受精卵の染色体を調べる着床前検査 高齢の不妊症夫婦も対象、日産婦 体外受精した受精卵(胚)の染色体の数を調べ、欠損や重複がない胚を選んで移植する着床前検査 (PGT-A) について、日本産科婦人科学会(日産婦)は 6 日、女性が高年齢の不妊症夫婦も対象に加えることを決めた。 検査に関する細則を変更し、8 日に会員向けに周知する。 PGT-A はこれまで、体外受精による胚移植を繰り返しても妊娠に至らない「不妊症」の夫婦と、流産・死産を繰り返す「不育症」の夫婦が対象で、つらい流産などを減らすための検査として限定的に実施してきた。 ただ、この検査について、日本生殖医学会から、高年齢の不妊症で、体外受精が必要なすべての人が検査を選択できるよう求める要望が、日産婦に提出されていた。 日産婦は 6 日の理事会で、海外からの科学的根拠などを参考に審議。 検査は「流産を予防することと、妊娠率の向上が大きな目的になっている」として、35 歳以上を目安に体外受精の適応となる不妊症の人を対象に、対象に加えることを決定した。 現在 PGT-A は自由診療で実施されており、費用は高額となる。 公的医療保険の対象にするかどうかを判断するための研究も「先進医療」として実施されている。 ただ、染色体の数を調べる検査の特性上、障害が出る可能性がある胚が選ばれないことにつながるため、慎重な運用が求められている。 (後藤一也、asahi = 9-6-25) 死なないがん細胞を食べて除去 京大が新手法開発、マウスで効果確認 不要なのに体から除去されない細胞を貪食(どんしょく)細胞に食べさせて取り除く新たな仕組みを、京都大学の研究チームが開発した。 皮膚がんのマウスで効果を確かめたところ、がん細胞だけを取り除くことに成功したという。 今後ヒトを対象にした臨床研究で、安全性や効果を確かめる。 人間の体内では毎日 100 億個を超える不要になった細胞が死に、マクロファージなどの貪食細胞が食べることで取り除かれている。 しかし、年をとるにつれて不要な細胞が死ななくなり、がん細胞などとして体内に残ったままになってしまう。 これまでは、こうした細胞を薬などで意図的に殺して、貪食細胞に食べさせることによる治療法がとられていた。 研究チームは、貪食細胞が食べる標的となる合成たんぱく質「クランチ」を開発。 不要になって除去したい細胞にくっつけることで、貪食細胞が、生きたままの状態の不要な細胞を認識して食べて取り除く方法を編み出した。 皮膚がんの悪性黒色腫(メラノーマ)を移植したマウスにクランチを注入したところ、がん細胞だけを取り除くことができたという。 また、正常な細胞も攻撃してしまう自己免疫疾患のマウスにクランチを注入したところ、異常な免疫細胞が減っていることも確認した。 研究チームは今後、バイオ技術開発を目的としたスタートアップを設立し、がん治療などに役立てるための準備を進める予定という。 研究チームの鈴木淳・京大教授(細胞膜生物学)は「がんに限らず、不要な細胞が蓄積することでさまざまな病気を引き起こす。 クランチは狙った細胞を思いのまま除去でき、さまざまな病気の治療に役立てられる。」と話した。 研究成果は 3 日付の科学誌「ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング」に掲載される。 (坪谷英紀、asahi = 9-3-25) |