マラソンの歴史を塗り替える地球温暖化、ランナーに過酷な影響 記録達成は困難に

地球温暖化がマラソンの記録更新を阻む大きな障壁になりつつある。 世界の気温上昇に伴い、エリート選手が世界記録を破ったり、市民ランナーが自分の目標を達成したりすることが難しくなっているという研究結果がこのほど発表された。 研究結果は非営利研究組織のクライメート・セントラルが発表。  マラソンの 221 大会について分析した結果、86% の大会で 2045 年までにランナーにとって最適な条件が整う可能性が低くなるとの見通しを示した。 その中には 2 日に行われたニューヨークシティー・マラソンのほか、ロンドン、ベルリン、東京、シカゴ、ボストン、シドニーの世界 6 大マラソンが含まれる。

暑さはランナーにとって過酷な影響を及ぼす。 英スコットランドの長距離ランナー、マイリ・マクレナンさんは「レース中に選手が脱水症状や熱中症で倒れ、回復に何カ月もかかる姿を何度も目の当たりにしてきた」と CNN スポーツに語った。 「そうした経験は、血液の濃さや体がどれだけ早く回復できるか、何日間にもわたる水分補給レベル、さらにはトレーニング能力にも重大な影響を及ぼす。 自分が追求している成果や目標の達成を遅らせる可能性もある。」 研究によると、エリートランナーにとって最適な気温は男子マラソンが 4 度、女子マラソンは 9 度とされる。

今年の東京マラソンの場合、当日の気温が男子エリート選手にとって最適になる確率は 69% だったが、今後 20 年の間にこの確率は 57% に低下する見通し。 同様にボストンマラソンは 61% から 53% へ、ロンドンマラソンは 22% から 17% へとそれぞれ低下すると予想している。 女子エリート選手では、7 大大会のうち 5 大会で 2045 年までに最適な条件が整う確率が低下する見通しで、シドニーマラソンで 10 ポイント、ベルリンマラソンで 11 ポイント以上の低下が予想される。 9 月に行われたベルリンマラソン当日の気温は 24 度と季節外れの暖かさだった。 東京マラソンとロンドンマラソン当日の気温も 20 度を超えていた。

今年のベルリンマラソン開催にあたっては、主催者が事前に、気温の上昇に伴って自己ベストの達成は難しくなるだろうと予測。 「記録を追うことよりも、コース沿いの独特な雰囲気を楽しむことに目標を切り替える」よう参加者に促し、水分補給や体の冷やし方、服装、回復についてもアドバイスしていた。 「2025 年のベルリンマラソンと東京マラソンは異常な熱波が気温を押し上げ、ピークの実力を発揮できる状況をはるかに超えていた。」 そう語るマクレナンさんは、昨年のロンドンマラソンで英国人女子最高の 2 時間 29 分 15 秒を記録した。

しかし地球温暖化が進む中、そうした記録の達成は今後ますます希少になるかもしれないと選手も専門家も予想する。 「悪化した条件の中で開かれるマラソン大会が増え、エリート女子選手が記録を破れるチャンスを全般的に低下させている」とマクレナンさんは言う。 「そのせいで競技の全般的な質は低下する。 熱波は既に、レースの歴史を塗り替えていると思う。」 (CNN = 11-5-25)


室効果ガス排出削減目標、EU や中国など未提出 7 割 国連が報告書

国連の気候変動枠組み条約 (UNFCCC) 事務局は 28 日、各国の温室効果ガスの排出削減目標をまとめた報告書を発表した。 11 月には気候変動会議 (COP30) が開かれるが、目標の集まりは遅れており、提出した国の排出量の合計は世界全体の 30% にとどまる。 気候変動対策の国際ルール「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から 1.5 度に抑えるとしている。 そのために各国は温室効果ガスの排出削減目標を定期的に見直し、国連に提出する。

2035 年までの削減目標の提出期限は、今年 2 月だった。 各国が遅れたため 9 月に延ばしたが、報告書によると、提出済みは 64 カ国。 19 年の世界の温室効果ガス排出量でみると、7 割の国が未提出だという。 排出量が最大の中国は、今年 9 月に習近平(シーチンピン)国家主席が削減目標を発表したものの、未提出だ。 欧州連合 (EU) は加盟国間の対立で目標に合意できておらず、排出量 3 位のインドも提出していない。 排出量が 2 位の米国は、バイデン政権が提出済みだが、トランプ政権で取り組みには疑問符がつく。

事務局長「80 億人が住める惑星、守るには」

報告書は、今回分析した範囲は「限定的」で、「幅広い地球規模の結論や推論を導き出すことはできない」とした。 そのうえで、提出した各国の 35 年時点の総排出量は、二酸化炭素 (CO2) 換算で 130 億トンと予測。 各国の 30 年時点の目標よりも 6% 少なく、19 年の排出量と比べると 19 - 24% 減るとした。 提出国だけでみれば 30 年までに温室効果ガスの排出量はピークに達し、35 年までに大幅な削減が進む見込みだという。

世界中の科学者らが協力する「気候変動に関する政府間パネル (IPCC)」は、温度上昇を 1.5 度に抑えるには 30 年までに世界の二酸化炭素 (CO2) 排出量を 10 年比で約 45% 削減し、50 年ごろに実質ゼロにする必要があるとしてきた。 IPCC によると、1.5 度上昇すると、産業革命前まで「10 年に 1 度」だった猛暑は 4.1 倍、豪雨は 1.5 倍、干ばつは 2 倍に増加。2度上昇の場合、猛暑は 5.6 倍、豪雨は 1.7 倍、干ばつは 2.4 倍に増えるという。

来月 10 日から 21 日には各国が気候変動対策について交渉する COP30 がブラジルの北部の都市ベレンで開かれる。 UNFCCC のスティル事務局長は「80 億人全員が住み続けられる惑星を守るには、緊急に(対策の)ペースを加速させなければならない」とのコメントを発表した。 (福地慶太郎、asahi = 10-28-25)


排出量取引、約半数の企業が負担増か 電気料金値上げの可能性も

経済産業省は 17 日、来年度に本格導入する二酸化炭素 (CO2) の排出量取引について、制度の大枠を固めた。 初年度は、制度に参加する企業の約半数が、市場で排出枠を一部買う必要があるなど負担増となりそうだ。 企業に CO2 の削減を促すねらいだが、さまざまな製品の価格や電気料金の上昇につながる可能性もある。 制度の名称は「GX-ETS (Emissions Trading System)」。 今年の通常国会で改正 GX (グリーン・トランスフォーメーション)推進法が可決・成立し、2026 年 4 月から導入されることが決まった。

この制度は、国が毎年度、企業ごとに「排出枠」を無償で割り当て、その枠より多く排出した企業は市場で追加の枠を買う必要があり、枠より排出が少なかった企業は余った枠を売れるしくみ。 最終的に排出量に見合う枠を確保できなかった場合は、国に負担金を収める。 CO2 排出に金銭的負担を課すことで企業に排出削減を促すねらいがある。 対象は排出量が年 10 万トン以上の企業で、大企業を中心に 300 - 400 社に上る見込み。 国内の CO2 総排出量の 6 割をカバーする計算だ。

経済産業省は 7 月から具体的な制度設計を有識者会議で検討しており、この日の会議では、排出枠を割り当てる基準の案を初めて示した。

排出率の平均値をもとに枠を配分

排出枠の算定には「ベンチマーク(目標水準)方式」という手法を用いる。 まず各業種のなかで CO2 の排出率が低い企業群の水準を「目標値」として設定。 それに各社の「活動量」を掛け合わせ、それぞれの排出枠を定めるという考え方だ。

経産省の案では、初年度は各業界の排出率の平均値をもとに枠を割り当てる。 つまり、現状から何も対策をしない場合、各業界で約半数の企業が排出枠を上回る CO2 を排出し、超えた分の枠を買う必要が出てくる。 企業に継続的な排出削減を促すため、基準は毎年段階的に厳しくする。 30年度には CO2 の排出率が低い上位 32.5% の企業の排出率を基準とする。 経産省は欧州の事例などをもとに、過半数の事業者が無理なく取り組みやすい削減ペースを設定したと説明した。 有識者会議の委員からはおおむね了承を得られた。

発電業界は火力の燃料種ごとに

発電業界については、企業によって保有する電源構成の違いが大きいため、火力発電に絞って目標水準を設定する。 そのうえで、最初の 3 年間は液化天然ガス (LNG) や石炭といった燃料種別に排出枠を割り当てることとした。 CO2 排出量は LNG が最も少なく、排出率の低減には LNG 火力発電所への建て替えが主な方策となるが、10 年単位の時間がかかるためだ。

33 年度以降は、発電業界には排出枠を一部有償で割り当てることが法律で決まっている。 発電部門は国内の CO2 排出量の 4 割を占め、影響力が大きいためだ。 火力発電を使うこと自体にコストを課すことで、再生可能エネルギーなどの脱炭素電源への移行を促す。 経産省は今後、企業が取引する排出枠の上限・下限価格などを検討する。 年内にも各企業の負担の規模感が判明しそうだ。 (新田哲史、asahi = 10-17-25)


プラ条約、26 年の合意に期待 「魔法の鍵ある」 UNEP 事務局長

プラごみ処理

記事コピー (9-17-23 ~ 10-15-25)


レッドリスト「世界の鳥類の半分以上が減少」 アオウミガメは改善

国際自然保護連合 (IUCN、本部スイス) は 10 日、絶滅の恐れがある野生生物をまとめた「レッドリスト」の最新版を公表した。 森林伐採などにより、世界の鳥の半数以上の種が減少傾向にあるとして警鐘を鳴らした。 アラブ首長国連邦 (UAE) の首都アブダビであった IUCN の世界自然保護会議で発表された。 鳥類では、評価対象種の 11.5% にあたる 1,256 種が世界的に危機に直面しているとした。 また、61% の種が個体数を減らしているとみられるという。 この割合は、2016 年には 44% だった。 主な要因は生息地の減少や劣化で、森林伐採や農業の拡大などが脅威になっていると指摘した。

日本の鳥類は改善傾向

国際環境 NGO バードライフの専門家、イアン・バーフィールド博士は「世界の鳥類の 5 分の 3 が個体数を減らしているという事実は、生物多様性の危機の深刻さと、各国政府が複数の条約・協定の下で約束してきた行動を緊急に実行する必要性を示している」とコメントした。 鳥類は花粉やタネを運んだり、害虫を抑えたりするなど、生態系や人にとって大切なはたらきをしているという。数が減ると、こうしたはたらきにも影響がでることになる。

一方、日本の鳥類は北海道などにすむシマフクロウや、東アジアの渡り鳥で、有明海の干潟などでみられるクロツラヘラサギが絶滅の恐れが 2 番目に高い「危機 (EN)」から 3 番目の「危急 (VU)」にランクを一つ下げた。 鹿児島県の奄美大島などにすむルリカケスは VU だったのが最も低い「軽度懸念 (LC)」に、アマミヤマシギは VU から「準絶滅危惧 (NT)」とされ、絶滅危惧種から外れた。 (杉浦奈実、asahi = 10-10-25)


トランプ氏、気候変動問題は「最大の詐欺」 英独の対策にも口出し

トランプ米大統領は 23 日に国連本部であった一般討論演説で、気候変動問題を「史上最大の詐欺」だとし、演説の 4 分の 1 近くを自説の展開に費やした。 気候変動対策を軽視して化石燃料活用を進める自国の称賛にとどまらず、対策に力を入れる欧州各国などを念頭に「失敗する」と批判を繰り広げた。

「これは世界が犯した史上最大の詐欺だ。」

トランプ氏は演説の後半、10 分以上を使って気候変動問題への批判を強めていった。 気温上昇に関する国連などの予測は「全て間違っていた。 愚かな人間が作った。」などと主張した。 世界中の科学者でつくる国連の気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は 2021 年に、人間の活動によって温暖化が起きたことは「疑う余地がない」と結論を出している。 にもかかわらず、トランプ氏は「気候変動はでっちあげ」などと主張してきた。

「あなたたちの国は失敗する」

トランプ氏は今年 1 月の就任直後に、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」からの脱退を表明。 米国の化石燃料活用の大統領令に次々と署名する一方、太陽光や風力発電への補助金を減らすなど、対策を後退させてきた。 また、この日は「このグリーン詐欺から脱却しなければ、あなたたちの国は失敗する」と他国にも話を広げた。 エネルギー政策という国の経済の基幹にもかかわらず、他国の政策に次々とけちをつけた。

英国には北海で採掘できる原油の活用を促し、太陽光や風力が景観を損ねていると批判。 対策に熱心だったドイツについては「破綻寸前まで追い込まれた」などとなじった。 「私は物事を予測するのが本当に得意だ」などと自賛し、「欧州を心配している」とも語った。

国連は 11 月の気候変動会議 (COP30) を前に、国連総会ハイレベルウィーク中の 9 月 24 日、各国が新たな温室効果ガスの削減目標などを発表する場を設けている。 しかし、トランプ氏は温室効果ガスを中国などが大量に排出しており、先進国による削減は「無駄」だとも強調。 世界全体の 1 割という中国に次ぐ排出量で、GDP (国内総生産)世界 1 位の経済大国である米国の大統領による気候変動対策の機運を盛り下げる発言には、落胆や反論の声が出ている。 (サンフランシスコ・市野塊,、asahi = 9-26-25)


ミカン産地でアボカド栽培 温暖化で変わる適地、今世紀末は関東でも

地球の温暖化の影響で、今世紀末には、国内のミカンの主な産地が亜熱帯果実のアボカドの適地に変わるとの予測が国の研究機関から示された。 一部のミカンの産地ではアボカドの栽培が始まり、自治体が支援するなど、気候変動によって農業の姿が大きく変わろうとしている。 国内有数のミカンの産地として知られる愛媛県。 松山市のミカン農家西原順一郎さん (62) は 15 年以上前からアボカド栽培に取り組む。 松山市は全国に先駆けてアボカド産地作りに取り組み、苗を配り、ミカン、イヨカンなどからの転換も促してきた。 遊休農地の活用策としての事業だったが、温暖化が進む中でにわかに脚光を浴びている。

元々、西原さんはミカンの仲間のイヨカンなどを栽培していたが、市から苗が配られたのを機に、アボカドの面積を徐々に拡大。 花が咲いても、実が付かないなど苦労もあったが、1 万 2 千平方メートルの農地の 3 分の 1 以上で、約 10 種類のアボカドを育てる。 アボカドは亜熱帯原産で、栄養価が高く、「森のバター」とも呼ばれる。 西原さんは年間約 1 トンをネットで販売し、1 キロ(3 - 6個ほど)あたり 3 千円程度と、ミカンの 3 倍ほどだが、すぐに売り切れるほどの人気という。

ここ数年は酷暑が続き、日焼けで実が茶色に変色するなどミカンは育てづらくなっている。 一方、アボカドは害虫の防除や病気の予防の手間が少なく、暑さによる被害も少ないという。 数年前からアボカドの苗木生産やバナナの栽培に取り組み、いずれはミカン栽培をやめ、アボカドやバナナに切り替えるつもりだという。 西原さんは「かんきつ農家としての思いはあるが、気候に適した作物に替えないと暮らしが成り立たない」と話す。 記事の後半では、「日本一のアボカド産地」をめざす取り組みや、ミカンとアボカドの栽培適地の今世紀末までのシミュレーションを地図とともに伝えます。

「10 年後には日本一のアボカド産地に」

同じくミカンの産地の静岡県では、知事自らが「10 年後には日本一のアボカド産地に」と旗を振る。 今年度は 1,800 万円の予算を計上し、本格的に力を入れる。 消費地にも近く、国産だと完熟した状態で届けることができる。 また、アボカドは温室ではなく露地で育てられ、苗木を植えてから実がなるまでの期間も数年とミカンより短い。 今後は日本の冬を越せる品種を探し、安定した栽培法や品質管理の方法を見つけていくことが喫緊の課題という。

県農業戦略課の平野裕二課長は「亜熱帯性の農作物だけに、まだわからないことも多い。 県内では十数軒の農家でアボカドを栽培しており、県の研究機関も交え、まずは 3 年間で知見を集める」と話す。

ミカンの栽培適地、次々と北上

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は今年 3 月、ミカンとアボカドの栽培適地の将来予測を発表した。 地球温暖化の悲観的なシナリオでは、現在の主なミカン産地で栽培が難しくなり、逆に、ほとんどを輸入に頼る亜熱帯性のアボカド栽培に適した場所が大幅に増える可能性が示された。 地図は、1 キロ四方ごとに適地を予測している。 気温による果実や栽培への影響を推定するモデルを作成し、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 6 次評価報告書で採用された五つの主なシナリオのうち温室効果ガスが「非常に多い」、「中程度」、「少ない」の三つでシミュレーションした。

ミカンは、年平均で 15 - 18 度という狭い温度帯にある地域が適地で、温度が高すぎると日焼けしたり皮が浮いたりする現象が起きる。 1 度気温が上がるだけでリスクになりうるという。 シミュレーションでは、温室効果ガスが「少ない」のシナリオであっても、ミカンの適地は徐々に北上し、今世紀半ば(2040 - 59 年)には、現在の主産地である関東以西の本州と九州の太平洋沿岸では、より内陸まで適地が広がる一方、北陸以南の日本海側の沿岸まで北上した。

温室効果ガスが「中程度」と「非常に多い」のシナリオでは、今世紀末(2080 - 99 年)に、原産地と言われる鹿児島を含め、愛媛、和歌山、静岡の主な産地が適地から外れ、新潟県の佐渡や富山県の氷見などが新たな適地になった。

アボカド適地、今世紀末に最大 7.7 倍に

ミカン栽培に置き換わる形で新たに適地になるのが、現在は南西諸島など限られた地域で主に栽培されているアボカドだ。 三つのシナリオを現在と比較すると、アボカド適地の面積は、今世紀半ばには 2.5 - 3.7 倍、今世紀末には 2.4 - 7.7 倍にまで増えると予測された。 「非常に多い」シナリオの場合は、今世紀末に約 9 万 5 千平方キロがアボカドに適した温度帯になるといい、関東の平野部や伊豆、房総半島が広く適地となる。

「適地から外れたミカン産地でも、高温になりやすい木の上方や外側の実をまびくなど、遮光や水分管理などの栽培技術や工夫を重ねることで適地以外でも栽培はできるが、コストや手間がかかり、収量も落ちる可能性がある。 アボカドにも、まだ課題は色々あるが選択肢になる。 手間が比較的少なく、消費者のニーズも高い」と農研機構果樹茶業研究部門の杉浦俊彦さん(農業気象学)は話す。

暑さに強い果物はほかにもあるが、バナナなどは台風など風に弱い。 その点、アボカドは使える農薬が限られ、日本の気候に適した品種が定まっていないなどの課題があるものの、安定した品質で栽培できるようになれば、外国産に負けない農産物になる可能性があるという。 (山田暢史、竹石涼子、asahi = 9-21-25)


リチウムイオン電池のリサイクルなどで協力 日・EUの業界団体が覚書

国内の電池メーカーなどでつくる「電池サプライチェーン協議会 (BASC)」は 15 日、欧州連合 (EU) の業界団体「EBA250」と協力を進める覚書に署名した。 蓄電池のリサイクルや関連分野の人材育成に取り組むという。 署名式は国内主要メーカー「パナソニックエナジー」の住之江工場(大阪市)であり、武藤容治経済産業相と EU のセジュルネ欧州委員会上級副委員長(産業戦略担当)が立ち会った。

覚書には、使用済みのリチウムイオン電池を粉砕処理した「ブラックマス」の基準を互いにそろえることで、リサイクル素材として流通しやすくすることを盛り込んだ。 専門人材の育成に関する情報共有を進めることなども明記した。 リチウムイオン電池は供給網の主要部分を中国に依存する。 このため、地政学的なリスクを減らせるリサイクルが注目されている。 BASC の好田博昭会長は「この覚書は日本の電池産業が欧州に貢献し、クリーンな電池の循環型社会をつくるスタートラインだ。 両国の連携を深めていきたい。」と語った。 (清井聡、asahi = 9-15-25)


温暖化の「元凶」 CO2 が足りない! 輸入してまで賄うそのワケは

地球温暖化の原因として「邪魔者」扱いされている二酸化炭素 (CO2)。 だが、「足りなくて困っている」という声が相次いでいる。 一体どういうことなのだろう。 そのひとつが、生活協同組合ユーコープ(本部・横浜市)だ。 7 月下旬、市内の宅配センターを訪れると、職員が大粒の汗を流しながら、組合員宅に配達する食品や日用品を次々とトラックに積み込んでいた。

ユーコープは神奈川、静岡、山梨の 3 県に 180 万世帯の組合員がいる。 配達先が不在の場合は、発泡スチロールの箱に商品とドライアイスを入れて玄関先に置く。 ただ、今夏は商品を断熱シートで囲い、ドライアイスの大きさをこれまでより約 2 割小さくした。 実は、ドライアイスが不足気味なのだ。 昨年、ドライアイスの供給をメーカーから度々制限された。 そのときは、業務用の保冷剤で代替したが、組合員から「冷凍商品が溶けていた」などと苦情が相次いだ。 富田淳一・宅配運営課長は「少しでも使用量を減らせれば、万が一の供給制限にも備えられる」と話す。

とやま生協(本部・富山市)は、昨年 12 月から宅配時のドライアイス使用を完全にやめた。 畑野仁・宅配事業部長は「ここ 3 - 4 年は、夏は必要な量の 5 - 6 割しか納品されない。 それならいったんゼロにしてみよう。」と決断の理由を話す。 保冷剤を多めに使い、代替できているという。 アイスクリームを販売するシャトレーゼやサーティワンでは、昨年の一時期、アイスの持ち帰りのためのドライアイスを十分に提供できなかった店があったという。

深刻な CO2 不足 「輸入」も増加

なぜドライアイスが足りないのか。 ドライアイスは、CO2 に圧力をかけて液体(液化炭酸ガス)にしたうえで、それを凍らせて固体にしたものだ。 ドライアイスのメーカーは、製油所やアンモニア工場から出る CO2 を原料に、その隣で炭酸ガスやドライアイスを作ってきた。 ただ、車の燃費向上によるガソリン需要の減少などで、国内の製油所は 2000 年の 36 カ所から現在は 19 カ所まで減り、処理能力も全体で 4 割減った。 アンモニア工場も合成繊維の国内需要が縮んで減少が続く。

さらに、それらの工場は老朽化が進み、突発的なトラブルによる稼働停止も絶えない。 その結果、CO2 が慢性的に不足している。食品宅配の普及などでドライアイスの需要は旺盛だが、大手メーカーの幹部は「供給不足が需要の足かせになっている。 顧客離れも進んでいる。」と嘆く。 国内でまかなえない分、実は「輸入」が増えている。 財務省の貿易統計によると、CO2 の輸入量は、10 年まで 1 千トン未満で推移していたが、11 年以降は増加傾向にあり、24 年は約 4 万トンにまで増えた。 メーカーによる値上げも相次ぐ。 経済産業省によると、炭酸ガスの販売単価はこの 10 年ほどで約 1.5 倍になった。

新たな CO2 供給源を探し求めて

原料不足を解決するため、各メーカーは新たな CO2 供給源での工場建設を検討している。 候補は発電所やセメント工場、ごみ焼却場などだ。 だが、製油所やアンモニア工場から出る CO2 は純度が 99% と高いのに対し、それらの施設からの排ガスに含まれる CO2 は 20% 未満と低い。 その分、濃縮のコストがかかり、不純物も取り除く必要がある。 全体の製造コストはいまの 2 倍以上に膨らむ恐れがあるという。 そのため、なかなか工場建設を決断できない。

追い打ちをかける動きが 1 月にあった。 化学大手 UBE が、西日本で最大の CO2 供給源であるアンモニア生産設備(山口県宇部市)を、予定より 2 年早い 27 年度末に停止すると発表した。 「かなり厳しい状況になる」と炭酸ガスメーカーは口をそろえる。 炭酸ガスは炭酸飲料や溶接などに使われ、ドライアイスも医薬品の搬送や遺体の安置などに使われる。 供給が滞れば、市民生活や産業に広く影響が及ぶ恐れもある。 事態の打開策が見えないなか、メーカーが期待をかける動きがある。

万博会場で CO2 がぐるぐる循環

大阪・関西万博の会場の東端に、口を開けた白蛇のような円筒形の装置が展示されている。 地球環境産業技術研究機構(RITE、京都府)が設置した国内初の大規模な「DAC」の実証装置だ。 DAC は、大気中の CO2 を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャーという技術。 地球温暖化の解決策の一つとして注目されている。 ファンで大気を吸い込み、CO2 と化学反応する物質アミン CO2 を吸着する。 アミンは高温で CO2 を手放す性質があるため、蒸気で熱を加え、CO2 を集める仕組みだ。 大気中に 0.04% しかない CO2 を 1 日最大 300 キロ回収できるという。

回収した CO2 は、隣の大阪ガスの設備で水素と反応させて都市ガス原料にし、会場内の迎賓館の厨房で使う。 さらに隣では炭酸ガス大手のエア・ウォーター(大阪市)が、ボイラーの排ガスから CO2 を回収する設備を展示。 回収した CO2 はドライアイスにして飲食施設などで使う。 会場内では、CO2 を閉じ込めたコンクリートや舗装材もあちこちで使われている。 RITE の余語克則主席研究員は「CO2 が会場内でぐるぐると循環する、世界的にもユニークな取り組みだ」と語る。

CO2 を資源として捉え、循環利用する取り組みは「カーボンリサイクル (CR)」や「CCU」といい、技術開発が活発化している。 太陽光と CO2 を使ってプラスチックの原料や燃料などを作る「人工光合成」という技術も開発が進む。 背景には、国がめざす 50 年の脱炭素(CO2 排出の実質ゼロ)がある。 排出を削減してもなお残る CO2 は、地中に埋めるだけでなく、利用することで、大気中への排出を抑えるとの考え方だ。

低濃度の CO2 回収は難度が高い

普及に向けてカギを握るのが、回収コストの低減だ。 工場などから出る排ガスの CO2 濃度はさまざまで、濃度が低いほど回収の難度は上がる。 基本技術はアミンを使う吸収法や膜を使う分離法など確立されているが、経済産業省によると、低濃度の CO2 回収技術では、商用利用できるコスト水準のものはまだない。 例えば、アミンを使う方法では、熱を加える際に大量のエネルギーを使うため、「いかに CO2 を吸着しやすくかつ分離しやすいアミンに改良できるかがポイントになる。(余語主席研究員)」

経産省は低濃度の CO2 回収コストが現在の 3 分の 1 にあたる 1 トン = 2 2千円まで下がれば、30 年代以降、CR 製品の実用化が進むとの青写真を描く。 30 年代初頭には、CO2 を地中に貯留する CCS も事業が始まる見通しだ。 その頃には、多くの工場などに回収装置がつけられ、CO2 が手に入りやすい世の中が実現しているかもしれない。 CO2 不足に悩む炭酸ガスメーカーには中長期的にそんな期待がある。 そのうえで、短期的には原料調達がかなり厳しいため、「業界として国に支援を働きかける必要がある」との声が上がる。

CO2 の「地産地消」進むか

未来を先取りした動きも始まっている。 佐賀市は 16 年、国内で初めてごみ処理場に CO2 の回収装置を設置した。 「周辺住民にとっての『迷惑施設』を、何か価値を生み出す場所にできないか。」 そんな思いからで、採算は度外視だった。 すると、CO2 を使って藻類の培養や野菜・果物の栽培をしたいという企業 6 社が周辺に次々と進出。 約 40 人の雇用が生まれ、70 億円超の直接投資があるなどの経済効果があった。 担当者は「CO2 の回収は企業誘致や経済活性化につながる」と手応えを話す。

炭酸ガス大手のエア・ウォーターも顧客向けに小型の CO2 回収装置を開発した。 炭酸ガスを使う顧客の排ガスから CO2 を回収し、その場で再び炭酸ガスを作る。そんな CO2 の「地産地消」を広げようとしている。 (新田哲史、asahi = 9-14-25)