小児科「悲願」のワクチン RS ウイルス、妊婦に接種し赤ちゃん守る

乳幼児に肺炎を引き起こす RS ウイルスのワクチンが 18 日、承認された。 接種が広がれば、国内で年間数万人と推計される、入院する子どもが減ると期待される。 妊婦に接種し、生まれてくる赤ちゃんへの発症や重症化を防ぐ珍しいタイプで、専門家は「病気の特徴やワクチンの効果、副反応への理解促進が大切」と指摘する。 RS ウイルスはありふれたかぜのウイルスで、せきやくしゃみのしぶきを通して感染する。 2 歳までにほぼすべての子どもが感染。 最初に感染したときに重症化しやすく、乳幼児は気管支炎や肺炎になりやすい。 2 回目以降は軽くなり、大人は鼻かぜですむことが多い。

国内では、2 歳未満の子どものうち、年間約 12 万 - 14 万人が診断され、その 4 分の 1 ほどが入院すると推定されている。 治療薬はなく、酸素や輸液の投与といった対症療法しかない。 RS ウイルスに詳しい楠田聡・新生児臨床研究ネットワーク理事長は「呼吸が苦しくなるので、子どもが食べられない、ミルクが飲めないと病院にくるケースが多い。 人工呼吸器が必要になることもある。 打つ手が少なく、医師にとっても、やっかいな病気。」と話す。

心臓などに持病がある場合や、早産で生まれた子は重症化しやすい。 こうしたリスクの高い子どもには予防のための抗体薬があるが、月 1 回の注射を繰り返す必要がある。 今回のワクチンは米ファイザー社製で、妊娠 24 - 36 週の妊婦に 1 回接種する。 接種後にできた抗体が母体から胎児に移行することで、生まれてきた子どもの発症や重症化を防ぐ。 治験では、日本や米国など 18 カ国の妊婦 7 千人超を対象に、ワクチン接種したグループと、有効成分が含まれていない偽薬を接種した使ったグループに分け、生まれてきた赤ちゃんの予防効果をみた。 その結果、発症を予防する効果は生後 3 カ月以内で 57.1% (重症を予防する効果は 81.8%)、半年以内で 51.3% (同 69.4%)だった。

ささやかれていた「できないのでは …」

RS ウイルスワクチンの開発の歴史は長い。 1960 年代に初めてワクチンがつくられたが、臨床試験で接種しなかった子どもよりも接種したほうが症状が悪化し、死者も出た。 その後も製薬会社が開発をめざしたが、効果の高いワクチンはつくれなかった。 2013 年、米国立衛生研究所の研究で、RS ウイルスの表面にあり、人の細胞に感染するのに重要な役割を果たすたんぱくの構造が初めてわかった。 ウイルスのどの部分に対する抗体をつくれば感染を防げるかが理論的にわかり、ワクチン開発が進んだ。

米国では昨年 8 月、ひと足早く今回のワクチンが承認された。 国内では英グラクソ・スミスクライン社の 60 歳以上向けのワクチンが昨年 9 月に承認されている。 「国内では亡くなる子どもは少ないが、医療体制が乏しいアフリカや東南アジアの国々では多い」と楠田さんは指摘する。 2015 年の推計によると、世界で 5 歳未満の合計 11 万 8,200 人が亡くなっている。 楠田さんは「『できないのでは』と言われていたので、小児科にとっては悲願のワクチン。 世界的にみると、かなりインパクトが大きい。」と指摘。 「日本でも重症化して入院が必要になる子は少なくなく、本人や家族の負担は大きい。 ワクチンが広がれば小児科医療の負担軽減にもつながる。 できるだけ多くの人が接種してもらえたら。」と話す。

産婦人科で接種 「妊婦に丁寧な説明を」

今回のワクチンは、妊婦に接種しておなかの赤ちゃんに抗体を移すという国内では珍しいタイプだ。 安全性はどうなのか。 治験の結果では、妊婦への副反応は、接種した接種部位の痛みや頭痛、筋肉痛などがみられた。 赤ちゃんへの影響は、ワクチンをうったグループで黄疸 7.2% (偽薬をうったグループ 6.7%)、2,500 グラム以下の低出生体重 5.1% (同 4.4%)、37 週未満の早産 5.7% (同 4.7%)とやや多い傾向があったが、統計的に意味のある差はなかった。

ワクチンに詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「今のところ、このワクチンによって母親の状態が特別悪くなることはなく、おなかの赤ちゃんに与える影響はないとされている」と説明する。 産婦人科で接種できるようになるが、岡部さんは「妊婦さんたちが、RS ウイルスの特徴やワクチン接種の必要性、副反応などについて十分理解したうえでうつことが大切。 接種すべきか冷静に判断するためにも、有効性と安全性に関する情報の周知と丁寧な説明が求められる。」と話す。

日本では妊婦へのワクチン接種はあまり広がっていなかったが、2009 年の新型インフルエンザ、20 年からの新型コロナウイルスの流行で、ワクチン接種の機会も増えてきている。 岡部さんは産婦人科医が RS ウイルスの患者を診る経験はあまりないとし、「妊婦やその家族だけでなく、医療者側もこの病気やワクチンについて理解を深めることが重要だ」と指摘する。 (土肥修一、asahi = 1-18-24)


避難所でインフル・コロナ・ノロの流行懸念 いずれも手洗いが重要

能登半島地震では、被災した多くの人たちが避難所での生活を強いられている。 道路が寸断され、医療物資が不足する被災地では、感染症で体調が悪化しても必要な治療を受けられない恐れがある。 日本環境感染学会の災害時感染制御支援チームの菅原えりさ東京医療保健大教授によると、避難所で特にいま感染拡大が懸念されるのは、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の呼吸器感染症と、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎だ。 いずれも手洗いが最も重要な対策になる。

食事や調理の前、トイレ使用後の手洗いは欠かせない。 流水とせっけんが望ましいが、アルコール消毒薬で代用してもいい。 手の甲や指の間で洗い残しが生じやすいので注意する。 呼吸器感染症はせきやくしゃみのしぶきから感染が広がる。マスクをきちんと着用し、マスクがなければ、せきやくしゃみが出る際にティッシュや二の腕で口と鼻を覆ってしぶきが飛び散らないようにする。

ノロウイルスなどの感染性胃腸炎は、嘔吐物や排泄物から広がる。 吐いたものをかたづける人は、使い捨てのマスクや手袋を着用し、ペーパータオルなどで静かに拭き取り、塩素消毒して水拭きする。 トイレで汚れた履物によって感染が広がらないよう、居住区域は土足厳禁を徹底する。 感染を広げないためにも、「体調が悪くなったら必ず避難所の管理者に申し出ることが大切だ」と菅原さんは呼びかける。 「避難所ではマスクを着けていない人もいるが、せきが出たら必ず着けて欲しい。」

塩素の消毒薬は「ハイター」や「ブリーチ」といった塩素系漂白剤などを希釈してつくことができる。 嘔吐物や排泄物の処理では濃度が約 0.1% のものを使う。 原液の濃度が 5% なら、500 ミリリットルのペットボトル 1 本の水に、原液 10 ミリリットル(ペットボトルのキャップ 2 杯)が目安だ。 調理器具やトイレのドアノブ、便座などの消毒には濃度約 0.02% のものを使う。 原液の濃度が 5% なら、2 リットルのペットボトル 1 本の水に原液 10 ミリリットルが目安だ。 時間がたつと効果が落ちるため、なるべく早く使い切る。 誤飲しないよう容器に名前や濃度、つくった日を書いておく。

東京都のウェブサイト で作り方を紹介している。 (阿部彰芳 = 1-8-23)


ゲノム編集治療、いよいよ実用化 ノーベル賞技術を駆使、日本では …

狙った遺伝子を改変する「ゲノム編集」技術を応用した世界初の遺伝子治療が、英国と米国で相次いで承認された。 対象は血液の遺伝性疾患で、1 度の治療で生涯効果が続くとされている。 一方、対象となる病気のひとつは、世界的にはアフリカ大陸のサハラ砂漠以南に患者が多いとされるが、米国では患者 1 人あたり約 3 億円と高額になっていて、必要とされる患者に届けられるか課題となっている。

この遺伝子治療は、「CASGEVY (一般名 = Exa-cel)」。 米企業「バーテックス・ファーマシューティカルズ」とスイスの「クリスパー・セラピューティクス」が共同開発した。 英国では 11 月 16 日、米国では 12 月 8 日、それぞれの規制当局から承認された。 画期的なのは、2020 年にノーベル化学賞が贈られた「CRISPR/Cas9」というゲノム編集の技術を使っていることだ。 この技術は従来よりも簡単に、特定の遺伝子の機能を壊したり、逆に、遺伝子を修復して機能するようにしたりできる。 遺伝子が原因の病気に対する、根本的な治療法につながることが期待されていた。 CASGEVY は、世界で初めてこの技術を医療に応用したものとなった。

英国で承認された対象は、「鎌状赤血球症」と「βサラセミア」の二つの病気だ。 どちらも、赤血球に含まれて酸素を運ぶたんぱく質「ヘモグロビン」に異常が出る。 重度の貧血や、手足などの強い痛み、臓器不全などの症状が出る。 それぞれアフリカなどや、地中海周辺や中東、東南アジアなどにルーツを持つ人に多いとされる。 米国では鎌状赤血球症について承認され、今後、βサラセミアについても承認の可否が判断されることになる。

治療の流れはまず、赤血球をつくる「造血幹細胞」を患者の骨髄からとり出す。 次に、体外でゲノム編集をほどこして、特定の遺伝子がはたらかないようにする。 すると、患者の造血幹細胞が特殊な赤血球をつくれるようになる。 これを注射で体内に戻す。 臨床試験では、鎌状赤血球症の患者 29 人のうち 28 人が、治療後少なくとも 1 年、重度の痛みから解放された。 βサラセミアでは、患者 42 人のうち、39 人が治療後少なくとも 1 年、輸血が必要なくなった。 これまで根治のための唯一の方法は、健康な他人の造血幹細胞を移植する「骨髄移植」だった。 しかし、適合するドナーが見つかりにくいことや、合併症が起こりうることが問題だった。

ゲノム編集されるのは造血幹細胞だけで、精子や卵子の遺伝子は改変されない。 そのため、ゲノム編集の影響が次世代に受け継がれることはないとされている。

遺伝子治療の「最初のゴール」

造血幹細胞の遺伝子治療が専門の、米国立心肺血液研究所 (NHLBI) の内田直也医師によると、治療対象の二つの病気は遺伝性疾患のなかでは患者数が多い。 研究の歴史も長く、「この病気に対する治療法を開発することが、遺伝子治療の『最初のゴール』と考えられてきた」と話す。 米国では今回、ゲノム編集技術を使わない、鎌状赤血球症に対する別の遺伝子治療も承認された。 いずれも、患者自身の造血幹細胞を使うため、治療効果は生涯続くと考えられているという。

新しい治療法ゆえに注意が必要なことはある。 とくに、CRISPR/Cas9 を使ったゲノム編集では、目的と違う遺伝子を誤って改変してしまう「オフタゲット作用」が、理論上の懸念として挙げられる。 目的外の遺伝子編集によるがん化など予想外の副作用が起きていないか、注意深くみていく必要がある。  臨床試験では懸念はみられず、バーテックス社は米国で、治療後 15 年間の患者の追跡調査をすることにしている。 10 月に開かれた米国の専門家委員会では議論の末、「治療を差し控える理由は見当たらない」と評価されていた。

必要な患者に届けられるか?

費用は高額だ。 米国では患者 1 人あたり 200 万ドル(約 3 億円)ほどになるとされ、どれほどの患者が治療を受けられるのか注目される。 鎌状赤血球症の患者が多いのはアフリカのサハラ砂漠以南の地域とされ、所得の低い国も多い。 世界的に、本当に必要な患者へこの治療を届けられるのかは今後の課題だという。 内田さんは「いかにコストを抑えられるかが、遺伝子治療の研究の一つのポイントになっていく」とみる。

鎌状赤血球症やβサラセミアは、日本に患者が少なく、新たな治療の登場による国内への影響はそれほど大きくないと考えられる。 ただ、ゲノム編集を治療に応用しようという動きは日本にもある。 まだ人に試す段階ではないものの、目の病気やがんなどの分野で、研究開発が進められている。

遺伝子治療に詳しい自治医科大の大森司教授は「今回承認されたのは、目的の遺伝子をはたらかなくしたうえで体内に戻し、治療効果を得るものだ。 今後は、体内で直接作用するものや、病気の原因の遺伝子を『修復』して正常に機能させるようなものなども、実用化が進むだろう。 これまで治せなかった難病にも治療の道が開かれる可能性がある」と話した。 (野口憲太、asahi = 12-30-23)


大麻の類似成分含む 38 製品、製造・販売を全国一律禁止 健康被害も

「大麻グミ」などによる健康被害が相次いだ問題で、厚生労働省は 21 日、規制対象外の大麻類似成分を含む 38 製品を危険ドラッグとして、インターネットを含め全国一律で製造や販売、広告を禁止したと発表した。 12 月から大麻に似た有害成分を含む製品の販売などが禁止されたが、別の類似成分が出回っていた。 同日、規制対象外の 5 成分を含む電子たばこのリキッドや、グミ、クッキーなど 38 製品を医薬品医療機器法(薬機法)の広域規制の対象として官報に告示した。 広域規制の適用は 2015 年 3 月以来。

厚労省は大麻グミに含まれていた有害成分「ヘキサヒドロカンナビヘキソール (HHCH)」を薬機法の指定薬物に追加、12 月からこの成分を含む製品の製造・販売を禁止した。 だが、規制対象外の「ヘキサヒドロカンナビフォロール (HHCP)」や「テトラヒドロカンナビフォロールアセテート (THCPO)」を含む製品が出回り、厚労省によると、使用後に体調を不良を訴えた人が 11 月だけで全国で 6 人確認された。 リキッドを使い救急搬送されたり、クッキーを食べ意識がもうろうとなったりしたという。

厚労省は 12 月 6 - 8 日に、これらの製品を販売した疑いがある店舗や事業所など 40 カ所に立ち入り検査を実施。 うち 25 カ所にあった 140 製品の販売停止を命令した。 検査の結果、HHCP やTHCPO など規制対象外の 5 成分が検出されたため、広域規制の対象とした。 厚労省は年明け以降、この 5 成分を含む HHCH に類似した有害成分を指定薬物として包括規制することを検討している。 (藤谷和広、後藤一也、asahi = 12-21-23)


東大病院の研修医 2 人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題

東京大学医学部付属病院で、臨床研修医 2 人が病気でもないのに医師の立場を利用して処方箋を発行し、薬を入手していたことが、東大病院などへの取材でわかった。 2 人は、処方箋発行の電子カルテの痕跡を削除していた。 この薬はインターネット上で「やせ薬」として紹介され、糖尿病以外での使用について注意が呼びかけられている。

医師法では、医師国家試験に合格した後、診療行為をするために 2 年以上の病院での研修が義務づけられている。 その研修中の医師を臨床研修医という。 東大病院によると、今年 5 月ごろ、臨床研修医 2 人が病気でもないのに互いに依頼する形で糖尿病薬の処方箋を発行していたことが発覚したという。 薬は 2 型糖尿病患者向けの治療薬「GLP-1 受容体作動薬」。 食欲を抑える効果があるとされる。 研修医は、その処方箋を使い院外薬局で薬を入手。 さらに、電子カルテ上で処方箋を発行した痕跡を削除していた。 (asahi = 12-15-23)

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肥満症治療薬「ウゴービ」、22 日から保険適用に 厚労省

製造販売が 3 月に承認された肥満症の治療薬「ウゴービ(ノボノルディスクファーマ社)」について、厚生労働省は 15 日、公的医療保険の適用対象にすると決めた。 22 日から適用される。 15 日の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で了承された。 公定価格の薬価は、量によって 5 段階が設定され、1 回あたり 1,876 円、3,201 円、5,912 円、7,903 円、1 万 740 円となった。 対象は高血圧、脂質異常症、2 型糖尿病のいずれかの病気があり、肥満度を測る指標の BMI が 35 以上か、27 以上で肥満に関する健康障害が二つ以上あるといった条件を満たす患者。 週 1 回注射する。 医療機関側にも一定の要件が設けられた。

国内では、同じ成分の薬が糖尿病治療薬として保険適用となっていたが、肥満症治療には適用されていなかった。 ウゴービは先に米国で肥満症治療に使われ始めたが、美容目的の利用も拡大。 同種の薬は世界的な供給不足となっており、国内でも糖尿病治療に必要な人に行き渡らなくなるおそれが懸念されている。 (吉備彩日、asahi = 11-15-23)

前 報 (6-22-23)


エムポックス患者が死亡 国内初 埼玉県の 30 代男性

厚生労働省は 13 日、ウイルス性の感染症「エムポックス」に感染した埼玉県の 30 代男性が死亡したと発表した。 国内で患者の死亡が確認されたのは初めて。 エムポックスは主に、感染した人や動物の体液や血液に触れた場合などに感染する。 6 - 13 日の潜伏期間の後、発熱や頭痛などの症状が出て、発熱から 1 - 3 日後に発疹が出る。 多くは自然に治るが、小児や妊婦、免疫不全者で重症となる場合がある。

厚労省によると、死亡した男性は、HIV (ヒト免疫不全ウイルス)感染による免疫不全の状態だったという。 9 月にエムポックスと診断され、11 月に死亡した。 海外渡航歴はなかった。 エムポックスは、アフリカ中部や西部で時々流行する感染症だったが、昨年 5 月以降、欧米を中心に感染が拡大。 流行はピークを越えたが、世界的に感染者の報告が続いている。 厚労省によると、国内では昨年 7 月に初めての患者が報告された。 今年 12 月 3 日時点で報告数は 227 人。 厚労省は 5 月、世界保健機関 (WHO) の変更に伴い、感染症の名称を「サル痘」からエムポックスに変更した。 (神宮司実玲、asahi = 12-13-23)


前立腺肥大症、体への負担少ない手術登場 高齢、持病があっても可能

水蒸気を使った前立腺肥大症の手術

前立腺肥大症は、男性に起きる病気。 加齢とともに進行し、患者は 60 代の 6%、70 代の 12% にいるとする報告もある。 前立腺は男性にだけにある臓器で、膀胱の下で尿道を取り囲んでいる。その前立腺が大きくなって尿道を圧迫し、尿が出にくくなったり、頻尿になったりする排尿障害を起こすのが前立腺肥大症だ。 原因はホルモンバランスの崩れなどが指摘されているが、はっきりとはわかっていない。

診察では、尿の勢いや排尿後に膀胱に残る尿の量、前立腺の大きさなどを測る。 1 カ月のうちに、尿が残っている感じや、排尿後 2 時間以内に再びしなければならなかったことなどが起こる頻度についてそれぞれ 0 - 5 点で点数化し、合計で重症度を調べる。 治療は、食事や運動などの行動療法のほか、尿道を広げる薬や前立腺を小さくする薬を使う。 患者の半数ほどが過活動膀胱にもなっているとされ、その場合は膀胱をゆるませて尿をためられるようにする薬や膀胱の収縮を抑える薬も使われる。

薬で改善しないときには手術が検討される。 電気メスやレーザーで前立腺を削ったり、くりぬいたりするこれまでの手術に加え、昨年、医療用の糸などで前立腺を縛り上げて尿道を広げる手術と、水蒸気の熱で前立腺の一部を壊死させる二つの手術が公的医療保険の適用となった。 いずれも内視鏡を使った手術で時間は 10 - 15 分ほどで済む。 出血も少ないため、体への負担が小さい。 脳梗)などの持病がある人や、高齢で従来の手術をするにはリスクの高かった患者が対象となる。

日大板橋病院泌尿器科の大日方大亮(おびなただいすけ)医師は「これまでは薬で様子をみるしかなかった人たちにも治療の選択肢が広がった」と話す。 頻尿がひどくなると、外出先にトイレはあるか、漏らしてしまわないかと心配し、外出を控えて体力が落ちる恐れもある。 同病院長の高橋悟(たかはしさとる)教授(泌尿器科)は「排尿のトラブルによって生活に支障がある場合は、年のせいとあきらめず、泌尿器科を受診してほしい」と語る。 (asahi = 11-30-23)