日本発! 温室効果ガスを宇宙から測定 … 各国の対策に貢献目指す

ドバイで開かれた COP28 で発表

地球温暖化対策が急務となる中、日本の人工衛星による温室効果ガスの測定技術が注目を集めている。 観測データは途上国に提供され、温室効果ガスの削減目標を策定するための基礎資料として役立てられる。 政府は、アラブ首長国連邦 (UAE) で開催された国連気候変動枠組み条約第 28 回締約国会議 (COP28) で最新技術をアピール。 国際貢献につなげたい考えだ。

世界初の温室効果ガス観測衛星

「人工衛星は地球をくまなく周回するので、各国の温室効果ガス濃度を観測できますよ。」 COP28 の会場の一角で 2023 年 12 月 1 日、国立環境研究所衛星観測センターの佐伯田鶴主任研究員が、映像やポスターを使いながら説明を始めると、海外の政府関係者らが興味深そうに耳を傾けた。 同研究所や宇宙航空研究開発機構 (JAXA) などは 2009 年、世界初の温室効果ガス観測衛星「いぶき」を打ち上げた。 9 年後には、工場など人間が原因の温室効果ガスを区別して測定できる「いぶき 2 号」を打ち上げ、2024 年度にはさらに 1 基を打ち上げる予定だ。

他国の衛星より長期間のデータを蓄積

大気中の温室効果ガスは、熱を伝える赤外線を吸収し、温暖化をもたらす。 温室効果ガスが濃いほど赤外線を多く吸収する性質を利用し、大気を通過して人工衛星に届いた赤外線の強弱を観測し、濃度を測定する。 特にいぶきは、太陽光パネルのトラブルに見舞われながらも、設計寿命の 5 年を大きく超えて活躍を続ける。 同研究所の松永恒雄衛星観測センター長は「他国の衛星より多くのデータを蓄積し、長期間にわたる温室効果ガスの傾向を把握できている」と胸を張る。

温室効果ガスの排出量は測定が難しい

温暖化を食い止めるため、各国は国際的枠組み「パリ協定」に基づき、自国の温室効果ガス排出量を国連に報告し、排出削減目標をたてている。 しかし、地上の観測施設は欧米や日本に集中する一方、アフリカやアジアの途上国にはほとんどなく、精度もまちまちだ。観測施設がない場合、エネルギー消費や産業などの統計から排出量を推定するが、統計が不正確な場合もあり、途上国が報告する排出量は国際社会から信頼されないことが多い。

期待がかかる人工衛星

そこで期待されるのが人工衛星だ。 環境省は中央大の渡辺正孝教授の協力を得て、2018 年度からモンゴルで、人工衛星が測定した温室効果ガス濃度から、排出量を推計する技術の開発を進めてきた。 推計精度が実用レベルに達したと判断され、モンゴル政府は 2023 年 11 月、人工衛星のデータを盛り込んだ報告書を国連に提出。 モンゴルで気候変動特使を務めたバトジャルガル・ザンバ氏は「衛星データは透明性や費用対効果が高く、人的資源に乏しい我が国にとって不可欠なツールだ」と歓迎する。

COP28 は技術を売り出す格好の舞台

198 か国・地域の指導者たちが集まる COP28 は、こうした技術を売り出す格好の舞台になる。 モンゴルで培った国別排出量の推計技術をアピールするイベントを開くほか、中央アジアのタジキスタンとデータ提供の交渉を進めている。 データ提供は 2030 年までに 6 か国に拡大する方針で、将来的には、世界で 3 番目に排出量が多いインドのような主要排出国への提供も目指す。 環境省幹部は「多くの国が排出量を高精度で把握できれば、世界の温暖化対策の実効性につながる。 世界の温暖化対策に貢献したい。」と強調する。

2022 年の世界の排出量は過去最高を更新

世界の温室効果ガスは年々増加しており、国連環境計画 (UNEP) によると、2022 年の排出量は前年比 1.2% 増の 574 億トンと過去最高を更新した。 いぶきの観測でも、二酸化炭素 (CO2) 濃度の増加が裏付けられている。 観測を始めた 2009 年は、CO2 濃度が 385ppm (1ppm は 1 万分の 1%) 前後だったが、2023 年は 418ppm まで上昇しており、減少に転じる気配はない。 また、温室効果が CO2 の 25 倍と高いメタンも同様に上昇していることがわかった。 CO2 濃度には季節変動がある。 陸地の多い北半球が夏になると、植物の光合成が活発になり、CO2 が多く吸収されるため、濃度が低くなる。 (渡辺陽介、読売新聞/防災ニッポン = 1-9-24)


太陽光発電所から銅線盗み売却か、被害総額 2.5 億円 … カンボジア国籍の男 7 人を逮捕・送検

群馬県警は今月、カンボジア人グループによる銅線窃盗事件の捜査を終結した。 事件では太田市在住で同国籍の無職の男 7 人(19 - 32 歳)が窃盗容疑などで逮捕・送検され、被害は関東 5 県の計 76 件に及び、本県は 46 件で最多だった。 被害総額は 2 億 5,400 万円。 グループは山間部の太陽光発電所を狙い、夜間に銅線を盗んで金属買い取り店で売却していた。 ただ、県内では同様の被害が今年、11 月末時点で 992 件(被害総額 10 億 3,000 万円)発生しており、県警は別の窃盗グループが関与しているとみて捜査している。 (yomiuri = 12-30-23)


ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力 … 再エネ投資に 548 億円

脱炭素の実現に向け、経済産業省は再生可能エネルギーの普及に力を入れる。 ビルの壁面にも貼れる薄いフィルム型のペロブスカイト太陽電池や、海に浮かべる浮体式洋上風力など、国内の再エネの設備投資に 548 億円をあてた。 次世代エネルギーで有望な水素の供給網の開発に 86 億円を補助するほか、既存の燃料より割高な価格を抑えるための支援に 89 億円を計上する。 2030 年度には、総発電量の 36 - 38% を再エネでまかなう計画だ。

電気自動車や燃料電池車の導入を進めるため、充電や水素充?のインフラ整備に 100 億円をあてたほか、工場の二酸化炭素の排出量を減らすため、鉄鋼などの製造工程の転換に 327 億円を補助する。 岸田政権は脱炭素に有効だとして、原発回帰を加速させている。 安全性を高める技術開発に 25 億円、高速炉の実証炉開発に 289 億円を盛り込んだ。 早ければ来年度にも東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)などの再稼働が見込まれることから、避難道の整備などに使える交付金を含む「電源開発促進勘定」は、前年度より 119 億円増の 1,723 億円を確保した。 (福山亜希、asahi = 12-22-23)


風力発電に「逆風」 計画縮小の関西電力が説明会、住民から厳しい声

後志地方の古平町などで風力発電所の建設を計画している関西電力は 16 日、住民を対象に説明会を開いた。 地元などに反対の声が根強く、関電は計画を大幅に縮小する方針だ。 計画地から外れた仁木町での説明会には多数の住民が詰めかけたが、関電側の説明に「信用できない」などと厳しい声が相次いだ。 仁木町の町民センターで午前 10 時から始まった説明会には約 120 人の町民が参加した。

雪の降る中、事前に用意した 100 席を上回る住民たちが訪れ、風力発電所計画に対する関心の高さをうかがわせた。 関電側は計画の概要を説明し、「地球温暖化は異常気象をもたらす。 二酸化炭素 (CO2) を減らすには再生可能エネルギーを増やす必要がある」と風力発電の意義を強調。 その後、住民との質疑応答に移ったが、関電側は「住民のプライバシーに配慮する」と報道陣には非公開とした。

「表面的な回答ばかりで信用できない。(住民)」

出席した住民によると、質問は専用の用紙に記入し、壇上のスクリーンに映し出しながら関電が答える形で進んだ。 この進め方に出席者は「同じ話を繰り返すだけだった」と話した。 関電は昨年 5 月、古平と仁木、余市、共和の 4 町にまたがる約 8,500 ヘクタールの事業想定区域に最大 64 基、最大出力約 26 万 8,800 キロワットの風力発電所をつくる計画を発表した。 だが、想定区域内には保安林や手つかずの自然が残る山林が含まれ、日本自然保護協会などが事業の中止や抜本的な見直しを求めていた。

環境省も「国内で例が少ない大規模な事業(環境相の意見書)」として事業区域を絞り込み、地元の理解を得るように求めていた。 慎重な対応を求める意見が強まる中、関電は 11 月 21 日、4 町に広がっていた計画地を古平、余市の 2 町の約 1,400 ヘクタールに絞り、最大出力約 7 万 5,600 キロワット、風車の数も最大 18 基と当初の 3 分の 1 ほどに縮小する、と発表した。 ただ、関電は今回計画地から外れた仁木町の銀山地区で、別の風力発電事業ができないか可能性を探る方針だ。

約 3 時間に及んだ 16 日の説明会でもこの点に質問が集まった。 「銀山エリアにつくらないでほしい」という声が住民から出たが、関電は「ゼロベースで検討する」と答えるにとどまったという。 住民有志でつくる「仁木町の風力発電を考える会」の穂積豊仁代表は「関電はまだあきらめていないのでは。表面的な回答ばかりで信用できない」と関電の姿勢を批判した。 脱炭素社会に向け、関電は 2050 年に事業活動に伴う CO2 の排出ゼロをめざし、40年までに 500 万キロワットの再生可能エネルギーを新たに開発する目標を掲げている。

そのため関電は営業エリアの関西圏以外でも再エネの発電所をつくる計画を進めており、道内では昨年 5 月、後志や夕張市などで計 4 カ所の風力発電の開発計画を発表。 そのうち伊達市や千歳市などで検討していた事業は、区域内にある国立公園の景観を損ねるとの指摘を受けて最終的には断念に追い込まれている。 後志地方の計画についての住民説明会は 16 日夕方に古平町で行われ、17 日には余市町でも開かれる。 (編集委員・堀篭俊材、asahi = 12-16-23)


政府の洋上風力事業、伊藤忠、住商、三井物産などを選定

経済産業省は 13 日、洋上風力発電を優先的に整備する区域に指定した秋田、新潟、長崎の 3 区域について事業者の公募結果を発表した。 選ばれた事業者は今後 30 年間、指定区域を占有できる。 同省は「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」は伊藤忠商事や JERA など、「新潟県村上市及び胎内市沖」は三井物産や大阪ガスなど、「長崎県西海市江島沖」は住友商事などの企業連合をそれぞれ選定した。

選定にあたり、有識者らによる第三者委員会を設置。 電力価格や事業の実施能力などを評価してきた。 これら三つの企業連合はいずれも運転開始の時期が最も早く、価格も最も安かったという。 発電所は海底に固定する着床式で、21 - 38基の風車を設置する計画だ。 公募は 2 回目。 1 回目は 2021 年 12 月に三菱商事系の企業連合が 3 区域いずれでも選定された。 だが、その後、自社に有利な公募ルールに変更するよう秋本真利衆院議員に国会質問を依頼したとして、選定から外れた「日本風力開発」の塚脇正幸前社長が贈賄罪で在宅起訴されたほか、秋本氏も受託収賄罪で起訴された。 (福山亜希、asahi = 12-13-23)


ベネチア運河がまた緑色に、前回は誰かが誤って 今度は環境活動家ら

イタリア北部のベネチアの運河が 9 日、緑色に染まった。 AFP 通信などによると、環境活動家らがアラブ首長国連邦 (UAE) のドバイで開かれた国連気候変動会議 (COP28) で、具体的な成果がないとして抗議し、緑色の染料を流した。 同様の抗議はミラノやローマでもあったという。 同通信などによると、染料を流したのは気候変動の是正を求める団体の活動家ら。 活動家らは蛍光グリーンの液体を運河に流し込み、観光名所であるリアルト橋ではロープでつるされた活動家たちが「COP28 政府が話しあっている間、私たちは糸にぶら下がっている」と書かれた横断幕を掲げた。

この団体は「気候危機はすでにイタリアに悲惨な影響を及ぼし、科学はさらに悪化すると告げているのに、政治家たちは茶番劇で時間を浪費している」との声明を発表。 散布した染料は「無害だ」としている。 米 CNN によると、5 月にもベネチアの運河が緑色に染まる事態があった。 当時は、水中の構造物の水漏れを見つけるために使う物質を、何者かが誤って運河に落としたことによるものだったという。 今回の団体が散布した染料も同じ物質で、ベネチアでは建築会社がよく使用するという。 AFP 通信によると、イタリアでは 5 月にも、環境活動家らがローマの「トレビの泉」の水を黒色に染める抗議活動があった。 (asahi = 12-11-23)

前 報 (9-18-23)


温室効果ガス削減へ炭素課金の早期導入を提言 企業など 186 団体

温暖化対策に取り組む企業などのネットワーク「気候変動イニシアティブ (JCL)」は 5 日、日本政府に対し炭素の排出に応じて課金する「カーボンプライシング」を、現在の政府案よりも早期に高い価格で導入するよう求める提言「2030 年 GHG (温室効果ガス)排出削減目標と国際競争力強化の同時達成に向けて」を発表した。

カーボンプライシングは脱炭素化を進めるための GX 推進法で 2028 年度からの導入の道筋がつけられた。 提言はそれでは不十分として、25 年をめどに導入を前倒しする、国際水準並みの二酸化炭素 11トン当たり 130 ドルを目指す、企業に公平に義務づけるなど 6 原則を示している。 JCI には企業や自治体など約 800 団体が参加しており、提言には朝日新聞社を含む 186 団体が賛同した。 (編集委員・石井徹、asahi = 12-6-23)


世界の再エネ容量、30 年までに 3 倍へ 日本など 100 カ国以上賛同

アラブ首長国連邦 (UAE) のドバイで開かれている国連の気候変動会議 (COP28) では 2 日、世界の再生可能エネルギーの設備容量を 2030 年までに 3 倍にすることに、日本も含む 100 カ国以上が賛同した。 2 日まで開かれた首脳級会合では、中東情勢をめぐる波乱もあった。

再エネ 3 倍の目標は、議長国の UAE が参加国に呼びかけていた。 誓約書では、気温上昇を産業革命前から 1.5 度に抑えるためには、再エネの世界全体の設備容量を、現在の約 3,600 ギガワットから、1 万 1 千ギガワットに上げる必要があると指摘。 エネルギー効率(省エネ)も 2 倍にすることをめざす。 「化石燃料に依存しないエネルギーシステムへの世界的な移行を、前倒しで推進しなければならない」と主張。 各国が再エネや省エネに関する計画をつくり、温室効果ガス削減目標に反映することも求めた。

日本も再エネの導入量を引き上げる必要がある。 日本の再エネは 22 年時点で約 87 ギガワット、30 年には 2 倍程度の約 160 ギガワットにする見込みだが、世界に対する貢献量は少ない。 伊藤信太郎環境相は「各国がそれぞれ 3 倍ということを言っているわけではない」と話すが、次のエネルギー基本計画の議論に影響を与えそうだ。 一方、この日は、米国が石炭火力発電の廃止を目指す脱石炭連盟に加入した。 英国とカナダ主導で立ち上げた枠組みだ。 米国は中国、インドに次ぐ「石炭火力大国」だが、ケリー米気候変動特使は「世界中で排出対策の取られていない石炭火力の段階的廃止を加速する」とコメントした。 日本は加入していない。

交渉の裏で戦争の影も

国際協調が必要な温暖化対策だが、前日に再開したパレスチナ・ガザ地区での戦闘は交渉にも影を落とした。 COP に参加したイスラエルのヘルツォグ大統領は首脳演説をせずに、インドや欧州連合 (EU) などと二国間会談を展開。 同氏の X (旧ツイッター)によると、「(イスラム組織)ハマスがあからさまに停戦協定を破った」などと主張したという。 イラン国営通信によると、同国のエネルギー相は、イスラエルが COP に参加することに抗議し、会場から去ったという。

2 年後の COP30 の議長国となるブラジルのルラ大統領は、温暖化対策費をはるかに上回る巨額の資金が、世界で戦争や軍事に充てられていることを嘆いた。 「力を結集すべき時に、世界が戦争に向かっているとは。」 (ドバイ = 竹野内崇宏、市野塊、asahi = 12-2-23)

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世界の原発容量「2050 年までに 3 倍」宣言 米仏など、日本も賛同

米エネルギー省は 2 日、「世界全体の原発の発電容量を 2050 年までに 3 倍に増やす」との宣言に、日本を含む 22 カ国が賛同したと発表した。 温室効果ガスの排出を減らす対策の一環として、国連の気候変動会議 (COP28) に合わせた。 この宣言には、米日のほか、英国やフランス、スウェーデン、フィンランド、韓国、COP28 議長国のアラブ首長国連邦 (UAE) などが賛同した。 「今世紀半ばまでに、温室効果ガス排出の実質ゼロを達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とし、世界全体の原発による発電容量を 20 年比で 3 倍にするという目標を掲げている。

米エネルギー省のデービッド・ターク副長官は 11 月 30 日の会見で「クリーンなエネルギー生産のなかでもかなり大きな割合を占め、24 時間で発電している」と指摘。 ターク氏は「各国で政策や手段は異なる。 次世代型原発の小型モジュール炉 (SMR) もあり、核融合にも注目が集まっている」と将来の可能性を強調した。 世界原子力協会によると、世界全体では 23 年時点で 436 基で、発電電力の約 10% をまかなっている。 原発の占める割合が 6 割を超えているフランスや、かつては 3 割超だったが現在は 1 割以下となっている日本など、各国の状況は違う。 発電量は米国が最も多く、中国、フランスと続いている。

原発による世界の発電量は 11 年の福島第一原発の事故以降、やや落ち込んだが、現在は回復傾向にある。 特に中国での複数の新設が進んで、エジプトでも新たな建設が始まっている。 (ワシントン = 合田禄、ドバイ = 市野塊、竹野内崇宏、asahi = 12-2-23)

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「東京に水素取引所立ち上げへ」 COP28 で小池百合子知事が表明

アラブ首長国連邦 (UAE) のドバイで開かれている国連気候変動会議 (COP28) の会合で、東京都の小池百合子知事が 1 日、「東京に水素取引所を立ち上げる取り組みを進める」と表明した。再生可能エネルギー由来で環境負荷が小さい「グリーン水素」の活用を促す狙いがある。

都によると、独政府などの出資で設立された財団「H2 グローバル」と連携する。 同国でも近く、水素取引所が設置される予定という。 グリーン水素には現在、取引価格などを定める仕組みが整っておらず、活用促進にはこうした整備が必要と判断。 都主導の取引所設置で取引を透明化することにより、投資リスクを低減させたり価格を明確化させたりする効果が期待できるとしている。 時期など詳細は未定。

小池知事は会合で「とても新しい取り組み。 水素の需要を伸ばすため、都が水素を率先して利用し、民間にも働きかける」と述べた。 水素の供給を確保するため、国外の各都市との協定締結も進めるという。 都は 2030 年までに温室効果ガスの排出量を 00 年比で 50% 削減する「カーボンハーフ」を目標としている。 小池知事は昨年の COP27 にも出席し、水素エネルギーの活用のため、都内にパイプラインの供給網をつくる構想を表明した。 (本多由佳、太田原奈都乃、asahi = 12-2-23)


日本郵便、水素で走る燃料電池トラック試験導入 … EV より航続距離長く「260 キロ」

日本郵便は 30 日、水素で走る燃料電池 (FC) トラックを試験導入した。 FC トラックは電気自動車 (EV) よりも航続距離が長く、温室効果ガスの削減に向けて物流業界で本格導入を探る動きが広がっている。 日本郵便が導入したのは、3 トントラック 2 台で、航続距離は約 260 キロ・メートル。東京都内の一部の郵便局間での輸送に使う。 2023 年度中に計 5 台に増やし、25 年度以降には、積載量 10 トン程度の大型トラックも試験導入する計画だ。 日本郵便は EV や電動バイクを一部で導入しているが、航続距離の短さが課題だった。

日本通運も 23 年末までに FC トラック 20 台を導入し、水素の補充設備が多い首都圏を中心に配送業務などに活用する。 ヤマト運輸も水素で走る大型トラックで、東京 - 群馬間でビールやワインなどを運ぶ実証試験を続けている。 (yomiuri = 11-30-23)

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「世界初」鉄道にも水素エンジン JR 東海が開発中、脱炭素めざす

JR 東海は 16 日、水素エンジン付きの鉄道車両の開発に乗り出したと発表した。 世界初の試みで、走行中の二酸化炭素 (CO2) の排出をほぼゼロにできるという。 2050 年のカーボンニュートラル(脱炭素)に向け、来年にも屋内で模擬走行試験を始める。 特急「ひだ」などに使っている HC85 系車両のハイブリッド技術を応用。 いまは軽油を燃料とするディーゼルエンジンにモーターを組み合わせて走っているが、このエンジンを水素が燃料のものに置き換える。

JR 東海が自社で出す年 7 万トンほどの CO2 の過半は、電化されていない高山線や紀勢線などを走る車両の燃料によるものだ。 脱炭素化に向け、バイオ燃料や水素を使う燃料電池車両の研究には着手済みだ。 だが、燃料の調達コストや坂を登れる出力の確保といった課題に直面し、実用化のめどは立っていない。 水素エンジンにも手を広げる理由について、丹羽俊介社長は「いろいろな手段を可能性として持っておきたい」と説明した。

水素は燃やしても CO2 が出ず、脱炭素化に向けた活用の研究が進んでいる。 自動車業界では、トヨタ自動車も水素エンジンの開発に力を入れている。 いまの主流の技術では水素の製造時に CO2 が出るなど、課題も指摘されている。 (内藤尚志、asahi = 11-16-23)

〈編者注〉 鉄道、トラックと 2 つ並べると、長距離輸送は、やはり電池では無く水素になるように感じます。 短距離は電池、長距離が水素となる予感がします。


自然に還るプラ、需要急増の見通し 車部品や WiFi ルーターも試作

車のダッシュボード、WiFi ルーター、犬用リードの持ち手 …。 硬くて表面はなめらかな試作品の数々が並ぶ。  普通のプラスチックに見えるが、自然界の微生物によって分解される「生分解性プラスチック(生分解性プラ)」だという。 製造したベンチャー企業「アミカテラ(東京都江東区)」のオフィスを訪ねた。 社名はラテン語で「地球に優しい」という意味だ。 「これからは耐久性が求められる製品にも生分解性プラスチックは広がっていくはずです。」 同社の増田厚司会長は自信をみせる。 ダッシュボードやルーターはこれまで産業廃棄物として埋め立てや焼却処分されることが多かったという。

同社の設立は 2016 年。 社員数は 30 人ほどで、熊本県内で 2 工場が稼働する。 植物繊維の粉末とデンプンを主原料に生分解性プラを作る技術で特許を取得。 放置竹林で伐採した竹を加工し、製品の元となるペレットやストローを製造している。 ペレットは従来のプラスチック成形機でも使えるという。 原料には油脂分が少ない植物が最適といい、そば殻で作ったという試作品の器は茶色、ウコンの器は鮮やかな黄色、給食の残飯から動物性の食品を除いて作った器は灰色をしていた。

5 年間、高速道路のサービスエリアで使われた小皿も見せてもらったが、若干の使用感まで従来のプラスチックと変わらず、耐久性を感じさせた。 今後はスーパーの調理場から出る野菜くずを原料にすることも検討しているという。 生分解性プラに対する市場の関心の高まりを実感しているという増田さん。 ここ数年でハウス食品や伊藤園からの資金調達にもこぎつけた。 「日本でもやっと追い風が吹いてきた。」

生産能力は 5 年間で 3 倍以上になると予測

生分解性プラは一般的な石油由来のプラスチックとは異なり、自然界の微生物の働きで水と二酸化炭素に分解され、自然に還る。 仮に回収されずに自然環境に流出した場合でも、環境汚染を抑えることができるため、農業用や園芸用の資材に使われてきた。 原料の主流はトウモロコシやサトウキビなどの植物。 焼却時に二酸化炭素を排出しても、植物は光合成で二酸化炭素を吸収するため、一般的な石油由来のプラスチックと比べて環境負荷が低いとみなされる。

日本バイオプラスチック協会によると、生分解性プラの価格は下がってきているが、一般的な石油由来のプラスチックの数倍程度という。 21 年の国内のプラスチック生産量は約 1 千万トン。 そのうち生分解性プラが占める割合は 1% に届かない。  だが、国内外で需要は拡大傾向にある。

生分解性プラスチックは世界的に増産が見込まれる

欧州バイオプラスチック協会によると、世界の生分解性プラの生産能力は 22 年に 114 万トンだったが、27 年には 356 万トンまで増加すると予測されている。

世界でリサイクルされるプラスチックはわずか 9%

背景にあるのが、一般的な石油由来のプラスチックへの依存から脱却しようとする世界的な流れだ。 丈夫で軽く、加工しやすいという特徴から世界中で重宝されてきたプラスチック。 生産量は急増傾向が続いており、22 年の経済協力開発機構 (OECD) の報告書によると、世界全体での生産量は 00 - 19 年の間に倍増し、4 億 6 千万トンに達した。 一方で、一般的な石油由来のプラスチックは、製造や焼却処分の過程で温室効果ガスを排出。 自然環境に流出すると環境汚染や生態系の破壊にもつながる。

報告書によると、19 年のプラスチックごみは 3 億 5,300 万トンに上った。 このうちリサイクルされた割合はわずか 9% で、22% は埋め立てや焼却処分もされず、特に貧困国では陸上や水中に投棄されていると指摘されている。 ごみによる環境汚染、気候変動、生物多様性の破壊 - -。 世界が直面する重要な環境問題のいずれにも密接に関わるプラスチックに対して、国際社会も対策を加速させている。 今年 4 月に札幌市で開かれた主要 7 カ国 (G7) 気候・エネルギー・環境相会合では、40 年までにプラスチックごみによる新たな汚染をゼロとすることで合意。 19 年の G20 大阪サミットで掲げた目標を 10 年前倒しした。

22 年の国連環境総会では、プラスチック汚染を終わらせるための法的拘束力がある国際条約を 24 年末までに作ることを決議し、5 回にわたる政府間交渉が進んでいる。 11 月にも 3 回目の交渉が開かれた。 一般的な石油由来のプラスチックからは卒業しつつ、プラスチックが必要な場面では使い続ける。 「次のプラスチック」の選択肢の一つとして、生分解性プラに期待が寄せられている。 (井岡諒、asahi = 11-21-23)

生分解性プラスチック : 自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるプラスチック。 植物由来の素材と石油由来の素材があるが、国内では植物由来が約 7 割を占める。 分解される環境は素材によって異なり、微生物の多い堆肥中でしか分解されない素材もある。 土壌や海洋で分解される素材の場合、自然環境に流出しても一般的な石油由来のプラスチックのように長期間残留しないため、環境保護の観点から注目されている。


神宮外苑再開発 事業者が自然に親しみながら理解求める催し

東京の明治神宮外苑で再開発を行う事業者が、自然に親しみながら再開発について理解してもらう催しを開きました。 東京の明治神宮外苑の再開発では、樹木の保全のあり方などをめぐり反対の声も上がっていて、事業を認可した都は、再開発を行う事業者に対し、都民の共感と参画を得ながら進めるよう求めています。 こうしたことを受けて、事業者は自然に親しみながら再開発を理解してもらおうと、11 日、明治神宮外苑でどんぐりを拾う催しを開き、8 組の親子 24 人が参加しました。

参加者が集めたどんぐりは、今後、事業者が苗木にして現場に植樹することを検討しているということです。 どんぐり拾いが終わったあと、事業者の 1 つの三井不動産の担当者はオープンスペースが増えて遊ぶ場所が増えるとか、施設どうしの敷居が少なくなり移動しやすくなるなど、再開発によるメリットを説明していました。 参加した女性は「できるだけ景観は維持するかよりよくするような形で開発してほしい」と話していました。 また別の女性は「外苑の樹木は計画的に植えられたという感じではなく、自然な感じがとても好きなので、そういう雰囲気を残してほしい」と話していました。 (NHK = 11-11-23)

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「神宮外苑」再開発計画の撤回要求 イコモス「優れた文化的遺産」

東京・明治神宮外苑の再開発事業についてユネスコの諮問機関が文化的遺産が危機に直面しているとして、東京都や事業者に計画の撤回を求めました。 ユネスコの諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)は明治神宮外苑について、7 日の声明で「市民の寄付や自発的な活動に基づいて築かれていて、世界の都市公園の歴史のなかでも類を見ない優れた文化的遺産だ」と評価しました。 そのうえで、再開発事業について「ヘリテージ・アラート」を発出し、東京都や事業者に計画の撤回を求めました。 イコモスは東京だけの問題と見なさず、日本政府も介入すべきだとの見解を示しています。 (テレ朝 = 9-8-23)

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神宮外苑再開発、環境アセス評価書は「明らかに調査不足」 日本イコモスが事業者を批判

東京・明治神宮外苑地区の再開発で、日本イコモス国内委員会は 16 日、記者会見し、事業者側が作成した環境影響評価(アセスメント)の評価書について「多くの誤りを含む」とあらためて指摘し、都に対して再審査を要請した。 計画の見直しを求めてきた建築や都市計画の専門家有志も会見し、都に対してイコモスの意見を聞く場を設けるよう求めた。

イコモスは評価書について 58 カ所の問題点を指摘。 事業者側は 4 月の審議会で「内容に誤りはない」と反論していた。 環境保全策を練るには、詳細な調査を行い樹木などの現状を正確に把握する必要がある。 イコモスはその調査方法に不備があり、現状を正確に把握できていない、としている。 たとえば、まとまった樹林帯の「建国記念文庫の森」の調査地点は 2 カ所。 事業者はこの森は、「一つの群落」であり 2 カ所で十分とするが、イコモスは「実態は四つの群落に分類でき明らかに調査不足」と指摘する。

石川幹子理事は「いかにも粗雑な調査だ」と批判した。 都のアセス審議会は 18 日に予定され、事業者は当初のイコモスの指摘に対する反論を終える。 イコモス側は終了後ただちに会見し、意見表明する方針だ。 一方、専門家有志の糸長浩司・元日本大教授は「審議内容は複雑で込み入っている。 委員の負担は大きく、イコモスのような専門家を活用するべきだ」と主張。 「事業者の説明を聞くだけでは公平な審査はできない」とも訴えた。 (森本智之、東京新聞 = 5-16-23)

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坂本龍一さんの遺志継ぐ アジカン後藤さんら神宮外苑再開発に抗議

神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えを含む明治神宮外苑地区(東京都)の再開発事業の見直しを求める集会が 22 日、神宮外苑であった。 多数の樹木伐採を予定する計画に反対しながら先月亡くなった音楽家の坂本龍一さんの遺志を継ぐとして延べ 6 千人(主催者発表)が集まった。

集会は、坂本さんが共同で主宰していた市民団体が催した。 参加した人気バンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション」の後藤正文さんは「坂本さんは、ミュージシャンがこういうステイトメントを発信しなくてもいい、そういう社会がきたらいいと常々おっしゃっていた」と振り返り、「有名な、坂本さん、忌野清志郎、ジョン・レノン、そういった有名人に全てを預け、代弁させて終わりにしてはいけない。 坂本さんが残してくれた言葉のように、一人ひとりがこの問題を知って、直視して、将来がどのような姿であるべきか、話し合うことが必要だと思います。」と呼びかけた。 クリエーターのいとうせいこうさんらもメッセージを寄せた。

坂本さんは亡くなる 1 カ月前に、「目の前の経済的利益のために、先人が 100 年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々(きぎ)を犠牲にすべきではない」などと書いた手紙を小池百合子都知事らに送っていた。 再開発は三井不動産や明治神宮などによる民間事業で、2 月に都が施行認可した。 事業費約 3,490 億円。 高木を中心に少なくとも 700 本以上の木を伐採して若木を植える計画で、事業者は「緑地面積は増える」などと説明している。 2036 年に完成予定。 (asahi = 4-22-23)


蛍光灯の製造・輸出入 27 年末で禁止へ 水俣条約の水銀規制で合意

水俣病の原因である水銀を包括的に規制する国際ルール「水俣条約」の締約国会議が 3 日まで、スイス・ジュネーブで開かれ、直管蛍光灯の製造と輸出入を 2027 年末で禁止することで合意した。 環形蛍光灯などはすでに 25 年までと決まっており、家庭やオフィスで使われてきたすべての蛍光灯の製造が終わる見込みになった。 常温で液体の水銀は、蛍光灯をはじめ、体温計や電池などに広く使われたが、毒性も強く、水銀を原因物質とする水俣病の被害も起きた。 健康被害や環境汚染を防ぐため、13 年に熊本市で条約が採択され、17 年に発効。 現在 147 カ国・地域が加盟している。

会議に参加した米国の NGO 「クラスプ」によると、禁止の年限について、一部の国は 30 年などの遅い時期を求めたが、すでに利用可能な代替品があることなどを考慮し、27 年で合意したという。 年限をめぐっては、欧州連合 (EU) などが 25 年を求め、日本などは 27 年以降を主張していた。

条約の対象は製造などで、在庫の販売や今あるものを引き続き使うことはできる。 国内では直管は一部の企業が製造している。 一方、蛍光灯からエネルギー効率の良い LED への転換が進むことで脱炭素の効果も期待できる。 クラスプは、27 年までに LED に転換できれば、世界で 50 年までに累積 2.7 ギガトンの二酸化炭素削減が可能と試算している。 (市野塊、asahi = 11-4-23)


TOPPANホールディングス、環境省「自然共生サイト」の認定を取得

TOPPANホールディングス株式会社

TOPPANホールディングス株式会社(本社 : 東京都文京区、代表取締役社長 : 麿 秀晴、以下 TOPPANホールディングス)は、環境省より「自然共生サイト」の認定を取得しました。 「自然共生サイト」とは、「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のことで、認定区域は「OECM(Other effective area-based conservation measures)」として、併せて国際データベースにも登録されます。 なお、このたびの「自然共生サイト」に認定された登録箇所は 122 か所となり、認定登録は日本で初めての認定となります。

このたび「自然共生サイト」として認められたエリアは、当社の総合研究所(埼玉県杉戸町)敷地内のビオトープを含む緑地です。 2013 年に整備され、現在は多様な生物が生息する緑地となっています。

現在、世界的に TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures の略、「自然関連財務情報開示タスクフォース」のこと)が公表されるなど、気候変動に続き、生物の多様性・自然の保全が企業活動に与える影響について注目が集まっています。 TOPPANホールディングスはこのような流れをうけ、地球環境課題への長期的な取り組み方針である「TOPPANグループ環境ビジョン 2050」にて「生物多様性の保全」を掲げ、豊かな自然の保全と社会経済活動が両立する自然共生社会を目指すことを宣言しています。

総合研究所がある北葛飾郡杉戸町は埼玉県北東部に位置し、敷地の北側は住宅地、南側は農地に面しており、また、江戸川の幸手放水路(右岸 57.5km 付近)から南西へ10km 程度に位置していることもあり、周辺には水田や貯水池が広がっています。

TOPPAN ホールディングスは、かつて地域の水路などで数多く見ることができていたヘイケボタルが自生できる水辺環境の再現を目指し、2013 年に総合研究所内にビオトープを整備。 整備当初より、環境省レッドリスト準絶滅危惧種および江戸川水域から移植した地元の希少植物の生育や希少植物の保全活動を推進するとともに、蝶の食草や吸蜜源となる植物を植栽するなど、生物が多く棲める緑地を目指し様々な取り組みを行っています。

また、年 4 回開催するモニタリング活動を通じて、従業員向けに環境教育を実施しています。 このたび、希少種が生息する草地環境が維持・保全されている点が評価され、自然共生サイトに認定される運びとなりました。 (PR Times = 10-30-23)


「世界で最も効果的な炭素吸収源」 湿地の再生こそ SGDs のカギだ

「湿地の保全は、複数の持続可能な開発目標 (SGDs) の達成において決定的に重要である。」 そんな一文を、国際自然保護連合 (IUCN) が 9 月に公表した SDGs に関する報告書の中に見つけた。 報告書は、環境に関わる目標の進み具合を検証した。 機関や団体によって少しずつ違うが、SDGs の 17 個ある目標のうち、水(目標 6)、気候変動(目標 13)、海の環境(目標 14)、陸の環境(目標 15)の四つが主な環境関連の目標とされる。

ページをめくると、気候変動対策の遅れや生物多様性の損失、人口増に伴って膨らむ水需要など、厳しい現状や予測が並ぶ。 湿地の現状も極めて厳しい。 ラムサール条約事務局が発行する世界湿地概況の 2021 年版によると、1970 年以降の半世紀で、世界の湿地は 35% も減った。 これは森林の約 3 倍の消失ペースだという。 一方で報告書は、目標達成に必要な行動についても紹介している。 冒頭の文章はそこにあった。

社会の安定や経済の発展は、健全な環境とその恵みがあって初めて成り立つ。 SDGs を全体として達成していく土台となるのが環境関連の項目だ。 湿地の保全・再生の先に期待される効果は多岐にわたる。 安全な水の確保とその持続可能な利用、沿岸生態系の保全、食料安全、温室効果ガスの吸収、気象災害リスクの低減 …。 報告書は、多くの川や湖などが複数の国にまたがっていることも紹介している。水の確保が切実な問題になることが予想される中で、関係する国の間で湿地を上手に管理していくことは平和にも欠かせないことが分かる。

日本でも、水を浄化する作用はもちろん、防災の面からも流域治水への理解が広がりつつある。 湿地をすみかとする水生昆虫や淡水魚に絶滅危惧種が多く含まれていることもよく知られている。 湿地の保全は、地域の安全なくらしや、生物多様性を守ることに直結する。 それに加えて見逃せないのが、地球規模での温室効果ガス削減における湿地の役割だ。 世界の生態系が貯留している有機炭素の 20% は地表面積の 1% しかない湿地にあるという。

土壌も含めて考えると、湿地が単位面積あたりで貯留できる炭素の量は、熱帯林の 3 倍近くになるとの報告もある。 IUCN の報告書でも「世界で最も効果的な炭素吸収源」と指摘されている。 「湿地は趣味で仕事」と語る中央大学のシュテファン・ホーテス教授(景観生態学)は「そのままでは役に立たないと思われて農地にされるなど、開発が進んできた湿地は、我々にとってとても重要な存在になっている」と指摘する。

現在の我々は、そんな重要な存在を保全・再生するどころか破壊し、水の浄化システムや天然の防災設備を急速に失いつつあるとも言える。 湿地を劣化させれば、膨大な量の炭素が温室効果ガスとして大気中に放出されかねない。 結果として温暖化が進めば、異常気象、生物の絶滅、健康被害が拡大し、SDGs は危機にさらされる。 もちろん、やみくもにあちこちに湿地をつくれという話ではない。 ホーテス教授も「湿地の再生を喜ぶ人もいれば、嫌がる人もいる。 守りたいならまず人を説得しなくちゃいけません。」と話す。

たとえば、庭に湿地帯ビオトープをつくったり、湿地の観察会に参加してみたりして、関心の輪を広げることにも大きな意義があるという。 「共感できない人にはなかなか意義が伝わらないので」とホーテス教授。 関心の輪が広がることで、湿地の再生が進めば、激甚化する自然災害への備えや里山の荒廃対策、脱炭素といった大きな課題解決にも一助となるだろう。 庭の湿地帯ビオトープや観察会をきっかけに、湿地の価値がもっと見直されたらいいなと思う。 (小坪遊、asahi = 10-10-23)