建設業の倒産、10 年で最多 資材価格の高騰や退職で経営困難に

建設業の倒産が増えている。 帝国データバンクによると、2024 年の倒産件数は 1,890 件で、過去 10 年で最多だった。 建築資材や人件費の高騰などで廃業せざるを得ない企業が増えた。 大手企業が経営支援に乗り出す例もある。 帝国データバンクによると、建設業の倒産は 22 年以降 3 年連続で増加。 24 年に倒産した企業のうち、約 9 割が従業員 10 人未満だった。 業種別では、大工やとび職などの職別工事業が最も多かった。 倒産した理由は、資材価格の高騰の影響を受けたり、従業員の退職などで経営が困難になったりしたケースが全体の約 2 割あった。 このほか、コロナ禍に設けられた無担保・無利子でお金を貸す「ゼロゼロ融資」を利用後に倒産した企業も 143 件あった。

各地で進む再開発などで建設工事の需要は旺盛だが、現場で働く技能者の不足が問題となっている。 昨年 4 月には建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたこともあり、人手不足はより深刻になった。 人手を確保するため、下請けの支援に乗り出した大手企業もある。 マンション建設の長谷工コーポレーションでは昨年 10 月、子会社のハセックが協力会社の山本設備機工(神戸市)を子会社化した。 山本設備機工は建物の空調や給排水設備の施工が専門の会社で、経営者が高齢で後継ぎがいないことから、長谷工に相談があったという。

同社によると、後継者不足を理由にした協力会社の M & A (企業合併・買収)は初めて。 設備工事を担う職人確保が喫緊の課題のため、自社での買収に踏み切った。 ほかの協力会社からも「後継ぎがいない」、「職人が集まらない」といった不安の声が寄せられているという。 同社の三田村恒尚常務執行役員は「建設受注が増えたこの 2 - 3 年で、人手不足の問題に一気に火が付いた」と話す。

住宅メーカーの住友林業も昨年夏、協力会社から経営相談を受け付ける専用窓口を設けた。 同社は年間に建てる住宅の約 6 割を約 2 千社の協力施工店が担う。 光吉敏郎社長は「今の体制をいかに維持できるかが重要。 気付いたら(協力施工店が)廃業を決断しているということがないよう、幅広く相談を受けたい」と話した。 ゼネコン大手の大林組も協力会社からの相談窓口を置く。 事業継承だけでなく、採用や技能研修などの相談にも乗っているという。 (益田暢子、asahi = 3-22-25)


独ブレーキ製造大手の日本法人が下請法違反 不当減額、公取委が勧告

下請け業者に支払う代金を不当に減額したとして、公正取引委員会は 19 日、鉄道用・商用車用ブレーキ製造大手の独クノールブレムゼの日本法人「クノールブレムゼ商用車システムジャパン(埼玉県坂戸市)」の下請法違反を認定し、再発防止を勧告した。 減額分は計約 6,700 万円。 公取委の発表によると、同社は 2023 年 9 月から 24 年 4 月、大型バスやトラックのブレーキ部品の製造を委託した下請け業者9社との取引で、支払代金を不当に減額していた。 同社はすでに下請け業者に減額分を全額支払ったという。 (高島曜介、asahi = 3-19-25)


船井電機への民事再生法適用申請を棄却 原田氏側「対応、検討中」

破産手続きが進む船井電機について、会長の原田義昭元環境相による民事再生法の適用申請を東京地裁が棄却したことが 18 日分かった。 原田氏の事務所が公表した。 今後の対応は「現在、検討中」としている。 原田氏は船井グループ全体での再建は可能と主張し、投資家からの資金調達の案を示すなどしていたが、認められなかった。 船井電機は昨年 10 月末に破産手続きが開始された。 原田氏は破産の取り消しを求める即時抗告もしていたが、これも東京高裁が昨年末に却下され、上訴も認められなかった。 (清井聡、asahi = 3-18-25)

◇ ◇ ◇

船井電機が破産手続き 申し立て受け、東京地裁が開始決定

老舗 AV 機器メーカーの船井電機(大阪府大東市)について、東京地裁が 24 日、破産手続きの開始決定を出したことが破産管財人の事務所や地裁などへの取材で分かった。 関係者によると、同社の取締役が同日、準自己破産を申請していた。 帝国データバンクによると、同社は 2024 年 3 月期末時点で約 461 億 5,900 万円の負債を抱えていた。 通常、企業が自己破産を申請する時は取締役会の決議を経る。 ただ、人数がそろわず取締役会が開けないなど例外的なケースでは、取締役が単独でも申し立てできる。 これを「準自己破産」と呼ぶ。 今後の手続きは、債権者集会が開かれるなど通常の自己破産と同じになる。

船井は本業であるテレビの製造販売の落ち込みなどから業績不振となり、2021 年に出版会社に買収されて上場廃止になった。 昨年には持ち株会社化して船井電機・ホールディングス (HD) 傘下の事業会社に。 その後、HD が買収した脱毛サロンチェーンの負債に連帯保証をしていたことで、船井電機の株式が仮押さえされる事態になっていた。 先月末には船井の社長だった上田智一氏が辞任。 元環境大臣の原田義昭氏 (80) が代表取締役会長に就いていた。

近藤隆司・明治学院大教授によると、企業破産はほとんどが通常の自己破産の手続きで行われ、準自己破産は珍しい。 特に、約 2 千人(連結ベース)の従業員を抱える船井のような規模の会社では「聞いたことがない」という。 (asahi = 10-24-24)


西友をトライアルが買収、約3800億円で 関東などの事業強化へ

ディスカウントストア大手のトライアルホールディングス(福岡市)は 5 日、スーパー大手の西友を買収し、完全子会社化すると発表した。 西友は関東や関西を中心に店舗を展開しており、九州を拠点とするトライアルは事業拡大の起点としたい考えだ。 発表によると、トライアルは西友の発行済み全株式を、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ (KKR) と米小売り大手のウォルマートから計約 3,800 億円で取得する。 株式譲渡日は 7 月 1 日となる予定だ。

西友は 1963 年に設立された。 現在は全国で約 240 店舗を展開する。 2008 年にウォルマートの完全子会社となった後、21 年に KKR の傘下に入った。 トライアルは 1974 年にリサイクルショップとして創業した。 九州を中心にディスカウントストアなどを約 300 店舗運営している。 両社の店舗は地域的な重複が少なく、相乗効果が見込めるという。 (岩沢志気、asahi = 3-5-25)


「もっちもちの食感、盗まれた」 パスタのメーカーが製造委託先を提訴

もっちもちのパスタの食感を盗まれた - -。 麺類のメーカーが、委託先の会社に原材料の配合などの「営業秘密」を不正に使われたとして、1 億円の損害賠償や商品の製造・販売差し止めを求める訴訟を神戸地裁明石支部に起こした。 提訴は 2 月 14 日付。 訴えたのは、レストランやスーパーの総菜などで使われる業務用の「もっちもちの生パスタ」を販売する神戸瑞穂本舗(神戸市)。 訴えられたのは、麺類などの製造・販売を手がけ、「ゆであげ生パスタ」という業務用商品のあるシマダヤ(東京都渋谷区)。

シマダヤの人事総務課は取材に「訴状がまだ確認ができていないため、コメントができない」と回答している。 訴状によると、本舗は「もっちもちの生パスタ」の製造を委託するため 2013 年 8 月にシマダヤと秘密保持契約を締結し、商品の製法を同社に開示した。 その後、21 年まで製造を委託していたという。

一方、シマダヤは契約締結の翌年から「ゆであげ生パスタ」を販売。 本舗側は、生パスタのもちもち感を生み出すために独自開発した、原材料の配合や製法が「ゆであげ生パスタ」に不正に使われた、と主張している。 問題のきっかけとなったのは昨年、両社が参加した顧客向けのプレゼンテーションだった。 本舗の担当者が、その場でシマダヤの商品を試食したところ、ほぼ同じ製品だと感じ、記載された原材料を見ると同一だったという。

シマダヤ側は反論

本舗側は訴状で、シマダヤの商品の原材料は仕入れ先も含めて同一で、本舗が開発した原材料の配合率や製法でなければ、製麺は不可能だと主張している。 さらに本舗側は、国内で販売されている生パスタの製品約 60 点を調べたところ、原材料が同一なのはシマダヤの商品のみで、「異常な事態の裏付けだ」としている。 一方で本舗によると、シマダヤは「製法はすでに特許情報などから明らかだった」などと主張。 他の業者から製法の開示を受けて開発に至った、などと反論したという。

これに対し本舗側は、特許情報には製麺方法は記載されているが、もちもち感を出すために必要な原材料までは記載されていないと主張する。 シマダヤへ開示したという業者に資料の提示を求めたところ、その業者の製法は本舗の商品とは全く異なっていて、独自に開発したとは到底考えられない、としている。 本舗はシマダヤの行為について、提供された営業秘密を不正に利用することを禁じる、不正競争防止法に違反すると主張しており、本舗の代理人弁護士は「訴訟の推移を見ながら、刑事告訴なども判断していく」という。 (原晟也、asahi = 3-2-25)


丸住製紙が民事再生法適用申請 負債総額 590 億円、紙媒体の需要減

新聞用紙の生産量では国内 4 位だった製紙会社の丸住(まるすみ)製紙(愛媛県四国中央市)が 28 日、民事再生法の適用を東京地裁に申請した。 東京商工リサーチ高松支社などが発表した。 負債総額は約 590 億円という。 関連会社 2 社も、同日付で民事再生法の適用を申請した。 1919 年創業で、新聞や出版などの洋紙製造を手掛けてきた。 市内に 2 カ所の主力工場をもち、従業員は約 500 人。 最盛期の 2008 年には約 743 億円を売り上げていた。

同支社などによると、新聞や出版など紙媒体の需要減に加え、原料となる古紙相場の高騰や燃料費の上昇で経営が悪化。 2 月には売り上げの 7 割を占める洋紙事業からの撤退を明らかにしていた。 24 年 11 月期の売上高は 422 億円、純損益は 45 億円の赤字だった。 (羽賀和紀、asahi = 2-28-25)

◇ ◇ ◇

丸住製紙、洋紙事業から撤退へ 新聞用紙で国内 4 位、近年は赤字傾向

製紙会社の丸住製紙(愛媛県四国中央市)は 25 日までに、新聞や出版などの洋紙事業から撤退する方針を明らかにした。 「デジタル化や紙の需要減など、社会情勢に鑑みて判断した」としている。 日本製紙連合会によると、新聞用紙の生産量では日本製紙、王子製紙、大王製紙に続く国内 4 位。 従業員数は 500 人で、2023 年 11 月期の売上高は 458 億円だった。 7 割を洋紙事業が占める。 東京商工リサーチによると、近年は赤字傾向が続き、24 年 11 月期の純損益は 45 億円の赤字だった。

洋紙を製造している大江工場(同市)の従業員の雇用をどうするかについては明らかにしていない。 今後は太陽光発電などの事業に注力する。 同社の創業は 1919 年。 48 年に印刷用紙 49 年に新聞用紙の製造をそれぞれ始めた。 日本製紙連合会によると、印刷用紙、新聞用紙などを合計した紙の生産量では、同社は統計をとっている全国 26 社のうち 7 位という。 (asahi = 2-25-25)


昭和の運動会にどぶろく祭 … 2025 年問題に備え VHS をデジタル化

愛知県大府市は、昭和から平成にかけて、当時の祭りや町並みを記録した庁内のビデオテープ 334 本をすべてデジタル化した。 歴史的価値のある郷土の映像を後世に残すため。 一部を市の公式ウェブサイトで今月から公開を始めた。 市は、ケーブルテレビで流した市の広報番組などを納めた VHS のビデオテープ計 334 本持っている。 1980 年 - 2010 年に撮影された。 ビデオテープを巡っては、再生機器(デッキ)の販売と保守サービスの終了に伴い、いずれ見られなくなると危惧されている。 いわゆる「2025 年問題」で、市は昨年 9 月から所蔵するテープのデジタル化作業を始め、このほど終了した。

うち市制施行を節目で祝った 10 周年(1980 年) - 30 周年(2000 年)の 4 本の記念映像については、市のウェブサイトにあるユーチューブで一般公開した。 1 本あたり 25 分程度。 このほか広報番組など 16 本については、市立図書館アローブで、DVD で視聴できるようにした。 視聴できる計 20 本の映像には、どぶろくまつり、地区の盆踊りなど祭礼や伝統行事、運動会が登場。 建物がまだまばらな 40 年以上前の旧国鉄・大府駅前、05 年の愛知万博へ出展した際の様子などもある。 92 年バルセロナ五輪の柔道男子 78 キロ級金メダリスト吉田秀彦さん(同市出身)の祝勝パレードも映っている。

すべて公開しなかった理由は、映像の状態が悪かったほか、インタビューなどで個人が特定されるおそれがあったり、著作権上の問題が生じるおそれがあると判断したりしたためだ。 市職員はすべて視聴することができる。 市企画広報戦略課の担当者は「何かあった時に過去を振り返り、参考にする際の貴重な資料となる」と話している。 市は庁内に保管されていた 1960 年代末からフィルムカメラで撮影された写真のデジタル化も進めている。 計 90 枚については現在、市のウェブサイトにある「デジタルフォトブック」内の「あの日の情景」で見られる。

 視聴、閲覧は 市ウェブサイト へ。 (臼井昭仁、asahi = 2-24-25)


大判カメラ、製造の町工場がひっそり廃業 文化財撮影では今も活躍

文化財の撮影などにも使われるプロ用の大判カメラを製造してきた大阪の町工場が 1 月末、ひっそりと廃業した。 高画質化が進むデジタルカメラに市場を奪われたためだが、カメラ以外にも法隆寺(奈良県斑鳩町)にある金堂壁画の撮影用架台を製造するなど、文化財保存の現場を陰で支える存在だった。 関係者からは惜しむ声が上がる。 廃業したのは、サカイマシンツール(大阪府豊中市)。 「トヨ・ビュー」や「トヨ・フィールド」といった名前の大判カメラを製造してきた酒井特殊カメラ製作所の事業を引き継ぎ、社員が 2002 年に設立した。

最後の営業日となった 1 月 31 日。 事務所と工場を兼ねる社内は静かで、あとは工作機械の撤去を待つだけとなっていた。 西正浩社長 (79) は「プロがフィルムを使わなくなり、じり貧になった。 従業員も高齢化し、ユーザーさんに対しては申し訳ない気持ちもあるが、思い切って決断した。」と語った。

大判カメラとは、かつて主流だった35ミリ判フィルムの約 13 倍の面積がある「シノゴ」と呼ばれる 4 x 5 インチ判(102 x 127 ミリ)以上の大きなフィルムを使うカメラのこと。 高画質の写真を撮ることができるうえ、フィルムとレンズの位置が固定されている一般的なカメラと異なり、蛇腹部分を使って被写体の画像のゆがみを補正したり、ピントの合う範囲を調整したりできる。 アナログ時代は広告写真などでプロが使うことが多かった。

大判カメラの草分け「トヨ・ビュー」

「トヨ・ビュー」の初期型は 1959 年の発売で、国産による金属製の大判カメラでは草分け的な存在だった。 以後も改良が重ねられ、日本だけでなく海外でも広く使われてきたという。 営業担当の東洋一さん (77) は「年間で 1 千台ぐらい売れたこともあったが、近年はほとんど売れなくなった」と話す。 金属製のため、アルミのプレスを加工業者に依頼する必要もあり、1 千台単位で発注しないと採算が合わないという。

日本カメラ博物館(東京都千代田区)の運営委員を務める市川泰憲さん (77) は「国内で大判カメラを製造するところは、これでほぼ無くなったのではないか」と話す。 「アナログでは解像度をあげるのにフィルム自体の大きさが必要だったが、今や市販のデジタルカメラの解像度が高くなり、ゆがみの補正もデータ上でできるようになった。 時代の流れですね。」と話す。 一方、国立文化財機構の研究所や博物館などでの文化財の撮影では、同社の大判カメラが今も現役で活躍中だ。

奈良文化財研究所(奈良市)では、長年にわたって同社の大判カメラを使ってきたという。 現在使用しているのは、フィルムの代わりに記録部分を大きなセンサーにした機種だ。 写真室の専門職員、中村一郎さん (53) によると、文化財の撮影はできる限り正確で詳細な記録を取る必要がある。 大判カメラはカメラ本体で形の矯正やピントの調整ができ、撮影後にデータ加工をしなくてすむため、オリジナルに近い姿で記録を残すことが出来る。 「文化財の撮影ではまだまだ必要なので、廃業は残念。 今のカメラを大事に使っていくしかないですね。」と話す。

法隆寺金堂壁画の専用架台も

同社はカメラを固定し、位置を調整できる架台の製作も続けてきた。 現在、法隆寺金堂壁画保存活用委員会が進める焼損壁画の高精細デジタル撮影にも、同社の大判カメラに加えて、特注の専用架台が貢献している。 高さが約 3 メートルある 12 面の壁画は、それぞれの面を分割して撮影する必要があり、正確に撮るためには、カメラを上下左右や前後に動かすための細かい調整が必要になる。 当初は前後の調整は手動だったが、途中から電動化しリモコン操作で移動できるようにしたという。 奈良国立博物館の宮崎幹子資料室長は「高い場所でも壁画の凹凸に合わせて微妙な調整がしやすくなった。 撮影時には現場の意向を丁寧にくみ取り、作業がしやすいように改良してくれた。」と感謝した。 (西田健作、asahi = 2-19-25)


科学者への信頼、エジプト・インドが高く 日本は 68 カ国中 59 位

気候変動、震災、感染症・ワクチン、食の安全 …。 科学に対する信頼の危機がたびたび叫ばれるが、本当なのか - -。 新型コロナウイルスの流行後に世界 68 カ国・地域で科学者に対する信頼度を調べたところ、世界全体ではやや高い信頼を寄せていると、早稲田大と東京大が参加する国際共同研究チームが英科学誌ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビアに発表した。 ただ日本は世界平均を下回り、科学者への信頼が相対的に低い国だった。

調査は 2022 年 11 月 - 23 年 8 月、世界 68 カ国・地域の 18 歳以上の 7 万 1,922 人を対象に、科学や科学者をめぐる 88 項目についてオンラインで回答してもらった。 68 カ国・地域は世界の人口の約 8 割を占める。 科学者に対する信頼については、能力や誠実さ、透明性など 12 項目の質問を実施、信頼度を 1 点(とても低い) - 5 点(とても高い)で評価した。 「高くも低くもない」が 3 点とした。

その結果、世界平均は 3.62 点とやや高い信頼を寄せていて、全体的に低い国はなかった。 回答者の 57% は、ほとんどの科学者は「正直である」とし、56% はほとんどの科学者が「人々のウェルビーイング(幸福度)に関心がある」と信じていた。

他人の意見に注意払っている?

また 52% が「科学者はより政策決定プロセスに関与すべきだ」と考え、「科学者は特定の政策に積極的に主張すべきでない」と考える人は 23% で少数派だった。 ただ、透明性について「科学者は他人の意見に注意を払っている」は 42% とどまり、83% が「科学者は科学について一般市民とコミュニケーションをとるべきだ」とした。 一方、国によるばらつきも見られた。 日本(対象者 1 千人)では、科学者に対する信頼度は 3.37 点で世界平均を下回り、68 カ国・地域中 59 位と相対的に低かった。

四つの研究テーマについて科学者が優先すべき度合いを尋ねたところ、公衆衛生の改善、エネルギー問題の解決、貧困の削減、防衛・軍事技術の開発の順に優先度が高いとしつつ、実際に取り組んでいるという認識との間には差が大きく出た。 貧困の削減については、人々が期待する優先度に対して実際の取り組みとの差が最も大きく不十分とみられていた。

一方、防衛・軍事技術の開発については、4 テーマの中で人々にとって優先度が最も低かったが、唯一、実際の取り組みが自分たちが望む以上に優先していると考えている傾向が見られた。 細かく分析してみると、「科学者が防衛・軍事技術の開発に集中しすぎている」と考える人は、科学をあまり信頼しておらず、日本でも世界と同じ傾向だった。

政治的信条による違いも

政治的信条による違いもあった。 欧米諸国では、右派の政治的見解を持っていると自認する人々は、左派だと自認する人々より科学者への信頼が低いことがわかった。 ただ多くの国では関連性は見られなかった。 日本では全体的には中立的であるものの、科学者を信頼する人々はわずかに保守よりだった。 ただ左派・右派、リベラル・保守といった政治的信条を強く自認している人々は、いずれも科学者への信頼度が低く、気候変動やワクチンに関して懐疑的な傾向が見られたという。

研究チームには世界 179 研究機関に所属する 241 人の研究者が参加している。 その 1 人、早稲田大の田中幹人教授(科学技術社会論)は「日本も科学コミュニケーションへの努力がもっと必要だという認識が市民の側でも強い。 科学者への信頼が世界平均から低かったことから教訓とすべき点は、科学者が自分たちの働き方、そして科学の営みを、教育面からももう少し踏み出して話すべきだし、科学的な証拠を含めて、政治に対しても提供していくことが期待されていると思う。」と話す。

そのうえで、「科学は世界共通だが、同時に文化的な側面もある。 これだけ誤情報、偽情報があふれる社会であるがゆえに、日本社会にとって科学とは何かということを改めてより理解していく必要があるし、その理解を市民と共有していくことが求められている」と指摘する。 論文は こちら。 (asahi = 2-17-25)

「科学者への信頼度」の主な国の調査結果(1 - 5 点、論文から抜粋)
1位エジプト4.30点
2位インド4.26点
12位米国3.86点
15位英国3.82点
17位カナダ3.81点
29位中国3.67点
32位ハンガリー3.64点
- ここまでが世界平均(3.62点)以上 -
44位ドイツ3.49点
50位韓国3.43点
51位フランス3.43点
57位イタリア3.38点
59位日本3.37点


「2026 年度末までに抜本的対策」 パナソニック、テレビ撤退検討

パナソニックの構造改革

記事コピー (10-31-12〜2-4-25)


米インテル、38 年ぶり通期赤字 AI 向け半導体で出遅れ響く

半導体業界の盟主だった米インテルが苦境に陥っている。 30 日に発表した 2024 年 12 月期決算の純損益は、38 年ぶりとみられる通期赤字に転落した。 人工知能 (AI) 向け半導体は米エヌビディアに、他社の半導体製造を請け負うファウンドリー事業は台湾 TSMC に歯が立たない。 大規模リストラやトップ辞任を経てもなお、立て直しの道筋は見えない。

インテルは 1968 年、半導体の集積度は 2 年で倍増し、コンピューターの性能は指数関数的に向上するとした「ムーアの法則」で知られるゴードン・ムーアらによって設立。 米マイクロソフトのパソコンにはインテルの半導体が必ず入っているとされ、2010 年代前半ごろまでは CPU (中央演算処理装置)市場で 100% 近いシェアを誇っていた。 だが、24 年通期の決算で純損益が 188 億ドル(約 2.9 兆円)の赤字に転落した。 10 - 12 月期は 1 億 2,600 万ドル(約 195 億円)の赤字(前年同期は 26 億 6,900 万ドルの黒字)だった。 赤字幅は縮小したものの、4 四半期連続の赤字となった。

低迷の背景には、AI 向け半導体への出遅れがある。 エヌビディアは 10 年以上前から AI の可能性に目をつけ、現在はデータセンター向け AI 半導体でシェア約 8 割と独走。 収益の高かったパソコンでの成功体験があだとなり、AI 需要の大半を囲い込まれたインテルは、追い上げに苦労している。 スマホ向け半導体にも乗り遅れた。 インテルは、半導体の設計と製造をともに手がける米国唯一の企業。 半導体の性能を高める微細化で追随を許さなかった同社だが、両方を手がけるスタイルにこだわるあまり、10 年代後半ごろから製造に専念する台湾 TSMC に後れをとった。

インテルのゲルシンガー前最高経営責任者 (CEO) は 21 年、起死回生策として最先端半導体の製造能力を強化し、他社からも生産を請け負うファウンドリーに参入する方針を示した。 だが巨額投資があだとなり、業績が急降下。 昨年 9 月には全従業員の 15% にあたる 1 万 5 千人のリストラを発表し、ゲルシンガー氏も辞任に追い込まれた。 いまや他社からの買収や出資の観測も浮上している。 バイデン前政権は立て直しのため、同社が投資する半導体工場への補助金を決めた。

打開策の一つが、AI パソコンだ。 専用の半導体を搭載した新製品を発表。 赤字が続く製造部門を分社化して、資金を借りやすくする道も打ち出した。 暫定 CEO のホルトハウス氏は 30 日の会見で、経営問題の解決には「1 - 2 年はかかるだろう」と語った。 (サンフランシスコ・奈良部健、asahi = 1-31-25)


TSMC 決算、AI 需要で最高益 5 兆円超 熊本工場「歩留まり良好」

半導体受託生産の世界最大手、台湾 積体電路製造 (TSMC) が 16 日発表した 2024 年 12 月期決算は、売上高と純利益ともに過去最高だった。 人工知能 (AI) 向け半導体の需要拡大が貢献した。 売上高は前年比 33.9% 増の 2 兆 8,943 億台湾元(約 13 兆 7 千億円)、純利益は同 39.9% 増の 1 兆 1,732 億台湾元(約 5 兆 5,500 億円)だった。

魏哲家(シーシー・ウェイ)・最高経営責任者 (CEO) は記者会見で、昨年末に量産を開始した熊本県菊陽町の工場について「政府や自治体の強力な支援のおかげで、計画は順調だ。 良好な歩留まり(良品率)で量産を開始している」と言及。 さらに「25 年中に第 2 工場の建設が始まる予定だ」と今後の方針も改めて説明した。 (渡辺淳基、asahi = 1-16-25)

◇ ◇ ◇

TSMC 第 2 工場「建設は来年開始」、幹部言及 27 年の稼働めざす

半導体受託生産世界最大手、台湾積体電路製造 (TSMC) の秦永沛エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼共同 COO (最高執行責任者)は 16 日、熊本県菊陽町に建設予定の第 2 工場について「土地造成がすでに始まっており、工場建設は来年開始される」と述べた。 同町で開いた地域交流イベントのあいさつで言及した。 TSMC は第 2 工場について、当初は年内に着工予定と発表したが、10 月中旬の四半期決算発表で、来年 1 - 3 月の間に建設を始めると修正。 2027 年末までの稼働開始をめざすという。

すでに試作品の製造が始まっている第 1 工場については、順調に準備が進んでいるという。 秦氏は「全てのプロセス認証を完了しており、量産は今四半期に開始される」と述べ、年内の出荷開始を明言した。 また、工場の運営を担う生産子会社 JASM の堀田祐一社長は報道陣の取材に対し、第 1 工場の状況について「すでにラインで試作をして、台湾の工場と同じ性能が出るところまで確認した。 いまはお客さまが製品の評価をしているところだ。」と説明した。 「年末までの間に生産に確実にこぎつける」とも意気込んだ。

この日は JASM が地域住民との交流を目的としたイベント「JASM Smile Day」を菊陽町内の公園で初めて開催した。 JASM のブースには製造工程や水処理に関する展示なども設けられ、従業員らが地域住民からの質問に答えるなど対話を重ねた。 堀田社長は「今日は非常に良い機会を得たので、水をきれいにする仕組みなどのわかりやすい展示を作った。 従業員と地域の皆さんが直接会話をすると、どういう人が働いているのか顔が見える。 人と人のコミュニケーションとして、今後も積み重ねていけるといい。」などと話した。 (江口悟、渡辺淳基、asahi = 11-16-24)

前 報 (2-24-24)


小型で高効率 … 新半導体レーザーを実用化 京大が企業との橋渡し強化

京都大学は 6 日、工学研究科の野田進教授が発明したフォトニック結晶レーザーの実用化を加速させるため、一般社団法人の「京都大学フォトニック結晶レーザー研究所」を設立したと発表した。 野田さんが代表理事を務める。 応用開発や素子提供、技術支援、人材育成などを通じて、企業との橋渡しを強化する。

フォトニック結晶レーザーは、屈折率が違う物質を光の波長ほどの周期で並べた「フォトニック結晶」を組み込んだ新型の半導体レーザー。 1999 年に野田さんが発明し、研究開発を進めた結果、いまでは大型レーザーに匹敵する輝度を連続して出せるようになった。 従来よりはるかに小型で高効率、低コストのレーザー加工や、車の自動運転の計測に使われる LiDAR センサー、医療用のレーザーメス、光通信など、様々な用途に役立つと期待されている。

これまでに大学の拠点に 140 社超の企業などから問い合わせがあり、延べ 50 社と共同研究などで連携してきたが、若手研究者の負担が増えたほか、ビジネスに直結する企業からの要望に十分にこたえられなかったという課題もあり、大学とは別に新法人を設立することにした。 野田さんは「海外からも強い引き合いがあるので、経済安全保障上の注意をしながら、より社会実装につながっていく組織をつくっていきたい。 責任は大変重いので気を引き締めていくが、第一歩に立てて非常にうれしく思う。」と抱負を述べた。

京大の室田浩司・副理事(社会連携・イノベーション推進担当)は「橋渡し法人は、基礎研究と実用化の間のギャップを埋め、大学の基礎的な成果を確実に社会に橋渡しする。 今後、京大はアカデミアの主導で、卓越した研究成果の実用化を推進していく。」と述べた。 (桜井林太郎、asahi = 12-7-24)


エアバスが約 2,000 人削減へ、不振の宇宙システム部門中心 - 想定下回る

欧州航空機メーカーのエアバスは、10 月中旬に発表した人員削減計画の対象人数が最終的に 2,043 人になると発表した。 その半数余りは業績不振の宇宙システム部門の従業員という。 4 日の発表資料によると、人員削減は各国の部門で実施され、ドイツが 689 人と最も多く、続いてフランス(540 人)、英国(477 人)となっている。 また宇宙システム部門で約 1,128 人、本社で 618 人が削減されるほか、その他の事業でも一部が対象になる。

今回の対象人数は防衛・宇宙部門の従業員の約 5% に相当するが、10 月に当初想定していた最大 2,500 人をやや下回る。 発表資料によると、今回の計画の目的は固定費の削減であり、対象となるのは間接部門の従業員が大半とした。 同社は、米宇宙開発企業スペースXのような機敏な企業との競争に苦戦し、一部のプログラムで費用が積み上がったため、人員削減に踏み切った。

6 月には一部の宇宙プログラムに関連して約 9 億ユーロ(約 1,420 億円)の費用が発生すると発表。 「複雑かつ高度な製品」が開発リスクを生み出したとしていた。 エアバスの主力事業は A320 ファミリーや大型の A330・A350 などの航空機を製造する民間航空機部門。 (Benedikt Kammel、Bloomberg = 12-5-24)


JDI、台湾大手の群創光電と戦略提携 次世代有機 EL の拡販めざす

液晶パネル大手のジャパンディスプレイ (JDI) は 3 日、有機 EL ディスプレーの販売拡大に向けて、台湾の同業大手の群創光電(イノラックス)と戦略提携を結んだと発表した。 経営不振に苦しむ JDI は、有機 EL を再建の柱と位置づけている。 世界的大手と連携して海外展開を強化し、経営の立て直しを進めたい考えだ。 JDI は、自社で開発した有機 EL ディスプレーを、自動車の運転席正面に配置する大型パネルとして製品化する。 創光電は子会社の販売網を生かして売り込む。 JDI の国内工場で 2027 年から量産する計画だ。

自動車内は強い日差しを受けるため、現状では明るさに課題のある有機 EL ではなく液晶パネルを使うことが多い。 JDI は自社の有機 EL 技術は従来より 2 倍明るく、3 倍高寿命だとうたう。 有機 EL への置き換えによる市場開拓を目指している。 JDI のスコット・キャロン会長兼最高経営責任者 (CEO)  は「JDI は技術は優れているが、グローバルへの展開が課題で、かねてパートナーを探していた」と話した。 群創光電は世界 5 位のディスプレーメーカーで、欧州などにも広く販売網を持っている。

将来的には、部品の共同調達や新商品の企画開発でも提携を検討するという。 群創光電に生産を委託するかについては「ありとあらゆる選択肢がある(キャロン CEO)」と述べるにとどめた。 液晶パネル市場は中国勢などの参入が相次ぎ、過当競争に陥っている。 JDI は 14 年の上場以来、10 年連続で純損失を計上。 有機 EL の量産は近く始める計画だ。 (田中奏子、asahi = 12-3-24)


日本人が発案したのになぜ敗れた? 欧州企業が独占、半導体の核心技術

北海道に建設中の国策半導体メーカー、ラピダスの工場に 12 月、最先端の半導体製造に欠かせない極端紫外線 (EUV) の露光装置が搬入される。

EUV 露光装置はオランダの ASML 社しか作れず、同社が市場を独占する。 しかし露光装置はかつて日本が 80% のシェアを握り、EUV 露光技術はそもそも日本人が発明したものだった。 それなのに作れなかった。 「EUV は、超音速旅客機のコンコルドのようなものと思っていました。 最終的にはモノにはならないだろう、と。」 ニコンの社長、会長を務めた牛田一雄さんは 27 日、記者との懇親会で問われ、そう振り返った。 「しかし、コンコルドという私の予想は見事に外れました…。」

世界首位ニコンの転落

ニコンは露光装置の世界ナンバーワン企業だった。 いずれ EUV の時代が来ると言われていた。 それを見越して開発を進めてきた。 なのに商用化できなかった。 勝ち残ったのは ASML。 1984 年、オランダの総合電機メーカー、フィリップスが出資して設立した後発の露光装置メーカーだ。 「彼らがやり通したのは素晴らしいですよ」と牛田さんは言う。 露光装置とは、シリコンの薄い板(ウェハー)に、半導体の回路を焼き付ける装置のこと。 焼き付けることを「露光」と呼ぶ。 半導体製造において最重要な工程である。

露光装置はレンズや光を使うため、カメラや望遠鏡を作る光学系メーカーが参入してきた。 「メイド・イン・ジャパン」が世界を席巻した 1980 - 2000 年代初頭、日本のニコン、キヤノンの 2 大カメラメーカーが露光装置の分野で圧倒的な競争力を誇った。 日本勢の台頭によって、かつて 90% のシェアを握った米 GCA 社は 93 年、露光装置から撤退に追い込まれたほどだった。

半導体は線幅が細いほど性能が増し、露光に使う光源の波長を短くすることで半導体の微細化を促してきた。 光の波長は g 線 → i 線 → KrF → ArF → EUV と短くなり、この開発競争に勝ち残ったのが ASML だった。 いまや、髪の毛の太さの 10 万分の 1 (1 ナノメートル) 単位の回路を焼き付けるため、EUV 露光装置は「史上最も精密な機械」と評される。 ASML の EUV 露光装置は 1 台 200 億円以上もする。

ASML 1 社しか作れないため、台湾積体電路製造 (TSMC) や韓国サムスン電子など半導体メーカーから注文が殺到し、納品まで何年も待たされる状態だ。 ラピダスが 2 ナノの先端半導体の生産に挑む際に、まず突破しなければならない関門が、この EUV 露光装置の入手だった。 「数年待ち」が当たり前なので、経済産業省は、ラピダスが設立を発表する半年前の 22 年 5 月、担当の野原諭商務情報政策局長が訪欧し、ASML に意向を打診。 それから 2 年半経ち、いよいよ納入される。 巨大装置のため、建屋が完成する前から据え付けを始める。

EUV 露光装置とは

液状のスズを毎秒 5 万個垂らし、そこに高出力レーザーを照射してEUVの光を発生させる。 EUV 光は波長が短く、そのままでは空気中に吸収されてしまうため、真空の空間で 10 枚もの鏡に反射させて使う。 光学技術と機械工学が融合した巨大な装置で重量は 200 トンもある。

発案したのは日本人だったが …

この EUV 露光技術を発案したのは実は日本の木下博雄さん (75) だった。 電電公社(当時)の研究者だった 1986 年、応用物理学会で発表した。 13.5 ナノ波長の光の採用など後に ASML の EUV 露光装置に採用されることになる基本技術を発案した。 「いろんな可能性があった時代に、今日採用される技術を選んでいたのは画期的 (機械振興協会経済研究所の井上弘基特任研究員)」と評される。 ゆえに木下さんは「EUV の始祖」と呼ばれる。

米国は次世代の EUV 露光技術で日本から覇権を奪い返そうと 90 年代に産官学の共同プロジェクトを相次いで発足させた。 インテルやモトローラ、AMD など米半導体各社に加え、様々な国立研究所が参画。 ASML や独インフィニオン・テクノロジーズなど欧州勢にも門戸を開いたのに、日本勢の加入は阻まれた。 だが、そうまでしても、米国は EUV 露光装置を開発できなかった。

日本も 98 年、木下さんを招いた「ASET」、さらに 02 年に「EUVA」という国家プロジェクトを始めた。 しかし、このころから国内半導体メーカーは主力商品のメモリー DRAM で苦戦し、業績が急速に悪化。 経産省は眼前の大手半導体メーカーの支援に手間取り、露光装置の開発どころではなくなった。

ニコンは EUV の試作機を開発したものの、性能は不十分だった。 予定の 2 倍の開発費がかかった半面、光源の出力不足や機器の不具合、運転中の装置内の汚れのひどさなど克服すべき課題が多々あり、「装置全体で見ると出来が悪かった」と当時の担当者は打ち明ける。 技術開発の難易度の高さから「こんな大変なものはできるわけがない」という空気が支配的になった。 日本勢は 10 年前後、相次いで開発競争から脱落。 キヤノン広報担当者は「可能性は研究しているが、EUV 装置に仕立てる活動はしていない」という。

「難しいことに挑戦すればそれだけリターンある」

あきらめなかったのが ASML や独カール・ツァイスが加わる欧州の共同開発プロジェクトだった。 日米半導体摩擦の余燼がくすぶる米国とは対照的に、欧州は日本企業に協力を求めた。 ASMLの EUV 開発は、HOYA や JSR、東京エレクトロンなど日本勢の部品や材料が支える。 ASML はこの当時、こうした水平分業によって積極的に他社の力を取り込んだ。 部品を機能ごとにまとめて「モジュール化」し、そのモジュールを組み合わせて装置に仕立てる手法を確立。 「不具合があったら、そのモジュールを取り換えて次に進んだ」と九州大の溝口計客員教授。 開発速度は日本勢をはるかに上回った。

さらに ASML は 01 年、世界 4 位の露光装置メーカー、米シリコンバレー・グループ (SVG) を買収。 SVG はキヤノンが 90 年代に組もうとした相手だったが、米政府は先端光学技術の日本への流出を警戒し、破談した。 ASML は、光源メーカーの米サイマー社も買収し、難関だった光源開発にも成功。 ASML は水平分業のうまみを吸収後、M & A を活用して外部の技術を自らに取り込んでいった。 垂直統合に切り替えたのだ。

ASML は開発資金の工面も先んじた。 顧客である TSMC やサムスン、インテルなどから 4 千億円以上の資金を集め、巨額の開発費を充当したとみられている。 それと比べて日本勢の開発資金は桁違いに小さく、「最大の敗因は資金不足」と日本側は見る。 経産省は後に資金支援してニコン、キヤノンに EUV 開発を継続するよう要請したが、固辞された。 担当官は「両社ともやる気がなかった」と振り返る。 とはいえ、木下さんによると、16 年の時点でも世界の半導体関係者のうち「EUV が実現する」と考えていた人は 20% 未満。 それだけ困難視されていた。

EUV による半導体量産が本格化したのはやっと 19 年ごろから。 やり遂げた ASML のマーティン・ファン・デン・ブリンク社長兼 CTO (当時)は、経産省の野原氏に「開発資金がかかりすぎと批判されても、ライバルが脱落しても、諦めなかった。 難しいことに挑戦すればそれだけのリターンがある」と豪語した。 もはや ASML がシェア 90% を握り、日本勢はわずか 10%。 「日本は世界の潮流を見極めきれなかった。 残念を通り過ぎて悲しい。」 井戸を掘った木下さんはそう嘆いた。 (編集委員・大鹿靖明、asahi = 12-1-24)