セントラルパーク沿いを花笠音頭も NY で初の「ジャパンパレード」

米ニューヨークで 14 日、日本文化を紹介する「ジャパンパレード」が初めて開催された。 太鼓の演奏や花笠音頭、和服を着た団体など 90 組、約 2,400 人がセントラルパーク沿いの通りを約 1 キロ歩き、日本文化をアピール。 沿道には 2 万人以上が詰めかけ、歓声を送った。 日本企業などでつくる「ジャパンデー」の主催。

2007 年から毎年、セントラルパーク内で日本文化を紹介するイベントの「ジャパンデー」を開いてきたが、新型コロナの影響で 20 年から開催されていなかった。 2 年ぶりとなった今年は、日米交流の促進などを目的にパレードを実施したという。 ニューヨークでは新型コロナの感染拡大後、アジア系が被害を受ける暴力事件などが多発している。

ニュージャージー州に住むブランドン・ローさん (25) はネットでイベントの広告を見かけ、友人と訪れた。 「とてもエネルギッシュでフレンドリー。 こういうイベントで文化への理解を深めることが、アジアンヘイトを減らすスタートだと思う。」と話した。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 5-15-22)


父親譲りの豪快さ 国民的人気のサラ氏、フィリピン副大統領選で圧勝

フィリピンで 9 日、大統領選と同時に実施された副大統領選では、ドゥテルテ現大統領 (77) の長女で南部ダバオ市長のサラ氏 (43) が圧勝した。 父親譲りの豪快な言動で人気が高く、次期政権のキーパーソンになるとみられている。 地元メディアが報じた選挙管理委員会の非公式集計(開票率 98.32%)では、副大統領選でサラ氏が 3,154 万票を獲得し、2 位の候補に 3 倍以上の差をつけた。 得票率は 6 割を超え、国民的な人気を誇る。

大統領選でフェルディナンド・マルコス元上院議員 (64) が大勝したのは、サラ氏と選挙戦でタッグを組んだからだと言われる。 サラ氏はダバオ市長だったドゥテルテ氏のもとで 2007 年に同副市長に当選し、政治家としてキャリアをスタートさせた。 ドゥテルテ氏が 16 年に大統領選に出るまで、親子で市長と副市長を交互に務めた。 市長 1 期目には住民が解体に反対する建物に駆けつけ、テレビカメラの前で話を聞き入れない裁判所の執行官にパンチを浴びせた。 豪快な性格は、過激な言動で批判を浴びながらも支持を集めた父親と重なる。

早くから「ポスト・ドゥテルテ」の最有力候補と目されてきた。 大統領選の立候補締め切り前の昨年 9 月の世論調査では 20% の支持を得て、2 位のマルコス氏を 5 ポイント上回っていた。 当初はダバオ市長の続投を宣言していたが、最終的にサラ氏は副大統領選に回った。 選挙戦で組んだ大統領候補のマルコス氏との間にどんな駆け引きがあったかは分かっていない。

前回の大統領選でドゥテルテ氏の選挙運動に携わった政治コンサルタントの男性 (75) は「(サラ氏が)そのまま立候補すれば世襲批判を浴びる恐れもあった。 相手がマルコス氏なら、副大統領であっても自分が輝けると考えたのだろう。」と分析する。 一方、ドゥテルテ氏はサラ氏の判断に立腹。 ユーチューブの番組で「大統領候補として一番人気があるのにどうして副大統領なのか。 気に入らない。」と発言し、以前からささやかれていた親子の不仲が表面化した。

ただ、サラ氏はドゥテルテ氏の意向をはねのけた。 ドゥテルテ氏がマルコス氏を後継指名しなかったことについて選挙戦の最終盤にメディアから問われると、「誰を支持するかは大統領の自由」と受け流した。 選挙戦最後の集会では、マルコス氏よりもサラ氏への声援が大きかった。 記者を敬遠するマルコス氏と、どんな質問にも答えるサラ氏の姿勢は対照的だ。 フィリピン大学のアリス・アルガイ教授(政治学)は「マルコス氏の支持の半分以上はサラ氏の支持者によるものだろう。 政権発足後は主導権をめぐって両者の駆け引きが激しくなるのではないか。」と話す。 (マニラ = 宋光祐、asahi = 5-12-22)


NY ダウ、一時 1,000 ドル安 専門家「米国消費者の需要に弱さも」

アマゾンなど IT 大手の決算発表をきっかけに、4 月 29 日の米ニューヨーク株式市場は大きく値下がりした。 主要企業でつくるダウ工業株平均は一時、1,000 ドル超下落した。 企業業績の先行きに不安が広がり、これまで高い成長率で株価が支えられていたハイテク企業を中心に全面安となった。 29 日のダウは前日より 939.18 ドル (2.77%) 安い 3 万 2,977.21 ドルで取引を終えた。

前日に 1 - 3 月期決算の発表があった、アマゾンと半導体大手インテルは市場予想を下回り、アップルも半導体などの供給制約への懸念を表明。 29 日だけでアマゾンの株価は 14.0%、インテルは 6.94%、アップルは 3.66% と大きく値下がりした。 米投資情報会社 CFRA リサーチのサム・ストーバル氏は、「特にアマゾンの決算で、米国の消費者の需要が予想より弱い可能性が示された。 投資家は経済の先行きに弱気になった。」と株安の理由を話す。

ロシアのウクライナ侵攻や中国での新型コロナの感染拡大で、エネルギーや穀物価格の上昇、供給網の混乱がさらに悪化する懸念が高まっている。 米国の激しいインフレは長引くとみられ、抑えるために米連邦準備制度理事会 (FRB) は 5 月 4 日まで開かれる連邦公開市場委員会 (FOMC) で利上げの加速を決める見込みだ。 昨年末に 1.5% ほどだった米国の長期金利は 3% 近い水準で高止まりしている。 どれも株価の下落要因となっている。

ダウの年初からの下落幅は約 3,360 ドルに達し、9% を超えた。 ハイテク株が中心のナスダック総合指数はさらに下げ幅が大きく、今年に入り 20% 超下落している。 4 月の下落幅は 13% を超え、リーマン・ショック後の 2008 年 10 月以来の下落率となった。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 4-30-22)

◇ ◇ ◇

NY ダウ、800 ドル超下落 中国でのロックダウン拡大を懸念

26 日の米ニューヨーク株式市場で、主要企業でつくるダウ工業株平均が 800 ドル超下落した。 中国での新型コロナウイルスの感染拡大で、上海以外にも都市封鎖(ロックダウン)が広がるとの見方から、世界経済の減速懸念が高まり、株式が売られた。 ダウの終値は、前日より 809.28 ドル (2.38%) 安い 3 万 3,240.18 ドル。 下げ幅は先週金曜の 981 ドルに次ぎ、今年 2 番目の大きさだった。

中国は「ゼロコロナ」政策をとっており、上海は 3 月末からロックダウンしている。 このところ、北京など他の地域でも感染者数が増え始め、ロックダウンの地域が拡大するとの見方が出ている。 供給網のさらなる混乱や米国など世界経済の減速につながるとの懸念から、株安につながった。 (asahi = 4-27-22)

◇ ◇ ◇

NY ダウ 981 ドル安、今年最大の下げ幅 … 急速な金融引き締めで景気減速へ懸念

【ニューヨーク = 小林泰明】 22 日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30 種)の終値は前日比 981.36 ドル安の 3 万 3,811.40 ドルだった。 今年最大の下げ幅となる。 米連邦準備制度理事会 (FRB) の急速な金融引き締めが景気を減速させるとの懸念が高まったためで、下げ幅は一時、1,000 ドルを超えた。 FRB のパウエル議長が 21 日、5 月に開かれる連邦公開市場委員会で、0.5% の大幅な利上げを検討する考えを示し、利上げのペースを加速させる姿勢を鮮明にした。 米長期金利が高止まりしており、企業収益を圧迫するとの警戒感から売り注文が膨らんだ。

米企業の 1 - 3 月期決算の発表が本格化する中、一部企業の業績が振るわなかったことも拍車をかけた。 幅広い銘柄が売られ、建設機械大手キャタピラーや通信大手ベライゾン・コミュニケーションズなどの下落が大きかった。 米市場関係者は「急速な利上げやウクライナ危機などで今後、大幅な値上がりが見込めないと多くの投資家が考え、株を早めに売ろうという動きが強まった」と話した。 IT 企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は 335.36 ポイント安の 1 万 2,839.29 だった。 (yomiuri = 4-23-22)


BBC 受信料を廃止? テレビ以外での視聴が急増 英政府が見直し案

英政府は 4 月 28 日に発表した放送政策の白書で、公共放送 BBC の受信料を見直すことを提案した。 ネットの動画配信番組を見る人が増えていることを理由に、より持続的な運営を探るとしており、英メディアは「受信料の廃止を示唆した」と報じている。 スマートフォンなどで動画配信サービスを視聴する人が増えるなか、白書はテレビを見ない世帯が急速に増え、BBC の資金源となる受信料は「持続性に明らかな課題がある」と指摘した。

英国では現在、テレビを持つ家庭は年間 159 ポンド(約 2 万 6 千円)の受信料を支払う仕組みで、支払わなければ罰金や懲役が科される。 政府はテレビの数が減れば、料金の値上げが必要になって家計を圧迫することを危惧し、現行制度が 2027 年に終わるのを前に「受信料による資金調達方式を見直す」とした。 英メディアは「政府は公式に受信料の廃止を示唆した(英紙テレグラフ)」などと報じている。 受信料の代わりに、会員制の課金や、税金を導入する案などが予想されるという。 同じ公共放送の資金調達の見直しは、日本の NHK の受信料をめぐる議論にも影響する可能性がある。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 4-30-22)


インドネシア、パーム油を全面禁輸 国内需要を確保するため

インドネシアは 28 日、パーム油の全面禁輸を開始した。 世界最大のパーム油生産国の措置により、価格高騰に見舞われている植物油の国際市場が不安定化する恐れがある。 インドネシア国内では食用油が品薄になり、価格も高騰している。 政府は食用油の購入に対する補助金の支給を決定したが、各地で配給所に数時間待ちの行列ができている。 当局は社会不安につながりかねない状況だと懸念しており、国内への供給量を確保するため禁輸に乗り出した。

パーム油は、チョコレートから化粧品まで幅広い製品の原材料に使われている。 禁輸対象について政府は 27 日夜、急きょ方針を転換し、食用パームオレインだけでなくパーム原油やパーム核油など全製品に拡大すると発表した。 インドネシアは世界のパーム油生産の約 60% を占め、うち 3 分の 1 を国内で消費する。 しかし、規制の不備や国際市場での価格高騰の中で、国内販売より高収益が見込める輸出を優先する生産者が相次ぎ、品薄状態が悪化した。

国内市場の食用油価格はここ数週間で 70% 値上がりし、1 リットル当たり 2 万 6,000 ルピア(約 230 円)を付けている。 政府は、平均価格が 1 万 4,000 ルピア(約 130 円)に下がるまで禁輸を続けるとしている。 国連食糧農業機関 (FAO) によると、食用油は農業大国ウクライナにロシアが侵攻したことを受けて史上最高値を更新している主要食料品の一つ。 (AFP/時事 = 4-28-22)


21 年の日本 ODA、176 億ドルで 3 位 コロナ支援で円借款増

外務省は 13 日、2021 年の日本の途上国援助 (ODA) が 176 億ドル(暫定値)で、前年より 8.4% 増えたと発表した。 15 - 20 年は 4 位だったが、21 年は米国、ドイツに次いで 3 番目となった。 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急支援として円借款を増やしたことが主な要因だという。 国民総所得 (GNI) に対する割合は、0.03 ポイント増の 0.34% で 12 位だった。 経済協力開発機構 (OECD) が OECD 開発援助委員会メンバー 29 カ国の実績をまとめた。 (里見稔、asahi = 4-13-22)


「北朝鮮の ICBM 火星 17 型が 16 日に爆発、平壌に破片の雨が降った」

北朝鮮が 16 日に平壌(ピョンヤン)の順安(スンアン)空港一帯で試験発射した新型大陸間弾道ミサイル (ICBM) 火星 17 型が平壌上空で爆発した後、破片が雨のように降り注いだため民間に被害が発生したと国会国防委員会所属の河泰慶(ハ・テギョン)議員(国民の力)が 29 日に話した。 これに先立ち韓米軍当局は北朝鮮が 16 日に火星 17 型の 3 回目の試験発射をしたが上昇途中の高度 20 キロメートルまでに爆発したと明らかにした。

河議員は 29 日の国会国防委員会で国防部非公開懸案報告を受けた後に記者らと会い、「16 日に(火星 17 型が)数キロメートル上空で肉眼で見えるほど爆発して破片の雨が降った。 人命被害は確認されていないが民間人に被害が発生した」と伝えた。 彼は「平壌市民が驚き、民心離反が体制不安にまで進みかねない状況だったためこれを速やかに解決しようと急いで火星 15 型を発射し(火星 17 型発射に)成功したと宣伝したもの」と述べた。

ただ国会国防委員長のミン・ホンチョル議員(共に民主党)は「ミサイルが上空で爆発すれば当然破片が落ちる。 雨のように降ったというのは(河議員の)個人の意見にすぎない。」と話した。 続けて「北朝鮮が 24 日に発射したミサイルは移動式発射台を使うなど発射方法がもう少し進化した火星 15 型。 北朝鮮は火星 17 型だと主張したが、韓米共助下での判断は火星 15 型だった。 北朝鮮が欺瞞しているもの。」と述べた。 国防部は北朝鮮の追加挑発と関連して「7 回目の追加核実験、火星 17 型追加挑発などの可能性を念頭に韓米両国は詳細な対備態勢を準備している。 韓米合同演習を積極的に検討している。」と報告した。 (韓国・中央日報 = 3-30-22)


米ワシントン、日本が贈った桜が満開 マスクなし、花見客でにぎわい

米ワシントン中心部のポトマック河畔で、日本から贈られた桜が満開を迎え、多くの花見客でにぎわっている。 ワシントンの桜並木は 110 年前に、東京市長だった尾崎行雄が苗木約 3 千本を贈ったのが始まり。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で例年より人出が少なかったが、今年は米国内のほとんどの場所でマスク着用が求められなくなって、大勢が詰めかけている。

ニューヨークから桜を見るために夫婦で訪れたというダイアナ・ラッセラーさん (68) は「本当は日本へ旅行に行きたいけど、パンデミックで渡航できないからここに桜を見に来た。 ニューヨークの植物園で桜を見たことはあったけど、本当にきれいで特別だ」と話した。 (ワシントン = 合田禄、asahi = 3-25-22)


元徴用工・慰安婦で対応要求 = 岸田首相、日韓改善「放置できず」 - 韓国大統領選

日本政府は、韓国大統領選で勝利した尹錫悦氏との間で日韓関係改善を模索する方針だ。 尹氏は日韓関係について「未来志向」を掲げており、保守系大統領の誕生で両国関係に変化が表れることを期待。 元徴用工や慰安婦問題をめぐり韓国側に具体的な対応を求めていく考えだが、当面は尹氏の出方を慎重に見極めることになりそうだ。 岸田文雄首相は 10 日午前、尹氏勝利について「選出を歓迎し、心よりお祝い申し上げる」と述べた。 その上で日韓関係に関し、「厳しい状況にあるがこのまま放置することはできない。 国と国との間の約束を守ることは基本だ」と強調した。 東京都内で記者団に語った。

首相はまた、ソウルの日本大使館を通じ、「健全な日韓関係は、ルールに基づく国際秩序を実現し、地域と世界の平和や安定、繁栄を確保する上で不可欠だ。 次期大統領のリーダーシップに期待する。」とのメッセージを送付した。 日韓関係は「国交正常化以来最悪」と言われる状況が続く。 元徴用工問題では、賠償に向けた日本企業の資産「現金化」が近づく中、事態打開の糸口は見えない。 慰安婦問題でも「最終的かつ不可逆的な解決」をうたった日韓合意がほごにされたまま。韓国が反発する「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産推薦も新たな火種だ。

日韓の正式な首脳会談は 2019 年 12 月を最後に開かれていない。 外務省幹部は「大統領交代が新たなスタートになればいい」と述べ、対話再開に期待を寄せる。 ただ、同じ保守系だった李明博氏は在任中に大統領として初めて島根県・竹島に上陸。 韓国国内の世論の動向などによっては、尹氏も日本に厳しい姿勢を取ることも予想される。 (jiji = 3-10-22)


供給網の人権問題「大企業は監視を」 EU が義務化法案を発表

欧州連合 (EU) の行政を担う欧州委員会は 23 日、大企業に対して材料の調達先など供給網も含め人権問題がないか監視するよう義務づける法案を発表した。 中国の新疆ウイグル自治区における少数民族への強制労働問題が取りざたされるなか、欧州では人権の観点から企業の責任を問う声が高まっている。 法案は持続可能で責任ある行動を企業に促すため、子会社も含めて人権と環境の面で問題がないか把握し、必要な予防や解決措置をとることを義務づけている。 人権問題では児童労働や強制労働、環境では汚染や生物多様性の喪失を挙げ、違反すれば罰金を科す可能性もあるとした。

企業が遠い海外から仕入れる素材の生産過程を把握し、対処するにはお金がかかる。 このため、対象は経営体力がある大企業に絞り、中小企業は除外した。 EU 企業約 1 万 2,800 社と、EU で活動する海外企業約 4 千社が対象になるとみている。 レインデルス欧州委員(司法担当)は声明で「供給網で起きていることに目をつぶっているわけにはいかない。 経済モデルの転換が必要だ」と述べた。 欧州では人権や環境を重視する経営が消費者に支持される傾向が強まっている。 昨年はスウェーデンのアパレル大手「H & M」が人権問題を理由に新疆綿を扱わないと宣言して話題を集めた。 (ロンドン = 和気真也、asahi = 2-24-22)


トンガの海底ケーブルが復旧 5 週間ぶりに国際電話やネットが正常化

1 月に海底火山の噴火に見舞われたトンガで今月 22 日、国際電話やインターネットなどを担う海底ケーブルが復旧した。 現地の通信会社などが発表した。 これにより約 5 週間ぶりに国際通信が正常化した。 トンガでは国際通信のほとんどが隣国フィジーにつながる海底ケーブルを経由している。 噴火の影響でこのケーブルが複数の地点で切断されたため、2 月上旬からケーブル敷設船が復旧作業にあたっていた。 国内の島をつなぐケーブルには問題が残っており、一部の島で通信難が続いている。

現地では噴火や津波の被害からの復旧に向け、国外からの援助物資の配布が進んでいる。 一方で 2 月に入って新型コロナウイルスが流行。 トンガ政府は 2 日から原則外出禁止のロックダウンに踏み切った。 ロックダウンは 21 日から緩和されたが、夜間の外出禁止などは続いている。 (シンガポール = 西村宏治、asahi = 2-23-22)

◇ ◇ ◇

自衛隊がトンガ支援の輸送機・輸送艦 オーストラリアに飲料水運ぶ

海底火山の大規模な噴火が起き、津波などの被害を受けた南太平洋のトンガ諸島支援のため、岸信夫防衛相は 20 日、自衛隊の輸送機と輸送艦を派遣すると発表した。 20 日にも航空自衛隊の C130 輸送機 2 機が飲料水を積み、トンガに近いオーストラリアに向けて出発する。

日本政府は国際協力機構 (JICA) を通じ、飲料水や火山灰の撤去用具を提供することにしている。 高圧洗浄機などの撤去用具などを運ぶため、海上自衛隊の輸送艦おおすみ 1 隻も派遣することにした。 陸上自衛隊のヘリ CH47 も搭載する。 派遣規模は全体で約 300 人になる。 岸田文雄首相は 20 日の参院代表質問で、トンガへの支援について「オーストラリアやニュージーランドといった関係国と緊密に連携して対応していく」と述べた。 日本政府は 19 日、トンガ政府に対し、100 万ドル(約 1 億 1,500 万円)以上の緊急無償資金援助などを行うことを発表している。 (asahi = 1-20-22)

◇ ◇ ◇

トンガへ周辺国の艦艇が出動、支援物資運ぶ 火山灰で空港は使えず

海底火山の大規模噴火が起きたトンガに向けて、ニュージーランドやオーストラリアなどの周辺国は、19 日も物資輸送の準備を進めた。 ただ、トンガの国際空港では火山灰の除去作業が続いており、使用可能になるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

ニュージーランドのヘナレ国防相は 19 日午後の記者会見で、18 日にトンガに向けて出発した艦艇 2 隻が、早ければ21日にも現地に到着できるとの見方を明らかにした。 艦艇には、海路の調査のために潜水士や水路測量の技師なども乗り組んだ。 現地では飲料水を届けるほか、艦艇に搭載されている海水を真水に変える施設を使って、真水の供給を支援する考えだ。 さらに 19 日には、17 日に続いて哨戒機を派遣。トンガ上空のほかフィジー北部のラウ諸島上空も飛行し、被害の様子を確認した。

トンガの首都ヌクアロファがあるトンガタプ島の国際空港では、滑走路に積もった火山灰の除去作業が続いている。 ニュージーランド政府は除去が終わるのは「週内」との見方を示しており、使用可能になりしだい、輸送機による物資輸送を始める考えだ。 オーストラリアのペイン外相も 19 日、ツイッターで豪軍のフリゲート艦アデレードに支援物資が積み込まれている様子を公開した。 20 日にもトンガに向けて出港する見通しだ。 国連機関などによると、トンガタプ島では、沿岸部が津波の被害を受けたものの、港は船が着岸できる状況だという。 (シンガポール = 西村宏治、asahi = 1-19-22)

◇ ◇ ◇

火山爆発指数、ピナトゥボ山級 8 段階の 5〜6 か 気候への影響懸念

南太平洋のトンガ諸島にある海底火山「フンガ・トンガ」で日本時間 15 日に発生した爆発的な噴火は、噴煙が成層圏にまで達し、遠く離れた日本にも津波警報が出た。 噴火の規模は、昨夏の福徳岡ノ場をはるかに超え、記録的な冷夏の原因にもなった 1991 年のフィリピン・ピナトゥボ山の噴火にも迫るとの見方もある。 世界的な気候への影響も懸念される。

地元当局などの観測では、噴火は日本時間の 14 日と 15 日にあり、特に 15 日午後 1 時ごろに発生した噴火が大規模だった。 米海洋大気局 (NOAA) や日本の気象衛星「ひまわり 8 号」の衛星画像などから、噴煙の高さは上空約 20 キロと成層圏にまで達し、半径 260 キロにわたって広がったとみられる。 NOAA によると、噴火があった周辺では 2014 - 15 年に海底火山の噴火があり、新島ができていた。

世界の火山活動をまとめている米スミソニアン自然史博物館によると、昨年末から今月初めにかけて断続的に噴火があったが、その後は活動が落ち着いていたという。 今回の噴火の規模について、防災科学技術研究所火山研究推進センターの中田節也センター長(火山地質学)は、噴煙の高さや広がりから、火山爆発指数 (VEI) で 5〜6 だったのではないかと指摘する。 「ピナトゥボ山の噴火が 6 で、それと同じか、やや小さいくらいだった可能性がある」と話した。

VEI は、噴出物の量で噴火の規模を 0〜8 の段階で示す指標。 1 増えるごとに噴出物の量はおよそ 10 倍になる。 0 は桜島で毎日のようにある小規模な噴火で、7 や 8 は人類が滅亡するレベルで「破局噴火」とも言われる。 1914 年に桜島が大隅半島とつながった大正噴火が 4、各地に軽石の被害をもたらした昨年 8 月の福徳岡ノ場も 4 相当だったと推測される。

1707 年にあった富士山の宝永噴火が 5 で、日本ではこれ以降、5 以上の噴火は起こっていない。 ただ、阿蘇の外輪山ができた 9 万年前のカルデラ噴火や、紀元前 5,300 年ごろに南九州の縄文人を全滅させたとされる鹿児島県の鬼界カルデラの噴火は 7 だった。 また、約 7 万年前にインドネシアのトバ湖ができた 8 の噴火では、この時期にヒトの遺伝子の多様性が急減したことがわかっており、人類が絶滅寸前まで追い込まれたとみられる。

1991 年のピナトゥボ山の噴火では、噴出物が成層圏に大量に放出され、太陽の光が遮られて世界的に気温が下がる一因になった。 2 年後には記録的な冷夏となり、日本では米が大凶作となってタイ米を緊急輸入する事態になった。 ただ、ピナトゥボ山は北半球なのに対し、今回の噴火は南半球で起きた。 今後の影響について中田さんは「現状ではまだ分からない。 より詳しい解析が必要で、しばらく状況を注視する必要がある。 とはいえ、噴出量は福徳岡ノ場よりはるかに多く、大量の軽石による被害が広範囲に出るだろう」とした。 (山野拓郎、ワシントン = 合田禄、asahi = 1-16-22)

◇ ◇ ◇

噴火の「衝撃波」が影響? 専門家が指摘する潮位変化のメカニズム

海外の海底火山の噴火に伴う潮位変動という初めての事例に、気象庁は通常の津波の時とは異なる判断を迫られた。 トンガ諸島での噴火から約 6 時間後の 15 日午後 7 時すぎ、気象庁は、若干の海面変動が予想されるとしつつも「津波被害の心配はない」と発表した。 この若干の海面変動があると同庁が想定していたのは、父島(東京都小笠原村)では午後 10 時半ごろだった。 しかし、予想より 2 時間半早い午後 8 時ごろから各地で潮位の変化が観測され始めた。 16 日午前 0 時前にはついに鹿児島県奄美市で 1 メートルを超え、午前 0 時 15 分に警報、注意報の発令に踏み切った。

津波警報は通常、地震の規模や震源の位置、深さをもとに津波高や到達時間を予測して発出する。 だが、今回は各地の検潮所の観測値を発令基準とした。異例の難しい判断に、16 日未明の記者会見で宮岡一樹・地震情報企画官は「検討に時間を要したが、防災上の観点から対応を呼びかけた。 今回の潮位変化は通常の津波とは異なると考えている」と説明した。 津波は噴火の現場を中心に広がるのが通例だが、日本よりトンガ諸島に近い米サイパン島などでの潮位の変化は 0.1 - 0.3 メートルと小さかった。

なぜ火山から約 8 千キロ離れた日本の方が潮位の変化が大きかったのか。 気象庁は今回、潮位変化が観測され始めたのとほぼ同じタイミングで噴火の衝撃波が通過し、各地で 2 ヘクトパスカルほど気圧の上昇がみられたことを明らかにした。 潮位変化との関連は不明としつつ、宮岡企画官は「私たちは今までこうした現象は確認していない」と困惑を隠さなかった。 鹿児島大の柿沼太郎准教授(海岸工学・津波工学)は、気圧の変化が海面の波を増幅させることがあると指摘する。 1883 年のインドネシア・クラカタウ火山の巨大噴火でも、米カリフォルニアなどで気圧の変化による津波が観測されたという報告があるという。

東北大災害科学国際研究所の今村文彦所長(津波工学)も、衝撃波が潮位を変化させた可能性を指摘する。 津波の周期は通常 20 分 - 1 時間だが、今回は数分から 10 分程度と短かった。 「気圧の変化で海面が押され、それが通過した後に水面が上昇して波ができる。 それが日本に来るまでにだんだんと増幅してきたのでは」と話した。 (吉沢英将、竹野内崇宏、asahi = 1-16-22)


香港と台湾、五輪へ交錯する思い 「中国は西側の言うこと聞かない」

中国で 2 度目となる五輪が間もなく開幕する。 米欧などが人権問題を理由に五輪を「外交ボイコット」した要因の一つは、香港の民主主義を巡る中国政府の対応だ。 香港では、今回の五輪への二つの異なるまなざしが交錯している。 民主派支持層では先進国からの関心に感謝の声がある一方、親中派寄りの「五輪を政治化するな」という主張も力を増しており、香港社会の分断を象徴しているかのようだ。

「いま、香港人は自由に考えを主張できない。 だから、外国の人が香港の現状を気にかけてくれていることに感謝しています。」 五輪の開幕前、香港島で働く女性会社員 (29) は言葉を選びながらこう話した。 羽生結弦選手が出場するフィギュアスケートなどには関心があるとしつつ、女性が複雑な表情を浮かべるのは、中国政府に批判的なことを言うことが急速に制限されていると感じているからだ。

2020 年 6 月末に香港国家安全維持法(国安法)が施行されてから、民主派議員や活動家が相次いで投獄され、中国政府に批判的だった香港紙「リンゴ日報」や民主派の立場を伝えていたネットメディアが次々と廃刊に追い込まれた。 高度な自治を認めた「一国二制度」を中国が破壊しているとして、米欧などが対中制裁をする可能性に触れた記者も逮捕された。 女性はいう。「香港に表現の自由はなくなった。 国安法や中国政府については、友人たちの間でも自分の考えを言わなくなった。」

米欧による北京冬季五輪の外交ボイコットを支持する発言をすれば、国安法違反に問われる恐れすらある。 人権問題で国際社会に支援を求める声は、いまの香港ではほとんど聞こえないのが現状だ。 ただ女性は、米欧の外交ボイコットに強い期待を抱いているわけでもない。 「中国はもう、西側諸国の言うことを聞かなくなった。 それだけ強くなったということでしょう。」

民主派の声がかき消される一方で、親中派は勢いを増している。 テレビ局は中国資本の影響下にあり、ニュースでは当選した親中派議員が政府に忠誠を誓うシーンを強調。 また、中国政府の出先機関・中央駐香港連絡弁公室の駱恵寧主任による 1 月下旬の演説も繰り返し放送された。 駱氏は昨年 12 月に実施された立法会選を「成功」と称賛。 選挙では民主派の当選者がゼロとなり、愛国者と認定された親中派が議席をほぼ独占した。 また、香港の全小中学校で中国国旗が掲げられるようになったことも「忘れられない」と演説で振り返った。 香港はこれまでよりも急速に中国化が進んでいる。

街頭で米欧の外交ボイコットについて聞いても、民主派支持層が声を潜める一方で、中国に親近感を持つ層の声はひときわ大きい。 貿易業の男性 (62) は「スポーツと政治を連動させるべきでははい。 (欧米は)政治目的がある。」と批判。 設計士の男性 (40) も「西側諸国が扇動した結果であり、外国による香港の評価は受け入れない」と話した。

香港では、刑事事件の容疑者を中国本土に移送できる逃亡犯条例改正案の反対デモが 2019 年に起きた際、民主派を支持する「黄色」と、中国側を支持する「青色」の 2 陣営に分かれた。 黄色のステッカーを貼ったレストランは民主派支持者が集まり、「黄」と「青」が交流を避けるなど分裂した。 こうした社会の分断はいまも続いており、相互不信が深刻化している。(香港=奥寺淳)

「中国のユニホームを着用 台湾を傷つけた」 1 面トップで批判

冬季スポーツが盛んでない台湾では、北京冬季五輪の競技に対する関心は低調だった。 一方で、開幕直前に中国との政治的な関係をめぐる問題が相次ぎ、「場外戦」に注目が集まっている。

「中国選手団のユニホームを着用 台湾を傷つけた」

台湾の大手紙「自由時報」は 4 日、1 面トップにこんな見出しを掲げ、女子スピードスケート選手、黄郁●(= 女偏に亭)さんを批判した。 黄さんが中国のユニホームを着た自身の写真を SNS に投稿していたためだ。 ユニホームには中国の国旗や「CHINA」のロゴも入っていた。 中国の友人から贈られたという。 同紙によると、黄さんが写真を投稿したのは 1 月 23 日。 2 月 2 日になってネット上で話題になり、批判が巻き起こった。 黄さんが 3 日未明に「スポーツに国籍はない。 試合場ではみな友人だ。 この点をあいまいにしたくない。」と投稿すると更に非難が殺到した。

「代表資格を取り消せ」、「中国籍になればいい」、「中国選手にも台湾のユニホームを着させてみろ」 - -。 黄さんの SNS には 4 日昼までに、1 万余りのコメントが寄せられた。 多くが行動を批判する内容で、中国融和姿勢をとる国民党関係者からも厳しい声が上がっている。 事態を受け、中国と距離を置く民進党の蔡英文(ツァイインウェン)政権は黄さんから事情聴取。 黄さんは謝罪したといい、政権は処分は不要と判断しつつ、SNS での発信に注意するよう伝えた。 さらに、教育部長(教育相)が黄さんに電話し、蔡総統や蘇貞昌(スーチェンチャン)行政院長(首相)の気遣いを伝達したという。

黄さんは 3 日夜、「台湾の栄誉のために頑張りたい」と SNS に投稿した。 ネット上の激しい反応は、台湾社会の警戒心の表れだ。 台湾は、中国政府が五輪を利用し、台湾の存在の矮小化を図るとともに、民意の分断を狙っていると警戒している。 すでに実例は現れている。 中国政府の報道官は 1 月 26 日の会見で、台湾の代表団を従来の「中華台北」ではなく、中国の一部という意味が強い「中国台北」と呼んだ。

中国はまた、2016 年に北京で習近平(シーチンピン)国家主席と会談した親中派で国民党元党首の洪秀柱(ホンシウチュー)氏を開会式に招待している。 洪氏は 3 日に SNS に投稿し、08 年の北京夏季五輪でも訪中したことに触れた上で、「再び五輪の場で、(中華)民族の栄光を見られるのを喜びに感じている」とつづった。

五輪に絡む政治的な駆け引きに、蔡英文(ツァイインウェン)総統は今のところ消極対応を続ける。 昨年の東京五輪では自身が出席した代表団の激励式典もほかの高官に任せ、SNS にも目立った投稿をしていない。 欧米などが外交ボイコットを通じて中国を牽制する中で、過度に中国を刺激するのは得策ではないと判断している可能性がある。 (台北 = 石田耕一郎、asahi = 2-4-22)


「禁句の中国批判を堂々と展開」 ドイツで "脱中国" の外務大臣

中国と EU の関係

記事コピー (5-17-13 〜 1-18-22)


中国「中央統戦部」の女スパイが英議会に深く入り込んでいる - - MI5 が前代未聞の警告

<女スパイを操っていると考えられるのは、国共合作や孔子学院の世界展開でも知られる中国中央統戦部。 これはイギリスにとって、ロシアを上回る気候変動並みの脅威だと、MI5 のマッカラム長官は言う>

[ロンドン] 国内での外国スパイの摘発、国家機密の漏洩阻止などの防諜活動を行う英情報局保安部 (MI5) が 13 日、英下院議長を通じ、ロンドンを拠点に活動する中国人弁護士クリスティン・リー氏が中国共産党中央統一戦線工作部(中央統戦部)の意向を受け下院議員に近づき影響力を行使していると全下院議員に対し、異例の警告を行った。

日米欧議員らが中国の人権弾圧を監視する「対中政策に関する列国議会連盟」設立を主導し、中国の制裁リストに加えられたイギリスの対中最強硬派イアン・ダンカン・スミス元保守党党首は「中国政府のエージェントと疑われるリー氏は英議会を狙って中国共産党のために議員や政治団体に関与し、政治的に干渉している」とツイートした。

「私は中国政府から制裁を受けている。 その国のエージェントが英議員と協力して議会のプロセスを妨げるために活動していることは非常に憂慮すべきことだ。 中央統戦部に代わって政治的干渉に従事している外国の卑劣なエージェントが何もされずに活動できるのはどういうことなのか」とリー氏と親密な関係を持つ議員の調査をジョンソン英政権に求めた。

保守党内で「中国研究グループ」を主宰する下院外交特別委員会のトム・トゥーゲントハット委員長も中国政府の制裁リストに加えられた。 トゥーゲントハット氏は「わが国の情報機関は国家的脅威に焦点を当てているが、当然のことだ。 北京の工作が増大しているのは明らかで、敵対活動から民主主義を守る必要がある」とツイートした。

中央統線部とは

MI5 の警告文書によると、中央統戦部は中国共産党の主張を広げる一方で中国共産党の政策に敵対する勢力に対抗するため、虚偽や賄賂、脅しなど硬軟織り交ぜた方法で相手国の政治家や有力者に近づいて親密な関係を構築する。 手なづけた協力者に中国共産党の主張に沿った言動をさせたり、都合の悪いことには口をつぐませたりする部局だ。

元陸上自衛隊幹部学校長(陸将)の樋口譲次氏は論文「海外に魔の手を伸ばす中国の『統一戦線工作』」の中で、中央統戦部は中華人民共和国建国 7 年前の 1942 年に設立されたと指摘する。 最もよく知られた統一戦線工作は抗日民族統一戦線としての中国国民党と中国共産党による「国共合作」で、現在では中国文化を普及する孔子学院もツールの一つだ。

樋口氏によると、習近平国家主席は 2015 年 「統一戦線工作条例」を制定。 中国共産党創設 100 周年の 21 年を中間目標に、建国 100 周年の 2049 年を最終目標に「中華民族の復興という中国の夢」実現のため「統一戦線工作」を通じて香港や台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区、南シナ海、東シナ海問題に関して中国の身勝手な言い分を広めている。

英政財界に親中エリート集団を育成

問題のリー氏は在ロンドンの事務弁護士で、在英中国大使館の首席法律顧問、国務院華僑事務弁公室の法律顧問、中国海外友好協会、下院超党派中国グループの幹事を務めたイギリスにおける中国人コミュニティーの代表的存在だ。 しかし、その裏で中央統戦部と協力して元超党派議員グループなどを通じ英政界に影響力を行使していた。

労働党前党首の側近に 7,800 万円の献金

中国共産党の意向を受け、リー氏は現役議員や政治家の卵への献金を斡旋。 献金は出所を隠すため秘密裏に行われていた。 英紙によると、最大野党・労働党のジェレミー・コービン前党首に近いバリー・ガーディナー下院議員に 50 万ポンド以上(約 7,800 万円)を献金していた。 リー氏の子供はガーディナー下院議員の事務所で働いている。

リー氏側から労働党の他の組織にも数十万ポンド、自由民主党にも 5 千ポンド(約 78 万円)を献金していたほか、与党・保守党ともつながりを持ち、「英中黄金時代」を宣言したデービッド・キャメロン首相(当時)と良好な関係を築いていたとされる。 リー氏はその後、テリーザ・メイ首相(同)から表彰されている。 前出のガーディナー氏は中国企業の原発建設計画への参画に理解を示すなど中国に有利な発言を行ってきたが、この日の声明で「リー氏については何年も前から MI5 と連絡を取り合っており、私からも十分説明してきた」と釈明した。 MI5 の警告を受け、全下院議員は中国人や中国企業の接近や献金について注意するよう促された。

イギリスは欧州連合 (EU) 離脱を選択した 16 年の国民投票で当時のキャメロン首相が辞任するまで親中路線をとっていた。 地理的に遠く離れた中国は欧州諸国にとって安全保障上の脅威ではなく、経済的に大きな機会だった。 ドナルド・トランプ前米大統領が貿易問題やコロナ危機であからさまに中国を攻撃するようになってから欧州の風向きも変わった。

中国は気候変動並みの脅威

しかし共著『隠れた手 いかに中国共産党が新しい世界を形作るか』で中国の影響力ネットワークを暴いた中国研究者マハイケ・オールベルク氏はイギリスの親中ビジネスリーダーや政治エリートの集まり「48 グループ・クラブ」は中国政府によって育成されていると指摘した。 中国の「隠れた手」はあらゆる所に張り巡らされているのだ。

史上最年少の 40 代で MI5 長官に就任したケン・マッカラム氏は 20 年 10 月、中国とロシアの脅威を比較して「ロシアは悪天候だが、中国は長期的にはるかに大きな問題であり、気候変動のようなものだ。 政治にも干渉し始めている。」と警鐘を鳴らしている。 中国の情報活動は気候変動のように日本にも押し寄せていることは疑いようがない。 (木村正人・国際ジャーナリスト、NewsWeek = 1-14-22)