首都圏で流行「リンゴ病」 妊婦の感染に注意 専門家の危機感の理由

両ほおの赤い発疹が特徴の感染症「リンゴ病(伝染性紅斑)」が全国的に急増している。 首都圏の 1 都 3 県は警報基準に達したとして注意を呼びかけた。 健康な大人や子どもが重症化することはまれだが、妊娠中の人にとっては重大なリスクが潜む。 感染すると流産や死産の原因になることがあるが、ワクチンはないなど予防が難しい。 国などの対策が後手に回る中での再び流行に、専門家は危機感を募らせる。

「もし、あのとき『検査して』と医師に強く訴えなかったら、原因がわからないまま、流産、死産になっていたかもしれない。」

都内に住む 30 代の女性はそう振り返る。 4〜5年周期で流行するリンゴ病は、前回 2019 年から 20 年にかけて流行した。 女性は 19 年の春、第 2 子を妊娠中にリンゴ病に感染し、胎児が危険な状態になって入院した。 くしゃみや鼻水、からだのだるさの症状があった。 妊婦健診で相談すると「花粉症でしょう」と担当医に言われた。 だが腕に発疹が出ていた女性は違和感を抱き、自治体からの妊婦向けの配布物の一文を思い出した。

妊娠中はリンゴ病に気をつけて - -。

担当医に改めて、「検査してほしい」と伝えた。 その産院には検査キットがなく、感染を確認するまでに数週間を要した。 感染発覚後は慌ただしく、小児科の高度専門医療が受けられる国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)への受診が決まった。 ウイルスは胎児にも感染しており、重度の貧血を起こしていた。 胸や腹に水がたまったり、全身にむくみが出たりする「胎児水腫」が起きるおそれもあり、医師からは「命にかかわる状態」と言われた。 入院して胎児にへその緒などを介して輸血をする治療をすることになった。

2 度にわたった輸血で強い吐き気が出るなど、母体への影響もあった。 その後、胎児の貧血は改善し、定期的な経過観察に。 もとの産院に戻って、無事に出産した。 女性はモデル業をしており、読者の多い自身のブログに一連の出来事をつづり、公開して話題になった。 今でも時々、治療のことについて質問するメッセージが届くという。

「自分の時はとにかく情報が少なすぎた。 ちょっとでも同じ境遇の女性の助けになればうれしいです。」

11 月以降に患者が急増

国立感染症研究所の発表によると、リンゴ病の患者数は 11 月以降に急増した。 全国の約 3 千の医療機関から報告された患者数は、12 月 1 日までの 1 週間で、この時期としては、この 10 年で最多の水準になった。 東京都は 11 月 21 日、同月 17 日までの 1 週間の患者報告数が 500 人以上となり、6 年ぶりに都の警報基準に達したとして注意喚起した。 12 月 5 日の発表では 1 日までの 1 週間で 796 人となり、1999 年に統計を始めて以来、過去最多になった。 都の感染症情報センターの担当者は「警報級の流行が継続している」と話す。

12 月 1 日までの 1 週間では、神奈川、千葉、埼玉の 3 県でも国が定める基準を超え、流行警報が出た。 以降も首都圏では流行が続く。 リンゴ病は、大人が感染しても約半数は症状が出ない。 発症してもせきやくしゃみといった風邪の初期症状程度が多いが、発疹や、手や腕、ひざ関節の腫れ・痛みが出る場合もある。 大人も子どもも多くは自然に軽快し、重症化することはまれだ。 ただ、注意が必要な人もいる。 リンゴ病に詳しい手稲渓仁会病院(札幌市)の不育症センター長の山田秀人医師 (66) は「妊娠中のリンゴ病感染は流産・死産の原因になることがあまり知られていない」と警戒を呼びかける。

11 年前の調査で見えた妊婦へのリスク

山田医師が主任研究員(当時は神戸大学医学部産科婦人科学分野教授)として関わった、2013 年発表の厚生労働省の全国調査(1990 施設が回答)がある。 妊娠中にリンゴ病にかかり、胎児にも感染した女性が 69 人確認され、うち約 7 割の 49 人が流産、死産していた。 感染した妊婦のうち約半数には症状が出ていなかったこともわかった。

山田医師は、感染した妊婦のうち「6% で胎児死亡や、4% で胎児水腫が発生するという報告がある」と説明する。 特に妊娠初期の感染では、胎児への影響のリスクが大きいという。 子どもの頃にリンゴ病にかかっていて免疫があれば、妊婦も感染しづらい。 一方で、「日本人の妊婦の抗体(免疫)保有率は、調査によって幅があるが、およそ 20 - 50%」と山田医師はみる。

できる対策は …

リンゴ病の原因となるヒトパルボウイルス B19 については、ワクチンもなく、胎児への感染を予防する方法も確立されていない。 山田医師は「マスクをすること、感染者と食器などを共有しないこと、子どもにもキスをしないこと、手洗いやうがいをこまめにすることが感染予防になる」と説明する。

感染拡大の起点になりやすい保育園も対応に追われる。 保育施設に向けた厚労省(現在はこども家庭庁が所管)の対策ガイドラインでは、子どもがリンゴ病に感染したとしても、直ちに出席停止などは求めていない。 潜伏期間があり、両ほおに特徴的な赤い発疹が見られるころにはウイルス排出のピークを過ぎているためという。 今夏から園児の発症例が出ている都内の私立認可園では、リンゴ病が確認された場合は掲示物で周知し、妊娠中の保護者には直接リスクを説明しているという。 園の関係者は「心配であれば自宅保育が望ましいが、保護者にも仕事がある中、どこまで休むように伝えるべきかは悩ましい」という。

妊婦健診での注意喚起

リンゴ病は 4 - 5 年周期で流行することがわかっている。 今回の流行は予測できたとして、対策の遅れを指摘する専門家もいる。 流行の間隔が長いこと、多くの人にとってはリスクが大きくないことから、これまでリンゴ病に焦点を当てた行政の注意喚起は多くなかった。 今年の流行を受けて、こども家庭庁の母子保健課と厚労省の感染症対策課は 12 月 6 日、リンゴ病について初めて連名で全国の自治体に事務連絡を出し、妊婦への感染リスクについて妊婦健診などでの注意喚起を求めた。 しかし、感染リスクへの認識が広く浸透しているとは言えない。

21 年に発表された妊婦を対象にした先天性母子感染の知識調査では、リンゴ病について「妊娠中の感染が胎児に影響を及ぼす感染症として知っていた」という割合は約 3 割。 過半数を占めた風疹やトキソプラズマよりも大幅に低かった。 山田医師は「妊婦健診で保健指導に当たる医療者には、ぜひ、ヒトパルボウイルス B19 についても啓発・教育をしていただき、医療全体として一丸となって、先天性感染を減らしたい」と話す。 (朽木誠一郎、asahi = 12-12-24)


コンゴ民主共和国の原因不明の病気 マラリア検査に陽性反応

アフリカ中部のコンゴ民主共和国で広がるインフルエンザに似た症状の原因が分からない病気について、WHO = 世界保健機関は感染者から集めたサンプルを分析したところ、一部がマラリアの検査に対して陽性を示したことを明らかにしました。 WHO は複数の病気が関係している可能性もあるとして、今後も調査を続けることにしています。 アフリカのコンゴ民主共和国ではインフルエンザに似た症状の病気が広がっていて、WHO によりますと、これまでに 400 人余りが感染し、子どもを中心に少なくとも 31 人が死亡しました。

これについて WHO のテドロス事務局長は 10 日、感染者から採取した 12 のサンプルのうち、10 のサンプルが、蚊が媒介する感染症のマラリアの検査に対して陽性反応を示したことを明らかにしました。 マラリアは、感染すると発熱などの症状があらわれ、WHO によりますと、2022 年には世界各国であわせて 60 万人以上が死亡し、このうちコンゴ民主共和国ではおよそ 7 万人が死亡したと推定されています。 WHO は、複数の病気が関係している可能性もあるとして、今後も調査を続けることにしています。

テドロス事務局長は「感染が起きている地域では栄養失調やワクチンの接種率が低いことから、子どもたちがマラリアや肺炎などにかかりやすい状態だ」と述べたうえで、さらに多くのサンプルを調べ、正確な原因を突き止める考えを示しました。 (NHK = 12-11-24)

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コンゴ民主共和国の原因不明の病、詳細把握へ アフリカ CDC が発表

アフリカ中部のコンゴ民主共和国で約 80 人が死亡した原因不明の病をめぐり、アフリカ疾病対策センター (CDC) は 5 日、感染者のサンプルが専門家に届き、2 日以内に病気の詳細が把握できる、との見立てを示した。 病気の症状はインフルエンザに似ており、発熱や頭痛、呼吸困難や貧血などが起きる。 AP 通信によると、アフリカ CDC のジャン・カセヤ所長は「初期の診断では呼吸器疾患と考えられる」とし、実際に感染症なのか、どのように感染するかなど不明な点が多い、と説明している。

AP の報道によると、コンゴ民主共和国政府は、約 380 人の患者のほぼ半分が 5 歳未満の子どもと発表した。 病院で死亡した 27 人のうち、17 人が呼吸器疾患で、10 人が輸血不足だったという。 コンゴ民主共和国では、エボラ出血熱やエムポックス(サル痘)などの感染症がたびたび報告されている。 エムポックスは今年、症状の重いウイルス系統が流行している。 世界保健機関 (WHO) によると、今年 1 月 - 11 月上旬にアフリカで死亡した 4 万 6,794 人のうち、8 割以上が同国で確認された。

エムポックスは、感染後に全身に発疹が広がることが特徴で、今回の病気とは似ていない。 エムポックスは同国東部を中心に感染が広がったが、今回の病気は同国南西部のクワンゴ州で発生している。 同国は西ヨーロッパとほぼ同じ面積の国土で、ほとんどが森林に覆われている。 交通インフラが整っていないため、地方で感染症が発生した場合、すぐに医薬品を届けられない。 今回の病気も、発生場所は首都キンシャサから約 700 キロ離れており、事態の把握や医療支援が困難になっているとみられる。 (アクラ・今泉奏、asahi = 12-6-24)


10 軒回って薬なく 「いらない」処方箋突き返す患者 薬不足の現場

マイコプラズマ肺炎の患者数が過去最多を記録し、感染症の不安が高まる中、医薬品不足が深刻になっている。 せき止め薬や抗生剤などのジェネリック(後発医薬品)を中心に、患者に出せない薬局も出ている。 製薬会社は取材に「全力で作っている」と言うが、薬不足の現場で何が起きているのか。

「患者さんに申し訳ないというか、むなしいというか。」 東京都北区にある「いとう王子神谷内科外科クリニック」の伊藤博道院長 (51) はため息をつく。 せき止め薬はマイコプラズマが流行した夏ごろから不足気味だったが、11 月に入ると在庫がなくなった。 大人の頑固なせきに使う「コデイン」や子ども用の粉薬「アスベリン」が特に枯渇している。 5 軒、10 軒と薬局を回っても薬がなく、「もう処方箋いらない」と突き返した患者もいたという。 該当の薬がなければ、成分が異なるものを処方することもあるが、伊藤院長は「診断で最適と考えた薬を処方したくてもできないのは、医師としてもどかしい」と話す。

処方箋あっても断る薬局 「深刻だ」

伊藤院長は、今年の薬のひっぱくは、マイコプラズマの流行と寒暖差の激しい気候に原因があるとみる。 「薬不足はここ数年慢性的に続いている。 国全体で足りないものを手当てしないと、生死に関わる影響を受ける人もいる」と言う。 薬局側も状況は似る。 「有明ファミリー薬局(東京都江東区)」の薬剤師の小林和正さん (38) によると、せき止めや抗生剤がほとんど入荷しない状況だ。 処方箋を持ってきても、在庫がないからと断った患者もいる。 最近、寒さが増して患者数も増えており、「患者が多い首都圏の薬局は特に深刻だと思う」と話す。

薬不足は今年だけではない。 日本医師会が昨年、全国 6,773 の医療機関を対象に行ったアンケートでは、院内処方で、医師の処方などが必要な医療用医薬品が「入手困難」と答えたのは 90.2%、薬局から「在庫不足」などの連絡を受けた機関が 74.0% だった。 「不足」のうち、「足りない」だった上位 10 品目のうち 8 品目が、せき止めやたんを切る薬だったという。 武見敬三厚生労働相(当時)が製薬会社に増産を要請する事態となった。

2 割の薬は「通常出荷」できず

厚生労働省によると、「通常出荷」の薬は 10 月時点でおよそ 8 割。 11% が全ての受注には対応できない「限定出荷」で、8% は出荷停止状況という。 担当者は「出荷状況はここ 2 カ月くらい改善の方向だ。 今後も感染症などで需要は上がるとみられるが、無理な買い込みをしないよう、医療機関などには冷静な対応をお願いしたい。」と話す。

製薬会社側にも事情がある。 ジェネリック大手「沢井製薬」の木村元彦社長は取材に、「フルで作っている。 ここ 5 - 6 年で生産量を 1.5 5倍にして、在庫の切り崩しもしている。」と話す。 一方で、工場を建てても製造をするための申請などで時間がかかり、「新工場で生産をするのに、製品ごとに検討期間を含めて 1 年くらいかかることもある。」 今後は、450 億円を超える投資をした新しい 2 工場で増産し、採用も数百人単位で増やす方針だ。 「全力で対応していきたい」と話す。 医薬品政策に詳しい神奈川県立保健福祉大学の坂巻弘之・シニアフェローは、4 年前のジェネリックメーカーの不祥事を薬不足の起点に挙げる。

尾を引く 4 年前の不祥事 解決策は?

2020 年、小林化工(福井県)が製造する水虫薬に睡眠導入剤が混入していたことが発覚。 不正が見つかった日医工(富山県)と共に業務停止命令を受けた。 各社の自主点検でも問題が見つかって供給量が減り、他の製薬会社に注文が殺到して生産が追いつかなくなったという。 坂巻さんは国の規制の影響も指摘する。 「せき止めなどの薬は公定価格で売ると利益が見込めず、製薬会社が作りたがらない現状もある。」 材料の混合の仕方まで厳格に決められており、国際的に「厳しすぎる」とも言われる規制見直しの検討も必要と訴える。

坂巻さんは「薬不足だからといって買いだめすればより拍車がかかる。 感染症予防を心がけ、医師や薬剤師に相談し、必要な量を必要なだけ処方してもらってほしい。」と話す。 (染田屋竜太、asahi = 12-2-24)


大腸がんの進行と、一見正常な小腸が関係する可能性 大阪大

進行した大腸がん患者では、小腸の遺伝子の働き方が健康な人と違うことを、大阪大と国立がん研究センターのグループが突き止め、米専門誌に発表した。 がんの進行に小腸が関連している可能性があり、新たな治療法開発のヒントになるとグループは期待している。 グループは、内視鏡検査を行う際に、大腸につながる小腸の末端、大腸の 5 カ所とがんとそのまわりの細胞を採取し、それぞれの遺伝子発現を調べた。 大腸がんがある患者は、正常な組織でも健康な人と遺伝子発現に違いがあり、健康な状態とはいえなくなっていることが示された。

進行した大腸がん患者では、がんから離れた小腸でも健康な人と遺伝子発現が違っていた。 早期の大腸がん患者の小腸では違いはみられなかった。 栄養を吸収する小腸は、免疫でも重要な役割を果たしている。 大腸がんが進行する過程で、小腸末端の免疫が役割を果たしていることが示された。 食べたものは胃や小腸などを通って消化・吸収され、大腸で水分を吸収され便になる。 大腸は小腸からつながる右側(盲腸、上行結腸、横行結腸)と左側(下行結腸、S状結腸、直腸)に分けられる。 見た目は同じで一続きの大腸だが、右側と左側では、遺伝子の働き方が違うこともわかった。

右側では異物の排除にかかわる遺伝子が働き、左側では水分を保持して吸収にかかわる遺伝子が働いていた。 右側と左側では左側にがんが多いことが知られている。 「今後、大腸がんがなぜ左に多いのかといった疑問に答える研究につなげたい」と大阪大の谷内田真一教授は話している。 論文は 米専門誌 に掲載した。 (瀬川茂子、asahi = 11-30-24)


「やっかいな病気」マイコプラズマ肺炎、異例の流行 かかった人は

「マイコプラズマ肺炎」が今年、過去になく大流行している。 長引くせきや熱が特徴で、人によっては肺炎が悪化し入院が必要になるケースもある。 インフルエンザも流行が始まるなど感染症の流行期を迎え、専門家は予防策の徹底を呼びかけている。 東京都内に住む 30 代の会社員男性はこの夏、自身を含む家族 3 人が相次いでマイコプラズマ肺炎になった。

7 月下旬、幼稚園児の長女が発症。 8 月中旬に妻、ほどなく自身もせきや39度ほどの熱が出た。抗菌薬を処方されて軽快したが、妻はお盆の時期と重なり、すぐに医療機関に受診できず、肺炎になってしまった。37〜38度の熱がだらだらと続き、乾いたせきも2〜3週間ほど続いた。せきで夜も寝づらいときもあったという。 男性は「1 カ月ほど家族のだれかに症状が出ている期間が続いて大変だった」とふり返る。

都内の中学 2 年の男子 (13) は 10 月下旬、39 度ほどの熱が出て医療機関を受診した。 少し前にクラスの友人がマイコプラズマ肺炎になっていたが、この男子の場合、せきの症状はほとんどなく、「マイコプラズマではない」との診断だった。 ただ、その後も 37 - 39 度の熱が上がったり下がったりの状態が数日続いた。 再度受診して検査を受けたところ、陽性だった。 抗菌薬を処方され、症状は回復に向かったが、倦怠感や頭痛が数日続いた。

マイコプラズマ肺炎は感染から症状がでるまでの潜伏期間が 2 - 3 週間と長い。 周りのクラスメートは 2 週間おきにだれかが発症しており、重症化して入院が必要になった友人もいる。 男子の母親は「なかなか終わりが見えず、やっかいな病気だと感じた」と話す。

4 週連続で過去最多更新

マイコプラズマ肺炎の患者数は 6 月ごろから急速に増えた。 国立感染症研究所によると、全国約 500 の定点医療機関から報告された患者数は、9 月 30 日 - 10 月 6 日の 1 週間には 1 カ所あたり 1.94 人となり、現在の集計方法になった 1999 年以降、1 週間の患者数としては過去最多を上回った。 そこから 4 週連続で最多を更新し、10 月 21 - 27 日の 1 週間では 2.49 人まで増えた。 直近の 1 週間(11 月 4 - 10 日)も 2.43 人と多い状況が続いている。

国内では 4、5 年ごとに流行し、2012 年に患者が多く報告されると、16 年にも大きく増えた。 だが、2020 年の新型コロナウイルス感染拡大以降、感染対策や人流が減ったこともあってか、感染者は少ない状態が続いていた。 感染研細菌第二部の見理剛部長は「新型コロナウイルスが落ち着いて感染防止対策が緩和されたことや、人の移動が多くなったことに加え、しばらく流行がなかったために集団免疫が下がっていたことなどで大きな流行になったのではないか」と指摘する。

人によって症状に差、重症化も

マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマという細菌が引き起こす感染症。 くしゃみやせきのしぶきなどを通して感染し、熱やせき、倦怠感や頭痛が出る。 せきは数週間続くケースがある。 症状が軽い場合は自然に回復することもあるが、一部の患者は肺炎が重症化して入院が必要になることがある。 まれに脳炎などを起こすこともある。 感染症に詳しい杏林大の皿谷健教授(呼吸器内科)によると、「人によって症状の重さが異なる。 家族内でも軽いかぜ症状で治まる人もいれば、肺炎が重症化してしまうケースもある」と話す。

抗菌薬による治療で、多くは症状が改善する。 潜伏期間が 2 - 3 週間と長いため、家族らに症状が出てから忘れたころに自分に症状が出ることがある。 皿谷さんは「強いせきや熱が長く続く場合などは、医療機関を受診して適切な治療を受けてほしい」としている。 感染の広がりを受け、日本呼吸器学会など 5 学会は 10 月下旬、提言を発表。 マスクの着用、換気などの感染予防対策のほか、せっけんによる手洗いやアルコールによる手指消毒を呼びかけた。 患者によっては一部の抗菌薬が効きにくいケースがあるため、症状が悪化する場合は再度、医療機関に相談するように注意喚起している。

インフルエンザも流行入り 感染対策を

冬に向けて、インフルエンザや新型コロナウイルスなどほかの感染症の増加も懸念される。 厚生労働省は今月 8 日、インフルエンザが全国で流行期に入ったと発表した。 厚労省によると、全国約 5 千カ所の定点医療機関から報告された直近 1 週間(11 月 11 日 - 17 日)の患者数は 1 カ所あたり、1.88 人と、4 週連続で増えている。 インフルエンザも、新型コロナの流行により、2020 - 21 年、21 - 22 年のシーズンはほとんど患者がいない状況が続いたが、22 - 23 年は流行が収束せず、今年 4 月まで流行が続いた。

皿谷さんは「新型コロナウイルスの流行後、様々な感染症の流行時期が崩れている。 複数のウイルスや細菌に同時に感染している患者もいるので注意が必要だ」と指摘する。 インフルエンザは初期の症状で関節痛や筋肉痛、のどの痛みが強いとしつつ、「インフルエンザもマイコプラズマも 38 度以上の高熱が長く続く。 検査をしてもらい、それぞれ適切な治療を受けることが大事」と皿谷さんは話す。 予防には、手洗いやマスクの着用、人混みを避けるといった感染対策に加え、インフルエンザのワクチン接種も大切としている。 (土肥修一、asahi = 11-25-24)


HPV ワクチン「キャッチアップ接種」延長へ 条件付きで 1 年無料

1997 - 2007 年度生まれの女性がヒトパピローマウイルス (HPV) の予防接種を無料で受けられる「キャッチアップ接種」について、厚生労働省は来年 3 月までの期限を条件つきで延長する方針を固めた。 期限内に 3 回接種する必要があったが、3 月までに 1 回でも接種すれば、更に 1 年費用を無料にする。 HPV ワクチンは、子宮頸がんの原因となる HPV の 8 - 9 割を予防できるとされる。

2013 年 4 月、小学 6 年 - 高校 1 年相当の女性を対象に無料で接種を受けられる定期接種になったが、接種後の体の痛みや運動障害などを訴える声が相次いだ。 このため、厚労省は同年 6 月から接種の積極的な勧奨を中止し、接種率が大幅に低下した。 安全性が確認できたとして 22 年 4 月に勧奨を再開するのにあわせ、厚労省は、この間に定期接種を見合わせた人の接種費用を無料にするキャッチアップ接種を始めた。

15 歳以上の場合、通常は 6 カ月かけて計 3 回の接種を終える必要がある。 厚労省は最短で 4 カ月での接種も可能と示しているが、その場合でも今年 11 月末までに 1 回目を接種しないと、措置が終わる 25 年 3 月までに接種が間に合わなくなる。 一方で、措置の認知度が低く、関係団体などから期間の延長を求める声も上がっていた。 また、措置の期限が迫る中で接種を受ける人が急増し、10 月にはメーカーがワクチンの出荷を制限する事態も起きた。 こうした事情もふまえ、厚労省は 3 月までに 1 回でも接種すれば、3 回目までの接種を 4 月以降も無料にする方針を固めた。

1 回目から遅くとも 1 年以内に 3 回目を接種することが求められているため、延長の期限も 1 年とする。 来年 3 月末で定期接種の期間が終わる今の高校 1 年相当の女性も、今回に限って、同様に期間を 1 年延長する。 (足立菜摘、asahi = 11-23-24)


副作用ないがん免疫治療につながるか 制御性 T 細胞を利用 阪大発表

副作用のないがん免疫治療につながる可能性がある新たな方法を、大阪大が発見した。 マウス実験では、安全にがん細胞の増殖を抑制できたという。 現在のがん免疫治療では、免疫のブレーキを外すことでがん細胞を攻撃する。 だが、過剰に活性化した免疫が自分の体も攻撃してしまう副作用が起きることがある。 阪大微生物病研究所の山本雅裕教授らは、免疫を担う細胞の一種で、ほかの免疫細胞の働きを抑える役割がある「制御性 T 細胞 (Treg)」のうち、「Th1-Treg」が、がんに集まることを発見した。 がんを攻撃しようとする免疫細胞の働きを抑えているとみられる。

そこで、Treg すべてがないマウスと、Th1-Treg だけがないマウスをつくって調べたところ、いずれのマウスでもがんを抑える効果がみられた。  すべてがないマウスは、がん以外に自身の体も攻撃してしまう自己免疫により体重が減った一方、Th1-Treg だけがないマウスには体重の変化が見られなかった。 しかし、神経に炎症が起きる一部の病気に対しては悪影響が考えられることから、山本さんらは、がん付近の Th1-Treg だけを取り除く方法を検討。 がんの中で Th1-Treg をつくりだす分子があることを見つけ、これの作用を打ち消す薬を投与することで、より安全にがんを退治できることを確認した。

山本さんは「今後 5、6 年ほどかかると考えているが、人の患者での安全性試験や、治験まで進めていきたい」と話す。 研究成果は 22 日、米科学誌「サイエンス」などに掲載された。 (鈴木智之、asahi = 11-22-24)

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自己免疫にかかわる分子抑えると免疫細胞のがん攻撃効果強まる 阪大

大阪大の審良(あきら)静男特任教授らのグループは、免疫細胞の一種で、リグネース 1 という遺伝子の働きを抑えると、がんを攻撃する作用が強まることを見つけた。 リグネース 1 はグループが 2009 年に免疫にかかわる遺伝子として発見。 炎症を起こす遺伝子の RNA を分解し、炎症を抑える役割をしていると突き止めた。 さらに、免疫の司令塔である T 細胞でリグネース 1 の働きをなくすと、自己免疫病になることもマウス実験で見つけていた。

研究を続け、今回はがん細胞を攻撃するナチュラルキラー (NK) 細胞に注目。 NK 細胞は、インターフェロンガンマというたんぱく質を出すことでがん細胞を攻撃するが、その仕組みはよくわかっていなかった。 そこで NK 細胞でリグネース 1 の働きをなくすと、インターフェロンガンマの働きが上がるとわかった。 リグネース 1 が間接的にインターフェロンガンマの働きを上げる分子を抑えていることを突き止めた。 とくにがんの中で、働きが強まる複雑な分子のネットワークもわかった。

がんの治療で免疫チェックポイント阻害剤が効果を上げるには、がんの中にがんを攻撃する免疫細胞が存在する必要がある。 NK細胞とリグネース 1 の働きがわかったことで、効果的な治療法開発につながる可能性があるという。 論文は、専門誌 に掲載された。 (瀬川茂子、asahi = 10-18-24)


高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大 5 万 400 円、来年夏めど

医療費の患者負担に月ごとの限度額を設けた「高額療養費制度」について、厚生労働省は、負担の上限を引き上げる検討に入った。 2025 年夏に上限を引き上げたうえ、26 年夏に所得に応じた区分を細分化する 2 段階の実施案が有力だ。 低所得層への配慮も検討する。 近く本格的な議論を始める。 高額療養費制度は、大きな手術などで支払いが膨らんだ際、所得などに応じて一定額に抑えられる仕組み。 公的医療保険の「セーフティーネット」機能とされている。

引き上げ対象は、負担額の計算式に使う基礎的な金額。 見直しにより支払い額が増える。 医療費が膨らむ中、世代を問わず支払い能力に応じた「応能負担」を強める。 公的医療保険制度を維持し、現役世代の保険料負担を軽減するねらいだ。 厚労省は、現行制度への見直しを行った 15 年当時と比べ、世帯主の収入が 7% 程度増えていることなどに着目し、案を検討している。

70 歳未満は、負担限度額を五つの所得区分で定めている。 所得が高い上から二つの層は、20% 引き上げる案を検討。最上位の区分(年収約1,160 万円以上)で引き上げ幅は 5 万 400 円。 2 番目の区分(同約 770 万 - 約 1,160 万円)では 3 万 3,300円を見込む。 一方、真ん中の層(同約 370 万 - 約 770 万円)は、5,400 円引き上げたい考えだ。 所得の低い二つの層は、上げ幅を緩和する。 平均以下の所得階層(同約 370 万円以下)は 4% 増の 2,400 円、最も所得区分の低い住民税非課税世帯は年金の上がり幅にあわせて 900 円増とすることを検討している。

来年夏までに上限額の見直しを実施し、その上で所得の区分をさらに細分化する方向で検討している。 高額療養費制度では、70 歳以上の人について、上限額の一部が 70 歳未満と比べて低く設定されている。 こうした部分も含め、すべてを見直す方針だ。 政府が昨年末に閣議決定した「こども未来戦略」では、子ども政策の財源として、医療や介護などの社会保障費を 1.1 兆円程度削減すると明記。 28 年度までに検討する歳出削減メニューの一つに高額療養費制度の見直しを盛り込んでいた。

厚労省は年内に議論をまとめる道筋を描く。 だが、政権基盤は弱体化し、野党との政策協議も欠かせない中、議論が暗礁に乗り上げるおそれもある。(asahi = 11-14-24)


アルツハイマー薬「ドナネマブ」薬価は年換算 308 万円 保険適用へ

アルツハイマー病の治療薬「ドナネマブ(販売名・ケサンラ)」について、厚生労働省は 13 日、中央社会保険医療協議会(中医協)を開いて公的医療保険の適用対象とすることを決めた。 価格は年換算で約 308 万円。 20 日から保険適用される。 ドナネマブは日本イーライリリーが承認申請したアルツハイマー病治療薬で、脳内にたまった原因物質「アミロイドβ(Aβ)」の塊を除去することで、症状の進行を緩やかにすることを狙う。 投与対象は、軽度認知障害や軽度認知症で、使用前の検査で脳内に Aβがたまっていると確認された人だ。

厚労省が同日定めたガイドラインでは、投与期間は原則 1 年半。 最初の 3 カ月は半分の量で投与を始める。 半年ごとに効果を確認し、1 年で Aβの塊がなくなれば使用を終了。 なくなっていなければ、投与を継続する。 臨床試験(治験)では脳の浮腫や微小出血といった副作用が報告されているため、定期的な MRI 検査で副作用の有無も確認する。

アルツハイマー病の治療薬の保険適用は、「レカネマブ(販売名・レケンビ)」に続いて 2 例目。 基本的な作用の仕組みは同様だが、レカネマブは 2 週間に 1 回投与する必要があるのに対し、ドナネマブは 1 カ月に 1 回。 レカネマブの薬価は年換算約 298 万円で、ドナネマブも同程度に設定された。 レカネマブやドナネマブを使った治療ができる医療機関は現時点では限られている。 一方、認知症の患者数は今後増え続けるとの推計がある。 (吉備彩日、asahi = 11-13-15)


国内初 鼻にスプレーするインフルワクチン 接種は 1 回、注意点も

日本で初となる鼻に噴霧するスプレータイプのインフルエンザワクチンの接種が、10 月から始まった。 注射の痛みが苦手な子どもには朗報だが、ウイルスを弱めた生ワクチンを使うため、接種を注意すべき場合もある。 専門家は「使用を希望する場合には、医師に相談して欲しい」と話す。 新しいワクチンは、第一三共の「フルミスト」。 2 - 18 歳が対象で、左右の鼻腔(びくう)の中に 1 回ずつスプレーで噴霧する。 米国では 2003 年から接種が始まり、これまでに 36 の国と地域で承認されている。 国内では昨年 3 月に薬事承認された。

従来のインフルエンザワクチンは、感染力を失わせたウイルスからつくる「不活化ワクチン」だったが、フルミストは症状が出ないよう毒性を弱めたウイルスからつくる「生ワクチン」。 鼻の粘膜に噴霧することで、感染した時と同じ仕組みで免疫が得られる。 国内で実施した臨床試験では、発症を 28.8% 抑える効果が確認された。 副反応として、鼻水・鼻づまり (59.2%)、せき (27.8%)、のどの痛み (17.9%)、頭痛 (11.2%) などが報告された。

メーカーは、従来の不活化ワクチンと比べて、効果に明確な差はないとしている。 米国では、特定のウイルス株をワクチンに加えた際、不活化ワクチンに比べ効果が下がったことから、13 年から接種を一時中止する事態も起きた。 原因は分かっておらず、18 年には接種を再開している。 フルミストは注射が苦手な子などに有効な選択肢になる。 接種回数は不活化ワクチンの場合は 13 歳未満は 2 回注射が必要だが、経鼻ワクチンは年齢にかかわらず 1 回となる。

ただ、経鼻ワクチンは、妊婦や免疫不全の人には使えない。 生ワクチンのため、接種するとインフルエンザにかかってしまうおそれがある。 また、ぜんそくの子も注意が必要だ。 日本小児科医会理事の峯真人医師は「一定期間は鼻の中に感染力の弱いウイルスがいる状態になるため、免疫の力が落ちているきょうだいがいる場合なども注意が必要になる。 医師に相談して欲しい。」と話す。

フルミストを扱っているかどうかは、医療機関へ問い合わせる必要がある。 小児のインフルエンザワクチンは任意接種のため、費用は 7 千円 - 1 万円程度で、原則自己負担。 費用を助成している自治体もある。 (足立菜摘、後藤一也、asahi = 10-25-24)


ブリストル、統合失調症の新薬を FDA 承認 - 米国で 70 年ぶり

米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブの統合失調症薬が米国で承認された。 統合失調症の新薬が米国で承認されるのは 70 年ぶり。 幻覚や妄想を伴うことが多い数百万人の患者に新たな治療法がもたらされることになる。 米食品医薬品局 (FDA) が 26 日、統合失調症への適応で承認した。 「Cobenfy」の商品名で販売される。

今回の承認はブリストルにとって勝利だ。 同社は昨年、同医薬品の取り込みに向けカルナ・セラピューティクスを 140 億ドル(現在のレートで約 2 兆円)で買収することで合意するという大きな賭けに出ていた。 商業的に成功すればこの製品は、厳しい競争や新たな価格設定圧力に直面するブリストルが将来を巡る難しい課題に対応する一助になる可能性がある。 同社の二大主力薬である抗凝固薬「エリキュース」とがん免疫治療薬「オプジーボ」は数年以内に特許切れとなる。(Gerry Smith、Bloomberg = 9-27-24)


経口中絶薬、外来でも使用可能に 無床診療所への拡大は再審議

人工妊娠中絶のための飲み薬について、厚生労働省の薬事審議会は 25 日、一定の条件を満たせば外来での使用を可能とする方針を了承した 入院ベッドのない無床診療所での使用については、「準備が整っていない」とし、専門家部会で再度審議する。 この薬は、妊娠 9 週 0 日までの妊婦が対象の経口薬「メフィーゴパック」。 使用中に大量出血のおそれもあるため、厚労省は昨年 4 月の承認時に、適切な使用体制が確立されるまで入院可能な医療機関で使用し、2 剤目の使用後は院内待機を求める通知を出していた。

こども家庭庁の研究班が昨年 5 - 10 月の使用実績 435 件を調査し、「重篤な合併症はなかった」と結論づけたことをふまえ、通知の改正に向けた議論が進んでいた。 今後、2 剤目の使用後は、医療機関から 16 キロ以内などの条件を満たせば帰宅できるようになる。 一方、使用できるのは引き続き入院可能な医療機関に限られる。  関係者によると、調査対象期間外で、「重篤な有害事象」が複数確認されたため、日本産婦人科医会から、無床診療所への使用拡大について慎重な対応を求める声が上がっていた。 厚労省は「(薬の)安全性に疑義が呈されたわけではない」としている。 (藤谷和広、後藤一也、asahi = 9-25-24)

前 報 (10-12-23)


目の難病の治療薬候補、繊毛に注目して発見 大阪大

進行性の目の難病に対する治療薬候補を動物実験で見つけたと、大阪大蛋白質研究所のグループが発表した。 細胞の「繊毛」と呼ばれる突起構造の仕組みを探る中で見つかり、ほかの病気に応用できる可能性もあるという。 ほとんどの細胞には、繊毛があり、繊毛の働きの異常が肥満、不妊や腎臓の難病などさまざまな病気にかかわることがわかってきた。 進行性の目の難病「網膜色素変性」の原因になる遺伝子変異についても、8 割は繊毛にかかわるという。 繊毛の中では根元から先端、先端から根元にたんぱく質が輸送される。 グループは輸送方向の切り替えを制御するたんぱく質「ICK」の研究を続けてきた。

今回、ICK とともに MAK と呼ばれるたんぱく質も繊毛で働くことを見つけた。 MAKが働かないマウスは網膜色素変性になるが、ICK の働きを活発にすれば、MAK がなくても繊毛の働きを保てるのではないかと考えた。 ICK の働きを活性化する薬は、すでに抗がん剤として使用されている。 そこで、マウスにこの薬を使ってみたところ、症状の進行が抑えられることがわかった。 「ICK を活性化させる治療法は、繊毛の働きの異常で起こるさまざまな難病に応用できる可能性がある」と古川貴久教授は話す。 論文は 専門誌 に発表した。 (瀬川茂子、asahi = 9-21-24)


哺乳類がおしりで呼吸できるのを発見 今年も日本にイグ・ノーベル賞

人々を笑わせ、考えさせた研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」の受賞者が 12 日(日本時間 13 日)に発表された。 哺乳類が肛門(こうもん)から呼吸できることを発見した東京医科歯科大・大阪大の武部貴則教授(再生医学)らのチームが、生理学賞に輝いた。 日本人の受賞は 18 年連続。 イグ・ノーベル賞はノーベル賞をパロディーにした賞で米科学雑誌が主催する。

発見のヒントになったのは、淡水魚のドジョウだ。 当時、武部さんらは呼吸不全の治療法を開発するため、さまざまな生き物の呼吸方法を調べていた。 ドジョウは、水中では一般的な魚類と同じようにエラ呼吸をしている。 だが、水面上で口から空気を吸い込んで腸を介して酸素を取り込み、残った気泡を肛門から出す「腸呼吸」もできる。 「もしかしたら哺乳類も同じように腸から呼吸ができるのではないか。」 ドジョウの特性を知ったチームは、そう考えた。 「手術などをせずに腸を呼吸に使うには、おしりは自然な経路だった」と名古屋大の芳川豊史教授(呼吸器外科学)は言う。

実験で、低酸素の環境にあるマウスに肛門から酸素ガスを注入。すると、呼吸不全の改善などがみられ、生存率も大きく上昇した。 哺乳類でも腸を介して酸素を取り込めることがわかったのだ。 さらに人への応用に向けて、酸素ガスや多量の酸素が溶け込んだ液体を肛門から直腸に注入する方法を開発。 「腸換気法(EVA 法)」と名付けた。 低酸素環境のマウスやブタに試すと、血中の酸素濃度が高くなるなどの効果が確認できた。

研究成果が世に出されたのは、世界で新型コロナウイルスの感染が猛威を振るっていた2021 年。 重症の呼吸不全の患者らが増え、人工呼吸器や ECMO (体外式膜型人工肺)による治療の需要が高まっていた時期だ。 腸呼吸はこうした呼吸不全の新たな治療法として、今後の応用への期待も膨らんでいる。 受賞を受けて武部さんは、「これから研究を推進していく大きな後押しになる。 様々な方が興味を持ち、研究領域として広がっていくことを願う身としては『笑わせ、考えさせた』というイグ・ノーベルの考えは、ぴったりかもしれない。」 (矢田文、asahi = 9-13-24)