心不全の悪化兆候、スマホアプリ使い早期発見めざす 京都府医大など 心臓の働きが低下し、息切れやむくみなどの症状が出る「心不全」。 京都府立医科大学(京都市上京区)と健康機器メーカーのオムロンヘルスケア(京都府向日市)が、ICT (情報通信技術)を活用して在宅療養中の患者の血圧や体重の変化を遠隔監視し、悪化の兆候を早期発見する取り組みの実用化をめざしている。 府立医大などによると、心不全は一度発症すると完治しないとされ、悪化と改善を繰り返しながら徐々に進行する慢性疾患だ。 全国の患者数は年々増えて約 120 万人とされる。 高齢化に伴って急増し、2030 年には 130 万人に達するとの推計もあるという。 感染症の大流行になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれ、対策が急務だ。 心不全が悪化すると、本来なら副交感神経が優位となる夜間に交感神経が活発化し、朝の血圧に比べて夜の血圧が高くなる傾向がみられるほか、うっ血によるむくみが生じることで急激な体重増加がみられるという。 現在、患者は「心不全手帳」に朝晩の血圧や体重を記録することが推奨されているが、測定結果は「自己申告」であるうえ、おおむね 2 - 3 カ月後の通院時に医師にデータをチェックしてもらう運用では早期の発見・介入が難しいという。 こうした課題を解決しようと 22 年 4 月に府立医大で始まったのが、「心不全 ICT モニタリングプロジェクト」だ。 患者は、電極に両手の指を置くだけで心電図を記録できる「心電図つき血圧計」で朝と晩に血圧を測定し、体重も 1 日 1 回、決まった時間に測る。 データはスマホアプリに自動的に記録され、主治医の手元に届く。 心電図の波形の異常のほか、血圧の変化や体重の急増などがあればデータ閲覧システムに警告表示が出て、早期受診・入院を促す仕組みだ。 第 1 期の実証試験は心不全患者 30 人(平均年齢 72.7 歳)を対象に 3 カ月間行った。 患者のうち半数に軽度認知機能障害が見られたが、そのうち 85% が測定を継続できた。 また、急激な体重増加が見られたことで、早期入院につなげることができた 70 代の男性患者もいたという。 今年 7 月からは、実証試験の実施施設を洛和会音羽病院(京都市山科区)にも広げ、実用化に向けた課題を詰めている。 この取り組みは、経済産業省の今年度のヘルスケア産業基盤高度化推進事業に採択された。 来年度以降の事業化をめざす。 府内では、心不全患者の悪化を様々な職種が連携して防ごうと、19 年に「京都心不全ネットワーク協議会」が発足し、官民合わせ 24 病院が参加している。 協議会の代表で、今回のプロジェクトを率いる的場聖明・府立医大教授(循環器腎臓内科)は「心不全パンデミックがいつ起きてもおかしくない今、入院・再入院による医療費増大を抑制するイノベーションが必要だ。 ICT 加算などによる健康保険の適用もめざしたい」と話す。 (日比野容子、asahi = 9-10-24) 膵がん悪性化の仕組み オルガノイドで一端を解明 治療法開発に期待 膵臓(すいぞう)がんが悪性化する仕組みの一つを慶応大の佐藤俊朗教授らのグループが解明した。 酸素が少ない環境で細胞の特徴が大きく変わることを突き止め、変化を抑える薬も見つけた。 新たな治療法開発につながる可能性があるとしている。 がんの多くは血流が豊富な場所で大きくなるが、膵がんは、血流が乏しく栄養や酸素供給が少ない環境でも増えていくことが知られていた。 そうした環境は膵がんの悪性化にどうかかわるのか。 グループは、患者のがん組織を体外で培養して、ミニ臓器とも呼ばれる「オルガノイド」を作製して探ることにした。 低酸素の環境で培養すると、悪性度の低いがんはあまり増えないが、悪性度が高いがんは、発育できた。 正常組織から作製した膵がんのオルガノイドを低酸素で 2 カ月培養すると、悪性度が高いタイプに変化することもわかった。 悪性度が高いがんでは、「アイデンティティー異常」が起こっていることがわかった。 細胞のアイデンティティーとは、腸にある細胞は腸の細胞として働くというように、所属する組織で厳密に決まるものだ。 がんになっても元のアイデンティティーはある程度保たれる。 しかし、悪性化した膵がんでは、元の特徴が変化していた。 この変化を起こす引き金は、特定の酵素の働きが落ちたことだと突き止めた。 アイデンティティー異常により、ますます低酸素状態に適応し、それが悪性度の高い細胞の数を増やすことにつながるとわかった。 この酵素と逆の働きをする分子を抑える薬剤を使うと、膵がん細胞の増殖を抑えられることもわかった。 アイデンティティー異常は、一部の肺がんや前立腺がんなどでも報告があり、治療が効かなくなる仕組みにもかかわるという。 グループの藤井正幸准教授は「治療がむずかしい膵がんの新たな薬開発につながるといい」と話している。 英専門誌 に発表した。 (瀬川茂子、asahi = 9-8-24) 機能性表示食品、どう変わる? 二つの義務化で安全性は 小林製薬(大阪市)のサプリメントを巡る問題を受け、政府は機能性表示食品制度を改正し、9 月 1 日から一部が実施されます。 消費者庁や厚生労働省は、商品の安全性を高めることを主眼に制度を見直したといいます。どんな手を打つのか、まとめました。 そもそも、機能性表示食品ってどんな食品?
見直される点は?
もう 1 点は?
商品の容器などへの表示内容も変わるのかな?
見直しはいつから?
これで安全性は確保されると考えていいのかな?
小林製薬をめぐる一連の経緯 紅麹菌を原材料の一つに使った小林製薬の機能性表示食品に関して、同社に健康被害情報が寄せられたのは今年 1 月 15 日。 その後も 3 月 15 日までに主に腎障害で入院、通院したという情報が医師や消費者から計 14 件あったが、同社が消費者庁に詳しく報告したのは 3 月 22 日になってからだった。 厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所は、被害報告があった商品に使われていた紅麹原料を調べ、原因物質の特定を進めている。 これまでに工場内の青カビが混入し、動物実験で腎障害を引き起こすことが確認されているプベルル酸のほか、2 種類の化合物が検出されており、詳しく調べている。 大阪市も、小林製薬に遺族から相談があった死亡事例 114 例(8 月 22 日時点)について、関係自治体などと連携しながら、原因究明のための調査をしている。 小林製薬が把握している入院治療が必要になった患者は 470 人(腎疾患以外の患者を含む)を超えている。 (井上道夫、asahi = 8-30-24) 東京都港区の飲食店で赤痢菌 「報告対象」の検出は 2000 年以降で初めて 東京都は 16 日、港区内の飲食店を利用した 20 - 30 代の男女 5 人が下痢や発熱などの症状を訴え、うち 2 人の便から赤痢菌を検出したと発表した。 赤痢菌の人から人への感染例は都内でもあるが、食中毒は衛生環境が悪い国での発生が多く、都内での発生は国への報告対象となった 2000 年以降で初めて。 都保健医療局によると、5 人は東南アジア料理「トムボーイ赤坂店」で 7 月 31 日 - 8 月 1 日に食事をした。 それぞれ別に訪れた 2 人の便から赤痢菌を検出した。港区みなと保健所は店で調理した食品が原因と断定し、店を 16 日から 7 日間の営業停止処分とした。 赤痢菌が食品に付いた原因は調査中。 全員が回復に向かっている。 (東京新聞 = 8-16-24) 重症化しやすいエムポックス、スウェーデンで確認 アフリカ以外で初 スウェーデンの公衆衛生当局は 15 日、重症化しやすいタイプのエムポックス(サル痘)の患者が同国で見つかったと発表した。 アフリカ大陸以外の国で確認されたのは初めて。 日本の外務省は同日、感染が広がるアフリカ中部の 7 カ国に感染症危険情報(レベル 1)を出し、渡航者や滞在者に注意を呼びかけた。 アフリカ中部では、2022 年に欧米などにも感染が広がったエムポックスより症状が重くなりやすいタイプのウイルスが急速に広がっている。 スウェーデンで見つかった患者はこの地域に滞在していたといい、公衆衛生当局の発表文は「非常に深刻に受け止めている」とする疫学研究者のコメントを引用した。 ロイター通信によると、パキスタンでも 1 人のエムポックス患者が見つかった。 中東のペルシャ湾岸にある国から到着した後にウイルスが検出されたという。 重症化しやすいタイプのものかはわかっていない。 外務省、アフリカ 7 カ国に危険情報「特別な注意が必要」 アフリカ中部のコンゴ民主共和国では今年だけで 1 万 5 千人以上の患者が出て、537 人が死亡。 周辺国にも広がっていて、世界保健機関 (WHO) が 14 日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。 日本の外務省が感染症危険情報を出したのはコンゴ民主共和国のほかに、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国。 4 段階あるうちで最も低い「レベル 1」で、「渡航、滞在に当たって危険を避けていただくため特別な注意が必要」としている。 エムポックスは発熱や頭痛の後に発疹ができる病気で、死亡することもある。 患者の体液や皮膚に触ることなどで感染する。 (小宮山亮磨、asahi = 8-16-24) 前 報 (12-13-23) 感染止まらぬ梅毒、今年も最多ペース 東京都が啓発強化 「50 年に 1 度」ともいわれる規模で流行している性感染症の梅毒が、東京都内でも広がっている。 1999 年から調査を続ける患者報告数は、2023 年は 3,701 件に上り、3 年連続で過去最多を更新した。 今年も昨年とほぼ同じペースといい、都は SNS や繁華街などでの啓発に力を入れている。 性別に見ると、23 年は男性 2,409 人、女性 1,292 人。 20 - 50 代と幅広い年代で感染が多い男性に対し、女性は特に 20 代の感染が多かった。 妊娠中の感染で胎児が感染してしまう「先天梅毒」も昨年は過去最多の 9 件だった。 厚生労働省によると、梅毒は性的接触を介して誰でも感染する可能性がある。 無症状の場合もあるため、知らないうちに感染を広げることもある。 また、一度治っても何度でも感染する。 匿名・無料で受けられる検査も 都は、予防や早期発見のために正しい知識を持ってもらおうと、夏休みに若者が集まるイベントや繁華街で啓発動画を流したり、SNS で配信したりしている。 29 日には医療従事者向けのオンライン研修も行う。 都内の保健所や都の検査室では、匿名・無料で検査も受けられる。詳細は、都保健医療局のホームページ で。 (太田原奈都乃、asahi = 8-14-24) ◇ ◇ ◇ 梅毒感染、10 代妊婦の「200 人に 1 人」 胎児感染は近年で最多に 2022 年に 10 代の妊婦の約 200 人に 1 人が、性感染症の梅毒に感染していたことが、日本産婦人科医会の調査で分かった。 他の年代の妊婦でも感染率が上がっていた。 梅毒の感染者はこれまで男性が大半を占めているが、若い女性にも感染が広がっており、胎児に感染する「先天性梅毒」も急増している。 専門家は危機感を強めている。 梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌による感染症。 性交渉だけでなく、キスで感染することもある。 流行の背景には、性感染症の知識不足や SNS で見知らぬ個人がつながりやすくなったことなどがあるとみられている。 日本産婦人科医会が昨年、お産を扱う全国の医療機関に 22 年の状況を尋ねた調査(1,346 施設回答)によると、10 代の妊婦 3,504 人のうち 18 人が梅毒に感染していた。 感染率は 0.51% で、6 年前(15 年 10 月からの半年間)の前回調査の 0.19% から約 3 倍に増えていた。 20 代では 13 万 9,432 人のうち 238 人で 0.17% (前回 0.04%)。 30 代では 24 万 5,730 人のうち 108 人で 0.04% (同 0.01%)。 感染率はどちらも前回調査の約 4 倍だった。 40 代以上は 2 万 8,014 人のうち 8 人で感染率は 0.03% (同 0.02%)だった。 国立感染症研究所によると、23 年の感染者数(速報値)は、10 年前の約 12 倍の約 1 万 5 千人。 先天性梅毒は 37 人で、いずれも現在の集計方法になった 1999 年以降で過去最多だった。 感染経路で見ると、10 年ほど前は、男性間が全体の約 3 分の 1 を占め、最も多かった。 だが、近年は男女ともに異性間の感染が急増している。 2013 年から 8 年間の増加率を見ると、男性間の感染は約 2 倍だったのに対し、異性間で感染した男性は約 10 倍、女性は約 16 倍になっている。 日本産婦人科医会常務理事の鈴木俊治・日本医科大教授(産婦人科学)は「10 代の感染率の高さは、他の性感染症にも共通する。 男女ともに、性感染症の知識や認識が不足している。 性交渉をするという前提での若年からの性教育が十分ではないことが、感染が拡大する要因の一つだ」と指摘する。 梅毒は「偽装の達人」と呼ばれるほど症状が多彩で、診断が難しい。 感染後に口や陰部にしこりや潰瘍ができ、症状は一度消える。 その後、手足に平らなイボが出たり全身に赤い発疹が出たりするが、この症状もしばらくすると消える。 ただ、ペニシリンなどの抗菌薬の内服や注射で治療しなければ、病原菌が体内に残り、何年もたって目や神経に重い症状が出るおそれもある。 鈴木教授は「初期の症状はしばらくすると消えるが、それは治ったことを意味しない。 心当たりがあれば、皮膚科や婦人科、泌尿器科など、しかるべき医療機関を受診してほしい」と話す。 (野口憲太、asahi = 6-16-24)
強制不妊手術、原告に首相が謝罪 「除斥期間」の主張撤回も表明 旧優生保護法 (1948 - 96 年、旧法)下で障害がある人たちに不妊手術を強制したのは違憲と断じた最高裁判決を受け、岸田文雄首相は 17 日、原告らと首相官邸で面会し、「政府を代表して謝罪を申し上げます」と述べた。 係争中の訴訟について、不法行為から 20 年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を求めてきた国の主張を取り下げる考えも表明した。 首相が除斥期間の主張撤回を表明したことで、多くの訴訟は和解に進むとみられる。 政府による救済がようやく実現へ動き始めた。 首相官邸にはこの日、原告や家族、弁護団ら約 130 人が訪れた。 首相は冒頭のあいさつで「旧優生保護法に基づく施策によって(旧法廃止までの)約 48 年間、少なくとも約 2 万 5 千人もの方々が不妊手術という重大な被害を受けるに至ったことは痛恨の極みだ」と述べ、「同法を執行してきた立場として、執行のあり方も含め、政府の責任は極めて重大だ。 心から申し訳なく思っている。」と頭を下げた。 その上で、新たな方針として、▽ 除斥期間の主張の撤回、▽ 優生手術の実施が認められる訴訟の速やかな和解、▽ 訴訟外の人を含めた幅広い補償、▽ 配偶者の苦痛も視野に補償を検討、▽ 十分かつ適正な賠償額を設定、▽ 優生思想や障害者への偏見、差別の根絶に向けた全省庁による新体制の構築 - - などを表明。 これまでの原告らの要望に応えた。 超党派の議員連盟と調整し、早ければ秋の臨時国会で関連する議員立法の成立を図る方向だ。 「希望は見えたが、人生は返ってこない」 首相との面会で、16 歳の時に説明なく不妊手術を受けた飯塚淳子さん(仮名、70 代)は、「希望の光が見えてきたが、私の人生は返ってこない。 心の底から謝罪し、心ある解決をしてほしい。」と訴えた。 国は一連の訴訟で、除斥期間の適用を求め続けてきた。 最高裁大法廷は今月 3 日、旧法を「立法時点で違憲だった」と認定。 時間の経過で国が賠償責任を免れるのは「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない」と判断。 除斥期間を適用せず、損害賠償を支払うよう国に命じた。 (asahi = 7-17-24) 大腸がん治療薬の効果予測へ 「DNA メチル化」検出キット、初承認 進行・再発性の大腸がん患者のより良い治療薬を選ぶために、遺伝子の働きを抑える「DNA メチル化」の状況を調べる世界初の検出キットが、国内で販売される。 理研ジェネシスが東北大学と共同開発し、厚生労働省が 6 月下旬、製造販売を承認した。 同社は公的医療保険の適用をめざし、保険収載に合わせて販売を始める予定だ。 大腸がんの患者は増加傾向にあり、国立がん研究センターによると年間に診断される人は 15 万 6 人。 亡くなる人は年 5 万 2 千人で、女性では部位別で最も死亡者数が多い。 大腸がんの薬物療法では、がんの原因遺伝子ごとに分子標的薬が使えるようになってきた。 だが、分子標的薬はすべての患者に効果があるわけではない。 例えば、「抗 EGFR 抗体薬」は、がん遺伝子の一つ「RAS 遺伝子」に変異がある人は効きにくい。 ただ、この変異がない人でも一部にしか効果が見られない。 薬の効果を精度の高い方法で予測ができれば、患者の負担が減り、より効果が期待できる治療を選べる。 分子標的薬が効きそうな患者を早く見極める目安として、東北大の研究チームは DNA のメチル化に着目した。 遺伝情報を含む DNA にメチル化という化学的な変化が起きると、メチル化した部位の近くにある遺伝子の働きが抑えられる。 大腸がんの一部の患者では、DNA の複数の領域でメチル化していることが知られていた。 東北大病院腫瘍内科の石岡千加史(ちかし)客員教授らのチームは、大腸がん患者から採ったがん組織の検体を使って、メチル化が起きやすい 16 領域を特定した。 さらに、患者 122 人の検体でこの 16 領域を調べ、メチル化されている割合が低いグループと高いグループに分けて、抗 EGFR 抗体薬の効き具合を調べた。 すると、低メチル化のグループでは、77 人中 25 人でがんの縮小が見られた。 一方、高メチル化のグループでは 24 人中 1 人しか縮小しなかった。 メチル化されている割合を調べることで、この薬の治療効果が予測できることがわかった。 製造販売する理研ジェネシスによると、大腸がんの治療薬を選択するためにメチル化を検出するキットは世界で初という。 東北大病院腫瘍内科の大内康太助教は「これまでの検査ではメチル化までは検出できなかった。 意義は非常に大きいのではないか」と話す。 診療ガイドラインにも盛り込まれるよう、研究を続けていくという。 (後藤一也、asahi = 7-8-24) 大豆イソフラボンの取りすぎ注意 サプリでは 1 日 30 ミリグラムまで 小林製薬の紅麹(べにこうじ)サプリメントによる健康被害問題で健康食品が健康に与えるリスクが注目されています。 健康食品の多くは、特定の成分の量を増やして効果をうたっているので、知らず知らずに過剰摂取しやすい面があります。 普通の食品ではありえないような、毎日欠かさず長期間続けるとり方も一因です。 すでに注意が呼びかけられている食品成分もあります。 大豆イソフラボンです。 食品安全委員会は、普通の食べ方なら問題ないけれど、健康食品として上乗せして摂取するなら注意が必要だとしています。 大豆イソフラボンは、大豆に含まれる微量な成分です。 豆腐、納豆、みそといった大豆食品にも含まれています。 化学構造が女性ホルモンのエストロゲンと似ていて、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や乳がん、前立腺がんなどの予防効果が期待される一方、臓器によってはがんの発症や再発などを高めるリスクの可能性も報告されています。 有効にも有害にも働く可能性があるのです。 そこで食品安全委員会は健康影響評価を行い、2006 年、大豆イソフラボンの安全な 1 日あたりの摂取目安量の上限値を、15 歳以上の男女とも 70 - 75 ミリグラム(体内に吸収される大豆イソフラボンアグリコンに換算した値)としました。 日本人の日常的な摂取量や、閉経後の女性を対象にした大豆イソフラボン錠剤の長期摂取試験の結果に基づき、算定したものです。 大豆イソフラボンを特定保健用食品(トクホ)などから摂取する場合は、70 - 75 ミリグラムのうち 30 ミリグラムまでなら問題ないと評価しました。 ただし、妊婦や 15 歳未満の子どもは、十分な科学的データがなく、普段の食生活に上乗せして大豆イソフラボンをとることは勧められないとしています。 これを受け厚生労働省はトクホのほか、錠剤やカプセル状などの健康食品は 1 日摂取目安量が 30 ミリグラムを超えない設定にするよう指針を定めています。 豆腐や納豆などに含まれる大豆イソフラボンの量を見ると、大豆食品を食べ過ぎるだけで上限値を超えてしまう日もありそうに思えます。 これに対し、食品安全委員会は「上限値は毎日欠かさず長期間摂取する場合の値。 1 日超えたから問題になるわけではない。」と説明します。 大豆イソフラボンの過剰摂取を恐れて一般の大豆食品を控える必要はなさそうです。 (大村美香、asahi = 7-6-24) 孫正義氏「悲しみ少しでも減らす」 がん治療法の選択肢、AI で提案 ソフトバンクグループ (SBG) の孫正義会長兼社長は 27 日、個人の遺伝子情報や医療データを収集したり、それを人工知能 (AI) で解析したりしてがんの治療法を提案するサービスを始める、と発表した。 米国ですでにサービスを手がけている企業と合弁会社を 8 月に設立する。 合弁相手は、米国シカゴに本社を置く「テンパス AI」。 孫氏によると、同社のシステムは米国の約 2 千の病院で使われ、770 万件のがん患者の記録を蓄積している。 合弁会社「SB テンパス」の出資金は 300 億円で、両社で半分ずつ出す。 テンパス AI の米国での解析データのほか、国内の医療機関と連携して患者データを収集する。 患者に治療法の選択肢を示すサービスを年内にも始める予定だ。 蓄積された患者個人の識別データにはアクセスしないとしている。 米国ほど一般的ではない遺伝子検査を治療の早い段階で実施することも目指す。 将来的には他の疾患にも広げていく。 データを創薬にもいかす。 昨年、父親をがんで亡くしたという孫氏は「今までがんで絶望していた患者や家族を救い、悲しみを少しでも減らすのに確実に有益。 これは使わなきゃ損だ」と述べ、「人類の英知と AI で、治せない病気を減らしていく」と語った。 (奈良部健、asahi = 6-27-24) ダニ媒介脳炎、国内 6 例目 札幌の 50 代男性 5 月山菜採りでかまれ 札幌市保健所は 26 日、ダニ媒介脳炎の患者が発生したと発表した。 国内 6 例目の報告。 マダニが媒介するフラビウイルスによる感染症で、通常、人から人へは感染しない。 世界では年間 1 万例以上の患者が発生していると推計されている。 患者は同市内の 50 代男性で、発熱、マヒ、意識障害、けいれん、髄膜炎、脳炎、筋力低下などの症状がみられ、現在も入院治療中だという。 5 月中旬に道央地方へ山菜採りに出かけ、ダニに足をかまれた。 5 月23日に発熱や手足のしびれの症状が出て、6 月 24 日に感染が判明した。 市保健所は、マダニが生息する草の茂った場所へ入る際には、長袖、長ズボン、帽子、手袋などで肌の露出を避け、マダニが皮膚にかみついた状態で見つかった場合は、無理に引きはがさず、皮膚科などで除去してもらうよう呼びかけている。 (松田昌也、asahi = 6-26-24) 「劇症型溶連菌感染症」初の 1 千人超え 高い致死率、流行止まらず 手や足の壊死(えし)などを引き起こし、致死率の高い「劇症型溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染症」の患者数が今年 1 月からの累計で 1 1千人を超えた。 統計のある 1999 年以降で過去最多だった昨年を上回り、感染拡大が止まらない状況だ。 海外から流入した変異株の影響などが指摘されている。 国立感染症研究所(感染研)が今月 18 日に公表した速報値によると、9 日までの今年の感染者数は 1,019 人。 わずか半年で、昨年の 941 人を上回った。 原因となる溶連菌にはA 群、B 群など複数の種類がある。 A 群は毎年冬と春から初夏にかけ、子どもを中心に流行する咽頭炎の原因になる。 感染しても重症化はまれで、身近な病原菌として知られている。 ただ、傷口などから菌が体内に入り込むと、急速に手や足が壊死したり、多臓器不全になったりする劇症型溶連菌感染症を引き起こすことがある。 発症から数十時間で死に至ることもあり、「人食いバクテリア」と呼ばれることもある。 致死率は高く、約 30% ともされる。 A 群による咽頭炎や劇症型は昨年後半から増加している。 感染研によると、劇症型の患者は例年、50 歳以上が 7 割以上を占めるが、昨年 7 - 12 月は 50 歳未満の割合が増えていた。 一因と見られているのが、A 群の中でも毒性が高く、感染力も強い「M1UK 株」だ。 2010 年代以降、英国などで多く報告された型で、海外から日本に流入したと見られている。また、厚生労働省の担当者は「明確な理由は分からないが、溶連菌による咽頭炎の患者が増えており、そのことが劇症型の増加につながっていると考えられる」と話す。 劇症型の報告数は、海外でも増加傾向にある。 溶連菌による感染症は咽頭炎などですむことが多く、劇症型になる詳しいメカニズムはわかっていない。 溶連菌の感染を防ぐには手洗いやマスクの着用、傷口を清潔に保つことが有効で、厚労省は基本的な感染対策を呼びかけている。 (足立菜摘、asahi = 6-19-24) 我慢できない尿意・頻尿 … 「過活動膀胱」 国内に推計 1,250 万人 急に我慢できないほどの尿意をもよおしたり、頻尿になったりする「過活動膀胱」の 20 歳以上の人は、推計 1,250 万人にのぼる。 そんな調査結果を日本排尿機能学会がまとめた。 トイレに何度も行きたくなり、仕事や睡眠が妨げられるなど生活に支障をきたす。 医療機関を受診している人は一部にとどまり、専門家は「年齢のせいと諦めずに病院に相談してほしい」としている。 「またか …」 昼夜問わず襲われる尿意 仕事中はおむつでしのぐ 2023 年 5 - 6 月に全国の 20 - 90 代の男女を対象にインターネットで実施。 尿についての症状や生活への影響、医療機関への受診状況などについて尋ね、計 6,210 人から回答を得た。 その結果、我慢できないほどの尿意や、1 日 8 回以上の頻尿、トイレに間に合わず漏らしてしまうといった過活動膀胱の診断基準に当てはまる人は、20 歳以上の 11.9%、40 歳以上では 13.8% だった。 国内の人口に換算し、それぞれ 1,250 万人、1,080 万人という推計になった。 過活動膀胱は、膀胱が縮み、過敏に働くことで起こる。 急に尿意をもよおし、漏らしてしまったり、昼も夜も頻尿になったりする。 女性は加齢や出産で膀胱や尿道を支える筋肉が伸び、弱くなることで起こるとされている。 男性は前立腺肥大症によって、尿道が圧迫され、膀胱に負担がかかって起こることが多い。 命に関わる病気ではないが、高齢者などでは生活への影響が大きい。 外出先にトイレはあるか、漏れないかといった不安から外出を避けるようになると、体力が落ちる。 就寝後にトイレに起きると熟睡できず、転倒の危険性も高まる。 学会の調査では、回答者の 77.9% が頻尿や、我慢できないほどの尿意、尿漏れなど、尿に関する症状を抱えていると答えた。 ただ、症状がある人のうち、現在、医療機関にかかっている人は 4.9% にとどまった。 学会理事長の高橋悟日大教授(泌尿器科)は、「薬だけでなく、訓練などの行動療法でも改善が期待でき、治療の選択肢も広がっている。 生活に支障がある場合は恥ずかしがらずに医療機関に相談してほしい。」と話している。(土肥修一) 過活動膀胱は、訓練などの行動療法でも効果が出る。 その一つが、尿意を感じてもすぐにトイレに行かずに我慢する膀胱訓練。 初めは 2 - 3 分我慢し、少しずつ時間を延ばして膀胱に尿をためられるようにする。 膀胱や尿道を支える筋肉を鍛える骨盤底筋訓練もある。 椅子に座った状態や、仰向けに寝た状態で、肛門や膣を締めたり緩めたりする。 薬による治療には、膀胱の収縮を抑える「抗コリン薬」、交感神経を刺激して膀胱を緩ませて尿をためられるようにする「β3 受容体作動薬」がある。それでも改善がみられない場合は、排尿に関わる神経を電気や磁気で刺激する治療や、ボツリヌス毒素を膀胱壁内に注入する治療もある。 前立腺肥大症や骨盤臓器脱のある人は、薬や手術など、それぞれの病気の治療をすることで過活動膀胱の症状も改善するケースがある。 (asahi = 6-16-24) 高度な不妊治療「1 カ所完結」へ新施設 奈良が整えた「最大の努力」 不妊治療を受ける夫婦が増加傾向にあり、高度な設備の導入が全国各地で進められている。 出生率が全国平均を下回ってきた奈良県では今年度、様々な治療の「県内完結」をめざすという新たな拠点が始動した。 内視鏡下手術と体外受精を組み合わせた「ハイブリッド診療」、受精卵の段階で遺伝子を調べ、異常のないものを子宮に戻す「着床前診断」 - -。 4 月に運用が始まった橿原市の県立医科大付属病院「高度生殖医療センター」では、県内で初めて受けられるようになった治療法が数多くある。 センター長の吉川公彦・院長は「県内の生殖医療はやはり限界があると感じていた。 院として最大の努力をして施設を整えた」と語る。 県内の昨年の出生数は 7,315 人(速報値)。 22 年の合計特殊出生率は 1.25 で全国で 13 番目に低い。 一方、国立社会保障・人口問題研究所の調査では、不妊について心配したことがある夫婦の割合が 21 年には 39.2% に上る。 不妊の検査や治療を受けた経験がある夫婦も 22.7% だ。 センターは、県内でも不妊治療の需要は高いとみる。 センターで受けられる県内初の医療は「ハイブリッド」、「着床前診断」のほかにも、がん患者が治療前に卵子や精子などを凍結保存する手法や、持病のある患者の体外受精などがある。 男性不妊の手術や、持病のある人たちに向けた不妊治療なども提供していく。 「総合病院ならではの強み」を生かして、一連の不妊治療を 1 カ所で完結できる態勢を整え、地域の専門クリニックとも連携しながら、患者の利便性向上を図る。 4 月末時点で、すでに 12 人の体外受精を望む患者を受け入れたという。 施設は既存の建物の一部を改装し、新たな機材を導入した。 当面は 4 人のスタッフで運営するが、今後さらに増員する予定だ。 副センター長の木村文則・同大教授は「一般的な高度生殖医療より、さらに高度なものを目指したい。 不妊治療は精神的にもつらいが、納得して安心して受けられる場にしていきたい」と話した。 (仙道洸、asahi = 6-9-24) 抗インフルエンザ薬「アビガン」をマダニ由来の感染症治療薬として了承 厚生労働省の専門家部会はマダニが媒介する感染症「SFTS」の治療薬に、抗インフルエンザ薬「アビガン」を適応拡大することを了承しました。 主にマダニを通じて感染する「SFTS (重症熱性血小板減少症候群)」は、去年は過去最多の 132 人が感染し、9 が死亡しています。 国立感染症研究所によりますと、発症すると発熱や下痢などの症状が出て、致死率は約 3 割です。 厚生労働省の専門家部会は今月 24 日午後から開かれた会合で、SFTS の治療薬に富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ薬「アビガン」を適応拡大することを了承しました。 今後、正式に承認されれば SFTS の治療薬としては世界初となります。 (テレ朝 = 5-24-24) 供給不安続く後発薬、増産要請の法整備検討へ 厚労省、報告書受け 後発薬(ジェネリック医薬品)の供給不安が続いていることを受け、厚生労働省の検討会は 22 日、法整備も含めた対策強化を求める報告書をまとめた。 厚労省は今後、メーカーへの増産要請を法的に位置づけることも視野に入れ検討を進める。 後発薬不足は 2020 年以降、複数のメーカーで不正が発覚し、業務停止に追い込まれたことが発端になった。 日本製薬団体連合会によると、今年 4 月末時点で限定出荷か供給停止となっている薬のうち、後発薬が約 7 割を占める。 厚労省は昨年 10 月、不足が深刻化していたせき止め薬と、たんを切る去痰薬の増産を要請。 昨年末までに 1 割以上供給量が増えたというが、解消には至っていない。 今年 4 月からは、代替薬がないなど影響が大きい薬について、供給不足が生じる恐れがあるとわかった段階や、実際にそうなった段階で、企業は厚労省への報告が求められるようになった。 だが、報告を受けた厚労省が業界に増産を要請しても現状では拘束力がない。 実効性を確保するため、厚労省は法整備の必要性を検討する。 また、検討会の報告書では、メーカーに経営統合や事業の一部譲渡を促すため、金融・財政面での支援を具体策に挙げた。 業界再編によって大規模な生産体制の確立を進める狙いがある。 厚労省によると、後発薬の使用割合はここ 15 年間で約 35% から 80% に増加した。 一方、同一成分の後発薬が多く製造される非効率な状況にも陥っていた。 薬の公定価格(薬価)は年々下がっていくため、メーカーは特許が切れたばかりで、薬価が比較的まだ高い薬を売って収益を確保しようとするためだ。 報告書は「これまでのようなビジネスモデルは、今後は成り立たない」と強調した。 一方、後発薬業界の構造的な問題は、医療費抑制のために後発薬の利用を促進してきた国の政策に起因している。 報告書では、安定供給を担保する取り組みや産業育成に対する国の関与が不十分だったことも指摘された。 (藤谷和広、asahi = 5-22-24) 認知症患者、2060 年には 65 歳以上の 6 人に 1 人 645 万人に 65 歳以上の高齢者のうち、認知症の人が 443 万人 (12.3%) になるという 2022 年時点の推計を厚生労働省が 8 日、公表した。 認知症の前段階である「軽度認知障害 (MCI)」の人は同じく 558 万人 (15.5%) を見込む。 60 年時点では、認知症の人は 645 万人 (17.7%) に増え、およそ 6 人に 1 人となる見通し。 MCI も 632 万人 (17.4%) まで増加すると見込まれ、認知症と MCI をあわせると、およそ 3 人に 1 人が認知機能にかかわる症状があることになる。 22 - 23 年度に福岡県久山町など全国 4 地域で 65 歳以上の計 7,143 人を対象に調査。 認知症などの有病率(病気にかかっている患者の割合)を推計し、さらに国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口をもとに中長期の状況を算出した。 厚労省の従来の推計では、認知症の人は 25 年に 675 万人、60 年に 850 万人で、今回の推計ではそれぞれ 200 万人程度減っている。 今回の調査を担った九州大の二宮利治教授は、認知症のリスク要因とされる喫煙率の低下や、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療法が発展したことなどにより、認知機能の低下が抑制された可能性があるとみる。 今年 1 月には、認知症に関する初の法律「認知症基本法」が施行された。 政府は今秋ごろまでに「認知症施策推進基本計画」をつくる方針で、認知症の人が尊厳を保って暮らせる社会の実現をめざすとしている。 (吉備彩日、asahi = 5-8-24) 「歯生え薬」治験開始へ 足りない歯を再生する世界初の試み 「歯生え薬」の実用化に向けた治験を京都大学付属病院(京都市左京区)で始めると、医学研究所北野病院(大阪市北区)などが 2 日、発表した。 足りない歯を再生させる世界初の試みだという。 今回の治験は健康な人が対象だが、生まれつき歯の数が少ない「先天性無歯症」に対する再生治療薬として、2030 年の実用化を目指す。 先天性無歯症は、歯の数が通常より少ない病気。 歯が 6 本以上ない人は 1 千人に 1 人の割合でいるという。 食べることが難しかったり、あごの発達に影響を与えたりするが、根治的な治療がなく、大人になって義歯やインプラントを入れるしかなかった。 北野病院歯科口腔(こうくう)外科の高橋克主任部長らは、歯の成長を抑制するたんぱく質「USAG-1」に着目。 この働きを抑える薬を開発し、マウスやビーグル犬で歯を生やすことに成功した。 今回の治験は 9 月 - 25 年 8 月の予定で、健康な成人に注射して安全性を確認する。 安全性の確認後、2 - 7 歳で 4 本以上歯が少ない先天性無歯症の患者を対象に次の段階の治験を進める計画だ。 将来的には、歯周病やけがなどで後天的に歯を失った人にも使えるようになる可能性があるという。 高橋さんは「歯科医師にとって、入れ歯やインプラントといった既存の技術と一線を画す第 3 の選択肢になることを期待している。」と話す。 北野病院では次の段階の治験に向けて、対象となる可能性のある患者の情報を集めている。 歯の数が 4 本以上少なかったり、乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこなかったりする場合、問い合わせフォーム から連絡するよう呼びかけている。 (鈴木智之、asahi = 5-3-24) |