流行続く百日せき、治療薬効きにくい耐性菌増える 赤ちゃん死亡例も 症状が 2 - 3 カ月続く「百日せき」の流行が収まらない。 今の調査方法となった 2018 年以降、最多になりそうな勢いで患者数が増えており、東京都内では、赤ちゃんが亡くなった。 これまで使われていた治療薬が効きにくい耐性菌に感染した患者も増えている。 専門家はワクチン接種などの対策を強く呼びかけている。 今年 3 月、東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)に百日せきが重症化した生後 1 カ月の女の子が運ばれてきた。 女の子は呼吸状態が悪くなり別の医療機関に入院して抗菌薬による治療を受けたが、呼吸不全を起こし、センターに転院した。 センターでは百日せきの耐性菌の感染を疑い、人工呼吸器をつけたうえで、耐性菌に効果があるとされる別の抗菌薬を投与した。 それでも肺炎が悪化して、呼吸不全や肺高血圧症、腎不全などを起こし、体外式膜型人工肺(エクモ)や人工透析などの治療を受けたが、転院から 5 日目に亡くなった。 女の子に基礎疾患はなく、ワクチンは接種前だった。 治療にあたった感染症科の堀越裕歩部長は、「重症化のリスクが高く、ワクチン未接種の小さい赤ちゃんは症状の進行が早い。 百日せき菌によって肺がダメージを受けたことで、様々な臓器にも障害が出て、救命は難しかった。」と話す。 国立健康危機管理研究機構の 20 日の発表によると、百日せきの今年の患者数は 11 日までで 1 万 6,475 人。 今の調査方法で最多となっている 19 年の 1 万 6,850 人を超えるペースで増えている。 特に注意が必要なのが、免疫のない生後数カ月の赤ちゃんだ。 重症化しやすく、脳症や肺炎になることがあるほか、息を止めるような「無呼吸発作」や、けいれん、呼吸停止などを起こし、亡くなる恐れもある。 治療にはマクロライド系の抗菌薬が使われる。 最近ではこの抗菌薬が効きにくい耐性菌の報告も増えてきている。 センターでは、亡くなった女の子を含め、24 年 11 月 - 25 年 3 月に計 5 人の百日せき患者から耐性菌が検出された。 堀越さんは「患者の地域はバラバラで、都内では耐性菌が広がっていると推測される。 重症化しやすい赤ちゃんの場合は、早い段階から耐性菌に効くとされる薬を投与するなどの対策が求められる」と指摘する。 このほか、昨年以降、沖縄県や大阪府、鳥取県でも耐性菌に感染した患者が報告されている。 予防には耐性菌を含めてワクチンが有効だ。 定期接種化されており、生後 2 カ月から 1 歳半までの間に計 4 回の接種が勧められている。 効果は次第に弱まり、接種を受けていても感染することがある。 このため、日本小児科学会は小学校入学前や 11 - 12 歳のときに追加で、百日せきワクチンの入った 3 種混合ワクチンを接種することを推奨している。 任意接種のため費用は自己負担で、5 千 - 6 千円ほどという。 堀越さんは「生後 2 カ月になったらすみやかに定期接種を受けてほしい」と強調。 「今の流行の主体は小学生から 10 代の子ども。 小さい赤ちゃんがいたり、生まれる予定だったりする家庭では、赤ちゃんを守るためにもきょうだいへのワクチン接種も検討してほしい。」と話している。 (土肥修一、asahi = 5-20-25) ◇ ◇ ◇ 百日せき患者急増、3 カ月で昨年 1 年上回る 赤ちゃんは重症化の恐れ 激しいせきが特徴で、症状が 2 - 3 カ月続く「百日せき」の患者が増えている。 国立健康危機管理研究機構によると、今年の患者数は 3 月 30 日までで 4,771 人。 4,054 人だった昨年 1 年間の患者数をすでに上回っている。 赤ちゃんが感染すると重症化する恐れがあり、専門家は注意を呼びかけている。 都道府県別では、大阪が最も多く 375 人。 次いで新潟 357 人、東京 330 人、沖縄 289 人、兵庫 274 人、福岡 257 人、宮崎 239 人と続く。 患者数は 2018 年、19 年はそれぞれ 1 万人超が報告されていた。 20 年の新型コロナウイルス感染拡大以降は、感染対策や人流が減ったこともあってか、少ない状態が続いていたが、コロナ以前の水準に戻りつつあるようだ。 百日せきは、百日せき菌が引き起こす感染症。 くしゃみやせきのしぶきなどを通して感染する。 はじめは軽いかぜのようだが、1 - 2 週間するとせきがひどくなる。 短く激しいせきが連続的に続く症状が 2 - 3 週間続き、その後 2 - 3 週間で次第に回復する。 赤ちゃんは激しいせきをしないことも 予防にはワクチンが有効で、定期接種化されており、生後 2 カ月から 1 歳半までの間に計 4 回の接種が勧められている。 効果は次第に弱まり、接種を受けていても感染することがある。 免疫がない生後数カ月の赤ちゃんは重症化しやすく、脳症や肺炎になることがある。 赤ちゃんの場合、激しいせきをしないこともあり、息を止めるような「無呼吸発作」や、けいれん、呼吸停止などを起こし、亡くなる恐れもある。 治療にはマクロライド系の抗菌薬が使われる。 せきが激しくなる前にのめば、症状は改善する。 せきがひどくなった後だと症状はあまり改善しないが、菌を排出する量が減り、ほかの人にうつすリスクが減る。 最近ではこの抗菌薬が効きにくい耐性菌の報告も増えてきているという。 耐性菌も増加 「今後も感染拡大の恐れ」 感染症に詳しい千葉大学真菌医学研究センターの石和田稔彦教授は「ここ数年流行がなく、免疫が落ちて感染しやすくなっている人が多く、耐性菌も増えていることから、今後も感染が拡大する恐れがある。 感染者が増えると、重症化する赤ちゃんも増える可能性があり、危機感を持っている」と指摘する。 石和田さんは手洗いやマスクの着用、せきエチケットなどの対策が大切としたうえで、「せきが長く続いたり、普段と違う激しいせきが出たりする場合は医療機関を受診してほしい。 赤ちゃんがいる家庭では、生後 2 カ月になったら予防接種を受けるほか、せきをしている家族がいるときは赤ちゃんとの接触を避けてほしい」と話している。 (土肥修一、asahi = 4-8-25) クローン病の 32 歳、就活落ちて考えた 「病気の私」じゃない私って 「あれ、また寝てるの。」 奥野真由さん (32) が、家族にたびたび言われるようになったのは 10 歳の時だった。 小学校から帰ってくると、なぜか疲れて寝てしまう。 次第に、ほおがこけるほどやせてきた。 原因不明の高熱が出て、おなかの痛みと下痢が続く。 とうとう大きな病院に入院することになった。 「まずはおなかの調子を治そう」 様々な検査のあと、主治医から説明され、薬による治療が始まった。 腸を休ませるために食事を制限して栄養剤を飲む治療も始まった。 3 カ月後、ようやく症状が落ち着き、退院が決まった。 退院にあたり、主治医から聞かされた。 「クローン病という病気で、今のところは治らないけど、いつか研究が進むかもしれない。 しばらくは病気と付き合っていこうね。 クローン病は腸などに炎症が起きつづける難病だ。 これからも薬を飲み続けたり、脂質の多い食べ物を控えたりする必要があった。 「入院中と同じような生活が続くんだな。」 不安よりも、家に帰れる喜びが大きかった。 退院後も症状は落ち着き、母が弁当を作ってくれて通学を再開した。 たまにおなかが痛くなったり、食べられないものがあったりするけれど、ほかの友人たちとさほど変わらない生活を送った。 病気の話をすると込み上げる涙、なぜ? 高校 3 年生のころに小さな転機が訪れた。 卒業後の進路を、管理栄養士をめざせる大学に決めた。 通院のたび、食事内容を聞き取り、食事が楽しくなるようフォローしてくれた管理栄養士にあこがれの気持ちがあった。 だが、志望理由を話す時にクローン病のことに触れると、自然と涙が出るようになった。 進学してからも、先生や友人に自分がなぜこの大学に来たのか話そうとすると、涙が込み上げた。 当時のことは覚えていないことも多く、自分で自分の病気について話せない - -。 それが苦しみの原因だった。 病気のことをもっと知りたい。 母にそう訴えた。 「あなたはいつか、そう言うと思った。」 母は、何冊ものノートやファイルを出してきた。 そこには、当時から今までの治療や食事管理の記録が細かい字で書かれていた。 医師とのやりとりや、学校の先生への相談など、知らないことばかりだった。 病気を語れるようになったとき、一つ、壁を乗り越えた気がした。 就活、病気を明かすと面接担当者の顔が曇った その後、大学生活は順調だった。 だが、次は就職活動の悩みに直面した。 管理栄養士の資格を生かして働こうと、いくつかの職場の面接を受けた。 病気を明かし、自分がこれまでどんな経験をしてきたか、なぜ管理栄養士になろうと思ったか …。 思いの丈を語った。 だが、難病だと言った途端に眉間にしわが寄る面接担当者もいた。 病気のせいだけではないはずだが、不採用が続いた。 焦りが募った。 私、向いてないのかな …。 その後、研究に興味がわいたこともあり、大学院進学に切り替えることになった。 大学院に進み少し時間ができたころ、同じ立場の人の話を聞きたいと、地元の患者会「埼玉 IBD の会」に参加するようになった。 IBD は、クローン病と、潰瘍性大腸炎とを合わせた「炎症性腸疾患」を指す言葉だ。 同じ患者の立場の人と話すのは初めてだった。 就職について尋ねると、成功談や失敗談を聞くことができた。 みな、症状に悩むこともありながら、自分の人生を生きようとしていた。 視野が広がった気がした。 「トイレにこもることがあります」シンプルに そのうちに気がついた。 もしかして、今まで「病気の自分」にとらわれていたのでは。 栄養学を学んだのも、仕事で誰かの役に立ちたいと思ったのも、きっかけは病気だ。 でも、それだけじゃない。 「病気の経験を生かさないと」と心のどこかで思っていたが、本当にやりたいことは何なのか。 「私だからできること」と「病気だから配慮してほしいこと」は何なのか。 改めて考え始めた。 そして迎えた 2 度目の就活。 今度は、管理栄養士の資格に縛られず、興味のあった福祉関係の仕事を探した。 面接では、シンプルに伝えた。 「私はクローン病というおなかの病気を持っています。」 「2、3 カ月に 1 度、通院でお休みします。」 「日常生活ではトイレにこもることがあります。 でも長年、悪化や入院はなく過ごしていて、体調管理には自信があります。」 「大学院で研究してきて、計画的に物事を進めることが得意になりました。」 面接担当者は、「そういう人もいるよね」という反応で、好感触だった。 この職場に就職が決まり、今年で在籍 8 年目を迎えた。 病気を知り、自分を知ることが欠かせない 現在は、2、3 カ月に 1 度の通院をしながら経過観察と治療を続ける。 腸の炎症を抑える薬の服用を続け、検査で腸内に炎症が出ていないかを調べる。 患者会活動は今もライフワークだ。 昨年、全国の患者会でつくる IBD ネットワークが発行した、患者の就労を応援する冊子「わたしのトリセツ」の編集に携わった。 IBD は若者で発症しやすく、就労の場面で苦労することが多い。 就活への向き合い方のヒントをまとめた冊子の中で、自分の強みや病気の伝え方を整理し書き込むページを担当した。 後に続く患者に、こんな思いを込めた。 いい時ばかりではないけれど、「病気の私」ではなく「私」として生きてほしい。 そのためには病気を知り、自分を知ることが欠かせない。 病気に「自分」を消されないで。 (松本千聖、asahi = 5-18-25) 住友ファーマ、V 字回復 特許切れの崖、新薬と経費削減ではい上がる 住友ファーマの業績が「V字」回復した。 13 日に発表した 2025 年 3 月期決算は、売上高が前年同期比 26.8% 増の 3,988 億円、本業のもうけを示す営業損益は、前期の赤字 3,548 億円から 288 億円の黒字に転じ、純損益も前期の赤字 3,149 億円から 236 億円の黒字となった。 営業損益と純損益ともに 3 年ぶりの黒字転換。 売り上げの 6 割を頼る米国で、前立腺がん治療薬や失禁や頻尿の治療薬などを伸ばした一方で、大幅な人減らしや研究開発費の削減で、収益を改善した。 木村徹社長は東京都内で決算を発表し、「経営危機から脱却し、第一段階は突破した」と述べた。 経営危機を招いたのは 2 年前、売り上げの 4 割を占めるうつ病の治療薬「ラツーダ」の特許が切れたことだ。 北米での独占販売が終わり、後発薬メーカーが同じ薬を出せるようになると、ラツーダの北米での売り上げは 23 年 3 月期の 1,985 億円から、24 年 3月期は 3% ほどの 67 億円に激減。 経費の削減が追いつかず、大幅な赤字に陥った。 会社を支えるような新薬を次々と製品化することは簡単ではない。 経営危機後に経営を託された木村社長は、主力製品を大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手にたとえて、「大谷さんがいなくなった後に、大谷さんを探すというのがよくなかった」と振り返った。 25 年 3 月期の業績が急回復したのは、米国での販売を大幅に伸ばしたためだ。 前立腺がんの治療薬「オルゴビクス」は錠剤で使いやすいこともあり、前期比ほぼ 2 倍の 831 億円となり、失禁や頻尿などの治療薬「ジェムテサ」も 1.8 倍の 658 億円となった。 日本では売り上げが減ったが、米国での売り上げ増が全体を押し上げた。 一方でコスト削減を進めた。 従業員は前期の 4,980 人から 3,822 人に減らし、研究開発費は 909 億円から 485 億円に半減した。 米国のトランプ政権が薬価の大幅な引き下げを表明していることについて、木村社長は「漠然としていて、いつ、どういう影響が出るか読みあぐねている」と話した。 (諏訪和仁、asahi = 5-14-25) 自宅で可能 負担軽い腹膜透析、利用まだ 3% 高齢化で再評価の動き 尿をつくる腎臓には、血液から老廃物を取り除き、体の水分量を調節する働きがある。 その働きが悪化した慢性腎臓病の人は、国内に約 1,500 万人いるという。 腎臓に代わって血液をきれいにする「透析」を受けている人は約 34 万人(2023 年末時点)いるとされる。 透析には、血液透析と腹膜透析の 2 種類がある。 血液透析は、体の外へ血液を循環させて、ダイアライザーという装置で老廃物を取り除く。 体にたまった余分な水分も併せて除去する。 週 3 回程度、医療機関に通院して受けるのが一般的だ。 1 回の交換に4 時間ほどかかる。 腹膜透析は、おなかの空間(腹腔)に透析液を流し込み、自分の腹膜を通じて老廃物を濾過して、取り除く。 おなかにつけた管を使って、1 日 3 回ほど、毎日自宅で透析液を交換する。 1 回の所要時間は 30 分ほどだ。 夜寝ている間に一日分をまとめて透析する方法もある。 尿をつくる機能が残っている段階で始めることが多い。 腹膜透析とは 透析を始める時期は、腎機能の指標である GFR (腎臓が 1 分間にどれだけの血液を濾過して尿をつくるかの指標)の値を目安に検討する。 腹膜透析ガイドライン 2019 によると、GFR が 30 を下回ると、透析について患者に情報提供がされる。 15 を下回り、だるさや吐き気などさまざまな尿毒症の症状が表れ始めると、透析導入を考慮する。 自覚症状がなくても、6 未満は透析の対象だ。 日本透析医学会のまとめでは、国内では 9 割以上が血液透析で、腹膜透析の利用者は約 3% しかいない。 この割合は 10 年以上横ばいだ。 2019 のガイドライン改訂委員長で、愛知医科大学特命教授の伊藤恭彦さんによると、血液透析の方が先に普及したことや、腹膜透析は患者一人ひとりに合わせたテーラーメイドの医療で、透析液の調整やカテーテル周辺の管理などにコツがいるため、手がける医師が少ないことなども影響しているという。 大学などでの教育も長年不十分だったことも背景にある。 体への負担少なく、高齢者も可能 ただ、高齢化が進むなか、自宅でできて体への負担が少ない腹膜透析を、いま、あらためて評価する動きがある。 透析を始める人の平均年齢は、40 年ほど前の 1983 年は 52 歳だった。 現在は 72 歳に上昇し、原因となる病気も、老化によって腎機能が落ちる腎硬化症が増えてきている。 伊藤さんは「透析は、腎不全でも働くことを可能にする医療から、人生の最終段階の満足度を考えながら提供する医療へと、考え方を変えていく必要がある」と話す。 血液透析は、数日分の老廃物や余分な水分を一度に除去するため、効率はよいが、体への負担が大きい。 血圧の低下や疲労感をまねくほか、脳の血流の低下をくり返すため、認知症が進むリスクも指摘されている。 一方、腹膜透析は、効率はさほどよくないが、体液量や老廃物の量の変化が一定なため、体への負担が少ない。 尿が出ていれば、飲む水の量や食べ物の制限もあまりない。 90 代の高齢者にも導入が可能だ。 腹膜の濾過機能は、年月を重ねると徐々に衰えていく。 ただ、20 年余り前に透析液が改良されてからは、腹膜への負担が軽減され、腹膜透析を 10 年以上継続できる人もいるという。 また、週 1 回ほどの血液透析と組み合わせる併用療法も、公的医療保険の対象だ。 伊藤さんは「今後は、高齢者が在宅で腹膜透析を選びやすくなるよう、在宅医療の担い手の育成や研修、行政との連携も課題だ」と話した。 (鈴木彩子、asahi = 5-11-25) プラ添加剤への曝露で心血管疾患死 35 万人増加? 18 年の世界推計 プラスチック製品の添加剤「フタル酸エステル」の一種への曝露によって、2018 年に少なくとも 35 万人の心血管疾患死が増えていた可能性がある - -。 そんな推計を米ニューヨーク大の研究チームが発表した。 この物質はこれまでも人体への影響が指摘されており、チームは国際協力の下での規制が重要だと訴えている。 この添加剤は「フタル酸ジ-2-エチルヘキシル (DEHP)。」 ポリ塩化ビニルといった硬いプラスチックに添加すると、柔軟性や弾力性を向上させる。 医療機器、接着剤、壁紙などに広く使われる。 一方、DEHP を体内に取り込むと、動脈硬化や心臓発作、脳卒中といった心血管疾患リスクが高まるおそれが指摘されていた。 日本では、油脂や脂肪性食品が触れる器具や容器包装、子どもが口にする可能性のあるおもちゃには使用禁止だ。 チームは、数十の人口調査や、尿サンプルを含むデータをもとに、DEHP への曝露がない場合の想定と比べて、どれだけ心血管疾患による死者が増えたかを示す「超過死亡」を推計。 18 年に死亡した 55 - 64 歳の男女のうち、約 13% にあたる約 35 万 6 千人は、超過死亡だと見積もった。 そのうち約 34 万 9 千人がプラスチックの使用に伴うものだという。 200 の国や地域のデータを集計したところ、超過死亡の最多はインドの 10 万 3,587 人。 中国の 6 万 0,937 人、インドネシア 1 万 9,761 人と続いた。 日本は 1,988 人で、世界全体の 0.56% だった。 チームは、プラスチックの製造規制が緩い地域で曝露が多いと考察。 格差をなくし、曝露を減らすためには、規制基準をつくる際の国同士の協力が、不可欠だと指摘している。 ただ、今回の分析は、DEHP が直接あるいは単独で心血管疾患を引き起こしたということを示しているわけではない。 プラスチック製品には DEHP 以外にもさまざまな化学物質が加えられている。 研究チームのレオナルド・トラサンデ教授は、「DEHP が特に危険だと主張しているわけではない」と説明。 「ほかにどのような要因があるのかを理解するために、曝露に関するさらなる研究と、(プラ生産がさかんで規制が緩い)低中所得国における疫学研究が必要だ」と話す。 論文は医学誌「イーバイオメディシン」に掲載された。 (玉木祥子、asahi = 5-4-25) 肝臓の働き示すミニ臓器「オルガノイド」開発 慶応大、阪大 肝臓の主な働きを備えた立体的な組織「肝細胞オルガノイド」の作製に慶応大と大阪大のグループがそれぞれ成功し、英科学誌ネイチャーに 17 日発表した。 オルガノイドは「ミニ臓器」とも呼ばれ、病気の仕組み解明や薬の開発、再生医療につながる可能性がある。 肝臓には取り込んだ栄養を必要な物質に変えたり、貯蔵したり老廃物を排泄する多様な働きがある。 ヒトの肝細胞を機能を保ったまま大量に安定的に培養することはむずかしかったが、慶応大の佐藤俊朗教授らのグループは、特定のたんぱく質を使うことによって細胞を 100 万倍に増やすのに成功した。 さらにホルモンを使って培養し、肝臓がもつ毛細胆管の構造を再現したようなオルガノイドができた。 このオルガノイドは肝臓が作る、糖や尿素、胆汁酸、コレステロールを作ることを確認。 脂肪の蓄積もみられ、脂肪肝の治療薬の効果を調べることもできたという。 慶大グループはオルガノイドを遺伝子操作して病気の状態を再現したり、肝臓に移植する組織として利用したりする可能性も示した。 大阪大のグループは iPS 細胞から作った肝臓の細胞でオルガノイドを作製した。 受精卵から臓器ができる過程を模倣するような方法だ。 肝臓の細胞が位置によって働きが異なることに注目。 ビタミン C とビリルビンという分子の使い分けで、役割が違う 2 種類の肝細胞に分化させることができた。 2 種類をともに培養すると、中間的な細胞も含む立体組織ができた。 0.5 ミリ程度のオルガノイド数千個を、肝不全のラットに移植すると、1 カ月後の生存率が上がることも確認した。 長期的に使うためには、老廃物を排出する構造などを備え他の臓器とつながる必要がある。 阪大グループは、オルガノイドをバイオ人工肝臓として使う方法を開発していきたいという。 急に肝臓の状態が悪化した患者の血液を体外のオルガノイドにつないで、働きを一時的に補うことをめざす。 「患者ごとに効果的な治療法を探る研究やバイオ人工肝臓への応用につなげていきたい」と阪大の武部貴則教授は話している。 慶大グループの論文 と 阪大グループの論文 は英科学誌ネイチャーに掲載された。 (瀬川茂子、asahi = 4-17-25) iPS で膵島細胞、1 型糖尿病患者に移植、経過良好で安全確認 京大
記事コピー (4-24-09 〜 4-14-25) 急性骨髄性白血病に免疫細胞療法 マウスの腫瘍消す効果確認 阪大 がん細胞を攻撃するように遺伝子導入した免疫細胞をつくり、急性骨髄性白血病 (AML) のマウスに投与したところ、再発を抑えることができたと、大阪大学の研究チームが発表した。 抗がん剤が効かず、造血幹細胞移植を受けた患者に対し、再発を防ぐ効果が期待できるという。 AML は血液をつくる造血幹細胞に異常が起きる血液がんの一つで、抗がん剤だけでは治らない場合も多い。 造血幹細胞を移植することもできるが、がん細胞が残った状態で移植した人は再発のリスクが高く、10 年生存率は 30% を下回る。 阪大の保仙直毅教授らの研究チームは、患者の半数が持っている白血球の型 (HLA) にくっつく抗体を特定し、これをもとに「T 細胞」や「NK 細胞」といった免疫細胞をつくった。 移植を受けた患者の正常な血液細胞は攻撃せず、白血球細胞だけを攻撃するはたらきを持つ。 それを AML のマウスに投与したところ、腫瘍が消えたという。 T 細胞を使った細胞療法は CAR-T (カーティー)と呼ばれ、AML とは別の急性白血病や悪性リンパ腫の一種、多発性骨髄腫を対象とした製剤が国内で承認されている。 ただ、患者自身の血液からその都度つくるため高額で、投与までに時間もかかる。 一方、NK 細胞は他人の細胞からつくり、大量に凍結保存しておくこともできる。 このため、NK 細胞を使った CAR-NK 細胞療法が実用化されれば、安価で早く投与できる可能性がある。 保仙教授は、移植を受けた AML の患者を対象とした治験について、「CAR-T は 2026 年度中、CAR-NK は 27 年度中に始めたい」と話している。 治療法として確立されれば、国内で年 700 人ほどが対象になるとみられるという。 今回の研究成果は 英科学誌ネイチャー・キャンサー に掲載された。 (藤谷和広、asahi = 4-12-25) 熊本の飼養農場 3 戸で「馬インフル」確認 国内発生は 08 年以来 熊本県は 11 日、県内の馬の飼養農場 3 戸で、馬インフルエンザの発生を確認したと明らかにした。 農家から「呼吸器の症状がある」と連絡を受け、県の家畜保健衛生所で調べたところ、8 日に陽性が確認された。 県は感染した馬の隔離や農場の消毒などを指導し、感染経路などを調べている。 馬インフルは人間やほかの家畜に感染はしないとされる。 感染した馬は発熱や呼吸器症状などが出る。 県によると、殺処分が必要になる鳥インフルエンザなど法定伝染病とは異なり、2 - 3 週間で回復することが多い。 ただ、体力のない子馬は命を落とすこともある。 国内での馬インフルエンザの発生は 2008 年以来。 07 年には競走馬などの「軽種馬」に流行し、中央競馬が中止されるなど影響が出た。 今回、発生が確認されたのは「重種馬」の農場という。 昨年の統計によると、県内には 97 戸の馬飼養農家があり、重種馬のうち食用などの肥育馬は 3,304 頭が飼われていた。 県担当者によると、食肉処理の際には検査員が安全性を確認するため、出荷に大きな影響はないとみられるという。 (渡辺淳基、asahi = 4-12-25) 餅やパンのカビ「生えたら食べないで」 研究者がよびかける理由 1 年前に分かった小林製薬の機能性表示食品の健康被害問題で、原因はカビでした。 一方で、私たちが食べるみそや酒、漬物をつくるのに活躍するのもカビの一種です。 そもそもカビってどんな生き物で、何が危ないのでしょうか。 手作りの注意点とは? 透明な菌糸、色がなくても生えているかも みそや酒をつくるのに使う「こうじ」。 これは、米や大豆などに、黄こうじ菌と呼ばれるカビを生やしたものだ。 明治大学の中島春紫(はるし)教授(微生物生態学)によると、室町時代には、すでに種こうじを売る「もやし屋」さんがいたというほどだから、古くから日本人が使いこなしてきた菌だ。 長い間、毒素を作らない菌を慎重に選んで使ってきており、そう簡単には先祖返りしない安全なものだと遺伝子レベルで解明されている。 一方で、カビの世界では、毒素を作らないカビの方が珍しい。 たとえば、小林製薬の紅麹サプリで問題になった青カビ。 青カビのなかには抗菌薬ペニシリンを作るものもいれば、他の毒素を作るものもいる。 紅麹も古くから中国で発酵に使われてきたカビだが、?菌とは別の菌で、株によっては毒素を作る。 今回の株は毒素を作らない株だったが、青カビと一緒に培養する形になり、青カビによってプベルル酸が作られたとみられ、それ以外にも新規の複数の化合物ができてしまった。 カビは、胞子が着地した場所で、水分、温度、栄養がそろうと菌糸を伸ばして増殖し、再び胞子を作るというサイクルを繰り返す。 青色などに見えるのは胞子の色で、胞子を作る時期は毒素が多く作られる時期だ。 青や赤などの色がないからといって、カビが生えていないとは限らない。 胞子を作らない時期は透明な菌糸をあちこちに張り巡らしている。 胞子を作る前の菌糸は光を反射して白く見えることもあるが透明だ。 胞子の色など、肉眼でカビに気づくころには、その周囲に菌糸が張り巡らされている可能性が高い。 カビの増殖「酸素の入り方」で決まる カビは微生物のなかでも駆除しづらい生き物だ。 バクテリアに比べると、比較的乾燥した状態でも生えることができる。 胞子は空気中に無数に漂っており、胞子がついて、条件が良ければ生えてくる。 手作りみそにうっすら生えた白い膜や、お餅やパンに生えたカビを削って食べた。 そんな経験のある人もいるだろう。 大丈夫なのだろうか。 「みそ表面の白い膜は、発酵の過程で増える酵母など安全な菌であることが多い 。また、みその深いところには酸素がなくカビが生えにくいので、もし、カビが生えても、表面を深めに削れば食べられる場合が多い」と東京農工大の山形洋平教授(応用微生物学)。 ただ、危険なカビかどうかを見た目で判断するのは難しいので注意は必要だ。 「パンや餅などは、気泡がたくさんあり、酸素が含まれている。 中までカビが生えている可能性もあるので、食べないのが望ましい。」 手作りみその場合、塩分濃度が 10% 以上あり、きちんと乳酸発酵して酸性度が高くなっていれば、カビや雑菌は生えることができないという。 逆に、塩分濃度が低かったり、空気を遮断できていなかったりすれば、空気中に舞う色々なカビや雑菌が増えてくる可能性がある。 商品の場合は、カビが混入することのないよう食品衛生法にもとづいて管理されている。 昨年の報告書で小林製薬の担当者が製造工程で「青カビはある程度は混じることがある」と言ったとされるが、あってはならないことだ。 1970 年の大阪万博を機に、乳酸菌の一つ「ブルガリア菌」からヨーグルトを作り始めた明治の工場では、生乳を受けいれ、加熱してバクテリアなどを殺菌してから、容器に入れるまでの工程は、基本的に配管でつながれ、人が入る場面は極力制限されている。 外気もカビの胞子なども吸着できるような高性能フィルターを通している。 それくらい厳重な管理が必要だという。 日本人には発酵食品が身近で、湿潤な気候風土だけに、カビを日常から目にする機会が多い。 「油断しがちだが、毒素を作らないカビはこうじ菌くらいで、むしろカビ毒を作るもののほうが多いことを知っておくべきだ」と山形さん。 カビを遠ざけるには外気に触れさせないことが大切だ。 手作りのみそや漬物 「早く食べて」 塩漬けや?漬けなど手作りの発酵食品の場合、最大の解決策は「早く食べること」と二人の専門家は口を揃える。 変な菌が少し入ってきても、私たちの体にいる無数の腸内細菌の勢力が強ければ増えられずに死んでしまうという。 ヨーグルトも種菌を入れて一晩寝かせればできているほど、乳酸菌の増殖能力は高い。 乳酸菌が元気なうちはほかの菌も抑えられている。 早めに食べればリスクは減らせる。 ぬか床も乳酸発酵がきちんとできていれば、問題ないことが多い。 表面の白い膜はみそと同じく酵母であることが多い。 ただ、カビが混ざっていないかよく見る必要がある。 カビが生えたら、深めに削って、菌糸ごと取り除いて使う。 においや色に違和感があったら、避けるのが肝心だ。 (竹石涼子、asahi = 4-4-25) 2016 年以来 9 年ぶり『結核の集団感染』 岐阜県で、結核の集団感染が発生しました。 2016 年以来 9 年ぶりのことです。 岐阜県によりますと、西濃保健所管内にある事業所に勤務する 20 代の男性が、2024 年 9 月に咳や発熱などの症状を訴え、医療機関を受診し結核と診断されました。 保健所が、勤務先で男性との接触が多かった 168 人を検査したところ、15 人に結核の感染が確認されたということです。 このうち 1 人が発病していますが、入院はせずに自宅で療養していて、岐阜県は現時点で事業所の外への感染拡大はないとしています。 岐阜県内で結核の集団感染が確認されるのは、2016 年以来 9 年ぶりです。 (FNN = 3-27-25) 生成 AI で「模擬患者」、医学生がアバターで問診練習 長崎大が研究 医学生の問診の練習相手となる「模擬患者」の役を、生成 AI (人工知能)を活用したアバターが務める研究を長崎大学などが進めている。 患者の病状や年齢なども設定できる。 これまで模擬患者役の確保が課題だったが、アバター相手なら時間を気にせず、医学生のコミュニケーション力を養える。 「模擬患者アバター」の開発を主導するのは、同大情報データ科学部の小林透教授の研究グループと IT 企業システック井上(長崎市)。 同大医学部の川尻真也准教授らが医学面で協力し、昨年 3 月から研究を進めてきた。 聞き方で変わる答え、せき込む演技も 3 月 4 日に開かれた試用版の成果発表では、画面上に年配の男性患者のアバターが現れ、医学生役が問診を行った。 アバターは、名前や年齢を答えた後、「ここ 2、3 日、せきと熱が続いていて、つらいです」、「熱は 38 度 7 分くらいあります」などと訴え、時折せき込むなどの演技も行う。 この日のアバターは肺炎にかかっているという想定。 医学生役が問診や相手の様子などから病状を把握する訓練を展示した。 医学生の聞き方によって返事も異なるため、現場の診療に近い体験を積めるという。 実際の模擬患者は不足しており、長崎大の場合、ボランティアとして募集し、訓練を積んだ人材は数人しかいない。 医学生が学ぶ 6 年間で模擬患者と接する機会は多くなく、代わりに、教官や医学生が患者役を務めて練習している。 川尻准教授は「問診は、医師が患者と信頼関係を築く第一歩。 医学生が医師になるために大切な技術。」と話し、アバターの開発に期待する。 これまで、アバターの会話の内容や自然さなどについて、医師らがチェックして、改善を進めてきた。 今後、実際に医学生に使ってもらい、さらに改良を図り、来春の完成を目指すという。 (天野光一、asahi = 3-24-25) 病院の 6 割赤字経営 物価高への対応求める 病院団体などが共同声明 病院の 6 割が赤字経営になっているなどとして、日本病院会など六つの病院団体と日本医師会が 12 日、物価高や賃上げに対応できるよう、医療の公定価格「診療報酬」の新たな仕組みづくりを訴えた。 2025 年度に議論される診療報酬改定に向け、政府・与党に働きかけるという。 6 団体は今年 1 - 2 月、病院に調査を実施し、1,816 施設(回答率 30.8%)が答えた。 結果をみると、診療報酬が改定された 24 年 6 月以降、11 月までの経常利益が赤字だった病院は 61.2%。 23 年の同じ期間の 50.8% を 10 ポイントほど上回った。 同様に比較すると、水道光熱費などが 3.1% 増、院内清掃など人材派遣の委託料は 4.2% 増。 経費の増加が経営を圧迫しているという。 こうした状況から医師会と 6 団体は同日、合同で声明を発表した。 診療報酬改定において、従来と同様の医療費の抑制をしないことや、賃金や物価の上昇を反映させる仕組みづくりを求めた。 日本医療法人協会の太田圭洋副会長は会見で、「完全に病床を埋めきれない限りにおいては、病院の経営が成り立たない状況。 本当に異常な事態だ。」と話した。 (吉備彩日、asahi = 3-13-25) |