肝臓の働き示すミニ臓器「オルガノイド」開発 慶応大、阪大

肝臓の主な働きを備えた立体的な組織「肝細胞オルガノイド」の作製に慶応大と大阪大のグループがそれぞれ成功し、英科学誌ネイチャーに 17 日発表した。 オルガノイドは「ミニ臓器」とも呼ばれ、病気の仕組み解明や薬の開発、再生医療につながる可能性がある。

肝臓には取り込んだ栄養を必要な物質に変えたり、貯蔵したり老廃物を排泄する多様な働きがある。 ヒトの肝細胞を機能を保ったまま大量に安定的に培養することはむずかしかったが、慶応大の佐藤俊朗教授らのグループは、特定のたんぱく質を使うことによって細胞を 100 万倍に増やすのに成功した。 さらにホルモンを使って培養し、肝臓がもつ毛細胆管の構造を再現したようなオルガノイドができた。 このオルガノイドは肝臓が作る、糖や尿素、胆汁酸、コレステロールを作ることを確認。 脂肪の蓄積もみられ、脂肪肝の治療薬の効果を調べることもできたという。

慶大グループはオルガノイドを遺伝子操作して病気の状態を再現したり、肝臓に移植する組織として利用したりする可能性も示した。

大阪大のグループは iPS 細胞から作った肝臓の細胞でオルガノイドを作製した。 受精卵から臓器ができる過程を模倣するような方法だ。 肝臓の細胞が位置によって働きが異なることに注目。 ビタミン C とビリルビンという分子の使い分けで、役割が違う 2 種類の肝細胞に分化させることができた。 2 種類をともに培養すると、中間的な細胞も含む立体組織ができた。 0.5 ミリ程度のオルガノイド数千個を、肝不全のラットに移植すると、1 カ月後の生存率が上がることも確認した。 長期的に使うためには、老廃物を排出する構造などを備え他の臓器とつながる必要がある。

阪大グループは、オルガノイドをバイオ人工肝臓として使う方法を開発していきたいという。 急に肝臓の状態が悪化した患者の血液を体外のオルガノイドにつないで、働きを一時的に補うことをめざす。 「患者ごとに効果的な治療法を探る研究やバイオ人工肝臓への応用につなげていきたい」と阪大の武部貴則教授は話している。

慶大グループの論文阪大グループの論文 は英科学誌ネイチャーに掲載された。 (瀬川茂子、asahi = 4-17-25)


iPS で膵島細胞、1 型糖尿病患者に移植、経過良好で安全確認 京大

iPS 細胞の研究・開発

記事コピー (4-24-09 〜 4-14-25)


急性骨髄性白血病に免疫細胞療法 マウスの腫瘍消す効果確認 阪大

がん細胞を攻撃するように遺伝子導入した免疫細胞をつくり、急性骨髄性白血病 (AML) のマウスに投与したところ、再発を抑えることができたと、大阪大学の研究チームが発表した。 抗がん剤が効かず、造血幹細胞移植を受けた患者に対し、再発を防ぐ効果が期待できるという。 AML は血液をつくる造血幹細胞に異常が起きる血液がんの一つで、抗がん剤だけでは治らない場合も多い。 造血幹細胞を移植することもできるが、がん細胞が残った状態で移植した人は再発のリスクが高く、10 年生存率は 30% を下回る。

阪大の保仙直毅教授らの研究チームは、患者の半数が持っている白血球の型 (HLA) にくっつく抗体を特定し、これをもとに「T 細胞」や「NK 細胞」といった免疫細胞をつくった。 移植を受けた患者の正常な血液細胞は攻撃せず、白血球細胞だけを攻撃するはたらきを持つ。 それを AML のマウスに投与したところ、腫瘍が消えたという。

T 細胞を使った細胞療法は CAR-T (カーティー)と呼ばれ、AML とは別の急性白血病や悪性リンパ腫の一種、多発性骨髄腫を対象とした製剤が国内で承認されている。 ただ、患者自身の血液からその都度つくるため高額で、投与までに時間もかかる。 一方、NK 細胞は他人の細胞からつくり、大量に凍結保存しておくこともできる。 このため、NK 細胞を使った CAR-NK 細胞療法が実用化されれば、安価で早く投与できる可能性がある。

保仙教授は、移植を受けた AML の患者を対象とした治験について、「CAR-T は 2026 年度中、CAR-NK は 27 年度中に始めたい」と話している。 治療法として確立されれば、国内で年 700 人ほどが対象になるとみられるという。 今回の研究成果は 英科学誌ネイチャー・キャンサー に掲載された。 (藤谷和広、asahi = 4-12-25)


熊本の飼養農場 3 戸で「馬インフル」確認 国内発生は 08 年以来

熊本県は 11 日、県内の馬の飼養農場 3 戸で、馬インフルエンザの発生を確認したと明らかにした。 農家から「呼吸器の症状がある」と連絡を受け、県の家畜保健衛生所で調べたところ、8 日に陽性が確認された。 県は感染した馬の隔離や農場の消毒などを指導し、感染経路などを調べている。 馬インフルは人間やほかの家畜に感染はしないとされる。 感染した馬は発熱や呼吸器症状などが出る。 県によると、殺処分が必要になる鳥インフルエンザなど法定伝染病とは異なり、2 - 3 週間で回復することが多い。 ただ、体力のない子馬は命を落とすこともある。

国内での馬インフルエンザの発生は 2008 年以来。 07 年には競走馬などの「軽種馬」に流行し、中央競馬が中止されるなど影響が出た。 今回、発生が確認されたのは「重種馬」の農場という。 昨年の統計によると、県内には 97 戸の馬飼養農家があり、重種馬のうち食用などの肥育馬は 3,304 頭が飼われていた。 県担当者によると、食肉処理の際には検査員が安全性を確認するため、出荷に大きな影響はないとみられるという。 (渡辺淳基、asahi = 4-12-25)


百日せき患者急増、3 カ月で昨年 1 年上回る 赤ちゃんは重症化の恐れ

激しいせきが特徴で、症状が 2 - 3 カ月続く「百日せき」の患者が増えている。 国立健康危機管理研究機構によると、今年の患者数は 3 月 30 日までで 4,771 人。 4,054 人だった昨年 1 年間の患者数をすでに上回っている。 赤ちゃんが感染すると重症化する恐れがあり、専門家は注意を呼びかけている。 都道府県別では、大阪が最も多く 375 人。 次いで新潟 357 人、東京 330 人、沖縄 289 人、兵庫 274 人、福岡 257 人、宮崎 239 人と続く。

患者数は 2018 年、19 年はそれぞれ 1 万人超が報告されていた。 20 年の新型コロナウイルス感染拡大以降は、感染対策や人流が減ったこともあってか、少ない状態が続いていたが、コロナ以前の水準に戻りつつあるようだ。 百日せきは、百日せき菌が引き起こす感染症。 くしゃみやせきのしぶきなどを通して感染する。 はじめは軽いかぜのようだが、1 - 2 週間するとせきがひどくなる。 短く激しいせきが連続的に続く症状が 2 - 3 週間続き、その後 2 - 3 週間で次第に回復する。

赤ちゃんは激しいせきをしないことも

予防にはワクチンが有効で、定期接種化されており、生後 2 カ月から 1 歳半までの間に計 4 回の接種が勧められている。 効果は次第に弱まり、接種を受けていても感染することがある。 免疫がない生後数カ月の赤ちゃんは重症化しやすく、脳症や肺炎になることがある。 赤ちゃんの場合、激しいせきをしないこともあり、息を止めるような「無呼吸発作」や、けいれん、呼吸停止などを起こし、亡くなる恐れもある。

治療にはマクロライド系の抗菌薬が使われる。 せきが激しくなる前にのめば、症状は改善する。 せきがひどくなった後だと症状はあまり改善しないが、菌を排出する量が減り、ほかの人にうつすリスクが減る。 最近ではこの抗菌薬が効きにくい耐性菌の報告も増えてきているという。

耐性菌も増加 「今後も感染拡大の恐れ」

感染症に詳しい千葉大学真菌医学研究センターの石和田稔彦教授は「ここ数年流行がなく、免疫が落ちて感染しやすくなっている人が多く、耐性菌も増えていることから、今後も感染が拡大する恐れがある。 感染者が増えると、重症化する赤ちゃんも増える可能性があり、危機感を持っている」と指摘する。

石和田さんは手洗いやマスクの着用、せきエチケットなどの対策が大切としたうえで、「せきが長く続いたり、普段と違う激しいせきが出たりする場合は医療機関を受診してほしい。 赤ちゃんがいる家庭では、生後 2 カ月になったら予防接種を受けるほか、せきをしている家族がいるときは赤ちゃんとの接触を避けてほしい」と話している。 (土肥修一、asahi = 4-8-25)


餅やパンのカビ「生えたら食べないで」 研究者がよびかける理由

1 年前に分かった小林製薬の機能性表示食品の健康被害問題で、原因はカビでした。 一方で、私たちが食べるみそや酒、漬物をつくるのに活躍するのもカビの一種です。 そもそもカビってどんな生き物で、何が危ないのでしょうか。 手作りの注意点とは?

透明な菌糸、色がなくても生えているかも

みそや酒をつくるのに使う「こうじ」。 これは、米や大豆などに、黄こうじ菌と呼ばれるカビを生やしたものだ。 明治大学の中島春紫(はるし)教授(微生物生態学)によると、室町時代には、すでに種こうじを売る「もやし屋」さんがいたというほどだから、古くから日本人が使いこなしてきた菌だ。 長い間、毒素を作らない菌を慎重に選んで使ってきており、そう簡単には先祖返りしない安全なものだと遺伝子レベルで解明されている。 一方で、カビの世界では、毒素を作らないカビの方が珍しい。

たとえば、小林製薬の紅麹サプリで問題になった青カビ。 青カビのなかには抗菌薬ペニシリンを作るものもいれば、他の毒素を作るものもいる。 紅麹も古くから中国で発酵に使われてきたカビだが、?菌とは別の菌で、株によっては毒素を作る。 今回の株は毒素を作らない株だったが、青カビと一緒に培養する形になり、青カビによってプベルル酸が作られたとみられ、それ以外にも新規の複数の化合物ができてしまった。 カビは、胞子が着地した場所で、水分、温度、栄養がそろうと菌糸を伸ばして増殖し、再び胞子を作るというサイクルを繰り返す。 青色などに見えるのは胞子の色で、胞子を作る時期は毒素が多く作られる時期だ。

青や赤などの色がないからといって、カビが生えていないとは限らない。 胞子を作らない時期は透明な菌糸をあちこちに張り巡らしている。 胞子を作る前の菌糸は光を反射して白く見えることもあるが透明だ。 胞子の色など、肉眼でカビに気づくころには、その周囲に菌糸が張り巡らされている可能性が高い。

カビの増殖「酸素の入り方」で決まる

カビは微生物のなかでも駆除しづらい生き物だ。 バクテリアに比べると、比較的乾燥した状態でも生えることができる。 胞子は空気中に無数に漂っており、胞子がついて、条件が良ければ生えてくる。 手作りみそにうっすら生えた白い膜や、お餅やパンに生えたカビを削って食べた。 そんな経験のある人もいるだろう。 大丈夫なのだろうか。 「みそ表面の白い膜は、発酵の過程で増える酵母など安全な菌であることが多い 。また、みその深いところには酸素がなくカビが生えにくいので、もし、カビが生えても、表面を深めに削れば食べられる場合が多い」と東京農工大の山形洋平教授(応用微生物学)。

ただ、危険なカビかどうかを見た目で判断するのは難しいので注意は必要だ。 「パンや餅などは、気泡がたくさんあり、酸素が含まれている。 中までカビが生えている可能性もあるので、食べないのが望ましい。」 手作りみその場合、塩分濃度が 10% 以上あり、きちんと乳酸発酵して酸性度が高くなっていれば、カビや雑菌は生えることができないという。 逆に、塩分濃度が低かったり、空気を遮断できていなかったりすれば、空気中に舞う色々なカビや雑菌が増えてくる可能性がある。

商品の場合は、カビが混入することのないよう食品衛生法にもとづいて管理されている。 昨年の報告書で小林製薬の担当者が製造工程で「青カビはある程度は混じることがある」と言ったとされるが、あってはならないことだ。 1970 年の大阪万博を機に、乳酸菌の一つ「ブルガリア菌」からヨーグルトを作り始めた明治の工場では、生乳を受けいれ、加熱してバクテリアなどを殺菌してから、容器に入れるまでの工程は、基本的に配管でつながれ、人が入る場面は極力制限されている。 外気もカビの胞子なども吸着できるような高性能フィルターを通している。 それくらい厳重な管理が必要だという。

日本人には発酵食品が身近で、湿潤な気候風土だけに、カビを日常から目にする機会が多い。 「油断しがちだが、毒素を作らないカビはこうじ菌くらいで、むしろカビ毒を作るもののほうが多いことを知っておくべきだ」と山形さん。 カビを遠ざけるには外気に触れさせないことが大切だ。

手作りのみそや漬物 「早く食べて」

塩漬けや?漬けなど手作りの発酵食品の場合、最大の解決策は「早く食べること」と二人の専門家は口を揃える。 変な菌が少し入ってきても、私たちの体にいる無数の腸内細菌の勢力が強ければ増えられずに死んでしまうという。 ヨーグルトも種菌を入れて一晩寝かせればできているほど、乳酸菌の増殖能力は高い。 乳酸菌が元気なうちはほかの菌も抑えられている。 早めに食べればリスクは減らせる。

ぬか床も乳酸発酵がきちんとできていれば、問題ないことが多い。 表面の白い膜はみそと同じく酵母であることが多い。 ただ、カビが混ざっていないかよく見る必要がある。 カビが生えたら、深めに削って、菌糸ごと取り除いて使う。 においや色に違和感があったら、避けるのが肝心だ。 (竹石涼子、asahi = 4-4-25)


国内 2 カ所目「内密出産」導入 東京・賛育会病院、望まぬ妊娠に対応

東京都墨田区にある賛育会病院は 31 日、同日から「内密出産」に取り組むと発表した。 内密出産は、望まぬ妊娠に悩む女性が病院の担当者にのみ身元を明かして出産するもので、戸籍に母親の名前が載ることはない。 日本では熊本市の慈恵病院に続き、2 カ所目となる。

内密出産の対応について厚生労働省と法務省は 2022 年 9 月、自治体や医療機関向けの通知を出している。 賛育会病院によると、内密出産の手続きなどはこの通知に沿って進める。 内密出産があった場合、病院は江東児童相談所に連絡。 子どもは児童福祉法に基づく「要保護児童」として保護される。 児相からの情報提供を受け、墨田区が戸籍法の定めに基づき、父母の欄が空欄の子どもの戸籍を作成。 子の出自を知る権利を保障するため、女性の身元情報や内密出産に至った経緯などの情報は病院が保管する。

海外では、内密出産の法整備が進む国もある。 日本では法的根拠や公的支援がない中、慈恵病院によると内密出産で 21 年 12 月から今年 2 月までに 43 人が生まれた。 子どもの出自を知る権利の保障や、安定的な運用の必要性から、病院と熊本市は国に法制化の検討を求めている。

孤立出産・未受診 … そして内密出産の導入を決めた 先行する海外は

賛育会病院の賀藤均院長は導入について「内密出産は困難を抱え、望まぬ妊娠に直面した女性にとって最後のセーフティーネット。 首都圏にも同様の機能を持つ病院が必要だと考えた。」と話す。 賛育会病院は 1918 年に「賛育会妊婦乳児相談所」として開設され、地域住民向けの産院や困窮者の無料診療などに取り組んできた。 現在は総合病院で、都の地域周産期母子医療センターとして年間約 700 件の出産を担う。 2024 年 7 月からは孤立出産のリスクを抱える女性を想定し、匿名の妊娠電話相談に取り組んできた。

病院は、内密出産とあわせて、親が育てられない子を匿名であずかる「いのちのバスケット(いわゆる赤ちゃんポスト)を始めることも明らかにした。 内密出産に関する相談は年末年始や祝日をのぞく月 - 金曜の午前 9 時 - 午後 4 時、電話 (03・3622・1651) で受け付ける。 (佐」野楓、大貫聡子、asahi = 3-31-25)


2016 年以来 9 年ぶり『結核の集団感染』
 接触多かった 168 人のうち 15 人に感染確認 20 代男性 1 人の感染判明し検査

岐阜県で、結核の集団感染が発生しました。 2016 年以来 9 年ぶりのことです。 岐阜県によりますと、西濃保健所管内にある事業所に勤務する 20 代の男性が、2024 年 9 月に咳や発熱などの症状を訴え、医療機関を受診し結核と診断されました。 保健所が、勤務先で男性との接触が多かった 168 人を検査したところ、15 人に結核の感染が確認されたということです。 このうち 1 人が発病していますが、入院はせずに自宅で療養していて、岐阜県は現時点で事業所の外への感染拡大はないとしています。 岐阜県内で結核の集団感染が確認されるのは、2016 年以来 9 年ぶりです。 (FNN = 3-27-25)


生成 AI で「模擬患者」、医学生がアバターで問診練習 長崎大が研究

医学生の問診の練習相手となる「模擬患者」の役を、生成 AI (人工知能)を活用したアバターが務める研究を長崎大学などが進めている。 患者の病状や年齢なども設定できる。 これまで模擬患者役の確保が課題だったが、アバター相手なら時間を気にせず、医学生のコミュニケーション力を養える。 「模擬患者アバター」の開発を主導するのは、同大情報データ科学部の小林透教授の研究グループと IT 企業システック井上(長崎市)。 同大医学部の川尻真也准教授らが医学面で協力し、昨年 3 月から研究を進めてきた。

聞き方で変わる答え、せき込む演技も

3 月 4 日に開かれた試用版の成果発表では、画面上に年配の男性患者のアバターが現れ、医学生役が問診を行った。 アバターは、名前や年齢を答えた後、「ここ 2、3 日、せきと熱が続いていて、つらいです」、「熱は 38 度 7 分くらいあります」などと訴え、時折せき込むなどの演技も行う。 この日のアバターは肺炎にかかっているという想定。 医学生役が問診や相手の様子などから病状を把握する訓練を展示した。 医学生の聞き方によって返事も異なるため、現場の診療に近い体験を積めるという。

実際の模擬患者は不足しており、長崎大の場合、ボランティアとして募集し、訓練を積んだ人材は数人しかいない。 医学生が学ぶ 6 年間で模擬患者と接する機会は多くなく、代わりに、教官や医学生が患者役を務めて練習している。 川尻准教授は「問診は、医師が患者と信頼関係を築く第一歩。 医学生が医師になるために大切な技術。」と話し、アバターの開発に期待する。 これまで、アバターの会話の内容や自然さなどについて、医師らがチェックして、改善を進めてきた。 今後、実際に医学生に使ってもらい、さらに改良を図り、来春の完成を目指すという。 (天野光一、asahi = 3-24-25)


「妊婦の希望をかなえる」 無痛分娩に都が助成、医療現場に広がる波紋

出産はどのくらいの痛みを伴うのか、想像もできなかった。 「だから、怖かった。 痛みに強くないので、耐えられる気がしなかった。」 東京都八王子市の会社員、西田翔子さん (36) はそんな理由から、3 年前に第 1 子を出産するとき、無痛分娩に 24 時間対応することで知られている地元の産院を選んだ。 第 1 子は逆子だったため、帝王切開で出産。 昨年 10 月に出産した第 2 子も帝王切開の予定だったが、産院に到着した時点で子宮口が開いていたこともあり、危険になったら帝王切開することを条件に無痛分娩に切り替えた。

陣痛をやわらげるため、少しずつ麻酔を入れ始める。 本格的に麻酔が入ってから出産まで、4 時間ほど。 痛みがまったくないわけではなかったが、「何とか耐えられる痛み」だった。 分娩台の上でスマートフォンを手にするぐらいの余裕はあり、実家に預けた 3 歳の長女の様子を確認し、お産の進み具合を報告することもできた。 体力の消耗も少なく、我が子との対面も「和やかに過ごせた」という。 出産にかかった費用は約 69 万円。 国の出産一時金(50 万円)を引き、自己負担は 19 万円ほどだった。

西田さんはいま、こう振り返る。 「みんなが費用を気にせずに無痛分娩を選択できたら、幸せだなと思う。」

6 割が無痛分娩を希望、ただし費用が …

出産は一般的に、子宮の収縮や子宮口の広がりによって激しい痛みを伴い、それが多くの妊婦にとって不安要素のひとつとなっていた。 そんな痛みをやわらげることができるのが、無痛分娩だ。 脊髄(せきずい)の近くに局所麻酔をする「硬膜外鎮痛法」が一般的で、呼吸を落ち着かせ、血圧の上昇を抑えることもでき、産後の体力を温存できたと感じる人が多いとされる。 こうした効果への期待から、希望する妊婦は増加傾向にある。 2023 年度以降に出産した都民 1 万人超から回答を得た昨年の都の調査では、約 6 割が無痛分娩を希望していた。

ニーズが高まる一方で、ハードルとなっていたのが費用負担の大きさだった。 厚生労働省や都によると、正常分娩の平均出産費用は 23 年度、都内で 62 万 5,372 円にのぼった。 国の出産一時金を超えるうえ、無痛分娩にかかる費用の都内の平均額は 12 万 3,633 円にのぼる。 その分、自己負担が重くのしかかることになる。 都の調査では、無痛分娩を希望しながらも結果的に選ばなかった人に複数回答可で理由を聞いたところ、約 3 割が「費用の高さ」を選んだ。

無痛分娩のニーズを調べると …

出産経験者の意見もふまえ、都は支援を検討。 出産環境を整えることで少子化対策にもつなげる狙いで、無痛分娩に対して妊婦に最大 10 万円を助成するという踏み込んだ対応を決めた。 都道府県として初めての取り組みに、小池百合子知事は「それぞれの期待、希望をかなえられるような選択ができる環境をつくっていく」と意義を強調する。

9,500 件の利用を想定、「対応できない可能性」の声も

都は助成を始める 25 年 10 月からの半年間で、9,500 件ほどの利用を想定する。 ただし課題となるのが、安全性の確保と、医療機関側がどこまで対応できるかだ。 無痛分娩は麻酔を誤った場所に注入したことなどが原因で、妊婦が死亡したり、重い障害を負ったりした事例もある。 そこで都は助成対象について、厚労省が定める安全対策などの自主点検表の項目を満たし、都に届け出た病院や診療所での出産に限定する方針だ。 医療従事者向けの研修などを通じて、安心して無痛分娩できる体制の整備にも取り組むとアピールする。

それでも、日本産科麻酔学会の照井克生理事長は「経済的負担から無痛分娩を選ばないという方が一斉に希望するとなると、医療側が対応できない可能性がある」と危惧する。

日本と海外の無痛分娩の割合

最大の懸念は、無痛分娩に欠かせない麻酔科医の不足だ。 厚労省によると、全国の医師 32 万 7,444 人を診療科別にみると麻酔科医は 1 万 350 人にとどまり、慢性的に不足。 産科を専門領域とする麻酔科医は、さらに少ない。 現状でもすでに、自然に陣痛が起きた後にいつでも無痛分娩できるよう、麻酔科医が 24 時間待機する施設は限られている。 日中に陣痛を誘発する「計画無痛分娩」についても、1 日あたりの件数を制限する施設が多く、受け皿を増やすことは容易ではない。

地域ごとの偏りも大きい。 都の昨年の実態調査によると、回答があった都内の医療機関のうち、無痛分娩に対応する施設は 64% にのぼった。 しかし「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会 (JALA)」のホームページなどによると、岩手県と高知県では実施できる施設がないうえ、他県でも施設の数は限られる。 こうした状況で都内で希望者が増えた場合、医療関係者からは「医師の取り合いになり、近隣の神奈川、埼玉、千葉から都内へ引き抜くようになりかねない」との見方もでている。

専門家 「医師の取り合い、本末転倒」

人手が確保できず、無痛分娩に対応できない施設では分娩数が減り、経営が維持できなくなるおそれもある。 医療経済学に詳しい日本大の田倉智之・主任教授は「医師の取り合いになるようであれば本末転倒だ。 各地域で、必要な人が無痛分娩を受けられる仕組みをつくる必要がある」と指摘する。

都の助成について「無痛分娩の普及において、議論のスタートラインになるかもしれない」と評価したうえで、「本来は国全体で無痛分娩の助成について議論し、それに基づいて各自治体が態勢を整備するべきだ」と話す。 対応できる施設がない地域については、「まずは中核病院で無痛分娩ができるような財政支援を自治体が始め、それを少しずつ広げていけばいいのでは」と提案する。

無痛分娩については JALA のホームページで、医療機関に関する情報を公開。 無痛分娩の件数や、麻酔科医の硬膜外麻酔の症例数などを確認できる。 日本産科麻酔学会は、無痛分娩を希望する場合は妊婦健診の際に担当医などに伝え、分娩施設を変える可能性がある場合も早めに相談するよう呼びかけている。 (太田原奈都乃、本多由佳、asahi = 3-23-25)


病院の 6 割赤字経営 物価高への対応求める 病院団体などが共同声明

病院の 6 割が赤字経営になっているなどとして、日本病院会など六つの病院団体と日本医師会が 12 日、物価高や賃上げに対応できるよう、医療の公定価格「診療報酬」の新たな仕組みづくりを訴えた。 2025 年度に議論される診療報酬改定に向け、政府・与党に働きかけるという。

6 団体は今年 1 - 2 月、病院に調査を実施し、1,816 施設(回答率 30.8%)が答えた。 結果をみると、診療報酬が改定された 24 年 6 月以降、11 月までの経常利益が赤字だった病院は 61.2%。 23 年の同じ期間の 50.8% を 10 ポイントほど上回った。 同様に比較すると、水道光熱費などが 3.1% 増、院内清掃など人材派遣の委託料は 4.2% 増。 経費の増加が経営を圧迫しているという。

こうした状況から医師会と 6 団体は同日、合同で声明を発表した。 診療報酬改定において、従来と同様の医療費の抑制をしないことや、賃金や物価の上昇を反映させる仕組みづくりを求めた。 日本医療法人協会の太田圭洋副会長は会見で、「完全に病床を埋めきれない限りにおいては、病院の経営が成り立たない状況。 本当に異常な事態だ。」と話した。 (吉備彩日、asahi = 3-13-25)